さあ、悪はここにあるぞ   作:子悪党

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閑話:石の街

 狭くも広いカントー地方。道なりに進めども、その道筋は子供の足では進める距離など高が知れていた。

 

 

「自転車欲しいな」

 

 

 黒いキャスケットを目深に被り、黒いブーツの靴底を擦り減らしながら独り言を一つ。

 最初の出発は、トキワシティだった。そこから時計回りにカントー地方を回るルートを、カシワはとっている。

 自然と共存するようなトキワシティ。その北部にはトキワの森が広がっており、多くの野生ポケモンとそれらを求めるトレーナーがうろついている。

 だが、実のところこの森は多くの人々が入り込む割には、決して安全な場所ではない。

 森の入り口から、少し入った辺りはレベルの低いむしポケモンやポッポ、コラッタなどの初心者トレーナー向けのポケモン達が現れるが、一度奥へと入りすぎればスピアーの群れやレベルの高いピジョン、ピジョット、或いはトレーナーが捕獲したものの使いこなせずに放された強すぎるポケモンが出現する可能性もある。

 報道されないだけで、毎年少なくない人数が森に消える。

 

 草の根搔き分けて、カシワが進むのは道なき道。

 途中で飛び出してくる野生のポケモンに関しては、新たに手持ちへと加わったポケモンを育てるついでにバッタバッタと薙ぎ倒しつつ、調査も並行していた。

 

 

「ピー!」

 

「キャタピーか。後できのみやるから、バトルさせてもらうぜ?」

 

 

 飛び出してきた大きめの芋虫の様なポケモン、キャタピーに対してカシワが繰り出したのはとある鳥ポケモン。

 小柄な体格で、しかし群れを作れば厄介極まりないオニスズメである。

 タイプ相性は、快勝。そもそも、キャタピー自体が強力なポケモンとは到底言えず、覚える技も僅か二つのみ。大抵のトレーナーでは、バトルを真面に熟す事も難しいかもしれない。

 

 

「旋回しながら、『つつく』だ」

 

「ケーッ!」

 

 

 カシワの捕まえたオニスズメは、結構血気盛んな個体らしく雄叫びを上げるとキャタピーの周囲を飛び始めた。

 小柄故に、森の中においてもその機動力が損なわれることは無い。そして、森の中を縦横無尽に飛び回るオニスズメを捉える目を、キャタピーは持ち合わせてはいない。

 出鱈目に放たれた糸が天然の罠となりそうだが、それより先に鋭いくちばしがその緑の小さな体を捉えていた。

 効果は抜群。それに加えて、現状のレベル差。一発で瀕死に持っていくには十分な要因が重なった。

 吹っ飛んで倒れたキャタピーが動けないことを確認し、カシワはオニスズメをボールの中へと戻す。そして、緑の小さな体の下へと足を向けた。

 

 

「悪かったな、手荒くなっちまって。これ、置いておくから食ってくれ」

 

 

 そう言って、カバンから取り出したのは二つのオレンのみ。それをキャタピーの傍に置いてそれ以上は何もせずにその場を離れていく。

 必要以上の触れ合いは、情を生んでしまうから。野生の世界においても、弱ったところを横から掻っ攫われる事は珍しくない。

 一応、捕獲が出来ない訳ではない。だが、現状のカシワの手持ちの空きは一体分のみ。それ以上のポケモンを連れ歩けない訳ではないのだが、手持ちが増えればその分色々と面倒が降りかかる。

 例えば食費。ポケモンも食わねば生きていけない。例えば、バトルなどに際して六体の選出に時間を食う。手札が増えても、イコール強いではない。

 何より、六体というのは、公式バトルの選出数でもあるが、同時に一トレーナーが面倒を見切れる限界数でもあるのだ。少なくとも、協会の方ではそう判断されている。もちろん、腕利きのトレーナーなどは六体以上でも問題なく世話できるだろう。

 

 下草を踏み、伸びた枝葉を上着の袖を握った右手で振り払っていく。

 道なき道を敢えて進んでいるのは、他トレーナーとのバトルを避ける事にある。

 カシワは、その境遇から不特定多数に顔を覚えられるわけにはいかないのだ。一応、ジムリーダーやジムトレーナーは致し方ないとしているが、野良トレーナーはそうもいかない。

 これは、サカキからの指示だった。バトルをする場合は、顔を不自然じゃない程度に隠すように、と。

 

 何かしらの仕事をやらせるのだろう。カシワは、そう当たりをつけていたが、その上で反抗したり密告したりするつもりは欠片もない。

 果たして、彼は森を抜けた。それからしばらく歩けば、辿り着くのは石の街。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 ニビシティ。カントー地方におけるジムを有した街の一つであり、獲得できるのはグレーバッジ

 その他の名所とすれば、博物館だろうか。因みに名産品は“ニビあられ”と呼ばれるあられ餅。歯ごたえ抜群である。

 

 

「――――はい、あなたのポケモンは皆元気になりましたよ」

 

「どうも」

 

 

 街に到着して、カシワが最初に向かったのは、ポケモンセンターであった。きずぐすりやきのみなどである程度の治療は出来るものの、やはり限界がある。ポケモン達の体調を考えたりするならば、やはりプロの診断は外せなかった。

 五体の手持ちを受け取り、どうしたものかとカシワは頭を捻る。

 ジムへの挑戦は、可能だ。前もっての予約などの必要もなく、時間の制限はあれども今は昼間。バトルは可能だろう。

 だがしかし、それでは()()()()()

 

 という訳で、カシワは観光へと繰り出していた。

 この街の特産と言うべきか、近くにあるオツキミやまより採掘された鉱石や化石など、所謂鉱物系の工芸品なども扱われている。

 それらの販売が行われているのが、メインストリートでの露店販売。

 

 

「いろいろあるのか」

 

 

 キャスケットのツバを少し深めて、その下より遠目で露店の品揃えを眺めながらカシワは通りを行く。

 人の営み。それはただ、眺めるだけでも存外楽しい。そこにポケモン達との絡みが生まれれば、さらに楽しい。

 あの路地から、サカキに拾われて暫く。カシワは人の営みから離れた生活ばかりを送ってきた。

 

 思考が傾きそうになったところで、カシワは思考を打ち切った。この手の考えは堂々巡りしてしまうのが世の常だから。

 もっと有意義なことに使おう。そう考えて、彼は改めて視線を露店に走らせる。

 そして、とある石の加工品に目が向いた。

 ソレは、黒い石。黒曜石のようにも見えるが、ガラスの様な儚さとでもいうべき脆さは感じられない。

 

 

「うん?何だい坊や、その石に興味があるのかい」

 

「え?……ああ、まあ、そうっすね」

 

「それは、オニキス。魔除けの中でもかなり強力なやつでね。買うのかい?」

 

「うーん……」

 

 

 露店の店主に改めて見せられたオニキスの腕輪。

 カシワ自身は、スピリチュアルな物を信じて縋るようなタイプではない。無いのだが、彼自身が言ってしまえばスピリチュアルな存在に近いのだからその根底も揺らぐというもの。

 

 結局、彼は店主に金を渡すことになる。その手首には、石を連ねた数珠が一つ。

 果たして、パワーストーンは彼に降りかかる厄を払ってくれるのか。それは誰にも分からない。

 ただ、このパワーストーンはある種の面倒を運んでくることになるなど、カシワは考えもしないのだった。

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