さあ、悪はここにあるぞ 作:子悪党
ニビシティのジムリーダーはいわタイプの使い手。突破しようと思うのならば、いわタイプに対して有利の取れるみず、くさ、かくとうなどのタイプのポケモンを連れてくる、或いは前述のタイプの技を覚えさせるというのがある。
もっとも、それは常套手段であるだけで、それ以外の突破方法が無い訳ではない。
「それではこれより、チャレンジャーカシワ対ジムリーダータケシによるジム戦を行います!使用ポケモンは二体!道具の使用、及び持たせることは禁止となっております!よろしいですね!」
ハウリングボイスな審判の声をトレーナースクエアから聞きながら、カシワは一つ息を吐き出す。
ニビジムのバトルフィールドは、地面に複数の岩が突き出した形。広さは通常のものと変わらないのだが、突き出た岩は視認性を悪くしてしまうのは言うまでもないだろう。
そして、相対するのはこのジムのジムリーダーである、タケシ。いわタイプの使い手であり、当人もポケモンと共に体を鍛える肉体派だ。
そこでふと、カシワは思った。ジムリーダーというのは体を鍛えないと成れないものなのだろうか、と。因みに、サカキもスーツの下には鍛えた肉体を持っており、捨てゴロでやったら秒殺される自信がカシワにはある。
一方でタケシもまた、目の前の挑戦者を図りかねていた。
バッジの所有はゼロ。故に、初心者トレーナーを相手にするルールとパーティで挑まねばならないのだが、雰囲気が違う。
ニビシティは比較的初心者トレーナーの訪れやすいジムだ。だからこそ、初心者特有の雰囲気というか気負いのようなものを感じることが多い。
その気負いを乗り越えて初めて、トレーナーは一人前の第一歩を歩き始めるのだ。
だが、相対する少年の雰囲気は落ち着いている。気負いによる体の硬さもなければ、不安そうに揺れる瞳もない。
(強敵だな。願わくば、本気の手持ちで戦いたかった)
一トレーナーとして、戦いたいと思ってしまう。
そんな欲を飲み込んで、彼は好戦的に笑みを浮かべた。
「俺は、ニビジムのタケシ!石の様に硬い男で、使う手持ちはいわタイプばかりだ!さあ、見せてもらおう。お前と、そして手持ちたちの実力を!」
叫び、そしてモンスターボールへと手を掛ける。
「行けッ!イシツブテ!」
「ラッシャイ!」
「頼んだ、オニスズメ」
「ケーッ!」
互いがポケモンを繰り出し、バトルスタート。だが、タケシは眉根を寄せる。
「いわタイプに、飛行タイプをぶつけるか。タイプ相性を気にしない選出は見事だが、有効打も無しに突破できるほど、手緩くはないぞ?」
「タイプ相性の不利は慣れてるんで、問題ねっす」
タケシの指摘を受けても、カシワは止まらない。
確かに、タイプ相性が悪い。オニスズメからのイシツブテに対する有効打など無く、全て半減で受けられてしまう。一方で、イシツブテの方は効果抜群をタイプ一致で放ってくる。純粋な殴り合いとなれば、まず間違いなくオニスズメが先に沈むだろう。
もっともそれは、真正面からぶつかり合う事を前提にすれば、という話なのだが。
「オニスズメ、旋回しながら『にらみつける』」
明確に勝っている機動力を生かして、相手を削る。カシワは、搦手を選択していた。
鋭い眼光が走り、イシツブテは怖気づいたようにその体を僅かに硬直させてしまう。
補助技の一つで、相手の防御を僅かに下げる効果があるこの技だが、同時にその足を竦ませる事も出来るのだ。そして、イシツブテ含めたいわタイプのポケモンは総じて、鈍重だ。馬力や防御が他のタイプに比べて優れているがその分体が重い。
対して、オニスズメはその小柄な体格に加えてひこうタイプという機動力に優れたポケモンだ。フィールドの岩の隙間を縫っても良し、空中から突っ込むも良し。純粋な速度でイシツブテが勝る事などまず不可能。
上からの急襲。その鋭い嘴が、硬い体を捉えた。
「『みだれづき』だ。突き回してやれ」
指示に従い、前後する小さな頭。
ノーマルタイプの技であり、その一発一発の破壊力も大したことは無いが、塵も積もれば山となる。細かなダメージは、しかし半減されようとも確かにイシツブテのダメージとして蓄積していく。
「好きにさせるなイシツブテ!『たいあたり』で振り払え!」
「上に逃げろ」
小柄な石の体が跳ねるが、しかしその一発は空を切る。後出しでも、初速で劣れば追いつけないのは明白。
そこからは、完全にオニスズメとカシワのペースだった。
にらみつけると攻撃技の組み合わせ。後出しでも逃げられるという速度の差と、カシワ自身のタイプ相性を無視しながらも、軽視しない試合運び。
程なくして、イシツブテは目を回して倒れてしまう。
タケシは、ボールへと戻してそして前を見た。同時に、頷く。
(試合運びは、玄人のソレ。新人じゃない。おそらく、ポケモンも。育成の腕前?そんな言葉だけじゃ到底説明できないな。これは、こっちも本気でいかないと)
そう思考を巡らせて、タケシは本来使うべきボールの
「頼んだぞ!イワーク!」
「イワァアアアアッ!」
繰り出すのは、巨体のいわへびポケモン、イワーク。カントー地方において最長と言ってもいい体調を有しており、重量も最大級。
オニスズメと比べれば、象と蟻。体重差と体格差は最早語る必要もないだろう。
しかし、
「下がるな、オニスズメ。『にらみつける』」
カシワは怯まない。あくまでも冷静に事を運んでいく。
如何に堅牢堅固な相手であろうとも付け入る隙は必ずある。それが彼の考えであるから……一瞬頭の隅を強面な黒スーツが掠めた気がしないでもないが、それは無視。
だが、
「生憎と、このイワークはその程度じゃあ怯まないぞ!イワーク、『がんせきふうじ』!」
イワークは怯まない。防御が下がろうが気にした様子もなく、吠える。
降り注ぐ岩石。それらは、オニスズメ自体に降るだけではなかった。
行動の制限。ダメージ以上に相手の機動力を削ぐ事こそこの技の真骨頂なのだ。
咄嗟に躱したオニスズメであったが、その小柄な前には一本の道が出来上がっていた。カシワもそれに気づくが、もう遅い。
「イワーク、『たいあたり』!」
ノーマルタイプの初歩技。それがトレーナーたちの共通認識であると言えるだろう。
だがしかし、想像してほしい。
体長8.8m、重量210.0㎏の巨体が全身を使って突っ込んでくるのだ。ポケモン本体の攻撃力がネタにされるほどに低くとも、慣性やら重量による衝撃などあらゆる要因は看過できるものではない。
何よりこのイワーク、初心者レベル
巨体の癖に素早く、その上自らの尾でフィールドを叩くことで反発の力を発生させ吹っ飛んでくるのだ。
哀れ、がんせきふうじによって行動を制限されていたオニスズメに躱す選択肢など採れるはずもなかった。
重量差百キロオーバー。その小柄な体は、まるで弾丸の様に吹き飛ばされると、そのままフィールドの外の壁に叩きつけられる。
「オニスズメ!?」
「ケー……」
床に落ちて目を回したオニスズメに頭を抱え、カシワはそれ以上は何もせずに素直にボールへと戻していく。
これで一対一。相手は疲労もダメージも無いため、完全に振り出しに戻った形だ。
頭を掻いたカシワは考える。
目の前のイワークは、明らかに先ほど下したイシツブテとは比べ物にならないほどレベルが高い。少なくとも、先ほど繰り出していたオニスズメよりは上。
タイプ相性で押し切るか。或いは、それらを無視して自分の相棒を繰り出すか。
少しの逡巡を挟み、カシワは選択する。
「頼んだ、タッツー」
「タッツ~」
ここは、安全策。繰り出したのは、みずタイプだった。もっとも、その体格差は先に出ていたオニスズメと何ら変わらないレベルなのだが。
「タッツーか。それも、よく鍛えられているな」
「甘く見てると、掬われますよ。タッツー、『みずでっぽう』だ」
勢いよく噴射される水流は、真っすぐにイワークの大きな頭を捉えていた。
驚くべきはその破壊力。ただの水鉄砲と侮るなかれ、タイプ相性があってもその大きな体を押して見せた。
直ぐに、タケシは目の前の青い龍のレベルが先ほどのオニスズメより上であると察知。このままでは押し切られると判断して指示を飛ばす。
「イワーク『あなをほる』!」
巨体がフィールドの下へと消える。
イワークは巨体であり、動きは決して速いと言えないがそれは地上に限っての話だ。地中に潜れば、時速八十キロで潜行可能。硬い岩盤であろうとも掘り進めることができる。
不意打ちとしては十分であるし、その破壊力は巨体も相まって速度を乗せれば暴走列車となる。
だがしかし、カシワが鍛錬を積んできた相手はじめんタイプのエキスパートだ。メインウェポンはじめんタイプの技が基本であるし、その戦法も地に足着いたものが基本。
何より『あなをほる』は接触技だ。故にどこから来るのか、予測しやすい。
「……今だ、タッツー。その場でジャンプ、真下を狙え」
揺れるフィールドに、カシワの声が響く。その声に従って、タッツーは跳んだ。間髪入れずに、先ほどまでタッツーの居た地点に亀裂が走り一気に砕け、弾ける。
読み通り、地中より飛び出してくるイワーク。その長い体と硬い頭を活かして空中のタッツーへと迫り、
「『みずでっぽう』」
勢いよく噴き出された水流を諸に受ける事となった。
慣性というのは味方となる時と同時に、敵となる場合がある。今回も、その一つ。
地面から飛び出した勢いは、そう簡単には打ち消せない。そして、慣性は重量によっても加算される場合がある。
自ら弱点へと突っ込む結果となったイワークと、己の技の逆噴射によって更に上へと跳んでいくタッツー。
距離とはそのままアドバンテージにもなる。この場合、遠距離且つ弱点をつけるタッツーが有利だ。
だが、タケシがこのディスアドバンテージをそのままにしておく理由もない。
「イワーク、『がんせきふうじ』でタッツーを撃ち落とせ!」
「タッツー、『あわ』でガード」
降り注ぐ岩石と、それを迎撃する泡たち。
瞬く間にフィールド上部は泡が破裂したことで発生した霧と、岩石が粉砕されたことで発生した粉塵に覆われ、そしてタッツーの小さな体もその中へと紛れてしまう。
大抵のポケモンは目視によって対象を狙う。嗅覚や聴覚が優れているモノでも、とりあえず相手を
果たして、フィールドにまで落ちてきた靄が晴れれば、そこには何も居なかった。
「どこに……」
イワークとタケシは周囲に目を配る。
元々、フィールドから突き出た岩が見通しを悪くするのがニビジムだ。対戦相手が岩を盾に場をしのぐ事も珍しくなく、逆に新米トレーナーがフィールドに翻弄されることも珍しくない。
だが、目の前のトレーナー、カシワは違う。少なくとも、タケシの見立てではジムバッジを一つも有していないことが不思議なほどの実力を有している。
故に、考える。このフィールドで何をしようとしているのか。
だからこそ、ドツボに嵌る。
「――――そこだ、タッツー。『みずでっぽう』を叩き込め」
「タッツッ!」
「なっ、後ろだと……!?」
機動力に難ありと考えられていたタッツーが忽然と、イワークの背後より現れた。
完全な不意打ちは、心構えのない状態もあっての効果抜群。その巨体をものともしない水流は勢いよくその体を押して岩へと叩きつけていた。
巨体相応の体力と頑強さを持ち合わせるイワークだが、効果抜群を二回、しかも特殊攻撃系の技を二回も受ければその体力は大きく削られる。元々、特殊防御に関しても低いため猶更だ。
粉塵が晴れた時、そこに転がるのは目を回したイワーク。
「勝負あり!勝者、チャレンジャーカシワ!」
審判のジャッジが下り、互いの手持ちはボールの中へ。
勝者と敗者が決しても、後腐れ無く対戦相手と接するのもまたトレーナーとして必要な素養の一つかもしれない。
「やられたよ。まさか、みずタイプのポケモンに陸上で背後からの急襲を許すとは思わなかった」
「まあ、奇策を弄するのも戦略何で」
「オレも、フィールドの変化を頭に入れていなかったからな」
そう言って、タケシが振り返るのはフィールドに空いた穴。その縁は
イワークが掘り抜いた穴。当然ながら、体格上その穴は大きい。それこそ、落ちてきたタッツーが何の音も立てることなく潜り込めるほどに。
その穴の中で、カシワはタッツーに水流を作らせ、そこに乗せた。
陸上ではなく穴の中ならば、一時的であろうとも水は溜まる。
そして、溜まった水の中はみずタイプのポケモンにとっては庭も同然だ。
そうして穴を通過したタッツーはそのままイワークの背後へと回り込み、トドメをさした、という流れが今回のバトルの結末。
フィールドの変化含めて味方につける。利用してでも勝利を掴む。
かくして最初のバッジは彼の手に。次に目指すは、お転婆人魚姫。