夏休み。
それは学生の特権であり、年に二回ある長期休暇であり、その長さは、約一か月と半月ほどで、かなり長い休みである。
と言っても、冬休みはクリスマスと正月を含めた二週間程しかなく、夏休みに比べて正直名前負けしていると思うが……
夏休みと遂になる存在なら、十二月一杯と一月の前半休みぐらいはあっても罰は当たらないと思う。
それに最近は、地球温暖化や異常気象で暑さ寒さ共にキツくなっているのでもう少し期間を長くしてくれてもいいとも思う。
ってかそろそろ、地球は大丈夫なのかと心配になる。
そんな、夏休み真っ只中のある日。
現在、俺こと#東条紫苑__とうじょう しおん__#は、祖母と幼馴染みを膝の上に乗せ、テレビゲームをしていた。
「めいちゃん、甘いですよ」
そう言うと、右膝に座っている幼女は、左膝に座っている幼女が操作しているキャラを撃破した。
「酷いであります!」
そう悲鳴をあげると、左膝の幼女は、尻尾を左右に振る。
そして、その振った尻尾が、俺の顔にバシバシと顔に当たる。
……先に言っておくが、俺はロリコンではないし、暑さでおかしくなった訳でも、幻覚を見ているわけでもない。
何を隠そう、膝の上に座っているこの二人は、俺の祖母と幼馴染であり、それにちゃんと尻尾も生えている。
細かい事情を話すと、とても長くなる上に、俺自身詳しく分からない部分も多いので割愛させてもらう。
ただ、今の状況を端的に説明するならば、『俺の両親はすでに他界しており、三人の祖母と一人の幼馴染と一緒に一つ屋根の下で共に暮らしている。』という、ラノベ主人公びっくりな家族構成をしている。
祖母と言っても、三人とも実際の血の繋がった祖母ではなく、義理の祖母だ。
ラノベなどでよくいる、義理の姉や妹みたいなものだ。
更に加えて言えば、俺以外の全員が人間じゃない。
その為、俺以外の全員が、見た目と実年齢が一致しない。
そんな滅茶苦茶な家庭環境だが、俺自身、楽しければそれでいい精神で生きており、然程気にしていない。
そして、現在俺の右膝の上でゲームをしている幼女が、俺の育て親の一人である、蜘蛛ばあちゃんだ。
蜘蛛ばあちゃんというのは、あくまでも敬称であり、本名は#藤原雅__ふじわらみやび__#。多分蜘蛛の妖怪だ。
ばあちゃんと言ったが、その外見は非常に若く、10歳程の小さい幼女の見た目をしている。
少なくとも、俺が蜘蛛ばあちゃんと同じ大きさの頃から、見た目は全く変わっていない。
腰の辺りまで生え揃えられた、吸い込まれそうな程真っ黒な髪。その髪とは対象的な、白雪のように白い肌。そして、四本の人間そっくりな四肢とは別に、もう四本、蜘蛛の脚を生やしている。
更に、何処から出しているのかは不明だが、糸を出す事ができる。
一度だけ、それとなく聞いたのだが「禁則事項です」と言われてしまった。
蜘蛛の妖怪なので順当に考えて、おし……
「しおんくん?変な事考えてませんか?」
そんな事を考えていると、蜘蛛ばあちゃんは、訝しげな目でこちらを覗き込んでいた。
「いや、何も考えて無いよ」
「そうですか?それなら良いのですが……」
「しおんは、助平でありますからな~」
そんな、旧陸軍の兵隊のような話し方で喋る、左膝の上に乗っている幼女が、俺の幼馴染である『犬神芽依』だ。
見た目は、蜘蛛ばあちゃんと同じ、10歳程の幼女の見た目をしているが、コイツは俺と同い年らしい。
だが、内面的に非常に幼い。というより元気過ぎてウザい。
正直、俺と同い年というのにも少々疑問を覚える程だ。
そんな犬神芽依は、名前の通り犬神だ。
ボサッとした茶色い髪の間から、垂れた犬耳を生やし、腰の辺りから、髪と同じ茶色い尻尾を生やしている。
この尻尾は、普通の犬と同じように、感情と直結しており、嬉しくなると尻尾を振り、悲しい時は足の間に尻尾を丸め入れる。
そのため、今のように膝の上に座っている時に尻尾を振られると、顔に当たって非常にウザい。
耳の方も、嬉しい時はパタパタさせたりする。
この耳は、非常に手触りがよく、普段からよく触らせて貰っている。
ちなみに、この耳と尻尾は犬神の意志で引っ込める事が可能で、学校や町に行くときは引っ込めている。
某戦闘民族みたく、腰に巻いたりしているわけでなく、原理は不明だが、本当に身体の中に引っ込めている。
なら普段から引っ込めておけば良いと思うのだが、 本人曰く、「家にいるときくらい、羽を伸ばしたいであります!」らしい。
まぁ、そんな見た目の二人を、膝の上に乗せながらゲームをしていると傍から見たら、ロリコンだと思われそうだが、俺はロリコンではない。
俺は、どちらかというと小さい子は苦手だ。
何を考えているかわからない上に、嫌なことがあると直ぐに泣く。
扱い辛い事この上ない。
それ比べて、ばあちゃんは、小さい身体から溢れる包容力。そして長年蓄えられた様々な知識と経験。
そして、天使のような微笑み。最高だ。
「どうしたでありますか?しおん」
芽依が顔を上げ、不思議そうに俺の顔を覗き込んでくる。
「いや、何でもないよ」
誤魔化すように、芽依の頭をクシャッと撫でる。
「ふぁっ!?いきなり撫でないで欲しいであります!」
「悪い悪い。嫌だったか……」
「では、しおんくん。私の頭をどうぞ」
そう言うと、蜘蛛ばあちゃんが自らの頭を差し出してくる。
「駄目とは言ってないであります!もっと撫でるであります!」
言わずもがな、こんなやり取りをしていたら、ゲームに集中出来る訳もなく、虚空に向かって必殺技を撃つ始末だ。
そんな事をしていると突然、勢い良く扉が開き、これまた小さい人影が部屋に入ってきた。
「御主等!休みだからといい、いつまでも『げぇむ』ばかりしとるんじゃない!」
声の主は、この家の大黒柱であり、俺の育て親の一人。#白沢王__はくたくおう__#。通称#白__はく__#ばあちゃん。おおよそ#白沢__ハクタク__#だ。
蜘蛛ばあちゃんと同じ雪のように白い肌。絹のように鮮やかな真っ白な髪。そして、その髪の間から#黄金色__おうごんいろ__#の二本の角を生やしている。
ちなみに白沢とは、日本ではマイナーだが、中国では竜や麒麟と同列の存在であり、時の指導者にお告げをする有り難い神様のような存在だ。
「泊は頭が硬いですね。今の時代、外で遊ぶ子供なんて都市伝説ですよ」
「そうであります!犬も炬燵で丸くなるであります!」
すると、白ばあちゃんは、無言でテレビに近づき手を伸ばした。
そして、『ブツンッ!!』と勢い良く、コンセントを引き抜いた。
「泊!!それはあんまりですぅ!!」
蜘蛛ばあちゃんは、悲痛な嗚咽をあげた。
「うるさい!一緒になって遊びおって!御主も一応二人の保護者であろうが!」
今も昔も、ゲームの電源を抜くという手法は非常に効果的だ。オートセーブの偉大さを常々実感する。
「二人のような年頃のボンはのう、外で遊んで汗水垂らした方が健康的だわ!」
「そんな教育は時代遅れです!こんなクソ暑い中で遊んだら熱中症になります!」
目の前で言い争いをする幼女達。
だが、その実は老人同士の、保護者の喧嘩であり、その内容は、見た目からは似ても似つかない教育方針についてだ。
正直、そういう話は俺達の目の前でやらない方が良いと思うのだが。
「しおん~、どうするでありますか?」
「ん~、取り敢えず、もうすぐ終わると思うからそれまで待ってようか」
俺は、芽依の頭を撫でながら時計を確認する。
「っと、こんな話をしておったらもうこんな時間ではないか!夕餉の支度をしなくては」
「そうですか。では、私は自室に戻らせて…」
「蜘蛛!御主は夕餉の準備を手伝え!!」
「し〜お〜ん〜く〜ん!助けて〜!」
蜘蛛ばあちゃんは抵抗虚しく、白ばあちゃんに引きずられながら、部屋を後にした。
「いや〜、これでは勝負はお預けでありますな〜」
「お前、勝敗が無為になって、地味に喜んでないか?」
「ギクッ!なな、なんのことでありますか!?」
今回のゲーム対決では、負けた者がコンビニまで買い出しにいく事になっていた。
ちなみに、一番近いコンビニまで歩きでは片道40分以上かかる。
「ぴぃー、ピぃー」
芽依は、白々しいまでにそっぽを向き、吹けない口笛を吹いていた。
「仕方ない。じゃあ二人でコンビニまで歩くか?皆の分のアイスでも買いに…」
「はいであります!!」