『存在』と『虚無』の力は神をも屠る(更新停止、凍結中&新シリーズ作成中)。   作:狩村 花蓮

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『存在』と『虚無』の力は神をも屠る。前回までの三つのあらすじ。一つ、真由美は新たにリボルバーを手に入れた。二つ、ハジメは魔物の肉を食らい魔力を直接操れるようになった。そして三つ、一行はユエを仲間に加えた。


第九話 悲しき過去。迷宮のボスとの邂逅

三人称side

  

サソリモドキを倒したハジメ達は、サソリモドキとサイクロプスの素材やら肉やらをハジメの拠点に持ち帰った。あの石像、サイクロップスという魔物だったのだ。まゆみはその石化を半ば無理やり剥ぎ取ることでいくらか素材を入手したのだ。

 

しかし腐っても巨体な魔物の素材だ、その巨体と相まって物凄く苦労したのだが、ユエは、得意だという魔法で見事な身体強化で怪力を発揮してくれたため、三人がかりでなんとか運び込むことができた。

 

ちなみに、そのまま封印の部屋を使うという手もあったのだが、ユエが断固拒否したためその案は没となった。

 

無理もない。何年も閉じ込められていた場所など見たくもないのが普通だ。消耗品の補充のためしばらく身動きが取れないことを考えても、精神衛生上、封印の部屋はさっさと出た方がいいだろう。

 

そんな訳で、現在ハジメ達は、消耗品を補充しながらお互いのことを話し合っていた。

 

「そうすると、ユエって少なくとも三百歳以上なわけか?」

「・・・・・・・・マナー違反」

「あんまり女性の年齢を聞くのはやめといたほうがいいよ。大体の人はキレるから。」

 

ユエが非難を込めたジト目でハジメを見る。真由美も当たり障りがないレベルで、注意する。女性に年齢の話はどの世界でもタブーらしい。

 

ハジメの記憶では、三百年前の大規模な戦争のおり吸血鬼族は滅んだとされていたはずだ。実際、ユエも長年、物音一つしない暗闇に居たため時間の感覚はほとんどないそうだが

 

それくらい経っていてもおかしくないと思える程には長い間封印されていたという。二十歳の時、封印されたというから三百歳ちょいということだ。

 

「吸血鬼って、皆そんなに長生きするのか?」

「・・・・・・・・私が特別。〝再生〟で歳もとらない・・・・・・・・最上級魔法も・・・・・・・・使える・・・・・・・・詠唱もいらない。」

 

聞けば十二歳の時、魔力の直接操作や〝自動再生〟の固有魔法に目覚めてから歳をとっていないらしい。普通の吸血鬼族も血を吸うことで他の種族より長く生きるらしいが、それでも二百年くらいが限度なのだそうだ。

 

ちなみに、人間族の平均寿命は七十歳、魔人族は百二十歳、亜人族は種族によるらしい。エルフの中には何百年も生きている者がいるとか。

 

ユエは先祖返りで力に目覚めてから僅か数年で当時最強の一角に数えられていたそうで、十七歳の時に吸血鬼族の王位に就いたという。

 

なるほど、最上級魔法とかいう戦略兵器レベルの魔法を、ほぼノータイムで撃てるのだ。しかも、ほぼ不死身の肉体。行き着く先は〝神〟か〝化け物〟か、ということだろう。ユエは後者だったということだ。

 

欲に目が眩んだ叔父が、ユエを化け物として周囲に浸透させ、大義名分のもと殺そうとしたが〝自動再生〟により殺しきれず、やむを得ずあの地下に封印したのだという。

 

ユエ自身、当時は突然の裏切りにショックを受けて、碌に反撃もせず混乱したままなんらかの封印術を掛けられ、気がつけば、あの封印部屋にいたらしい。

 

その為、あのサソリモドキや封印の方法、どうやって奈落に連れられたのか分からないそうだ。もしかしたら帰る方法が! と期待したハジメはガックリと項垂れた。

 

ユエの力についても話を聞いた。それによると、ユエは全属性に適性があるらしい。本当に「なんだ、そのチートは・・・・・・・・」と呆れるハジメだったが、ユエ曰く、接近戦は苦手らしく

 

一人だと身体強化で逃げ回りながら魔法を連射するくらいが関の山なのだそうだ。もっとも、その魔法が強力無比なのだから大したハンデになっていないのだが。

 

ちなみに、無詠唱で魔法を発動できるそうだが、癖で魔法名だけは呟いてしまうらしい。魔法を補完するイメージを明確にするためになんらかの言動を加える者は少なくないので、この辺はユエも例に漏れないようだ。

 

”自動再生〟については、一種の固有魔法に分類できるらしく、魔力が残存している間は、一瞬で塵にでもされない限り死なないそうだ。逆に言えば、魔力が枯渇した状態で受けた傷は治らないということ。

 

つまり、あの時、長年の封印で魔力が枯渇していたユエは、サソリモドキの攻撃を受けていればあっさり死んでいたということだ。

 

「それで・・・・・・・・肝心の話だが、ユエはここがどの辺りか分かるか? 他に地上への脱出の道とか」

「・・・・・・・・わからない。でも・・・・・・・・」

「でも?」

 

ユエにもここが迷宮のどの辺なのかはわからないらしい。申し訳なさそうにしながら、何か知っていることがあるのか話を続ける。

 

「・・・・・・・・この迷宮は反逆者の一人が作ったと言われてる」

「反逆者?」

 

聞き慣れない上に、なんとも不穏な響きに思わず錬成作業を中断してユエに視線を転じるハジメ。

 

「確か歴史書に書いてあったわ、それ。何でも神様に喧嘩を売ったとか。」

 

真由美がそう呟く。ハジメの作業をジッと見ていたユエも合わせて視線を上げると、コクリと頷き続きを話し出した。

 

「喧嘩を売ったって・・・・・・・・言葉は・・・・・・・・よくわからないけど、その昔に、反逆者・・・・・・・・神代に神に挑んだ神の眷属がいたらしい。・・・・・・・・世界を滅ぼそうとしたと伝わってる。」

 

ユエは言葉の少ない無表情娘なので、説明には時間がかかる。ハジメとしては、まだまだ消耗品の補充に時間がかかるし、サソリモドキとの戦いで、短時間でサソリもどきを討伐できたが

 

真由美のあの一撃を仲の肉の部分にまで通さないという強度を誇る皮膚に対してはハジメのドンナーでは攻撃力不足なのである。それを今回の戦いで痛感したことから新兵器の開発に乗り出しているため、作業しながらじっくり聞く構えだ。

 

真由美はまるで教師の話を聞くかの如くユエの方を見ている。ユエ曰く、神代に、神に反逆し世界を滅ぼそうと画策した七人の眷属がいたそうだ。しかし、その目論見は破られ、彼等は世界の果てに逃走した。

 

その果てというのが、現在の七大迷宮といわれているらしい。この【オルクス大迷宮】もその一つで、奈落の底の最深部には反逆者の住まう場所があると言われているのだとか。

 

「……そこなら、地上への道があるかも……」

「なるほど。奈落の底からえっちらおっちら迷宮を上がってくるとは思えない。神代の魔法使いなら転移系の魔法で地上とのルートを作っていてもおかしくないってことか」

 

見えてきた可能性に、頬が緩むハジメ。再び、視線を手元に戻し作業に戻る。ユエの視線もハジメの手元に戻る。ジーと見ている。

 

「・・・・・・・・そんなに面白いか?」

 

口には出さずコクコクと頷くユエ。

 

「多分ね、ユエはハジメのしてる作業を見てるんじゃなくて、作業をしてるハジメを見てるんだと思う。勿論作業の方にも興味はあるんだろうけどね。」

 

と真由美が言うと、先ほどよりも首を激しく振るユエ。どうやら図星らしい。

 

「良かったじゃないハジメ。モテモテよ。」

「そんな柄じゃないんだがなぁ。」

「さっき”おれのもの”発言した人と同一人物とは思えないこと言うわねあなた。」

「やかましいわ。」

 

そう言いつつハジメは消耗品の補充を済ませていく。

 

「そう言えば・・・・・・・・二人は何でここに?」

 

ユエがそう聞いてきた。

 

「そうねぇ。話すべきだとは思うけど、それは多分初めに聞いたほうがいいと思うよ。」

 

真由美は寂しげな表情を浮かべつつも”表面上”は笑顔を取り繕ってそう言った。

 

_______________

 

「ここからは私は関わらない。ハジメ、言うのは任せるよ。」

 

真由美はそういうと、横になって目を閉じる。即席で作ったのだろうか?木で作られた耳栓のようなものを付けていることからもハジメが話すこととそれで起こることを一切として聞かないという意思が感じられる。

 

ハジメはため息をつき、話し始めた。ハジメが、仲間と共にこの世界に召喚されたことから始まり、無能と呼ばれていたこと、ベヒモスとの戦いでクラスメイトの誰かに裏切られ奈落に落ちたこと

 

魔物を喰って変化したこと、爪熊との戦いと願い、ポーション(ハジメ命名の神水)のこと、故郷の兵器にヒントを得て現代兵器モドキの開発を思いついたことをツラツラと話していると、いつの間にかユエの方からグスッと鼻を啜るような音が聞こえ出した。

 

「なんだ?」と再び視線を上げてユエを見ると、ハラハラと涙をこぼしている。ギョッとして、ハジメは思わず手を伸ばし、流れ落ちるユエの涙を拭きながら尋ねた。

 

「いきなりどうした?」

「・・・・・・・・ぐす・・・・・・・・ハジメ・・・・・・・・つらい・・・・・・・・私もつらい・・・・・・・・」

 

どうやら、ハジメのために泣いているらしい。ハジメは少し驚くと、表情を苦笑いに変えてユエの頭を撫でる。

 

「気にするなよ。もうクラスメイトのことは割りかしどうでもいいんだ。そんな些事にこだわっても仕方無いしな。ここから出て復讐しに行って、それでどうすんだって話だよ。そんなことより、生き残る術を磨くこと、故郷に帰る方法を探すこと、それに全力を注がねぇとな」

 

スンスンと鼻を鳴らしながら、撫でられるのが気持ちいいのか猫のように目を細めていたユエが、故郷に帰るというハジメの言葉にピクリと反応する。

 

「・・・・・・・・帰るの?」

「うん? 元の世界にか? そりゃあ帰るさ。帰りたいよ。・・・・・・・・色々変わっちまったけど・・・・・・・・故郷に・・・・・・・・家に帰りたい・・・・・・・・」

「・・・・・・・・そう」

 

ユエは沈んだ表情で顔を俯かせる。そして、ポツリと呟いた。

 

「・・・・・・・・私にはもう、帰る場所・・・・・・・・ない・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

 

そんなユエの様子に彼女の頭を撫でていた手を引っ込めると、ハジメは、カリカリと自分の頭を掻いた。

 

別に、ハジメは鈍感というわけではない。なので、ユエが自分に新たな居場所を見ているということも薄々察していた。新しい名前を求めたのもそういうことだろう。だからこそ、ハジメが元の世界に戻るということは、再び居場所を失うということだとユエは悲しんでいるのだろう。

 

ハジメは、内心「〝徹頭徹尾自分の望みのために〟と決意したはずなのに、どうにも甘いなぁ」と自分に呆れつつ、再度、ユエの頭を撫でた。

 

「あ~、なんならユエも来るか?」

「え?」

 

ハジメの言葉に驚愕をあらわにして目を見開くユエ。涙で潤んだ紅い瞳にマジマジと見つめられ、なんとなく落ち着かない気持ちになったハジメは、若干、早口になりながら告げる。

 

「いや、だからさ、俺の故郷にだよ。まぁ、普通の人間しかいない世界だし、戸籍やらなんやら人外には色々窮屈な世界かもしれないけど・・・・・・・・今や俺も似たようなもんだしな。どうとでもなると思うし・・・・・・・・あくまでユエが望むなら、だけど?」

 

しばらく呆然としていたユエだが、理解が追いついたのか、おずおずと「いいの?」と遠慮がちに尋ねる。しかし、その瞳には隠しようもない期待の色が宿っていた。

 

キラキラと輝くユエの瞳に、苦笑いしながらハジメは頷く。すると、今までの無表情が嘘のように、ユエはふわりと花が咲いたように微笑んだ。思わず、見蕩れてしまうハジメ。呆けた自分に気がついて慌てて首を振った。

 

なんとなくユエを見ていられなくて、ハジメは作業に没頭することにした。ユエも興味津々で覗き込んでいる。但し、先程より近い距離で、ほとんど密着しながら……

 

ハジメは気にしてはいけないと自分に言い聞かせる。

 

「・・・・・・・・これ、なに?」

 

ハジメの錬成により少しずつ出来上がっていく何かのパーツ。一メートルを軽く超える長さを持った筒状の棒や十二センチ(縦の長さ)はある赤い弾丸、その他細かな部品が散らばっている。それは、ハジメがドンナーの威力不足を補うために開発した新たな切り札となる兵器だ。

 

「これはな・・・・・・・・対物ライフル:レールガンバージョンだ。要するに、俺の銃は見せたろ? あれの強力版だよ。弾丸も特製だ」

 

ハジメの言うように、それらのパーツを組み合わせると全長一・五メートル程のライフル銃になる。銃の威力を上げるにはどうしたらいいかを考えたハジメは、炸薬量や電磁加速は限界値にあるドンナーでは、これ以上の大幅な威力上昇は望めないと結論し、新たな銃を作ることにしたのだ。

 

当然、威力を上げるには口径を大きくし、加速領域を長くしてやる必要がある。

 

そこで、考えたのが対物ライフルだ。装弾数は一発と少なく、持ち運びが大変だが、理屈上の威力は絶大だ。何せ、ドンナーで、最大出力なら通常の対物ライフルの十倍近い破壊力を持っているのだ。普通の人間なら撃った瞬間、撃ち手の方が半身を粉砕されるだろう反動を持つ化け物銃なのである。

 

この新たな対物ライフル――シュラーゲンは、理屈上、最大威力でドンナーの更に十倍の威力が出る……はずである。

 

素材はなんとサソリモドキだ。ハジメが、あの硬さの秘密を探ろうとサソリモドキの外殻を調べてみたところ、〝鉱物系鑑定〟が出来たのである。

 

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シュタル鉱石

 

魔力との親和性が高く、魔力を込めた分だけ硬度を増す特殊な鉱石

 

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どうやら、サソリモドキのあの硬さはシュタル鉱石の特性だったらしい。おそらく、サソリモドキ自身の膨大な魔力を込めに込めたのだろう。

 

ハジメが、「鉱石なら加工できるのでは?」と試しに錬成をしてみたところ、あっさり出来てしまった。これなら錬成で簡単に外殻を突破できたと、あの苦労を思い返し思わず崩れ落ちたのは悲しい思い出だ。

 

いい素材が手に入って結果オーライと割り切ったハジメは、より頑丈な銃身を作れると考え、シュラーゲンの開発に着手した。ドンナーを作成した時から相当腕が上がっているので、それなりにスムーズに作業は進んだ。

 

弾丸にもこだわった。タウル鉱石の弾丸をシュタル鉱石でコーティングする。いわゆる、フルメタルジャケット・・・・・・・・モドキというやつだ。燃焼粉も最適な割合で圧縮して薬莢に詰める。

 

一発できれば、錬成技能[+複製錬成]により、材料が揃っている限り同じものを作るのは容易なのでサクサクと弾丸を量産した。そんなことをツラツラとユエに語りつつ、ハジメは、遂にシュラーゲンを完成させた。

 

中々に凶悪なフォルムで迫力がある。

 

「そう言えば・・・・・・・・真由美は・・・・・・・・どんな人・・・・・・・・?」

「それは本人に聞いてほしいんだが・・・・・・・・まぁ関わらないって言ってるからな、俺の主観でよければ話すが?」

「んっ。聞かせて、ほしい。」

「分かった。・・・・・・・・あいつはな、あぁ見えて寂しがり屋なんだよ。」

 

ハジメは真由美と友達になった時のことを思い出しながら、話す。

 

「これはアイツのいた施設の・・・・・・・・まぁここでいう孤児院だな。そこに行ったときに、そこにいた人から聞いた話なんだが、あいつの両親は、事故で死んじまったらしい。その時のことを当時まだ幼かったアイツはよく覚えていないそうだ。」

 

ハジメはただ暗い天井を見上げる。

 

「だからなのか、アイツは他人とのかかわりを望んでるような感じがする。ただ平和に生きたい。ただ普通に友達を作って普通に暮らしたかったってな。だが現実はどうだ?俺たちは戦争をするためだけにここに連れてこられた。

あくまでこれは俺の主観だが、今回の一件はいわゆるエヒトと呼ばれる神のお遊びみたいなもんなんだろう。それにあいつは巻き込まれた。」

 

ユエはその話をじっと聞いていた。ハジメももう、口が止まらなくなっていた。

 

「ここに初めて連れられてきたとき、みんなが集まっていろいろ聞いて、戦争に加担する・・・・・・・・まぁあいつらは最初、世界を救うという大義名分に騙されてたみたいだが、アイツは言ったよ。『お前ら人殺しをする覚悟はあるのか?』ってな。

俺もそう思ってたが言い出せなかった。だがあいつは言った。確実に戦争の引き金になるのが、戦いとは縁遠いど素人である俺たちが、戦争の道具としていいように使われることが想像ついたからだ。だが結局俺たちは戦争に加担させられた。」

 

ハジメは真由美の方を見る。

 

「そしてそのあと、アイツはクラスメイト達のほぼ全員から妬まれ疎まれるようになった。あいつの力はクラスメイトの中でも抜きんでてたからな。あいつは知らないだろうが、クラスメイト達の何人かは最初、アイツのことを殺そうとしてたみたいだぜ。

まぁでも、アイツの訓練してる姿を見て勝てないと踏んだのか、諦めたっぽいが。」

 

そしてハジメは視線を武器に落とす。

 

「あいつの願いは、出来る範囲でかなえたいと思ってる。あいつはあんなんだが人を思いやれる奴だ。そのくせ、人からの好意、そして友情や愛情に人一倍飢えている。だからお前も、アイツのことを気にかけてやってくれると助かる。」

「真由美も・・・・・・・・悲しい。どうしてそこまでできるのか・・・・・・・・不思議。真由美・・・・・・・・かわいそう。」

「俺もそう思うが、こればっかしは本人に聞いてみないとわからない。でも一つだけ言えるなら、アイツは極度のお人よしってことぐらいか。・・・・・・・・さて、行くか。ほら、耳栓とれって。行くぞ真由美。」

「ん?もう話はすんだの?それじゃあ出発しましょうか。」

 

三人は再び、下層へと下がっていった。

 

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「だぁー、ちくしょぉおおー!」

「・・・・・・・・ハジメ、ファイト・・・・・・・・」

「お前は気楽だな!そして真由美!お前も手伝えよ!」

「無理言わないでよ!私だってこれでも半分ぐらい殲滅を請け負ってるんだからね!」

 

現在、ハジメはユエを背負いながら猛然と草むらの中を逃走していた。(真由美は空を飛びながら紫電を放って魔物を同化しつつ殲滅している)周りは百六十センチメートル以上ある雑草が生い茂りハジメの肩付近まで隠してしまっている。ユエなら完全に姿が見えなくなっているだろう。

 

そんな生い茂る雑草を鬱陶しそうに払い除けながら、ハジメたちが逃走している理由は、

 

「「「「「「「「「「「「シャァアア!!」」」」」」」」」」」」

 

二百体近い魔物に追われているからである。

 

ハジメ達が準備を終えて迷宮攻略に動き出したあと、十階層ほどは順調に降りることが出来た。ハジメの装備や技量が充実し、かつ熟練してきたからというのもあるが、ユエの魔法が凄まじい活躍を見せたというのも大きな要因だ。

 

全属性の魔法をなんでもござれとノータイムで使用し的確にハジメを援護する。

 

ただ、回復系や結界系の魔法はあまり得意ではないらしい。〝自動再生〟があるからか無意識に不要と判断しているのかもしれない。もっとも、ハジメには神水があるし、真由美は同化の能力の応用で自分の体を治せるのでなんの問題もなかったが。

 

そんな三人が降り立ったのが現在の階層だ。まず見えたのは樹海だった。十メートルを超える木々が鬱蒼うっそうと茂っており、空気はどこか湿っぽい。しかし、以前通った熱帯林の階層と違ってそれほど暑くはないのが救いだろう。

 

ハジメと真由美、ユエが階下への階段を探して探索していると、突然、ズズンッという地響きが響き渡った。何事かと身構える二人の前に現れたのは、巨大な爬虫類を思わせる魔物だ。見た目は完全にティラノサウルスである。

 

但し、なぜか頭に一輪の可憐な花を生やしていたが・・・・・・・・。鋭い牙と迸ほとばしる殺気が議論の余地なくこの魔物の強力さを示していたが、ついっと視線を上に向けると向日葵に似た花がふりふりと動く。かつてないシュールさだった。

 

ティラノサウルスが咆哮を上げハジメ達に向かって突進してくる。ハジメは慌てずドンナーを抜こうとして……それを制するように前に出たユエがスッと手を掲げた。

 

「〝緋槍〟」

 

ユエの手元に現れた炎は渦を巻いて円錐状の槍の形をとり、一直線にティラノの口内目掛けて飛翔し、あっさり突き刺さって、そのまま貫通。周囲の肉を容赦なく溶かして一瞬で絶命させた。地響きを立てながら横倒しになるティラノ。

 

そして、頭の花がポトリと地面に落ちた。

 

「・・・・・・・・」

 

いろんな意味で思わず押し黙るハジメ。

 

最近、ユエ無双が激しい。最初はハジメの援護に徹していたはずだが、何故か途中からハジメに対抗するように先制攻撃を仕掛け魔物を瞬殺するのだ。

 

そのせいで、ハジメは、最近出番がめっきり減ってしまい、自分が役立たずな気がしてならなかった。まさか、自分が足手まといだから即行で終わらせているとかではあるまいな? と内心不安に駆られる。もしそんなことを本気で言われたら丸十日は落ち込む自信があった。

 

ハジメは抜きかけのドンナーをホルスターに仕舞い直すと苦笑いしながらユエに話しかけた。

 

「あ~、ユエ? 張り切るのはいいんだけど・・・・・・・・最近、俺、あまり動いてない気がするんだが・・・・・・・・」

 

ユエは振り返ってハジメを見ると、無表情ながらどこか得意げな顔をする。

 

「・・・・・・・・私、役に立つ。・・・・・・・・パートナーだから」

 

どうやら、ただハジメの援護だけしているのが我慢ならなかったらしい。確か、少し前に一蓮托生のパートナーなのだから頼りにしているみたいな事を言ったような、と、ハジメは首を傾げる。

 

「それにハジメは対ボス戦の切り札だからねぇ。雑魚は私とユエに任せて。」

「ん。真由美の言う通り。」

 

と、真由美もそんなことを言う。まぁこの群れの大半を叩いてくれたのが彼女なのだからハジメも文句は言えなかった。

 

その時は、ユエが、魔力枯渇するまで魔法を使い戦闘中にブッ倒れてちょっとした窮地に陥ってしまい、何とか脱した後、その事をひどく気にするので慰める意味で言ったのだが・・・・・・・・思いのほか深く心に残ったようである。パートナーとして役立つところを見せたいのだろう。

 

「はは、いや、もう十分に役立ってるって。ユエは魔法が強力な分、接近戦は苦手なんだから後衛を頼むよ。前衛は俺の役目だ。それに、真由美だっているわけだしな。」

「そうそう。広範囲殲滅はお任へあれ」

「・・・・・・・・ハジメ、真由美・・・・・・・・ん」

 

ハジメと真由美に注意されてしまい若干シュンとするユエ。

 

ハジメは、どうにもハジメの役に立つことにこだわり過ぎる嫌いのあるユエに苦笑いしながら、彼女の柔らかな髪を撫でる。それだけで、ユエはほっこりした表情になって機嫌が戻ってしまうのだから、ハジメとしてはもう何とも言えない。

 

依存して欲しいわけではないので、所々で注意が必要だろう・・・・・・・・と思いつつ、つい甘やかしてしまう。ハジメは、実のところ、そんな自分にこそ一番呆れているのだった。

 

ある意味、二人がイチャついていると、ハジメの〝気配感知〟に続々と魔物が集まってくる気配が捉えられた。

 

十体ほどの魔物が取り囲むようにハジメ達の方へ向かってくる。統率の取れた動きに、二尾狼のような群れの魔物か? と訝しみながらユエを促して現場を離脱する。数が多いので少しでも有利な場所に移動するためだ。

 

円状に包囲しようとする魔物に対し、ハジメは、その内の一体目掛けて自ら突進していった。

 

そうして、生い茂った木の枝を払い除け飛び出した先には、体長二メートル強の爬虫類、例えるならラプトル系の恐竜のような魔物がいた。頭からチューリップのような花をひらひらと咲かせて。

 

「・・・・・・・・かわいい」

「・・・・・・・・流行りなのか?」

「・・・・・・・・いや、多分あれ、何かのビーコンだと思う。」

 

ユエが思わずほっこりしながら呟けば、ハジメはシリアスブレイカーな魔物にジト目を向け、有り得ない推測を呟く。それを真由美は何らかの要因だと推測する

 

たしかにラプトルは、ティラノと同じく、「花なんて知らんわ!」というかのように殺気を撒き散らしながら低く唸っている。臨戦態勢だ。花はゆらゆら、ふりふりしているが・・・・・・・・

 

「シャァァアア!!」

 

ラプトルが、花に注目して立ち尽くすハジメ達に飛びかかる。その強靭な脚には二十センチメートルはありそうなカギ爪が付いており、ギラリと凶悪な光を放っていた。

 

ハジメとユエは左右に分かれるように飛び退き回避する。

 

それだけで終わらず、ハジメは 〝空力〟を使って三角飛びの要領でラプトルの頭上を取った。そして、試しにと頭のチューリップを撃ち抜いてみた。

 

ドパンッという発砲音と同時にチューリップの花が四散する。ラプトルは一瞬ビクンと痙攣けいれんしたかと思うと、着地を失敗してもんどり打ちながら地面を転がり

 

樹にぶつかって動きを止めた。シーンと静寂が辺りを包む。ユエもトコトコとハジメの傍に寄ってきてラプトルと四散して地面に散らばるチューリップの花びらを交互に見やった。

 

「・・・・・・・・死んだ?」

「いや、生きてるっぽいけど・・・・・・・・」

「多分、あの花が何らかの方法で宿主を操ってるか、操るためのアンテナになってるんだと思う。」

 

真由美は、同化してラプトルを吸収する。ハジメは訳がわからないものの、そもそも迷宮の魔物自体わけのわからない物ばかりなので気にするのを止めた。包囲網がかなり狭まってきていたので急いで移動しつつ、有利な場所を探っていく。

 

程なくして直径五メートルはありそうな太い樹が無数に伸びている場所に出た。隣り合う樹の太い枝同士が絡み合っており、まるで空中回廊のようだ。

 

ハジメは〝空力〟で、ユエは風系統の魔法で頭上の太い枝に飛び移る。真由美は”飛行”で飛べるため、魔物の頭の上を飛んで、魔物を殲滅している。ハジメはそこで頭上から集まってきた魔物達を狙い撃ちにし殲滅し始める。

 

五分もかからず眼下に次々とラプトルが現れ始めた。焼夷手榴弾でも投げ落としてやろうと思っていたハジメは、しかし、硬直する。隣では魔法を放つため手を突き出した状態でユエも固まっていた。

 

 なぜなら・・・・・・・・

 

「なんでどいつもこいつも花つけてんだよ!」

「・・・・・・・・ん、お花畑」

「多分この回の魔物はほとんどが操られてるとみてよさそうね。」

 

ハジメ達の言う通り、現れた十体以上のラプトルは全て頭に花をつけていた。それも色とりどりの花を。

 

思わずツッコミを入れてしまったハジメの声に反応して、ラプトル達が一斉にハジメ達の方を見た。そして、襲いかかろうと跳躍の姿勢を見せる。

 

が、その魔物はハジメたちに近づく前に緑色の結晶となって消える。見てみれば真由美は両手を広げてその手のひらから紫電を出して周りの魔物をどんどん同化していく。

 

残った魔物はリボルバーの極太ビームで蒸発させている。ハジメもドンナーと新たに作った焼夷手榴弾などを駆使して魔物を殲滅してく。どうやらあのサソリもどきが強かっただけのようでハジメの武器はオーバーキル目で魔物を屠る。

 

結局十秒もかからず殲滅に成功した。しかし、真由美の表情は冴えない。ハジメがどうしたと聞こうとしたその時〝気配感知〟が再び魔物の接近を捉えた。全方位からおびただしい数の魔物が集まってくる。

 

ハジメの感知範囲は半径二十メートルといったところだが、その範囲内において既に捉えきれない程の魔物が一直線に向かってきていた。

 

「二人とも、ヤバイぞ。三十いや、四十以上の魔物が急速接近中だ。まるで、誰かが指示してるみたいに全方位から囲むように集まってきやがる」

「・・・・・・・・逃げる?」

「・・・・・・・・いや、この密度だと既に逃げ道がない。一番高い樹の天辺から殲滅するのがベターだろ」

「ん・・・・・・・・特大のいく」

「おう、かましてやれ!」

「じゃあ私はその間の時間を稼ぎましょうかね。ハジメ、合図はよろしく。」

「任せておけ。」

 

真由美は飛び上がって魔物の方へと突撃し、注意を引く。魔物は真由美の方へと集まっていき攻撃しようとするが真由美ははるか上空にいるため、攻撃が届かない。

 

「ハジメ?」

「まだだ・・・・・・・・もうちょい」

 

ユエの呼び掛けにラプトルを撃ち落としながら答えるハジメ。ユエはハジメを信じてひたすら魔力の集束に意識を集中させる。

 

そして遂に、真由美の眼下の魔物が総勢五十体を超え、今では多すぎて判別しづらいが、事前の〝気配感知〟で捉えた魔物の数に達したと思われたところで、ハジメは、ユエに合図を送った。

 

「ユエ!」

「んっ! 〝凍獄〟!」

 

ユエが魔法のトリガーを引いた瞬間、ハジメ達のいる樹を中心に眼下が一気に凍てつき始めた。ビキビキッと音を立てながら瞬く間に蒼氷に覆われていき、魔物に到達すると花が咲いたかのように氷がそそり立って氷華を作り出していく。

 

魔物は一瞬の抵抗も許されずに、その氷華の柩に閉じ込められ目から光を失っていった。氷結範囲は指定座標を中心に五十メートル四方。まさに〝殲滅魔法〟というに相応しい威力である。

 

「はぁ・・・・・・・・はぁ・・・・・・・・」

「お疲れさん。流石は吸血姫だ」

「・・・・・・・・くふふ・・・・・・・・」

 

周囲一帯、まさに氷結地獄と化した光景を見て混じりけのない称賛をユエに贈るハジメ。ユエは最上級魔法を使った影響で魔力が一気に消費されてしまい肩で息をしている。おそらく酷い倦怠感に襲われていることだろう。

 

ユエは首にかみつきハジメから血を吸う。どうやら血を吸うことで魔力などに変換できるようだ。ハジメたちが出発する直前にちゃっかり吸っていたのだ。すると真由美は奥の洞窟の方から出て来た。

 

「おう真由美、今までどこ行ってた?」

「いや、この状況を作った魔物を潰しに行ってた。危なかったよ、自分の持ってる特殊な鱗粉で操る性質を持ってるなんて。まぁさっさと倒しちゃったんだけどね」

 

ハジメたちはその足で再び下層へと降りる。その先に待っているものに向けて。

 

______________________

 

ハジメたちの目の前にある重厚な扉。それはまるでここが最下層だといわんばかりの雰囲気を醸し出していた。

 

「さて、多分ここが最下層だ。気を引き締めていくぞ。」

「おー!」

「・・・・・・・・おー」

「乗り悪くない!?」

「おら、さっさと行くぞ。時間がないんだから。」

「はいはい了解しましたよっと。」

 

 

真由美は扉をこじ開ける。その瞬間、扉とハジメ達の間三十メートル程の空間に巨大な魔法陣が現れた。赤黒い光を放ち、脈打つようにドクンドクンと音を響かせる。

 

ハジメと真由美は、その魔法陣に見覚えがあった。忘れようもない、あの日、ハジメが奈落へと落ちた日に見た自分達を窮地に追い込んだトラップと同じものだ。

 

だが、ベヒモスの魔法陣が直径十メートル位だったのに対して、眼前の魔法陣は三倍の大きさがある上に構築された式もより複雑で精密なものとなっている。

 

「おいおい、なんだこの大きさは? マジでラスボスかよ」

「・・・・・・・・大丈夫・・・・・・・・私達、負けない・・・・・・・・」

 

ハジメが流石に引きつった笑みを浮かべるが、ユエは決然とした表情を崩さずハジメの腕をギュッと掴んだ。

 

「まーた蚊帳の外だよー。まぁいいけどね。」

 

真由美はそれとなく抗議するが、ハジメはそれを聞かないふりをし、ユエの言葉に「そうだな」と頷き、苦笑いを浮かべながらハジメも魔法陣を睨みつける。どうやらこの魔法陣から出てくる化物を倒さないと先へは進めないらしい。

 

魔法陣はより一層輝くと遂に弾けるように光を放った。咄嗟に腕をかざし目を潰されないようにするハジメとユエ。光が収まった時、そこに現れたのは・・・・・・・・

 

体長三十メートル、六つの頭と長い首、鋭い牙と赤黒い眼の化け物。例えるなら、神話の怪物ヒュドラだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




はい、ここまで読んでいただきありがとうございました。そして、長くなったので戦闘描写は次回です。今回は真由美の過去について、ハジメの視点から少しだけ語らせてみました。詳しいことに関しては奈落編終了後のキャラ設定にて書こうと思います。
ではまた次回もお会いいたしましょう。さようなら!

光輝君はどうするべき?

  • 主人公たちを邪魔し続ける
  • 改心させる
  • いっそのこと殺す
  • 魔人族の手先になる
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