『存在』と『虚無』の力は神をも屠る(更新停止、凍結中&新シリーズ作成中)。   作:狩村 花蓮

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『存在』と『虚無』の力は神をも屠る、前回までの三つのあらすじ。一つ、ハジメはシアたちハウリア族を助けることにした。二つ、ユーマはカムたちを助けた。そして三つ、ユーマは帝国兵を殺害した


第十四話 亜人の集まる里 フェアベルゲン

 

三人称side

 

「いったい何を・・・・・・・・したんですか?」

 

シアがそう呟く。目の前には頭部が上下真っ二つに分かれている帝国兵だったものが転がっていた。

 

「何って・・・・・・・・殺しただけだが?」

 

何言ってんのこいつみたいな顔をしてユーマが聞き返す。

 

「そう言いたいのではありません!あなたは何でそんなにためらいもなく同族を殺せるんですか!あなたには、抵抗というものはないんですか!?」

 

そういうシアの両手は固く握られている。その肩をカムがつかんでいる。ためらいもなく人殺しをしたユーマが信じられないのだ。

 

「なんでって言われてもな。ああいう輩は何言ったって聞かない、近づけるのさえ嫌なぐらいに気持ち悪い。であれば殺すのは当たり前だろう?あまつさえ私の体にまで欲情するような奴らだ。

 

交渉しても無駄だ、ならば殺すしかあるまいよ。・・・・・・・・おっ、良さげなの発見。・・・・・・・・くっ!」

 

ユーマは帝国兵の持つ武器を漁りながらそう答える。そうして割と新しめの片手剣を一本取り、顔をしかめながらもしっかりと握りこみ、ルーン魔術を使って、何かをしていた。

 

「そんな・・・・・・・・」

 

ユーマは剣を取った兵士の持っていた剣の鞘を腰のベルトから取り外し、剣を戻す。そしてシアの方に振り向いた。

 

「それにな、シアさん。私たちが今しているのはあなた達の護衛だ。そこに人殺しをしないって勘定ははなから入ってないんだよ。護衛、それを遂行するために敵となるなら同じ人間だって殺す。

 

ハジメも言ってただろう?戦うってのはそういうことなんだよ。戦うってことは相手の命を奪うことと同義だからな」

 

ユーマは、かつてクラスメイトに言ったことと同じようなことを言った。

 

「・・・・・・・・」

 

「ハウリアのことは俺も知っている。戦いを忌むべきものとして、逃げることで争いを避け続ける温厚な種族。事実、それで何とかなってるんだからその行動指針は尊敬に値する。

 

でも私たちは護衛だ。何度も言うようだが、護衛って言うのは戦って敵性存在を切り依頼主を守るのが仕事だ。私だって積極的に人殺しをしたいわけじゃない。これでも人並みに嫌悪感は感じているんだ。

 

人の血を見ることに耐性はあまり持ってないから。でも結局誰かが手を汚すしかない。これはあくまで私の個人的な意見なんだが、なるべくならあんたたちの手を汚したくはないんだ。

 

汚れるのは私だけでいい。ハジメたちにだって人殺しをさせたくはないんだ」

 

シアはそれでも反論しようとしたが、ユーマはその前に「私にはそんな資格ないけどね」といった。そしてユーマは再び口を開く。

 

「私は、さ。見た目以上に善人ってわけじゃない。自分さえ生きていればって思ったことは何回もあるし、さっきのアレだって血を見たくないってだけで、人殺しは必要経費みたいなものって軽く見てる自分がいる。

 

力が欲しいと何度思ったことか。・・・・・・・・って、さっきと矛盾してるな、これ。」

 

ユーマは自信を嘲笑するように言った。

 

「・・・・・・・・私は誰一人として守れた例がないんだ。家族は突然死んで、私の親友は友人にはめられて落ちて、左腕と右目を持っていかれた。他のクラスメイトにはあれだけ大見えきっておいて!私は誰として、守れなかったんだ!」

 

それは彼女の口から出た懺悔の言葉だったのだろう。ハジメもユエもユーマの懺悔を止めようとしない。溜め込むよりは吐き出させたほうがいいと判断したからだ。

 

「私も他のクラスメイトと変わらんさ。身に余るほどの力と技術を手に入れて、天狗になってた。俺が力を渡したあの三人はいまどうしてるか分からないし、私自身も今の体ではハジメたちと肩を並べて戦うことができない!

 

所詮そのアーマーがないと満足に戦えない・・・・・・・・ただの搾りかすだ。力を手に入れたと思ってただの幻想にしがみついてたバカの一人だったんだ!・・・・・・・・そう言えばハジメは見てたよな?私が魔物を素手で倒していってたの。」

 

ユーマはハジメの方を見る。その目にはいうことを強制しているようなそんな意志が感じられる

 

「・・・・・・・・あぁ。しっかりと見てた。」

 

「これ、見てよ。」

 

そう言って彼女は、着ていたドレスの、右腕の長袖部分をめくって、手袋も外した。そしてその腕は大部分が壊死しているのか黒ずんでいる。そこに筋肉はほとんどなくほぼ骨と皮だけのようだ。

 

「・・・・・・・・なんだよ、これ。」

 

ハジメもユエも、そしてシアもハウリア族たちも、その光景を見て唖然としていた。

 

「私の扱う武術は不完全ながらも、世界とか因果とか、そんな、神様にしか触れられないようなものを破壊することができる。というか、それのためにこの武術を作った。でも不完全だから、反動が来たんだよ。

 

もう、右腕の感覚があんまないんだ。あのアーマーがあってもきつい。この体はあくまでも代理品だから、本体のような耐久値がないんだよ。だから反動をもろに受けたんだ。」

 

もう、何も言えなかった。ハジメたちは何も言えなかった。ユエはあまり得意ではない回復魔法を使って直そうと試み、ハジメは神水を使って直そうとした。しかし、彼女の腕が元に戻ることはなかった。

 

「もういいんだよ。この傷は文字通り世界の修正力によってできた傷。世界を壊した反動だ、だからもう、新しい腕を作らない限り治らないんだ。今あそこの兵士からとってきたこの直剣だって

 

魔術で極限まで軽くしてようやく片手で振れる。この腕切り落として義手にすることも、度胸がなくてできやしない。」

 

ユーマは右腕をつかんでそう言った。

 

「いやぁ、ほんとバカだな。自棄を起こして自滅して、本当にバカみたいだ。ほんとは人殺しなんて、したくはなかったけどね。ついむしゃくしゃしてやってしまった。」

 

シアは自身の言ったことが見当違いだということに気づいた。彼女は、ユーマは、人殺しに抵抗がないわけではなかった。むしろ極度に嫌っているきらいがある。それはまるで、戦いたくないと戦いから逃げてきたハウリア族のように。

 

人殺しをなした女性こそ、一番命を重くとらえられてる人だということに。

 

「我ながら言っていることが支離滅裂だな・・・・・・・・まぁ、何が言いたいのかというと、力がない私でも、頼まれたことは最後までやり通さないといけないという覚悟がある。そのためだったらいくらでも殺す。同族だろうが何だろうが

 

敵であればなんでも殺す。それが仕事だからだ。分かってくれとは言わないけどあまり触れてくれないと嬉しい」

 

ユーマはそう言って捲っていたドレスの袖口を元に戻す。そしてハジメたちの方を一瞥する。その目は「もう大丈夫か?」と問いかけている。ハジメたちもそれを察したのか頷く。ユーマもそれにうなずき、アーマーを再び着込む。

 

そしてそのアーマーははるか上空へと飛んで行った。

 

「・・・・・・・・ハジメ」

 

ユエは、飛んでいくユーマの姿を見た後も上空から視線を戻さないハジメの方を見た。その目は虚ろだった。ユエはそれを心配し声をかける。

 

「あ、あぁ。すまない。大丈夫だ。」

 

ハジメはうなずく。しかしその答え方はどこか生返事だ。ユーマのことが心配なんだろう。

 

「ユーマは大丈夫。・・・・・・・・それに、”私は何があってもハジメのそばにいる”から。だから安心して?ハジメ」

 

「・・・・・・・・あぁ。ありがとう、ユエ。」

 

「んっ!」

 

ユエはそんなことを言った。一見ハジメとユーマのどちらも心配しているように聞こえる。でも、ユエはユーマのことをあまり心配はしていなかった。

 

先ほどはなれない魔法を使おうとしていた彼女だが、あくまでも優先順位はハジメの方が上である。むしろ真由美とユーマをどこか敵視しているきらいがあるのだ。

 

恋敵とでもいうのだろうか?確かにハジメはユエのことを大事に思っている。でもそれ以上にハジメは真由美に気を持っているのだ。そのことに何となく気づいていた。

 

だからこそユエは真由美が寝ている間にハジメの初めてを奪ったし、強引に振り向かせようとした。結果、精神が壊れていたハジメは本能的にユエに依存するようになっていた。

 

行動指針がユエ優先に代わってしまうぐらいに。しかし、ユーマが出て来たことで状況は一変した。真由美の復活する可能性が高くなってしまったからだ。

 

そしてユエは、それを許容することができなかった。”大切なものが失われる感覚(私の大切で愛おしい南雲ハジメ)”ユエはそれが何よりも耐え難かったのだ。

 

ユエは決して極悪非道な性格ではない。しかし善意の塊でもない。いたって普通に嫉妬をする人であった。どこまで行こうとそれは変わらない。

 

ユエは、再び歩き出すハジメの後ろをついて行った。それはまるで新婚夫婦のそれのように。勿論帝国兵の死体はユエが風魔法で谷へと落とした。

 


 

ユーマside

 

お久しぶりです。ユーマこと真城悠馬です。えっ?ここでそんなネタバレしてもいいのかって?この声を聴いているのは私と読者の皆様だけですから心配ご無用!

 

いやぁ、それにしてもまさか右腕がこうなるとは・・・・・・・・やっぱり興味本位で因果とか世界とかに手を出すべくじゃなかったですねぇ。おかげで右腕が使い物にならなくなってますよ。

 

ほとんど動きません。さっきの片手剣だって、左手使って、動かない右手で握りこんでルーン魔術で固定してるだけですし、腕も少し曲げた状態で固定して肩でぐるぐるしてるだけですしねぇ。

 

だったら右腕切り落としてハジメと同じ義手にすればいいだろって?そうは問屋が卸してくれないんですよ。でも資材がないから満足なのを作れないってわけじゃないんです。

 

この体はあくまでも代理品みたいなもんですからね。義手を作ってもらったところで本体が復活すれば新しいのを作ることができる訳で。つまるところ資材の無駄ってわけですよ。

 

あっ、そうそう。さっき私が使った四奏流。あれ、本来は格闘術ではなく剣術です。まぁどの武器でも使えますが最初にできたのが剣術としてのあの型です。それを自分で格闘術にまで落とし込みました。

 

元々生身で因果とか世界の法則とかを破壊しようとするのは自殺行為らしいですよ?ゼウスのじっちゃんが言ってた。ちなみに、帝国兵の頭を真っ二つにしたのはルーン魔術で使われる刻印用のレーザーみたいなやつです。

 

ほら、某運命のゲームで今のこの体の元ネタの人が攻撃で使ってたあれです。桃色?のレーザーっぽい奴。威力がすさまじいのなんの・・・・・・・・。それにしても、初めて人殺しをしたわけなんですが、罪悪感はあるのに

 

あまり気にしていないような自分の感情が怖いです。何?私殺人鬼にでもなっちゃうんかな?・・・・・・・・まぁそれはおいおい考えるとして。私は今ハジメたちのはるか上空を飛んでいます。まぁこんな役立たずが地上にいてもこんな見た目からして火種増やすだけなんではい。

 

いやね、ハジメはハウリアの護衛の対価にフェアベルゲンの大迷宮への案内を要求したわけで・・・・・・・・まぁそんなわけで今絶賛移動して、フェアベルゲンついたところなんですけど・・・・・・・・すでにハジメたちとひと悶着あったみたいっすねぇ。

 

ハジメたちが亜人に槍を向けられて、その奥からなんか知らん亜人たちがうじゃうじゃ出て来てるんでそろそろアルフレリックさんのご登場かな?・・・・・・・・うん、出て来たね。ん?何でこんな落ち着いてるかだって?私は見てる分には興味をあまり示さない人でなしだからSA☆

 

っていうか大迷宮に行くには霧が薄くなるのを待つしかないから一週間だか位かかるんだけどハジメたちは知ってるのかな?あっ、ハジメがカムさん似合いアンクローかましてる。ハッハーん。さてはおえてなかったな?(迷推理)

 

あー、ハジメたちが中に入っていく。私もそろそろ行かないと。この霧ってばレーダーまで無効にしちゃうんだもんね、さすが解放者、チートだわぁ。ってなわけでおりましょう!トゥ!(某種死のハーレム赤服さん風)

 

「うわぁ!?なんだこいつは!?敵か!」

 

そう言って亜人族の型は槍を向けてきます。このまま誤解されても困るんでこれ脱ぎましょうねー。

 

「私は敵ではないし、化け物でもない。れっきとした彼らの仲間で人間だ。」

 

話し方が違うのは気にしなーい気にしなーい。見た目に合わせて役者ロールしてるだけですしお寿司。まぁ私のセンスなんてガバガバなんですぐに崩れますけどねぇ。アーカナシ(棒読み)

 

ってなわけでフェアベルゲンまでイクゾー! デンデンデデデン!

 


 

つきました。中々に圧巻ですねぇクォレハ。流石霧の中の町。ライトがいい感じに幻想的な風景を醸し出してるぅ!こういう空間にいると心が安らぎますね。

 

あっ、男の子がこちらに近づいてきました。無垢な笑顔が私の腐った心にクリティカルしてくるっ!

 

「おねえちゃんはどこからきたの?」

 

「ん?この森の外からだ。この森の奥に用があるのであいさつしに来たんだ。」

 

「そおなんだ!ぼくたちのまち、フェアベルゲンにようこそ!」

 

「フフッ、歓迎痛み入る。小さな案内人君。」

 

「あんないにん?よくわからないけど、たのしんでいってね!」

 

「そちらも気を付けてな。」

 

ア”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”!”か”わ”え”ぇ”な”ぁ”!(迫真)

 

駄目だ、何かいけないものに目覚めそうだ・・・・・・・・。だってさ、これから一人長老を血祭りに上げるのにそんなこといざ知らず声かけてくれるとか優しすぎやでぇ。

 

てぇてぇ!まじてぇてぇ!庇護欲誘いますわぁ。っと、こんなことしてたらハジメたちがアルフレリックたちに連れていかれましたね。私はここでこの子と一緒に・・・・・・・・あれ?なんか引っ張られてる?

 

ちょっとハジメさん?そんな勢いよく引っ張らないぐえっ!?

 


 

三人称side

 

「・・・・・・・・なるほど。試練に神代魔法、それに神の盤上か・・・・・・・・」

 

現在、ハジメとユエは、アルフレリックと向かい合って話をしていた。なおユーマはハジメが宝物庫から取り出した縄で縛られている。口はテープのような何かでふさがれている。

 

内容は、ハジメがオスカー・オルクスに聞いた〝解放者〟のことや神代魔法のこと、自分が異世界の人間であり七大迷宮を攻略すれば故郷へ帰るための神代魔法が手に入るかもしれないこと等だ。

 

アルフレリックは、この世界の神の話を聞いても顔色を変えたりはしなかった。不思議に思ってハジメが尋ねると、「この世界は亜人族に優しくはない、今更だ」という答えが返ってきた。

 

神が狂っていようがいまいが、亜人族の現状は変わらないということらしい。聖教教会の権威もないこの場所では信仰心もないようだ。あるとすれば自然への感謝の念だという。

 

ハジメ達の話を聞いたアルフレリックは、フェアベルゲンの長老の座に就いた者に伝えられる掟を話した。それは、この樹海の地に七大迷宮を示す紋章を持つ者が現れたらそれがどのような者であれ敵対しないこと

 

そして、その者を気に入ったのなら望む場所に連れて行くことという何とも抽象的な口伝だった。

 

【ハルツィナ樹海】の大迷宮の創始者リューティリス・ハルツィナが、自分が〝解放者〟という存在である事(解放者が何者かは伝えなかった)と、仲間の名前と共に伝えたものなのだという。

 

フェアベルゲンという国ができる前からこの地に住んでいた一族が延々と伝えてきたのだとか。最初の敵対せずというのは、大迷宮の試練を越えた者の実力が途轍もないことを知っているからこその忠告だ。

 

そして、オルクスの指輪の紋章にアルフレリックが反応したのは、大樹の根元に七つの紋章が刻まれた石碑があり、その内の一つと同じだったからだそうだ。

 

「それで、俺は資格を持っているというわけか・・・・・・・・」

 

アルフレリックの説明により、人間を亜人族の本拠地に招き入れた理由がわかった。しかし、全ての亜人族がそんな事情を知っているわけではないはずなので、今後の話をする必要がある。

 

ハジメとアルフレリックが、話を詰めようとしたその時、何やら階下が騒がしくなった。ハジメ達のいる場所は、最上階にあたり、階下にはシア達ハウリア族が待機している。どうやら、彼女達が誰かと争っているようだ。

 

ハジメとアルフレリックは顔を見合わせ、同時に立ち上がった。ユーマを置いて。階下では、大柄な熊の亜人族や虎の亜人族、狐の亜人族、背中から羽を生やした亜人族、小さく毛むくじゃらのドワーフらしき亜人族が剣呑な眼差しで、ハウリア族を睨みつけていた。

 

部屋の隅で縮こまり、カムが必死にシアを庇っている。シアもカムも頬が腫れている事から既に殴られた後のようだ。ハジメとユエが階段から降りてくると、彼等は一斉に鋭い視線を送った。熊の亜人が剣呑さを声に乗せて発言する。

 

「アルフレリック・・・・・・・・貴様、どういうつもりだ。なぜ人間を招き入れた? こいつら兎人族もだ。忌み子にこの地を踏ませるなど・・・・・・・・返答によっては、長老会議にて貴様に処分を下すことになるぞ」

 

必死に激情を抑えているのだろう。拳を握りわなわなと震えている。やはり、亜人族にとって人間族は不倶戴天の敵なのだ。しかも、忌み子と彼女を匿った罪があるハウリア族まで招き入れた。熊の亜人だけでなく他の亜人達もアルフレリックを睨んでいる。

 

しかし、アルフレリックはどこ吹く風といった様子だ。

 

「なに、口伝に従ったまでだ。お前達も各種族の長老の座にあるのだ。事情は理解できるはずだが?」

 

「何が口伝だ! そんなもの眉唾物ではないか! フェアベルゲン建国以来一度も実行されたことなどないではないか!」

 

「だから、今回が最初になるのだろう。それだけのことだ。お前達も長老なら口伝には従え。それが掟だ。我ら長老の座にあるものが掟を軽視してどうする」

 

「なら、こんな人間族の小僧が資格者だとでも言うのか! 敵対してはならない強者だと!」

 

「そうだ」

 

あくまで淡々と返すアルフレリック。熊の亜人は信じられないという表情でアルフレリックを、そしてハジメを睨む。

 

フェアベルゲンには、種族的に能力の高い幾つかの各種族を代表する者が長老となり、長老会議という合議制の集会で国の方針などを決めるらしい。裁判的な判断も長老衆が行う。

 

今、この場に集まっている亜人達が、どうやら当代の長老達らしい。だが、口伝に対する認識には差があるようだ。

 

アルフレリックは、口伝を含む掟を重要視するタイプのようだが、他の長老達は少し違うのだろう。アルフレリックは森人族であり、亜人族の中でも特に長命種だ。二百年くらいが平均寿命だったとハジメは記憶している。

 

だとすると、眼前の長老達とアルフレリックでは年齢が大分異なり、その分、価値観にも差があるのかもしれない。ちなみに、亜人族の平均寿命は百年くらいだ。

 

そんなわけで、アルフレリック以外の長老衆は、この場に人間族や罪人がいることに我慢ならないようだ。

 

「・・・・・・・・ならば、今、この場で試してやろう!」

 

いきり立った熊の亜人が突如、ハジメに向かって突進した。あまりに突然のことで周囲は反応できていない。アルフレリックも、まさかいきなり襲いかかるとは思っていなかったのか、驚愕に目を見開いている。

 

そして、一瞬で間合いを詰め、身長二メートル半はある脂肪と筋肉の塊の様な男の豪腕が、ハジメに向かって振り下ろされた。

 

亜人の中でも、熊人族は特に耐久力と腕力に優れた種族だ。その豪腕は、一撃で野太い樹をへし折る程で、種族代表ともなれば他と一線を画す破壊力を持っている。シア達ハウリア族と傍らのユエ以外の亜人達は、皆一様に、肉塊となったハジメを幻視した。

 

しかし、次の瞬間には、有り得ない光景に凍りついた。

 

 ”ガァン!”

 

鉄と鉄がものすごい勢いで衝突した時のような轟音が響いた。音がした方を皆はいっせいに見る。そこにいたのは、ハジメの前に立ち、熊の亜人の拳を片手で受け止めている、上の階で縄で縛られていたはずのユーマだった。

 


 

「ユーマ・・・・・・・・?お前どうしてここに・・・・・・・・」

 

「本体とのリンクが復活した。どうやら、だいぶ回復してきたらしい。おかげでステータスがある程度戻って、使えなかった技能もある程度なら使えるようになった。」

 

ユーマの右腕が緑色の結晶に包まれる。その結晶が消えると、ドレスの袖がなくなっており、右腕があらわになる。が、そこにあった右腕は、骨と皮だけの使い物にならなくなっていた腕ではなく、しっかりとした腕に戻っていた。

 

ユーマはその右手を握りこむ。左手は亜人の拳をしっかりとホールドしている。

 

「さて、熊の亜人の長とやら。少し・・・・・・・・歯を食いしばれよ?」

 

そう言ってユーマはそのクマの亜人の顔面を右の拳で殴った。熊の亜人は数メートル後ろまで殴り飛ばされた。他の亜人は絶句している。そんなのには目もくれず、ユーマはその熊の亜人の頭をつかんで強引に立たせる。

 

「ぐぅぅぅぅぅ・・・・・・・・貴様ぁ!この私に向かってなんてことを・・・・・・・・!」

 

「黙れこの人でなしが。貴様が私に殴られてるのをとやかく言う資格はない!ふんっ!」

 

ユーマは手を放す、そしてその無防備にさらされた腹部に蹴りを入れる。亜人は思い切り吹き飛んだ。壁に当たるがそれでも止まらず、壁を貫通し、外にまで飛んで行った。

 

ユーマもそれに続く。そしてハジメたちもまたそのあとに続く。ハジメたちがユーマに追いつくと、すでにユーマは熊の亜人を一方的に殴っていた。

 

「貴様たちがハウリアに何をしたか、最初は私も知らなかった。私もただこの場所から追い出されたと聞いただけだからな。しかしどうだ?話を聞いてみれば、たかが魔物と同じ力を持っていた子供を隠していたという理由だけで

 

ハウリアたちを迫害し、あまつさえ掟と称し、なんの罪もない奴らを追い出したというではないか。そして今、ハジメたちに対して掟を守らず、一方的に攻撃しようとする。これ一種族の長老だと?ふん、笑わせてくれるわ。」

 

そう言いながらユーマは拳と足による連撃を容赦なく叩き込む。武術は一切使っていないそれは所謂喧嘩殺法だった。無学らをつかまれ殴られ、倒れれば足蹴りにされる。もう見ていられなかった。

 

「そういうことをするお前たちは、お前らを奴隷にして飼殺している帝国兵と、お前たちが忌み嫌う人間と本質は変わらん。現に秩序だ法だど騒いでいるお前たちはその掟を守っていないではないか。そんなものの言い分なぞ通るわけがなかろう。

 

それがまかり通ってる現状がおかしいのだ。ろくに話も聞かず、忌み嫌う人間だからという理由で掟を破る。そんなものに長を名乗る資格などないっ!」

 

ユーマはとどめとばかりに亜人の顔を思い切り殴った。その顔はすでに原型が見えなくなるほど晴れている。殴られたときに脳が揺さぶられたのか、その亜人は立ち上がることはなかった。

 

「お前たちに一ついいことを教えてやろう。お前らは魔力を持ったものを追い出すという習慣があるそうじゃないか。そんなお前たちに朗報だ。お前ら全員、”魔力持ち”だ。感じられぬほど微弱だがな。」

 

亜人の長たちはユーマのその言葉に驚きを隠せていない。今まで自分のやってきたことは何だったのだろうか?彼らはみな一様にそのような表情をしている。

 

「ほぅ?なんだその顔は。信じられないとでも言いたげだな?だが考えてもみろ。この森に漂う霧は魔力を含み、その魔力で方向感覚を狂わせる。だが、その霧と同質の魔力を持つお前らは迷うことはないんだ。

 

ルーツが一緒なのだ。迷う訳があるまい。それともなんだ?お前たちがこの森で迷わない理由がまさか亜人だからとでもいつもりか?あり得ないだろう?貴様らが亜人だからという理由で解決してるなら

 

お前らの種族を奴隷にしている帝国兵はすでに亜人奴隷を使わずともこの森を侵略できるぞ。実験し放題だ。そういう実験をしてもおかしくはない、何でいまだに成功していないのか。理由は単純

 

お前らが死んだもしくは何らかの方法で魔力を抜かれたかするとその魔力はその効力を失う。つまり意味がなくなるからだ。もっとも、あまりにも微弱だから魔力があるということも知られていないようだがな」

 

ユーマはそう言って長老のもとへ向かう。その時の顔は笑っているように見えるが怒りを隠しきれていない、まさに冷酷な笑みであった。長老はアルフレリックをのぞき全員その顔にビビっている。

 

「さて長老諸君。これを聞いてもまだ、ハウリアを迫害するかね?もし掟を優先させるというんであれば私は・・・・・・・・ここに住んでいる亜人を女子供一人も残さず皆殺しにするぞ?

 

お前らが今までいかに愚かなことをやってきたか、それを体に教え込んでやる。・・・・・・・・さぁ、どうする?フェアベルゲンの長老諸君。ハウリアを迎え入れるか、ここで皆殺しにされるか。さぁ、選べ!」

 

そう問いかけるユーマの手は手刀の形をとっている。それはすでに長老たちの眼前にまで突き出されている。しかし長老たちは答えない。

 

「そうか・・・・・・・・この場での死を選ぶか。その潔さは認めてやる。それをもう少しだけハウリアに向けてやれれば良かったのだがな・・・・・・・・では、さらばだ。亜人の長たちよ。」

 

ユーマはその手刀を真上にかかげ、振り下ろす。その手刀は容易に亜人の長の体を両断するかに思えた。しかし、そうはならなかった。現に周りは驚きを隠せていない。それはそうだ。

 

「お待ちください!我々はそんなことは望んでいない!」

 

その死神の鎌を止めたのは、他でもない迫害されたハウリア自身だったのだから。

 




ここまで読んでいただきありがとうございました。今回で訓練まで行ければよかったのですが分量が多くなりそうな予感がしたので分けることにしました。次回はしっかりと訓練を入れようと思います。という訳で次回お会いいたしましょう。さようなら!

光輝君の死んでからの処遇について

  • 死んでから死体がいろいろ利用される
  • 新たな光輝君として生き返らせる
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