ちょっと散歩してたら光と融合することになった件について 作:ほっか飯倉
さて、無事に部屋まで帰ってくることができた俺たちだったが、結局「アグルに協力を仰いで戦力増強」という本来の目的は果たせていないままだった。つまり、俺個人の戦力を高めなければならなくなったのだ。
「……と、いうわけで、これからボクが君にいろいろ教えたげる」
「あぁ……よろしく頼むよ」
なんでも、ウルトラマンの変身者が肉体と技術を鍛えれば、ウルトラマンとして出せる力もだんだん強くなっていくらしい。俺は早速、トーカから教えを受けることにした。
まず最初に行ったことは、体力作りだった。基礎的な体力をつけないと、いざって時に戦えないんだとか。まぁ納得できる、当然の話だ。ただ、彼女は別にトレーナーとかそう言うわけではない。一応経験から多分このくらいがちょうど良いんじゃない? くらいのものらしい。そこでそれは明日から行うことにして、彼女から教わったのは、実戦での動き……つまり組手主体のトレーニングだった。
「じゃあ、いくよ! せーの……」
「うおっ!?」
俺は今、彼女の宇宙船の二階部分……先日俺が寝泊まりした部屋でトーカと組み手をやっているのだが……これがまためちゃくちゃ強かった。パンチもキックも俺より速くて重い。その上護身術や剣道をかじっただけの俺と違って、彼女の戦い方は実に合理的かつ洗練されていた。一つ一つの動きに意味があり、それらが連動している。
「どうしたの? もうへばっちゃった?」
「……まだまだァ!」
正直かなりギリギリだ。どれだけ挑みかかっても往なされ、打ち落とされ、反撃されるのは精神的にクるものがある。だが、ここで諦めたらそれこそ終わりだ。そして、しばらくボコボコにされ、ボロ雑巾のように床に転がされたところで、トーカからのストップがかかった。
「よし、今日はこのくらいにしとこっか」
「……お疲れっした」
「いやー、キミなかなか筋いいね! ボクもけっこう楽しかったよ♪」
「……サディストかよ」
「何か言った?」
「いえっ、何も!」
組み手が終わったあと、俺は汗まみれになって地面に倒れ伏していた。一方トーカは、そんな俺を見て楽しそうに笑っている。……この人、意外とSかもしれない。そして、耳がいい。
なんとか身体を起こして壁にもたれかかる。持ってきたタオルで汗を拭っていると、ストンという音が聞こえた。そちらを見ると、トーカが隣に座ってこちらの様子を窺っている。なんだろう? そう思って問いかけると、
「ねぇ、なんでキミはいっしょに戦おうとしてくれるの?」
という質問が返ってきた。
「なんで……とは?」
「ほら、昨日のさ。アグルに選ばれた人、『戦う義務はない』とか『他の人に任せればいい』とか言ってたよね? そしてキミはそれを否定しなかった。てことは、あの意見はおかしい考え方じゃないって思ってるんでしょ? じゃあ、キミはどういう考え方で戦ってくれるのかな、って」
……どうして、か。少し考える。俺が戦う理由、それは……。
そうだ、彼女には話したはず。
「俺さ、目標にしてる人がいるんだよ。昨日、電車の中で話したよな?」
「うん、聞いてたよ。確か、近所の兄貴分……だっけ?」
頷く。俺はあの人に、ずっと憧れていた。小さい頃から面倒見が良くて、優しくて、勉強もスポーツもよくできた人だった。いつも周りには人がいて、笑顔で溢れていて……本当に素敵な人だったんだ。
「あの人なら絶対に君に協力するだろうな、と思ったからさ。だから戦うんだ」
「ふぅん……そっか」
それからしばらくの間、沈黙が続いた。彼女は黙ってどこか遠くを見つめている。そのまましばらくぼーっとしていたが、不意に彼女が口を開いた。
「キミはどうしたいの?」
「えっ? だからさ……」
「……あ、いや、ごめんね、変なこと言っちゃって。なんでもないよ」
「……そっか。わかった。なら気にしないことにする」
彼女は何を思ったのか、突然妙なことを聞いてきた。一体何が言いたかったのだろうか? まぁいいか、今はそれよりもっと大事なことがあることだし。
「よし……休憩、おしまい! もっかいやるよ!」
「あ、ああ……」
そうして、再び組み手が始まった。今度は、さっきよりもちょっとだけ長く続いたが、終わる頃には帰宅するのもしんどいほど疲れていたし、結局宇宙船で一夜を過ごすことになった。
夜中。ふと目が覚めて起き上がる。周囲を見ても、特に寝る前とは変わりない状況で、不審な点は存在しない。水でも飲んで寝直そうと一階部分に降りると、トーカも目を覚ましていた。
「あれ、トーカも起きたのか」
「うん。なんか目が覚めちゃった」
「ふーん……地震でもあったかな」
「地震、ね……。なんかイヤな予感するなあ……」
トーカはなにか気になることがあるようだったが、俺は水を飲んでからすぐに寝に戻った。かなり遅い時間に目が覚めたからか、とても眠い。明日からランニングもすることだし、早いこと寝とかないと……。
次の日の朝、俺はランニングをするべく外に出た。少し遅れてトーカも出てくる。彼女と俺はともにジャージに着替えているが、俺のものはトーカにもらったものだった。曰く、
「持ってきたけど、サイズおっきくて着てないんだよね
とのこと。
軽く準備体操をしてから、2人で走り始める。最初はゆっくり、徐々にペースを上げていく。しばらく走っていると、見知った顔を見つけた。
「あ、おはよう」
「おはよーございます、先輩! 朝から精が出ますね」
そこには、俺の大学の後輩である湊がいた。彼女も俺たちと同じようにジョギングをしているようだ。
三船湊。彼女は一年ながら陸上部のエースであり、全国大会でも結果を残しているほどの実力者だ。彼女の兄ともども三年やそこらの関わりだが、良好な関係を築けている……はず。
「ところで先輩、そちらの人は?」
「あぁ、彼女は……」
俺はトーカを紹介しようと、俺の後ろに隠れていた彼女を押し出してやる。俺が紹介する前に自分で自己紹介し始めたが。
「はじめまして、ボクはトーカ。よろしく」
「あ、はい、こちらこそよろしくお願いします」
「ところで、お前はなんでこんな時間に走ってんの? 俺らは……まぁ、自主トレみたいなもんだけど」
「私も似たような感じです。最近体が鈍ってきてる気がするので、こうして早朝に走るようにしてるんです。本当は毎日やりたいところなんですけどね……大会が近いので、あんまり走ると怒られちゃうので」
俺が聞くと、湊はそう答えた。
なにげに結構ハードな生活送ってるんだな、この子。
彼女はちらりとこちらを見ると、今度は向こうが質問してきた。
「……で、先輩とこの人、どういう関係なんですか?」
「え? えっと……こないだ知り合ったんだ」
俺はそう答えた。嘘ではない。
「ふぅん、そうなんですか。こないだ知り合ったばっかりの人と朝ジョギングなんてするんですね?」
「いや、そういうわけじゃ……」
「ボクたち、ほんとにこないだ知り合ってさ。今は同じところに寝泊まりする仲だけどね」
「ちょっ!?」
いきなり爆弾発言された俺は思わず焦ってしまう。しかしトーカはそんなことお構いなしに話を続けた。
「昨日は一緒のお風呂入ったし、同じ屋根の下で寝たし、これからもいろいろする予定なんだ~」
「へぇ……そうなんですか」
やばい。湊さんの目が怖い。
「先輩最低です。破廉恥です。そんな、行きずりの人と一夜を共にするなんて……ぐすん」
「おまっ、人聞きの悪い! トーカも誤解されるような言い方……って、あれ?」
慌てて誤解を解こうと必死に説得しかけたが、二人がクスクス笑っているのに気付く。……嵌められた? 二人はこちらを見て笑っている。イラッ。
「おい、からかっただけかよ!」
「あはは、ごめんごめん。キミが慌てるのが面白くてさー」
「そうですよ、先輩リアクション面白すぎ……!」
「悪趣味な奴らめ……!」
「「あははははははは!」」
腹を抱えて笑う二人を見ていると、なんだか怒るのも馬鹿らしくなってきた。まぁ、楽しそうだしいいか、もう。というか仲良くなるの一瞬かよお前ら……。
そのまま三人で談笑していたその時、グラグラと地面が揺れる。地震か? かなり強い。バランスを崩して転びそうになった湊を支えながら俺は言う。
「うお……これは、ちょっと大きいな」
「わわわっ……うん、確かに」
「きゃっ! 先輩、ありがとうございます」
「おう、気にするなって」
「なんか、昨夜も揺れてましたよね……?」
湊が不安そうな顔で言った。スマホで確認してみると、確かに昨夜地震が確認されている。……やっぱり地震か。多分、夜中に目が覚めたのもそのせいだろう。
不安げな湊を励まそうとしたとき、さらに強い揺れが俺たちを襲った。今度はすぐに収まることなく、しかもだんだん揺れが大きくなっていく。まるで、地面が割れそうになっているかのように……。
そして、それは現れた。全身は茶褐色、頭に三日月のような角と鼻先に一本角、胴体には鱗を持つ。その尻尾は太く長大だった。凶悪な風貌の口元から覗く牙は鋭く、恐竜を思わせる。
その怪獣は雄叫びを上げ、街の方に向かっていく。
「まずい、このままだと街に出るぞ! トーカ、俺行ってくる!」
「わかった! 頼人、お願い! 湊ちゃんはここから離れて!」
「え、えっ?」
混乱して右往左往している湊を尻目に、俺はトーカに別れを告げてエスプレンダーを取り出すと腕に装着し、叫んだ。
「ガイアァッ!」
俺は光に包まれて、ウルトラマンへと姿を変える。街を守るように立ちふさがった俺は、構えを取ると突進してきた相手を受け止めた。衝撃で足元に亀裂が入る。
──通すものか、ここから先へは行かせない!
「でぇあッ!」
反撃の蹴りを食らってよろめいた怪獣は怒ったのか、再び咆哮すると今度はこちらに掴みかかってきた。俺はそれをいなすと、逆に相手の首筋に手刀を叩き込む。だが、表皮の強靭さ故か怪獣のタフネス故か、さほど効いた様子がない。怪獣は唸るとこちらを睨みつけてくる。ダメージはあまりなかったようだが、まずは注意をこちらに向けることは出来た。
今度は、と俺がパンチを繰り出そうとしたとき、激しい衝撃が俺を襲った。吹き飛ばされてゴロゴロと転がりながらその正体を見る。
尻尾だ。俺を打ち据えた怪獣の尻尾は鞭のようにしなりながら再びこちらに迫って来る。咄嵯にガードしたおかげで直撃は免れたが、それでもかなりのダメージを負ってしまった。なんとか立ち上がり、今度はキックを繰り出す。しかし、やはり効果は薄い。
ならば、と連続で拳打を浴びせるが、ダメージはあるものの決定打にはなっていないようだ。
怪獣の反撃の尻尾を距離を取って躱し、次は光刃を撃ち放ち攻撃する。こちらは明確に怪獣の強靭な皮膚を切り裂き、傷口から血が流れ出た。
やはり光の技はただ殴る、蹴るよりも効果的な攻撃ができるらしい。飛び道具として使えるというのもまた助かる。しかし、その有利も長くは続かなかった。怪獣は再び突撃してくると、鋭い爪を振りかざしてきたのだ。俺は両腕でそれを防ぐが、強烈な一撃を受けて吹き飛ばされてしまう。そのパワーはこれまでの戦いで経験したものとは段違いだった。
「ぐあぁっ!?」
何とか受け身をとったものの、そこに追い打ちをかけるようにして振り下ろされた足の踏みつけを避けきれず、地面に叩きつけられてしまった。
「がっ……」
どうにか起き上がろうとするが、怪獣の追撃の方が早い。またもや踏みつけられそうになるが、ギリギリのところで回避に成功する。しかし、さらなる追撃の尻尾による痛烈な打撃を受けてしまい、地面を転がることになった。
怪獣は立ち上がる暇すら与えてくれず、何度も俺を踏みつけては引き裂こうとする。痛みに耐えながらも必死に転がって躱し、光刃で応戦するが、徐々に追い詰められていく。そして、ついに限界が来た。
なんとか立ち上がった一瞬の隙を突かれて組み付かれると、そのまま押し倒され、馬乗りにされてしまった。そのまま首を絞められる。
朦朧とする意識の中、必死に抵抗を試みるが怪獣の力は強く、逃れることができない。やばい、このままだと……。
怪獣の顔面に向けて光刃──良い加減になんか名前つけよう、ガイアスラッシュとでも呼ぼうか──を連射して怯ませ、なんとか拘束から抜け出す。両足で蹴り飛ばした怪獣が少し後退した。
──よし、今のうちに……! 俺は飛び起きると、一気に駆け出して距離を詰める。迎撃しようと振るってきた右腕を、俺はしゃがみ込んで攻撃をやり過ごすと、低い姿勢からの体当たりを食らわせた。鱗が刺さって若干俺も痛かったが敵にはそれ以上のダメージが入ったらしくよろめく。その頭部にパンチを何度も叩きこみ、最後に全力のパンチを浴びせてやる。
「おらァッ!」
バキッ!という音が鳴り響く。
渾身の力だけでなくガイアの光も込めた拳はその特徴的な角を叩き折ることに成功したのだ。頭蓋骨の延長であろう角を砕かれた怪獣は苦悶の叫び声を上げ、激しく暴れまわった。
このときの俺は知らなかったことだが、この頭部の三日月の角は超振動波を放って大地を掘り進むという重要な役割を持つものだった。それが破壊されたことで、もはやこの怪獣は主な移動手段を失い、目の前の敵を倒さねばならなくなったのだ。
「グオォオッ!!」
怒り狂った怪獣は猛然と突進してきて、その巨大な前足でなぎ払おうとする。
俺はその攻撃を受け止めると、両手を使って怪獣の身体を持ち上げた。そのまま勢いよく投げ飛ばす。怪獣は背中から倒れ込み、大きなダメージを受けたようだ。
続けて、仰向けからうつ伏せになりながら尻尾を振るってくる。俺はそれを脇に抱えて受け止めると、振り回して再び投げ飛ばし、倒れたところにさらに追い打ちをかけた。
「これで決める!」
俺はいつかイメージの中で見たガイアの第二の必殺技―――クァンタムストリームを怪獣に対して撃ち放った。十字に組んだ腕からあふれ出す赤い閃光は一直線に飛んでいき、倒れている怪獣の折れた角を灼いて致命的なダメージを与える。怪獣は断末魔の声を上げつつゆっくり動きを止め、絶命し、爆散した。──俺の勝ちだ。
「頼人ー!」
「先輩!」
「トーカ、湊! 大丈夫だった?」
変身を解いた俺を見つけたのだろう、遠くの方で見ていた二人がこちらに走ってくるのが見える。
「うん、湊ちゃんはちょっとコケて肘すりむいちゃったけど、それ以外は問題ないよ」
「そっか、よかった……」
ほっと一息つくと、トーカの後ろにいた湊が俺の服を引っ張ってきた。
「先輩、さっきのどういうことなんですか……?」
さっきの、というのは、俺の変身のことだろう。まさか噂の巨人の正体が自分の知り合いだったなんて、考えもしなかっただはずだ。俺は眉をひそめて不安げな顔をしている彼女に説明することにした。
「それは、まあ……話せば長くなるんだけど、とりあえず家に帰ろうぜ。話はそこでするから……トーカ、いいよな?」
「キミがいいならいいけど……」
「え、いいんですか? だって、秘密にしてたんじゃ……」
確かに、普通は黙っていたかもしれない。変にバレたらめんどくさいことになりそうだから。だけど、もう隠し通せる段階じゃない。目の前で変身したし。それに、あの人ならきっと変に誤魔化さずに話してくれるだろうから。
もちろんそれだけじゃない。俺のような愚か者とは違って、彼女は信じられる。信じている。
「湊なら、下手に言いふらしたりしないって信じてるからな」
そう言うと、彼女は少し驚いたような顔をしたが、すぐに笑顔になった。
「はい、もちろんです!」
「……よし、そういうことで、一回俺の部屋戻ろうか。それともトーカんとこにするか?」
「あ、先輩のお部屋、行ってみたいです!」
「あ、そう?」
「じゃあ、ボクもついてくね」
そんなこんなで、俺たちは三人で一緒に帰宅することになったのだった。