ちょっと散歩してたら光と融合することになった件について   作:ほっか飯倉

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敵か味方か、謎の組織

 

 

 

数十分後、俺は湊を連れて住んでいる部屋に帰ってきていた。ちなみに、トーカは一旦着替えるために宇宙船に戻っていったのでいない。

 

「へぇ~、ここが先輩のおうちですかぁ……」

 

キョロキョロと見回す彼女の姿はとても新鮮だった。今までは大学の後輩として、あるいは友人の妹としてしか見ていなかったので、こうして女の子として見るとなかなか可愛い。

 

妙なことを考えていたせいか、いつの間にか俺は湊のことをじっと見つめていた。すると、俺の視線に気づいたのか彼女が俺の顔を見上げてくる。やべ、ぼーっとしてたな、と俺が自覚するかどうかのタイミング。

 

「先輩、どうしたんですか? そんなに見つめられると、ちょっと照れちゃいますよ……」

 

などと頬を赤らめて言った。

 

正直、めちゃくちゃ動揺した。今更ながら自分が美少女と二人きりでいるということを意識してドキドキしてくる。しかも、自宅で、だ。

 

落ち着け!相手は後輩で、友達の妹だぞ。冷静になれ、俺! 

 

「……あ、ああ、悪い。それよりほら、早く座れよ。なんか飲み物持ってくるから」

「はーい♪」

 

かろうじて冷静になった俺の言葉に返事をして、湊はクッションマットの上にちょこんと腰を下ろした。俺はキッチンの冷蔵庫から麦茶を取り出して紙コップに注ぎ、彼女のもとへ戻る。

 

「お待たせ」

「いえ、全然待ってませんよ。ありがとうございます!」

 

湊が嬉しそうな顔で紙コップを受け取る。そしてトーカを待つ間、二人でしばらく他愛のない話をした。といっても、俺は大体聞き手に回って、湊が一方的に喋っているだけなのだが、それでも楽しかった。こういう平和な時間がいつまでも続けばいいのに……。

 

だが、現実は残酷で。その願いは叶わないことを俺は知っている。なぜなら、この世界には奴らが潜んでいるからだ。怪獣のような凶悪な生命体。そして、根源的破滅招来体。それらが人類を襲おうとしている。

だから、俺は戦わねばならない。たとえそれがどんなにつらい戦いであっても、逃げるわけにはいかない。そうだ、あの約束のために……。

 

「──! 先輩!? 聞いてますか?」

「え、あ、ごめん。なんだっけ?」

「もう、さっきからどうしたんですか? トーカちゃん遅いなって言ってたんですよ!」

「あ、あぁ、そういえばそうだな。確かにそろそろ戻ってきてもおかしくないんだけど」

「先輩がそう思うならやっぱり遅いんですね……」

 

湊は心配そうに窓の外を見た。俺もつられて外を見る。しかし、特に変わった様子はない。強いて言えば、空が曇り始めたぐらいだろうか。

 

「……ちょっと心配だな。雨降るかもだし、迎えに行ってくる。ここで待っててくれ」

「わかりました、いってらっしゃい」

「行ってきます」

 

俺はそう言い残して、傘を取りつつ部屋を出た。階段で一階まで降り、アパートを出る。そのままトーカの宇宙船まで行こうとして、ふと立ち止まった。──何か、嫌な予感がする。 俺は辺りを見回してみるが、それらしいものは見当たらない。しかし気のせいにして片付けることはできず、焦燥感に駆られた俺は地面を蹴って走り出した。──急がないと、トーカのところに! 

 

 

 

 

 

走ること十分ほど、ようやく目的地が見えてきた。宇宙船のすぐ近くまで来た俺は、見たことのない制服を着た二人の男に絡まれているトーカを見つけた。

 

「だから、なんども言ってるじゃないですか! ボクが宇宙人とか、訳わかんないです!」

「しつこいぞ! こっちはもうお前の正体に気づいているんだ!」

「そうだ、俺達はお前を連行する義務がある!」

「ほんとに……やめて下さい!」

 

あまりのしつこさに苛立ったのか、トーカが掴みかかってきた男の片割れを突き飛ばしてしまう。それを見たもう片方の男が、

 

「抵抗したな!」

 

と叫んでトーカに近未来的な意匠の拳銃のようなものを向ける。駆け寄った俺は咄嗟に二人の間に割って入り、両手を広げて庇うような姿勢をとった。

 

「あんたら何やってんだよ! 彼女が何をしたっていうんだ!」

 

俺の声を聞いた男たちは一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐに元の態度に戻った。

 

「ふん、貴様は関係ないはずだ。どけ」

「どかない。トーカは俺の友達だ。手荒なことはさせない」

「邪魔をするなら容赦はしないぞ。いいか、これは我々に与えられた任務なのだ。そこを退け!」

「任務!? 人にしつこく絡んで、しまいには道具で脅して連れてくような任務受けてるやつのことなんか信用できるかよ!」

「うるさい! 妨害するなら貴様も危険分子として連行するぞ」

「やってみろよ」

 

俺と男たちが睨み合う。緊迫する空気の中、先に動いたのは相手側だった。

 

男の拳が俺の顔面を狙う。俺はそれを左手で打ち払った。反撃として傘を叩きつけようとするも、その前に足を払われる。俺は体勢を崩し、地面に倒れた。転がって距離を取るも、即座に追撃の爪先が飛んでくる。

 

「ぐえっ……」

 

かろうじて腕を差し込んだが、それでも衝撃に思わず声が漏れた。だが、痛みに耐えながら立ち上がる。この程度の痛み、堪えられなければこの先やっていけない。

 

「ほう、一般人にしてはなかなかやるようだな。いや、お前も一般人ではないのか?」

「知るかよッ!」

「威勢だけはいいな。だが、それもいつまで続くかな?」

 

男は余裕の笑みを見せる。その視線は、俺ではなく、今のゴタゴタの隙にもう片方の男を蹴り倒した後ろのトーカに向けられていた。

 

「動くな! 少しでも妙な動きをしてみろ、この宇宙人の命はないぞ!」

 

銃口がトーカに向けられた。彼女は再び射線が自らを貫いているのがわかったのか、唇を強く噛み締めてじっとしている。

 

「やめろッ!」

「動くなと言っただろう。今度こそ撃つぞ。まあ、殺しはしないが」

 

そう脅してくる男。クソ、こういうときに変身できれば……! そう思ったが、一度帰ったときにエスプレンダーを外して置いてきてしまい、今手元にない。それに、ガイアになっても巨人の姿ではトーカを守ることはできない。手詰まりか……? 

 

俺がなにか手がないかと模索している間に、トーカが倒した男が立ち上がり、手にした銃? のグリップでトーカの頭を殴りつけた。彼女もまたどうやってこの場を脱するか考えていたのか、咄嗟に反応することができずに殴られ、倒れ込んでしまう。

 

「これで貴様だけになったが、どうする?」

 

勝ち誇ったような顔で、男は俺を見つめる。いや、実際勝ち誇っているのだろう。しかしその目からは油断のようなものは見えない、おそらくだが。

 

「…………どうするも何も、選択肢なんてないじゃないか……わかったよ」

 

俺は観念したように肩を落とし、両手を上げる。それを見た男は不敵な笑みを浮かべると、俺に近づいてきたかと思うと、腹に思い切り拳を突き立てた。遠のいていく意識のなかで、持ち上げられたような感覚がしたような、気が……。

 

 

 

 

──どれくらい時間が経っただろうか。目を覚ますと、そこはどこかの個室だった。俺はベッドに寝かされていて、それ以外には便器が一つ。他には特になにもない。窓もなく、ドアの覗き穴からの光が外との繋がりを感じさせた。──独房、というやつだろうか。俺は身体を起こし、壁の方に寄って座る。そのとき、ちょうどドアの向こうから足音が聞こえてきた。誰かが来たようだ。俺は身構えつつ、扉を見据える。すると、そこに現れたのは、一人の警察官のような姿の男性だった。

 

「大丈夫かい? すまないね、こんなところに寝かせてしまって。今医務室はちょっと行かない方がよかったから、君は」

 

彼は優しく微笑むと、手を差し伸べてきた。俺は警戒しつつも、彼の手を握る。

 

「ありがとうございます。あの、ここはどこなんですか?」

「その前に、気絶する前のことを覚えているかい、君は?」

「はい、覚えています」

「そうか……。まずは僕からも謝罪を。彼の暴走に巻き込んでしまってすまなかった。悪いやつではないんだが、少し思い込みが激しいところがあってね、あいつは……」

「いえ、いいんです。そんなことより、トーカは!?」

「安心してくれ。今は司令と直接話しているはずだよ。もともと彼女には穏便に話を聞きたかっただけなんだ」

 

よかった。とりあえずは無事のようだ。……いや、よく考えれば、俺だって穏便に済んだとは言い難いか。

でも、少なくとも命の危険はなくなったわけだし、それは喜ぶべきことだ。

とにかく、トーカのことが心配だ。

早くここを出て、彼女と会わなければ。

 

「あの、トーカに会わせてくれませんか? というか、帰らせてほしいんですけど」

「ああ、もちろんだとも。だけど、その前に君に用があるんだよ。ついて来てくれるかな?」

 

そう言って男性は歩き出す。俺もその後を追った。

長い廊下の先、そこにあったエレベーターに乗り込む。

俺は黙ってついていく。エレベーターはさらに下へ向かい、やがて着いたのはかなり深い階層だった。さっきの階が高層階でなければ、だけど。

 

「こっちだ。この先の司令官室で話しているはずだよ」

「はい」

 

そう言いながら、彼はドアをノックして入室の許可を求める。すると、低い男性の声で返答があった。

 

「失礼します。連れて参りました」

「ご苦労。下がってくれ」

「はっ」

 

男性が部屋から出ていき、俺だけが中に通される。

中は広く、大きなデスクがあり、その向こうに背の高い男性が座っていた。

 

見たところ年齢は40から50代、黒々とした髪はやや焼けて見え、彫りの深い顔は体格も相まって岩山のような印象を受ける。服装は例の見慣れない制服だが、少し開けた襟元からはワインレッドのシャツが覗いている。

 

「よく来たな。私はこの基地、ひいてはここを拠点とする対巨大生物部隊であるXIGの司令官をやっている風室という者だ。よろしく頼む」

「よろしくおねがいします。ところで、トーカは?」

「ああ、彼女なら先程部屋を出ていったよ。すぐ戻って来るのではないかな」

「……なるほど」

 

俺はひとまず安堵する。しかし、風室の方はなにか考える素振りを見せた後、俺に向き直ってデスクの正面にあるソファを指し、座るよう促した。俺は促されるまま、立派な革張りのソファに腰掛ける。そして、向かい合う形で座った風室に問いかけた。

 

「それで、俺を呼んだ理由というのは……?」

「ああ、それなのだが、実は君にも聞きたいことがあってね……。まず、トーカさん、彼女が宇宙人だということは知っているかね?」

「はい。知っています。彼女から聞いたので。それがどうかしたんですか?」

「いや……、まぁいい。では次に、君は地球人類で間違いないんだね?」

「はい、そうです」

 

その質問に加えて幾つか質問をし、俺の回答を聞いた風室は、顎に手を当て、ふむ……と呟く。それからしばらく何かを考えていたようだったが、やがて俺の方を向いて言った。

 

「……なるほど。最後に一つ。──あの巨人、ウルトラマンについてなにか知っているか?」

 

内心ゾッとした。彼らは俺があの巨人になっていることにも気づいているのか? それとも本当に知らない? どちらにしても、今すぐ真実を彼らに教える気にはなれなかった。

 

「ウルトラマン? いや、知りませんね……」

「……わかった。時間をとらせて悪かったな。もう帰ってもいいぞ」

 

俺は一礼し、退出する。扉が閉まる直前、俺はちらりと振り返り、風室の顔を見た。──どこか悲しげな表情をしているように見えた。

 

「そうだ、最後に。私の部下がすまなかった。彼らに対しては然るべき処分を下した」

「……そうですか」

 

俺はそれだけ言うと、司令室を後にする。部屋を出ると、そこにはトーカが立っていた。彼女は俺を見ると、パァっと顔を輝かせ、駆け寄ってくる。

 

「頼人? ……よかった、無事だったんだね!」

「ああ。そっちこそ大丈夫か?」

「うん! ボクは平気だよ」

「そっか、よかった」

 

どうやら本当に無体な扱いはされていないらしい。少なくとも見える範囲には傷はないし……。そこまで確認してふと気付く。彼女と出会ってまだ数日なのに、俺はこの子に相当入れ込んでるらしい。彼女のことが心配になって仕方がない。

 

「こっちこそ、キミが無事でよかった!」

「どうも。……さて、とりあえず帰るか。湊も待ってるしな」

「そうだね、じゃあ急がないと」

 

俺は彼女に手を差し出す。その手を握り返してくる彼女と一緒に、俺は歩き出した。

 

「あっそうだ、ねえ頼人」

「なに?」

「さっきは庇ってくれてありがとね」

 

そう言って笑うトーカはとても嬉しげで。

そんな表情が俺に向けられていると思うと、なにかむず痒いような、そんなふうに感じた。

──俺にそんな表情を向けられる価値はないのに、俺に好意を向けてくれている、そう勘違いしそうになる。

 

 

 

 

 

 

現在地を教えてもらったところ、なんとこの基地は俺の住む町の近くにあることがわかった。これなら歩いてでも帰ることができる、という位に。

そして現在、俺たちはその帰り道を歩いている。雲の晴れ間から覗く朝日はすっかり昇っていて、拉致されてから少し時間が経っていることがわかる。

 

「湊も部屋で待ってると思うし、ちょっと急ごうか」

「うん」

「……そういえば、トーカはなに聞かれたんだ?」

「ん? えっとね……、ボクがほんとに宇宙人なのか、とか。あとは技術の提供を頼めないか、とかだったかな。まぁボクも詳しくないから技術の提供なんてできないんだけどね」

 

苦笑いを浮かべるトーカ。それはよかったというのかそうじゃないのか……。今考えてわかることじゃないか。

 

「そうかぁ。まぁ、無理に答える必要もないんじゃないか?」

「それもそうだね」

 

そして歩くことしばし。ようやく俺の住むアパートが見えてきた。

 

部屋に戻ると、俺が出ていったときと同じところに座ってスマホを見ている湊の姿があった。明らかにそわそわしていた彼女はこちらに気づくと、立ち上がり駆け寄ってくる。そして、そのままの勢いで俺に抱きついた。

 

「うわっ、ちょ……」

「先輩! トーカさんも、二人でなにやってたんですか! 心配したじゃないですか、もう!」

 

なんとか受け止めた彼女を咄嗟に引き離そうとして、やめた。──泣いてる。

よく見ると小刻みに肩が震えていた。

俺は黙って彼女の頭を撫でる。すると、徐々に嗚咽を漏らし始めた。

 

「せんぱいっ、ほんとにしんぱいしたんですよ……」

「わ、悪かった。もうなんとかなったから」

「うぅ……ばか……」

 

俺にしがみついたまま泣き続ける彼女の頭を、ゆっくりと撫でてやる。しばらくそうしていると落ち着いたのか、顔を上げて俺から離れた。

 

「すいません、取り乱しました」

「いやいいよ。それより、早く飯作ろうぜ。腹減っちゃったし」

「はい、わかりました。トーカさんは?」

「ボクもお腹減ったな。準備手伝うよ」

 

そうして作った遅めの朝食を食べ終え、俺たちは本題について話し合う。すなわち、俺が巨人──ウルトラマンだったこと。

 

トーカに関しては、彼女が宇宙人であることも含めて全て話してしまった方がいいだろうな。そう思った俺はまずトーカの方を見る。

 

「トーカ、全部話すか?」

「……うん、いいよ」

「わかった。じゃあ、まずは俺があの巨人になったところからだな──」

 

俺は、あの日の出来事を話し始めた。

 

「──そんなことがあったんですか」

「信じられないかもしれないけど、事実なんだ」

 

俺があの巨人になった経緯を話すと、湊は案外すんなりと信じてくれた。いや、俺が変身するとことか見たし、そもそも疑ってはいなかったみたいだけど。

 

「いや、信じますよ。だって先輩が嘘つくわけありませんし」

「ありがとう。そう言ってくれて嬉しいよ」

 

俺は思わず笑みをこぼしてしまう。本当に後輩に恵まれてるな、俺は。

 

「それで? これからどうするんです?」

「どうする、とは」

「それは、怪獣とか、例のXIGとかいう人たちとか……」

「ああ、それな。でもなぁ、怪獣は向こうから来ないとどうしようもないし、XIGの方はぶっちゃけ関わりたくないしな……」

 

正直、あの人たちはイマイチ信用できていない。第一印象が悪かったこともあるが、彼らの目的が未だにわからないというのが大きい。対巨大生物部隊とか言ってたし、多分敵対するほど目的に差はないとは思うんだけどな……。というか聞いておけばよかったな、あの場で。

 

「ということで、俺たちの方針としては、変わらず専守防衛ってことで」

「ボクに異論はないよ。地球の怪獣にしろ根源的破滅招来体の手先にしろ、待ってれば来るだろうしね」

「了解です」

 

こうして方針は決まったが……。問題は山積みだよな、これ。例えば完全に敵のタイミングでしか戦えないあたりとか。それでもそうするしかないというのが辛いところだ。

現状、戦えるのは俺だけ。さらに、敵を探し出す方法もないのではどうしようもない。なんとか索敵だけでも出来ればいいんだけど……。

 

 

 

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