というわけで、真打登場!
ええ
落差はひどいです
くらいものの少し前のお話
風邪ひかないでね?
私はダイワスカーレット!
今年中学一年生になるわ!
私も一応ウマ娘になるのだけど、あんまり自覚がないのよねぇ
確かに耳はあるし、尻尾もあるけど
そんな事より、私には尊敬する人が2人いるの!
1人は従姉妹のお姉ちゃんのアグネスタキオン!
すごい物知りで、色んな事を教えてもらってたの!
でもだからって走るのが苦手な訳じゃないのよ!
昔ウマ娘のレースに出てた人にも圧勝してたもの!
物知りで、速く走れて、とっても優しいの!
いつも私のことを「スカーレット」って呼んでくれて、家に遊びに行くと私のわがままも許してくれたのよ
うちじゃ、全然走らせてくれないし、同級生に合わせろって
でも、そんな事をしても私にはお友達はいない
だって、手加減してるって言われるもの
でもタキオンお姉ちゃんはそれをいつか解決するって研究してるらしいの、凄いでしょ?
でもお姉ちゃんの一番凄い所は、仲の良い男の人がいる事かしらね
2人が一緒に生活してるのを見てると、信頼し合ってるんだなぁっていつも思う
で、もう1人の尊敬するのがお兄ちゃん!
お姉ちゃんの相手だからお兄ちゃんなのよ!
いっつも美味しいご飯を作ってくれて、私の愚痴なんかも嫌な顔一つしないで聞いてくれるのよ?凄いでしょ?
それに私のお洋服も何着か作ってくれたり、お姉ちゃんとお揃いの白衣もプレゼントしてくれたの!
しかも裏に白糸でwithアグネスタキオンって刺繍してくれたのよ!
私の宝物なんだから!
私が走る時のアドバイスもしてくれてて、えっと何だったかな?
あ!そうだ
メモがあったのよ!
『コーナー加速』『直線加速』『コーナー回復』『直線回復』にこの前教えてくれた『鋼の心』だったかしら
いっつも野良レースでは助かってるんだから!
皆はお兄ちゃんはおかしいって言ってるけど、私にとっては素敵なお兄ちゃんなの!
同級生でライバルのウオッカとの模擬レースだって負け無しなのはお姉ちゃんとお兄ちゃんのおかげなのよ!
特にお兄ちゃんは遊びに行くと、私の気付いてないところまでキチンと指摘してくれるの!
で、それを直したらもっと速くなるの!
後は私のお料理とお裁縫の先生でもあるのよね
うう、女子としてはお兄ちゃんでも男の人に負けるのは結構ショックだけどね
最近はウオッカも私に競う様に習い始めたけど、機会があったらお兄ちゃんに一緒に教えてもらおうかしら?
信じられない!
お姉ちゃんとお兄ちゃんが引っ越しした事をパパもママも黙ってたのよ!
でも、お姉ちゃんとお兄ちゃんがまさか噂の『現代のシンデレラ』だったなんて、思わなかったわよ!
うぅ、なんか複雑
私だけのお姉ちゃんとお兄ちゃんが他の人に取られたみたいで、ショックだなぁ
でも、今度の夏休みにお兄ちゃんの家に遊びに行こうかしら
なにそれ!
もう、最悪!
パパとママは会いに行かないほうが良いって言うのよ!
どうして?って聞いても答えてくれないし、ああもぅっ!
お姉ちゃんとお兄ちゃんがお世話になってた町内会長さんから、お兄ちゃんの家の電話番号をもらったの!
私の事も覚えていてくれたみたいで
「タキオンちゃんの妹ちゃんじゃないか!」
だって!嬉しかったなぁ
明日お兄ちゃんに電話してみようかな?
もしもし!
お兄ちゃん!お久しぶりです
あ!やっぱり分かってくれたんですね、嬉しいです!
あ、はい
元気にやってますよ?
え?脚ですか?
確かにちょっとだけ違和感があるような気もしますけど
あ、そうなんですか、分かりました。ありがとう、お兄ちゃん!
あ、タキオンお姉ちゃん!
うん元気にやってるわ!お姉ちゃんの妹だもの!
え?そんな、別にお姉ちゃんとお兄ちゃんが悪いわけでもないでしょ!
うん、うん
トレセン学園見学できるの!
でも私そんなに優秀じゃないけど
え!お兄ちゃんの知り合いに生徒会長と理事長がいるの!!
お兄ちゃん、どんな事したらそんな事になるの?
うん!勿論行きたい!
あ、そうだ。もう1人は無理、よね?
え!良いの!お姉ちゃん、お兄ちゃんありがとう!
うん、うんまたね
じゃ、あいつにも知らせようかしら
もしもし
ええ、スカーレットよ
今週の土日時間ある?
そっか。アンタトレセン学園に興味あったわよね?
うん、私のお姉ちゃんとお兄ちゃんが見学に来ても良いって
ああ、もう!少しは静かにしなさいよ、全く
そりゃ、アンタの気持ちも分かるけどね
ええ、じゃあ土曜日の昼に駅でね
ダイワスカーレットとウオッカはトレセン学園の最寄駅に来ていた
「いよいよか、緊張するなぁ」
「とりあえずお兄ちゃんの家に行くわよ?」
「ああ。やべぇ緊張してきた」
この時、スカーレット達からマスコミの目を逸らす為に、理事長秘書であるたづなが駅の逆方向に関係者を誘引していた
2人は地図に指定されたマンションの前に来ていた
「おっきなマンションねぇ」
「いや、お前の兄貴って金持ちなのか?」
このマンションの契約をしたのはここ選出の国会議員の代理人なのだが、2人が知るはずもない
「えっと」
スカーレットはメモにある部屋番号をコールする
『ハロー、スカーレットか?』
「お兄ちゃん!うん、友達も連れてきたの!」
『相変わらず、元気だねぇ
ともかく部屋までおいで?』
「はーい」
「お、お邪魔します」
部屋に通された2人は男の歓迎を受ける
「よ、スカーレット。よく来たな」
「お兄ちゃん!」
スカーレットは迷わず彼に勢いよく抱きつく
「お、おい。スカーレット
って、マジか」
ウオッカは目を疑った
スカーレットは認めたくは無いが、ウオッカよりもウマ娘としての能力は上である
そのスカーレットが勢いよく抱きついたのに、目の前の男は勢いを自身の回転で殺しきったのだ
それだけでもこの人物が並の人物でないことがわかるというもの
「このおてんば娘め」
「ごめんなさーい」
「あ、初めまして
ウオッカと言います。今回はお世話になります!」
「スカーレットの兄って事になるのかな、宜しく」
「素敵な部屋ね」
「スカーレットとウオッカくんは悪いが同じ部屋で構わないか?」
「あ、大丈夫です」
「えー、お姉ちゃんかお兄ちゃんの部屋はー」
「タキオンは交渉しな。俺は却下」
「・・・どうしても?」
「どうしても」
「うー」
ウオッカは更に驚いた。ウオッカの知るダイワスカーレットというウマ娘は礼儀正しく、常に冷静であった
こんなにも家族の前だと違うのか、と驚く他ない
「しっかし、スカーレット。お前、よく鍛えてるな
お兄ちゃんびっくりよ?」
「ふふん。でしょ?」
「ウオッカくんは差し希望かい?」
「え、あ、そうですけど」
「ふむ、スカーレットは先行で
ウオッカくんは差し。ルドルフかねぇ」
「どうしたの?お兄ちゃん」
「いやな、折角トレセン学園に行くのに、土産の一つも無いんじゃ面白くないだろ?現役のウマ娘に話をと思ってな?」
「え、いいの?」
「可愛い妹分とその友達の為なら、多少は考えるさ」
「やったー!!」
「あ、ありがとうございます!」
「とりあえずそこの部屋に荷物置いてこい
そしたら、飯だ」
「お兄ちゃんのご飯!
行くわよ、ウオッカ!」
「お、おお」
「大したもんは作れんが、とりあえずビーフシチューだ」
「お兄ちゃん、私の好物覚えててくれたんだ!」
「さてなぁ」
「「いっただきまーす」」
「やっぱりお兄ちゃんのビーフシチュー最高!」
「いや、美味しいっす」
スカーレットとウオッカの食べっぷりに終始彼は笑顔だった
「んじゃ、トレセン学園見学行くぞー」
「はーい!」
「宜しくお願いします」
そして、通用門前に到着した
「凄い警備」
「ああ」
スカーレットとウオッカは過剰とも見えるトレセン学園の警備の厚さに驚いていた
彼は警備員の詰所に頭を下げていた
あちらも苦笑していたが
「すまない。待たせたかな?」
「悪いな、ルドルフ」
「何、他ならぬ君からの頼みだ
それに来年ここに来るかもしれないのだろう?
気にする事はないさ」
「助かる」
スカーレットは相手が誰か分からなかったが、ウオッカは知っている様で目を輝かせていた
「あ、あの、シンボリルドルフ先輩ですよね、トレセン学園生徒会長の。ウオッカと言います、初めまして!」
「ダイワスカーレットです。タキオンお姉ちゃんがお世話になってます」
「人気者は辛いねぇルドルフ」
「からかわないでくれ
ウオッカくん、ダイワスカーレットくん、ようこそトレセン学園に
改めて自己紹介をしよう ここの生徒会長をしているシンボリルドルフだ。宜しく」
ルドルフとウオッカ、ダイワスカーレットのやり取りを彼は微笑みながら見ていた
そして
「此処が理事長室だ」
「理事長、見学の2名を連れてきました」
「許可!入りたまえ!」
「は、初めまして。ダイワスカーレットです」
「ウオッカです。宜しくお願いします」
「歓迎っ!当学園の理事長秋川やよいだ!
今日と明日の二日間とはいえ、しっかり見ていってほしい」
「はい!」
「ありがとうございます!」
「理事長、この娘達の為にありがとうございます」
「?何かあるのかい」
彼が理事長にお礼を言っているが、ルドルフには心当たりがない
「気にすんなって」
理事長の元を辞した4人は
「私だ、入って良いかな?」
「ああ」
「失礼するんじゃよ?」
「失礼します」
「お、お邪魔します」
「やぁ、スカーレット!元気そうだねぇ」
「お姉ちゃんっ!!」
生徒会室に来た
そこにはナリタブライアンにエアグルーヴ、そしてダイワスカーレットの姉であるアグネスタキオンがいた
早速スカーレットは大好きな姉に抱きついた
「やれやれ、大きくなったと思ったら、気のせいかな?」
「俺にもおんなじ事してるんだぞ、タキオン?」
「困ったものだねぇ」
口でこそ、文句を言っているが、タキオンも彼も笑顔だった
「驚いたな」
「ふん」
「正に良き姉と兄といったところだろうな」
三者三様の反応を見せる生徒会メンバーだった
「・・・・・」
ウオッカは少しだけ羨ましそうだった
そして、それをこの男が見逃すはずもなかった
「ふふ、ウオッカくん。何なら、二日間の間だけでも甘えてくれても良いんだぞ?」
某ウマ娘が
「うう〜、私も甘やかしたいです」
と羨むほどに、甘やかすのが上手い男が動いた
敢えてスキル的な表現をするなら
『甘やかし◎』
と言った所だろう
そして、これは頑張っている相手にほどささるのだ
「うえっ!い、いや、その」
ウオッカは慌てた
確かに年上だが、たった一つの差の筈だ
恥ずかしいと思う筈なのだが、それよりも羨ましさの方が不思議と強かった
「あ、あの、その
いいんすか?」
「何、可愛い妹分がもう1人増えるくらいで文句は言わないって」
「じゃ、じゃあ、その
お願いします」
ウオッカとて、しっかりしていると言ってもまだ、中学生
しかも去年までは小学生だったのだ
目の前でライバルのスカーレットが兄や姉に甘えているのを見て、何も思わないほどにまだ成長していなかった
特にウマ娘にはその傾向が強い
彼の彼女であるタキオンは勿論、その妹分であるスカーレットもそうだし、ルドルフもそうだ
あまり態度には出てないが、エアグルーヴもナリタブライアンもそうだと彼は確信していた
ウマ娘と言うのは、総じて走る事に並々ならない想いを持っているらしい。彼には理解できないが
しかし、同年代の自分達に比べるならば、既に圧倒的といえる実力を有している
それでも彼女達ウマ娘は高みを目指す。
初めは憧れや羨望ですむだろう
が、ウマ娘と自分達の間には埋めがたい実力差が横たわる
その内、それは嫉妬から嫌悪に変わるのは止めようが無い
そして、ウマ娘の親であっても、それは例外ではない
自分の娘にも関わらず、『別のナニカ』に思えてきてしまうのだろう
だから、自然と距離を取る
子供にはわからない様に
傷つけない様に
しかし、大人達は忘れている
自分達が子供の時、大人にそうされて、気付かなかったのかを
子供は他人に敏感だ
すぐに大人のそれに気づく
そして、初めこそ分かってもらおうとするだろう
だが、そのうち諦めるのだ
愛してもらう事、見ていてもらう事を
勿論、そうで無い親もいるだろう
聞く限りではエアグルーヴの母親は彼女の良き理解者だ
だからこそ、エアグルーヴにかかるストレスは余計に強くなる
全てに絶望するなら、目も耳も塞げば良い
だが、母親という救いがあるからこそ、彼女にはそれが出来ない
闇の中で過ごすならば、そのうち目も慣れてこよう
しかし、闇の中にたった一つでも光があれば?
どうしても、そこに目がいくだろう
そうすれば、光と闇の対比が出来てしまう
エアグルーヴがやや男性に対して不信感をもっているのも、母親に対して父親がそうで無いからだと彼は思っている
そうだからこそ、エアグルーヴの会話の中で父親の話が出た事は一度もない
愛してもらっていない。
そう思うからこそ、多くのウマ娘は自分のアイデンティティである『走り』で勝つ事に貪欲なのだ
そこには
『私を見て!』『私は此処にいる』
といった悲痛な彼女達の叫びがあるのだ
サイレンススズカは、『先頭の誰もいない静かな世界』が好きだと言っていた
彼女にとって、周りの大人達は『ノイズ』なのだろう
だからこそ、彼女はレースに興味を持っていないと言いながらも、先頭に並々ならぬ執着を見せていると感じる
余りにも残酷で、救いがないじゃないか
マックイーンの様に生まれながらに名家の責務を背負うものもいる
だからこそ
勿論、彼とて誰でも手を差し伸べるつもりは、ない
残酷な話ではあると思うが
彼はタキオンのものであり、タキオンの杖なのだ
彼女が、躓く事なく道を歩けるための
だから、妹分のダイワスカーレットには優しくできる
その友人で苦しんでいるウオッカくんにも、少しの間とはいえ、寄りかかれる盾になろう
昔のタキオンにあまりにも似ているルドルフの支えにもなろう
〇〇〇〇の願う未来の為に希望の種を蒔こう
それしか、彼には出来ないのだから
そんな内心をおくびにも出さずにウオッカを見ていた
「じゃ、じゃあ、兄貴って呼んでもいい、ですか?」
ウオッカは不安そうに恐る恐る口にする
「良いぞ、おいで?ウオッカ」
「っ!」
ウオッカの顔が上がると同時に彼に飛びかかる
「兄貴っ!」
「良いのかい?スカーレット」
「ふん。いいわよ
それでも私がお兄ちゃんの一番の妹なんだから!」
アグネスタキオンは妹分の成長を喜んでいた
恐らく数年前なら、絶対にウオッカ君の事を認めなかっただろう
だが、今の彼女はウオッカ君の気持ちが痛いほど分かるのだろうね
「本当に大きくなったね、スカーレット」
「へへ
ねぇ、お姉ちゃん。今日は一緒に寝てくれる?」
おずおずと上目遣いで聞いてくる妹に
「勿論だとも」
私はそう答えた
「・・・・・」
「・・・・・」
ブライアンとグルーヴは彼と彼に抱きついて甘えているウオッカ君を見ている
驚くにも値しない
彼はそれこそ、奇天烈な行動を取りはする
だが、その根底にあるのは私達ウマ娘へのひたむきな想いと理解しようという姿勢だ
アグネスタキオンというウマ娘を幼馴染として育ち、ダイワスカーレットという妹分を見て育った彼だ
世間一般の『自称』ウマ娘の専門家達よりも私達の内面を理解しているのだろう
私はあの時、確かにそう感じた
確かに享楽的な部分がある事は否めない
だが、以前彼は私に言った
「俺はアグネスタキオンの杖だ
何があろうとも、それだけは変わらない」
あの時はただ衝撃のみでマトモに理解できなかったが、今ならば分かる
彼はアグネスタキオンに1人で立って欲しいのだ
幼少の頃から彼女といたと聞いている
そして幼少の彼女は不安定であったとも
彼がタキオン君を縛っているわけでも無い
タキオン君が彼を閉じ込めているわけでも無い
2人とも互いの事を思い遣りながら、それでも致命的な所でズレているのだ
この2人に今の光景はどう映っているだろうか?
シンボリルドルフは人知れず、拳を握りしめた
というわけでウマ娘のみんなの初めてを奪った彼女がついに出走しました!
何故か前後編になりました
ご め ん な さ い
許して許して