彼と彼女の歩く道   作:ノイフェル

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つがいの鳥
されど目指す空は違う


雄は猛る

守るべきものを、世界を守る為に


雌は願う


ただ平穏な時間を


 触れるべからず

 突然の妹分からの連絡に彼は少しばかり違和感を覚えながらも、その電話を取った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グシャッ!

 

 

 

電話を終えた彼は、怒りを抑え込む為に握り込んでいたくるみを握り潰した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やりやがったな、ど畜生どもが!

 

 

いつもの明るい声ではなく、地を這う様なドスの効いた声であった

 

 

 

 

 

 

 

彼にとってアグネスタキオン(自分の光)は勿論ダイワスカーレット(恋人の従姉妹)ウオッカ(兄と慕ってくれる妹分)に手を出すと言う事は断じて認められない事だった

 

 

 

それでも、タキオン(恋人)ならどうにか出来る。だが、よりにもよって手の届きづらい2人(スカーレットとウオッカ)を狙ったのだ

 

到底許せるものではなかった

 

 

 

 

これがトレセン学園在籍のウマ娘たちならば、幾らでも対処(処理)方法はある

 

 

 

だが、故にこそ彼は理解していた

 

 

 

このうざったい方法を取るのは、それを生業(飯の種)にしているものだ、と

 

 

 

ましてや、ウオッカ(義妹)から聞いた話では態と人通りの少ない所で待ち伏せしていたというではないか

 

 

 

となれば、叩くべき所は限定されるのは必定

 

 

 

 

 

 

不幸にも(幸いにも)ネットで大炎上しているのを先程確認したので、どうしても此方からのアクションに対応するタイミングは遅れよう

 

彼方に取って怖いのは世間の反応であり、自分とタキオンの後ろ盾である政府の影だろう事は疑いの余地もない

 

 

 

 

 

 

 

そう、思っておけば良い

 

 

 

 

 

 

 

確かに彼は子供

 

だが、相手は知らないのだ。

 

彼は守る為ならば、代償如きに構うつもりはないと言う事に

 

 

 

己の保身?

既に世間に姿を晒した身である

 

賛否両論ある総理の決断を促す形ともなった自分だ。間違いなくマトモな人生は送れまい

 

 

タキオンから離れるつもりはない

だが、自分がタキオンに害を与えると判断したなら、その限りではない

 

 

良くて見世物(王子様)。悪ければ、刑場の露(世間からの大バッシング)となろう

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、敢えて言いたい

 

 

 

 

それがどうした?

 

 

 

 

彼が尊敬する小説の登場人物は焦がれる相手(クリスティーヌ)の為にどの様な事でもしていた

 

それが例え自分の破滅を意味するものだとしても、である

 

 

 

 

彼もまた自分の全て(アグネスタキオン)の世界を守る為ならば、自分如きなどどうでも良かった

 

 

 

 

 

 

 

『愛している』などと言うつもりはないし、恐らくこれからもないだろうと思う

 

彼には『愛』というものは理解できないからだ

 

 

 

 

 

 

確かにアグネスタキオンと恋仲である。決して彼女の悲しむ顔が見たいなどと言う倒錯的な趣味を持つわけでもない

彼が望んでやまないのは彼女が笑って過ごせる世界

 

 

 

その為ならば、どれだけ非道な事もしよう

法に反さない程度にしかならないのが、口惜しい。それでも自分の命とタキオンの幸せを選べと言われたなら、前者を即座に打ち捨てよう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

相手は理解していない

 

 

彼等が敵に回したのは、総理でも秋川理事長でも、トレセン学園でもない

タキオンの彼氏という狂人なのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

絶対に許さねぇ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と1人の男が怒りに燃えている頃、もう1人怒りに身を震わせている者がいた

 

 

 

 

 

 

そうか、ありがとうスカーレット。念のために聞くけど、本当に大丈夫なんだろうね?

 

 

 

ああ、ウオッカくんか

良い友人を持って良かったじゃ無いか、スカーレット

 

照れなくても良いだろう?

 

 

ああ、くれぐれも気をつけてくれたまえよ?

 

 

 

うん、それでは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふぅん。スカーレットに手を出す、か

 

 

従姉妹(ダイワスカーレット)との電話を終えたアグネスタキオンは1人呟いた

 

 

 

ここはトレセン学園にあるタキオンの研究室

 

別名

『マッドの巣窟』である

 

 

 

 

 

此処には、アグネスタキオンのとある研究に興味を持つ組織や個人から提供された様々な薬品や実験器具などが数多く揃えられており、非常に研究の環境としては整っていた

 

某理事長曰く「驚愕っ!!此処までの環境とはっ!」とのリアクションをするほどである

 

 

さもありなん

この研究室の出資者は製薬会社や大手企業、大学に専門学校など多岐に渡っており、実のところはトレセン学園自体よりもスポンサーは多いのであったりもする

 

 

 

何故ウマ娘とはいえ、一介の学生に過ぎないアグネスタキオンに此処までの注目が集まったのかと疑問に思われるだろう

 

 

 

理由は彼女の研究内容にあった

 

 

それは

『ウマ娘の力を人レベルにまで落とす薬』であった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女(アグネスタキオン)は幼少の頃より常に思っていた

 

 

 

何故、父も母も自分を見てくれないのか?

 

何故、自分や従姉妹(ダイワスカーレット)が本気で走ってはならないのか?

 

何故、他の人たちは自分達(ウマ娘)を認めてくれないのか?

 

 

 

そして

 

何故、幼馴染である彼が私のために傷つかなければならないのか?

 

 

 

 

確かに自分(アグネスタキオン)は彼に様々な事をしてもらってい る。それは認める

 

 

 

 

だが、タキオンにとって幼馴染である彼はかけがえのない、替えのきかない大切で大事な男性(ひと)なのだ

 

 

 

 

容姿が優れない?

ふぅん、それがどうしたというんだい。彼の良さは外見では分からないさ

 

根暗じゃね?

そう思いたければ、そう思ってくれていれば良いさ

 

気持ち悪いよね?

そうかい。私はそんな彼が好きだからね。問題ないさ

 

 

 

 

幼馴染()と仲良くしていると決まってしたり顔でそう言ってくる連中がいた

 

 

 

 

君たちにとやかく言われる筋合いはない

 

 

 

 

そう何度口にしようとしたか、数えるのも馬鹿らしくなるほどに思っていた

 

 

 

母親などは

 

貴女にはもっと相応しい相手がいるのよ?

 

 

等とその時だけは母親らしい事を言っていたが、全く私には響かなかった

 

 

 

 

 

 

 

彼の人並外れた観察力は無駄な事を好まなかった昔の私の為に

 

料理の腕は偏食気味の私の食生活改善の為に

 

掃除の上手さは研究ばかりで片付けをしない私の為に

 

人当たりの良さは人付き合いをしようともしない、私のフォローの為に

 

 

 

常に彼は私の欠点を補おうとしていてくれた

 

 

 

初めの頃こそ、鬱陶しく思っていたが、失敗(怪我)しながらそれでも私に色々良くしてくれていたから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも、どこかで思ってしまったんだ

 

彼と競争すれば十中八九は勝てるだろう。直線レースやある程度定まっているレースならばほぼ勝てよう

 

 

 

 

 

だがそれは、(アグネスタキオン)の力というよりも(ウマ娘)の身体能力に依るところが大きい

 

 

 

 

 

 

 

初めの頃は私達(ウマ娘)が何処まで行けるのか?その果てを見たかった。その感情は今でも多少ある事は否定しない

 

 

だが、それ以上に感じたのがあまりにも酷い現実だった

 

私達ウマ娘は身体能力に優れているのは事実。だが、それとて鍛えなければ意味がない。

といっても、鍛えてなかろうが、人のトップアスリートとやり合えるくらいの身体能力を有してしまっているのが私達ウマ娘なのだ

 

 

結果、幾らウマ娘が社会に溶け込もうとしても、その特異性がそれを阻んでしまう

 

 

スカーレットも今でこそあんなに元気になっていたが、幼少の頃はいつも何かに怯えて過ごしていた

 

 

 

 

 

 

ダイワスカーレットという少女の母親はウマ娘であり、父親はそれを20歳の時から支えてきたと聞いている

 

仲睦まじい夫婦だったと記憶してる

 

 

であるからこそ、スカーレットは友達を直ぐに作れると思っていたのだろう

だが、異分子であるウマ娘のスカーレットは周りの子供たちからすれば違うものに見えていた様に思う

 

 

スカーレットが私と出会った時、叔母であるスカーレットの母親はウマ娘である私と引き合わせるつもりだったのだろう

 

そこで、スカーレットは彼と初めて会ったのだったね

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おにいちゃん、だぁれ?

 

ぼく?ぼくはタキオンちゃんのおともだち!

 

そうなの?

おねえちゃん、うまむすめだよ?

こわくないの?

 

こわい?

ちがうよ、タキオンちゃんはすごいんだよ!

 

え?

 

タキオンちゃんはね、ぼくがどれだけはしってもおいつかないの!

でもね、いつかタキオンちゃんといっしょにはしりたいの!

 

あの、えっと

 

??

どうしたの?

 

わ、わたしもうまむすめなの!

こ、こわくないの?

 

ぼくになにかするの?

 

しない!

 

じゃ、こわくないよ!

 

っっっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなやりとりがあったと聞いた時は驚いたものだった

 

 

それ以降、スカーレットは私と彼と一緒にいる時は私達の少し後ろをついて来ていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やはり私にせよ、スカーレットにせよ。ウマ娘という生まれについては正直な話歓迎できてないのも事実なのだろうね

 

 

常に『走る事』のみを期待され、勝てなければ負の感情をぶつけられ、勝ったとしてもまた負の感情をぶつけられるのだから

 

 

 

 

 

であればこそ、ウマ娘達によるレースは常に盛り上がる

 

そこでは何に遠慮する事なく、実力を発揮できるから

 

 

 

 

だが、そうするうちに『戻れないところ』まで行ってしまったと嘆く先輩達を何人も知っている

 

 

 

 

レースを制することが出来たウマ娘は幸運である

 

大体がその相棒(指導者)と結ばれるのだから

 

 

 

ではレースに負けたウマ娘は?

実力はある。でもその心に常に何かを抱え込む事になる。そうなれば、余裕が失われていき、最終的に指導してくれている者達と致命的な破局を齎す

 

 

これはウマ娘と人のレースにかける想いの違いが原因なのだろう

 

 

 

走る事はウマ娘にとっての本能と言っても過言ではない

そして、レースに出るウマ娘はよりその傾向が顕著である

 

 

しかし、勝てない

 

幾らトレーニングしようとも勝てない

 

 

ウマ娘は勝気なものが多く、それ故にいつか思い始める

『自分はもっとトレーニング出来るのに、どうしてさせてくれないの!』と

 

 

 

これは単純に立場の違いからの見解の相違であるとタキオンは思う

 

ウマ娘(本人)からすれば限界までトレーニングしたいだろう。でもトレーニングさせている側からすれば、ウマ娘というものはとかく金がかかってしまうものである。

食費、トレーニングの場所の確保、蹄鉄など

 

であればこそ、万一故障などしてほしくはないだろう

だからある程度の余裕を持ったままトレーニングを終わらせる事になってしまう

 

 

 

一部の者達、桐生院などの所謂『名家』と言われる者達は蓄積した膨大なデータや経験から、ウマ娘にかなり寄ったトレーニングを行えるし、説明も出来る

 

だが、殆どの者達は1代限りのウマ娘育成であり、設備資金面などにおいて名家に比べると劣ってしまう

 

 

 

 

 

そして溜まった不満は破局を招く

 

 

 

ウマ娘でない貴方達には分からない!(どうして分かってくれないの!)

 

 

 

これを言ってしまうと、もう関係は元に戻らない

 

 

育成する側もする側で文字通り『生活をかけて』いる者が多い

だからこそ、決して余裕があるわけではないのだ

 

 

それを押し隠してしている彼等にとって、その一言は全てを壊しかねないものであった

 

 

 

 

 

 

後は容易に想像出来るだろう

 

 

育成側はそれでもウマ娘に過剰な負担をかけまいとし、ウマ娘はそれに反発して過剰なトレーニングを勝手に行なう

 

そして、怪我をして全てを棒に振る

 

 

 

例え、その後に両者が歩み寄ったとしても、不信の種は消える事なく残り続けるだろう

 

 

 

 

 

 

 

そういったウマ娘達は世の中にとても多く、彼女達にとってウマ娘である事が幸せと思えるはずもなかった

 

 

 

 

アグネスタキオン(シンデレラ)を隠す理由の一つがこれであった

 

 

 

自分は上手く出来なかったのに、アグネスタキオンは子供の時から理解者がいる

 

 

そこに昏い感情を持つウマ娘がいないとも限らなかったのだ

 

 

以前も語ったがウマ娘は基本的に承認欲求が強い

それはシンボリルドルフだろうが、エアグルーヴだろうが、アグネスタキオンだろうが逃れられない本能だ

 

 

『自分を見てほしい、認めてほしい』そんな切なる想いがある

であるからこそ、ウマ娘は自身を磨くのだ

 

 

だが、ウマ娘の一生の中でそれを得られる機会などそうそうないし、巡り会う事も中々ない

 

 

 

 

それを幼少の頃に手に入れていたアグネスタキオンはウマ娘から見れば幸福なのだろう

 

 

それはタキオンにも否定できない

 

 

 

 

 

ある人はタキオンに言った

 

 

その様な研究をするのは、貴女(アグネスタキオン)が理解者を得ているからなのでしょう、と

 

 

そうだと思う

 

 

 

 

 

 

『愛に憧れ、愛を願い、愛に狂い、愛に生き、愛を失う』

 

とは昔いたウマ娘の言葉である

 

 

 

だが、タキオンはそれを幸運にも手に入れていた

 

 

 

 

 

 

 

否定されるだろうが、手に入れたとしても幸せになれると言われたらタキオンは首を傾げるだろう

 

 

 

 

 

 

別の世界線であるが、シンボリルドルフは自身のトレーナーの姿勢に対して好意を示していた

「自分の視座に立ってくれた」と

 

 

 

誰も彼も相手の立場を慮ろうとするが、それが叶わない事が多いのも事実

 

 

 

 

 

彼が自分(アグネスタキオン)のせいで変わっていくのがタキオンは怖かった

 

 

 

 

 

 

 

アグネスタキオンは昔の彼で良かったのだ

 

ただ、何も難しい事を考える事もなくスカーレットと3人で野原を駆け回ったあの頃の彼で

 

 

 

 

 

 

 

スカーレットも常に言っている。ウマ娘である事が辛いと

ウオッカくんも言っていた。ウマ娘だから幸せになる訳ではないと

 

 

 

 

 

 

 

だから、タキオンはこの研究を完遂する

 

 

自分達(アグネスタキオンとダイワスカーレット)の幼い頃の願いを果たす為に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

であればこそ、容認出来ないのだ

 

 

 

 

 

 

 

覚悟しておきたまえよ?私はそこまで優しくも甘くもないからねぇ

 




シンデレラと王子様と呼ばれている彼女たち


だが、平民の娘と王族の世界は違うという話とダイワスカーレットの起源の話でした



では、ご一読ありがとうございました
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