当然の如く、捏造や独自解釈満載でお送りします
予めご了承ください
なお、本作における一部のキャラクターへの不遇ともいえる扱いがございますが、これについては後の展開次第で変化する事を断言させていただきます
アンケートへのご協力ありがとうございました
では、どうぞ
あるところにごくごく平凡な少年がいました
共働きしている両親に少し引っ込み思案な少年
それはどこにでも居る普通の男の子でした
少年は引っ込み思案ではありましたが、好奇心旺盛でした
毎日、河原や近くの広い草っ原。少し離れたところにある山の麓までいっていました
そして、ある日出会ったのです
こんなのじゃ、ないのに
アグネスタキオンという少女に
ねぇ、聞いてもいい?
いいよ?
私達、ウマ娘ってさ。結構初めて会った人からは妙な目でみられる事があるの。何たって尋常じゃないスピードで走るんだから当たり前だけど
それで?
タキオンもそうだったんでしょ?なのにどうして
そうだなぁ
憧れたんだろうな。その姿に
彼は懐かしむ様に目を細めた
幼い頃の彼は、いや今でもだが、とりわけて取り柄のないのが自分だ
だからこそ、憧れたのだろう
後に知ったが、タキオンとは光速で動く粒子の仮称らしい
まだ仮説の段階だそうだが、タキオンの父親曰く
とのことからこの様な名前がついたらしいが
そして、惹かれた。たとえどの様な道であろうとも進もうとする彼女の強さと気高さに
そして
彼女の力になりたいと幼心に思った
その為に、できる限りのことを学ぼうとしたし、今でもそれは変わらない
だが、いつからかタキオンは走ることへの情熱を失った様にみえる
悲しかった。悔しかった
ナリタタイシンは話を聞いて驚いた
アグネスタキオンが走ることをどちらかといえば嫌っているのはタイシンとして知っている
だが、それによりこの人がここまでショックを受けているとは思ったいなかったのだ
タキオンが走るのをみてるのが、好きだったんだ。アンタは
だろうな。憧れもあっただろうし、勿論嫉妬もあっただろう
でも、タキオンが自分の目標に向かって走り続けるのを応援したいってのは間違いなかったと思う
そっか、アンタも大概だね
今でもはっきりと思い出す
青空の下、ひたすら、がむしゃらに走っていたタキオン
でも、表情は苦しそうでもなく、走る事自体がとても楽しそうだった
見惚れた。魅入ったと言ってもいいだろう
だが、それも少しずつその輝きが失われつつあった
許せなかった
彼女を放置する彼女の親が
それを放置している周りの大人達が
そして、なによりも
だから、彼は全てを拒もうとした
タキオンを勝手な理屈で見捨てようとするタキオンの両親を
ウマ娘というだけで奇異な視線を向けてくる者達を
しかし、所詮は大人でもないたかが子供1人。
できる事など知れていた
だからこそ、彼はひたすらに耐えることにした
タキオンの事を憐れむ自分の両親や、自分たちを見せ物の様に扱おうとする大人達。それとタキオンに対して嫌悪感を隠そうともしない学校の連中にも
力をつけ、知識を蓄え、タキオンを支えようとした
だが、彼がタキオンの道を尊重する様にタキオンもまた、彼の事を心配している事を当時の彼は理解していなかった
如何にして早く、速く、疾くウマ娘は走れるのか?
それこそがタキオンの課題だったはず
だが、ある日タキオンはそれを捨てた
タキオンからすれば、変質していく幼馴染に耐え切れないからこその選択だった
だが、皮肉にもその選択が彼を更に歪ませる結果となったのだ
己の情けなさから、タキオンは道を諦めた
それは彼にとって、何よりも許しがたい事だった
だが、既に彼は幼かった頃とは違う。変わってしまった
仮面を被り、本心を偽り、周囲からの悪意よりタキオンを守る
それを数年間、しかも最も重要な時期に続けた彼
結果、彼は何よりも
そうであり続けたならば、まだ良かっただろう
だが、
それだけならば、良かった
しかし、それと共に彼は悪意にさらされ続けた。マスコミや大人達の行為という名の
いうまでもなく、彼とて所詮子供なのだ
どれだけ大人のフリをしようとも
そして、タキオンとの同居により彼は弱音を吐く場所すらなかった。
少しずつ、だが確実に彼がおかしくなっていったとしても不思議ではない
本来なら、中学校に通うべき時期
集団生活に適応するための貴重な時間
親の手を振り切り、新生活に適応しようとすれば、それはマスコミにより阻まれる
結果、彼は秋も深まるこの時までに登校した事は一度として、ない
学校側もどうにかしようとしていたし、元地元選出の議員は対策をしようとしていた
だが、それもマスコミの報道による辞職に追い込まれた事で全て白紙となった
補選により、よりにもよってトレセン学園に好意的でない人物が当選した事も悪い方向に働いてしまった
勿論、今回の衆院解散により選挙が行なわれる事となり、補選で当選した議員がかなりの疑惑を抱えている為、再選の可能性は絶無であるが
親もなく、頼るべき大人は遥か彼方。
頼りになる大人がいたとしても、頼るにはあまりにもお互いの立場が微妙であった
以前、タイシンが見た彼の表情
それは彼の限界が近い事を示していたのだ
ねぇ
どしたよ?
タイシンは理屈ではなく、本能に近い部分で理解していた
このままでは、この人はおかしくなってしまう。と
だが、タイシン1人ではどうにもならない事も同時に理解していた
それと、タキオンには言えない事も
お互い支え合っている。そう言えば聞こえはいいが、この2人はそうでない事をタイシンは理解した
タキオンは彼の事を想うが故に自分の夢すら諦めようとしている
彼はタキオンを想うが故に自身を捨てようとしている
っっ!
タイシンは内心歯噛みした
タキオンとこの人が何をしたと言うのか?
憧れを守ろうとして、想いを貫こうとして
そしてお互いがボロボロになり、壊れかけている
(なんでっ!こんなことになるのさ!)
彼と話をしながら、タイシンは自分の無力さを嘆いた
ナリタタイシンはウマ娘として生を受け、ウマ娘としての道を歩んでいた
だが、彼女は同年代のウマ娘に比べて、圧倒的に不利であった
小柄な体躯。筋肉の付きづらい体質
タイシンの通っていた小学校、中学校にはウマ娘はいなかった。そのため、学外での模擬レースにタイシンはそれなりに出ていた
当然、様々な機会で競う事になった
だが、勝てない
努力量なら、間違いなく相手より上であったとタイシンは断言できる
それでもいつも結果を出せず、ゴールまでの距離は長く感じた
両親はそれでもタイシンの事を応援してくれていた
いつだって温かく見守ってくれていた
だが、いくらやっても結果の出せない状況にタイシンは苛立ち、両親に八つ当たりした事もある
それでも両親は応援し続けてくれた
いつしか、その両親すら煩わしく思えてくる様になってしまう
そして、そんな自分に自己嫌悪した
なんて、自分は弱いんだ
そして、それでも諦めたくないからトレセン学園に来た
トレセン学園入学試験の時、久しぶりにウイニングチケットとビワハヤヒデと再会した
騒がしいけど、熱い心を持つチケット
静かだが、勝つ為の努力を怠らないハヤヒデ
どちらもタイシンから見れば眩しくうつった
トレセン学園に入学して早々、講演会というものが開かれる事になった
聞けば
シンデレラと王子様などと言われてもタイシンには興味なかった
寧ろ、そんな風に持ち上げられている人物がタイシンは嫌いですらあった
だが
講演会を聞いたタイシンは圧倒された
ここまで想いを貫けるものなのか、と
そして、自分が持ち得ないモノを持つアグネスタキオンに密かに嫉妬した
だが、そんな弱い自分を許せないからタイシンはトレーニングに励んだ
幸いにして間違いなく、地元でのトレーニングよりも効率的で濃密なもの
それでも、タイシンは手応えを感じる事が出来ずにいた
そして只管もがいていたあの日、タイシンに彼は言ったのだ
タイシンはどちらかというと、後半に力を発揮するタイプだと思うんだよ
俺が知ってるウマ娘の中でも一、ニを争う加速力だと思う
と
何をバ鹿な事を
タイシンはそう思った
だが、顔を上げてみればどこまでも真剣な顔つきをしたあの人
(一度だけでも走ってみたら、どうだろう?)
私の中で何かが囁いた
シンボリルドルフにアグネスタキオン。メジロマックイーンにナイスネイチャ
それにダイワスカーレットとウオッカ
同年代でも傑出していると言われるシンボリルドルフ。幼い頃からウマ娘としての自分を向き合い続けていたアグネスタキオン。ウマ娘名門メジロの次代を継ぐものとして己を磨き上げたメジロマックイーン。言葉こそ弱気であるが、それでも周囲の期待に応えようと鍛錬を怠らないナイスネイチャ
遅いはずが無かった
ダイワスカーレットもまた、幼い頃にあの人と関わり憧れたと聞く。大好きな姉と兄に恥じぬウマ娘となる為に自身を鍛え上げたのは僅かな時間であってもわかる
そのスカーレットを近くで見ていたウオッカもそれに触発されて相当なレベルに仕上がっていた
恐らくは同年代ならば上位といっても過言ではないだろう
前を行くタキオンにスカーレット、ネイチャ。少し前に出ているルドルフとウオッカ
焦る気持ちが募る
(このままでは追いつけないのではないか?)
弱い自分が前に出ろ。そう言う
だが、一度でも良い。アタシにも夢を見させて欲しい
そう、願った
そして
あ
後半加速した時、タイシンの視界が晴れた気がした
初めて一着だった
何度かその後も走ったが、上位に食い込む事も出来たし、たとえ後着したとしても確かな手応えを感じていた
ダメ、だった
あの人にとって、自分はただ
でも、ナリタタイシンにとってあの人はその瞬間から唯一無二の
その人を助けられない無力な自分が嫌だった
あの人に声をかけられる前の自分を見ているみたいで
シンボリルドルフは自嘲していた
(そうか、彼もまた苦しんでいたのだな。それを私は)
今ですら、立ち上がって彼を支える事も出来ない臆病者
這いつくばり、蹲ったまま、盗み聞きをしている卑怯な自分
彼を真っ直ぐ見ることさえ出来ない
私が強い?冗談にしても笑えないなルドルフ
以前、タキオンと話をしていたときに彼女が言った一言だった
タキオンが弱いというのこそ冗談だと私は言った
本当に私が強かったのなら、彼をあそこまで追い詰める事も歪ませる事も無かったのさ
あの時、私にはタキオンの言っている事の真意が理解出来なかった
ただ
あの遠くを見る様な表情をするタキオンは印象深く私の記憶に刻まれている
幼い頃から早熟であったとルドルフ自身は過去の自分を振り返る
我ながら可愛げのない子供だっただろうとも
いつも、何かを求めていた
確か小学校低学年位までは親に甘えていた気がする
それ以降は誰かに甘えるよりも、自分で何かをする事こそ大切であると考えた
そして、いつだったかは定かではないが私たちウマ娘について調べた気がする
そこで知ったのは残酷なまでの真実
ルドルフの両親は今で言うトレーナーとその担当ウマ娘だったと聞く
仲睦まじい両親であり、ルドルフにとっての憧れであり、理想だった
母の様に父といつも仲良く過ごしたい。いつか私もそんな異性と出会いたいと
だからこそ、自分の周りと世間の温度差に戸惑った
そしていつしか、『ウマ娘皆の幸せ』という大それた思いをいだく様になった
だが、それを両親に話をしたところ、2人とも悲しそうな顔をした
あの時はわからなかったが、今ならわかる
私の夢は途方もなく険しいものだったのだと
トレセン学園に入学する事が決まった
トレセン学園とはウマ娘専用の育成機関であり、指導者によりばらつきのある育成環境の均一化を図るものだと聞いた
ウマ娘にとっても存分なトレーニング設備
指導者にとっても用意された環境というのは、大きな意味を持つ
ウマ娘によるレース自体は規模こそ大きくはないが、既に始まっていると聞く
だが、それに参加するためには相応の実力を求められる
当然ながら、実力を身につけるためにはそれなりの環境が必要だ
だが、ウマ娘によるレースが一般的でないために指導者はその環境を一から用意しなければならない
仮にウマ娘が走り込むとして、短距離でも1キロ以上。長距離ならば3キロもの距離が必要となる
無論、実際のレースする場所の様に出来れば最高であるだろうが、殆どの指導者にそこまでの資金的余裕はない
となれば、河川敷なり公園なりになるが、当たり前であるがそこは自身の所有地ではない以上、トラブルも生みやすい
これが、ウマ娘の指導者が他の国に比べて少ない理由であるだろう
何せ、この日本という国はあまり広くない
勿論探せばそのくらいの土地はあるのだろうが、果たしてウマ娘の育成だけの為にそこまで出来る人物がどれだけいるというのか
更にレースで勝利したとしても、賞金も少ない上に大して注目もされない
この状況を打破するべく作られたのがトレセン学園だった
トレセン学園に入学するにあたり、私とナリタブライアンにエアグルーヴは成績優秀との事で生徒会への勧誘があり、私たちはそれを受けた
そして、入学するまでに様々な雑務を片付けていたある日、理事長経由で連絡が来た
それだけであれば、普通だろう。彼女とてウマ娘だから
だが
その王子様もトレセン学園近隣にて生活する予定
との連絡に私たちは顔を見合わせた
正直なところとしては、何故こちらにその様な連絡が来るのかがよくわからなかったからだ
だが、後日
その2人がトレセン学園に来ると聞いた
はっきり言うと意味が分からなかった
トレセン学園とは言い換えればウマ娘の為の学園だ
勿論、教師陣や様々な職員がいるのは仕方ない事だ
警備員として必要だろう
だが、アグネスタキオンの彼がトレセン学園に来る意味は何か?
私もそうだが、ブライアンやグルーヴとて納得してはいなかった
とはいえ、理事長。いや正確には理事会からの指示ともなると生徒会長といっても一生徒に過ぎない私たちに拒否権などあるはずもない
そこで、出会った
私たちウマ娘にとって、いや私にとっての理想ともいえる関係を持つ2人に
軽口を言い合いながらも離れる事のない2人
衝撃的だった
それだけでも驚きだと言うのに、彼はブライアンとグルーヴを手玉に取ってしまったのだ
彼のダジャレ攻勢に屈した私が言うことではないのだろうが、自分の目を疑う事だ
ブライアン、グルーヴ共に入学時のテストにおいても実技、即ち模擬レースにおいても上位の実力を持っていた
それは直接
確かにグルーヴもブライアンも冷静さは欠いていたのだろう。走ったのがトレセン学園という障害物の多いところでもあったのだろう
それでも、普通ならば加速力に秀でるブライアンと持久力に優れるグルーヴが遅れを取るとは俄かに信じられなかった
だが、後日私も一度同じ条件で挑んだところ、見事に負けた
衝撃を受ける。などという表現では全く足りないほどの動揺を私は見せた
彼曰く
感情を揺さぶれば実力は発揮できないし、癖を見抜けばそれなりの対応ができる。
らしい
それでも私たちは納得出来ないのを理解してくれたのか
ウマ娘だろうが、人だろうが結局は生き物
というよりも、機械でもそうだけどな。動く際には必ず何処かに動きがある
そして、ウマ娘みたいに高速で走る連中ってのは、当然それ相応の状況把握能力がないと高速の利点を活かしきれない
で、その状況把握の手段ってのは大体視覚頼り
高速であればあるほど、視覚の重要性は増す。当然反射能力もいるだろうがな
となりゃウマ娘相手にやることは限られる
相手より早く動くか、相手の動きの『起こり』を潰すか。
意味がわからなかった
ブライアンもそうだったのか、『起こり』の意味を聞いた
ま、これは俺が剣道やってたからなんかも知らんけどな。剣道のみではないと思うけど、相手の視線を見るってのは有効だ
そして、必ず力を入れる直前に呼吸などを入れる。これが『起こり』だな
んで、この『起こり』のタイミングで予期せぬ事が起きると集中力が乱れる
アンタらゴルフ観ない?
ゴルフではショットの直前は必ず音を立てないのがマナー。あれは集中力を乱さない為らしいがな
それについて、グルーヴも理解したのだろう。それでも納得のいかない表情をしていたが
重要なのは、この時邪魔が入ると普段の実力なんて発揮出来ないって事
ゴルフなんかでも、たまにトラブルあると聞くけどな。そういう時のショットは大体ロクなものにならないらしい
つまり、相手の動きの『起こり』を潰す事が出来ればそれは大きすぎるアドバンテージになるって事
俺が3人を振り回せたのは3人の走る時の呼吸、脚の運び方。視線の動かし方、走りの癖。その辺りの情報を仕入れながら手に入れられたからだな
思ったろ?走りにくいとか、やりづらいって
呼吸を乱す。とも言われる事のあるこの方法はアマ、プロ問わず有効であるとされている
競技者というものは自分なりのテンポを持っている事が多い。それを無理矢理崩す事で相手の実力を下げ、冷静さを奪い、時に奇策を以て相手に思考を強制する
これが彼のした事だった
自身の実力は完全に出し切り、相手の実力を発揮できない状況や状態に追い込む
これが彼の真骨頂といえる方法
彼はこの方法でタキオンにすら、数回とはいえ勝利していると後日聞いた
私は衝撃を受けた
そして、その様な事は容易でないにも関わらず、それを実行した彼が眩しく見え、その彼に想いを寄せられているタキオンに嫉妬した
そう、嫉妬だ
私は当初、タキオンに対して好意を持っていなかった
どちらかと言うと、ひたすら妬んでいたと言えるだろう
彼女はしたい事をして、したくない事は彼に任せきりだったと聞く。彼女の複雑な家庭事情は確かに辛いのだろう
対して私の家庭は恵まれていると言って過言ではないだろう
だが、彼女には
それだけで私から見ればタキオンは幸せだと思っていた
グルーヴの様に片親だけ理解があるのも、私の様に両親が理解しているのも、タキオンみたいに両親から理解されていないのも変えがたい事実
だが、グルーヴは母親が理解者であったからこそ、父親、ひいては男に対する強烈な不信感を持つことになった
私は理想的な両親を持つために、それを基準で考えた結果無謀とも思える理想を掲げている
タキオンは最初から両親に期待していない。彼女が求めているのは従姉妹であるスカーレットや理解者である彼くらいだったと聞く
ウマ娘としての
だが、その一方で女として見たら、それこそ嫉妬しかなかった
たとえどれだけ歪に見えていたとしても、彼だけは常に味方だと思えたから
しかし、実際接してみるとアグネスタキオンという人物は好感の持てる人物だったし、彼は彼で不思議とウマがあった
まぁ、幼い頃の自分を曝け出そうとする程度には彼の事を信頼する様になったのであるわけだが
そうなってくると
彼に甘えたい
と
我ながら度し難い考えだった
彼は私の彼氏ではない
家族でも彼氏でもない人に甘えるなど、あってはならない事だ
だが、彼と関わり合いになるうち、タキオンと彼の触れ合いを見るうちにその感情はどんどん大きくなっていった
そして、あの日
彼との勝負に負け、彼に甘えたあの時
私は確かに幼い頃感じた温もりを感じたのだ
誓っていうが、両親が私を甘やかさなくなったのではなく私が両親に甘えなくなっただけ。
彼等は私に変わらない愛情を向けてくれていたし、それを私も理解していた
だが、肉親に甘えるのと彼に甘えるのとでは何かが違うと感じたのも事実だった
それから少しするとタキオンは私と彼を頻繁に会わせる様にする様になった
曰く
少しばかりルドルフは休むべきだろうね。とは言ったところでキミが素直に頷くとも思えない。だから、彼をキミに少しだけ貸すとしよう
その様な気遣いは無用だと言ったのだが
知らぬは本人ばかりなり。とは良く言ったものだ。生徒会長としての仕事にトレセン学園生徒としての日常。更に来年を見据えてのトレーニングと現在行われているトレーナー寮の工事関係の窓口。よくもまぁ此処まで詰め込めるものだよ
タキオンは非難する様な口調だった
言い返そうとすると
その上、ブライアンとグルーヴにもあまり頼らないと言うじゃないか。『孤高の皇帝』などというのは褒められたものじゃあないね
あの時はらしくもなくタキオンと口論になったものだ
後でその事をタキオンに聞くと
おいおい、やめてくれたまえよ。私がそこまでお節介を焼くと思うかい?
タキオンは肩をすくめてそう言った
私が言うのも変な話だが、体調管理なんてルドルフの様な立場にいる者からすれば当たり前に出来ていなければ困る事だろう?まして、今でこそ改善しているが私も研究に没頭していた頃は自身の健康管理もおざなりだったさ。その私がどうしてキミの事をとやかく言えるというんだい?
当時の私は
では、何故?と聞くと
おいおい、本当に大丈夫なのかい?そこまでお節介を焼く人物などキミのそばにそこまで多くはないと思うのだけどね
私は自身の鼓動が早くなるのを感じた
予想はついているだろう?彼さ
正確には彼が違和感を感じて、それをグルーヴとブライアンに聞いたらしいのだが
それを聞いた私は胸の中があったかくなるのを自覚した
それからというもの、私は彼と会う事を楽しみにする様になった
大体が私の愚痴や話を聞いてもらうか、彼に甘えていた
恥ずかしい話だが、たかいたかいや抱っこに膝枕や腕枕もしてもらった事すらある
しかし、思い返してみれば私が彼の事を気遣った回数など殆どない
それに今更気付いた事も、ルドルフが彼とタイシンの会話に割って入れない理由だった
ルドルフはタイシンより早く彼との距離を詰める事が出来た。タキオンとの話し合いも出来た
なのに、彼の事に気がつくのが遅れた
だから、情けなくてルドルフは顔を上げる事が出来なかったのだ
ゴールドシップは自宅であるメジロ本家にて資料を漁っていた
あー、もう。もう少しマトモな資料ねぇのかよ!
ゴールドシップは書庫で頭を抱えていた
ゴールドシップは彼と関わり合いになってから、色々と物の考え方や見方を変える様になっていた
そのきっかけである彼の様子がおかしいのはゴールドシップも知っていた
マックイーンより聞いていたからだ
だが、海水浴に行った時、彼女が予想するよりも遥かに状況が悪い事に気がついた
マックイーンから夏休み後、トレセン学園に行くのを止められていたからである
そうでなければ、もう少し早く気づけただろうが
んな事言っても仕方ねぇんだよなぁ
ゴールドシップは肩を落とす
マックイーンが意地悪でトレセン学園に来るな。と言っているのではないことくらい、ゴールドシップにもわかっている
ライアンにせよ、パーマーにせよ、ドーベルにせよ、あの姉にせよ皆自分の事を考えてくれているのを彼女とて承知している
今回の件は、本当にタイミングが悪かっただけ。なのだ
とはいえ、彼を守るものが少しずつ、だが確実に奪われつつある事を彼女は良く理解している
元国会議員がつけていたSP。秋川やメジロが密かにつけている私服警備員。トレセン学園の警備員に周辺の警察組織。強固であった筈の彼等が住むマンションのセキリュティ
今年の初めには直接的だけでもこれだけあったのだ
だが、議員のつけていたSPは辞職に伴い撤退
議員としては、自身の議員職が亡くなろうともつけておきたかったのだが、マスコミによる
周辺の警察組織にも緩みが見られ、所轄の警察署の中にも今の状態を不満に思う者が少しずつ出始めている。現場は何とか問題なく動いているが、年度末の異動次第ではそれも危うくなる
マンションのセキリュティについては、既に不心得者により情報が流出しており、こりもせず張り込みを続けている取材陣の煩わしさから一部住民が現状に対して反発する動きも出てきそうとの話もある
更にメジロは一枚岩だが、秋川の中にも不穏な動きがあるとの話を当主からゴールドシップは聞いている
終いには、アグネスタキオン先輩がトレセン学園の学生寮に移されているとも聞いている
つまり、彼は自宅すらも危ういと見ていると言う事だ
現在衆院選の真っ最中であり、どうしても世間の目はそちらに向いてしまう
この隙を狙って、またぞろ記者たちが取材という名の迷惑行為を及んでいる事はゴールドシップとて自身の付き人から聞いている
既にメジロ家は無思慮なマスコミに対して敵対的な関係をとっているとはいえ、お互いに立場がある以上は全面的対決は出来ない
メジロにも独自の広報方法くらいは有しているが、一般的ではない。それ故にマスコミの力を借りなければならない部分もあるのだから
マスコミ側からしても、来年から増えていくウマ娘による各種レースに対する取材。更に今でこそ険悪な関係となっているトレセン学園とも、何れは関係改善を図らねばならない。それだけの話題性を秘めているのだから
つまり、現状殴り合っていると言っても過言でない両者であるが関係を断ち切る訳にはいかないのである
それを知っているからこそ、彼等はどこまでも傲慢になれる
実は一部の動画配信者とやらがメジロや秋川、トレセン学園にインタビューしたい。そう申し込んで来てもいた
曰く
自分の動画にて真実を配信したい
との事だった
今までにない申し入れであったが為に、何処にせよどうするべきか迷ったのだが、ゴールドシップははっきりと断るべきだと言った
ゴールドシップは暇潰しにネットをする事はない。しかし、後輩のアグネスデジタルはネタに詰まった際、ネットサーフィンをしている
そこでデジタルが見たものは、憶測をあたかも真実であるかの様に発信する動画配信者達の姿であった
その中にはデジタルが尊敬する姉と兄を非難する様な内容も含まれていた
別にデジタルとて、姉達のしている事に全面的な同意が得られるとは考えてもない
しかし、配信内容を聞いてみれば出所のわからない情報を元に推測と憶測を並べ立てている酷いものだった
少なくとも、彼等よりデジタルは姉や兄の事を知っているし、従姉妹であるスカーレットとも色々と話をしている
先輩であるゴールドシップからも話を聞いてもいる。彼等より事情に詳しいのは間違いなかった
不愉快だった
確かに彼等が事情を知らないのは仕方のない事だろう。知ってる情報を繋ぎ合わせるのもわからなくはない
知らない事を語るな。と言いたくなるが、彼等はそれで収入を得ているそうなので、言っても無駄だろうから
だからとて、偏向報道しているマスコミの情報を鵜呑みにしたり、姉と兄のマンションの情報をばらした人物をあたかも正当な権利を行使した人物の様に扱う事はデジタルからすると認められなかったが
ゴールドシップはそんなデジタルの愚痴を聞いていた為に、デジタルに確認をとった
そして、申し込んで来た者の中にそう言った内容の配信をしている人物が少ないとはいえ、いる事を知った
ゴールドシップはすぐさま、当主に話をした為にインタビューは実現しなかったのである
そこで、ゴールドシップは考えた
そういった配信者とやらがいるのであれば、自分も出来るのではないか?と
ライアン達は止めたが、ゴールドシップからすれば身バレなどどうでもよかった
彼女は知っている
彼が僅かひと月とはいえ、アルバイトしていたパン屋の店主夫婦が彼が来れなくなった事を悲しんでいる事を
ゴールドシップと共に遊んでいた近所の子供達も彼が来なくなった事で寂しく思っている事を
何よりもゴールドシップはそれを楽しんでいた
だから
アイツとバ鹿やってて、アタシは楽しかったんだからな
それを奪ってんなら、アタシは容赦しねぇぞ?
揺れる想い、尽きぬ願い
ヒトは届かぬと知りながらも手を伸ばし、
いつか
というわけで、揺れるタイシンとルドルフとなりました
アンケート結果により、ルートが決定しました
また、暫く後にもアンケートの予定がございますので、よろしければご協力お願い申し上げます
ではよろしければ次回お会い致しましょう