巨大マイナソーとの激戦のさなか、危機に陥ったリュウソウジャーを救った謎の二大騎士竜。
戦い終わり、ふたりの騎士が地上へと降り立った──
「疾風の騎士、リュウソウグリーン」
「……威風の騎士、リュウソウブラック」
ふたりが称した名前、そしてその姿かたち。──まぎれもなく、同じリュウソウジャーのもの。
「おめェらが、ずっと昔に村を出たっていうリュウソウジャー……」
「村を?……う〜ん、そうなるのかな」
「………」
リュウソウブレスからソウルを排出し──疾風の騎士と威風の騎士は、竜装を解いた。露になったのは、エイジロウたちと変わらぬ年代の少年たちの姿。ただ、その風体は対照的だった。
まず、リュウソウグリーンに変身していた少年。彼はホワイトシャツの上からグリーンのベストを身に着け、下半身は柔らかい素材でできた濃紺の下穿きという大都市の中産階級の子息のような服装である。足元だけは竜の血で彩ったと見まごうような鮮烈な赤に覆われているが、他にとりたてて特徴があるわけではない。強いて言うなら、丸みの残るそばかすの散った頬と大きな楕円形の翠眼が、随分と幼い印象を与えるくらいか。
一方のブラックたる少年は、とかく派手な風貌だった。分厚い毛皮の付いた真っ赤なマントを羽織りながら、逞しい上半身を惜しげもなく晒している。黄金色の髪に吊り上がった緋色の瞳は、尋常でない意思の強さを露としていて。竜人というのは正しくこういう男を指すのだと、同じリュウソウ族であるエイジロウたちでさえ認めざるをえない姿かたちだ。
「ほんとにおったんや……」
「うむ……だがこれで、リュウソウジャーが五人揃ったということになるな。心強い仲間ができた!」
喜ぶテンヤの声が、いつにも増して鮮明に響く。しかしそれを耳にしたブラックの眦が、みるみるうちに吊り上がっていく。
「仲間ぁ?誰がてめェらみてぇな雑魚なんかと」
「な!?」
「!」
「ちょっと、かっちゃん……!」
グリーンの少年が小声で窘めようとするが、彼は止まらない。むしろ少年を押しのけ、じろりとエイジロウの顔を睨みつけた。
「な……なんだよ」
「……はっ、ガキじゃねえか。そっちのクソメガネも、丸顔も」
「クソメガネ!?」
「丸顔!!?」
やはりと言うべきか、こういうとき真っ先に当惑から憤激に感情が移行するのはテンヤである。「クソとはなんだ!」と詰め寄ろうとするが、
「……!」
刹那、その足が止まった。──リュウソウケンの切っ先を、差し向けられたのだ。
「寄るなや、端役が」
「……ッ!」
「ちょっ、もう!何やってんだよ、洒落にならないだろ!?」
緑髪の少年が割り込み、剣を引かせる。少なくとも彼は友好的な態度をとろうとしているようだけれども、既に場の雰囲気は取り返しがつかないほどに冷却化している。それはこの"威風の騎士"が望んだことでもあった。
「チッ」舌打ちとともに踵を返し、「こいつらに用はねえ、いくぞデク」
「いや僕は用あるよ!?ちょっ……かっちゃん!」
歩き出す相棒をそれ以上制止できない少年は、やむなくといった様子でエイジロウたちのほうを振り返った。
「僕たち、この先のオルデラン村に行くので……よかったら来てください、話したいこともあるので。では!」
「あ、おい──」
「早よ来いやデク!!」と怒号が響く。少年はデクという名前らしいが、この場で得られた情報はそれだけだった。彼らはおろか、二体の騎士竜もあっという間に山々の間へ走り去ってしまったので。
「い、行っちまった……」
「リュウソウブラック、なんという奴だ!あんな男が俺たちと同じ騎士などと!」
「……ダイエットしたほうがええんかな……?」
三者三様の反応を見せるエイジロウたち。彼らを色めき立たせるだけの存在であることには間違いない。そして"デク"ことリュウソウグリーンのほうは、彼らとの交流を望んでいるということも。
「……とりあえず、オルデラン村ってとこに行ってみようぜ」
「ムッ……そうだな、グリーンの彼とは話をする価値もありそうだ」
少年ふたりの会話はそのまま彼ら騎士竜戦隊の方針となる。オチャコが異論を挟まなければ、の話だが。
異論ではなく、懸念がひとつ。
「行くのはええけど……場所、わかるん?」
「あっ」
「!!」
硬直、そして沈黙。即ち答えを言っているようなものだった。
冷や汗を流しつつ、ぎこちない所作で背後に向き直るエイジロウ。彼らの頼みの綱は、"彼"をおいて他にはいないのだ。
「……コタロウ、知ってる?」
「………」
ため息をつくコタロウ。知っているが、教えない──そんな意地悪を言わないくらいには、彼が大人びていることが不幸中の幸いなのだった。
*
同じ頃、テンヤ少年が可愛く見えるほどに激昂している男?がいた。
「オレの、オレの可愛いワームマイナソーたんが……。リュウソウジャー……よくも、よくもおぉぉぉ!!!」
ワームマイナソーを"ペット"と称し使役していた、死の商人クレオン。せっかく育てたマイナソーを灰燼に帰された彼の怒りは、尋常なものではなかった。
「かくなるうえは!……あーでも大丈夫かなぁタンクジョウさまのヤツぅ。三人に敗けて五人に勝てるわけないっしょ!?」
新たな騎士竜と竜装騎士が現れたことは、当然彼も認識している。リュウソウジャーになったばかりの小僧三人より、新たに出現したふたりのほうが明らかに上手だ。タンクジョウの力が五人と五匹を上回っているといえるか、どうか。
「やっぱルークじゃダメかぁ。ビショップ以上のヤツ連れてくるしかねーのかなぁ、う〜ん……」
各地でマイナソーをつくり出しては売りさばいているクレオン。彼にとってタンクジョウはいち顧客にすぎず、ゆえに忠誠心などというものは微塵も存在しないのだった。
*
深い森の中を進むこと二時間、頭上の太陽が南の頂へと昇りはじめた頃、エイジロウたちは目的の場所へたどり着いた。
「ここがオルデラン村かぁ……」
故郷のほかに訪れる初めての人里を前に、感慨深いものを抱くエイジロウたち。木々に身を隠すように存在している集落は、リュウソウ族の村よりずっとこじんまりとしている。それでも確かに、ここに生きる人々の息づかいが感じられた。
「コタロウくんはここ、来たことあるん?」
オチャコの問いに、コタロウは小さくかぶりを振った。
「いえ。村や街の位置関係は、地図を見なくとも頭に叩き込んでおくのが旅人の常識です」
「そ、そうなんや……」
「なるほど……。きみは幼いながら、周到に学んで行動しているんだな!」
「叡智の騎士として、俺もあやからなくては」と、鼻息を荒くするテンヤ。外の世界と隔絶された環境で育ったゆえ、彼らリュウソウ族の少年たちはまだまだ知らないことも多い。始まって未だ一日足らずの旅、既に何もかもが新鮮だった。
(ケント、トモナリ。おめェらにも、見せてやりたかったな……)
掌を濡らした血の感触は、すっかり洗い流した今でもはっきりと残っている。当然だ、まだあれから一日も経っていないのだから。
きっとこの感触は、一生消えてなくなることはないのだろう。今はせめて、一刻も早く村を再び解放し、トモナリと一緒に、ケントを弔ってやりたい。
「おや、あんたたちも勇者様かい?」
「!」
と、声をかけてきたのは羊を連れた年かさの男だった。体格の良さはテンヤに負けず劣らずだが、どちらかというとずんぐりした身体つきをしている。
「こんな辺鄙な村に勇者様ご一行がふたつも来るなんて、珍しいや。この通り、何もない村なんだけどねえ」
「いえ、そのようなことはありません!我々としては新鮮なものばかりです!それと我々、厳密には勇者ではなくリュウソウジャーでして──」
「……テンヤくん、とりあえずお口チャック」
村人の話に興味はあるが、第一に訊かねばならないことがあるのである。
「スンマセン。もう一個の勇者一行に、"デク"ってヤツいますか?こう、緑のモジャモジャした髪で、俺らと同い年くらいのヤツなんスけど……」
「ああ、その子なら仲間と一緒にすぐそこの宿にいるよ。知り合いなのかい?」
「うす!俺ら、そいつらに会いに来たんス」
知り合いと言っても、今朝がた初めて遭遇したばかりなのだが。ただ同じリュウソウ族、リュウソウジャーであるがゆえに、エイジロウが親近感を抱くのも無理からぬことだった。
「そうかぁ。あの勇者様には一度世話になってるからねぇ。知り合いだって言うならこれ、あげるよ」
そう言って羊飼いの男が差し出してきたのは、竹の水筒だった。中は白い液体で満たされている。
「ヤギの乳さ。栄養たっぷりだぞ」
「!、もらっていいんスか?あざす!」
エイジロウたちは、ヤギの乳を手に入れた!
──………、
ヤギの乳で道中小腹を満たしつつ、エイジロウたちは宿屋に向かった。深い森に覆われた村内は、白昼にもかかわらず薄暗い。とはいえそれは気持ちを沈めるより、癒やすものだった。枝葉の隙間から差す木漏れ日が、より拍車をかける。
「なんか、平和やねぇ……」
「うむ……こうしていると、先程までの激戦が嘘のようだ」
彼らは、知らなかった。こんな辺境の小さな村であっても、ドルイドンの魔の手は伸びつつあるということを。
「──うわぁあああああん!!!」
「!」
静穏を切り裂くような金切り声に、エイジロウたちは瞬時に身を硬くした。一拍置いて、走り出す。リュウソウケンを抜く用意もできていた。
しかし彼らが目の当たりにしたのは、ある意味日常的に見られる光景だった。
「うぁあああ、いたいよぉぉ……!」
地べたに尻餅をつき、泣き叫んでいる小さな子供。膝の皮膚が破れ、出血している……などと表現すると大事だが、要するに転んで擦りむいてしまったのだろう。エイジロウたちは顔を見合わせて苦笑した。ただ無視できるほど冷淡ではなく、助け起こそうかと一歩を踏み出そうとした。
そのとき、
「大丈夫?」
「!」
駆け寄ってきた少年の姿は、まさしくエイジロウたちが捜していたものだった。
「擦りむいちゃったんだね。大丈夫、すぐ痛いのどっか行っちゃうよ」
「うぇ……ほんとぉ?」
「ほんとさ。僕にまかせて」
水筒に入った水で患部を洗ったあと、少年が取り出したのは薄緑色の粉末が入った瓶だった。それを傷に振りかけると、こぼれ落ちないように布巾を当てて縛る。言葉にすれば単純な作業だったが、それにしても非常に手際かよかった。
暫くして痛みが引いてきたのか、泣きやんだ少年が立ち上がった。
「もう痛くない?」
「うん!ありがとー、おにいちゃん!」
そう言って、子供はとたたっと走っていく。見送る少年は、そばかすの散ったまろい頬を弛めながら手を振っていた。
そして、
「──あ、」
目が合う。──"疾風の騎士"との、二度目の邂逅だった。
*
「俺、エイジロウってんだ。こっちは仲間のテンヤとオチャコ。で、この子はコタロウっつって……訳あって一緒に行動してる、人間の子供」
「そうでしたか。僕はイズクって言います、よろしく」
かのリュウソウ族の少年は、自らをイズクと名乗った。友好的に終始するセカンドコンタクトだが、エイジロウたちにはいくつか疑問もあって。
「あれ?でもきみ、"デク"って呼ばれてなかった?」
その中では比較的重要度の低いものを、まずもってオチャコが訊いた。よもや偽名というわけでもないだろうが。
と、イズクあるいはデク少年が苦笑を浮かべる。
「"デク"はあだ名なんだ。僕の名前、文字にするとそうとも読めて……どこかの言葉で、何もできない無能、みたいな意味があるらしいんだけど」
「何っ?ではあの男は、仲間であるきみをそんなふうに呼んでいるのか!?」
「許せん!」と憤るテンヤ。彼の反応は"らしい"ものとして、エイジロウたちもなんとも言えない気分だった。
「まあ、かっちゃん……カツキは昔からそうだから。──それより、」童顔がわずかに引き締まる。「きみたち、リュウソウジャーになったばかりだよね?村で何かあったの?」
永く続いていた封印を解くのは、尋常な事態ではないはずだ。イズクの推測は当たっていた。
時折表情を歪めつつ、エイジロウが事の経緯を説明する。──親友が、死んだことも。
話し終わるのを待って、イズクは沈痛な面持ちでつぶやいた。
「……そう。じゃあ僕たち、間に合わなかったんだ」
「間に合わなかった……とは?」
「僕たち、マイナソーを追ってこの辺りまで来たんだ。きみたちの村の方角へ向かったところまではわかったけど、途中で反応が消えて……。そうか、きみたちが倒したからだったんだね」
不意に、エイジロウたちのほうに向き直る。──そして、やおら頭を垂れた。
「力になれなくて、ごめん」
「イズク……」
謝罪の言葉には、それまでのどちらかというとおっとりした語り口とは打って変わって真に迫るものがあった。エイジロウたちが一瞬、何も返せなくなるほどに。
暫くしてようやく、イズクは顔を上げた。
「せめて、その神殿のことがわかればいいんだけど……僕らも存在くらいしか聞いたことがないんだ。本当にごめんね」
「……気にしねえでくれ、俺らが未熟だったんだ」
そう──自分たちがもっと強ければ。タンクジョウを軽く斃してしまうだけの力があれば。きっとケントは守れたし、村を封印に追い込むこともなかった。
それももう、すべて過去のことだ。過去は取り返せない。失ったものは未来で埋め合わせるしかない。そのために今を、精一杯生きている。そうして全身全霊を尽くしてもなお、決して戻らないものもあるのだけど。
「マスターが言ってた。リュウソウジャーが五人揃えば、ドルイドンにだって勝てるって」
「………」
「だからこれからは、おめェらと一緒に戦いてえ」
ゆえに今、それが唯一エイジロウの望むことだった。エイジロウだけではない、テンヤ、オチャコもまた。
対する、イズクは──
「僕も……きみたちと共闘できたら、嬉しいと思う」
「じゃあ──」
「でも、ダメなんだ。かっちゃ……カツキはそれを望まない」
「どうして……?」
「彼は、他人を信用しないから」
いつも、いつでもそうだった。彼はイズク以外の他人と触れ合うことを良しとしない。どんなに親しくされようと、その裏に悪意を見出そうとする。
昔は、そうではなかった。──しかし今、同じリュウソウ族の仲間に対してさえ、そうなってしまったのだ。その明確な理由を、相棒にさえ見せようとしない。
「……わかった」
頷くエイジロウ。しかしそれは、諦めと同義ではない。
「なら、あいつに会わせてくれ。直接話がしたい」
それだけで容易く、相手の気持ちが変わるとはエイジロウも思っていない。しかし変えたいと思うなら、動かなければ駄目なのだ。
元々大きな目をさらに見開いたイズクは、ややあって柔らかく微笑んだ。
「……そうだね。そう言ってくれて、ありがとう」
「礼には及ばねえよ。それで、あいつ……カツキはどこにいるんだ?」
「………」再び険しい表情に戻り、「実は別行動中なんだ。──かっちゃんは今、マイナソーを追ってる」
「何っ?ならば今すぐ、俺たちも打って出るべきではないのか!?」
逸るテンヤを手で制し、イズクは続ける。
「勿論そのつもりだよ、僕はきみたちを待っていたんだ。……ただ、その前に会ってほしい人がいる」
「会ってほしい、人?」
「マイナソーの、宿主さ」