砂漠の片隅にて、巨躯の竜人と怪物とが激戦を繰り広げていた。
「キシリュウネプチューン、トルネードストライクッ!!」
竜人の片割れ──黄金の戦騎キシリュウネプチューンが、必殺の一撃を放つ。それは見事怪物──マイナソーに直撃し、その身を吹き飛ばした。
「まだ倒れねえか……」
「大丈夫、次で決めるぜ!──センパイ!」
「……ああ」
ナイトソードを構えるキシリュウオースリーナイツの肩に飛び乗る、紫苑色の鎧騎士。
「ビュービューソウル……!」
突風のエナジーを秘めたリュウソウル。それをガイソーケンに装填し、"不屈の騎士"ガイソーグはスリーナイツと呼吸を合わせた。
そして、
「「「「キシリュウオー、テンペストブレードッ!!」」」」
ナイトソードとガイソーケン、まったくスケールの異なるふたつの剣。それらもまったく同時に振るうことでひとつの膨大なエネルギーとなり、巨大な獲物をも喰らい尽くすのだ。
「────!!」
宿主の欲求を表す言葉を断末魔として叫びながら、マイナソーは粉々に爆発四散するのだった──
「アァ、またヤラレチャッタ……」
その一部始終を見届けていた、マイナソーの操者たるドルイドン──ワイズルー、そしてクレオン。彼らは並んで砂の上に三角座りをして、見るからにブルーな精神状態であることを示しているのだった。
「こうも毎回毎回敗退すると、いっそ清々しい気持ちになってしまうでショータァイム……」
「……ひょっとしてオレもワイズルーさまも、侵略向いてないんじゃねーすかね……」
「ぐぬぬ、悔しい……でも否定できん……!」
そろそろ今後の身の振り方を考える必要があるかもと、クレオンは悩んでいた。ワイズルーと一緒に馬鹿をやったり悪だくみをするのは楽しいが、それがなんの成果にも繋がらない以上、人?生を無駄にしているのではないかという気持ちもあるのだ。数千万年生きているワイズルーにしてみれば、そんな考えは微塵もなかろうが。
せめてリュウソウジャーのひとりくらい、首を獲りたいものだ──半ばかなわぬ夢想としてそんなことを思った直後、背後から強烈な威圧感が漂ってきた。
「ッ!?」
二体揃ってばっと振り向けば、そこには黒づくめの異形の怪人が立っていた。橙色の唐松模様に彩られた頭部が、天高く突き出している。
「なっ……おま、あなたは、ウデンさま!?」
「………」
慌てて飛びのく二体。同じドルイドンであるから敵ではないが、イコール仲間ではない。彼らは顔見知りではあるが、横の繋がりやまして信頼関係などないのだ。今だって、いきなり背後から一撃という可能性もなくはなかった。
「き、北の大地にいるはずの貴様が何故ここにいる、ウデン!?」
「………」
「我々になにか用か!?」
「………」
「いや何か言って!?」
いっこうに喋らないウデン。元々そういう性格の男ではあるが──
死の黒い大地に填め込まれた宝石のような翡翠色の一つ目が、今はただ不気味だった。
*
さて、無事にマイナソー討伐を終えたリュウソウジャー一行は既に西の大地の北端付近にまで至っていた。
間もなくめざす北の大地──というところで、問題がひとつ発生した。正確には、発生することを予期した、と言うべきか。
まどろっこしい言い方になってしまったが、何かと言うと被服である。鎧を着込んでいるテンヤなどはまだしもエイジロウは袖のない軽装であるし、カツキに至ってはマントを除けばほぼ半裸である。如何に環境変化にも強い頑丈なリュウソウ族といえど、今の恰好で氷雪に閉ざされた世界に踏み込めば凍死は免れない。
どうしたものかと悩んでいたところに、彼らはバザールに遭遇した。バザールというのは、行商人たちが寄り集まって形成した市場の通称である。西方の砂漠の国から持ち込まれた商売方法だが、同じ砂漠地帯ゆえ容易に定着しているのだった。
街ではなくこのような砂漠のいち地域に設営されているのは、住民ではなく勇者や同じ行商人など旅人向けだからである。──つまり、北方へ向かうために必要な商品も取り揃えられているということで。
「ふむ、これが北国の衣装か……」
分厚い布で編まれた外套に身を包み、つぶやくテンヤ。全体がほぼ漆黒に塗り潰されている中で、首元と手袋だけは赤く染め抜かれている。実用性を重視する北国の民のささやかなお洒落なのだと、店主が解説してくれた。
「こういうの着るの久しぶりだね、かっちゃん」
「寒ィとこ行かんかったからな、ここ何十年か」
そう言うイズクとカツキは揃って同じような恰好をしている。違いといえばイズクが着ているものは首周りからフードを毛皮に覆われていること、カツキはそれがない代わりに赤い襟巻きを身につけていることか。
「ショートくんとオチャコさんは、それにしたの?」
「ああ……つーか、違いがよくわからねえ。なんでもいいんじゃねえか?なぁ、オチャコ」
「はぁ……これだから天然美形は。オシャレさんはワンポイントファッションにこだわるもんなんよ!」
ショートはイズクのそれより毛皮がやや多めの服、オチャコは魔女ルックというのだろうか。ワンポイントファッションにこだわるという割には彼女もたいがい大味なのだが、イズクにファッションセンスは皆無であったし、カツキも仲間たちの服装になど欠片も興味がなかった。
「あとはエイジロウさんですか……」
いちおう自分なりにこだわったコタロウが、つぶやいたときだった。
「皆、待たせたな!」
揚々とした声を聞き、皆が一斉に振り返る──そして、硬直した。
「え、エイジロウくん!?その恰好は……」
「へへっ、どうだ?似合うだろ?」
自慢げに鼻頭を擦るエイジロウ。下半身こそ皆と同じように厚手の下穿きを履いている。それはいい。問題の上半身は、首元を覆っている以外その鍛え上げられた身体が剥き出しになっていて──
「てめェクソ髪、ふざけてんじゃねえ!!」
「同感だッ、真面目にやりたまえ!!」
一行の中でもとりわけ強烈な威圧感を放つふたりに詰め寄られ、エイジロウは思わず後ずさった。
「だ、だってよぉー……しっくり来るのがなかったんだもんよ」
「……だからって、脱がなくてもいいんじゃねえか?」
店主曰く、極寒の地でも裸に近い恰好で生活する部族はいるとかなんとか。しかし彼らは総じて寒さに強い体質を継承しているわけで、当然エイジロウには当てはまらないわけで──
「やり直し」
「……わーったよぉ」
哀れエイジロウ、イチから選び直させられる羽目になったのだった。
その頃、タマキは市場の中心部にある休憩スポットで座り込んでいた。例によって落ち込んでいる……というわけではなく、先ほど購入した紙に何かを書き込んでいる。時折難しい表情を浮かべて停滞しては、暫くしてふたたび再開──を繰り返して、ようやく佳境に入ったところだった。
「……ふぅ」
一度大きく肩を上下させてから、紙を二つ折りにする。それを便箋に仕舞い込んだところで、背後から声がかかった。
「何書いてたんですか?」
「!」
覗き込んでくる少年の目から、タマキは慌ててそれを隠した。
「……隠さなくても良くないですか?もう便箋に入れてるのに」
「……コタロウくんか……すまない、咄嗟で」
見られて困るものではない──というか、いずれは見せるためにしたためたものなのだが。しかしタマキは未だ、そこに書いた内容を実行する踏ん切りがつかずにいた。
「それにしても、本当に良いんですか?北国用の衣装、買わなくて」
「……俺はもう十分厚着してるから。それに──」
すぅ、はぁ、とひとつ深呼吸をして──タマキは思い切って、封をした便箋をコタロウに差し出した。
「これ、きみが預かっていてくれないか……?」
「え、え?結局、誰宛てなんですか……?」
「踏ん切りがついたら話す……皆にも。だから、それまでは……」
いつになく真剣なタマキの表情を前に、コタロウは嫌だとは言えなくなってしまった。結局この便箋の中身は誰宛てで、何が書かれているのだろう──このときはまだ、皆目見当もつかなかった。
*
「にしても、地上は本当に色々な環境があるんだな」
「そうだね。でも海の中だってそうじゃない?水域によって棲んでる魚たちも全然違うし」
「まあ……そうか。海っつっても、俺たちの国はあの辺りの海域一帯だけだからな」
ひと足先に店を出たイズクとショートは、そんなおしゃべりをしながら物見遊山を楽しんでいた。商人たちが集まっただけと侮るなかれ、バザールの賑々しさは小規模な集落を遥かに凌ぐ。様々な地域から運ばれてきた商品の数々。中には遥か遠方の異国からやってきたものもある。
しかし、
「昔はもっと賑わってたんだけどね。やっぱり、ドルイドンの影響は大きいや……」
「そうか……。海の中にまで手ぇ出してくるヤツがいたくらいだしな」
思い起こされるガチレウスの姿。今まで出逢ったドルイドンの中でも特に救いようのない男だったが、どういうわけか亡父とそっくりな声をしていた。しかし"そうだった"という事実が記憶に残っているだけで、その声色も思い出せなくなりつつある。人生の百分の一にも満たない期間の旅の中で、ショートは今まで生きてきたより遥かに大勢の人々の、喜怒哀楽の声を耳にしてきた。
「けど、ワイズルーと北方にいるっていうドルイドンを倒せれば、随分状況も変わるんじゃねえか」
「うん。あとは異国に散った連中くらい──」
そのときだった。平穏そのものだった市場の真っ只中の空気が、急に緊迫したものとなる。身体が咄嗟に反応しようとするより早く、その殺気は背後から迫ってきた。
「ッ!」
剣をとるのも間に合わず、ふたりは振り向きながら同時に飛び退いた。刹那、彼らの脳天があった場所を閃刃がひと薙ぎする。
「………」
「!、おまえは……!」
「……見ねえ顔だな」
ドルイドン──それは明らかだった。しかしその漆黒のボディに光る一つ目、そして静謐そのものの挙動は、かの群青の道化師にすっかり慣らされてしまった少年たちに緊張感を与えるもので。
「我が名は、ウデン。北方より参った」
「ウデン……!?」
「北方から……ってことは、タマキ先輩の言っていた──」
会話──と言うほどのものでもないが──はそこまでだった。ウデンがふたたび剣を振り上げ、襲いかかってくる。ともあれドルイドン相手に生身では不利に決まっている。斬撃をかわしつつ、ふたりは咄嗟にリュウソウルを構えた。
「「リュウソウチェンジ!!」」
ケボーンと陽気な声が響き、ふたりの全身をリュウソウメイルが覆う。どうしてか人気のなくなった市場のど真ん中で、剣闘が始まった。
「ハヤソウル!」
「ビリビリソウル、」
『ビューーン!!』『ザッバァン!!』とふたたび音声が響き、それぞれのボディに竜の魂の結晶が装着される。
「出し惜しみはしない……!──ショートくん!!」
「ああ……!」
相手は凄まじい闘気を放つドルイドン。全身全霊の攻撃で、一気に勝負を制する──!
「フルスロットルディーノスラァァッシュ!!」
「ファイナルサンダーショット!!」
グリーンが目にも止まらぬ斬撃で切り刻んだ直後、膨大なエネルギーを蓄えた電光弾がウデンに直撃した。
「当たった……!」
相手はドルイドンだ、これだけで倒せるなどとは思っていない。しかし直撃すれば、その出鼻を挫くことはできるはず──
そんな考えさえ甘いと文字通り斬り捨てるのが、このウデンというドルイドンだった。
「これが、貴様らの技か。効いたぞ」
「……!?」
言葉とは裏腹に、ウデンの身体には傷ひとつついていない。動揺する少年騎士たちに対し、彼は目にも止まらぬ勢いで迫った。
「なっ、速──」
「──貰う」
"それ"もまた、リュウソウ族の動体視力をもってしても一筋の光でしかなかった。
「貰った」
次の瞬間にはもう、その場に疾風の騎士と栄光の騎士の姿はなく。ただ立ち尽くすウデンの脇腹を彩るバックルが、妖しい輝きを放っているばかりだった。