【完結】僕のリュウソウアドベンチャー   作:たあたん

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36.拝啓、友よ 2/3

 騒擾を起こさぬまま静かに終焉を告げた戦闘は、他のリュウソウジャーの面々にも気取られることはなかった。

 つまり──それが"異常"と認識されていない以上、"彼"がおかんむりになるのがいつもの流れであるわけで。

 

「どこほっつき歩いてやがる、あのクソボケどもォ!!」

 

 また始まった、とスリーナイツ組はため息と苦笑とを入り混じらせた。彼は神経質であると同時にせっかちなので、ばらばらに行動しているときなど、集合時間に誰かが少しでも遅れると途端に機嫌を急降下させる。とりわけその要因となりやすいのがマイペースなショートなのはもう、是非もないことであった。

 

「でも、ショートさんひとりならともかくイズクさんも一緒でしょう?ふたりして戻ってこないのは変じゃないですか?」

「確かになぁ。イズクなら引きずってでも連れてくるだろ、おめェがどういう性格なのかよくわかってんだし」

「……何かに巻き込まれた可能性がある……かも、しれない」

 

 エイジロウとタマキの言葉を受けて、カツキは一転「……わーっとるわ」と小さくつぶやいた。イズクも何かに夢中になってしまうと大概なのだが、彼が暴走するときは逆にショートがしっかりする傾向にある。ふたり揃ってなんの音沙汰もないというのは、確かに異常な事態が起こっている可能性もある。

 

「……捜す、二手」

「二手に分かれるっつーことだな、りょーかい!」

「よ〜し、じゃあいつものアレで──」

 

──せーのっ!

 

 グーを出す者、三名。パーがふたり。俗に言うグーパーというやつである。

 

「おお、久々にスリーナイツが揃ったな!」

「なんか逆に新鮮やねぇ……」

「……チッ、クソ陰キャとかよ……」

「………」

「僕はそこの喫茶店で名物のキャラメルアーモンドミルクホイップクリームチョコレートソースモカチップトッピングトールサイズをいただいてますんで、よろしく」

「なんだそれ、新しい呪文?」

 

 ともあれ、イズクとショートを捜して彼らも動き出した。市場は広いが、正真正銘の街に比べればなんというものでもない。二手に分かれてぐるりと半周すれば、ものの数十分で捜索も済むだろう。

 このときは、そう思っていた。

 

 

「イズク〜!!」

「ショートくーん!!」

 

 市場を構成するテントとテントに挟まれた狭い路地を、三人並んで走り抜ける。呼び声がこだまするが、応答は返ってこない。それどころか──

 

「ね、ねえ……なんか変ちゃう?」

 

 オチャコが不安げな声をあげる。「きみも気づいていたか」と、テンヤが険しい声で応じた。

 

「先ほどから、人々の気配が感じられない。中心街はあれほど賑わっていたというのに」

「皆……どこに行っちまったんだ?」

 

 人気のない街というのは、もとより人里離れた山や森の中より余程不気味なものを感じさせられる。

 

 自ずと三人で背中合わせになり、警戒態勢をとろうとする。しかしそれすらも、"彼"は凌駕しようとしていた。

 

「……ファイナル、サンダーショット」

 

 電光が、その刃から奔る。エイジロウたちがそれに気づいた瞬間にはもう、彼らは光に呑み込まれていて──

 

「!、──………?」

 

 はっと気づいたときには、エイジロウは暗い洞窟の中らしき場所に立ち尽くしていた。

 

「ここは……?──テンヤ、オチャコーっ!!」

 

 傍から消えていた仲間たちに呼びかけるが、返事はない。転移させられたのか?それとも幻術か?やむなく思考を巡らせるエイジロウだったが、結論が出るより先に閃刃が降ってきた。

 

「ッ!?」

 

 咄嗟に地面を転がり、すんでのところで剣をかわす。刈り取られた髪の一部がはらりと宙を舞い、エイジロウは思わず息を詰めた。

 

「………」

「おめェ……ドルイドン!?」

「我が名はウデン。北方より参った」

 

「──おまえの技を、見せろ」

 

 淡々とした口調で言い放つと同時に、鋭く斬りかかってくる。言葉の意味が引っ掛かりはしたが、戦わないという選択肢はありえない。

 

「ッ、リュウソウチェンジ!!」

『ケ・ボーン!!』『メラメラソウル!!』

 

 リュウソウメイルとディメボルケーノの鎧を同時に纏い、火炎を放ちながら斬りかかる。今自分がどのような状況に置かれているのかも、わからないまま。

 

 

 *

 

 

 

 一方、カツキとタマキ。

 

 彼らの前にも、ウデンは姿を現していた。

 

「てめェは……」

「我が名はウデン。北方より参った……これで三度目だ」

「………!」

 

 その意味をカツキは即座に察した。イズクたち、そして分かれたスリーナイツの面々も、このウデンというドルイドンに遭遇して──

 

「てめェ、あいつらをどこに──」

 

 詰問しようとしたときだった。血相を変えたタマキが、いきなり斬りかかっていったのは。

 

「なッ、おい──」

「………」

 

 沈黙のまま、その剣を受け止めるウデン。動揺しているのはむしろカツキのほうだった。陰気なところはあるがそのぶん冷静なタマキが、あんな我を忘れたように敵へ特攻していくなんて。

 その理由は、即座に判明した。他ならぬタマキの口から飛び出した言葉によって。

 

「おまえ……っ、ミリオを、よくも──!」

「!!」

 

 カツキははっとした。ミリオを殺したのが、このウデンというドルイドン?

 タマキは怒りのままにぎりぎりと鍔迫り合いを続けている。しかしなんの反応も示さないウデンの一つ目が不意に光るのを、カツキは認めた。

 

「タマキ!!」

 

 カツキが叫ぶのと、

 

「……ボルカニック、ディーノスラッシュ」

 

 ウデンの刃が、紅蓮の炎を放つのが同時だった。

 

「ッ!」

 

 寸分の冷静さは残っていたようで、タマキはその軽やかな身のこなしで咄嗟に後退してきた。

 

「ったく、いきなり突撃すんなやどこぞのクソナードか!」

「……すまない、頭に血が上ってる」

「現在形かよクソが。……あいつが、ミリオを殺したんだな?」

「……ああ」

 

 タマキの瞳には未だ憎悪の炎が宿っている。しかしカツキとコミュニケーションをとろうという意識はあるようだ。ならばその激情を無理に抑えつけさせる必要もない。

 炎、といえば。

 

「今の技は、メラメラソウルの──」

 

──そう、"もう一体のウデン"と死闘を繰り広げるリュウソウレッドは、まさしくその技を放ったところだった。

 しかし目の前のウデンには、まったく攻撃が通用しない。それどころか、

 

「う……ぐぅ……っ」

 

 攻撃を放った途端に身体の力が抜ける。同時に竜装も解け、エイジロウはその場に片膝をついた。

 

「ッ、どう……なってんだ……?」

 

 その現象は、エイジロウ以外の"取り込まれた"面々も見舞われていた。テンヤもオチャコもイズクもショートも、皆、技を放つたび異常なまでに体力を消耗していた。

 

「もっと、技を見せろ」

 

 彼ら全員の前に、どういうわけかウデンが立ちふさがっていて──

 

 

「連中の居場所、吐かすぞ」

「……ああ!」

 

『ケ・ボーン!!』

「リュウソウチェンジ!!」

「ガイソーチェンジ……!」

 

 漆黒のリュウソウメイルに、紫苑色のガイソーグの鎧──それぞれがそれぞれの鎧を纏い、ふたたびウデンに斬りかかる。

 

「………」

 

 それらをいとも容易く受け流しつつ、ウデンもまた剣を振るう。無駄のないその挙動は、普段のタマキのそれと奇しくも似通っている。ただそのタマキ改めガイソーグはというと、ミリオの仇であるドルイドンを前に平静ではいられないのだが。

 

「落ち着けやっ、冷静なンがてめェの取り柄だろうが!!」

「ッ、わかってる……!」

 

 わかっていても、ミリオの最期の姿が頭に焼き付いて離れない。でもその顔が、時折エイジロウや、他の仲間のものに変わることがあって──

 

(あんなことは、もう繰り返させない……!)

 

 ようやく、かけがえのない仲間とふたたび出逢えたのだ。あの目の前の世界が崩れていくような想いを、もう二度と、味わってなるものか。

 そんな決意とは裏腹に、ウデンは派手さはないながら精錬された力を見せつけてきた。

 そして、

 

「スイングバイ……ディーノスラッシュ」

「──!」

 

 彼の持つ剣が柔らかくなり、刃がしなりながら伸長する。ブラックとガイソーグは驚きながらも、互いを庇いあいつつ、その一撃から身を守りきった。

 

「ッ、こいつ……!」

「皆の技を、コピーしている……っ」

 

「………」

 

 ウデンは相変わらず余裕綽々といった様子だった。極めて腹立たしいが、如何ともしがたい。唯一、できることがあるとすれば。

 

「ッ、ブットバソウル!!」

『ボムボム〜!!』

 

 右腕に黒とオレンジの外装を纏うと同時に、ブラックは跳躍した。BOOOM!!と爆発を起こし、その勢いでもってウデンの背後に回り込む。

 

「オラァ!!」

「!」

 

 剣を振るった瞬間巻き起こる爆炎に、ウデンが初めてわずかに圧される様子を見せた。そこでガイソーグもすかさず走り出す。背後から斬りつけようとするが、咄嗟に防がれてしまう。

 

「クソ陰キャなんざ放っとけやぁ!!」

 

 ふたたび、爆炎。しかしウデンを揺さぶることができたのもここまでだった。彼は疾風を纏うがごとき速度で彼らと距離をとってしまったので。

 

(今のはハヤソウルか……!)

 

 ギリリと歯を食いしばる間もなく、次の攻撃が放たれようとしていて。

 

「……ディーノ、ソニックブロー」

 

 ウデンが剣をもたない左の拳を突き出す。刹那辺り一帯を激しい衝撃波が呑み込む。咄嗟に地上で防御態勢をとったガイソーグはまだしも、不安定な空中にいるブラック──彼はその煽りをもろに受けた。

 

「がぁ──ぐッ、」

 

 内臓ごと全身がシェイクされるような感覚。骨が引きちぎれそうな痛みと嘔吐感に苛まれながらも、彼は態勢を立て直そうとする。

 しかしそれより早く、ウデンが目前まで跳躍してきていた。

 

「────、」

 

 刹那、ブラックはその刃の餌食になっていた。

 

「カツキ──っ!!」

 

 タマキの叫びも虚しく、ブラックの姿が粒子のようになっていく。そしてそのまま、ウデンのバックルの中に吸い込まれた。

 

 

 不幸中の幸いというべきか、カツキは斬殺されてはいなかった。その身は無事のまま、ウデンのバックルの中に存在する異空間に取り込まれたのだ。

 

「おまえの技を、見せろ」

「一つ目野郎……!──そういうことかよ、クソがっ」

 

 今さら言うまでもなく察しの良いカツキはこの場所も目の前のウデンも、どういったものなのか即座に理解した。無論それだけで状況が好転するわけではない。ただ、敵が何を目論んでいるかがわかればできることはある。

 

「ッ、趣味じゃねえ……けどなぁッ!!」

 

 吐き捨てると同時に──敵に背を向け、一目散に走り出す。

 そして、さらに叫んだ。

 

「聞こえてるかてめェらぁ!!──その一つ目野郎と戦うんじゃねえッ、技と力を吸い取られんぞ!!!」

 

 いちか、ばちか──その声は洞窟内を反響し、仲間たちに届いた。

 

「なら……逃げの一択!」

 

 それぞれ思い思いの方法でウデンと距離をとり、逃げ、隠れる。当然敵はあとを追ってくる。逃げることもまた、戦いだった。

 

 

 一方で、唯一残されたガイソーグの孤軍奮闘が続いていた。

 

「はぁッ!!」

「………」

 

 素早くガイソーケンを振り下ろす彼に対して、ウデンはそれ以上の勢いでもって受け止める。そしてすかさず、カウンターを叩き込んでくる。

 

「ッ、ぐ……!」

 

 迂闊に技は出せない。その一撃で倒せなければそのまま報復を受けるだけなのだ。やるなら、一撃で仕留めなければ。そのためには、自分ひとりでは不可能で──

 

(あの胸のバックルの中に、こいつは皆を閉じ込めている……!あれに傷をつけられれば……!)

 

 しかしウデンも、タマキがそれに気づいていることはわかっている。──率直に言って、剣の腕も身体能力も遥かに上回っているのだ。バックルをむざむざ攻撃に晒すような真似はしない。

 

「おまえは、死ぬか」

「……ッ、」

 

 冷酷な言葉が、明確な芯をもって心に突き立てられる。ウデンはしょせん抜け殻の鎧を纏っているだけの自分に、なんの価値も見出してはいない。技を見せようとしないなら、このままじわじわと嬲り殺しにするつもりなのだろう。実際ガイソーグの鎧はあちこち斬り裂かれ、中のタマキの心身に大きな負担をかけ続けている。

 

「がはっ……あ!」

 

 ついに鎧の一部が限界を迎え、ばらばらと崩れ落ちた。紫苑の鎧騎士が、その場に倒れ伏す。

 

(やっぱり、もう駄目なのか……この鎧も……)

 

 呪縛から解き放たれたこの鎧には、騎士竜の加護も何もない──ただ量産品よりは遥かに上質な鎧というだけでしかない。ドルイドンの激しい攻撃を受け続ければ、遅かれ早かれこうなる運命だったのだ。

 タマキは、己の運命を悟った。騎士竜の加護もなしにドルイドンと独りで戦えばどうなるか、親友が証明している。

 

(でも、)

 

(それでも、)

 

 ガイソーグ──タマキは、ふたたび立ち上がった。

 

「俺はもう、逃げない……!」

 

 これ以上、何も失わないためにも。

 

「不屈の騎士の真価、見せてやる……!──ビュービューソウル!!」

 

 肚を決めた彼は、その一撃にすべてを賭けた。

 

「エンシェント──ブレイクエッジ!!!」

 

 唯一持つリュウソウルのエネルギーを込め──放つ。それは閃光の刃となって、ウデンを紅蓮の中に呑み込んでいく──

 

「見たぞ、おまえの技」

 

 ウデンはあっさりとその技を我がものとした。そして、放とうとして──

 

「いない……!?」

 

 ガイソーグの姿が、その場からかき消えていた。ぐるりと周囲を見回すが、どこにもその姿が見当たらない。

 いったい、どこに──

 

「──上か!」

 

 その一つ目が、ぎょろりと上空を見る。果たしてそこに、標的の姿はあって。

 ウデンが剣を構えるのがスローモーションに見える。あのとき──ミリオを失ったときと奇しくもまったく同じ光景。唯一異なるのは自分が正真正銘の独りで、誰かに庇われる()()はないことか。

 いずれにせよもう逃げられないし、そんな気はタマキにも更々ない。ただ、ウデンに向かって渾身の一撃を放つだけだ。

 

(今度こそ、俺は──)

 

 

 そして、ウデンの剣が鎧を刺し貫いた。

 

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