「オオォォォォォォ────ッ!!!」
空気を震わせ、蟲一匹に至るまでもを恐怖させる超弩級
で、あるならば。目の前の怪物を放置しておくわけにはいかない。騎士たちは相棒たる騎士竜たちの変形したナイトロボと融合し、その行く手に立ちふさがった。
「待ちやがれ、マイナソー!!」
対峙してみると、そのスケールの差がさらに明らかとなる。しかし気後れしているわけにはいかない。この周辺にも、小さな集落がいくつか点在するのだ。
「頼むぞ、キシリュウオーパキガルー!」
「やってやるティラァ!!」
「がってん!」
ステップを踏みながら、巨竜に向かっていくキシリュウオーパキガルー。相手は微動だにしないままそれを迎えた。どういうつもりか知らないが、舐められている。
「リュウソウ族の騎士と騎士竜、舐めんなよ!!」
動かないならその間に決着をつけんとばかりに、がら空きの下腹部にこれでもかと拳を叩きつける。分厚い鉄板にすら一撃で風穴を開ける拳の乱打は、しかし巨竜の身体を凹ませることもかなわない。ただ不快ではあったのか、赤い瞳がぎろりとこちらを睨みおろした。
「!」
「下がれキシリュウオー!」
キシリュウネプチューンシャドーラプターが参戦する。左手に融合したクラヤミガンがダークマターを生成し、放つ。単なる銃撃とは趣を異にする攻撃、スケールの違いはさほど問題にならない──
──はず、だった。
「グオォアァァァァァァ──ッ!!」
にわかに巨竜が咆哮する。途端に発せられた衝撃波が透明な防壁と化し、暗黒物質の塊を消滅させてしまったのだ。
「うそ……!?」
「シャドーラプターの力さえ無力化するとは……!」
「ッ、まだ終わってねえ!!」
通常攻撃で駄目ならいちかばちか、必殺の拳を叩き込むしかない──!
「「「ブーストブレイク、クロー!!!」」」
突き出した拳から飛び出すチビガルー。パキガルー本体に比べればかなり小さいが、そのぶん敏捷性には大きく優れる。その拳から連続して放たれる殴打は文字通り百烈拳の様相を呈していて。
「グァァ……!」
拳をその身で受け続ける巨竜が、うめき声をあげながら後退をはじめる。よし、効いている。勝利への糸口を掴めたと確信するリュウソウジャーだったが、それはあぶくのように儚く脆い夢想にすぎなかった。
「グゥ、オ、オオオオオオオ────ッ!!!」
巨竜が憤懣を撒き散らすかのごとく咆哮する。それと同時に、額から突き出した一本角がスパークするのが見えた。
「!、モサレックス!」
「わかっている!」
何が来るかを察知したゴールドが、キシリュウネプチューンを前面に出す。──それと一本角から激しい電撃の嵐が放たれるのが、同時だった。
「ぐぁ────、」
悲鳴は、岩山が弾け飛ぶような凄まじい音の奔流によってかき消された。
気づけば、四人はふたたび砂礫の中に投げ出されていた。
「ッ、ぐ……」
「何が……どうなって──」
仰ぎ見れば、つい今の今まで自分たちと融合していた騎士竜たちが、もとの姿かたちを晒して倒れ伏している。雷撃に強い耐性のあるキシリュウネプチューンが庇いに入ってなお、皆、その暴威に耐えることができなかったのだ。
巨竜はなおもそこに佇んでいる。──やおらその凶悪な顔がこちらに向けられるのを認めて、四人は戦慄した。
しかしその直後、予想だにしないことが起こった。巨竜の身体が光の粒に覆われたかと思うと、まるで何かに吸い込まれるようにして忽然と消えてしまったのだ。
「え、何?何が起きたん!?」
「消えちまった、な」
「それはそうだが……」
まるで夢でも見ていたかのような状況の変転に、呆気にとられる四人。しかし現実に巨竜の痕跡は色濃く残り、傷ついた騎士竜たちも倒れたままだ。
──何より、悪夢は未だ終わりではなかった。
パチパチパチと、場に不似合いな軽妙な拍手が響き渡る。同時に襲いくる強烈なプレッシャーに、四人は全身が総毛立つのを自覚せざるをえない。
「あははは、お見事お見事。スペースドラゴンを怒らせるなんて、やるじゃないかリュウソウジャーくんたち」
「!、おまえは──」
現れたのは、放つ威容にはまったく不釣り合いな小柄な怪人で。にもかかわらず、本能的な畏怖が身体を支配しようと蠢き出している。
「ボクはドルイドンを束ねる者、すべての強さを手に入れる者──」
「ドルイドン・ナイトクラスの──プリシャス」
「プリシャス……!?」
「ってか、ナイトって……」
ナイト──騎士。ドルイドンにあるまじき称号だと感じる以前に、聞いたことのない階級だった。ドルン兵のみで構成されるポーン、タンクジョウやガチレウスのような火力に長けた生ける殺戮兵器たちの属するルーク、そしてワイズルーやゾラ、ウデンのように奸智と戦闘能力を兼ね備えたビショップ。──まさか、さらにその上?
「ボクのかわいいペット、スペースドラゴンはお気に召したかな?」
「スペースドラゴン……さっきの竜のことか!?」
「いったい、あれだけのもんをどこに消した?」
その問いに対し、プリシャスはなんら隠しだてすることもなく応じた。手にした小さな瓶のようなものを空いた左手で指差す。
「ここにしまったんだよ。この子ってば、放っておくといつの間にか星を喰らいつくしてしまうからねぇ」
「……!」
「真に受けるな、どうせ大袈裟に言ってるだけだろ」
そんなこけ脅しには怯まない──プライドの高いショートらしい表明だが、今回ばかりは分が悪いとしか言いようがなかった。
「信じるも信じないも勝手だけどねぇ……現にキミたちと仲良しの騎士竜ちゃんたち、あのザマじゃないか」
「ッ、」
スペースドラゴンの前にはまったく歯が立たず、砂礫の中に沈んでいる騎士竜たち。その姿を認めれば、歯噛みせざるをえない。
「でも、スペースドラゴンをこれ以上暴れさせない方法がひとつだけある」
「……何だと?」
「な、なんなん、それ?」
「簡単なこと、──飼い主であるボクを倒せばいいのさ」
「できたらの話だけどね」──そう続けて、薙刀の刃先を向けてくる。応戦しないという選択肢は、当然リュウソウジャーの面々には存在しえなかった。
しかし、
「ああ、ごめん。雑魚には興味ないんだ」
「なっ……!?」
「──リュウソウレッド、ボクと全力で戦う気はあるかな?」
鼻白む他の面々を無視して、プリシャスは勇猛の騎士を指名した。
「ウデンを倒したっていうキミの力、見せてほしいんだ。──ああ、怖ければ全員でかかってきても、もちろん逃げても構わないよ?」
「……言うじゃねえか」
初遭遇にもかかわらず、エイジロウという少年の心根を巧みに揺さぶってくる。──そんな挑発を受けて、乗らずにいられる男ではないのだ。
一歩を踏み出そうとするリュウソウレッドの手を、旧くからの仲間が引き留めた。
「待てエイジロウくんっ、奴はこれまでのドルイドンとは違う!いくらマックスリュウソウルの力があるといっても、ひとりで挑むのは危険だ!」
「テンヤくんの言う通りだよ!あいつにバカにされるのはムカつくけど、ここはみんなで──」
「──いや、」
エイジロウは存外に頑固で、そして冷静に仲間の申し出を撥ね退けた。
「あいつが強ぇのは間違いねえ。でも実際にやってみなきゃ、具体的にどう強ぇかはわかんねえだろ」
「あ……それは、そうだが──」
エイジロウらしからぬ物言いに、幼なじみでもあるふたりは戸惑う。彼なりにこれからのことを考えている、というのは、本人の言もあって理解しているつもりだったけれど。
「エイジロウの言うことにも、一理あるかもしれねえな」
「!、ショートくん……」
「マックスリュウソウレッドなら、通常の竜装どころか強竜装より攻防秀でている。もしあいつが強大な力を秘めていたとしても……──だろ?」
マックスリュウソウレッドの鎧ならば、いかなる攻撃に晒されたとて装着者を守ってくれる。──タマキの二の舞いには、ならない。
「………」
結局テンヤもオチャコも、彼に一度すべてを託すしかないと悟った。今の彼と自分たちでは、戦闘力に大きな差が生まれてしまっている。それは厳然たる事実だった。
「……わかった。少しでも不利なようだったら、俺たちも参戦する。足手まといになるつもりはないからな」
「おうよ、頼りにしてるぜ!」
兜で隠れていなければ、にかっと笑う彼の顔が見られたことだろう。いずれにせよ彼は踵を返し、プリシャスの面前に立ちはだかったのだが。
「勇敢だねぇ。称賛に値するよ、リュウソウレッド」
「………」その言葉には応えず、「マックスリュウソウ、チェンジ」
マックスリュウソウルを装填──『マックスケ・ボーン!!』という発声とともに、リュウソウレッドのボディを堅牢の鎧が覆っていく。
『オォォォォ!!マァァァックス!!!』
その姿かたちが大きく様変わりする。右手と完全に一体化した鉤爪を構え、マックスリュウソウレッドは一歩を踏み出した。びゅう、と風が吹き、砂塵が身体を撫ぜる。
「──うおぉぉぉぉぉぉッ!!」
それと同時に、彼は勢い込んで吶喊した。プリシャスは薙刀を構え、それを悠然と迎え撃つ。鋭いものの相克により、ガキンと激しくも透明な音が響き渡る。
「うぉらぁッ!!」
「は……、」
全身全霊を込めて爪を振るうマックスリュウソウレッドに対し、プリシャスは笑みめいた吐息を時折洩らすばかりだ。決して手を抜いているわけではないが、余裕をもって戦っている。ワイズルーなどまったく寄せつけず、ウデンをも討ち果たした赤の重騎士相手に。
(でも……規格外ってわけじゃねえ!)
確かに敏捷で抜け目はないが、それだけだ。ならばビショップクラスの連中の上位互換でしかない。どんな敵にも必ず動作にパターンがある。その中に存在する隙を見つけ出して、ここぞというところで突けば──
「……ふぅん、確かに侮れない力だねぇ」
不意にそうつぶやくと、プリシャスはこちらの攻撃を適当に受け流して後退してしまった。戦闘がヒートアップしていたことなど、まったくお構いなしという様相である。
「じゃ、試させてもらうとしようか」
「……?」
訝しむレッドに対し、プリシャスは禍々しい紋様の描かれた符を掲げてみせた。それをくるりと裏返す。
「──!」
そこに描かれているものを認めて、マックスリュウソウレッドは言葉を失った。──まるで吸い込まれ閉じ込められたかのような、マックスリュウソウチェンジャーがそこにはあった。
それを己の身体にかざし、プリシャスは獣のように姿勢を低くした。──既視感だけではない、身体が覚えている態勢。まさか。
「──ははははっ!!」
哄笑とともに、プリシャスは跳躍した。地面と水平になった身体が、手にした薙刀もろとも横回転を始める。それはやがて速度を上げ、プリシャス自身をそのまま旋爪へと変えた。
「ぐうぅぅ……!!」
その速度を前に回避は間に合わない。マックスリュウソウレッドは通常形態に比べて全体的な能力の底上げが図られてはいるが、攻撃や防御に対してスピードの面では大きく変わっているわけではないのだ。逆に言えば、スピードと比して防御力は大きく強化されているということでもある。それを信じて、耐えるしかない──!
「ぐあぁぁっ!?」
果たして耐えたと言えるかどうか、竜装解除にまでは追い込まれなかったもののマックスリュウソウレッドは大きく吹き飛ばされた。凄まじい衝撃に翻弄されながら、その身が地面を転がる。巻き上げられた砂塵に一瞬姿が覆い隠されるほどだった。
「エイジロウくん!?」
「エイジロウ!──ッ、今の攻撃は……」
口にせずとも皆、わかっていた。──あれはマックスリュウソウレッドの必殺技、"エバーラスティングクロー"だ。
「ふふふふ、ボクの攻撃もなかなかのものだろう?」
「……ッ、」
鎧から白煙が上がっている。全身が鈍い痛みとともにびりびりと痺れ、手足がうまく動かせない。
「もう一発浴びたら、どうなっちゃうのかなァ?」
プリシャスは半ば勝利を確信した様子だった。どうなるか──そんなことは決まっている。鎧は耐えきれず、エイジロウの生身ごと串刺しにされるのだ。二度も目の当たりにした身近な者の死が、彼自身にも訪れようとしている──
「──させるものかぁッ!!」
それだけは絶対に実現させないと、後衛に控えていた三騎士がプリシャスに飛びかかった。
「何熱くなってるの、雑魚くんたち?」
「熱くならないわけ、ないやろ……っ!」
「おまえなんぞに、エイジロウはやらせねえ!」
三人がかりの息を合わせた猛攻のために、流石のプリシャスも守勢に回っている。しかし積極的な反撃に出ていないというだけで、彼の余裕たっぷりな態度は欠片も揺らいでいない。事実、彼に対して有為な攻撃はここまででひとつとしてなかった。
(やはり、俺たちでは駄目か……!口惜しいが……!)
「──エイジロウくんっ!!」
「!」
故郷の村から行動をともにしてきた仲間の叫びに、レッドははっと顔を上げる。
「悔しいが今はきみに頼るしかない……!俺たちがこのまま押さえる、きみは一撃叩き込んでくれるだけでいい!」
──だから、頼む。
カツキほど露骨でなくとも己の才能と努力に強固な信をおくかの少年が、そうまで自分を恃んでくれている。エイジロウの心は、間違いなく滾った。
「お、おぉぉぉぉぉ……!!」軋む身体を押して立ち上がり、「エバーラスティング……クロー!!」
『エクセレント!』とマックスリュウソウチェンジャーが唸りをあげ、その力を最大解放する。それと同時に大きく跳躍し、先ほどのプリシャスと同様身体を錐揉み状に回転させながら獲物へと迫るのだ。
「ふぅん、そうくるか」
そのプリシャスはというと、さして慌てる様子もなくそれを認めた。今まで適当に相手をしていた三騎士をいとも容易く振り払うと、自らもまたエバーラスティングクローの構えをとる。
『イケイケソウルッ!!』
「あはははははっ!!」
「……ッ!」
ぶつかり合う力と力。それもまったく同じ構えから放たれた、まったく同じ技だ。であれば最後にモノを言うのは精神力なのだ。絶対に負けてなるものかと己を叱咤しつつ──そうすればするほど、不意によぎるのだ。今の自分に、この最上位のドルイドンが打ち破れるのかと。
そしてその揺らぎは、どんなに抑えようとも肉体に伝播する。蟻のひと穴と化したそれが全体を蝕み、彼を敗退へと追い込んだ。
「ぐぁ、ああ……っ」
地面を転がったのは──またしても、マックスリュウソウレッドのほうだった。
「……ッ、」
一方で、プリシャスもまったくの無傷というわけではなかった。一瞬息を詰めたあと、ふうぅと吐き出す。身体から立ち上る白煙を鬱陶しげに払ったあと、彼は先ほどまでの戯けた調子に戻って笑った。
「ま、頑張りは認めるけど……それじゃあ到底及第点はあげられないねぇ」
「ッ、」
「このまま全滅させてあげるのはとっても簡単だけど、それじゃつまんないし……──そうだ、三日あげるよ。それまでせいぜい足掻いて、ボクとスペースドラゴンを倒す方法を考えておいてよね。死の恐怖に震えてた、なんて言うんじゃ、猶予をあげた意味がないんだからね」
捨て台詞のようにそう告げて、プリシャスはその場から姿を消した。取り残された四騎士たち。彼らは皆、あとを追おうとする気概もなくすほど疲労困憊の状態だった。とりわけ、プリシャスと真正面からぶつかりあったエイジロウは──
「なんという、強さだ……っ」
「私たちもアンキローゼたちも、全然歯が立たんかった……」
「ッ、とりあえず、シャインラプターを呼ぶ」
自分たち以上に、騎士竜たちのダメージが大きい。肉体的に言えば、それは誤りではなかった。
しかし、
「──くそぉッ!!」
エイジロウは傷ついた拳を地面に叩きつけた。柔らかい砂が粉塵となって舞い上がっていく。仲間たちは、その光景を唖然として見つめた。
「通用しなかった……!タマキセンパイが、命をかけて俺に受け継いだ力なのに……っ、俺が未熟なせいで、情けないせいでっ!ちくしょう、ちくしょう、ちくしょぉ……っ!」
涙こそ出なくとも、それはまぎれもなく慟哭だった。少年の悔恨が、憤懣が、砂塵とともに虚空へと巻き上げられていく。
少年たちは、試練に直面していた。
つづく
「俺らがレベルアップするしかねえ」
「ひとりで先へ進もうとしないでくれ……っ」
「……わかったぜ、俺が克服すべきもの」
次回「オペレーション・リミットブレイク」
「限界は、超えるためにある」