【完結】僕のリュウソウアドベンチャー   作:たあたん

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Ex. Tri-gale's Chronicle ⑦

 

 ロディに率いられる形でイズクたちが連れてこられたのは、街の中心通りにある市だった。大勢の人々が行き交い、商人たちの喚声が辺りにこだましている。オセオンのそれより賑やかなことは少なくとも確かだった。

 

「……僕らはどこに向かってるの、ロディ?」

「いい加減教えろや、ブッ殺すぞ」

 

 物腰は対照的ながら、ふたりは明らかに焦れている。オセオン領内にいたときとは対照的だと思いながら、ロディは密かに皮肉めいた笑みを浮かべた。

 

「もうすぐ着くっての。──ほら、あれ」

 

 ロディが指さした先には、ひときわ妖しいたたずまいの建物と"魔法生物の店"というシンプルだがおどろおどろしい看板が掲げられていた。「げ」とカツキが露骨に嫌な顔をす

 る。

 

「てめェ、あんなとこに俺ら連れ込んで何する気だ?」

「連れ込んでって……誤解招く言い方すんなよな。つーか、なんかトラウマでもあんの?」

「ンなもんねぇわ!!」

 

 額に青筋を浮かべて怒鳴りたてるカツキだったが、それは実質図星と言っているようなものだった。まだ駆け出しの頃、興味本位で入った同じような店で魔法植物に襲われ、ここでは到底書けないような酷い目に遭った──イズクは当然そのエピソードを知っているというか、そもそも当事者なのだが、流石にそれを暴露する気にはなれないのだった。

 

 そんなわけで尻込みしていたふたりであったが、ロディに煽られともに入店することになった。入り口付近には案の定ウネウネと蠢く触手やら、人面が浮き出ていて綺麗な声で歌を歌っているものやら、ヘンという言葉では片付けられない植物入りの鉢植えが大量に並んでいた。ただここはきちんと管理が行き届いているのか、ロディたちに襲いかかってくる様子は今のところ微塵もないが。

 

「たのもーっ」

 

 店の奥めがけて声を張り上げるロディ。と、如何にも魔女ですと言いたげな黒い外套を纏った老婆が顔を覗かせた。

 

「フェフェフェ……こりゃまた、随分かわいいお客さんたちだねえ」

「なんだこのいかにもなババア」

「ちょっ、かっちゃん!!」

 

 あまりといえばあまりの言い草である。ただでさえそれでトラブルを誘発しがちだというのに、それこそ"いかにも"な相手に喧嘩を売るとはどういう神経をしているのか。ロディの目論見を潰してしまうか、最悪昔の"トラウマ"と同じ目に遭うかもしれないのに。

 

 幸い、彼女に機嫌を損ねた様子はなかった。イズクとカツキを半ば強引に後ろに追いやり、ロディが前面に出たおかげもあるだろうか。

 

「それで、坊やたちは何をお求めかな?」

「"オオトリ"をレンタルしたい、期限は24時間」

「フェッフェッフェ……いいだろう。24時間なら……金額は諸経費込みで、こんなところかねぇ」

 

 魔女の傍らでペンがひとりでに動き、空中に数字を描いていく。すると今度はその文字を包むように小さな皮紙が浮かび上がり、ロディの手に落ちてきた。

 

「……オーライ。デク、カッチャン、よろしく」

「チッ、よこせや」

 

 紙をひったくったカツキだったが……程なくしてその白い頬が紅潮し、眦が鋭く吊り上がりはじめた。何事かと思いその手元をのぞき込んだイズクは、彼とは対照的に顔を真っ青にしていた。

 

「こ、この金額は……」

「ぼったくってんじゃねーぞババアァ!!」

「ぼったくりだってェ?そいつを一羽育てるのにどれだけ労力がかかるか、想像もつかないボウヤはおうちに帰ってママのおっぱいでも吸ってな」

「ボウヤじゃねえわてめェよりとしう「わーっ!!すみませんでしたっ、言い値で結構です!!」

 

 挑発に乗ったカツキがとんでもないことを口走りそうになったので、イズクは慌てて大声で遮った。代償として彼女の主張を丸呑みにする羽目になってしまったが、いずれにせよ値切り交渉をやっている時間はないのだ。彼らは血涙を呑んで銀貨数枚を支払うと、魔女店主に従って店の奥に描かれた魔方陣に乗った。

 

 途端に彼らの身体はふわりと浮かび上がり、次の瞬間には木の柵で仕切られた空間にいた。一瞬何が起きたのかと混乱したが、すぐに合点がいく。いわゆる転移魔法というものだ。移動可能な距離は術者の能力に左右されるが、一町ぶん移動が可能であればその時点で高位の魔導士であると断言できる、といわれている。そもそも転移魔法じたい、相当な魔力を消費するのだ。

 

「ここは……?」

「厩舎だよ。店に入りきらない魔法生物は全部ここに押し込んであるのさ」

 

 中に入ってみれば、なるほど見たこともないような巨大生物たちが蠢いている。ウネウネと触手を蠢かせる気味の悪い植物も……いた。覚悟はしていたことだが、身を硬くしつつ、なんなら即座に剣を抜けるようにして歩く。

 幸い彼女?らは至っておとなしいもので、彼らは無事に目的のものの前にたどり着くことができた。

 

「こいつだよ」

 

 おぉ、とイズクは思わず感嘆の声を発した。そこにいたのは漆黒の身体をもつ、成人を十人は背中に乗せられそうな鴻だった。

 

「ふーん、まあまあだな」

 

 シニカルな反応を見せるロディだが、イズクは気づいてしまった。彼の肩に止まったピノが、これでもかというくらいキラキラした視線を漆黒の鴻に向けていることに。

 指摘するとロディの機嫌を損ねてしまうことが明らかだったので、無論口には出さない。

 

 そうこうしているうちに代表してロディが店主とやりとりをし、無事成約となったようだ。彼は最後にこんなことを尋ねられていた。

 

「こいつは賢いし、速度も体力も折り紙付きだ、保証するよ。──でもね、こいつは生半可な操縦には絶対に従わない。あんたみたいな小僧に、制御できるかい?」

「………」

 

 瞼が垂れて細くなった老婆の目が、それでもなお鋭くロディを見据える。ロディは一瞬怯んだ様子を見せたが、すぐにへらりと相好を崩した。

 

「こう見えてもアンタより長く生きてるもんでね、腕に自信はあるぜ?」

 

 イズクは一瞬ぎょっとした。相手が世の中のすべてを知り尽くしていそうな魔女とはいえ、リュウソウ族の秘密をこうも簡単に。

 しかしロディの意図は別にあって──その目論見通り、老婆はフェッフェッフェと特徴的な笑い声を洩らすだけだった。

 

「そんだけ大口を叩くんだ、傷ひとつなく返してもらうよ?」

「善処はするよ」

 

 ロディの言葉は戯れ言と捉えられたのだろう。合意は成り、三人は空からオセオンに舞い

 戻ることとなった。

 

 

 *

 

 

 

 騎馬ならぬ騎鳥が漆黒の被毛の持ち主であることも手伝い、出立は逢魔ヶ時となった。

 

「じゃ、ロロ、ララ。ちょっくら兄ちゃん、この騎士サマ方を送り届けてくらぁ」

 

 遊びに来た友人を自宅まで送るような気軽さで言うロディに、弟妹たちは揃って不安げな表情を浮かべる。それを当然のごとく察して、ロディは彼らの頭を両の手で同時に撫でた。

 

「心配すんなって、別に剣もって戦おうってんじゃないんだ。こいつら降ろしたらとっとと戻ってくるさ」

「……約束だよ、兄ちゃん?」

「オフコース。ロディ、ウソつかない」

 

 おどけた口調で言う兄に、弟妹はようやく笑顔を見せた。しかしその意味するところは異なる。まだ幼い(リュウソウ族換算でだが)ララは兄の言葉を無条件に信頼しているが、ある程度もののわかる年齢であるロロはそうではない。腹をくくった兄は何をしでかすかわからないという不安を内心抱えながら、それでもあえて何も言わずに笑ってみせたのだ。だって──

 

「──じゃ、行ってくる!」

 

 大鴉に身を預け、彼らは飛び立っていった。

 

「………」

「ロロにいちゃん、どーしたの?」

「あ……なんでもないよ、ララ」

 

 宵の空に溶けていく大烏。その背に乗る兄は、ロロの知る百年近くの中でもっとも楽しそうで、輝いて見えた。

 

「……いってらっしゃい、兄ちゃん」

 

 

 *

 

 

 

 着々と暮れていく空を、漆黒の大烏が飛翔する。流石に雲の上まで高度はとれないが、逆に言えばそれに近い高さを飛び続けることができるのだ。

 

「うわ、高っ……」

 

 下を覗き込んでしまい、イズクは思わずごくりと唾を呑み込んだ。安全帯はついているから一応転落の心配はないが、騎鳥が墜落すれば一瞬でお陀仏だ。慌てて顔を背けると、後ろからフンと鼻を鳴らす音が聞こえてきた。

 

「ビビってんのか、ナードくん?」

「べ、別にそういうわけじゃ……。かっちゃんこそ、想像力が鈍いんじゃないの?」

「ンだとゴラァ!!?」

 

 互いに拳を握るが、届くか届かないか絶妙な距離である。ぺしぺしと殴り合いともいえない攻撃を繰り出しあうしかない。

 しかしそこで、思いもよらぬ怒声が割り込んできた。

 

「シャラップ!!!」

「!」

 

 ロディだった。背中越しにもよく通る声である。ふたりは思わず声を呑んでしまった。

 

「……頼むから静かにしててくれ。集中してーんだ」

「………」

 

 約160年のリュウソウ族人生であるが、自ら魔鳥を御する経験など皆無に等しい。彼は相当に緊張しているようだった。

 しかしそれで舐められてしまえば、気難しい魔鳥を操ることはできない。彼らは今、綱渡りにも等しい状況にいるのだ。

 

(それでも、ロディならきっと)

 

 心情的にはともかく、彼は見事に黒鳥を乗りこなしている。既に国境は越え、あとは首都スカイミンスターまで翔び続けるだけだ。

 

 

 そうして何時間か経過した頃、漆黒の闇が続いていた眼下に徐々に灯りがともりはじめた。

 

「もうすぐだぜ、花の都」

「豚の間違いだろ」

「……その悪口は高度すぎるよ、かっちゃん」

 

 "神聖"なる国家の"清浄"なる首都にのうのうと暮らす人々を皮肉っての発言なのだろうが。

 ともあれ、

 

「見えてきたぜ、アレがラグナロクタワーだ」

「!」

 

 ふたりは思わず息を呑んだ。高層の建物が多い首都のさらにその核の中にあっても、天をぶち抜くような摩天楼。純白に塗られた外壁は、夜の闇にあっても光り輝いているかのようだった。

 

「あそこに、何かが……」

「てっぺんから侵入すんぞ」

「うん!」

 

 言うが早いか、ふたりは安全帯を外して立ち上がった。無論、飛翔を続ける黒烏の上で、である。

 

「ちょっ、まさか飛び降りるつもりかよ!!?」

「たりめーだ。俺がこいつの手ぇ引いて爆破すりゃあヨユーだわ」

 

 確かに彼のよく使うリュウソウルなら滑空も可能なのかもしれないが、これだけの高度で、突風に煽られながらである。幾らなんでも無茶だ──ロディがそう言い募ろうとしたとき、不意に刺すような赤い光が瞬いた。

 

「ッ!?」

「やべっ……捕捉された!」

 

 同時に鳴り響きはじめる角笛の音。敵襲を知らせているのだろうか。

 

「ここまで来りゃ一緒だ、このまま突っ込めや!!」

「~~ッ、わかってるっての!」

 

 弓矢の届かない高度をとっているとはいえ、下から魔法攻撃の類いが襲ってこないとは限らない。そのまま飛翔を続けタワーに近づいていくロディだが、刹那、その屋上から飛び出してくる漆黒の影を認めた。

 

「!、あれは……」

「──やはり現れたか。待ち伏せていた甲斐があったというもの、でござる」

 

 空飛ぶドルイドン、タカマル。オセオン宰相と協力関係にはあっても傘下であるはずがない彼が国境を越えてまで追ってこないのは妙だとは思っていたが、まさか首都で待ち伏せていたとは。

 

「チィッ……おいきしめん、あいつ避けてギリギリまで塔に近づけ!!」

「ハァ!?……ったく、無茶言ってくれるよマジで!!」

 

 避けると言っても、微妙に左右に迂回するくらいでは相手の思うつぼだろう。一計を案じたロディは、次の瞬間声を張り上げていた。

 

「落ちんなよ、助けてやらねーぞ!!」

「え──」

 

 次の瞬間、ロディが勢いよく手綱を引く。途端に黒烏はなんの躊躇いもなく急降下を開始した。

 

「うわ──」

 

 身体がふわりと浮き上がるような感覚。それにもっていかれれば本当に顛落は免れなかっただろう。幸いにしてロディの警告もあり、彼らは黒烏の背中を足場として保つことに成功したが。

 

「────ッ!!」

 

 ロディはそのままガラス張りの天窓に向かっている。一計を案じたふたりは、そこへめがけて飛び降りた。

 ガシャンとクリアな音をたて、ガラス片が散らばっていく。落ち方によっては血まみれになっていたかもしれないが、幸い頑丈なリュウソウ族であったことと受け身を上手にとったことで傷ひとつなく着地することには成功した。

 

「っし──」

「ッ、ロディは──」

 

 そのときだった。彼らより長身だが痩せた身体が、跳躍ではなく墜落の形で迫ってきたのは。

 

「ロディ!!──ッ、ノビソウル!!」

『ビロ~ン!!』

 

 咄嗟にリュウソウルの効果で刃を柔らかく伸長させ、ロディの身体に巻き付ける。そのまま力いっぱい手繰り寄せ、横抱きにする形で回収することにかろうじて成功した。

 

「ロディ、怪我は!?」

「ねぇ、けど……またこれかよ……」

 

 自分より小柄なイズクにいわゆるお姫様抱っこをされている状況──二度目のそれに、ロディも諦念を抱いたようだった。とはいえ受け入れたわけでは当然なく、「早く下ろせ」と威圧したのだが。

 

「あのトリは?」

「俺ら放り出してどっか行っちまった。……まあ、途中で撃ち落とされたりしなきゃ、あのバアさんのとこに戻るだろ」

 

 あっけらかんと言うロディだが、ここから退くすべが失われたことは言うまでもない。リュウソウ族とはいえ闘士でない者を、戦場のど真ん中に引きずり込んでしまった──

 

「ロディ……ごめ「謝んなよ」!」

 

 揶揄めいたいろの失せた、真剣な声音だった。あっと思ったときにはもう、彼はへらりとした笑みを貼り付けていたのだが。

 

「お前らをどこで下ろすのも俺の匙加減だったんだ。それが結局ここまで来ちまった、その時点でこうなることも想定はできてたさ」

「ロディ……」

「過ぎたことよりこれからの話だ。──プロのあんたらからしたら、俺はどうするのがベスト?」

 

 確かに、こうなった以上はロディにどうしてもらうかを考えなければならない。どこか安全なところに隠れていてもらうのが一番ではあるが──

 

「チッ、うだうだ考え込んどる時間はねえぞ」

「!」

 

 カツキの言う通りだった。割れた天窓から、漆黒の影が飛び込んでくる。ふたりはすかさずリュウソウケンを抜いた。

 

「貴様にとってべすとな選択肢を示そう。──我らに協力せよ」

「……!」

 

 場の空気が一気にひりつく。無論タカマルがそんなことを気にするはずもなく、心なしか懐柔するような口調で続けた。

 

「貴様はそこのならず者どもとは違う。曲がりなりにもこの神聖オセオン国の臣民であろう。積極的な協力と恭順を自ら願い出れば罪は軽減、否、その功績によっては叙勲もありうるぞ……で、ござる」

「……へえ、そりゃ光栄なハナシだねえ」

 

 へらりとした笑みを浮かべ応じるロディ。彼のことをよく知らない段階であれば、寝返りを画策しているのではと疑ってしまうところだっただろう。

 

「で……それをドルイドンのアンタが言ったところで、なんの証明になる?」

「何?」

 

 表情を崩したまま──しかし瞳は鋭い──ロディは言い放つ。「約束なら、聖上陛下にしていただきたいね」と。この国の正式な官人ですらない異形の怪人の言葉など、信じるに値しない──ロディは明確にそう言明したのである。

 

「愚かな……まあ良い。貴様らをまとめて始末し、〝アレ〝を奪還するのみ」

 

 刀を抜くタカマル。どのみち、ドルイドンは倒さなければならない。戦いは、避けられない。

 

「かっちゃ「デク、そいつ連れて先に行け」──!?」

 

 先を制するように言われて、思わず鼻白む。

 

「こン中で戦るなら俺のブットバソウルがありゃ事足りる。地面でウロウロされたほうが邪魔だ、とっとと行け!!」

「……わかった。ロディ、行こう!」

「オーライ。……Be safe、カッチャン」

 

 最後に真剣な声音でそう告げると、ロディはイズクとともに回廊へと消えていった。

 

 それを背中で見送り、カツキは不敵な笑みとともに宿敵と対峙した。

 

「は、これで邪魔な木偶の坊どもはいなくなった。心おきなくてめェをブッ殺せらぁ」

「……強がりを。貴様のような小僧、たったひとりで拙者に勝てると思うてか」

「たりめーだ、──リュウソウチェンジ!!」

 

『ケ・ボーン!!』──場にそぐわぬ陽気な発声とともに、リュウソウチェンジャーを通してブラックリュウソウルに秘められた力があふれ出す。

 

『ワッセイワッセイ!そう!そう!そう!ワッセイワッセイ!それそれそれそれ!!』

 

『リュウ SO COOL!!』

 

 カツキを取り囲むように踊っていた小さな騎士たちが鎧のパーツへと姿を変え、彼の身体を覆っていく。漆黒のリュウソウメイルと、なる。

 

「威風の騎士ィ……!リュウソウブラック!!」

『ブットバソウル!ボムボム~!!』

 

 漆黒の竜装鎧の右腕部に、さらに黒と橙に彩られた鎧が装着される。剣を振るうたび爆破を巻き起こす、とりわけ貴重で強力なリュウソウル。

 

「いくぜ……カラス野郎!!」

 

 黒と黒。その激突が今、吹き込む風の中で為されようとしていた。

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