【完結】僕のリュウソウアドベンチャー   作:たあたん

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Ex. Tri-gale's Chronicle ⑨

 

 ラグナロクタワーの頂にて、漆黒の剣士どうしが鍔迫り合いを続けていた。

 

「オラアァ!!」

「ムゥ……」

 

 守護者たる竜騎士──リュウソウブラック。彼は"ブットバソウル"と呼ばれるリュウソウルの力を纏い、紅蓮の発破を続けて攻めに攻めまくっていた。

 それに間一髪、巻き込まれずに飛び回る異形の大鴉──ドルイドンのタカマル。彼は一貫して沈着冷静であるが、優位な戦場へ出られずに鬱屈したものが溜まっていた。

 

(この小童……拙者が外に出られぬよう緩急をつけている。見事なものだ)

 

 やはり荒々しいだけではない。あの緑の小童よりは楽しめそうだ──そんなことを考えているうちに、ふたたび爆風が迫った。

 

「ッ、」

 

 衝撃に吹き飛ばされながらも空中でくるりと一回転し、態勢を立て直す。

 

「やるではないか……そろそろ本気でいくぞ、で、ござる」

「ア゛ァ!?本気じゃなかったってか舐めんな!!」

 

 激昂したブラックが鍔に手を何度も押し込みながら迫ってくる。目にも耳にも障りあるアクション、確か必殺技の構えだ。

 ならば、こちらも全力でぶつかるのみ。

 

「我が愛刀"劫涅"よ──吼えろ!」

 

 漆黒の片刃剣が唸りをあげる。爆炎とともに飛び来る標的と接触する。

 そして、

 

「──"晦冥烈斬"!!」

「ダイナマイトォ、ディーノスラァァッシュ!!」

 

 刹那、ひときわ激しい爆発が頂上部を呑み込んだ。

 

 

 *

 

 

 

「うおぉぉぉぉ────ッ!!」

 

 一方、地上を貫き通した果ての最下層においても、リュウソウ族の少年騎士と神聖オセオンの壮年宰相の戦いは始まっていた。

 雄叫びをあげ、突撃する前者。一方で後者はオカリナめいた小さな笛を吹くだけだ。

 

 たったそれだけのことで、"ドルイドン"たちは襲いかかってきた。

 

「グオォォォォォ!!」

「ガアァァァァァ!!」

 

 野獣の咆哮としか言いようのない唸り声。そこにやはり人間の面影は残されていない。ならば、容赦なく倒す──相棒ならあるいはそう割り切っていたかもしれないが。

 

(でも……本気でやらなきゃ、ロディを守れない!)

 

 今、守るべきものがある。彼は未来の自分に良心の呵責を託した。疾風怒濤のごとく敵陣に突撃し、全身全霊で剣を振るう。

 

(一体ずつ無効化するしかない……!ここは、一気に!)

 

「フルスロットル、ディーノスラァァッシュ!!」

 

 ハヤソウルの秘めたる力を最大限に引き出し、目にも止まらぬ閃刃を放つ。その標的は、細くも異様なまでに背の高い"ドルイドン"。

 

「グアァァ……!」

 

 うめきながら後退する"ドルイドン"。あと一撃、叩き込めば──!

 

 そのとき間に割って入ってきたのは、昇降機で襲ってきた巨躯の"ドルイドン"だった。焦るイズク──リュウソウグリーンだが、もう止まれない。である以上は!

 

「はあぁぁぁぁぁ────ッ!!」

 

 ずぶりと、刃が肉に沈み込む音が響く。

 

「グ、オォ……ッ」

「ッ、……!?」

 

 その一撃に巨躯の"ドルイドン"は苦悶の声をあげた。それは確かだった。

 しかし刃は分厚い筋肉によって途中で阻まれ、皮膚を裂くだけで終わったのだ。

 

「くっ……!」

 

 斬り込もうとすればするほど、収縮した筋肉に取り込まれていく。ならばといったん引き抜こうとしても、今述べた通りであるから簡単ではない。

 そうこうしているうちに、まだなんのダメージも受けていない三体が背後から迫ってくるのがわかる。このままではいいようにやられてしまうが、剣を捨てて逃げるのは愚の骨頂。自ら敗北を決定づけることになってしまう。

 

「ッ、ヤワラカソウル!!」

『スルッスル!!』

 

 刃が途端にスライムのごとく柔らかなものとなる。そうなったところで咄嗟に抜き取り、

 

「ノビソウル!!」

『ビロ〜〜ン!!』

 

 振り向きざま、鞭のようにしなる刃を叩きつける。三体の"ドルイドン"にとってそれは不意打ちで、直撃を受けた彼らはグアァ、とうめき声をあげながら吹き飛んだ。

 

(──すげぇ……)

 

 その戦いぶりを目の当たりにして、ロディは率直にそう思った。タカマル相手に苦戦していたときと明確に何が変わったというわけではない。しかし、何かが違う。彼の騎士としての矜持がまざまざと、より鮮明に表れていた。

 

 ロディは、拳を握りしめていた。彼は自分とは違う人間、もといリュウソウ族──そう片付けてしまうのは容易いことだ。

 でも一緒に逃避行をして、その心にふれて……。

 

「!、デク、後ろだ!」

「!」

 

 二頭身の小柄な犬獣人型"ドルイドン"が背後から襲いかかろうとしているのを認めて、ロディは声を張り上げた。それを受け止めたグリーンはすかさず振り向き、獣人の巨大手裏剣の一撃を受け止めた。

 

「ッ、ツヨソウル!!」

『オラオラァ!!』

 

 竜装形態を切り替え、

 

『それ!それ!それ!それ!──その調子ィ!!』

「マイティ、ディーノスラァァッシュ!!」

 

 必殺の斬撃で、目の前の敵を斬り裂く──

 

「──ッ!?」

 

 犬獣人もまた、彼の攻撃を避けていた。それも、剣先の上に乗るという形で。

 退かそうにも、その重量が枷となって剣が動かない。焦りを募らせるグリーンに、"ドルイドン"たちは次々と攻撃を仕掛けていった。

 

「ぐ……ッ、う、あ、あ゛あッ!!」

 

 剣を捉えられた状態では、回避もままならない。容赦ない蹂躪にリュウソウメイルが傷つき、次第に生身の肉体へとダメージが伝播していく。

 

「デク……っ」

 

 手に汗握るロディとは対照的に、ガイセリックは満足顔で笛を撫でていた。リュウソウ族の騎士をこれほどまでに圧倒する"ドルイドン"。──すべての臣民がこれほどの存在たりえれば、周辺国はおろか世界さえも征服しうるに違いない。

 

 

 *

 

 

 

 正真正銘のドルイドンたるタカマルもまた、威風の騎士を圧倒しつつあった。

 

「ふ……、」

「ッ、クソが……!」

 

 床に片膝をつき、肩で息をするリュウソウブラック。その鋭い視線の先には、夜空を背にして翼を広げるタカマルの姿があって。

 

「………」

 

 彼はとりわけ感慨を見せるまでもなく、弓を構え、矢をつがえた。次が、くる。わかっていても、脳の指令に身体がついていかない。完全に動かないわけではないが、反応が明らかに遅れている。

 そうこうしているうちに、矢が放たれた。舌打ちしつつ、ぎりぎりのところで床を転がってかわす。

 しかし、それでひと息というわけではない。一条放つと同時に、タカマルは既に次を用意している。それを避ければ、さらにもうひと撃ち──

 

「ッ、ぐ……!」

 

 右腕の鎧を矢が掠める。一部が破損し、わずかな痛みもはしる。リュウソウメイルも既に限界を迎えつつあるのだろう。

 しかし、ここで退くわけにはいかない。ぎりりと歯を食いしばりながら、カツキはふたたび爆破を起こして跳躍した。

 

 

 *

 

 

 

「がはッ……あ……!」

 

 地下大広間に、少年の苦悶の声が響いていた。未成年ながら疾風の騎士の名をいただく彼は今、複数の"ドルイドン"によって痛めつけられていた。

 激しい攻撃の奔流に、彼は必死に喰らいつき、反撃を繰り出している。しかし彼がひとりであるのに対し、"ドルイドン"は五体。手数もそもそもの耐久力も異なる以上、どちらに分があるかは一目瞭然だった。

 

「──そろそろ、楽にしてやれ」

 

 勝利を確信したガイセリックは、そう命じるとともに笛を吹き鳴らした。それを受けた巨躯の"ドルイドン"が、グリーンの胴体めがけて拳を叩きつける。

 

「うっ──が……っ」

 

 もはや回避もままならない彼は、その一撃をまともに受けた。リュウソウメイル越しにも痛烈なダメージとなり、彼はゆっくりと膝から崩れた。

 そのまま倒れ込むと同時に、竜装が解ける。苦悶にゆがむイズクの顔が露になり、ロディは思わず息を呑んだ。

 

「デ……っ」

 

 呼びかける声は途中で声なき悲鳴へと変わった。俯せに倒れたイズクの背中を、巨躯の"ドルイドン"の足が力いっぱい踏みつけたのだ。

 

「がぁッ!?あ゛、ああ……っ!」

 

 ミシミシと、背骨の軋む音が響く。如何に生まれつき頑丈なリュウソウ族といえど、これでは長くは保つまい。イズクが、死ぬ。今度こそ、殺されてしまう!

 

「さあ、ひと思いにやれ!」

 

 宰相の声が響き、次いで、笛の音が──

 

「──もうやめてくれっ!!」

 

 それをかき消すように、ロディの叫び声が響いた。

 

「ロ、ディ……」

「………」

 

「もう……いいだろ、もう……っ」

 

 身体を震わせ、ロディは同じ言葉を繰り返す。何度も。笛を手にしたまま、ガイセリックはそんなスラムの少年を冷たい目で見据えていた。

 ややあって、

 

「……降参する。あんたの言う通りにする、だから──」

「ッ、ロディ……!何、言って──」

「良い心がけだ」ガイセリックの声が表面上優しいものとなる。「流石、血は争えんな」

「!、……どういう、意味だ」

 

 訝るロディに、ガイセリックは告げた。過去の出来事を──すべてを。

 

「きみの父、エディもかつて、我が国の臣民だったからだ」

「……!?」

 

 ロディは一瞬、目の前の男の言っている意味が理解できなかった。イズクにしてもそうだ。ロディの父親が、ガイセリックの協力者?

 

「エディは遥かの昔、今のきみと同様この神聖オセオン国の臣民であった。尤も、その地位には雲泥の差があったがな……」

 

 スラムのごみために生きる息子とは異なり、かつての父は宮廷魔導士としてその名声を恣にしていた。今から百数十年も昔──ロディが生まれて間もない頃までは。

 それを聞いて、はたと思い至った。あの昇降機に覚えた既視感、あれは気の所為どころかまったく事実に合致したものだったのだ。

 

「彼はわが国の繁栄に大いに貢献してくれた。その発明によって小国にすぎなかった神聖オセオンはこの大陸に覇を唱える大帝国となったのだ。余と同じく宰相の地位にあった高祖父・ヴァンダルは彼を信頼し、この国の根幹にかかわる多くのことを彼にまかせていた……」

 

 そのときだった。ガイセリックの表情が、憤懣に染まったのは。

 

「──だが、エディは消えた!この国のあらゆる機密を肚に抱えたまま、貴様ら家族を連れて逃げ出したのだ!そのために我ら一族は長らく代々の聖上陛下の信任を失い、余の代に至るまで逼塞することになった……!」

 

「エディが"リュウソウ族"なる長命の種族であることを、高祖父ヴァンダルは知っていた。ゆえにエディの発見は、わが家代々の使命であったのだ。そして、今から五十年前──」

 

 ついにエディの行く手を掴んだ。三人の子供もろとも、その咎を受けさせねばならぬ──百年の恨みが一家に降りかかろうかというとき、エディは先手を打った。自らがたったひとり、オセオンに帰還するという形で。

 

「エディはふたたびわが国に取り入り、無期限の奉仕を命ぜらる代わり百年の罪を赦されたのだ。まったく、したたかな男よ……」

「親父……が……」

 

 知らなかった、何も。だって父は何も話してくれなかった。己の過去のことも、未来のことも。そうしてなんの前触れもなく、姿を消してしまったのだ。

 

「……あんたらも、俺らと同じってわけかよ……」

「ああ、そうだ。──だがきみは違うだろう、ロディ?」

 

「父親は要人から自ら罪人に成り下がった。しかしきみには、その逆を行く道が残されている。決断すれば、きみをスラムのゴミと嘲う者は誰もいなくなる。余が、それだけの地位に引き上げてやる」

「おれ、は……」

「ッ、ロディ!!聞いちゃ駄目だ……ぐあっ」

 

 ぐりぐりと踏みつけられ、イズクはそれ以上の句が継げなくなった。

 ややあって、ロディがポケットからあるものを取り出す。──それは他でもない、この事件の端緒となった紅い鉱石だった。

 

「なん……で……」

「……持ってきてたんだよ。万が一、こういうときのために」

「……!」

 

 皮肉めいた笑みを浮かべながら、ロディは一歩を踏み出した。ゆっくり、ゆっくりと踏みしめるように。"ドルイドン"たちが道を開け、彼を迎え入れる。

 

「駄目だ……ロディ……!それを渡したら……!」

「……二度目だよな、デク」

「……?」

 

「あんたは結局、俺を守れなかった」

「……あ……」

 

 一瞬背骨が折られかかっていることも忘れるほど、イズクは頭が真っ白になった。

 

「別に責めちゃいねえ。あんたは俺を繋ぎとめておけるだけの力を示せなかった。ガイセリック……閣下は、そんだけのもんを持ってた。それだけのことなんだよ」

「ロ……ディ………」

 

 所詮、世の中は力だ。腕力、それに権力。ガイセリックは今、森羅万象を凌駕するだけのものをいずれも手にしている。これまでロディは、その"力"にただ虐げられるだけの人生を送ってきた。

 でも、今この瞬間初めて、"力"が自分を取り込もうとしている。ようやく、ようやく報われるべきときが、来る──

 

「ロディ……!ぼ、くは、まだ……っ」

「……いい加減往生際が悪いぜ、勇者サマ」

 

 そう言い捨てて──ついにロディは、ガイセリックの面前に立った。

 

「良い子だ、ロディ」

「………」

 

 ロディの手が、ゆっくりと差し出される。イズクはその光景を、無力感を覚えながら見ていることしかできなくて──

 

 そのときイズクは、不意に違和感を覚えた。なんら変わりないロディの姿かたち、しかし何かが欠けているような、漠然とした感覚。

 その答を探そうと全身を見回して──はたと気がついた。

 

(ピノが、いない?)

 

 ずっと肩に乗せていたはずのピノが、いつの間にか姿を消している。いったいどこに、と思っていたら、ロディの襟元がもぞもぞと動いて、ピンク色の球体が顔を出した。

 

(ピノ!)──彼はイズクをじっと見つめながら、捻り出した片翼を必死にばたつかせて何かを訴えかけている。主の、ロディの本心を代弁するかのように。

 いや、"よう"ではない。ピノの行動はロディの本心そのものなのだ。彼は今、表向きの言動とは異なる何かを起こそうとしている。

 

 ガイセリックの手が、やおらロディの掌に伸びる。そこに置かれた美しい鉱石に、指が触れる──

 

──刹那、ロディがそれを指で弾くようにして頭上へ放り投げた。

 

「な……!?」

「悪ィね、宰相閣下。俺、口約束はキホン信用しねーことにしてんだわ」

 

「例外は、あるケドな」

 

 そのひと言を契機として、ピノが主の背中から飛び出した。面食らうガイセリックの手元から、あるものを奪う。──そう、"ドルイドン"たちに指示を出していた笛だ。

 

「よっと!」

 

 すかさず跳躍し、鉱石をふたたび手にとる。くるりと空中で一回転しながら、ロディは叫んだ。

 

「デク!!」

「ッ、うおぉぉぉぉ!!」

 

 硬直している獣人"ドルイドン"の足下から強引に抜け出すと同時に、ノビソウルの力で伸長した刃を叩きつける。"ドルイドン"たちはその一撃を誰ひとりとしてかわせず、直撃を浴びて吹き飛ばされてしまった。司令塔を失い、彼らも相当混乱しているようだった。

 

「よし、これなら……!」

 

 "ドルイドン"を倒せる。そしてガイセリックを捕縛すれば──

 

 そんな少年の想像は、耳を劈くような炸裂音によって弾け飛んだ。

 

「────!」

 

 咄嗟に振り向いた彼が目の当たりにしたのは、拳銃を構えるガイセリック。──そして、脇腹から血飛沫を飛ばしながらよろめくロディの姿。

 その痩せた身体が天を仰ぐように傾いていく瞬間が、永遠のように思えて。

 

「……ロディ……?」

 

 どさりと音をたてて、ロディが完全に崩れ落ちる。その瞬間イズクは、ようやく状況を理解し、

 

 

「ロディ──っ!!」

 

 

 絶叫、していた。

 

 

 

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