今さらですがエイジロウ以外の面子の北国衣装は新十傑より(オチャコは十傑入りしてないので魔女っ子っぽい感じってことで……)
エイジロウは検索すると出てくるアニメ風絵のヤツです
旧王国の北限を構成する北の大地。隣接する東西地方とは山脈や分厚い流氷に覆われた海によって隔絶されたこの地域は、その大部分を氷雪に覆われた不毛の地である。ただでさえあらゆる生きとし生けるものが厳しい生活を強いられているところに、とりわけドルイドンの侵攻が激しくなっている状況下。どんよりとした曇り空が、陰鬱な空気を助長しているかのようだ。
そこに晴れ間をもたらしうる少年たちが今、南端の海岸より上陸しようとしていた。
「うわっ、寒ィ……!」
第一声がこれ、先行き不安である。
「やはりエイジロウくん、それは薄着すぎたのではないか?」
「お、おお漢はいつだって一張羅に身を委ねるってもんよ……!」
「仔猫のように震えとるやん……」
「ディメにあっためてもらったらどうですか?」
コタロウの発言に「おっそりゃいいなー!」と反応した者がいた。無論、エイジロウ本人ではない。
「………」
皆の白けた視線が、コタロウの懐に集中する。果たしてそこには水色をした卵型の物体が我が物顔で鎮座していた。よくよく見ればそれの表面からは鳥のような足と嘴が突き出していて、一対の赤い瞳が皆を見回している。
「なんだよ皆の衆、プテラノドンが豆食ったような顔してぇ」
「いやそれどんな顔……」
「ハァ……」
いったいこやつ……もとい、彼は何者なのか?
それを説明するには、少し時間を巻き戻す必要があろう。
──彼らがモサレックスに乗って海峡を潜航しているときのことだった。時折分厚い流氷に足止めを食らうのを除いては、至って順調な航海。それが中盤に差し掛かった頃、不意にモサレックスが声をあげた。
「!、この気配は……」
「どうした、モサレックス?」
よもや敵の襲来か。警戒を露にしつつ訊く相棒に対して、モサレックスの応答は意外なもので。
「これは"プテラードン"だ!」
「ぷてらあどん?」
「十番めの騎士竜ティラ!!」ミニティラミーゴも追随する。
「騎士竜だって!?」
突然の邂逅──まだ相まみえてはいないが──は、少年たちを色めき立たせるに十分だった。新たな騎士竜……つまり、新たな仲間。厳しい戦いが待ち受けているだろう北の大地への上陸を目前にして、これは最上級の吉報に相違ない。
「で、どこにいんだ?」
「今探している!」
「兄弟、俺も助力しよう!」
「オイラと父ちゃんも探すぜー!」
最終的には騎士竜総出となってしまった。エイジロウたちも当然、リュウソウルによる感覚強化を使って背上で捜索に参加する。
そうして、カツキが苛立ちはじめる程度の時間が経過した頃だった。
──たす……けて……くれぇ……。
「!」
聴こえた、声が。
果たしてそれは、分厚い流氷の中にいた。既にチーサソウルを使用したあとのような、小さな体躯。それはともかく、その姿は卵のようで、でも意思疎通は明確にできていて──
「と、いうわけだ!」
「いや知っているが……しかし本当なのか、プリシャスに封印されてそんな姿になってしまったというのは」
「本当さ!自由に空翔べないのが不便だぜ……ま、こうやって抱っこされるのも悪かないけどナ!」
「確かにかわえーもんねぇ。せや、プテラードンじゃ名前負けしとるし、"ピーたん"って呼んでええ?」
「名前負けしてない!……ケド、かわいいオレにふさわしい愛称だな!いいぜ!」
(自分でかわいいって言った……)
かわいいのは結構だが、それでしかいられないとなると一行としては非常に困る。騎士竜たちは単なるペットではなくて、ともにドルイドンと戦う頼もしい仲間であってもらわねば。
「どうにか封印を解く方法、考えなければな……」
「俺の炎を浴びせてやろうか!?」
ディメボルケーノの発言。やはりというべきか、冗談には聞こえない。しかも、数名それに同調する者もいて。
「確かに、なんかこう……溶けそうだな、封印だけに」
「いや雑……」
「雑でもなんでも試してやらぁ。死ぬ気でやってできねーこたぁねえんだよ」
「ヒイィッ!?何こいつら、野蛮!蛮族!!」
「ア゛ァン!!?」
「……いちおう、王族なんだが」
プテラードン……もといピーたんがブルブル震えだすのを認めたコタロウは、彼をそっと懐の中へ仕舞い込んだ。
「いくらなんでも乱暴ですよ……。どうせあっためるなら、温泉とか」
「温泉ったって、こんな寒ィところに都合よくねえって……」
肩をすくめるスリーナイツ。しかし彼らは気づいていなかった。いちおうこの地域に来訪経験のあるイズクとカツキが、えも言われぬような表情を見合わせていることに。
──……、
──………、
──…………。
と、いうわけで。
「ふー……って、あるんか──ーい!!」
湯に浸かったオチャコのシャウトが響き渡る。それを即席の仕切りの向こう側で聞きながら、エイジロウは苦笑を零した。
「こんなとこにも温泉あるんだな、ツユちゃんたちのとことは全然環境が違ぇのに」
「この辺りには活火山が豊富だからね」イズクが応じる。「火山から流れ出すマグマの熱で、地下水が温められて噴き出してきてるんだ。外気と雪の冷たさで中和されて、ちょうど気持ちいい温度になってるんだよ」
「物足んねえわ」
「熱ィの好きだもんな、カツキ」
それにしても、激戦区であろう北の大地でのはじまりがこんなのんびりしたものになるとは思わなかった一同である。この辺りにはドルイドンはおろか人間も、他の生物の気配もない。ただ自分たちだけが存在する世界というのは、静かで落ち着いていて、それでいてどこか座り心地が悪い。不思議な感覚だった。
「ふー……」
「……封印、解けそう?」
「ぜーんぜん」
温泉の中でもコタロウの懐に落ち着いているピーたん。まだ出逢って一日も経たないのだが、すっかりここが気に入ってしまったようだ。
そんな彼をじっと見つめながら、テンヤは考えていた。
(プテラードン……もとは空を飛ぶ騎士竜だったそうだが、そうなると……)
空飛ぶ天空島の中にあるという、はじまりの神殿。そこへ辿り着くことが一気に現実味を帯びる。であればプテラードンの封印、一刻も早く解かなくてはならない。何か良い方法はないものか。
テンヤが独りで唸っていると、不意にピーたんが「キャーッ」と裏声めいた悲鳴をあげた。
「あいつ、さっきからオレのこと穴が開くほど見つめてる!エッチ、スケベ!」
「なっ!?失敬な、ぼ、俺はきみの封印を解く方法がないものか考えていただけだ!」
「テンヤはエッチ……ゴホンっ!……"叡智の騎士"だからな。じっくり考えるのは大得意なんだぜ」
「ふーん……。なんか思いついたぁ?」
「いやてめェも考えろや、てめェの問題だろうが」
カツキが容赦のない正論をぶつけるも、ピーたんは「ふん」と鼻を鳴らしてそっぽを向くばかりだ。ぬくい湯から極寒の中へ戻る決心がつかないのと同じくらい、状況は膠着している。
「………」
そんな中、マイペースにも湯の温かさを堪能していたショートであったが、不意に奇妙な気配を感じて振り返った。しかしそこには雪に覆われた大岩が並ぶばかりで、当然ヒトや動物の姿かたちは見当たらない。無論、ドルイドンも。
「どうかした、ショートくん?」
「……いや、なんでもねえ」
気の所為か。慣れない環境で神経が過敏になっているのかもしれない。
しかし視認できなかっただけで、"それ"は確かにそこにいたのだ。降り積もった真白い雪の中に、漆黒の影が熔けるようにして消えていった。
*
リュウソウジャー一行と時を同じくして、ドルイドンのナイトもまた北の大地に上陸していた。
「6,500万年前と変わらないなあ、ここは」
「………」
心臓の描かれた符を弄びながら歩を進めるプリシャスのあとに続きながら、ワイズルーはギリギリと歯を噛み鳴らしていた。己の心臓が、あの符の中に閉じ込められている。それがぐしゃりと握りつぶされたとき、自分は死ぬのだ。それを盾に隷属させられている、グレイテストエンターティナーである自分が。
「おのれぇ、口惜しや……!」
「何か言ったかい、ワイズルー?」
「!、な、何も言っていないでショータァイム!!」
「あぁそう。──着いたよ」
そこは大昔に造られたのだろう古城だった。氷雪に覆われ、その大部分が純白に覆われている。──主をとうに失い、朽ち果てるのを待つばかりとなった楼閣は今、世界に仇なす人外の怪によって占拠されている……。
城に入ったプリシャス一行をまずもって出迎えたのは、大勢のドルン兵の群れだった。彼らは左右にずらりと並んで主のための道をつくり、ひとりとして例外なく敬礼している。その乱れのなさは自由人?の集まりのドルイドンらしさとは対極にあるもので、クレオンなどは一瞬雰囲気に呑まれかけた。一方、隣のワイズルーはハイタッチを仕掛けてドルン兵たちを困惑させるなどしていたのだが。
そしてそのゴールに、白銀の鎧に全身を包んだ馬面の怪人の姿があった。面頬などで飾ってはいるが、馬面……というより馬そのものの顔立ち。彼もれっきとしたドルイドンであった。
「お帰りなさいませ、プリシャス様!」
「ただいま、シグルト。──サデンはいないのかい?」
「はっ!サデン殿はリュウソウジャー追討に出て戦死されたウデン殿の後を引き継ぎ、城塞都市セイン・カミイノ攻略の最中であります!」
「ふぅん、そう」さして興味もなさそうに頷きつつ、「そのリュウソウジャーたちだけど、ボクらと時を同じくして上陸してると思うんだ。キミにヤツらの抹殺を頼みたいんだけど、いいかな?」
頼むと言いつつ、それが脅しを含んだ命令であることをワイズルーは身をもって知っている。ただこのシグルトという馬面のドルイドンは、心底からプリシャスに忠誠を誓っているようだった。「無論であります!」と敬礼する姿に、一点の心の揺らぎもない。
「プリシャス様より賜りしわが愛馬、スキンとフリンも血に飢えております。遠からず吉報をお持ちできるかと」
「フフ……頼もしいねえ。よろしく、シグルト?」
「ははっ!」
恭しく敬礼すると、踵を返してこちらに歩いてくる。ワイズルーの横で一瞬立ち止まると、
「フン!」
「……!!」
露骨に鼻を鳴らし、そのまま歩き去っていく。ワイズルーは憤慨したが、この場で意趣返しができるわけもない。ハンカチを口にくわえて、グギギギギと唸るばかりだった。
一方のクレオンも、決して愉快な心持ちではなくて。
「……やっぱり、オレは無視かよ……」
シグルトの視界には良くも悪くもワイズルーしか入っていないことに、彼は気づいていた。
*
「ふぃー……いい湯だったぁ」
結局一時間近くも長湯をして、しっかり温まったところで一行は温泉を出た。極寒の中で体温が急激に下がっていくのを感じつつ、そそくさと着替える。とはいえ皆厚着なので、終わりには時間がかかるのもやむないことであった。
「あれ?これ、どう着けんだっけ……?」
「見せてみろ……──これ、どうなってんだ……?」
「ムッ、ふたりとも仕方がないな!ところで俺の手袋はどこへ行ったか知らないだろうか!?」
「がぁあッ、めんどくせーなボケボケ三兄弟!!」
一部でこんなやりとりが行われているのを、岩場に置かれたピーたんは冷めた目で見つめていた。人間にしろリュウソウ族にしろ、服で身を包まねば寒さに堪えられないし、そもそも猛暑だろうとなんだろうと裸でいるのは破廉恥だということになる、難儀な生き物だと思っていた。
(やれやれ……)
暫くは唯一リュウソウ族ではないというお坊ちゃんの懐生活かとため息をつく彼の背後に、黒い影が忍び寄っていて──
「──わぁあああああっ!!?」
「!?」
刹那、唐突に響くピーたんの悲鳴に、一行ははっとそちらを見遣った。漆黒の"何か"──そう形容するほかない謎の存在である──に絡め取られ、卵型の身体は為すすべもなく引き摺られていく。
「なっ、なんだ!?」
「ドルイドンか?」
「わかんないけどとにかくやばい!──ハヤソウル!!」
着替え終わっていたイズクとカツキが咄嗟に追跡を開始する。後者がブットバソウルを使用した際の文字通り爆音によって、場所を隔てて着替えていたオチャコが慌ててやってきた。
「ちょっ、何?ケンカぁ?」
「違ぇ!ピーたんが盗まれたっ!!」
「えぇっ!?」
「とにかく俺たちも追うぞ。エイジロウ、テンヤ、いいか?」
「うむ、手袋は見つかった!」
「ちょっ、待って……あとこれだけ……っし、できた!」
「僕も行きます。ピーたんあっためてあげないと」
ともあれ一同、ピーたんを追って吹雪の中を走り出した。