【完結】僕のリュウソウアドベンチャー   作:たあたん

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39.凍てつく翼 3/3

 

 北の大地の西端に、朽ち果てた古代遺跡が静かに佇んでいる。大部分が雪に埋もれたそこは、人間はおろか野生動物ですら入り込むこともない、忘れ去られた無間の地と化していた。

 しかし今、その最奥に人ひとりの影が蠢いていた。すらりとした長身に、雪にも劣らぬ真白い頭髪。目を瞠るような、完成された彫刻のような美しさがそこには宿っていて。

 

 そのアイスブルーの瞳は、壁面に刻まれた古代文字を熱心に追いかけているようだった。今現在も、そしてこの先も他者が訪うことなど考えられない独りぼっちの空間で、青年はふいに唇をゆがめていた。

 

「絶対零度の炎、か」

 

 

 *

 

 

 

「ふぅ、とりあえず撒けたか」

「とりあえず撒けたか、じゃねー!!」

 

 有翼の青年の言葉に、カツキは例によって爆ギレをかましていた。それを仲間たちがどうどうと宥めるのも恒例のシーンである。「こいつ怖ぇ〜」とピーたんがコタロウの懐で震えているところだけが新鮮か。

 

「こそ泥どもが、コイツ盗んだだけじゃ飽き足らず、俺らの邪魔ァしやがって!!」

「邪魔って……あんなでかいドルイドン、きみらにどうにかできるの?」

「できます!我々には騎士竜という頼もしい仲間がいるのですから!」

「!、騎士竜……ふぅん、なるほどねぇ」

 

 意味深に相槌を打つ青年は終始ミステリアスな雰囲気を醸し出していて──行動をともにする寡黙な鴉の面の少年と併せて、山賊崩れにはどうしても見えなかった。

 

「あの……あなたたちは一体?」

「ああ、これは失敬」

 

 青年は自らを"ケイゴ"と名乗った。聞けば彼は最近まで城塞都市セイン・カミイノ守備隊のいち隊長職を務めていたのだという。フミカゲ少年はその部下だったのだと。

 

「ま、今は守備隊を辞職して、彼と一緒に気ままな勇者稼業ってわけさ」

「そんな立派な経歴の人が、どうしてピーたんを盗もうとしたんです?」

 

 コタロウの物言いには明らかに棘があった。「そーだそーだ!」とピーたんも囃し立てている。短気な相手なら挑発と受け取りそうなものだが、ケイゴ青年は飄々としていた。

 

「最近知り合ったお仲間たっての願いでね。彼はどうしてもその子が欲しいそうなんだ」

「ええっ、オレをぉ?」

「騎士竜のことが欲しいなんて……いったいどういう人なんスか?」

「どういう、かぁ。難しいな、ヒトって生き物は明快な言葉で括れるほど単純な生き物じゃないからね」

「ッ、こいつ……!」

 

 またしても激発しそうになるカツキを、「かっちゃんダメだって……!」とイズクが必死に諌める。まだ出逢って間もない──出逢い方自体に問題もあったが──とはいえ、こういう飄々とした手合いと彼の相性が悪いことは明らかだった。

 

「ははっ。それよりきみたち、今までもああやってドルイドンと戦って、常勝してきたんだろう?凄いじゃないか、その若さで大したもんだ。なぁフミカゲ?」

「……ふん」

『オレタチトテ負ケテナイゾ!』

 

 フミカゲの影から飛び出してきた"黒影"が声高に主張する。彼が何者なのかも気になるところではあるが、それはともかく。

 

「……常勝、ではないっスよ。守れなかったもんは幾らでもある……仲間も」

 

 エイジロウのつぶやくような言葉に、一行の空気がしんと静まりかえる。皆それぞれが、自分の隣にひとりぶんの空白を感じていた。そこには本来、"不屈の騎士"が収まっているべきだったのだと。

 果たしてケイゴはいろのない瞳で彼らを見回していたが、ややあってへらりと笑みを浮かべた。

 

「ま、そんなもんだよね。俺たちは全能の神じゃない、どんなに守ろうとしたってこぼれ落ちてくもんはある」

「ッ、てめェ……わかったような口きくんじゃねえ!!」

 

 いよいよカツキが青筋を浮かべ、彼に詰め寄ろうとしたときだった。

 ぶわっと広がった"ダークシャドウ"が、その爪をカツキの喉元に突きつけたのだ。

 

「……貴様にこそ、何がわかる……!」

「!」

 

 仮面から覗く切れ長の瞳に憤懣を滾らせるフミカゲ。対するリュウソウジャーの面々も咄嗟に剣に手をかける。一触即発の空気の中で、フミカゲを押しとどめたのは他ならぬケイゴ自身だった。

 

「フミカゲくん、ストップ」

「!、しかし……」

「ドルイドンも出てきた以上、彼らと争ってる場合じゃない。少なくとも、()()()が戻ってくるまではね」

「あのドルイドン……シグルトについて何かご存知なのですか?」

 

 場の雰囲気を変える目的もあり、テンヤが質問する。そして受けるケイゴのほうも、そういう意図を察してか相棒に目配せをした。

 仕方なしといったふうに、フミカゲが口を開く。

 

「……ヤツはこの北の大地を支配する三魔人のひとりだ。占領地の警邏が主な任務のようだ。白と黒の魔馬に率いられた馬車を操り、人間を発見すると追跡して攻撃する。我々のように飛行でもできない限り、ヤツからは易々とは逃げられん」

「確かにあの馬車、めちゃくちゃ厄介やったもんねぇ……」

「それもだが……三魔人って言ったな。ウデンと、あとは誰だ?」

 

 プリシャスは宇宙から戻ってきたばかりだし、ワイズルーもここでは異邦人だ。この北の地の人々には認識されていないだろう。

 

「そいつについては、俺たちもよくは知らない」ケイゴが引き継ぐ。「ただ最近、そのウデンってヤツに代わってセイン・カミイノの攻略を担っているらしい。噂で聞いただけだけど、ウデンにそっくりな姿をしてるとか」

「………」

 

 ウデンにそっくりなドルイドン──実力も遜色ないなら、厄介な相手になることに間違いはない。ウデンはマックスリュウソウレッドの力で討ち果たしたが、相手も既にその存在を承知している。搦め手で来れば戦況など簡単に覆る。

 

「その、セイン・カミイノという街は、今どのような状況なのでしょうか?」

「まあ、これでもかってくらい高い城壁に囲まれた城塞都市だからね。今のところ持ちこたえてはいるけど、それだって時間の問題だ。現状、ドルイドンを倒せるような秘密兵器もないわけだから」

 

 ケイゴの目が何か言いたげな光を放ったのを、エイジロウは見逃さなかった。すかさずその意思に応じる。

 

「なりますよ、俺らが。その秘密兵器ってヤツに」

「……はは、それは頼もしい。ならまずは、あのお馬マンをなんとかしてもらわないとね」

 

 ケイゴがそう言うのと、地響きが迫ってくるのが同時だった。

 

「──そこにいるのはわかっている!出てこい……!」

「!」

 

──シグルトだ。この場所めがけてまっすぐ接近してきていることからも、言葉に嘘偽りがないのは明らかで。

 

 一瞬迷いはしたものの、エイジロウたちは洞穴から飛び出した。果たして巨大化した馬面が、こちらを豆粒のごとく見下している。

 

「もはやどこにも逃がしはせん。貴様ら全員、踏み潰してくれるわあっ!!」

 

 スキンとフリンの蹄が、彼らの頭上から降ってくる。その直撃を受ければ、頑強なリュウソウ族といえども間違いなくぺしゃんこにされてしまうだろう。

 

「ッ、リュウソウチェンジ!!」

 

 飛び退いてそれらを避けつつ、竜装を遂げる。無論それだけでは巨大化したドルイドンには対抗しえない。ならば、

 

「──ティラミーゴ、ディメボルケーノ、頼む!!」

 

「ティラアァァ!!」

 

 呼び声に応じて駆けつけた赤と橙、二大騎士竜。その焔のごとき色合いは、一面の銀世界にあってより鮮烈に輝いていて。

 

「竜装合体!!」

 

 ティラミーゴがキシリュウオーへと変形し、その身体を覆うようにディメボルケーノが覆いかぶさっていく。赤いボディの約半分が、灼熱を落とし込んだ橙に置き換えられていく。──キシリュウオーディメボルケーノの降臨だ。

 

「そもさん、汝に問う!この形態になるのはいつ以来でしょう!?」

「?、誰に問うてるティラ?」

「細かいことは良い!皆、いくぞぉぉ!!」

 

 久々の単独合体ということで、ディメボルケーノは文字通り気炎を吐いていた。氷雪降りそそぐフィールドだからこそ滾る焔と考え選んだ合体だが、正解だったようだ。そしてトリケーンたちパートナー騎士竜、そしてパキガルーも援護してくれる。

 

「へえ、あれが騎士竜……。感動だなあ」

「………」

「ところで、きみは参加しないのかい?」

 

 そうケイゴが問いかけたのは、ショート──リュウソウゴールドだった。いつものようにモサレックスを召喚することをせず、地上にとどまっている。その理由は明白だった。

 

「コタロウとピーたんの護衛だ。まだあんたたちを信用しきれねえからな」

「ふー……そっかぁ、仕方ないね」

 

 ケイゴは苦笑とともに肩を竦めただけだった。唯一『ナンダトコノ!』と怒りを露にしていたダークシャドウも、フミカゲによって抑えられている。

 

「すみません、ショートさん」

「おまえイケメンだけど良いヤツだな!」

「……いけめんは悪いヤツが多いのか?」

 

 そんなしょうもないやりとりが行われている間にも、戦闘が始まっていた。馬車を操り縦横無尽に動き回るシグルトに対し、キシリュウオーディメボルケーノも奇策に出た。騎士竜タイガランスに騎乗し、そのあとを追ったのだ。

 

「サンキューイズク、タイガランス!」

「どういたしまして、移動は僕らに任せてよ!」

 

 タイガランスは言うに及ばずスピードに最も長けた騎士竜である。かの馬車ほどの安定感はないかもしれないが、少なくとも遅れをとることはないはずだ。

 

「うおぉぉぉぉぉッ!!」

 

 すれ違いざま、ナイトメラメラソードを振りかざす。シグルトの剣とぶつかり、双方に衝撃を与えながら離れていく。振り向けば既にもう随分と距離が開いていたが、それも互いに踵を返すことで終った。

 

「私に倣って猛虎に手綱を掛けるか、考えたものだが所詮猿真似よ!」

「何!?」

「"騎虎の勢い"という言葉を知らないか、愚か者どもめ!」

「──それくらい知っているッ!」

 

 トリケーンとアンキローゼが左右から同時攻撃を仕掛ける。シグルトはそれらを避けてみせたが、わずかにスピードが落ち、軌道がずれたのは確かだった。

 

「てめェの駄馬よかよっぽど利口なんだよ、騎士竜(こいつら)はァ!!」

「それに、強ぇぞぉ!!」

 

 今度はミルニードルとパキガルー&チビガルー。針の乱舞と拳の乱打に、シグルトは防戦を強いられる。

 

「ぬううっ、スキンとフリンを駄馬呼ばわりとは……!貴様らだけは絶対に許さん!!」

「その言葉、そっくりそのまま返すッ!!」

 

 騎士竜タイガランスはイズクの頼もしい相棒で、騎士竜戦隊の一員だ。主に似て戦闘時は激しいが、基本的には穏やかな性格をしている。仲間との連携は十二分にとれる。

 現に今とて、重量のあるキシリュウオーディメボルケーノを背負いながら振り落とすことなく巧みに駆け抜けているではないか。乗用としてはむろん馬のほうが優秀かもしれないが、それを補って余りあるだけのものが彼らそれぞれに存在して、ピースを埋めているのだ。

 

「うぉらぁッ!!」

 

 ついに先んじて肉薄した騎士たちが、刃をシグルトに突き立てた。

 

「グォアッ!!?」

 

 盾で防ぎきれず、シグルトはうめき声をあげた。分厚い鎧を纏っているとはいえ、ナイトメラメラソードの高温の刃は北の極寒に慣れた彼には厳しい一撃だったのだ。

 

「っし、効いたぜ!」

「このままとどめだ、エイジロウくん!」

「おうよ!」

 

 ふたたび方向転換し、一挙シグルトに迫る。敵が態勢を立て直すより寸分早く、炎刃を振り上げる──!

 

「「──キシリュウオー、ブレイジングストームスラッシュ!!」」

「──ッ!」

 

 すんでのところで盾を構えたシグルトだったが、その威力を殺しきることはできなかった。

 

「グワアァッ!!?」

 

 ついにシグルトは落馬した。厳密にはふっ飛ばされたというべきか。巨大化したその身が雪原に叩きつけられ、激しい地響きを起こす。

 

「やったか!?」

「いや、まだティラ!」

「しぶとい……!だったら皆、ファイブナイツで──」

 

 リュウソウジャーにはまだまだ手数が残されている。無性に腹が立つと同時に、その底力をシグルトは理解した。プリシャスが執心するわけだ、とも。

 

「だが……此方とて、なんの手土産もなしにヴァルハラへは行けん!──スキン、フリン!!」

 

 制御を失ったはずの魔馬たちが、主の声に嘶きをもって応えた。

 彼らが蹄を鳴らして走り出した先には、リュウソウゴールドたちが待機している。──巨大化した身をもって、彼らを踏み潰すつもりなのだ!

 

「やべえ……!」

「ショートくんコタロウくんっ、逃げて!!」

「ッ、」

 

 言われるまでもなかった、このスケールの差あってはリュウソウジャーといえども抗しきれないのだから。

 同時に、ケイゴが翼を、フミカゲがダークシャドウを展開する。しかしスキンとフリンの足は彼らの見立てよりずっと速い。間に合うか──

 

「──逃げる必要、ねえよ」

 

 不意に響いた声は、ショートにとって聞き覚えのあるものだった。

 

 同時に、白銀を蹂躪するかのごとく蒼く揺らめく壁が異形の者たちに襲いかかる。それが焔だと認識したのは、離れていてもちりちりと皮膚を焦がすような灼熱と、周辺の氷雪が溶融してたちまち巨大な水泉へと変わり果てたためだった。

 

「ぐっ……な、なんだこれは!?」

「ヒヒイィィィ!!?」

「ッ、スキン、フリン!……やむをえん、撤退!!」

 

 愛馬らがこの熱に耐えきれないと判断したのだろう、シグルトはふたたび馬車に飛び乗ると、彼らを率いて高速で戦場を離脱していった。

 

「な、何が起きたんだ……?」

「!、あ、あそこ!」

 

 皆から少し距離を置いた丘の上に、男の姿があった。雪に覆われたかのような白髪が揺れている。碧色の双眸は、ショートの左眼と共通する色をしていた。

 

「あれ、は……」

「……ショートさん?」

 

 宝石のようなオッドアイが驚愕にみひらかれるのを、コタロウは見た。ただ見知っているのではない、鮮烈に記憶に刻みつけられているのだ。その声が、姿かたちが。長い年月を経て、幾分も成熟した様相を呈していたとしても。

 

「……トーヤ、兄ィ」

 

 数えるほどしか直接そう呼んだこともない第一王子が、今、第三王子の面前に姿を現していた。

 

 

 つづく

 

 





「俺は自分が海のリュウソウ族だとは思ってない」
「このままでは、引き下がれませぬう゛ぅ……!」
「……ありがとうよ、コタロウ」

次回「ゼロ度の炎」

「ヨクリュウオー、推参!!」
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