【完結】僕のリュウソウアドベンチャー   作:たあたん

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40.ゼロ度の炎 2/3

 

「さあて、と」

 

 兄弟の相剋に区切りがついたところで、斥候に出ているテンヤとオチャコを除く全員が集っていた。まるで人々を集めて演説する政治家のように、トーヤが前方に立っている。

 

「感動の再会はもう終わった。──そろそろ渡してもらおうか、プテラードン」

「……!」

 

 ガラス玉のような碧眼に見据えられ、弛緩しかかっていた空気が一気に張り詰める。カツキなどは早速リュウソウケンに手をかけようとしているありさまだ。

 

「あんた、まだそんなことを……!」

「当たり前だろ、そのためにわざわざこんな辺境にまで足を伸ばしたんだ。よりによってオトウトとその家来どもに先越されちまうとは思ってなかったけどな」

「ア゛ァ!?だァれがこの半分ヤロウの家来だ、誰が!!」

 

 ついにカツキが剣を抜いた。その鋒が、隣にいたケイゴの首元に突きつけられる。

 

「!!」

「……てんめェ、いい加減にしねえと仲間ァブッ殺すぞ……!」

「……だってさ。おまえのせいで俺、殺されそうなんだけど」

 

 さして動揺したふうもなく両手を挙げるケイゴ、彼を救けようとダークシャドウをけしかけんとするフミカゲ、カツキを押しとどめようとするイズク。皆が皆各々の信条に沿った行動をとる中にあって、トーヤだけはただ冷たい笑みを浮かべてそこに立っている。その姿はまるで、氷の彫像だった。

 

「……よせ、カツキ。そんなことしても無駄だ」

「ア゛ァン!!?」

「こいつはその人がどうなろうと気にしない。だから、脅しにはならねえ」

「……ッ、チィッ!」

 

 実弟であり、今の今までふたりで話していたショートの言には説得力があった。舌打ちしつつ、カツキは剣を引いた。ふぅ、とケイゴが息をつく。

 

「どうして、ピーたんがそんなに欲しいんスか?」

 

 思い切ってエイジロウが訊く。と、ようやくトーヤの視線が彼を捉えた。ガラス玉のようなその目は、今の今まで何ものも映してはいなかった。弟さえも。

 

「どうしてって……おまえ、馬鹿?決まってんだろそんなの」

 

「騎士竜はドルイドンにさえ対抗できる唯一の戦力だ。つまり、この世界では最強の兵器ってわけ。……そんなもん、誰だって欲しいに決まってんだろ?」

「そんな理由で……」

「ッ、騎士竜たちは兵器じゃない!僕らリュウソウ族にとって、志を同じくして戦う大切な仲間です!」

 

 イズクが反駁するが、トーヤからすればそんなものは綺麗事にすぎない。再反論にすら及ばないものだった。

 

「御託はどうでもいいんだよ。……どのみち、お前らはそいつの封印を解く方法を知らねえんだろ?」

「……あんたは知ってるっていうのか?」

「もちろん。そのためにそいつらと別行動とってたんでね」

「………」

 

 確かに──プテラードンの封印を解く方法がわからない限り、彼は一丁前に喋るだけの無力な球体にすぎない。そして彼は今、コタロウの懐の中でぶるぶると震えている──

 

「……無理に封印を解く必要、ないんじゃありませんか」

「!」

 

 少年たちの視線が、コタロウに集中する。

 

「だってこの子、こんなに怯えてる。……本当は、戦いたくないんじゃないの?」

「そ、それは……」

「いいんだよ、素直に言って。騎士竜だから、戦わなきゃいけないなんてことはないはずだ。……ね、エイジロウさん?」

「!、コタロウ……」一瞬目を丸くしつつ、「……そうだな、おめェの言う通りだ。俺たちは自分の意志で戦場に立ってる。使命は、強制されて果たすもんじゃない」

「………」

「それに、おめェのカッコーなら小さい子に可愛がってもらえそうだしな!」

「お前ら……」

 

 ピーたんは目を潤ませてエイジロウとコタロウを交互に見た。彼の知っているリュウソウ族はもっと野蛮で、正義の旗のもと容赦のない行為に手を染めるような者たちだった。

 

(変わったんだな、リュウソウ族も……)

 

 無論、そうでない者もいるが。

 

「……甘ぇな、お前ら。そんなんであの連中と戦りあうつもりかよ」

「あんたに心配される謂れはねえ。無理強いするってんなら、こっちにも考えがある」

「へぇ……」

 

 鋭く睨みつけるショートの表情を目の当たりにして──どういうわけかトーヤは、得心したような表情を浮かべていて。

 

 この先、展開がどうなるか──彼を除く誰にも読めず場が膠着しかかったとき、不意に遠方から駆けつけてくる小さな影があった。それらは真っ先にエイジロウに飛びついてくる。

 

「うおっ!?トリケーンにアンキローゼ……!?」

「ピィ、ピイィ!!」

 

 頻りに何かを訴えかけてくる青と桃の騎士竜。相変わらずティラミーゴのようには喋れない彼らだが、テンヤたちが斥候に出ているのだ、主訴は読み取るまでもなくわかった。

 

「テンヤとオチャコがあの連中と戦ってんだな!?」

「ッ、やっぱり出てきたか……!──かっちゃん、ショートくん!」

「わーっとらぁ!!」

「………」

 

 リュウソウジャー一行、そしてピーたんを抱いたコタロウも一斉に走り出す。狙った魚もとい翼竜が離れていく中、トーヤは泡を食う様子もなかった。

 

「いいのか、捕まえなくて?」

「ま、漁夫の利っつー言葉もある。──それに、ちったぁ面白ぇもんも見られそうだしな……」

「……面白いもの?」

 

 直接は答えず、意味深に笑っている。そういうところが苦手だと思いつつ、だからケイゴと妙にうまが合うのだろうとフミカゲは推量した。互いに腹に一物抱えた者同士の、奇妙な非・信頼関係。信頼できないとわかりきっているからこそ、気安くいられるということも世の中にはあるのだろう。

 その点、自分は同行者として信頼はされている。しかしケイゴが本音を見せてくれることはそうないのだと思うと、決して愉快ではないフミカゲだった。

 

 

 *

 

 

 

 プリシャス配下のドルイドン・シグルトの軍団と遭遇したテンヤとオチャコは、大軍を相手に孤軍奮闘し続けていた。

 

「ッ、ハヤソウル!!」

『ビューーーン!!』

 

 テンヤ──リュウソウブルーが疾風のごとく駆け回り、ドルン兵たちに先制攻撃を仕掛けていく。さらに、

 

「ドッシンソウルっ!」

『ドッシンッ!!』

 

 ピンクの最も扱いに長けた強竜装──ドッシンソウル。胴体を覆う分厚い鎧と、巨大な手甲。その打擲は直接命中させずとも、地面に叩きつけた際の衝撃波によって敵を吹き飛ばすことも可能とする。

 いずれにせよ、ドルン兵では彼らに太刀打ちできない。体力を消耗させるだけのために兵力を費やすのは惜しいと見切りをつけ、"彼ら"が動いた。

 

「──ヌンっ!!」

「!、きゃあっ!?」

 

 突然背後から襲ってきた一撃を防ぎきることがかなわず、ピンクは吹き飛ばされた。

 

「オチャコくんっ!?」

「よそ見をするでないわぁっ!!」

「──!?」

 

 オチャコはシグルトの攻撃を受けた──吹雪で視界不良に陥っている中、そう認識したブルーにとってそれは予想外の声だった。

 刹那、彼もまた凄まじい衝撃に襲われ、ピンクの傍らに転がり伏せていた。

 

「フン、他愛もない。リュウソウジャーといえども、数に恃まねばこんなものか!」

 

 唸り声、蹄の音。馬獣人のシルエットの隣に、二頭立ての馬車が並んだ。

 

「えっ……し、シグルトがふたり……!?」

「ッ、いや似ているが違う!あれは、マイナソーか……!?」

「如何にも!」応じるシグルト。「これはスレイプニルマイナソー、我がボデーより生み出せし陰獣である!」

「モット……モットハヤク……!」

 

 テンヤたちは愕然とした。このドルイドン、自らの肉体からマイナソーを創らせたというのか?以前、ゾラも同じことをしていたが、あれは不死身の肉体ゆえマイナソーに生命エネルギーを吸いつくされるということがないからこそだった。

 

「貴様……!わかっているのか、マイナソーを生み出すということは──」

「──己の身を削る所業だというのだろう?そのようなことは百も承知である!」

 

「すべてはプリシャス様のもと、大業を成し遂げんがため……。その障害となるリュウソウジャー、貴様らは今日ここで屠ってくれるわあぁッ!!」

「ッ!」

 

 馬車がふたたび動き出す。身構えるふたりだが、パワーとスピードを兼ね備えた馬軍団の猛攻にどこまで対抗できるか。ましてスレイプニルマイナソーという新戦力も伴っているのだ。

 

「テンヤくん、さがっとって!今度こそ、私の拳でブチ砕く……!」

「!、しかし……──いや、そうだな。ここは任せよう!」

 

 ブルーが後方へ下がり、ピンクが前衛で拳を構える。体格や魔導士という立場からはミスマッチにも程がある行動だが、彼女の最大の武器は腕力であることは今さら言うまでもあるまい。

 

「ウオオオオオオ────ッ!!」

「はあぁぁぁぁぁ──ディーノソニックブロー!!!」

 

 前回の戦いと同じ、腕力と馬力──文字通りの──のぶつかり合い。しかしピンクは必殺技を放つほどの全力だ。後先はもう、考えない。

 

 乱打される拳を盾で防ぎながらも、シグルトはそれ以上進めずにいた。剛健の騎士の特性とそれにふさわしい強竜装の組み合わせを、ルーククラスのドルイドンでは破りきることはできない。

 

「ヌウゥ……!スレイプニルマイナソー、援護しろ!!」

「モットハヤクゥ!!」

 

 ここでマイナソーが高速で割り込んでくる。それも織り込み済みだ。なんたってこちらには、叡智の騎士もいる。

 

「オチャコくんの邪魔はさせんっ!!」

「!」

 

 ハヤソウルを使ったブルーがそこに攻撃を仕掛ける。スレイプニルマイナソーのスピードとは同等だが、それで良い。──相方のほうも、シグルトを押し返すことに成功したようだ。

 

「ふー、ふー……どや……!」

「ッ、それで勝ったつもりか!貴様は切札を切った、私は何度でも突撃できるのだあ!!」

「そりゃ、そうかもしれへんけど……!」

 

 ドルイドン相手に単騎で打ち勝とうという戦略は、少なくともオチャコの頭の中には存在していない。リュウソウ族の騎士たちは元々騎士団を結成し、集団で敵と戦っていたのだ。より少数精鋭にはなるが、リュウソウジャーとて同じこと。

 

「──サンダーショット!!」

『ザッバァァン!!』

 

 彼方から飛んできた光の塊が、シグルトとその馬車馬たちを容赦なく貫いた。

 

「グアァァァァ!!?」

 

 その熱と衝撃に、呆気なく落馬するシグルト。馬車を率いるスキンとフリンも、そのダメージに悶え苦しんでいる。

 そこに、さらなる脅威が襲いかかった。

 

「エバーラスティングクロー!!!」

『イケイケソウゥゥゥル!!!』

 

 閃紅が錐揉み状に高速回転しながら迫りくる。それはシグルトではなく、戦場のど真ん中で身動きがとれずにいるスキンとフリンを容赦なく──貫いた。

 

「!!!!!」

 

 馬たちが断末魔の悲鳴をあげる。開いた風穴から魔力の渦を噴き溢しながら、彼らは崩折れ、跡形もなく消散した。

 

「スキン!フリン!!」

「これでおめェの機動力は封じたぜ、シグルト!」

 

 着地しつつ、得意げに振り向くマックスリュウソウレッド。後れてサンダーショットを放ったゴールド、そしてグリーンとブラックも駆けつけてきて、シグルトとマイナソーは完全に包囲される形となる。

 

「リュウソウジャー六人、勢揃いや!」

「貴様の勝ち目はもうない……!観念しろ、シグルト!!」

「ッ、おのれぇ、調子に乗りおって……!──だが、まだだァ!!」

 

 シグルトは次の瞬間、何を思ったかマイナソーを己のもとへと引き寄せた。そして、何やら呪文を唱えはじめる。

 

「あいつ、また巨大化するつもりか……!?」

「させねえ、ファイナルサンダーショット!!」

 

 咄嗟にゴールドが必殺の一撃を放つ。先ほどより遥かに多くのエネルギーを濃縮した光弾が発射され、大量の雪を飛沫へと変える。

 しかしあと一歩のところで命中には及ばなかった。雪飛沫の中から飛び出すようにして、巨大化したシグルトが姿を現したのだ。

 

 いや──その姿はシグルトであって、シグルトではなかった。

 

「な、なんなんあれ……!?」

「下半身が馬になった……のか?」

 

 上半身はそのままに、腰から下がまさしく馬の胴体のように横長に伸び、そこから太く逞しい四本脚が伸びている。さながらケンタウロスのような姿。

 

「フハハハハ、先の私とはひと味違うぞ!!」

「だったら俺らも味変してやらぁ!──みんな、ファイブナイツでいくぜ!!」

「「「おう!」」」

「命令すんな!!」

「モサレックス、いくぞ」

 

 

 騎士竜たちが参戦し──竜装合体。今度は二大巨人が、前後から取り囲むような形で布陣した。

 

「いくぜ!!」

 

 早速動き出す二大ナイトロボ。まずキシリュウネプチューンがアンモナックルを飛ばし、それを丸楯で防いだシグルトの態勢が崩れたところでファイブナイツが一挙に肉薄する。

 

「ぅおらぁッ!!」

「ヌゥッ!」

 

 振り下ろされる刃を、咄嗟に剣で受け止める。極寒の中でも火花が散り、巨人同士の対決がいかに熱をもつものかを窺わせた。

 

「はっ、大層な合体しやがって!見かけ倒しが!」

 

 四足になったところで、馬車を操っていたときほどスピードが出せるわけではない。そもそも元が二足歩行なのだから、慣れない身体に変化してしまったのは悪手だったのではないかとさえ思われた。

 

「ふん……そう思っていられるのも今のうちである!」

 

 言うが早いか──シグルトは、踵を返してその場から離脱を開始した。

 

「奴め、逃げるつもりか……!?」

「やっぱ見かけ倒しやん!」

「とにかく、追おう!」

 

 追跡を開始する二大ナイトロボ。──その後ろ姿を、あとを追ってきたケイゴたちが目撃していた。

 

(あのドルイドン、彼らをどこかに誘い込もうとしている……?)

 

 東西南北一面の銀世界の中、その"どこか"を把握するには時間を要した。──そして気づいた途端、ケイゴの表情からはいつもの軽薄さが消え失せていた。

 

「!!、駄目だリュウソウジャー、そっちは……!」

 

 そのときにはもう、既にナイトロボたちとの距離は大きく開いていて。

 

「──フン!」

 

 逃げ続けていたシグルトが、不意に四足を使って跳躍する。一瞬戦闘中であることも忘れて見惚れてしまうような、見事なハイジャンプ。しかもそのまま空気を薙ぐように、空中を翔けているではないか。

 

「う、馬が翔んだ!!?」

「いや違ぇ。あいつ、雪を踏み台にして落ちずに走ってんだ」

 

 相手は長らく極北の地で生きてきたドルイドン。フィールドの特性を最大限に活かすことも容易なのだろう。前に倒したタンクジョウやガチレウスと実力的には同等といえど、彼は地形の援護を受けている。

 そのまま着地すると、ようやくシグルトは静止してこちらを振り向いた。

 

「ふん、悔しいか?こちらへ来てみろ!!」

「言われなくても行ったらぁ!!」

 

 駆け出すファイブナイツとキシリュウネプチューン。同時に、このシグルトの態度に違和感を覚えている者もいた。わざわざここまで逃げてきて、何故今さら挑発するような真似をするのか。まるで、誘い込もうとしているような──

 

「!、モサレックス止まれ!みんなも──」

 

 ゴールドが呼びかけようとしたときには、もはや手遅れで。

 

──刹那、彼らが踏みしめた足場が、一瞬にして崩落した。

 

「うわあぁぁぁぁぁぁ────ッ!!?」

 

 "それ"を覆い隠していた雪の束もろとも、ナイトロボたちは墜落していく。下が真っ暗で見えない。どれほどの断崖なのか。

 

「フハハハハ、ざまを見ろ!!」

 

 その暗闇の中へ吸い込まれていく竜の騎士たちを見送りながら、シグルトは嘲った。

 

 

 

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