【完結】僕のリュウソウアドベンチャー   作:たあたん

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文字配分間違えた……気がするっ


40.ゼロ度の炎 3/3

 ざり、と、雪の撓る音がする。

 

 ファイブナイツの右腕──ナイトランスが雪に覆われた岩場に突き立てられ、それ以上の墜落をかろうじて堪えていた。

 そして左腕のティラミーゴヘッドは、伸ばされたネプチューンの腕に噛みつき支えている。

 

「ッ、大丈夫、か……ショート……?」

「……ああ。でも、これは──」

 

 そう長くは保たない。かといって、上に戻る手段があるわけでもない。彼らに待ち受ける運命は何も変わらないのだ。空を翔びでもしない限りは。

 

 

 *

 

 

 

「ああぁっ……!ティラミーゴたちがぁ……!」

 

 コタロウの懐の中で、ピーたんが嘆きの声をあげた。吹雪のほかには遮るもののない丘陵地帯、仲間たちが墜落していくさまを彼らははっきり視認していた。

 

「エイジロウさん……皆っ……」

 

 ピーたんを右腕で抱いたまま、コタロウは左手の爪を噛んだ。これまで彼らは、あらゆる難局を乗り越えてきた。今回だって──そう信じると同時に、その方法の思い浮かばない、何もできない自分がもどかしかった。安全地帯からお気楽なことを言っているのでは、ただの無責任と変わらない。

 

「──あーあ、せっかくケイゴが忠告したのになァ。蛮族どもは人のハナシを聞きやしねえ」

「!!」

 

 ざくざくと軽快に雪を踏み歩く音と、嘲るような言葉。本来やや幼く甘い地声、それを低く作っているような声色は、彼の弟と共通するものがあった。

 

「ありゃ詰んだな。なァ、ケイゴ?それとも、お前らが飛んで救けに行くか?」

「………」

 

 ケイゴは無言で首を振り、フミカゲも顔を逸らした。彼らはそれぞれ飛行を可能とする能力をもち、それを活かして滑落した人間を救助したこともある。しかしナイトロボたちはあまりに巨大すぎて、彼らの手には負えそうもなかった。

 

「あるぜ、救ける方法」

 

 トーヤの凍てつく視線がピーたんに突き刺さる。それが何を意味するかは、誰にだってわかる。

 

「……騎士竜プテラードンなら、"飛んで救けに行く(それ)"ができる……」

「……ッ、」

 

 懐の球体がぶるっと震えるのを、コタロウは感じた。宥めるようにそっと表面を撫でる。ただ、状況は何も進展しないかと思われたそのとき、彼は不意に口を開いた。

 

「……おまえなら、オレの封印を解けるんだな?」

「ピーたん……?」

 

 トーヤは初めて、はっきりと頷いた。

 

「解いてやるよ、封印。その代わり──」

「わかってる……おまえに、従う……」

「ピーたん!!」

 

 制止の声を発するコタロウの顔を、ピーたんは身体を上に傾けて見遣った。

 

「……ありがとうよ、コタロウ。リュウソウ族でもない、おまえみたいな子供がオレを守ろうとしてくれたこと、すげー嬉しかったぜ……」

「……ピーたん……あっ」

 

 ピーたんの身体が、すぽんと音をたててコタロウの懐から飛び出した。自ら雪原の上に降り立ち、トーヤを見上げる。

 

「さあ、ひと思いにやってくれ!」

「おいおい、ンな人が手荒な真似するみたいな……いやまぁ、手荒っちゃ手荒か」

「何をするつもりだ?」

 

 訝しむようにフミカゲが訊く。トーヤが古代遺跡から戻ってより、彼ら仲間も何も聞かされていないのだ。それどころではなかったから、というのもあるが。

 

「──"凍てつきし翼竜を呼び醒ますものは唯ひとつ、絶対零度の火焔なり"」

 

 棒読みのそれが何を表しているかは、上述の事実がある以上すぐにわかった。

 

「絶対零度の、火焔……?そんなものが──」

「──存在する。それもこの世でただひとつ、本来相容れることのないふたつの血を受け継いだこの俺にしか扱えない」

 

 あるいは弟や妹たちも、その才を眠らせてはいるかもしれない。しかし戦士でない者、またリュウソウジャーの力に頼る者に目覚めることは決してないだろう。

 

(これは誰より早く陸に上がって戦い続けてきた、俺だけの力だ)

 

「離れてろ。呑み込まれて、凍りついても知らねえぞ」

「………」

 

 ケイゴとフミカゲが──そして逡巡していたコタロウも、少しずつ距離をとっていく。と、それと入れ替わるようにして、四足の蹄の音が響いてきた。

 

「そこにいたか、人間ども!貴様らも私自らヴァルハラへ送ってやる、光栄に思うがいい!」

「……うるせえよ。こちとら集中してんだ」

 

 絶対零度の火焔。そう易々と出せるものではない。自分に"それ"ができると直感的にわかって、実際に扱えるようになるまで数十年もの月日を要した。その代償も小さくはなかった。

 ゆえに──ここというときにしか使わないと、決めていた。

 

(見ててよ、お父さん)

 

「──アブソリュート・インフェルノ」

 

 刹那、真蒼な焔が辺り一面を覆い尽くした。

 

「ッ、また火炎か、小癪な……──ムッ?」

 

 苛立つシグルトだったが、不意に違和感を覚えた。炎から、熱を感じない。それを裏付けるかのように、周囲の雪が融けることもない。むしろ柔らかい粉状だったそれらが硬直し、結晶となってせり上がっていく。

 

「なんだ、これは。何が起きている!?」

 

 訳がわからず、混乱する。当然だ、燃やし融かすことが摂理である炎が周囲のものを凍りつかせるなど、宇宙を旅してきたシグルトといえども聞いたことがない。

 そうして彼が右往左往しているうちに、天めがけて氷山が伸びていく。かと思えば──その根元から、音をたてて亀裂が奔った。

 そして、

 

 

「ウオオオオオオオ────ッ!!」

 

 雄叫びとともに現れたのは、半透明かつ紺碧の翼だった。鳥?いや、違う。

 

「刮目して見よ!騎士竜プテラードン、ここに復活ッ!!」

「……!」

 

「……ピーたん、」

 

 飛翔する雄大なその姿を見上げながら、コタロウは複雑な表情を浮かべていた。たった数時間の間だが、懐に包んだ温かくて丸い身体は馴染みつつあったのだ。あれほどまでに勇ましく雄々しい姿。心惹かれると同時に、雛が成鳥して巣立っていくかのようで寂しくもある。

 

 一方で、その結果をもたらしたトーヤはそれどころでない状況に陥っていた。

 

「ぐっ……あ……っ」

「トーヤ!?」

 

 突然苦しみだし、その場に蹲るトーヤに駆け寄るケイゴとフミカゲ。助け起こそうと顔を覗き込んで──ぎょっとした。

 

「トーヤ、おまえ……それ……」

 

──皮膚が、爛れていた。

 目元や上顎から首にかけて、特に痛々しい焼け跡が広がっている。

 ケイゴもフミカゲも、仲間といっても彼とは一定の距離感がある。しかしながら今ばかりは、ただ純粋に彼を慮っていた。当然だ。

 にもかかわらず、トーヤは──

 

「はは……はははは……っ。ははははは……!」

「……!?」

 

 痛みなどあってなきかのごとく、笑っている。爛れた皮膚と相俟って、元々美貌と呼ぶにふさわしかった顔が不気味に思えるほどに。

 

「これだ……これだよ……!オレのやりたかったことは!──お父さん見てる?6,500万年の間誰にもできなかったプテラードンの復活を、オレが成し遂げたんだぜ!最後の"火の部族"であるこのオレが!!」

 

 ひとしきり哄笑したあと、トーヤは顔を押さえたまま天を仰いだ。あとは、騎士竜最強と言われる伝説のプテラードンの力が如何ほどのものか。じっくり、見届けさせてもらうだけだ。

 

 

「ほら来いよ、かかってこいドルイドン!!」

 

 縦横無尽に空中を飛び回りながら、なんら繕うことのない挑発の言葉を吐きつけるプテラードン。シグルトもまたそれに乗った。

 

「舐めくさりおって……!こちらが地を離れられないと思ったら大間違いである!!」

 

 言うが早いか、シグルトは勢い込んで跳躍した。先ほどリュウソウジャーに対して見せたように、今の彼は舞う雪粒を踏みつけることで天空を翔けることができる。──コタロウたちの遥か頭上で、彼らは激突することになった。

 

「ヌゥン!!」

「おっと……!」

 

 振り下ろされるランスを、翼を傾けることで避ける。すかさず旋回し、今度はプテラードンの側から敵に肉薄した。

 

「今度はこっちの番だぜ!!」

 

 言うが早いか、その嘴から極冷の吐息を放つ。ガス状のそれを、シグルトは咄嗟に丸楯で受け止めた。

 率直に言って、それは悪手だった。

 

「!?、何……!」

 

 丸楯が、完全に凍りついている。それだけならまだしも、凍結は腕にまで及んでいた。関節も筋肉も、硬直してまともに動かせない。

 

「ヌウゥ……!」

「ハハハ、驚いたか?本番はまだまだこれからだぜ!」

 

 プテラードンは翼をいっぱいに広げて垂直に滞空する。そしてその身体から、彼自身を模した凍れる騎士の彫像を生み出した。

 

「いくぜ、──竜装変形ッ!!」

 

 翼竜そのものだったプテラードンが姿を変えていく。両翼から逞しい腕が飛び出し、胴体が形成され、長くがっしりとした脚が現れる。

 最後にプテラードンの背から展開されたのは、兜を纏った騎士の肖像だった。

 プテラードンの面影を残した麗しきナイトロボ。その名も、

 

「ヨクリュウオー、推参!!」

 

 その姿を明らかにした騎士王は、邪悪なる半人半馬に向けて勇敢にも突撃していく。対するシグルトは左腕が動かない中、懸命に剣を突き出して応戦する。

 

「遅い!!」

「!?」

 

 言葉以上のことは何もない。鋒が突き立てられる寸前、彼はひらりと身を翻して旋回したのだ。

 

「馬が翔んでも、翼竜王には勝てないのさぁ!!」

「何を……!」

 

 憤るシグルトだが、有効な次の一手があるわけではない。そうこうしているうちに、ヨクリュウオーはさらに天高く昇りあがった。

 

「……!」

「次はこっちの番だぜッ、喰らえヨクリュウオーブリザードストームゥ!!」

 

 胸部装甲へと変わったプテラードンの頭部から、濃縮された冷気ガスが放射される。頭上から放たれたそれを上手く躱すことができず、シグルトは身体の大部分を凍結させられた。

 

「グッ、オォォォォ……!!?」

 

 被害は脚にまで及んでいる。これでは翔び続けることなどできようはずもなく、シグルトは地上へと墜落していった。ややあって凄まじい量の雪飛沫が辺り一面に広がる。

 

「グウゥ……ッ」

「ははははっ、まだ終わりじゃないぜー!!」

 

 ヨクリュウオーは雪原に響き渡るほどの大声で嬉々として叫んでいる。戦いを嫌がり、ぶるぶる震えていたピーたんとはまるで別人……もとい別竜のようではないか。コタロウは複雑な気持ちだった。

 

「これがホントの、オレの必殺技──!!」

 

 

「ヨクリュウオー、ブリザードクローストライクッ!!!」

 

 右手に装着された鋭く長大な爪。"ヒエヒエクロー"というどこか戯けた名称とは裏腹に、それは触れただけであらゆるものを凍らせる一撃必殺の武器と化している。

 そこに体内のエネルギーを濃縮し、振り下ろすと同時に解き放つ──!

 

「グワアァァァ────ッ!!?」

 

 絶叫、それと同時に爆発が起き、シグルトの姿かたちを呑み込んでいく。ヨクリュウオーは地上に降り立ち、爪を天高く掲げた。

 

「ズバッとビシッと大勝利!……ってな!」

「──ピーたん!!」

「!」

 

 ヨクリュウオーの視線の先で、コタロウが訴えかけるような表情を浮かべている。

 

「エイジロウさんたちを……みんなを救けて!」

「あ……そうだったな、任せろ!」

 

 テンションに差異はあれど、人格そのものが変わってしまったわけではない。ヨクリュウオーははっきりと頷くと、彼らが墜落したクレバスめがけて飛んでいった。

 

 

 *

 

 

 

「ッ、時間……どれくらい経った……?」

「知るか、数えとらんわ……」

 

 キシリュウオーとキシリュウネプチューン──彼らは未だ墜ちることもなく、しかしなんら打開策も掴めぬままそこにとどまっていた。

 

「今、上はどうなってるんだ……。シグルトは──」

「コタロウくんたち、大丈夫かなぁ……」

 

 ここにいる以上は、何もわからない。ピーたんがプテラードンとして覚醒し、ヨクリュウオーとなって勝利したことも。

 

「シグルトもそうだが、トーヤ兄ィだ。あいつが、コタロウに何かしでかしたら……」

「ショートくん……きみの兄上は、本当にそんな人なのか?」

 

 テンヤの問いかけに、ショートは一瞬言葉に詰まった。

 

「……わかんねえ。昔はそんな人じゃなかった、と思う」

 

 自信をもって言い切ることができないのは、まだ物心つかなかった頃に接したトーヤの印象しか記憶にないからだ。それも百歳近く歳が離れていて、親しく育ったというわけでもない。母と長女、そして次兄の向う側にいる人、それがショートにとっての長兄だった。

 

「あいつは、"自分は海のリュウソウ族じゃない"と言い切った。親父の……火の部族こそが、自分のルーツだと」

 

 トーヤはいつからそう考えていたのだろうか。少なくとも海を捨てたときにはそれが彼のアイデンティティになっていたのだろう。ショートには理解できないことだった。しびと還りによって一度きり再会を果たした──先日の試練での幻は無かったこととする──父との交流は、ショートの彼に対する反発心を大きく和らげた。それでも自分の中に父の血が流れているという事実を意識したことはあまりなかった。海の底で、海のリュウソウ族の王子として生きてきた、人生の積み重ねの重みというものが間違いなく存在する。

 

「きみの兄上は、お父上に憧れていたのかもしれないな」

 

 だからそのあとを追って、地上へ出た。父と同じいろをした双眸に、同じ景色を映したいと願って。

 

「ショートくん、きみのお父上とはわずかな時間しか接していないが……俺の目から見る限り、戦士らしい立派な方だったと思う」

「……そうだな。でも、何が言いたい?」

 

 訝しむショートに、叡智の騎士はようやく回答を投げかけた。

 

「その父上の血をひくと自負するきみの兄上が、卑劣なことをするはずがない。そう、信じてみないか?」

「……テンヤ……」

 

 そういえば、テンヤにも歳の離れた兄がいるのだと思い出す。尤も青の騎士団のリーダー・マスターブルーだったという兄は彼と同じものを見てきただろう。自分とトーヤとは関係性がまったく異なる──そう思っていたけれど。

 

「兄は俺より鷹揚なひとだ。だから、説明してもらわなければ理解できないこともあった。たとえ血を分けた肉親でも、そうなることはある」

「……だから、とにかく信じてみる」

「うむ、そういうことだな!」

 

 テンヤの明るい首肯の声に、思わず頬が緩む。彼は自分が兄に比べてとっつきづらい性格だと思っているようだが──比較論でいえば実際そうなのかもしれないが──、ショートにしてみれば、十分明るくて親しみやすい少年だと感じる。エイジロウとオチャコというおおらかなふたりと一緒にいて浮いていないのだから、その感覚は正しいという自負もあった。

 

「……ショートよ、話をしているところ悪いがもう限界だ……!」

「!、モサレックス……」

 

 割り込んできたモサレックスの声に、にわかに緊張が高まる。──キシリュウネプチューンの手は、今にもファイブナイツから離れかかっていた。

 

「……ここまでか……」

 

 騎士竜たちは頑丈だ、墜落の深度がある程度でとどまれば命は助かるだろう。あきらめないと言っても、その可能性に身を任せることしかできない。

 程なく、その瞬間が訪れようというときだった。

 

「ちょ〜っと待ったぁ!!」

「!」

 

 声ばかりでない、姿ごと割り込んできたのはヨクリュウオーだった。当然、リュウソウジャーの面々はその姿も初めて目にするわけで。

 

「おまっ……誰?」

「あ、もしかしてピーたん!?」

「封印が解けたのか……!」

「Exactly、助けに来たぜ!」

 

 ヨクリュウオーの腕がネプチューンの身体を掴み、地上まで引き揚げていく。ショートもモサレックスも半ば呆然としたままそれを受け入れるほかなかった。

 

 

 それからファイブナイツも地上へと連れ戻され、彼らは地に足がつく安堵感を味わうことができた。この銀世界にひそむ危険についても十二分に理解させられたが。

 

 リュウソウジャーの面々が降り立った先には、ちょうどコタロウたちの姿があった。──全身に激しい火傷を負って蹲る、トーヤの姿も。

 

「トーヤ兄ィ!?」

 

 思わず駆け寄るショート。どうしたのかと訊くまでもなく、彼を介抱するケイゴが状況を説明してくれた。

 

「……一応回復魔法が使えるもんで、試してみたけど全然ダメだ。ちゃんとした医者に診せないと──」

「いや……なんとかなるかもしれねえ」

「?」

 

 言うが早いかショートは、カガヤキソウルをモサチェンジャーに装填した。癒し、再生の力。ただしそれは同じリュウソウ族から受けた傷には通じないことも判明している。どうなるか──

 

「………」

 

 光がトーヤを包んでいく。──果たしてその顔身体から火傷痕が消えていくのを、皆が認めることとなった。

 

「……良かった、効いた」

「ショート……おまえ、なんのつもりだ」

「なんのつもりでもない、人として当然のことをしたまでだ」

「………」

 

 トーヤの紺碧の瞳が疑惑の眼差しを投げかけてくる。それをまっすぐ受け止めるショート。このあとの展開は何人にも予想しがたいものだったが、さらに予想だにしない事態が起こった。

 

「ヌウゥゥ……!」

「!」

 

 後方から唸り声が響く。何事かと振り向けば、そこには身体の半ばを雪に覆われたシグルトの姿があった。

 

「あいつ、生きてたのか……」

 

 そう、スレイプニルマイナソーを犠牲に生き延びてはいた。しかしもはや彼に"速さ"をもたらすものは存在せず、その身体も満身創痍としか言いようのない状態に陥っている。それでも彼は、最後の意地を貫き通そうとしていた。

 

「このシグルト……一敗地に塗れたままおめおめと帰城するわけにはいかん……!──貴様らのうちひとりと、一騎打ちを所望する……!」

「一騎打ちだァ?ンなもん俺らになんの得があんだよ」

 

 カツキの応答はシビアだが、相変わらず真理を突いていた。それに対するシグルトの答えはシンプルだった。

 

「ない!!これは貴様らの騎士たる矜持に賭けての願いである!」

「ア゛ァ!!?ンなもん──「待て、カツキくん」!」

 

 不意にテンヤ──リュウソウブルーが前に進み出た。

 

「それが貴様の戦士としての最後の望みならば、受けないわけにはいかん!この叡智の騎士が承ろう!」

「フ……感謝する……!」

 

 互いに一歩進み出る。その気迫に、仲間たちはもう何も言い出せない──いや、ひとりもとい一匹だけ例外がいた。

 

「ならリュウソウブルー、こいつを使いな!」

「!」

 

 ヨクリュウオーの身体から何かがブルーの掌に放出される。見下ろしてみればそれは、彼と同じクリアブルーに彩られたリュウソウルで。

 

「ヒエヒエソウルだ、使え!」

「……有り難く受け取ろう!構わないな?」

「無論。新たな力、見せてもらうぞ……!」

 

 ランスを構え、右足を前に踏み出すシグルト。突撃姿勢をとる彼に対し、

 

「──ヒエヒエソウル!!」

 

 ブルーは、その魂の欠片をリュウソウケンに装填した。

 

『強!』

 

 一回、

 

『リュウ!』

 

 二回、

 

『ソウ!』

 

 三回、

 

『そう!』

 

 四回。

 

『──この感じィ!!』

 

 ブルーの胴体を、より透き通った紺碧の鎧が覆っていく。さらに背中には閉じた翼のような形状のマントがはためいた。

 

「では、いざ──」

「………」

 

「「──勝負ッ!!」」

 

 同時に走り出す両人。互いに脚力を速める支援はなくとも、あっという間に距離が詰まっていく。ただ、条件上どちらが有利かは火を見るより明らかであったが。

 

「ヌゥオォォォォ──ッ!!!」

 

 リュウソウケンよりわずかにリーチが長いことを利用してか、先にシグルトが仕掛けた。ランスの尖端がブルーの心臓部めがけて突き出される──

 

「テンヤく……」

 

 思わず声をあげそうになるピンクだったが、心配は無用だった。刹那、背中のマントが展開して翼そのものの形をとり、彼を天高く舞い上がらせたのだ。

 

「何ィ!?」

「────、」

 

「アブソリュート、ディーノスラァァッシュ!!」

 

 閃光、衝撃。思わず目を瞑ってしまうほどのそれらが収まったとき、リュウソウブルーとシグルトは互いに剣を突きだす姿勢のまま背中合わせに立ち尽くしていた。

 

「………」

 

 互いに、微動だにしない。これはどういう結末なのか。勝敗が決まったのかさえ判然としない──そう思われた直後、シグルトが動いた。

 

「私、の、オォォォォ……────!!?」

 

 その身体から激しい火花が散る。そしてそれらに体温を奪われたかのごとく凍りついていく。やがて完全に力を失った氷像が崩折れ、粉々に吹き飛んでいった──

 

 

「……あー、負けちゃったかぁ」

 

 古城にいながらにして、プリシャスはそれを悟っていた。手の中の符に力を込めると、いとも容易くボロボロと崩れ落ちていく。

 

「さて……次はどうやって遊ぼうかな」

 

 愉しそうなその声音に、戦死した配下を悼む様子は微塵もなかった。

 

 

 *

 

 

 

「さて、約束だ。プテラードンを貰おうか」

 

 トーヤの言葉に、リュウソウジャー一行は揃って苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。コタロウに抱かれたピーたん──自由に姿を変えられるそうである──はもう、それを受け入れているようであるが。

 

 と、不意にトーヤの纏う雰囲気が変わった。

 

「……と思ったけど、もういいや。飽きた」

「!?」

「ハアァ!!?」

 

 唐突すぎる心変わり。皆が唖然としていると、彼は肩をすくめて続ける。

 

「なんだよ、そのほうがお前らにとっても良いだろ?」

「そ、そりゃそうっスけど……」

「なんだよぉ〜〜!!オレすげー覚悟してたのに〜!!」

「おまえの力は見切ったからな、はははっ」

「トーヤ兄ィ、あんたは……」

 

 呆れてものも言えないという様子の弟を、彼はじろりと睨めつけた。

 

「……これで貸し借りはナシだぜ、わが弟?」

「!」

「いくぞ、鳥兄弟」

 

 踵を返して去っていくトーヤ。ケイゴとフミカゲは揃って呆れてものも言えない様子であったが、なんだかんだ、彼に同行するつもりのようであった。

 

「トーヤ兄ィ!!」

 

 呼び声に、足が止まる。

 

「たまには、海に帰ってこい。お母さんや姉さんのこと、安心させてやってくれ」

「……気が向いたらな」

 

 それだけを最後に、今度こそ立ち去っていく。と、今度は不意にケイゴが立ち止まって。

 

「あ、セイン・カミイノのこと、よろしくね」

 

──………。

 

 

「なんつーか……嵐みたいな人たちだったよなぁ」

「とはいえプテラードンも仲間になったし、ショートくんの兄上も悪人でないことはわかった。ひとまずは良かったじゃないか!」

「……かもな」

 

 プテラードンが仲間になった。ただその事実だけでも喜ばしいことだが、これで彼らの大願のひとつが現実的になった。

 

 

──はじまりの、神殿へ。

 

 

 つづく

 

 

 




「やっとここまで来たんだな……」
「リュウソウカリバーを手にしたくば、戦え」
「仲間か、使命か……」

次回「はじまりの神殿」

「魂を解き放て、リュウソウカリバー!!」


今日の敵<ヴィラン>

スレイプニルマイナソー

分類/ビースト属スレイプニル
身長/211cm
体重/245kg
経験値/390
シークレット/伝説上の八本脚の馬を模したマイナソー。マイナソーとしては八本どころか二足歩行であるが、そのスピードは侮れないぞ!
ひと言メモbyクレオン:ウマ息子ってヤツだな!


シグルト

分類/ドルイドン族ルーク級
身長/218cm~47.3m(通常時)
体重/265kg~711.1t
経験値/421
シークレット/プリシャスに仕える三魔人のひとり。双子の魔馬"スキンとフリン"をプリシャスより授けられており、彼らの率いる馬車を自在に操り驚異的なスピードで戦場を駆け回る。また補助魔法を会得しており、自在な巨大化やマイナソーとの融合などもお手のものだったぞ!
ひと言メモbyクレオン:心臓握り潰されそうになったのに忠誠誓えるとかヤバくね?ゾラとかガチレウスとはまた別の意味で怖ぇ……。
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