【完結】僕のリュウソウアドベンチャー   作:たあたん

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41.はじまりの神殿 1/3

 

 北方の地を訪れて早々、紆余曲折はあれども騎士竜プテラードンを仲間とすることに成功したリュウソウジャー一行。プリシャス配下のひとり、シグルトを倒すことにも成功した彼らが、次に向かうのは。

 

 

「はじまりの神殿!!」「セイン・カミイノ!!」

 

 洞穴内に、少年ふたりの言い争う声が響く。片やプラチナブロンドと紅い吊り目が特徴的な少年で、もう一方は緑がかった黒髪に赤子のように大きな翠眼、頬のそばかすなど地味な印象の少年である。

 彼らは今、顔を突き合わせてバチバチと火花を散らしていた。

 

「だァから必要なもんはとっとと手に入れとかねえと何があるかわかんねーっつってんだろうがよォ昔から!!」

「だけどセイン・カミイノの街の人たちは今も苦しんでるんだよ!?一刻も早く街を解放すべきじゃないか!!」

「完膚なきまでにブッ潰さなきゃまた同じことの繰り返しになんだよ!!力ァいくらあっても足んねーだろうが!!」

「だからって──!」

 

 エンドレス口論。彼らはもうふたりきりではなく、すぐ傍に対等な仲間たちもいるのだが……とてもではないが、彼らが割り込めるような状態ではなかった。

 

「あぁ、始まっちまった……」

「こうなってしまうと、決着がつくまで見守るしかないな……」

「わ、私が強制終了させたろか!?」

「……流血沙汰になるんじゃねえか?」

 

 半目になりつつ、どうしてこうなったかを思い起こす。──このままセイン・カミイノに向かい街を包囲しているプリシャス配下の軍団を打ち払うか、はじまりの神殿を探すか。その衝突は皮肉にも騎士竜プテラードンを仲間にしたことで、彼らのとりうる選択肢が広がったことに起因していた。

 

「ナァ〜、どっちでもいいから早くしてくれよ。オレ、凍えちまうよ〜」

「だ、そうです」

「………」

 

 当のプテラードンとコタロウの声に、言い争いがいったん中断される。スケールの差もあってか、今の彼らは抱く者と抱かれる者の関係が逆転していた。具体的に言うと、コタロウがプテラードンの翼にすっぽりと包まれている状態である。

 

「……みんなは、どう思う?」

 

 今さらながら、少しばかり冷静になったイズクが訊く。とはいえふたりの口論によって彼らの考えていた意見は出し尽くされたも同然、あとはそれぞれ一長一短という事実だけが残る。

 

「……仕方ない。いつものアレで決めよう」

「望むとこだわ」

 

 イズクが銅貨を取り出す。彼が"表"、カツキが"裏"と宣言する。──コイントス。どうしても意見が折り合わないとき、彼らの指針を決する方法だ。尤もこれを使う前にヒートアップしてしまい、実力行使に移る場合も少なからずあるのだが。

 

「エイジロウ、てめェやれ」

「お、おう。……どっちも、恨みっこなしだぜ?」

 

 念押しするように告げ──受け取った銅貨を、ピンと弾く。薄い円状のオブジェクトが、くるくると回転しながら天に昇り……程なく、重力にとらわれて落下を開始した。

 

 からん、ころん、からん。

 

「………」

 

 面を露にしたのは──果たして、裏だった。

 

「カツキの勝ち、だな」

「はん!」

「ッ、……わかった。そうと決まればすぐに向かおう」

 

 イズクは悔しそうだったが、これも理である。一行はプテラードンの背に乗り、はじまりの神殿を探すべく鈍色の雲の向こう側へ飛び立った。

 

 

 *

 

 

 

「にしても、やっとここまで来たんだな……」

 

 エイジロウの言葉に、スリーナイツの同士であるテンヤとオチャコが力強く頷く。元はと言えば、異空間へ消えた故郷の村をもとに戻すために始めた旅だったのだ。それがぐるりと旧王国領を一周し、様々なドルイドンと戦っては打ち勝つことになろうとは。叙任を受けたばかりの自分たちが聞いたら、果たして信じられるだろうか。

 

「とはいえ、俺たちだけではどうにもならなかっただろう。イズクくんたち、そして騎士竜たちとの出逢いのおかげだな!」

「ショートくんも、最初はこんな感じやと思わなかったよ〜。イケメンなのは相変わらずやけど、なんか冷たい人なんかな〜って思ったし」

「こんな感じってのがどういうもんかわからねえが……まあ、王国を守るためにはそうしなきゃいけねえと思ってたからな」

 

 彼とモサレックスが仲間入りしたことは、単にリュウソウジャーの戦力強化にはとどまらない意味をもつ。陸と海、それぞれのリュウソウ族の6500万年越しの雪解け。それを象徴する出来事が現在進行形のこの旅路なのだ。

 

「……七人、揃っていればな……」

「………」

 

 テンヤがこぼしたつぶやきに、場がにわかに静まり返る。七人目の騎士──紆余曲折はありながらも、間違いなくそう呼べる存在がここにいるべきだった。

 

「センパイは、タイシロウさんの弟子でもあった。……村をもとに戻したら、ちゃんと話して、弔ってもらわねえとな」

「せやね……」

「うむ……」

 

 弔わねばならない者は、他にもいる。彼らの命を取りこぼしてしまったことは、生涯忘れ得ぬ悔恨となるだろう。

 それでも彼らは、前へ進んでいく。

 

「おい」

「!」

 

 最前方からのつっけんどんな呼びかけに、慌てて口を噤む。先ほど長年の付き合いの幼なじみと言い争っていた彼は、こういう湿っぽい回顧を非常に忌み嫌っている。怒鳴られるかと身構えたが、彼は一同をひと睨みしただけでふたたび前を向いてしまった。

 

「かっちゃんも自分なりに、思うところはあるんだよ」

 

 イズクが補足するように言う。口論の直後でも、その心情を的確に読み取ってフォローするのはさすが幼なじみというべきか。

 

「……おめェがいなかったら、カツキと上手くやるには時間がかかったかもなぁ」

「へ?ど、どうかな……エイジロウくん、結構かっちゃんに気に入られてるし……」

「ムッ?なんだか言葉に棘がある気がするぞ、イズクくん!」

「ふふっ、デクくんもやきもち焼くんやねぇ」

「!?、や、やきもちって……別にそういうんじゃなくてただなんというかその僕の百何十年にたった数ヶ月で追いついてきたっていうのは純粋に凄いしやっぱりそれだけの人格者だからってことでもちろんテンヤくんもオチャコさんもショートくんもコタロウくんも凄くいい人たちであるからして──」

「……長くなりそうか、それ?」

「もうなってます」

 

 結局こういうやりとりになるのが、彼らの強みであり。

 そうして小一時間に渡って飛び続けた一行であるが、そこで違和感が芽生えはじめた。

 

「妙だな……まったく影も形も見当たらない」

「もうかなり見て回った……よな?」

 

 プテラードンのスピードをもってすれば、短時間で極地上空をひと回りすることも可能──実際にそうしているはずなのだが、天空島と思しきものはいっこうに見えてこない。

 

「ほ、ほんとにこの辺にある……んだよね?」

「それは……タマキ先輩の情報が正しければ、ということにはなるが──」

 

 そのタマキにしても、自分自身が天空島を訪れたことがあるというわけではない。彼の伝え聞いた情報源じたいが間違っていたら……という可能性も、否定はしきれないわけで。

 

「いや、俺は信じるぜ!天空島は絶対この辺にある!」

「何か手がかりはあるんですか?」

「あーそりゃ……──テンヤ、なんかねえ?」

「俺頼みか!?いや叡智の騎士としては喜ばしくもあるが……うーむ……」

 

 考え込むテンヤ。もとより頭の回転は速くとも、柔軟な思考回路をもっているとは言いがたい彼だったが……先だっての試練によって、彼は"視点を変える"という能力を鍛えられていた。

 

「!、そうだ、見えないからといってそこに存在していないとは限らない。どこかに隠れているのかもしれないな!」

「隠れるって……どこに?」

 

 「雲の上にはな〜んもないで?」とオチャコ。確かに地上のようにあちこちに障害物があるわけではない。しかし決定的なものがひとつあるではないか、今まさにオチャコ自身も口にしたものが。

 

「まさか……雲の中に?」

 

 広がる雲海。そのどこかに天空島は存在する──

 

「でも、雲の中なんてどうやって探すんですか?」

「そりゃもう、突撃!!」

「アホかクソ髪、無謀なんてもんじゃねーわ」

 

 罵倒の二重奏を浴びてたじろぐエイジロウだが、カツキの言葉は的確だった。雲の中には乱気流が発生している箇所もあって、生身剥き出しでプテラードンの背中に乗っているエイジロウたちは容易く投げ出されてしまうだろうことは想像に難くない。とはいえ雲の外からでは、ミエソウルで地道に探すのも限界があって──

 

「それなら、なんとかなるかもしれないぜ!」

「!」

 

 不意に、プテラードンがそう口を挟んだ。

 

「オレとティラミーゴが合体すれば、背中にシールドを張れる。そうすりゃどんな乱気流に呑まれても振り落とされずに済むぜ!」

「おぉー……って、そんなことできんのか?」

「できるティラ!」エイジロウの懐から顔を出すティラミーゴ。

「先に言えや、つーかやれや」

「合体するとスピードが落ちるし、なんかキモいんだもんよ〜」

 

 プテラードンの言葉にティラミーゴは憤慨したが、ともあれ実行に移すこととなった。

 

「いくぜー、竜装合体!」

「竜装合体ティラァ!!」

 

 二体がそう掛け声を合わせたところで、はたと気がついた。竜装合体には騎士竜たちの大規模な変形を伴う。つまり、その、自分たちはプテラードンの背中で安穏としていられるのだろうか?

 

「ちょ、待──」

 

 慌てて押しとどめようとしたときにはもう遅かった。合体へ至るべく、両騎士竜が繋がりやすいように身体をぐりんぐりんと変形させはじめる。しがみつこうとするエイジロウたちだったがただでさえ向かい風の強い高空では通常の腕力でどうこうできるはずもなく、彼らはあっさりと投げ出された。

 

「うわあぁぁぁぁぁぁ────!!?」

 

 風に煽られて右に左に引っ張られながら、その実重力に拾われて墜落していく。この尋常でない高度では滞空能力をもつブットバソウルもヒエヒエソウルも通用しない。というか、一部の面子がそれをしたところで全員は助からないのだ。

 

「馬鹿ああああっ、私らふっとばしてどーすんのぉ──ッ!!??」

 

 オチャコのシャウトがすべてであったが、構わず合体が進んでいく。真紅のティラミーゴボディはほとんどそのままに、その胴体にクリアブルーのプテラードンが組み込まれたようなどこか歪な姿。しかし広がる巨大な翼はそのままに、重量の増した身体を支えている。

 その名も、

 

「「プティラミーゴ、完成ッ!!」ティラァ!!」

 

 合体を成すや否や、プティラミーゴは急降下を開始した。風に煽られ落下していくリュウソウ族の友たちを、ひとりひとり確実に回収していく。

 

「「フフッ、どうだ」ティラ!!」

「うん、さすが……」

 

 ともあれ状況は整った。プティラミーゴは背部にシールドを展開してエイジロウたちを包み込むと、そのまま躊躇なく積乱雲の中へと突入していく。

 

「ティラ〜!!」

 

 雲をかき分け、ひたすら翔び続ける。シールドの中にいるエイジロウたちは至って無風の状態だが、透明な壁の向こう側は相当な嵐となっているはずだ。それでもバランスを崩しさえしないのは、流石単騎でナイトロボを構成しうる二大騎士竜というところか。

 そうして程なく、テンヤの推測が的中していることが認められた。

 

「!!、あれだ……!」

 

 雲を構成する微粒子。それらを押し退けるようにして鎮座する、模型のような浮島がそこにはあった。美しい緑が生い茂り、透き通った海が断崖から滝のように流れ落ちては凍りついていく。

 

「あれが……天空島……」

「……なんか、小さくねえか?」

 

 ショートがそう言うのも無理はなかった。"模型のような"と形容した通り、天空島は明らかに小さかったのだ。少なくともプティラミーゴよりは。生い茂る木々も岩場も、地上にあるそれと比べてスケールダウンさせられたようなありさまである。

 

「どうなってんだ……?」

「!、もしかしたら……──ミエソウル!」

 

 イズクがミエソウルを発動させ、ミニチュアのような浮島を凝視する。視力をブーストすることで、ディテールを捉える──その結果、ひとつの事実が判明した。

 

「島の周辺、微妙に空間が歪んでる……もしかすると、位相が異なるのかもしれない」

「イソ?」

「見えとっても異空間にあるっつーことだ。わかったか丸顔」

「ひと言多い……!」

 

 しかしそうなると、問題がひとつ。目の前に浮かんでいる天空島は蜃気楼と似たようなものだ。果たしてそこに踏み入ることができるのか。

 

「フッ、このプティラミーゴを舐めるなよ!」

 

 得意げにそう言うと、プティラミーゴはそのまま突撃した。空間の歪みに接触した瞬間、激しい揺れが一行を襲う。シールドがなければ投げ出されてしまいそうだ。

 

「……ッ、」

 

 歯を食いしばりながらも、エイジロウは懸命に堪えた。この天空島のどこかにあるはじまりの神殿、そこに眠る伝説の剣を手に入れれば、恋焦がれた故郷の村を甦らせることができるのだ。

 

「ティ、ラァァァァ!!」

 

 ティラミーゴそのままの雄叫びが響く。プテラードンが喋ったりティラミーゴが喋ったり、あるいは同時だったりと、彼らの人格は別々に保たれている。それでもコントロールを損じることなく動けるのが騎士竜たちの不思議なところだ。

 ともあれプティラミーゴのよりいっそうの奮起により、ついに次元の壁は突破された。吸い込まれるようにして消えていく巨体──その姿を追って来たる者の存在には、気がつかないままに。

 

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