位相が異なっているというのは確かだったようで、突入した天空島は雲の中にあるにもかかわらず快晴に彩られている。プティラミーゴより小さく見えたのも、やはり錯覚でしかなかったようだ。
「あったぞ、あれが神殿だ!」
その声に応じ、眼下を覗き込む。大巌を削って創り上げたと思しき原始的な建築物、故郷の村にある、ティラミーゴたちが封印されていた神殿とそっくりではないか。
「あれも、原初のリュウソウ族たちが……」
「とりあえず降ろしてくれ、プティラミーゴ」
「ラジャー、ティラ!」
翼をはためかせつつ、プティラミーゴが降下していく。距離が詰まると、その神殿の立派なさまが改めて目に焼きつくようだった。
「っし……行くか」
「プティラミーゴ、すまないがここで待っていてくれ」
「問題ない!」「ティラ!」
全員で地に足をつけ、神殿へ向かって一歩を踏み出す。まだ伝説の剣の影すら掴めていないけれど、いよいよ秒読みが始まったような気がしてエイジロウはごくりと唾を呑み込んだ。
しかしその直後、プティラミーゴが声をあげた。
「!、待つティラ!!」
「!?」
「ど、どしたん?」
「上からなんか来るぞ、気をつけろ!」
何かとは──訊くまでもなく、それは上空から姿を現した。鳥?いや、違う。肩口から突き出した巨大な翼をはためかせ、大鷲の頭と三本の鋭い鉤爪を誇らしげに見せつけるその姿は。
「まさか、マイナソー……!?」
「ハッハッハッハッハ、Exactlyyyyyyy!!!」
すっかり聞き慣れてしまった妙にイイ声とともに、群青の影が飛び降りてくる。
「ッ、ワイズルー……!」
「おっとぉ、オレもいるからな!!」
「クレオンもか……」
ワイズルーにクレオン、なんだか懐かしささえ感じるコンビである。しかし当然ながら、喜ばしい気持ちは微塵もない。
「貴様らがここになんの用か知らんが、ストーキングしておいて大正解でショータァイム!!──フレスヴェルグマイナソー、その神殿をデストロイしてしまいナサ〜イ!!」
「ギィエェェェェェ!!」
耳障りな叫び声とともに、フレスヴェルグマイナソーが動き出す。無論、そうはさせるかとばかりにプティラミーゴが立ちふさがった。
「エイジロウ、みんな、こっちはまかせるティラ!!」
「こんな鳥もどき、誇り高き翼竜たるオレには敵わないぜー!!」
そんなシャウトとともに、鳥獣人とでも呼ぶべき怪物と空中でぐんずほぐれつともつれあう。あちらはひとまず、プティラミーゴにまかせておいてもよかろう。
「っし……俺たちもいくぜ!!」
「うむ!」
「クソ道化師、今日こそブッ殺ォす!!」
──リュウソウチェンジ!!
『ケ・ボーン!!』
『ワッセイワッセイ!そう、そう、そう!』『ドンガラハッハ!ノッサモッサ!』
『ワッセイワッセイ!ソレソレソレソレ!!』
『エッサホイサ!モッサッサッサ!!』
「──うおぉぉぉぉぉッ!!」
竜装を完了すると同時に、全力全開で走り出す。マイナソーに乗ってきたためか、ワイズルーには手勢もなく単騎で応戦するつもりのようだった。クレオンは一応くっついてきているというだけで、特段戦力にはなりえない。
「フッハハ!かかってキナサーイ……うわっ壮観……」
躍りかかってくる六人の攻撃を、ステッキを使って受け止める。しかしお互いの戦い方は既に知り尽くしている以上、実力を着実に伸ばしつつ、連携の精度も高めている側に分がある。
『ブットバソウル!ボムボム〜!!』
「吹っ飛び死ねやアァァ!!」
──BOOOOM!!
「Nooooo!!ッ、見慣れていなければ本当に吹っ飛んでいた……ッ」
「はっ!今さらてめェなんざお呼びじゃねーんだよ!!」
「今度こそおまえが倒される番だッ、ワイズルー!!」
「Mmmmmmm……!」
口惜しさのあまり唸り散らすワイズルーだが、それでどうにかなるというわけでもない。率いて来たフレスヴェルグマイナソーは計らずも最初から巨大な姿で生まれてくる"珍種"だったために、プティラミーゴと空中戦を演じていてこちらには見向きもしないありさまだ。
「フレーッ!フレーッ!ワイズルーさまぁ、負けるなぁぁぁ!!」
それでもクレオンは懸命にワイズルーを応援していた。最高幹部にしてやるというプリシャスの誘いにも、彼は未だ明確な返事を出していない。もはやワイズルー単騎では強くなったリュウソウジャーに勝ち目はなく、唯一それを為せるかもしれないのはプリシャスだと頭ではわかっているのに。
しかしその大声とオーバーアクションが仇になったのかどうか、彼はスリーナイツに目をつけられてしまった。
『オモソウル!ドオォォン!!』
「!?、ぐぎゃっ!!」
不意打ちぎみに振り下ろされた鉄球が、クレオンも頭頂に叩きつけられる。キノコの傘に似た頭部がさらに薄く押し広げられ、クレオンはぺしゃんこに叩き潰された。
「あんたともいい加減おさらばや、クレオン!」
「これ以上、人や世界からマイナソーを生み出させはしない!!」
「今日で最後だぜ、クレオンっ!!」
最初の遭遇から文字通り月日しか経過していないにもかかわらず、彼らの威容は当時とは比べものにならないほどに深まっていた。成人と叙任を終えたばかりの若き少年騎士たちは、伸び盛りの時期に旅と実戦に次ぐ実戦の日々を過ごしている。その点、永遠にも等しい命をもつドルイドンは進歩に乏しかった。
「く、くっそぉ……お前らなんかにやられて堪るかよ、オレもワイズルーさまも!」
早くもダメージから立ち直ったクレオンは、足元からドロドロと軟体化しはじめた。そのまま地面に染み込まれてしまえば、こちらも手出しできなくなってしまう。
「そうはさせんッ、今の我々には"これ"がある!」
そう言ってブルーが取り出したのは、先日プテラードンから与えられたばかりのヒエヒエソウル。それを認めた途端、レッドが「あーっ!」と声をあげた。
「うわっ!?ど、どうしたエイジロウくん!?」
「それ使ってみてぇ!貸してくれ!」
「貸すというか……きみにはマックスリュウソウルがあるだろう!?」
「あるけど……飛んでみてぇ!」
「いや子供か!」
突っ込むピンクだが、まあこういうところもエイジロウらしさなので仕方がない。ブルーは仕方なくヒエヒエソウルを彼に譲り渡した。
「サンキュー、ヒエヒエソウルっ!!」
『強!リュウ!ソウ!そう!──この感じィ!!』
リュウソウレッドの
「っしゃあ、いくぜー!!」
喜びを露にしたレッドは、早速願望を行動に移した。翼を展開し、空高く舞い上がったのだ。
「エイジロウくんっ、地面ごと奴を凍結させるんだ!」
「おうよっ!──おらぁ!!」
今にも完全に溶けようとしているクレオンめがけ、刃を振り下ろす。途端に極温の冷気が拡散され、辺り一面を急速に凍りつかせていく。
「!?、う、うわあぁ、凍っちまって動けねえぇ〜……!!」
液状化できなければ、逃げることも当然できない。無事な上半身だけを必死にばたつかせるクレオンめがけて、リュウソウレッドは急降下を開始した。
「終わりだ……クレオン!」
「!!」
「アブソリュート、ディーノスラァァッシュ!!」
よりいっそうの冷気を纏い、必殺の一刃が放たれようとしている。クレオンの命運は、もはや尽きたかに思われた。
「──クレオンっ!!」
そのときだった。相手取る疾風、威風、栄光の三騎士を振り払うようにして、ワイズルーが割り込んできたのは。
「グハアァッ!!?」
「あ……わ、ワイズルーさまぁ!!?」
咄嗟にステッキを盾代わりにしたためか、刃が肉体に触れることはなかった。しかしその衝撃たるや凄まじく、彼は凍って粉々になった残骸ともどもクレオンのもとに吹き飛ばされてきたのだった。
「ぶ、無事かクレオン……ゴフッ」
「ワイズルーさま……何故……」
ワイズルーが自分を庇うなんて。ノリの良い、ともに過ごしやすいパートナーだとは常々思っていたが、まさか。
「フッ……キミは最高のパートナーであり、観客だからな……。死なれては、困るのだ……!」
「……!」
そのワイズルーの行動は、少なからずリュウソウジャーの面々にも動揺を与えた。
「なんとワイズルーがクレオンを庇うとは……」
「信じられへん……」
「チィッ、騙くらかされてんじゃねえ!どうせ気紛れだわ!」
「あいつらに大勢の人々が苦しめられてきたんだ……!とにかく、決着をつける!」
「………」
そんな戦況をじっと見守っていたコタロウは、不意に背後の神殿から何者かの気配を感じた。
振り向いた彼が見たのは、およそ信じがたいもので。──程なくして、彼の意識は光に包まれた。
「一気に終わらせてやる……!」
『マックス、ケ・ボーン!!』
ヒエヒエソウルをブルーに返し、レッドはいよいよマックスリュウソウチェンジャーを構えた。ワイズルーとクレオンは抱き合ったまま怯えるしかなかった。ウデンを一方的に蹂躪し、プリシャスには苦戦しつつも最終的には互角に事を構えたマックスリュウソウレッド。フィジカルには劣るワイズルーではどうなるか、結果は見えているのだ。
今度といえば今度こそ命運が尽きたかと思われたそのとき、彼らは奇妙なものを見ることとなった。
「んん?」
「あいつ……──お、おいお前ら!後ろのそいつ、なんかヘンだぞ!?」
クレオンの指摘は苦し紛れとしか捉えられなかったが、それでも反射的に振り向く者はいた。そして彼らは、確かにコタロウの様子が尋常でないことに気づかされることとなる。
「……コタロウ?」
「………」
「……きみたちは、力が欲しいんだね」
「誰だ、てめェ」──カツキが反射的にそう言った。その口調は明らかにコタロウのそれではなかったのだ。
「その資格があるか、試してあげよう」
「!!」
刹那、コタロウの身体から眩い光が放たれた。それはリュウソウジャーの面々を呑み込み、ワイズルーとクレオンの視界をも塞ぐ。
ややあってそれが収まったとき──コタロウ、そしてリュウソウレッドとゴールドの姿もそこから消え失せていた。
「エイジロウくん、ショートくん!?」
「コタロウくんも……どうなっとるん!?」
「神殿に呑まれたのかもしれない……!ッ、とにかく僕らも──」
真っ先に突入しようとするグリーンだったが、神殿との境界に足を踏み入れようとした途端、見えない何者かに押し出されるように弾き飛ばされてしまった。
「デクっ!!」
「ッ、大丈夫……だけど……っ」
神殿に宿る何者かの意思に選ばれた者しか、進入できないのか。それがエイジロウとショートだったのは、あるいは無作為なのかもしれないが。
「HAHAHAHA、どうやら戦力ダウンしたようだ☆NA!こうなればこっちのモノ!」
こちらが四人に減ったうえ、切札のマックスリュウソウチェンジャーをもつレッドがいなくなったことでワイズルーはすっかり調子に乗っているようだ。尤も、彼も武器であるステッキを失っているのだが──
「舐めんなカスが、クソ髪と半分野郎がいねーくれぇで今さらてめェごときにやられる俺たちじゃねーんだよ!!」
「僕らだって強くなってる……!お前らに見せてやる!」
ここでワイズルーとクレオン、両方を殲滅するのだという意志は変わらない。そしてエイジロウとショートが不在であろうとも、それができるという確信が彼らにはあった。
*
「ッ、ぅ……ここは……」
目を覚ましたエイジロウは、山間の拓かれた荒野に転がっていた。旅の中で幾度も通りすがった、さほど珍しくもない光景だ。しかしながら辺りは逢魔ヶ時のように橙がかったモノクロームに染まっており、見る者に本能的な寂寥感を味わわせた。
(確か、コタロウがおかしくなって……ショートと一緒に、神殿の中に引っ張り込まれて……)
ということは、ここは神殿の中か。どう見ても屋外の風景なのは、さんざん異空間などに飛ばされ慣れているから疑問はもたない。ただ見渡す限り、コタロウもショートも傍にはいない。
と思いきや、唐突に前者が目の前に現れた。
「コタロウ、おめェ無事で──」
「ようこそ、"勇猛の騎士"」
「!!」
違う、やはりコタロウではない!エイジロウも芯からそれを察知した。何者かがコタロウの身体を借りて言葉を紡いでいる、それは間違いなさそうだった。
「誰なんだ、おめェ……。コタロウの身体を返せ!!」
「……願いを叶えたければ、"資格"を示せ」
「……!」
「資格ある者にのみ、道は開かれる」──そう言ってコタロウは忽然と姿を消してしまった。戸惑う間もなく、見知った姿が入れ替わるように現れる。
「………」
「!、ティラミーゴ……?」
自らが名付け親となった相棒の騎士竜、彼がなぜ今ここに?外でマイナソーと空中戦を演じていたはずだが。
その疑問はすぐに氷解した。ティラミーゴはエイジロウを見るや否や、牙を剥き出しにして喰らいついてきたのだ。その動作にはまったく迷いがない、果たして獲物に対する獰猛な肉食獣そのものだった。
「ティラミーゴ!?何すんだっ、やめろ!!」
「……我は、大いなる力の化身……」
「!?」
声もティラミーゴのものだったが、その内容が本物でないことを明確に報せた。
「先に進みたくば、我を倒せ──!」
言うが早いか、ティラミーゴは口から烈火を吐き出して攻撃してくる。ディメボルケーノならともかく、彼単体にそんな能力はない。何者かに憑依されているらしいコタロウとは異なり、これは偽物かあるいは幻影の類だとエイジロウは判断した。
「だったら、遠慮はしねえッ!!」
リュウソウケンを振り上げ、エイジロウは相棒の姿をした"大いなる力の化身"に躍りかかっていった。
一方のショートもまた、騎士竜プテラードンの姿をした何者かと相対していた。
「クアァァァァ──!!」
如何にも翼竜じみた咆哮とともに、"プテラードン"は冷気を吐き出す。懸命にそれを避け続けるショートだが、洞窟と思しき閉鎖空間の中である。辺り一面既に凍結が進行し、気温は氷点下にまで押し下げられていた。
(ッ、寒ィ……)
吐息が白く濁る。衣装越しにも鳥肌が立っているのがわかる。体温が低下しつつあるのか、頭に靄がかかりつつあるのをショートは自覚した。
そうしてほんの一瞬ぼんやりしてしまったともろに、プテラードンは広範囲にガスをばら撒いてきた。よほど機敏に動かねば躱しきれない攻撃、ショートが我に返ったときには遅かった。
「ぐ、ぅ……っ」
冷気をまともに浴びたショートの身体は、足先から這い上がるようにして凍結していく。ぶるぶると震えるショートを見下ろしたまま、プテラードンの姿をした者は言い放った。
「これ以上やれば命はない。あきらめて立ち去れ!」
「………」
「あきらめられるわけ、ねえだろ……!」
オッドアイを鋭く眇めて、ショートは"プテラードン"を睨みつけた。
「伝説の剣には、エイジロウたちの村の復活がかかってんだ……!俺は、あいつらの喜ぶ顔が見てぇ……!」
「……ならば、消えるがいい」
知った声で、まったく合致しない言葉。そして冷気ガスがいっそう強くなる。いよいよ凍結が胴体にも及ぼうかというとき、ショートは賭けに出た。
「ッ、……ビリビリ……ソウル!!」
萎縮する筋肉を振り絞って、モサチェンジャーにソウルを装填する。一瞬躊躇が生まれたが……ショートは歯を食いしばって、顎をクローズドした。
刹那、
「ぐッ……あ、ああああ……ッ!!」
電撃が、ショートの全身を打ち貫く。痺れと激痛が全身を襲い、彼は声も出せずに虚ろな叫びをあげ続けた。
「自裁に及ぶとは……気が狂ったか?」
「〜〜ッ、……!」
そうではない、断じてない。声も出せないけれど、ショートは己の勝利を確信していた。だから気の遠くなるほどの衝撃を堪え、意識を保ち続けているのだ。
そのうちに、ショートの望んだ通りのことが起こった。彼のしなやかな身体を蝕む氷が、少しずつ溶融しはじめたのだ。
「──これは……!」
電撃の副産物たる高熱が、氷を溶かしている。プテラードンの姿をした者は即座にそう看破したが、それで止められるわけでもない。
ややあって氷が溶けきると同時に、ショートはその場に膝をついた。
「ッ、はぁ……はぁ……」息を整えつつ、「電撃は、熱を生む……。おまえに、俺は止められねえ……!」
肉体への負荷とは裏腹に、戦意漲るオッドアイに睨みつけられ──神殿に宿る意思は、その矜持を認めた。
「……良かろう、次の間に進むがいい」
プテラードンの姿が忽然と消えうせ、ショートの視界は光に包まれた。
一方で、エイジロウは偽ティラミーゴを相手に苦戦を強いられていた。咆哮とともに放たれる紅蓮の炎はプテラードンのそれと異なり、単純だが破壊力には長けている。浴びれば黒焦げになるのは免れない。
「ッ、ノビソウル!!」
リュウソウケンを
「うわぁああッ!!?」
牙の餌食になることは避けられたものの、エイジロウは大きく吹き飛ばされた。全身が軋むような痛みに眉根を寄せながら、改めてその姿を見上げる。
「改めて見ると……結構怖ぇな、ティラミーゴ」
真紅のボディに宝石のような翠の瞳。どれも美しいが、やはり最強の肉食恐竜と恐れられたティラノサウルスの後裔なだけはある。
しかし自分も、誇り高きリュウソウ族の騎士なのだ。相手が誰であれ、一歩も退くつもりはない!
「今度はこれだ!──カタソウル!!」
親友の形見をリュウソウケンに装填すれば、『ガッチーン!!』というシャウトとともにエイジロウの全身が巌のように硬くなる。
生まれつき鋭く尖った歯を剥き出しにして、エイジロウは不敵に笑った。
「こっからがホントの勝負だぜ、ティラミーゴっ!!」
「……グオォォォォッ!!」
唸り声をあげ、突進してくるティラミーゴ。今度は避けることもなく、エイジロウは正面からの邀撃を選んだ。
いや──それどころかむしろ、喜び勇んで自分から跳躍したのだ。ちょうどティラミーゴは喰らいつかんと頭を下げていたので、エイジロウはその額付近にまで到達する。
「俺の切札ッ、アンブレイカブル──」
「──ヘッドバットォ!!」
そのシャウトは、誇張でもなんでもなかった。全身の皮膚が硬質化しているのをいいことに、エイジロウはティラミーゴめがけて頭突きを放ったのだ。言っておくが、騎士竜の表皮は鋼鉄より硬い。いくらリュウソウルで強化しているとはいえ、頭突きなぞ仕掛けるのは正気の沙汰ではない。
「ぐへぇっ……!」
案の定エイジロウは、頭蓋骨が軋むほどのダメージを受けて背中から墜落した。地面が比較的柔らかい砂地だとはいえ、常人だったら背骨が砕けていてもおかしくはなかった。
「ッ、痛ぇ……」
でも、と顔を上げる。果たしてエイジロウの狙い通り、ティラミーゴの姿をしたものはうめき声をあげながら崩れ落ちた。
「へへっ……石頭のエイジロウたぁ、俺のことよ!」
幼い頃など、手の出る喧嘩になるたびに最後の最後は頭突きで〆ていたものだ。エイジロウの石頭によるそれは村の子供たちにこれでもかと恐れられていた。
閑話休題。倒れ込んだティラミーゴの身体が、光の粒子となって消えていく。それと入れ替わるように、ふたたび声が響いた。
「見事だ……きみは先へ進む資格を得た」
「………」
ティラミーゴだった光の束に包まれ、エイジロウは静かに目を閉じた。
果たして彼が転送されたのは、鬱蒼と木々の生い茂る森の中だった。今までに通り過ぎてきた場所とは異なり、鳥や虫の声ひとつしない。ここも異空間であることは明らかだ。
(今度は、なんだってんだ?)
身構えていると、地響きとともにガサガサと木の葉をかき分ける音が近づいてくる。はっと振り向いたエイジロウが見たのは、
「……ディメボルケーノ!?」
「そもさん、汝に問う!」
ティラミーゴと異なり、当人(竜?)そのままの口調。先ほどのことがなければ、本物と誤認してしまいそうだった。
「使命と仲間、どちらか一方を捨てねばならぬとき、貴様はどちらを選ぶ?」
「は!?なんだよそれ、どっちかなんて選べるわけねえだろ!?」
半ば反射的にそう叫ぶや否や、「愚か者めがぁああ!!」という決め台詞とともに火炎が吐きつけられる。先ほどの戦いで慣れてしまったエイジロウはあっさり躱したが、問題は何も解決していない。
「ッ、どっちもだ!!俺は……俺たちはどっちもあきらめねえ──」
「それでは駄目だ!」
「!!」
心意気の話は、このディメボルケーノの姿をしたものには通用しない。歯噛みしつつも、エイジロウはその現実を受け入れて黙考するほかなかった。
「俺が……俺が、選ぶのは──」
最後の瞬間まで、それでいいのかともうひとりの自分が叫ぶ。躊躇う自分を──エイジロウは、漢らしくないと振り払った。
「──仲間だ!俺は、仲間を選ぶ!」
騎士にとって果たすべきは使命、幼少期より教え込まれてきたその矜持を捨てるわけではない。ただ苦難もあった旅の中で、仲間の存在が自分を支えてくれたとエイジロウは確信している。それが神殿の意思に受け入れられるかどうかは関係ない、自分の信ずるものを貫くだけだ。
「……フ、良いだろう」
「!」
「次が最後の間だ。そこで、己の答が正しいことを証明してみせろ」
そう告げてディメボルケーノは姿を消し、エイジロウは神殿の最奥へと招待を受けたのだった。