果たしてそこは、エイジロウたちが初めてリュウソウジャーとなった、村にある神殿の祭壇に酷似した場所だった。
(ここが、神殿の……)
周囲を見渡すエイジロウ。──と、隅のほうに、壁に寄りかかるようにして項垂れている小柄な人影が目に入った。
「コタロウ!」
「………」
駆け寄って身体を揺するが、反応はない。しかし規則正しい呼吸を繰り返しているところを見るに、よほど深く眠らされているだけのようだ。
エイジロウがひとまず胸を撫でおろしていると、背後に突然見知った気配が現れた。よもやと振り返れば、そこにはショートの姿があって。
「ショート!無事だったんだな?」
「ああ、おまえたちも……ところで、そこにあるのが"伝説の剣"じゃねえのか?」
「!!」
ショートの指摘通りだった。祭壇に深く突き刺さる、南国の果実のように色鮮やかな剣。その意匠は、リュウソウケンとよく似ているように思われた。
「これが……」
これさえあれば、村をもとに戻せる。積年、と言うには短い間だったけれど、焦がれ続けた願いの成就がいよいよ目前に迫ったように思われた。
しかし、
「ッ、……これ、抜けねえ」
ショートが力いっぱい引き抜こうとするも、剣はびくともしない。代わってエイジロウも試してみるが、結果は変わらなかった。
「駄目か……」
単に腕力の問題ではない、そんな直感があった。それを裏付けるかのように、眠っていたコタロウがゆらりと起き上がる。
「その剣の名は、リュウソウカリバー。騎士竜の力を極限まで解放する、リュウソウ族最強の剣だ」
「!、コタロウ……?」
コタロウはまたしても何者かの意思に操られているようだった。その指が不意に、ショートとエイジロウを順々に差す。
「先の問いに対し、きみたちは対極の答を出した。"栄光の騎士"、きみは"使命"……"勇猛の騎士"、きみは"仲間"を」
「……!」
思わず、互いに顔を見合わせる。その答に至った心情はお互い想像の及ぶものだった。ふたりがほぼ同じタイミングで最深部に至ったことが、それを裏付けている。
しかし、
「リュウソウカリバーを手にしたくば、戦え」
「な……!?」
「──!」
目をみひらく少年たちに対し、コタロウに取り憑いたものは慈しむような笑みを浮かべて続けた。
「使命と仲間……どちらを守るソウルが上か、戦って示せ。より優れたソウルをもつ者だけが、力を手にする資格を得る」
「………」
ふたりが躊躇っていると、
「……戦わないならそれもよし。この少年のみ連れて、早々に立ち去れ」
そう言われてあきらめるわけにいかないのは、言うまでもない。──すべては、宿願のために。
「エイジロウ、やるぞ」
「!、ショート……」
ショートの目は本気だった。彼がモサブレイカーを構えるのを認めて──エイジロウもややあって、リュウソウケンを手にした。
対峙するふたり。いつもの模擬戦とは異なる、張り詰めた空気が場を支配する。
先に動いたのは、ショートだった。
「はっ!」
「ッ!」
振り下ろされるモサブレードを、咄嗟にリュウソウケンを抜いて受け止める。そのまま力任せに押し込もうとするが、ショートは素早く後退してしまう。普段はイズクなどの影に隠れて目立たないが、彼の身のこなしも目を瞠るものがあって。
いずれにせよ、事ここに至ってはもはや言葉など要らない。彼らは刃を交え、いずれかが勝利するまで戦い続ける運命にある──
──はず、だった。
「だあぁもうッ!!」
「!?」
いきなり癇癪じみた声をあげたかと思うと、エイジロウはリュウソウケンを地面に突き立てた。
「……どうした、エイジロウ?」
困惑するショートに対し、エイジロウはきっぱりと言い放った。
「だっておかしいだろ、こんなの!仲間を選んだ俺が、剣一本のために仲間と斬りあうなんて、どうかしてる!」
「まぁ、それはそうだが……」
「おいおめェ!」コタロウを指差し、「大いなる力の化身だがなんだか知らねえけど、何かってーと俺らを争わせようとすんなよな!そういう争ってばっかの歴史を乗り越えて、俺らは今一緒にリュウソウジャーやってんだぜ!?」
「!」
コタロウの身体を借りて、神殿の意思は呆気にとられている。エイジロウの行動がよほど意外だったのだろうか。
「俺もショートも、選ばなかったほうがどうでもいいってわけじゃねえ。使命のために仲間がいて、仲間のために使命がある。俺たちの想いは、何も違っちゃいねえ!」
「……ああ、そうだ」頷くショート。「一緒に海で暮らしてきた仲間、リュウソウジャーとしてともに戦う仲間……。俺にはたくさんの仲間がいる。そいつらを守るために、使命を果たさなきゃならねえ。そう思ったから、使命を選んだまでだ」
──だから、彼らのソウルはひとつ。
「……そうか」
それだけつぶやくと、コタロウは静かに目を閉じた。身体から力が抜け、こくんと頭が垂れる。
刹那その背中から、見も知らぬ痩せた青年のシルエットが浮かび上がった。
『それが現代のリュウソウ族たる、きみたちの矜持なんだね。なら僕は、その想いを尊重しよう』
「あんたは……?」
『僕はヨイチ。今から6500万年以上も昔に生きた、古代のリュウソウ族さ』
『僕は魂のみの存在となってより永らく、この神殿を……リュウソウカリバーを守り続けてきた。そして今、ようやく大いなる力を受け継ぐ資格ある者に出逢えた』
「!、じゃあ……」
『託そう、きみたちリュウソウジャーに。さあ、ともに抜くといい──リュウソウカリバーを』
ふたりは顔を見合わせ、今度こそはっきりと頷きあった。同時に柄に手をかけ、力いっぱい引き抜く。
刹那、眩い光が辺りを覆い尽くした──
神殿内から溢れ出した光は、天空島一帯に降り注いでいた。
「!、これは……」
「What's happening!?」
外で戦っていたリュウソウジャーの面々、そしてちょこまか逃げ回ることで彼らを煙に巻いていたワイズルーとクレオンも、この変転に一様に驚き戦闘を停止していた。
程なく神殿の屋根部分が粉塵とともに一部吹き飛び、中からふたつのシルエットが飛び出してくる。
一方は、いつもと変わらぬリュウソウゴールド。しかしもう一方は、リュウソウレッドでありながら、今までに見たことのない黒い外套を纏っていた。
その名も、
「高貴たる勇猛の騎士!ノブレス、リュウソウレッド!!」
その手に握られた、リュウソウケンとは似て非なる剣。それが"伝説の剣"であることを、仲間たちはすぐに察知した。
「手に入れたのか、エイジロウくん……!」
「ええいっ、あの剣をゲットし一発逆転と洒落込むのだっ!──クレオン!!」
「ラジャー!おいマイナソー、そんなプなんとかは放っといてあいつ狙えぇ!!」
フレスヴェルグマイナソーは急旋回すると、ノブレスリュウソウレッドめがけて襲いかかった。そのスケール差はいちいち比較するまでもない。翼のはためきだけで、吹き飛ばされてしまいそうだ。
「エイジロウくん、ショートくんっ!!」
「させない、ティラアァァ!!」
プティラミーゴが慌てて追いかけてくるが、寸分間に合わない。マイナソーの鋭い爪が、彼らを粉々に磨り潰す──
──とは、ならなかった。
「……!?」
ノブレスリュウソウレッドの手にした剣──リュウソウカリバーが、マイナソーの巨大な爪を受け止めている。刃から発せられた無形のエネルギーが、何ものも寄せつけようとはしないのだ。
「ギ、ギイィ……!?」
「………」
「おらァアッ!!」
(これが、伝説の剣の力……)
強い、などとは言うまでもない。リュウソウカリバーのそれは、選ばれしリュウソウ族の騎士に与えられるリュウソウケンとでさえ比較にならない。──当然だ。リュウソウケンは元々、リュウソウカリバーを人工的に再現しようとして生み出されたものなのだから。
つまり、リュウソウケンのもつ固有能力をリュウソウカリバーももっているということ。リュウソウルを装填し、騎士竜たちの力を引き出す。
「いくぜ……!」レッドリュウソウルを構え、『進撃の覇者!ティラミーゴ!!』
リュウソウカリバーがソウルに宿った遺伝情報を読み取り、エネルギーへと変えて刃に伝播させていく。放たれるはただのディーノスラッシュではない。
「エクストリーム……ディーノ、スラァァッシュ!!」
文字通り、極限の一撃。それを正面から浴びたものは、跡形もなく消滅するほかに道はない。たとえスケールに差があろうと、関係ないことだ。
「ガアァァァァ────ッ!!?」
断末魔は、肉体ごと光の中に融けていく。あまりにも呆気ない巨大マイナソーの死に、操者たるワイズルーとクレオンはおろか他のリュウソウジャーの面々も絶句していた。
「あのサイズのマイナソーを、一瞬で……」
「なんて力だ……」
一方で、
「や、やべぇっすよワイズルーさま……!あんなの勝てっこねえっす!」
「か、かかか勝てっこないことはない!……But!」
「ばっと?」
「ここは戦略的撤退ィィィ!!」
踵を返し、脱兎のごとく逃げ出すワイズルー。クレオンも慌てて身体を蕩けさせ、それに続こうとする。
「逃がすかッ、──ショート!」
「ああ」
選手交代、リュウソウカリバーがレッドからゴールドの手に渡る。今度はゴールドが、あの麗しき黒と金の外套を纏う番だった。
「高貴なる栄光の騎士……リュウソウ、ゴールド!」
マントをはためかせながら、一歩を踏み出す。あとを追おうというのではない。そんな必要は微塵もないのだ。
「──ビリビリソウル!」
いつものようにビリビリソウルを装填する。むろんモサブレイカーにではなく、リュウソウカリバーに。
『怒涛の雷撃!スピノサンダー!!』
「はあぁぁ……──アルティメットディーノスラッシュ!!」
電光を纏った刃が、閃光の束となって地を走る。天空島は大きくふたつに裂かれ、平坦だった大地に断崖絶壁が生み出されていく。
幸いにしてワイズルーとクレオンはその直撃こそ避けたものの、拠るべき足場を失い、底なしの断崖へと呑み込まれていった。
「「ぎゃああああああ、ヤな感じィィィ!!??」」
──………。
*
「めちゃすごい力やね、リュウソウカリバー!」
興奮した様子でつぶやくオチャコ。求めた伝説の剣の、想定以上の巨大な力。これならば異空間に閉じ込められた故郷の村も、なるほど取り戻すことができるだろう。
「……でも三人とも、一刻も早く村に帰りたいとは思うけど──」
それ以上のことを、イズクは言いよどんだ。故郷を失ったままでいるのがどれほど辛いことか、その立場になってみなければわからない。
彼の想いはまったく正しいもので、本来なら声高に主張してもいいものだ。しかしそういう仲間への思いやりが、イズクをイズクたらしめる所以なのだ。
「わかってるさ」
だからエイジロウは、躊躇うことなくそう応じた。
「まずはセイン・カミイノを解放する」
「そこを襲ってるヤツと、できるならプリシャスも倒す!」
「村に帰るのは、そのあと!……やね!」
スリーナイツの言葉に、イズクはほっと笑顔を浮かべた。──わかっていた。彼らは同じリュウソウジャーの仲間なのだから。
「御託はどうでもいい。──とっとと行くぞ」
「あっ、待ってくれよカツキ!」
さっさと歩き出すカツキ。一見するとイズクと対照的な、仲間をなんとも思わない態度。むろんそうでないことを、仲間たちはもう知っている。
「『こうしてリュウソウジャー一行は、セイン・カミイノ救援へと向かうのだった』……と」
皆の動向を記録しつつ、コタロウは考える。自分に取り憑いた、ヨイチという原初のリュウソウ族。彼は何故、自分の身体を借りたりしたのだろう。ティラミーゴたち騎士竜の姿と力をコピーできるなら、そんな必要はなかったはずだ。
──不思議だね、縁というものは。
そんなつぶやきは、夢か現か。縁というのがいったい何を意味しているのかわからないながら、コタロウは己の中の何かが変わりつつあるのを感じていた。
つづく
「Hey、待ちくたびれたぜリュウソウジャー」
「マスターブラックが……裏切者……?」
「マスターは、ドルイドン側に寝返った」
次回「セイン・カミイノ攻防戦」
「とっとと終わらせねえとなァ、こんな戦争は」
今日の敵<ヴィラン>
フレスヴェルグマイナソー
分類/バード属フレスヴェルグ
身長/43.5m
体重/4350t
経験値/283
シークレット/北欧神話に現れる大鷲"フレスヴェルグ"をモチーフにしたマイナソー。その翼は大風を巻き起こし、テリトリーに足を踏み入れた者を凍てつかせると言われている。誕生当初より巨大な身体をもつ、貴重なマイナソーだ!
ひと言メモbyクレオン:寒いとこのヤツらからつくるマイナソーはでかくなりやすい、これ豆な、豆じゃないけど!……ゴフッ。