【完結】僕のリュウソウアドベンチャー   作:たあたん

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42.セイン・カミイノ攻防戦 1/3

 

 北の果てにある朽ちた古城に、悪魔たちが蠢いていた。

 

「祝杯をあげよう。ワイズルー、クレオン」

 

 思いもよらぬプリシャスの言葉に、名指しされた二体は顔を見合わせていた。

 

「どうかしたかい?」

「い、いやぁ……クレオン、訊いてみて……」

「えぇ、オレっすかぁ!?……お、恐れながらプリシャスさま、オレ、じゃなかった、ボクたち、リュウソウジャーにあのなんちゃらって剣とられちゃったんすけどぉ……」

 

 先立って彼らはプリシャスの命令(お願い)により、密かにリュウソウジャー一行を尾行し、伝説の剣"リュウソウカリバー"の眠る天空島の地に至った。そこで彼らと激闘を繰り広げるも、カリバーを手に入れたリュウソウジャーにはまったく太刀打ちできず……会心の一撃の余波で生まれた亀裂に呑み込まれるに乗じて、そのまま逃げおおせたのである。

 しかしワイズルーは、プリシャスに心臓を文字通り握られている。リュウソウジャーからは生き延びても、プリシャスの機嫌如何ではいつ葬り去られてもおかしくはない、のだが──

 

「構わないよ。元々、キミたちにそこまでは期待してないからね」

「Mmmmm……!」

「……()()()()()?」

 

 臍を噛むワイズルーに対し、クレオンはその言葉の不可解な部分を的確に捉えた。そのままとるなら、リュウソウカリバー奪取に次ぐだけの成果は挙げているかのようではないか。

 

「流石クレオン、死の商人なんてやってるだけのことはあるじゃないか」

「アァ……ドウモ……」

「そう、リュウソウカリバーを入手できれば言うことはなし。あの忌々しい遺跡から持ち去られたというだけでも、十分な意味があるのさ」

 

「何せあれは、ボクらに纏わる大いなる力を封印していたんだからね」

「大いなる力……──まさかッ!?」

 

 今度はワイズルーがプリシャスの真意を捉える番だった。杯を持つ手がぶるりと震え、溢れ出した飛沫がテーブルクロスを汚す。

 

「エラス様が、甦るというのか……?」

「えらす……?」

 

 ワイズルーが"様"を付けて呼称するような何者かの存在を、クレオンは初めて認識した。

 

「それはそうとワイズルー、あのリュウソウ族のナイトたちは城塞の街に向かったんだったね」

「!、うむ……そのようだが……」

 

 プリシャスがくつくつと嗤う。

 

「そう……なら、サデンのお手並み拝見かな」

 

 

 *

 

 

 

 リュウソウジャー一行は引き続き騎士竜プテラードンの力を借り、空路にてセイン・カミイノへ入ろうとしていた。

 

「あれがセイン・カミイノか……。えらい高ぇ城壁だな」

「それに見るからに堅固そうだ。騎士竜たちの攻撃でも、易々とは傷つけられないだろうな」

 

 あえて言えば、それだけの備えが必要な状況にあるということだ。もう少し接近すると、その事実が否が応でも理解できる光景が目に入ってきた。

 

「!、あれは──」

 

 真白い雪原を埋め尽くす、蟻のような黒い点々の群れ。上空からでは豆粒にしか見えないが。

 

「あれは……ドルン兵か?」

「ありったけのドルン兵……ドルイドン軍団、ってところか」

「よ〜し、そんなら早速ブッ飛ばしたる!」

 

 ポキリと拳を鳴らすオチャコ。自分が()()魔導士であることをすっかり忘れてしまったかのようである。

 それはそれとして、意気軒昂な剛健の騎士の首根っこを、威風の騎士が掴んだ。

 

「ぐぇっ!?……な、何すんねんバカツキぃ!!」

「誰がバカツキだノータリン!……よー見ろや、アレが全軍だと思うか?」

「え、えぇ?」

 

 じっと地上を睨むオチャコだが、結局は首を傾げた。こうして見るだけでも、かなりの軍勢である。今までの戦闘においてあれだけの数と一度に衝突した経験はない。自身の経験上の範疇で考えてしまうのが、悲しいかなオチャコの脳筋ぶりを表していた。

 

「多分、あれは示威行為のために残してある尖兵だよ。本隊は別にいる、たとえば……あの森の中とか」

 

 イズクが指さした先、街から半里ほど離れた区域には鬱蒼とした針葉樹林が広がっていた。上空からではその内部の様子は窺えない。姿を隠すにはうってつけだろう。

 

「街を解放するには、その本隊ごと壊滅させる必要があるということか……」

「っつっても連中の数がどんくらいかもわかんねぇし、とにかく街に入って情報収集が先決……だな!」

 

 エイジロウがそう言うと、仲間たちは揃いも揃って鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。なんなんだ?

 

「エイジロウくん……ひょっとして、賢くなった?」

「は?」

「い、いやぁ、的確な意見だと思うよ!」

「サブイボ立つわ」

 

 確かに頭脳労働においては仲間たちの後塵を拝しているエイジロウであるが、情報が戦闘に先立って重要な武器となることは経験則上理解している。この程度のことで"賢くなった"と言われるのも……なんだか複雑な気分になるエイジロウだった。

 

「オイ、皆の衆!」

「!」

 

 妙に気取った呼び声が足下から響く。プテラードンが何かを察知したようだった。

 

「この街、上空に結界が張られてるぞ。どこにも穴がねぇ〜!」

「ム……確かに、空から攻めてくることも考えられるものな」

 

 つい先日とて、空を飛ぶマイナソーが天空島にまで追跡してきたのだ。セイン・カミイノの街もその被害を受けたか、あらかじめ予測したか……ともかくその対策として、魔法で結界を張っているのだろう。

 

「しかし、これだと街に入りようがねえな。今の状況だと、正面から門を開けちゃくれねえだろう」

「は、だったらやるこたぁひとつしかねえわ。──このまま突っ込め、プテ公。てめェなら強引にでも突破できんだろ」

「ハァ!?」素っ頓狂な声をあげるプテラードン。「勘弁してくれよ、そんなの痛いだろぉ〜!?」

「騎士竜がナニ寝ぼけたこと言っとんだ、もっと痛ぇ目みてぇか?」

「ちょっ、かっちゃん!……ピーたん、お願いできないかな?」

「えぇ〜……」

 

 ストッパー役のイズクですらこれである。意見が一致した幼なじみコンビには誰も敵わない。意を決したプテラードンは急降下を開始した。その腹側が結界に接触した瞬間、凄まじい電撃が身体全体を迸る。

 

「グエェェェェ!!」

「ぐぁああああ!?」

「な、なんで俺らまでぇええええ!!?」

 

 プテラードンの背中に乗っているエイジロウたちにも当然、その被害は及ぶ。頑丈なリュウソウ族一同はともかく、心配なのはコタロウだった。

 

(早く!早く突破してくれ、ピーたん!!)

 

 でないとコタロウが!その様子も確認できぬまま歯を食いしばっていると、ようやくプテラードンの身体が結界を突破した。そのまま街のはずれに降り立つと、ぐったりと雪の中に沈み込む。

 

「はぁ……はぁ……やはり無茶だったな……」

「最初からわかりきってたやん……」

「ッ、コタロウ!大丈夫か……!?」

 

 自分たちですら息も絶え絶えなのだ、コタロウは──と思って振り向いたところで、彼は思わず目を丸くした。

 

「え、ええ……平気です、わりと」

 

 流石にしんどそうにはしているが、エイジロウたちと比べてもさほどダメージを受けた様子はない。生身の人間の、それも少年の身体が、である。

 

「コタロウ……おまえ、頑丈になったか?」

 

 デジャブを呼び起こすような質問をするショート。余計に「?」という雰囲気になる一行だが、数秒後にはそれどころではなくなっていた。

 ばたばたと複数の足音が迫ってきたかと思うと、プテラードンは大勢によってぐるりと包囲されてしまったのだ。

 

「!、この人たちは……」

「セイン・カミイノの守備隊だ……。テンヤくん、僕と一緒に顔を出してくれる?」

「ム……構わないが、なぜ俺なんだ?」

「こういう場は礼儀が肝心だからね!」

 

 さらっと他の仲間が微妙な気持ちになることを告げるイズク。ともあれ如何にも人畜無害そうなふたりがプテラードンの背中からひょこりと顔を出すと、守備隊の面々は一瞬呆気にとられた様子だった。プテラードンがマイナソーの類だと誤解していれば、驚くのも無理はないだろう。

 

「き、貴様ら一体何者だ!?」

 

 警戒は相変わらずだが、詰問がなされた時点で明らかなエネミーとしての扱いではなくなった。内心ほっと胸を撫でおろしつつ、努めて声を張り上げる。

 

「驚かせてしまって申し訳ありません!僕らは騎士竜戦隊リュウソウジャー、ドルイドンと戦うためにこの街に来ました!」

 

 "騎士竜戦隊リュウソウジャー"、その称号は既にこの街にも知れ渡っていた。「リュウソウジャー?」「こんな子供たちが?」「若年だとは聞いてたが……」「本当なのか?」──そんな言葉の数々があちこちから洩れる。

 

「……こちとらてめェらの誰よりも年上だっつの」

「カツキぃ……それ言ってもはじまんねーぜ」

「わーっとるわ!」

 

 そんなやりとりはともかくとして、

 

「おまえたちがリュウソウジャーだというなら、その証拠を示せ!」

 

 隊長格らしい男の反応。まあ、予想の範疇である。

 

「わかりました!テンヤくん、お願いしていい?」

「うむ!では……リュウソウチェンジ!」

 

 『ケ・ボーン!!』の発声とともに、プテラードンの上から飛び降りるテンヤ。地面に着地すると同時に、彼はリュウソウブルーへと姿を変えていた。

 

「叡智の騎士ッ、リュウソウブルー!!」

「………」

「これで、信じてもらえましたでしょうかッ!?」

 

 兵士たちの反応は……思ったより鈍い。あれ?とテンヤはじめリュウソウジャー一同は思ったが、よくよく考えれば彼らの誰もこの鎧姿を実際に見たことはないのだ。絵などで伝わっているとはいえ、今までエイジロウたちが旅してきた地域とは隔絶していて、しかも戦争状態につき街はほぼ封鎖されている。そのような状況での伝言ゲーム、正確な情報が伝わっているはずがないのだった。

 

「これ以上の証拠って、何かあるのか?」

「……ないんじゃないですか?」

「証拠言い出したヤツも阿呆だわ、俺らのことロクに知りもしねーで」

 

 これ以上ない正論に、誰も何も言わない。しかし完全に納得させられるだけの証拠を提示できない以上、あとは相手の匙加減ひとつである。にべもなく追い出されれば、その通りにせざるをえない。せめて食糧や水など、幾らかでも補給できれば良いのだが──

 

「──確認した。あんたたちを市長のところに案内する」

「!」

 

 そう言って隊列から突出したのは、藤色の髪を逆立てた青年だった。体躯は長身でなかなか立派だが、筋骨隆々というほどでもない。エイジロウたちと──成熟度合いでいえば──同年代であるようにも思われた。

 

「ヒトシ隊長、しかし……」

「何かあれば俺が責任を取ります。──あと、その大きいのだが……」

「大きいのじゃなくなるもーん!」

 

 天邪鬼な反応を示すや、プテラードンはしゅくしゅくと縮み、封印されていたときの丸々とした姿へと変わってしまった。そのままコタロウの懐に飛び込んでいくあたりが抜け目ない。

 

「どうも、ピーたんです!」

「………」

 

 なんともいえない空気が、互いの間に流れた。

 

 

 *

 

 

 

「俺はヒトシ。セイン・カミイノ市内Dブロック第三守備隊の隊長を務めている。まあ……よろしく」

「よ、よろしくっス!」

「それにしてもお若いですね……おいくつなのですか?」

「今年、16になった。だからタメ口でいいよ」

「16て!……私らでいえばほぼ赤ちゃんやん」

 

 オチャコのつぶやきは流石に小声だったが、すかさずピシャリとカツキに頭を叩かれた。リュウソウ族であることは絶対に隠しだてしなければならないようなことではないが、特にこういう緊迫した状況下においては注意しないと要らぬトラブルの原因になったりもする。エイジロウたちが当初コタロウにあっさり年齢を暴露したのも、今となっては浅薄な行為だったと言わざるをえないのだ。

 幸いヒトシ青年……もとい少年の耳には入らなかったようで、テンヤの言外に含まれる疑問に応えるように続けた。

 

「この街には人材を出し惜しみしている余裕がないからな、現場は完全な能力主義で回ってる」

「は、てめェにそんだけの能力があるって?」

「かっちゃん……!」

 

 なぜこの男はいちいち挑発めいた物言いをするのか。オチャコのそれよりよほどひと悶着起こしかねないところだが、幸いにしてこの若年の隊長は露ほども気にとめていないようで。背丈はショートやテンヤと同程度なのだが、纏う雰囲気は幾分も落ち着いている。目の下にくっきりと刻まれた隈は、連日の過労と重圧の証左か。

 

「俺自身はそう思って取り組んでる、それが評価されるかは別問題だけどな。──着いたぞ」

 

 彼らの面前に現れたドーム型の立派な建物。どうやらここが市庁舎であるらしい。カサギヤやオウスといった各地域の中核となる街と比較しても遜色ない、というかそれらを遥かに凌ぐほど立派な街のシンボルではないか。

 

「ここはいざってとき、市民全員が避難して立てこもることも想定して造られた。ここは逃げようにも北方は氷に閉ざされているからな、南側を埋められたら逃げ場がない」

「………」

 

 聞けば聞くほど厳しい環境である、戦場であることを抜きにしたとしても。絶対数の少ないリュウソウ族には、わざわざこういう地に根を張って住み続けるという発想がない。それならば旅をしながら住みよい場所を見つけて、そこに移住すればいいという考え方になる。

 

 蟻の巣のように各部署の執務室が配置された回廊を通り、螺旋階段を登っていく。なんとも不便でわかりづらく感じるつくりも、やはり上述の理由によるものだろうか。

 そうして辿りついた最奥に、市長執務室が存在していた。

 

「市長はあんたたちの到着を心待ちにしてた。どうもあんたたちと面識があるようなんだが、心当たりはあるか?」

「?」

 

 一行は顔を見合わせた。北の地に足を踏み入れたことのないスリーナイツ組とショートは当然思い当たる人物はいない。あとはイズクとカツキだが、彼らにしても北方を訪れるのはかなり久しぶりのことなのは以前語られた通りだ。

 まあ、あれこれ考え込んでいても仕方がない。会ってみればわかることだ。

 ヒトシがノックとともに入室の許可を求めると、「入れ」と男性の声が返ってきた。ややしゃがれているが若々しい、個性的なそれに、イズクとカツキはぴくりと反応した。尤もどこかで聞いたことがあるという程度のものだったが。

 

 扉が開かれ、正面奥にあるデスクがまず視界に入ってくる。こちらに向いた椅子の背もたれの頂から、ヒトシのそれに輪をかけて尖った金髪が覗いていて。

 

「リュウソウジャー御一行をお連れしました、市長──いや、」

 

「"ミスター・プレゼントマイク"」

 

 くるりと椅子が回転し、男の全貌が露になった。

 

「Hey、待ちくたびれたぜリュウソウジャー」

「!、あんたは……!」

「あなたは……!」

 

 カツキとイズクが揃っての声をあげる。そのうえ前者は敵愾心剥き出しの反応だ。タマキのときもそうだったとはいえ、今は相手の身分も状況も異なる。

 

「やっぱりお前らの知り合いか」

「一体、どういう関係なんだ?」

「……僕らとどういうっていうと、難しいけど」考え込みつつ、「彼は……マスターブラックの、親友だった人だ」

 

 イズクの端的な言葉にカツキを覗く面々が驚愕するなか、かの男はニヤリと笑みを浮かべてみせていた。

 

 

 

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