……が、朝のほうが閲覧数が伸びるようなので
今しばらく実験として朝投稿にしてみます
市庁舎の屋上に、市長ことプレゼント・マイクはひとり立ち尽くしていた。何度か咳払いをしたり声を発したりしてみたあと、彼はすぅ、と息を吸い込んだ。
そして、
「──Hey、街のレディースエンジェントルメン、アーンドボーイズエンガァ〜〜ルズ!!毎度お馴染み市長のプレゼント・マイクだ。今日の街の情勢をお伝えするぜィ、耳の穴かっぽじってよぉく聴けよな!」
その声は音を増幅する特殊魔法により、空気を幾重にも反響し街中に響き渡っている。家事をしていた主婦や外で遊んでいた子供たち、哨戒のために歩き回っていた軍人たちも皆、作業を中断してそれを聞いていた。
「今日は皆に最高にハッピーなニュースがある!なんとなんと、各地でドルイドンのbad guyどもと戦っては打ち勝ってきた今ホットなスーパーヒーロー、騎士竜戦隊リュウソウジャーがこの街に来てくれたゼ!皆にはシヴィーなくらしに耐えてきてもらったが、いよいよこの街にラブアンドピースが取り戻せる日も近い!あと少し、辛抱してくれよな!そんじゃ、シーユーアゲイン!!」
原稿もなしにすらすらと言い切ると、彼はそのまま庁舎内に戻ってきた。
「お疲れ様でした」
「おう!どうだった、トゥデイズマイスピーチ!」
「……さぁ」
「Oh、シヴィー……!」
おもねることをしないヒトシの返答に天を仰ぐプレゼントマイク。むろんこれは本名ではない。
「あの……ヒザシ、さん?」
「うぉい!プレゼント・マイクだっつったろぉ、イズク〜?」
訂正しつつ、イズクの肩に手を回そうとするプレゼントマイクことヒザシ。しかしその瞬間、彼を押しのけるようにしてカツキが割り込んだ。
「馴れ馴れしくすんじゃねえ……!」
「うぉっ……顔怖ぇぞカツキ。どーしたよそんな警戒して……昔よく遊んでやったじゃねえか」
「忘れたわ……!」
「おいおい……随分疑り深くなっちまったなァ。ま、おまえの師匠も用心深いヤツだったしな。そーゆーリスペクト、キライじゃないぜ?」
「ッ!」
かっと目を見開いたカツキは、次の瞬間思いもよらぬ行動に出た。リュウソウケンを抜刀し、ヒザシの喉元に突きつけようとしたのだ。ヒトシが慌てて庇いに入り、イズクとエイジロウがカツキを押さえる。
「ちょっ……何やってんだよ、かっちゃん!!」
「やべぇって!この人この街の偉い人なんだろ!?」
「うるせぇ!!何も知らねえくせにぬけぬけと……!あんな裏切者、誰が──!」
それは意図しない、それでいて間違いなく本心からの叫びだったのかもしれない。皆が唖然としているのを見て、カツキは己の失態を悟ったような表情を浮かべたのだから。
「マスターブラックが……裏切者……?」
「どういうことなんだ、カツキ……?」
「………」
沈黙したまま、拳を握りしめるカツキ。そんな様子を見たヒザシは、
「……ヒトシ。悪ィが外してくれるか?」
「!、いや、しかし──」
「大丈夫だ。なんたってこいつら、スーパーヒーローだからな」
ニカッと笑みを浮かべ、その実意志の強固さを覗かせる市長に、ヒトシはため息混じりに頷いてやるほかなかった。せめてもの抵抗に「何かあったらお呼びください」と言い残して、部屋をあとにする。
そのうえで改めて、ヒザシが口を開いた。
「あいつが裏切者っつーのは、どういう意味だ?」
「………」
は、と、カツキは詰めた息を吐き出した。
「──マスターは、ドルイドン側に寝返った」
カツキの脳裏に、二度とは戻らない過去が甦る。まだ無邪気だった幼き日々、騎士となるべくマスターブラックに心身両方を鍛えてもらったこと。その努力と才能を認められ、次代のリュウソウブラックに指名されたこと──
それから程なくしての、ドルイドンの襲撃と、師の裏切り。
──ンでだよ、マスター……!なんで、あんたが……!
──………甘いな、おまえは。
いずこかへ去りゆく背中。それが最後に見た、師の姿だった。
*
ヒザシの計らいにより、一行は守備隊宿舎の一角を使わせてもらえることとなった。一応は護衛という名目の監視が付けられていて、自由に出歩くことも認められなかったが、戦時下の街ではやむをえないことと皆理解している。エイジロウたちも旧王国をぐるりとほぼ一周して、色々な文化や風習について学んだのだ。
とはいえ、である。
「こ、これだけ……?」
オチャコの思わずのつぶやきに、テンヤが咄嗟に「しっ」と口に人差し指を当てた。
「こういう状況なんだ……致し方ないだろう」
「これ、ジャガイモっつーんだっけ?結構いけるぜ」
もぐもぐと咀嚼しつつ、エイジロウ。もとより作物の殆ど育たぬ環境下にあるこの街は、他の地域からの輸入に食糧を頼る部分が大きい。それが途絶えて久しい現在、数少ない自給自足可能なイモ類などを中心にどうにか食いつないでいるのが現状なのだった。
「で、でも、それも私らがドルイドン退治すれば……!」
「解決には繋がるでしょうけど、すぐには無理ですよ」コタロウが言う。「本当に安全が確保されたのかどうか、他の街や村に情報が行き届いて、それからです。少しずつ良くはなるにしても、完全に戻るのに数ヶ月はかかるかと」
「そんなに……!?」
解放すればすべてが薔薇色に進むなどというのは、夢物語にすぎない。険しい現実を改めて噛みしめる一同。
一方で、今の彼らには別の問題も横たわっていた。
「なぁ、イズク。いいか?」
「どうしたの、ショートくん」
「おまえ、知ってたのか?マスターブラックが……ドルイドン側についた、って」
空気がぴしりと音をたてる。とりわけどこか上の空で今の今まで食事をしていたカツキは、得体の知れないものに向けるかのような目でイズクを見た。
皆の視線を集めたイズクはスプーンを皿に置き、顔を上げた。
「ドルイドンについたかどうかまではともかく……薄々察してはいたよ。マスターブラックがただ行方知れずになったのでないことは、ね」
失踪のあと、他人に根強い不信感を抱くようになってしまったカツキ。そんな彼との間に起きた相剋を経て、彼はこう言った。
──マスターのことは……まだ、俺ン中で消化しきれてねえ。
「かっちゃんはあのとき、ガイソーグがマスターと同じ言葉を吐いたことに驚いていなかった。マスターが敵に回ったと知っていたなら、それも不自然なことじゃない」
「……確かにな」
イズクとて、その可能性を信じたくなどなかった。先代のリュウソウブラックを自分たちと同じく少年時代から務め、勇敢にドルイドンと剣を交えてきた敬愛すべき師匠が。
「マスターブラックか……今どこで、何をやっているのだろうな」
「……どこで何をしていようが、あの男だけは許さねえ。もしまた立ちはだかるってんなら──」
匙を握るカツキの手に力がこもる。その先を彼が続けようとした刹那、割り込むようにエイジロウが言った。
「──ブッ飛ばす!」
「……!」
「……で、いいんじゃねーか?とりあえずはさ」
如何にも気軽にそう言って、夕餉の残りをかき込む。その勢いが激しすぎてか、次の瞬間には盛大に噎せてしまったのだが。
その光景を見て、カツキもイズクもすっかり毒気を抜かれてしまった。──そうだった。こういう仲間たちとの出逢いを通して、カツキは他人を信じる心を取り戻していったのだ。
「そのためにも、必ずドルイドンに勝利しなければ、な」
*
執務室の椅子に身を預けながら、ヒザシはじっと考え込んでいた。市長として決裁が必要な書類は山のように積まれているが、それを片付ける気はいっこうに起きてこない。
「……フゥ」
ため息の大元たる精神は、かつての弟分の語った親友の顛末によって憂いに染まっていた。ひとり旅の芸人として数年前にこの街に流れ着き、いつの間にか市長にまで祭り上げられてしまった近年のヒザシしか知らない人間は、今の彼の表情を信じられないだろう。ただ彼もかつてはリュウソウ族の騎士として、平和のために何ができるかを日々考えながら己を鍛えてきたのだ。その経験が、戦時下の街の為政者として生きているともいえる。
「ったく……。教え子にあんなカオさせて、何やってんだバッキャロー……」
親友は本当に裏切ったのか、それとも。自分の知る少年時代から青年のころにかけて、絶対にそんなことをするヤツじゃないと断言できる。しかしヒザシが彼と別々の道を歩みはじめたのはもう百年近くも昔のことだ。些細なきっかけで固い信念すらも簡単に裏返る、それがヒトという生き物。リュウソウ族とて、何も変わらない。
そこに、ドアノックの音が守備隊のいち隊長の来訪を告げた。「失礼します」と、折り目正しく一礼して入室してくるヒトシ少年。セイン・カミイノでは年齢と役職の相関関係がほぼないとはいえ、彼は役職のあるものとしては最年少である。しかし恵まれた体躯と頭の回転の速さ、冷静沈着な物腰の奥に情熱を秘めたるその性格をヒザシは評価して隊長職に引き上げた。──何より、彼はどこか似ているのだ。若かりし日の親友と。
「おう、どしたヒトシ。まだ休んでなかったのか?」
「お互い様でしょ。それよりどうしたんですか、黄昏れて」
「ヘン、大人にはなァ、黄昏れたくなるときもあるんだよ」
「………」
ヒトシはなんともいえない表情を浮かべている。少年とはいえ立派に役職を勤め上げている人間に対し失言だったか。ただ、上述の通り親友のミニチュアのごとき──体格はさほど違わないが──少年であるから、どうしても兄貴風を吹かせたくなってしまうのだ。
「なあヒトシよォ。おめぇ、最近遊んだか?」
「遊び……ですか?」
「なんでもいいんだ。ダチとメシ食いながら駄弁るとかよ」
「……元々友人は多くないので。時間もありませんし」
ぶっきらぼうな物言い。そういう不器用なところをヒザシは愛おしくも感じるのだが、なるほど個人的な交友が円滑に進まないのも頷けるところである。
ただ──何にも脅かされることのない平和な世の中であったなら、彼の人生も少しは違ったものになるだろう。
「人生は短ぇんだ、楽しまなきゃソンだぜ?」
「はぁ……」
「そのためにもよ……とっとと終わらせねえとなァ、こんな戦争は」
その想いを誰より強くもっているからこそ彼は市長に選ばれたのだけれど、当人にその自覚はなかった。
*
三日後。街には大々的に避難命令が発せられていた。市民は市庁舎内の地下壕に避難させられ、地上はほぼ無人のゴーストタウンと化している。
とはいえ、完全に生物の気配が絶えたわけではない。総動員された守備隊、そして旅の"解放者"──エイジロウたちリュウソウジャーの面々も、ここを戦場と見定めて降り積もる雪の上に立っていた。
「いよいよ、か」
「ハァ〜……なんか緊張してきた……っ」
「いつもやっとることだろーが」
「でも気持ちはわかるよ。こんな大々的かつ緻密に作戦を立てて……なんて戦い方、初めてだもんね」
今まで個々の
「なんにせよこの一戦、街の自由と平和がかかっている!必ず勝利しよう!」
テンヤがはからずも総括となる激励の言葉を発したところで、一同は改めて今般の作戦について振り返っていた。
──オペレーション・デコイ。
読んで字の如く、である。まず一部隊が街の外に出てドルイドンの軍勢に挑発を仕掛け、戦闘状態に入る。当然、人間とドルイドンが正面切って対決すれば後者に軍配が上がるのは言うまでもない。ある程度戦ったらあえて敗走し、部隊は街に引っ込む。その際城門の閉鎖が間に合わなかったように見せかけ、敵軍勢を街に引き入れる。そこでようやく、リュウソウジャーの出番というわけだ。
「エイジロウくん、きみの初撃でどれだけ敵を減らせるかがカギだ。頼りにしてるよ」
「おうよ。俺らと同じ年頃のヤツが囮になってんだ、絶対にやってみせるぜ!」
「──隊長、敵の本隊と思しき一党を発見しました」
部下の報告の声に、彼らより年少の部隊長は意識を現実に引き戻した。いよいよ街の趨勢を決定する一戦がはじまる。その鏑矢となるのが自分たちだ。叩き折られれば、それでおしまい。
──人生は短ぇんだ、楽しまなきゃソンだぜ?
(わかってますよ、プレゼント・マイク)
明るい未来にたどり着くために、今はどんな茨の道でも走り続ける。そう誓ったのだ。
「5秒後、左翼小隊から突撃開始。無理はしなくていい、むしろ積極的に退いて、西門まで誘い込め」
念押しするように命じ、カウントダウンを開始する。5、4、3、2、1──
刹那、雪原に鬨の声が響き渡った。
「!、接敵したか……」
同刻、ヒザシの発した言葉に、帯同する護衛官は目を丸くしていた。彼らのいる庁舎からは距離も相当あるというのに、何故わかるのかとでも言いたげな表情だ。尤も私心を一切捨てて任務にあたっている彼らは、その疑問を口にすることはないのだが。
「頼むぜ、ヒトシ……」
──死ぬんじゃねえぞ。
この任務を伝えるとき、あえて告げなかった言葉。目をかけた若者を死地に赴かせることに、少なからず罪悪感はある。しかし彼とその部隊ならやってくれると、ヒザシは信じていた。