敏鬼さあ……(褒め言葉)
サデンとその軍勢の撤退を受けて、セイン・カミイノの街にはようやく平穏な日々が戻ろうとしている。とはいえ先日の街に敵を引き入れての邀撃戦による爪痕は少なからず残されており、まずはその復興が急務。
と、いうわけで。
「よい、しょっと!」
まるで鞄を背負うかのような手軽な動作で、大量の資材を担ぐオチャコ。彼女はそのまま長箒に跨がると、ふよふよと浮き上がってしまった。
「みてみて、浮けるようになった!」
「おぉー、さっすがオチャコ!腕っぷしで負けてんのは悔しいけど……」
メンバー随一の腕力は相変わらず、地味にだが魔法の技術も磨いているようである。はたらきでは負けていられないと、エイジロウも資材を担ぎ上げた。
「しかし……サデンを撃退できたはいいが、倒すには至らなかったな」
「まだプリシャスも残ってるしね……。今度はこっちから攻めていくくらいじゃないと、本当の意味でこの街が平和になるのは遠いかもしれない」
ただ、無尽蔵の気力と体力を誇るリュウソウジャーの面々も、連日雪の降りしきる極寒の気候と激しい戦いの連続に間違いなく疲弊していた。街を解放したところで、当面は休息としても良いのではないか。珍しくコタロウがそんなことを主張し、無茶したがりのイズクと弱みを見せたがらないカツキもさらに珍しく賛同したことから、彼らは今しばらくセイン・カミイノに滞在することになった。こういう状況であるから、軽い運動がてらの仕事は幸いいくらでもある。
「オラ、くっちゃべってんじゃねえ!働けや、馬車馬のように!」
「うわ出た……」
「活き活きしてんな、カツキ」
まあ、それ自体は良いことである。彼の場合、活力と他者への攻撃力がニアイコールなのが困りものなのだが。
ともあれリュウソウジャーの面々はちょっとした合間のおしゃべりを終了し、各々の作業に戻っていった。その際、自分たちを監視するかのような視線をショートは感じたのだが、一瞬のことだったので気のせいと流してしまった。彼は勘の鋭さと大雑把さが同居しているので、何かを感知しても気にしないことが多い。尤もそれが敵や悪意の存在であればその限りでないので、今のところは弱点になりえていないが。
尤も、このときのショートの感覚は正しかった。彼らをじっと観察する者が、確かに存在したのだ。
*
一方、軍勢を壊滅させられたサデンは、根拠地である古城に戻っていた。
「此度の敗北、申し訳ございません。プリシャス様」
跪き頭を垂れるサデンに対し、プリシャスの反応は実に淡白なものだった。
「敗北?ああ、あの街のことか。もうどうでもいいよ、エラス様の復活が近い今、人間どものかたまりひとつ、あとでどうにでもなる」
「……はっ」
「それよりどうだった、リュウソウカリバーの力は?」
「非常に強力なものでした。加えてリュウソウレッドには専用の強化装備があるようです。……リュウソウジャー、侮れないかと」
「そうだねぇ。エラス様が完全にお目覚めになるまでは、全面戦争は避けたほうがいいかな?」
「私はそう愚考します」
プリシャスが満足げに頷く。
「わかったよ、ならワイズルーたちにでも行かせるかな」
「………」
「ありがとう、サデン。ボクの右……いや左腕として、頼りにしてるよ」
感情の見えない所作で、サデンは恭しく一礼した。
*
「いっただっきまーーーす!!」
元気の良い大声とともに、リュウソウジャー一行は路地の片隅にて食事の時間を迎えた。
「ふー、うんめぇ!」
「なんでも美味ぇんじゃねーか、てめェはよ」
「へへっ、外で食うと尚更な!」
好き嫌いなくなんでもよく食べるのがリュウソウジャー、とりわけスリーナイツ組の特徴だが、エイジロウはお世辞にも豪華とはいえない食事も楽しんでいるようだった。肉体労働従事者は優先的に穀物や肉類が振り分けられるので、そのせいでもあるだろうが。
「我々は客人であるからして、どんな食事でも不満はないが……この街の食糧事情、早く改善すると良いな」
「せやね……。子供たちがお腹いっぱいお肉食べられるようにせんと!」
「肉といえば、明日は狩猟の護衛についてくれないかってヒザシさんが。全員で行く必要はないと思うけど、どうかな?」
「いいんじゃねえか、………」
もぐもぐと硬いパンを咀嚼していたショートが、ふいに黙り込んだ。その視線がわずかに後方へと向かう。
「どした、ショート?」
「……さっきから気になってたんだが、俺たちを監視してるヤツがいる」
「!」
にわかに緊張が走る。市内はくまなく守備隊による捜索が行われているとはいえ、敵の残存兵の存在を真っ先に考えてしまう。
「出てこい。隠れてても良いことねえぞ」
「………」
ざり、と雪を踏みしめる音とともに、気配の主が現れる。その姿を認めて、警戒はすぐに当惑へと変わった。
「フフフ!ボンジュール、リュウソウジャー☆」
耳慣れない挨拶の辞とともに飛び出してきたのは、金髪の青年……いや少年だった。背丈はエイジロウと同じくらいだが、体格が細いせいかずいぶん小柄にみえる。尤もそんなことがどうでもよくなるくらい妙に洒落た髪型と服装をしているせいで、本物であるショート以上に王子様然としているのだが。
「……どちらさん?」
「失敬。僕はユウガ、この街ナンバーワンのエンターテイナーさ!」
身体をくるりと一回転させつつ、少年が言い放つ。その大仰な所作もさることながら、"エンターテイナー"という自己紹介である。そう名乗る存在をワイズルーくらいしか知らないリュウソウジャーの面々としては、それだけでもう胡散臭く感じてしまうところである。
「お呼びじゃねえ、失せろ」
「かっちゃん!……それが、僕らになんのご用ですか?」
カツキを窘めつつも、警戒を崩さず訊くイズク。それに対してユウガと名乗った少年は、
「フフフ、とっても大事な用さ☆」
「………」
なんというか、やけにキラキラしていて。浮世離れしているともいえる。いずれにせよ、未だ陰鬱な雰囲気を拭いきれていないこの街においては、明らかに浮いた存在だった。
「キミたち、演劇に興味はないかい?」
「エンゲキ?」
「お芝居のことだよ」イズクが耳打ちする。
「なるほど。それなら幼い頃、村の子供全員でやったことがあるぞ!」
「私、木の役やった……」
そういうわけで、興味がないと言えば嘘になる。しかし、それがどういう話に繋がるのか、勘の鋭い者以外は想像もできなかった。
「キミたちに是非、僕主催の劇団に参加してほしいんだ☆」
「お、俺たちが!?」
思わず顔を見合わせる一同。「アホか」と一蹴したのは……誰かは言うまでもあるまい。
「街の復興にしろ敵をブッ叩きに行くにしろ、やることはいくらでもあんだ。ンな遊んでる時間あるかよ」
「まぁ、確かに……」
「……遊び?」ユウガの目の色が変わる。「それは聞き捨てならないよ!☆」
「!?」
ずい、といきなり距離を詰められる。遊びと言った張本人であるカツキならまだしも何故かエイジロウに。パーソナルエリアが皆無に近い彼でも、これは流石に鼻白んだ。
「僕は真剣に、これを生業としてやっているんだ。この街のみんなを笑顔にするためにね☆」
「みんなの、笑顔……?」
「その通りさ☆だから街の英雄となったキミたちにぜひ出演してほしいんだ、頼むよ☆」
頼むと言いつつお辞儀ひとつしないユウガだが、その独特のキャラクターが生み出すペースに彼らは巻き込まれつつあった。何より、みんなを笑顔にするという彼の言葉。何もかも掴みどころがない中で、そこだけは明確な信念を感じられる。
「いいんじゃねえか。やってみるのも」
「……だな!芝居なんてなんじゅ……ゴホン、久しぶりだから、御手柔らかに頼むぜ!」
「心配はいらないよ☆」
こうして一行は──なんだかんだ強く拒否はしないカツキも含め──ユウガの劇団に参加することになったのであった。
──のだが、
「劇団て……」
「てめェひとりしかいねぇんじゃねえかぁ!!」
怒声に耳を塞ぎつつ、「ソーリー☆」と心のこもらない謝罪を返すユウガ。劇団というからある程度設備や人員も揃っているのかと思いきや、彼がただひとり自称しているだけだったのだ。劇場?も、公共の広場の片隅を間借りしているだけというありさまである。
「こんなんでやってられっか、俺ぁ降りる!!」
「お、おいカツキ!」
「なんで降りるんだ?」
「決まってんだろーがボケボケ半分野郎。コイツひとりでどこまでお膳立てできるってんだ、ままごとにもなりゃしねえ」
「でもイチからやるのも面白そうじゃねえか?お膳立てがなきゃできねえってんなら別だが」
「……ア゛?」
後半部分に、カツキはぴくんとこめかみを引き攣らせた。彼は不可能があると思われる&言われるのを実に嫌う。仲間たちはもうそういった性質を理解しているのだが、ショートは持ち前の天然を発揮してそこを突いたのだ。悪意がないことは、フラット極まりない表情からも明らかで。
「ご、ゴホン!……やろうよかっちゃん、やっぱりきみの音頭がないと色々心もとないしさ!」
「お、俺もそう思うぜ!」
煽りすぎても逆効果ということで、すかさずイズクとエイジロウが持ち上げる。この天然と計算のコラボレーションにより、暴君はあっさりと陥落した。
「は、誰にモノ言ってんだァ!?とことん演じ殺してやっから俺について来いやァ!!!」
空気がビリビリ震えるほどの怒声に、一同黙って耳を塞いだ。
*
と、いうわけで。
「お、おのれドルイドン。ゆりゅ、ゆるさんぞ〜〜……」
「かならずオレたちリュウソウじゃあぁ……なかった、リュウソウブラザーズがキサマらのやぼうをそししてやるぅ〜〜……」
「首洗って待ってろやァァァ!!!」
──ろやぁ……ろやぁ……ろやぁ………。
ひゅうううう、と木枯らしが吹きつけ、寒さに慣れていない戦隊一同はぶるっと身体を震わせた。
「………」
ところは上述の通り広場の片隅。明確な観客は……人間でいえば、コタロウただひとりである。
「……通しだとこんな感じか」
「ど、どうだったコタロウ?」
わくわくした表情で訊くエイジロウ。しかしコタロウは実に冷めた顔をしていて、返答はもう明らかだった。
「まず……皆さん演技が酷すぎます」
「うっ……」
いきなりぐさっと突き刺さる。カツキだけは何故か勝ち誇ったようにフンと鼻を鳴らしているが、
「いやあなたもですよ……。棒読みではないけど、がなってるだけじゃないですか」
「ぐっ……」
「それに、単純にストーリーが面白くないです」
「うぅっ☆」
これはユウガに刺さった。演劇といっても大層なものではない、十五分程度の短いバトルものにすぎないのだが、コタロウくらいの年齢と賢さになると何も刺さらないのだった。
「あと……」
「ま、まだあるん……?」
「ええ。まあ、これは僕の目が肥えてるせいもあると思うんですが、いまいち迫力に欠けている気がして」
確かに、コタロウは実際の戦いをこれでもかというほどに見てきている。リュウソウルのエフェクトに騎士竜、ナイトロボたち……"生の"ド派手な戦いぶりには、広場の片隅でやっているような小芝居は太刀打ちしようがない。
「──だったら、オレたちが代わってやろうか〜?」
コタロウの懐でそう声をあげたのは、人間ではない第二の観客だった。
「ピーたん……口出さないの」
「だってよう、迫力が欲しいんだろ?だったらピッタリじゃんか〜」
確かに迫力だけならそうだが、短絡的である。一同が苦笑する中、ひとりだけ目の色を変えたものがいた。
「それだ……☆」
「へ?ゆ、ユウガくん?」
何を思ったがユウガは、今までの台本を上空に放り投げてしまった。程なく降ってきたそれが頭頂部に直撃し、悶え苦しむ羽目になるのだが。
「あ、アウチ……☆」
「……何やっとんだてめェ」
「うぅ……ゴホン!確かにこの前の巨人同士のバトル、大迫力だったね!路線変更といこう☆」
「つまり……?」
「主役はキミたちさ☆」
ユウガの指がピーたんを指す。「やったー!」とぴょんぴょん飛び跳ねる姿は愛らしいが、実際にはこの街の庁舎以上に巨大な身体なのである。戦時でもないのに、そんな彼らに与えられるスペースがあるのか。
「……僕からヒザシさんにお願いしてみるよ」
そうだ、彼とカツキに関しては、言い方は悪いがここの市長とコネがあるのだ。後者はそんなもの利用する気は微塵もないが、前者は騎士竜たちに任せられるならそれはそれで、という気持ちだった。他にやれることはたくさんあるのだ。
「Merci☆それじゃ、脚本を彼らにあわせて書き換えないと☆」
「あ、それなんですけど」不意にコタロウが挙手する。「僕にひとつ案があるんですけど、聞いてもらってもいいですか?」
「!、本当かい?嬉しいな、スタッフまで現れるなんて☆」
両手を広げてくるりと一回転するユウガ。喜びを表しているのだろうが、大袈裟にすぎやしないだろうか。
「……で、俺たちはどうすりゃいいんだ?」
「知るか!」
色々な意味で先行き不安になりつつ、本日は解散ということになったのだった。