【完結】僕のリュウソウアドベンチャー   作:たあたん

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43.キラキラ☆大怪獣バトル 3/3

 

 ざり、と雪を踏みしめる音が響く。

 

 純白に彩られた深い針葉樹林に、セイン・カミイノの街を出立した狩人の集団が踏み入っていく。

 その中には、イズクとカツキの姿もあった。

 

「………」

「かっちゃん、どうかした?」

 

 何やら考え込んでいる様子の幼なじみに、イズクが声をかける。彼はフゥと白い息を吐き出すと、「なんでもねえ」と素っ気なく応じた。

 しかしそれで引くようでは、彼の相棒などはやっていられない。もっとも踏み込みすぎて喧嘩になることもしょっちゅうなのだが、それはそれである。

 

「やっぱり、劇のほうが気になる?」

「なんでもねえっつってんだろ」

「だって僕は気になるもん。かっちゃんだってそうじゃないの?」

「………」

 

 沈黙は肯定である。苛烈さと冷徹さを併せ持ったカツキだが、その余白にはきちんと情が詰まっている……と、少なくともイズクは思う。そうでなければ駆け出しの頃の自分など、とうに捨て置かれていただろう。

 

「上手くいくよ、きっと。信じよう」

「……ふん」

 

 と、近くから歓声が聞こえてきた。獲物を仕留めたのだろう、「すごい」「でかいぞ」なんて声も聞こえてくる。興味のままにそちらへ足を向ければ、なるほど成人男性ふたりぶんほどの立派な体躯をもつ獣が、矢を浴びて横たわっていた。

 

「うわ、ほんとにすごい……!」

「今晩は肉食い放題だな」

 

 そんならしからぬことを言うくらいには、カツキも高揚していた。彼も育ち盛りの少年であるからして、肉は大好物なのだ。

 

 一方、少し離れた場所で、狩人のひとりが用を足しているところだった。

 

「ふぅ……ん、あっちはでかいの獲ったみたいだな」

 

 彼の今日の成果は、現時点では雪兎一羽でしかない。ここは自分も大きな獲物を捕らえねばと意気込んでいると、大樹の陰で何かが動くのが目に入った。

 獲物だと確信し、抜き足差し足で迫る。そして木陰から飛び出すようにして襲いかかろうとした瞬間、彼はその正体をようやく認識した。

 

「ジャジャジャジャーン!!」

「ッ!?」

 

 それは獲物などではなかった。むしろ人間を喰い物にし、この街を筆頭に世界そのものを脅かし続ける存在──

 

「ど、ドルイドン!?──うわっ」

 

 脇腹のあたりを押されてくるんと半回転させられる。混乱していると、彼はそのまま羽交い締めにされてしまった。

 

「な、なんだよ!?放せっ、誰かたすけ……あががががっ」

 

 口を強引に開けられ、ますます混乱する。顎が外れそうな内から外への強力な圧迫に涙を浮かべていると、目の前の地面からぬるぬると緑色をした粘液が滲み出してきた。それはたちまち具体的な姿を形作る。頭部に巨大な菌傘を持った、ドルイドンに輪をかけて不気味な怪人──

 

「う、ごごごごごぉッ!!?」

「クレオン、ヤッテシマイナサーイ」

「アイアイサー!ほぉら、ごっくんしてねぇ」

 

 指先から分泌された粘液が、男の喉奥に流れ落ちていく。それを嚥下した直後、彼の身に異変が起こり──

 

 

 それから数分後。狩猟団の面々は、仲間のひとりが用足しから戻ってこないことに気づきはじめていた。

 

「いくらなんでも遅くないか、あいつ?」

「でけぇほうだろ?」

「小便って言ってたぜ」

 

 皆、さほど危機感を抱いているわけではない。市長の計らいでリュウソウジャーを護衛につけているとはいえ、周辺の敵は駆逐されているというのが彼らの共通認識に相違なかった。もしもドルイドンが潜伏しているならば、狩人のひとりふたりを密かに襲うなどというみみっちいことはせず、ふたたび街に攻撃を仕掛けてくるだろう、と。

 

 一方で、イズクとカツキはドルイドン──とりわけ"群青の道化師"のやり方を熟知している。グレイテストエンターテイナーを自称する彼だが、わかりやすい大規模な破壊活動などはやらない。個々人の信条や懊悩などを踏み台にした、厭らしい罠を仕掛けてくることが多い。

 

「かっちゃん、もしかして──」

「……おー」

 

 ふたりが警戒を強めたそのとき、彼らの背後からガサガサと枝葉を分け入る音が近づいてきた。

 

「!」

 

 咄嗟にリュウソウケンに手をかけ、振り返る。果たして現れたのは──小用に立ったまま姿を消していた男で。あぁなんだと、皆の間に弛緩した空気が広がる。もとより警戒度はさほど上がっていなかったのだから、当然だ。

 しかしリュウソウ族のふたりは緊張の面持ちを崩すことはなかった。足取りは妙にふらついているし、半ば閉ざされかけた眼はどろりと濁っている。酩酊状態のようにも見えるが、寒冷地で狩人をする者が最中に酒を呑むなど自殺行為もいいところだ。そんなことをするはずがない。

 

「……え、もの……」

「!」

 

 何事かつぶやいたかと思うと──ばたんと倒れ伏す。そしてその背後から、ヒトとは似て非なる筋骨隆々のシルエットが飛び出してきた。

 

「エモノォ!!」

 

 赤と青がまだらになった皮膚に、頭部の前後から穿たれたように突き出す角。はっきり言って異様な姿だったが、現世の理の上にある生物でない以上は言ってもはじまらない。イズクたちは狩猟団の面々に後退を指示した。この怪物を討ち取らねば、せっかく仕留めた大物をもって街に凱旋することもできない。

 

「いくぞクソデクァ!!」

「わかってる!」

 

──リュウソウチェンジ!!

 

『ケ・ボーン!!』『リュウ SO COOL!!』

 

 小さな鎧騎士たちを身に纏いながら、ふたりは走り出す。次の瞬間には、彼らは竜装の騎士へと姿を変えていて。

 

「はぁッ!」

「オラァ!!」

 

 一挙に敵の懐に潜り込み、勢い込んで斬りかかる。鬼のような姿をしたマイナソーはそれを両腕で受け止め、彼らを弾き返した。

 

「ッ、やっぱり、一筋縄じゃいかないか……」

「ならよォ、──カタソウル!!」

 

 リュウソウケンにリュウソウルを装填するブラック。さらにグリーンもツヨソウルで続く。『ガッチーン!!』『オラオラァ!!』と音声が響き、ふたりの右腕にソウルを具現化した鎧が装着された。

 

「デク、右ィ!!」

「了解っ!」

 

 今度は散開し、別方向から攻めかかる。方法は異なるとはいえ、いずれも強化された斬撃である。同じように防ごうとしたマイナソーは、今度は自らが吹き飛ばされる羽目になった。

 

「グウゥ……!──グガアァァッ!!」

 

 怒りのままに拳を振り上げ、襲いくるマイナソー。すかさずグリーンを押しのけて、ブラックが前面に出た。

 

「ちょ、かっちゃ──」

「来いやァ!!」

 

 刹那、ドガァと激しい衝突音が響き渡る。およそ生物同士が発する音ではなく、それを受けた側はぺしゃんこに潰されてしまったのではないかという不安が聞く者によぎる。

 しかし現実は、ブラックの右腕が見事にマイナソーの拳を受け止めきっていた。

 

「は、……蚊ァ止まったんかと思ったわァ!!」

 

 そのまま鎧を纏った右腕で、強烈な肘打ちを見舞う。ガハァ、とうめき声をあげ、マイナソーは後退を強いられた。

 

「もうっ、無茶しすぎだよ!」

「けっ、てめェに言われる筋合いねーわ」

「そうかもしれないけどさあ……」

 

 と、ここでマイナソーが倒れたままの宿主からエネルギーを吸収しはじめた。何度かこれを繰り返されれば、あっという間にマイナソーは巨大化に至ってしまう。その先は完全体だ。

 

「そうなる前に倒すッ!」

 

 幼なじみに負けてられないとばかりに、疾風の騎士は剣の鍔に手をかけながら走り出した。『その調子ィ!!』と、ひときわ甲高いシステム音声が響く。

 

「──マイティ、ディーノスラァァッシュ!!」

 

──斬、

 

 その身を袈裟懸けに切断され、崩折れながらマイナソーが目を見開く。勝った──そう確信した、次の瞬間だった。

 

「エ──「モノォ!!」」

 

 ()()()断面からぬっと失われた部位が再生する。同時に皮膚の斑模様は消え失せ、それぞれが赤と青一色に変わった。

 

「!?、な──ぐあっ!」

「デクっ!!」

 

 騙し討ちをもろに受けて雪の上を転がるグリーンを、ブラックは咄嗟に助け起こした。半ば引きずるような形で、ではあるが。

 

「こいつら、分裂した……!」

「前にもいたな、そんなヤツ」

 

 確かロディたちと再会したときに遭遇した、上半身が獅子、下半身が蟻のマイナソーだったか。しかしそれとはどこか様子が異なるようにも思われた。

 

「──分裂ではナ〜ッシング!!」

「!」

 

 にわかに響く耳障りな美声。案の定というべきか、大樹の上から雪の塊とともに降ってきたのはあの男だった。

 

「ワイズルー……!」

「クソ道化師ィ、てめェ性懲りもなく!」

「クソ道化師て……今さらだけど。──そんなことよりこのマイナソーの正体、知りたくはないのか〜い?」

 

 知りたくないと言えば嘘になってしまう。しかし首肯するのもどうにも悔しくて黙っていると、ワイズルーはひとしきり笑いだした。

 

「ハハハハッ、反抗期のようだな!まあいい説明してやろう……──クレオン!」

「ええっ、結局オレっすかぁ?」

 

 と、今度は反対側……つまり雪の中から滲み出すようにして、クレオン。彼はマイナソーの一方の背中をバシッと叩くと、揚々と解説を始めた。

 

「コイツらはゼンキ・ゴキマイナソー、二匹で一匹の特殊なマイナソーなのさ!どうだまいったかぁ!!」

「………」

「あ、あれ?」

 

 思ったよりも薄い反応にたじろぐ。むろんイズクたちも感じるところがないわけではない。しかしこれまでの経験で、彼らもいい加減特殊なマイナソーには慣れていた。そもそもマイナソー自体が特異な存在であるともいえる。

 

「だったら二匹まとめてブッ殺しゃいいだけのハナシだ!いくぞデク!!」

「うん!──ハヤソウル!!」

 

 竜装を切り替え、グリーンが速攻に打って出る。ゼンキ・ゴキマイナソーはそれを囲んで撃ち落とそうとするが、疾風の騎士のスピードを捉えるのは容易いことではない。そしてようやく捕捉しようというときには、威風の騎士が攻撃に参加してくるのだ。

 

「うわ、マジ!?強ぉ……」

「ええい負けるなマイナソー!グレイテストエンターテインメントを見せてやるのでショータァイム!!」

 

 無責任な声援とは裏腹に、ゼンキ・ゴキマイナソーは苦戦を強いられている。二匹で一匹と形容されるだけあり、彼らの連携は決して杜撰なものではないのだが、長年行動をともにしている疾風・威風コンビのそれを上回るほどのものではない。

 

「ギギィ……ッ」

「エ、モノォ……!」

「狩られんのはてめェらだァ!!」

 

 名前の通り前面に立つ片割れに、いよいよブラックが大振りに斬りかかる。彼らはもはや勝利を確信していた。しかしマイナソーはその瞬間、宿主から一挙にエネルギーを吸い上げた。

 

「「エモノォォォォォ────ッ!!!」」

「ッ!?」

 

 みるみる巨大化していく身体。彼らはたちまち針葉樹林を突き抜けるほどにまで膨れ上がってしまった。

 

「もう巨大化するなんて……!」

「二匹いっぺんに吸収しやがったか……クソがっ」

 

 歯噛みするリュウソウジャーのふたりと対照的に、ワイズルーは「HAHAHAHA!」と高笑いの声をあげた。

 

「さあゼンキ・ゴキマイナソー、街へGoing!!」

「エモノがいっぱいいるぞぉ!」

「!、エモノ……!」

 

 クレオンの言葉に反応し、ゼンキ・ゴキマイナソーがセイン・カミイノの街に向かって猛烈な勢いで走り出した。

 

「まずい……!街に向かってる!」

「見りゃわかるわ!」

 

 分厚い城壁と空中をドーム状に覆う結界で守られている街だが、後者についてはひとまず当面の脅威は去ったということでなくしてはいないが弱めてある。油断と責めることはできない、フルの状態で保ち続けるのは魔導士たちの負担も大きいのだ。

 ともあれ、彼らにとりうる選択肢はひとつしかない。

 

「チッ、来いミルニードル!!」

「タイガランス、お願い!」

 

 彼らの相棒かつ力の根源たる騎士竜たちが駆けつける。その頭部にある空間に収容され、彼らはコントロールの権利を得た。マイナソーを追って、全身全霊で雪原を走り抜ける。

 

「止まれやクソどもォ!!」

 

 どちらが悪者かわからないブラックの罵声とともに、ミルニードルが無数の針を放ってマイナソーの行く手を阻む。その動きが鈍ったところで、スピードでは騎士竜随一のタイガランスが奇襲を仕掛けた。鋭い爪が後方にいたマイナソー(ゴキ)の背中に突き刺さる。

 

「よし……!」

「油断すんなクソデク!!」

 

 口が悪いことこのうえないが、ブラックの言葉は極めて的を射ていた。ゴキの頭上を飛び越えるようにして、ゼンキが襲いかかってきたのだ。

 

「ッ!」

 

 咄嗟に回避するタイガランスだが、わずかに爪先が掠ってしまう。ナイトロボの形態になっていれば押し切れるが、単体ではそうはゆかない。

 

(ティラミーゴもモサレックスもプテラードンも、みんな街の中だ……。僕らだけじゃ──)

 

 その迷いを見透かしたように、マイナソーがふたたび動き出す。横並びになるや否や、二体揃って地面めがけて拳を打ち下ろしはじめた。そのたびに大量の雪が舞い上がり、騎士竜たちめがけて降りそそぐ。

 

「な、こいつらまさか──」

 

 マイナソーの狙いを察知したときにはもう遅かった。タイガランスとミルニードルの身体はその大部分が雪に埋もれてしまっている。小さな粒の集積といえど、その総重量は侮れない。騎士竜たちの馬力をもってしても、そう簡単に撥ね退けることはできないのだ。

 そうして彼らが身動きを封じられているうちに、マイナソーたちはふたたび進軍を開始した。健脚によってあっという間に街へ迫り、壁をよじ登っていく。

 

「エモノ……!」

「エモノォ!!」

 

 その手がついに結界へと触れる。バチッと音をたてていったんは弾かれるものの、最大出力ですらプテラードンにかかれば突破できてしまった代物である。現在の弱まった状態では、巨大化したマイナソー二体を受け止めきれるはずもなく──

 

「ッ、はぁ……」

「手間ァかけさせやがって!!」

 

 ようやく積雪を振り払って飛び出したときにはもう、ゼンキ・ゴキマイナソーは街への侵入を果たしていた。

 

「やられた……!」

 

 

 *

 

 

 

 同じ頃、マイナソーの侵入など知るよしもないエイジロウたちは劇の上映を続けていた。親友のためにとスピノサンダーが人間の村を襲う局面、中盤から終盤にかけての山場である。

 

「人間どもォ、喰ってやるぞおぉぉぉ」

「うわあぁぁ、誰か助けてくれ〜!」

 

 逃げまどう、エイジロウたち四人の扮する村人たち。監督のユウガにしてみればもう少し数を揃えたかったものの、正式な劇団員は彼ひとりなのだから仕方がない。それでも見かけは巨大な怪物である騎士竜たちのおかげで、非常に臨場感のある絵に仕上がっている。子供を中心とした観客たちの反応も上々だ。

 

「そこまでだ!」「ティラァ!!」

 

 スピノサンダーがいよいよ村人を喰らおうかというところで、満を持して上空から見参する主役──プティラミーゴ。彼が間に割り込むことで、村人は命拾いすることとなった。

 

「なんだ、貴様は!同族のくせに、ニンゲンを庇うというのか!?」

「そうだ!」「人間はともだちティラ!食べるなんて、許さないティラァ!!」

「ならば貴様も喰ってやる!!」

 

 プティラミーゴとスピノサンダーが激突する。むろんこれは演技なのだが、凄まじい迫力だった。練習をともにしてきたエイジロウたちでさえ、思わず息を呑んでしまうほどには。

 そして、彼も。

 

「すごい……!まさしく僕の思い描いた通りだ……☆」

 

 この演劇を統括する立場のユウガまでもが、子供のように目を輝かせている。何かトラブルがあったときそれでは困るのだが、彼を補佐する形でスタッフを務めたコタロウは何も言わなかった。ユウガのしてきたことが道楽などではないと、これで明らかとなった。あとはこのまま、終幕へ向かって突き進むだけ──

 

 しかし真なる怪物たちは、このささやかなる慰みでさえ容赦なく踏みにじる。

 それを知らせたのは、街中に鳴り響く半鐘の音だった。

 

「!、なんだ!?」

「何かあったのか?」

 

 演技を中断して市街のほうへ目を向ける──と、守備隊員のひとりが会場に飛び込んできた。

 

「中止、中止!ドルイドンの怪物が街に侵入した、すぐに避難しろー!」

「!!」

 

 もはや演劇どころではない、場はたちまち狂騒に陥る。子供たちを大勢集めていたから尚更だ。それでも守備隊員と協力し彼らを統率しようとするエイジロウたちだったが、

 

「「エモノォ……」」

「!?」

 

 不幸にも、ゼンキ・ゴキマイナソーが侵入を果たした箇所は彼らのいる造成地の近隣にあたった。その体躯に比べれば小さな岩山を乗り越えるようにして、彼らは侵入を果たしたのだ。

 

「やばい……っ、──逃げろ!!」

 

 マイナソーがまず標的にしたのは、いちばん近くにいた守備隊員だった。前後に挟み込むようにして布陣すると、手を伸ばしてつまみ上げようとする。

 

「うわあぁぁっ!?」

「ッ、くそ!」

 

 助けようと走る四人だが、明らかに間に合わない。しかしマイナソーがその欲望を成就させようとした刹那、エイジロウたちの頭上を飛び越えるようにして巨大な影が躍りかかった。

 

「させん!──ぐあぁッ!!」

「スピノサンダー!!」

 

 拳をまともに受け、スピノサンダーが倒れ込む。追撃が来るというところでプティラミーゴが空中から割り込み、追い払った。

 

「大丈夫ティラ!?」

「ッ、問題ない」

「俺と兄弟にかかればこんなもの、かすり傷だ!」

 

 彼らはもはや役柄ではなく、悪鬼と戦う騎士竜として言葉をかわしている。当然のことなのだが、小さな子供たちの中には「スピノサンダー、わるいやつじゃなかったの?」などと反応する者もいる。

 それを聞いたユウガが、はっと何かを思いついた。

 

「みんな、そのまま演技を続けてくれ!☆」

「は!?」

「こんなときに何を言って──」

「子供たちを見てくれ!彼らは未だ演劇の世界の中にいる。彼らの夢を守るためにも、どうか!☆」

 

 ユウガの目は真剣だった。見守る子供たちも同じだ。竜装の騎士は、ただ人の命を守ればいいというものではない──そう胸に刻んだエイジロウたちにとっては、決して無視できない願いだった。

 ただ、

 

「でも、台本通りはもう無理やで!?」

「台本通りでなくていい!」コタロウが叫ぶ。「アドリブです!今までの展開を踏まえて、思いついた通りに喋りながら戦ってくれればいいんだ!」

「!、そうか……!」

 

 やることは簡単だ。どのみち騎士竜たちと巨大マイナソーとの戦いにおいて、エイジロウたちにできることは少ない。彼らを応援するつもりで、声を張り上げればいいのだ。

 

「スピノサンダーも、俺たちを守ってくれてる……!」

「もしや、彼も悪い恐竜ではなかったのか?」

「ほんとに悪いオニは、あいつらやったんや!」

 

 予定調和じみた台詞だが、彼らはその道のプロではないので仕方がない。しかし人々を守りながらの奮戦ぶりは、彼らが正義の存在であることを如実に示していた。

 

「がんばれ、プティラミーゴ!」

「スピノサンダー、Don't lose☆」

 

 コタロウとユウガも声を張り上げる。やがて子供たちからも声援が上がりはじめた。"芝居"ではなく、本心から。二(四?)体の竜は、悪鬼から人々を守護するべく戦い続けている──

 

「グォオオオオッ!!!」

「ッ、これでは埒が明かんぞ……!」

「なら、ナイトロボになって戦うティラ!──エイジロウ、みんな!」

「!、よぉし!!」

 

 ここからは声援だけではない、肩を並べて戦う番だ。

 

 

「──竜装合体!!」

 

 プティラミーゴが人型へ変形していくと同時に、「飛び入り参加するぜー!」と駆けつけたパキガルー親子が拳となって装着される。

 

「「「キシリュウオー、ジェット!!」」」

 

 そして、スピノサンダーも。構成体たるモサレックスがキシリュウネプチューンへと姿を変えると同時に、いったん分離したディメボルケーノが鎧や剣となって合身する。その名も、

 

「──キシリュウネプチューン、ディメボルケーノ!」

 

 

「俺たちが後ろの青いのをやる、おまえたちは赤いのを」

「了解ッ!」

 

 作戦というには至ってシンプルだが、あとは状況に応じて調整すればいい。いちいち言語化せずともそれができる程度には、彼らの絆は深まっている。

 

「おらぁ!!」「ティラァ!!」

 

 ショートの言うような分業を為すために、まずキシリュウオージェットが上空からゼンキに躍りかかった。そのまま拳のクローを角に引っ掛け、空中へと吊り上げていく。

 

「グオォ、エモノ、エモノォ!!」

「ッ、暴れんなっての……!」

「すぐに墜としてやん、よっ!」

 

 プテラードンの言葉とともに、ぱっとクローが離される。解放と同時に支えを失ったゼンキは、そのまま地面に墜落した。膨大な砂塵とともに、巨体が大地に溝をつくる。

 

「さあ、勝負はここからだ!」

 

 一度空中に持ち上げて落下させたことで、戦場は自ずと分離した。キシリュウオーとゼンキ、そしてネプチューンとゴキ。

 

「エモノォ!!」

 

 ゴキが金棒のような武器を生成して襲いかかる。ネプチューンはそれを、ナイトトライデントとナイトメラメラソードの二刀流で受け止めてみせた。

 

「……なるほど、腕力はあるってか」

 

 力が拮抗する中で、ロボの体内にいるショートはそれを感じ取っていた。にもかかわらず冷静でいられる理由はひとつ、

 

「それだけじゃ、俺たち(ネプチューン)は破れねえ」

 

 勝利を、確信しているからだ。

 

 トライデントが高速回転を始める。ゴキが驚愕に目を見開くのもつかの間、金棒はあっさりと弾き飛ばされてしまう。丸腰になったその身に、高温を纏ったメラメラソードが襲いかかる。

 

「グアァァッ!!」

 

 足元の雪にまで熱を伝え、溶融させる紅蓮の一刀。その直撃を受け、ゴキは悶え苦しんでいる。

 ゼンキも同様だった。上空を自在に飛び回り、ヒットアンドアウェイを徹底するキシリュウオージェットには到底敵わない。懸命に拳を突き出し攻めようとするが、

 

「そんなもん……届くわけねーだろぉ!!」

 

 急上昇して容易く回避し、相手の姿勢が崩れたところで急降下して拳を叩きつける。たちまち吹き飛ばされたゼンキは、そのままゴキの背中に激突、まとめて地面に倒れ込んだ。

 

「いいんじゃねえか、そろそろ」

「だな、一気に決めるぜ!!」

 

 もつれあうゼンキ・ゴキマイナソーを取り囲むようにして、両ナイトロボが布陣する。

 まず動いたのは、キシリュウオーだった。

 

「キシリュウオー、」

 

「「「──ブリザードインフェルノォ!!」」」

 

 焔と氷、相反するふたつの属性を纏った拳がゼンキを貫く。それと時を同じくして、ネプチューンも敵に肉薄していた。

 

「キシリュウネプチューン、ヒーティングペネトレーション!!」

 

 トライデントで貫くと同時に、高熱を発するメラメラソードで急所を切り刻む。

 

「「エ、モノォォ……!!」」

 

 ナイトロボ二体の渾身の同時攻撃に耐えることなどできず、ゼンキ・ゴキマイナソーは時をまったく同じくして爆発四散するのだった。

 

 

 *

 

 

 

 珍しく出た夕陽のもとに、二体の巨竜人が佇んでいる。その足下には彼らの同志リュウソウジャーと、守るべき街の子供たちの姿。

 

「皆、ごめんティラ!」

 

 謝罪するティラミーゴの声。むろん謝る理由など現実にはない、これは演劇の一環だ。

 

「ワガハイ、みんなと仲良くなりたくて……友だちのスピノサンダーに頼んで、わざと村を襲ってもらったティラ!本当に、ごめんティラ!」

「私からも謝罪する。どうか、プティラミーゴを許してやってくれ……!」

 

 彼ら揃って、実にアドリブが板についている。ならば村人役の面々も、それに応えるだけだ。

 

「いいってことよ!おめェら、村を本当に悪い鬼から守ってくれたんだしな!」

「こちらこそ、今まで疑ってすまなかった!」

「これからは仲良くしようね!」

「プティラミーゴも、スピノサンダーもな」

 

 ここでコタロウがユウガの背中を押した。〆は、やはりスターターが務めるべきだ。

 すう、はあ、と深呼吸を繰り返してから、ユウガは声を張り上げた。

 

「こうしてプティラミーゴとスピノサンダーは、村の守り神となって一生仲良く暮らすのでした。めでたし、めでたし☆」

 

──おしまい。

 

 

 演劇が成功かどうかは、観衆の割れんばかりの拍手を見れば明らかで。

 その中には、イズクとカツキの姿もあった。

 

「今回は僕ら、いいとこなかったね」

「……ま、あっちが上手くいきゃいいだろ」

「うわ、珍しいねそんなこと言うの……」

「うっせ!」

 

 軽く後頭部を叩かれて悶えつつ、イズクは彼方を見遣った。

 

(これが本当のエンターテインメントだ、ワイズルー)

 

 何かとエンターテイナーを気取る宿敵、ワイズルー。彼にこそこの光景を見せてやりたいと思った。

 

 

 つづく

 

 





「シャケが!シャケのバケモノが!」
「あっちもシャケ、こっちもシャケかよ!?」
「シャーッケッケッケッケ!!」

次回「大変!シャケが来た」

「自分の都合で他人の生き方を強制するなんてこと、あっちゃいけねえんだ」


今日の敵<ヴィラン>

ゼンキ・ゴキマイナソー

分類/ジャイアント属ゼンキ・ゴキ
身長/49.9m(ゼンキ)・49.8m(ゴキ)
体重/7200t(ゼンキ)・7350t(ゴキ)
経験値/608
シークレット/かつてとある高名な行者が使役したといわれる一対の鬼を模したマイナソー。単一の存在でありながら二柱に分かれており、見事な連携を見せる。合体していない通常状態の騎士竜であれば容易く吹き飛ばせるほどのパワーも秘めているぞ!
ひと言メモbyクレオン:負けちまったよ……本当のエンターテインメントに……。
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