【完結】僕のリュウソウアドベンチャー   作:たあたん

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44.大変!シャケが来た 2/3

 

「ドーーーーーーン!!!」

 

 もう何軒目かもわからない市民宅への突撃シャケの晩ごはん。サモーン・シャケキスタンチンは恐怖のあまり呆然とする一家に詰め寄ると、顔をくっつけんばかりの勢いでこう言い放った。

 

「いきなり押し入っておいてナンだが〜……シャケ以外を食べるんじゃあない!!没収!!」

 

 そう言うと、次々に夕食の皿を取り上げていってしまう。一家総出で制止しようとするが、馬鹿力であっさりと弾き飛ばされる。その間ほんの数秒、気づけばテーブルの上には大量のシャケが乗せられていた。

 

「これでヨシ!失敬、ドヒューン!」

 

 疾風怒濤のごとく走り去っていくサモーン。見かけからは想像もつかないスピードである、付近を警邏している守備隊でさえその尻尾を掴めないのだ。リュウソウジャーの面々が駆けつけたときにはもう、その場は騒擾の痕跡しか残されてはいなかった。

 

「くそっ、また間に合わなかったか……!」

 

 エイジロウは思わず己の掌に拳を叩きつけた。仲間たちも一様に皆悔しげな表情を浮かべている──とりわけ、得物を奪われたオチャコとショートは。

 

「ここまで逃げ足が速いとは……厄介極まりないな」

「しかもそのサモーンってヤツ、オチャコさんのリュウソウケンとショートくんのモサチェンジャーを……」

「………」

 

「街を出てドルイドンと手ぇ組まれたら、取り返しがつかねえな」

「!!」

 

 カツキの冷徹なまでの"最悪の推測"が、ふたりの胸に鋭く突き刺さる。場の空気がさらに重く沈むのを見て取ったイズクが「かっちゃん……!」と咎めるが、彼の言葉はまぎれもない正論に他ならなかった。

 ただ、

 

「……っつっても、ヤツの今の行動が欺瞞じゃねえなら、早々街から出てくとは考えにくいけどな」

「そ、そっか……」

「どっちにしろ、次会ったときには必ず取り戻す……!」

 

 エイジロウよろしく拳を握りしめるショート。しかしそれと同時に、「ぐうぅぅぅ〜……」という気の抜けた音が響き渡った。

 

「………」

「……ご、ごめん」

「いや……俺もだ」

 

 そういえば……などと言うまでもなく、彼らは朝食以来何も口にしていないのだ。サモーン・シャケキスタンチンの出現のために昼食を逃してしまったので。

 

「とりあえず、宿舎に戻ってメシにすっか?」

「ふむ……腹が減っては戦はできぬ、とも言うしな。それにサモーンとやらの目的がシャケの布教であれば、夕食どきを過ぎれば暫くは出現しないとも考えられる。どうだろう?」

「……そうだね。ひと晩は猶予がある……その間に何か策を考えよう」

 

 ひとまずは休息をと、リュウソウジャー一行はすごすごと踵を返した。彼らの推測は理に適っているが、今日のところは敗北には違いない。それも積年の宿敵たるドルイドンの係累ではない、ぽっと出のギャングラーなる相手に。

 

(このままじゃ、)

(済まさねえ……!)

 

 オチャコとショート──珍しく揃って、彼女らは燃え上がっていた。

 

 

──しかし、現実は無情である。

 

「しゃ、しゃ、」

「……シャケ……」

 

 テーブルに並べられたシャケ、シャケ、シャケ料理の数々。一応付け合わせの品は他にもあるのが救いか。

 ズウゥゥン……と擬音が聞こえてきそうなほどに落ち込んでいる敗北者二名を、仲間たちは慌てて宥めた。

 

「お、落ち込むなって!ほらまあ、これはこれで……」

 

 どこからどう見ても純然たるシャケである。身をほぐして口に放り込めば、さっぱりとした塩味と豊富な脂肪分による濃厚な味わいが一挙に襲い来る。ほっぺたが落ちそうだ。

 

「う、うんまぁ……」

「確かに……これはなかなか……」

「………」

 

 わかっている、特にショートには。美味いのだ、シャケは。生でも焼いても、子供からお年寄りにまで愛される味わい。むろん好みの問題はあるだろうが、魚の中でも一、二を争うポテンシャルを秘めているのではなかろうか。

 

(シャケは、美味ぇ……美味ぇけど……)

 

 世界には色々な食材やそれを使った料理があると、ショートはもう知ってしまった。オチャコはもとよりそれを知っている。

 そんな彼らに共通するのは、食べたいものを自由に食べられる権利を誰しもがもっているのだという思いだった。でなければ力のある者や為政者が、恣意的に誰かを餓えさせても良いことになってしまう。

 

「ここ、いいか?」

「!」

 

 淡々とした声色でそう尋ねてきたのは、しっかり見覚えのある紫髪の少年で。

 

「ヒトシくん!」

「……どうも。で、いいか?」

「もちろんもちろん!」

 

 トレイを置いて座ると、ヒトシ少年はふぅと息をついた。初対面のときに比べ、少し隈が薄くなった気がする。守備隊ブロック隊長職を務め続けているとは言っても、街をドルイドンの軍団に包囲されている状況とはストレスのかかり方も単純な業務量もまったく違うのだろう。

 

「シゴトのほう、どうだ?少しは休めてっか?」

「まあ、前よりはね。とはいえ妙なシャケ怪人のせいで、今日は徹夜確定だけど」

「あぁ……」

 

 言葉もないリュウソウジャー一行である。これがもっと容赦のない相手なら「メシなんか食ってないで早くなんとかしろ」と罵られてもおかしくない。そうしないのはヒトシ少年の控えめな性格と、それ以上に自分たちの街は自分たちで守るのだというプライドによるところが大きいだろう。

 

「このあとも仕事?」

「ああ、メシ食ったらな。なんでも例の怪人、妙なことを口走ってたとかで、市庁舎の警備を強化することになったんだ」

「市庁舎の?」

「なんと言っていたんだ?」

「いや……そのまんま、"オレがこの街のボスになってありとあらゆるものをシャケに変えてやる〜!"……とかなんとか」

「ありとあらゆる……?」

 

 食べ物なら──許容できるかは置いておくとして──理解はできるが、ありとあらゆるものとはどういうことだろうか。市庁舎前の銅像がシャケになったり、市長印がシャケスタンプになったり、シャケ類憐れみの令が発布されたりするのだろうか。

 

「飽くなきシャケへの希求……」

「こうしちゃいられない!」オチャコが憤然と立ち上がる。「止めなきゃ……!」

「ああ……絶対に許すわけにはいかねえ」

 

 ショートもそれに続いたところで、「まあ待て」とヒトシが宥めた。

 

「あんたたちは少し休め、昼間から出ずっぱりだったんだろう」

「それは……」

「あのシャケ怪人がいつ出てくるかもわからない。庁舎はここからすぐ目と鼻の先だし、ヤツが出てきたらすぐにあんたたちを呼びに来られる。それに……どういうわけか知らないが、ヤツは人的被害は出してないしな。無理やりシャケの切り身を口に詰め込まれた人がいるってくらいだ」

 

 とことんヘンな怪物である。いやマイナソーにも、元となった人間の欲望によってはコメディにもならないような能力をもった者もいたのだが。具体例を思い出そうとすると、今でも顔から火が出そうになるエイジロウである。

 

「俺たちはシフト制だが、あんたたちは唯一無二だからな。倒れられちゃ困る」

「ンなヤワじゃねーわ」

「ヤワじゃないけど、お言葉には甘えるぜ!」

 

 こういうとき、朗らかなエイジロウはやはり緩衝材となる。頬を緩めたヒトシが、「いざってときは頼りにしてるぜ」と応じたのだった。

 

 

 *

 

 

 

 さて、夕食を食べ終え、湯を使わせてもらってからは、一行はほとんど挨拶をかわしあっただけで眠りについた。サモーン・シャケキスタンチンがいつ出現して、自分たちの力が必要とされるかもわからない。それまでに少しでも体力を回復させて、万全に近い状態で戦えるようにしておくことが騎士たちの務めだった。

 

「………」

 

 そんな中、唯一の女性ということで一人部屋を与えられたオチャコは、ベッドの上で悶々としていた。寝返りを打つたび、簡素なつくりの骨組みがぎしぎしと音をたてる。そんなことを幾度となく繰り返して……ついに耐えられなくなった彼女は、勢いよく跳ね起きた。

 

「はー……もう」

 

 夜着の上から外套を羽織って、宿舎の屋上に出る。今晩は雪もやんでいるが、それでも極寒であることに変わりはない。白い息を吐き出しながら両手を擦り合わせていると、縁近くに人影があるのを認めた。

 

「あれ……ショートくん?」

「!、……オチャコか」

 

 普段と変わらず落ち着いた声。しかし心なしか沈んでいるように聞こえるのは穿ちすぎか、同じ思いを共有するがゆえか。

 

「やっぱ眠れないん?」

「……まあな。寝とくべきだとはわかっちゃいるんだが──」

「頭でわかってても、無理なもんは無理よ」

「そうかもな……」

 

 それ以上かわす言葉も見つからず、ふたりはただじっと街並みを見下ろした。オチャコは年頃の少女らしくよく喋るほうだが、ショートは基本的に口数が少ない。たまにぽろっと核心を突いたことを述べる──そのうちの結構な比率でカツキを怒らせるのだが──ほかは、話しかけられれば応じるという程度のものだ。それが容姿と相俟ってミステリアスな魅力を醸し出し、行く先々で女性にもてているのだが、ショート自身にはまったくと言っていいほど自覚がない。

 

「……正直、どうすればいいかわからねえ」

 

 だから不意に自ら紡ぎ出した言葉に、オチャコは一瞬呆気にとられてしまった。

 

「わからない……って?」

「モサレックスが俺に預けてくれたモサチェンジャーを、みすみす敵に奪われちまった。あれは俺たちの魂も同然だ。命より……とは言わねえが、命と同じくらい大事なもんなんだ」

 

 それはそうだ。オチャコにとっても、リュウソウケンは一人前の騎士として認められた証、人生の集大成と言ってもよいもので。

 ならば取り戻すしかない。それは言うまでもないことだけれども、ショートが言いたいのはおそらくそういうことではないのだろう。

 

「俺は今、竜装できない。おまえは竜装できてもリュウソウルを使えない。……結局、エイジロウたちに頼るしかねえんだ」

「………」

 

 彼らにサモーンを倒してもらい、それらを奪還する。理屈ではそうするしかないとわかっている。しかしこうも思うのだ。自分で自分の尻を拭うことすらできなくて、何が騎士だと。

 何より、

 

「私、考えたんやけど……」

「………」

「やっぱりあいつのこと、許せへん。シャケは美味しいよ?美味しいけど、それしか食べちゃいけないなんてそんなの、絶対におかしいもん……!」

 

 食べることが大好きなオチャコにとって、何より大事なことだった。彼女の母も父も料理上手で、代わる代わる様々な料理を幼いオチャコに振る舞ってくれた。美味しいものを食べながら、家族と囲む団欒。そこにあふれる笑顔。オチャコが何より守りたいと願うものだ。

 

「そうだな、俺もそう思う。自分の都合で他人の生き方を強制するなんてこと、あっちゃいけねえんだ」

 

 ならば──やるべきことは、ひとつ。

 

「行こう、ショートくん!何ができるかわかんなくても、とにかく動けば何かができるかもしれない──でしょッ!?」

「……かもな」

 

 怯むことなく即座に行動できる彼女を、ショートは密かに羨ましいと思った。優劣ではなく、生い立ちの問題かもしれない。海のリュウソウ族唯一の貴種として、いつだって慎重に振る舞う必要があった。極論、死ねと命じればそれだけで人を殺せる立場なのだ、ショートは。

 だが今は、泣いても笑ってもリュウソウジャーの一員にすぎない。思うままに前に踏み出して、戦って良いのだ。まして仲間が隣にいるのなら。

 

 数秒後、屋上からふたりの姿は消えていた。代わりに夜路を駆け抜けるシルエットがふたつ、たまたま眠っていなかった市民によって目撃されたという。

 

 

 *

 

 

 

「てく、てく、てく、てく!シャケキスタンチーン!!」

 

 夜半にもかかわらず騒々しく練り歩く異形の影。それを聞いた人々は閉め切った家の中で布団をかぶって息を殺しているのだが、そんな行動は気休めでしかない。サモーン・シャケキスタンチンにかかれば家々の壁をぶち破るなど容易いことであるし、さありながら現時点ではそんなつもりは毛頭ない。これが昼にしろ夜にしろ食事どきであるならば、彼は嬉々として突撃していっただろうが。

 彼が目指すは案の定、市庁舎だった。行政の中心たる摩天楼を占拠し、自らがこの街の支配者となる。そして市民全員にすべからくシャケを主食とすることを義務付けるのだ。"元いた世界"では能力にかまけてそういった努力を怠っていたから失敗したが、サーモン……もといサモーンだって学習するのだ。

 

「てくてくてく……猛ダ〜〜ッシュ!!」

 

 庁舎が見えてきたところで、サモーンはいきなり走り出した。尋常でないスピード、常人の目には捉えきれない。それでも慌てて応戦しようとする衛士たちだったが、

 

「やっぱりィ……ドーーーーーーン!!!」

「うわぁああああ!!?」

 

 その突進に呆気なく吹き飛ばされ、彼らはサモーンの侵入を許してしまう。この傍若無人なシャケの亡霊を、誰も止めることができない──

 

「いきなり押し入っておいてナンだが、今宵からオレがこの街の主だー!はっはっはっは──……ん?」

 

 くんくん、鼻──どこにあるかわからないが──を動かす。漂ってくる芳ばしい香り。

 

「これは──シャケ料理!!」

 

 こうしてはおれんとばかりに、一目散に匂いの漂ってくる方向めがけて駆け抜ける。その間兵士たちに制止されるどころか遭遇することもなかったが、サモーンはそれを疑問に思うことすらなかった。思い込んだら一直線なのだ、良くも……否、悪くも悪くも。

 

「ここだな〜〜?──とうっ!!」

 

 躊躇なく出処の部屋に飛び込む。と、そこには彼にとって垂涎の光景が広がっていた。

 テーブルの上に所狭しと並べられたシャケ、シャケ、シャケ料理の数々。香草などを使って香り付けされているのだろう、廊下でも感知した食欲をそそる匂いが漂ってくる。

 

「こ、これはぁ……!」

「──お待ちしておりました、サモーン・シャケキスタンチン様」

「!!」

 

 傍らに立つ一組の男女。頭巾を目深に被ったままお辞儀をしているので、顔はよく見えない。ただ細かいことを気にしない性格のサモーンは思わぬ歓迎を受けたことを喜ぶばかりだった。

 

「シャケ料理のフルコース……!素晴らしい〜ッ!!」

「ありがとうございます」

「どうぞ、召し上がれ……」

「喜んで召し上がっちゃう!!」

 

 用意された席に着くや否や、サモーンは嬉々として料理を貪りはじめた。芳醇なシャケの脂肪分が口内で蕩け、彼の味覚をフル稼働させる。共食いなのでは、などと言ってはいけない。彼はギャングラー"サモーン・シャケキスタンチン"であり、シャケそのものではないのだ。決して。

 凄まじい勢いで料理が平らげられ、皿が空けられていく。それでもなおわんこそばのごとき勢いで次から次へと新たな料理が差し出される。供されるままサモーンは食べ続ける。──最低でもこの時点で疑問に思うべきだったのだ。如何にサモーン自身が大量のシャケをもたらしたとはいえ、これほどの料理を一夜で用意できるだけのマンパワーはこの街にはないことに。

 

 出てくる傍から平らげ、やがてそれらも尽きる頃、腹をパンパンにしたサモーンはようやく息をついた。

 

「げふっ、腹ァいっぱいだぁ……」

「それは、何より──」

「──でしたっ!」

 

 不意に女の手がサモーンの金庫に伸びる。しかし並外れた動体視力をもつサモーンは、膨れた腹を抱えながらも咄嗟にそれを避けてみせた。

 

「シャケッ!!貴様ァ、何するだァ──ッ!!?」

「……ッ!」

 

 舌打ちする二人組。ぐるであることは間違いない。態勢を整えたサモーンは、すかさず指先を突きつけた。

 

「顔面を晒せィ!!」

「………」

 

 もとより彼らはそのつもりだった。頭巾を外し、上着もろとも勢いよく投げ捨てる。

 果たして現れたのは、サモーンにとっても見覚えのある顔だった。

 

「貴様ら、昼間のシャケ大根!!」

「誰がや!!」

「れっきとした人間……いやリュウソウ族だ、俺たちは」

 

 返答はともかくとして、言うまでもないオチャコとショートである。ふたりはサモーンの到来に先んじて庁舎に入れてもらい、"罠"を張って待っていたのだ。

 

「シャケケケケ、しかし残念だったな!貴様らのコシャケ……ゴホン、小癪な作戦は大失敗に終わったのだ!!シャケキスタンチーン!!」

「そうでもねえ」

「ない!」

「何ィ〜?……ん?」

 

 下腹のあたりに違和感を覚えるサモーン。それが大きくなっていくと同時に、ごろごろと嫌な音が響きはじめた。

 

「!?、あ痛、痛たたたたたた……!腹が……!」

「ふっ、効いてきたみたいやね」

「何ィ……!?貴様らまさか、さっきのシャケフルコースに毒を──」

「シャケフルコース?なんのことだ?」

「シャケ!?」

 

 「見てみろ」とショートが積み上がった皿を指差す。その上にはなんの変哲もなく、料理の残りかすが散らばっている……はずだった。

 しかしサモーンが見たのは、皿より真白い粒の集合体。それはこの街において外にいれば幾らでも見ることができる──

 

「ゆ、雪……!?どーいうことなのォ!?」

「ふふんっ」得意げに鼻を鳴らすオチャコ。「ズバリ……魔法よ!」

「魔法!!?」

 

 呆気にとられるサモーン。彼の元いた世界では、そんなもの御伽噺にすぎなかったのだ。いや彼ら自身のもつ能力とて、魔法のようなものではないかと言われればそれまでなのだが。

 

「お皿に載せた雪に魔法をかけて、ありったけのシャケ料理に見せたんや!」

「そしておまえは腹いっぱいになるまで雪を喰らい尽くした。そんな冷てぇもんを一気に体内に入れたらどうなるか──」

 

 ぐるるるる、と鳴り続ける腹を押さえ、サモーンは悶え苦しむ。まさしく、ふたりの作戦通りだった。

 

「地道に魔法の練習してた甲斐、あったな」

「これでもピンクソーサラーズの団員やったからね!」

 

 胸を張るオチャコだったが、すぐに表情を引き締めた。そしてショートと視線をかわしあう。

 直後、ショートは床を蹴り、サモーンに飛びかかっていた。

 

「グハッ!?は、放せぇ、ジタバタジタバタ!!」

「ッ、こいつ無駄に力強ぇ……!──オチャコっ!!」

「まかせてっ!」

 

 オチャコもまた、ショートのあとを追うようにサモーンへと迫った。彼女が手を伸ばした先にあるのは、埋め込まれた金庫──

 

「──ッ!?」

 

 開かない。その扉はあまりに重く、まるで溶接したかのように固められていた。

 

「シャケケケケ!!」押さえつけられたままのサモーンが嗤う。「金庫は暗証番号でロックしてある、快盗どものルパンコレクションでもない限り開けられないのだ!」

 

 暗証番号だのルパンコレクションだの、この剣と魔法の世界を生きるオチャコとショートにはいちいち馴染みのない言葉だった。ただ、とにかく普通には開けられないことは伝わってくる。

 それでも、

 

「絶ッ対……開けたる……っ!」

 

 オチャコはあきらめるどころか、ますますその腕に力を込めた。歯を食いしばり、一見すると華奢な上腕二頭筋を血管が浮き上がるほど隆起させる。

 そんな少女の努力をせせら笑っていたサモーンだが、余裕でいられるのもそこまでだった。ぎしぎしと金庫が音をたてはじめたのだ。

 

「シャ、シャケェ!?」

「私、は……!剛健の、騎士……!!」

 

 母から魔法を、父から腕力を受け継いだ、最強のハイブリッド。

 

「おまえなんかに、止められる女やないんやあぁぁぁぁぁ────ッ!!」

 

 次の瞬間、ばかんと胸がすくような音が響き渡った。金庫の扉が毟り取られ、放り投げられる。サモーンは一瞬口をぱくぱくさせたあと、半ば悲鳴のような声で叫んだ。

 

「な、なんじゃこりゃあああああああ!!??」

 

 パニックに陥るサモーンをなおも必死に押さえつけるショート。そう、金庫を強引にこじ開けただけでは終わりではないのだ。オチャコは躊躇なくそこに手を突っ込み、中に仕舞われていたものを取り出した。

 

「リュウソウケンとモサチェンジャー、ゲット!」

「よくやった、オチャコ──っ!」

 

 ふっと力の抜けた隙を突かれて、弾き飛ばされるショート。すかさずその身体をオチャコが受け止める。もう拘束しておく必要はないから、何も問題はない。

 

「あーっ、せっかくのお宝!」

「何がせっかくの、や!これはそんな軽いもんやないんやで!」

「騎士竜に選ばれし騎士たる証……おまえなんかが触れていいもんじゃねえ」

 

 静かに怒りを露にしながら──ショートは、ふたたびオチャコに目配せをした。

 

(今度こそ──)

(うん、今度こそ──)

 

──倒す。

 

 

「「リュウソウチェンジ!!」」

『ケ・ボーン!!』

 

『ワッセイワッセイ!そう、そう、そう!』『ドンガラハッハ!ノッサモッサ!』

 

『ワッセイワッセイ!ソレソレソレソレ!!』『エッサホイサ!モッサッサッサ!!』

 

──リュウ SO COOL!!

 

 半日ぶりの竜装を遂げる、ふたりの騎士。その感触を確かめるように、決意を新たにするように、彼女らは名乗りをあげた。

 

「剛健の騎士ッ!リュウソウピンク!!」

「栄光の騎士……!リュウソウ、ゴールド!」

 

「──サモーン・シャケキスタンチン。この世界を、シャケに溺れさせたりはしねえ!」

 

 今はただそれだけのために、彼らはふたたび先陣を切った。

 

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