【完結】僕のリュウソウアドベンチャー   作:たあたん

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46.蠢く闇の中で 1/3

 

 拠点としていた古城を脱出したプリシャスとサデンは、延々と暗い坑道のような通路を進んでいた。その出口がどこに繋がっているかは、彼ら自身しか知らない。

 ふと、サデンが足を止めた。

 

「どうしたの、サデン?」

「……いえ。クレオン、追いかけて来ませんね」

 

 サデンの発した言葉に、プリシャスは意外そうに肩をすくめる。

 

「そんなこと気にするなんて、キミらしくもないね。もうどうでもいい存在なんだよ、あれは」

「!、……しかし、マイナソーを生み出せる能力は貴重かと存じますが」

「今まではね。でもそんなの、エラス様のお力の前では塵芥に等しいのさ」

 

 プリシャスはもう、エラスのことしか頭にないようだった。その場を意味もなく歩き回りながら、エラスが如何に素晴らしい存在か、その後ろ盾を得た自分たちの勝利が明らかであることなどを熱弁する。こうなると止めようがないことを知っているサデンは、黙ってそれを聞き続けた。

 ややあって、

 

「おっと、ごめんごめん。つい熱くなってしまったよ」

「……いえ」

「とにかく、エラス様がボクらを支援してくださる。リュウソウカリバーによる傷も癒える頃だろう、そろそろ──あ、」

 

 不意に前方から響く重々しい足音に、プリシャスは言葉を止めた。咄嗟にサデンが彼を庇うように前へ飛び出し、迫るシルエットへ剣を差し向ける。

 しかし、

 

「大丈夫だよ、サデン」

「!」

 

 サデンの一つ目もまた、その姿を鮮明に捉えた。分厚い鋼鉄に全身を覆われた、常人であれば歩くどころか立っていることさえ困難であろう姿。

 

「ウゥゥゥゥ……」

 

 

「──プリ、シャス、様……」

 

 唸るようにつぶやかれた言葉こそ、エラスがプリシャスの意のままに動き出していることの証左だった。

 

 

 *

 

 

 

 因縁の仇敵をついに討ち果たし、リュウソウジャー一行はふたたび古城へと突入した。

 

「………」

 

 彼らが今立つは、ワイズルーと決着をつけた薄暗い地下室の中。散乱した青い紙吹雪が、彼が確かにここで最期を迎えたのだという事実を表している。

 にもかかわらず、ワイズルーの骸やその痕跡はどこにも存在しなかった。

 

「どこに消えてしまったんだ、ワイズルー……」

「クレオンが持ってっちゃった、とか?」

「……そもそもてめェら、本当に息の根止めたんだろうなァ?」

 

 エイジロウとショートは思わず顔を見合わせた。──クレオンの真摯な姿に絆されて、とどめを刺さなかったのは事実だった。

 

「……悪ィ」

「ア゛ァァ!!?てめェら甘ぇにも程があんだよ、俺らがあのクソ目玉ども追いかけてってる間に懲りずにこの辺で暴れられたらどう落とし前つけるつもりだ、ボケカスコラァ!!!」

「わぁ、なんて口の悪い……」

 

 今さらすぎる話ではあるが。

 

「わ、悪かったって……。でもあんときは……いや今もだけど、全然そんなこと疑ってなかったんだ。あいつ最後の最後だけは、まっすぐに、ひとりの漢として俺らにぶつかってきてたから」

「ッ、それが甘ぇっつってんだよ。敵を信用するとか、ねぇわ。敵じゃなくたって……」

 

 そこまで言って、カツキは口をつぐんだ。過去のことは過去として、現在には適用しないとセイン・カミイノでの戦いを通じて決めたのだ。今さらそんなことを言っても、始まらない。

 

「なんかあったら、すぐオレが連れてきてやるよ!」ピーたんが能天気に言う。

「ふふ……そうだね。今はとにかくプリシャスたちを追おう。奴ら、ワイズルーよりよほど危険だ」

「でも、どこへ消えてしまったんでしょうね。城なら緊急時の脱出用通路とか、ありそうなものですけど」

「!、それだ!」

 

 エイジロウは思わず手を叩き、次いでコタロウをひょいと抱き上げた。二重抱きにされた形のピーたんがなぜか先んじて「ひぇっ」と声をあげる。

 

「あれ……おめェ重くなった?」

「ッ、なりましたよ!当たり前でしょ、背も伸びてるんだから」

 

 出逢った頃のように喚いたり暴れたりということもなく、コタロウはじとりと冷たい視線で見下ろしてきた。無言の圧力を感じ、エイジロウはすごすごと彼らを床に降ろす。

 

「遊んでんじゃねえ、そうと決まりゃとっとと探すぞ」

「いや遊んでたわけじゃ……いや、うん、そーだな」

 

 そうと決まればと、皆ばらけて捜索を開始する。エイジロウもそれに倣いつつ、コタロウの放った言葉について考えた。確かに彼との身長差は、出逢った当初と比べてすこし縮まったか。元々怜悧な顔立ちは変わらないといえば変わらないが、さらに凛々しくなったといえばその通りな気もする。自分や仲間たちだって成長期にはあるはずなのだが、リュウソウ族と人間の成長速度の違いを改めて感じさせられる。

 この旅も、終わりが近づいている。そのあとコタロウはどうするのだろう。別れてそれから定期的に会うようなことでもなければ、彼はあっという間に大人になり、老いていってしまう。自分がマスターたちの年齢になる頃には、もう──

 

 エイジロウはぶんぶんと首を振り、動き出した。そんなことを考えるのは、最低でも村をもとに戻してからだ。この星に巣食うドルイドンは何体か倒した。今はまだ、それだけなのだから。

 

 

 *

 

 

 

 感傷とは裏腹に、捜索作業というのは地道極まりないものである。あちこち部屋の扉を開け放っては中を検め、隠し扉のようなものがないか探っていく。おざなりだと二度手間になるか、最悪見逃してしまうため、慎重かつ継続的な集中力が必要になる。その能力を十分に備えているのは生真面目なテンヤと王子という立場に磨かれたショート、そして案外几帳面なカツキといったところか。対してオチャコはどこまでいっても大雑把だし、イズクも気をつけてはいるのだろうが抜けたところがある。くどくどしいまでにカツキに言いつけられて、ふたり揃って憮然としていた。そんなところもお似合いなのかもしれないが。

 

 エイジロウも神経を使う作業は得意とするところではないが、ピーたんとワンセットになっているとはいえ流石に独りにはしておけないコタロウを率いての捜索である。こういうとき、また頭を使うときは彼を恃みにしてしまう部分がどうしてもあるのだ。カツキなどには常日頃から「情けねえ」と呆れられてしまうが。

 

「そっち、どうですか?」

「!、お、おう。なんもなさそーだなぁ……」

 

 ふたりは今、城の最奥に位置する礼拝堂を検めている最中だった。二次元的にも三次元的にも空々しいほど広げられた空間に、あまたのベンチが置かれ、かつては主に限らず城に出入りする多くの人々によって利用されていただろうことを窺わせる。そして最前方には、思わず見惚れてしまうような美しい女神像が安置されていて。エイジロウはぼおっとその嫋やかな笑みに視線を向けていた。

 

「……ナニ見惚れてんですか」

「うおっ!?」

 

 気づけばコタロウが引っ付きそうなほどの距離からじとりと見上げてきていた。よほど意識をもっていかれていたのだろうか。

 

「だ、だってほら、こんな綺麗な石像なかなかお目にかかれねえし……」

「……まあ別に良いですけどね。ここが実際に使われていた頃なんかは、もっと装飾もあってきらびやかだったんでしょうけど……──ん?」

 

 なんだかんだ自分も頭頂から台座までしっかり眺め回していたコタロウが、ふと何かに気づいたようだった。

 

「これ……動いた形跡がありませんか?」

「へ?」

 

 コタロウの視線に合わせて、エイジロウもじっと床を凝視してみる。と、白い床だからわかりにくいのだが、台座を起点に埃のない箇所がみごとな長方形を形作っていた。そのままスライドする形で移動したことがあるのだとすれば、このようになるのも不自然ではない。

 

「よくわかったな、コタロウ」

「ええ、まあ……。それより、何か動かす仕掛けがあるのかも」

「仕掛け?仕掛けなぁ……」

 

 それこそ彼が苦手とする分野である。うんうん唸り出したエイジロウに対し、コタロウはくすりと苦笑を向けた。

 

「まあいちいち探らなくても、リュウソウルで解決できそうですけどね」

「へ?……お、おめェなぁ!」

 

 最初に言ってくれとも思ったが、そもそも騎士たるもの自分で気づいておくべき話だ。耳まで真っ赤になりつつ、エイジロウはカルソウルを装填した。

 

『カルソウル!フワッフワ!』

 

 慣れ親しんだ電子音声が流れるとともに、石像が台座ごと浮き上がっていく。果たして晒された床面には、彼らの想像した通りのものがあって。

 

「ビンゴ、ですね」

「っし、みんなを呼んでこようぜ!」

 

 揚々とこの場を離れようとするエイジロウ。しかし彼の頭からはひとつ、とても大事なことが抜け落ちていた。

 

──ガシャアァァァァン………。

 

「あ、」

 

 恐る恐る振り向けばそこには、見るも無残に砕け散った女神像。

 

「……何やってんですか」

 

 コタロウの冷たい視線を浴びるのは、本日三度目だった。

 

 

 *

 

 

 

 ともあれ、プリシャスたちはこの隠し通路から脱出した可能性が高い。集合したリュウソウジャー一行は、意を決してそこへと足を踏み入れた。

 

「この道、どこまで続いとるんやろ……」

「こればかりは進んでみないことにはな……」

 

 そんなやりとりが時折挟まるくらいで、あとはひたすら歩き続けるだけだ。砂漠地帯を進んでいたときを思い出すような、代わり映えのない光景。

 

「………」

 

 そんな中、定位置となっている最後尾を歩くコタロウはふと自分の手を見下ろした。

 

「どした、コタロウ?」

「!」

 

 沈思している様子が伝わってしまったのだろう、エイジロウが声をかけてくる。彼は先ほどのような凡ミスをやらかしたり細かいことを気にしない性格である割に、他人の機微についてはとことん鋭い。そんなことは出逢った初日の夜にはわかりきっていたけれど。

 

「いや……最近、妙に冴えてるというか。身体も思った通り以上に動くような気もして」

「はは、コタロウでかくなったもんな」

「まあ、それはそうなんですけど」

 

 ただ──とりわけそう感じるようになったのは、はじまりの神殿を訪れて以後の話だ。神殿に遺された始祖リュウソウ族の青年の思念に取り憑かれてから、というのが正しいか。

 

(……僕の中に、誰かがいる。そんな気がする)

 

──不思議だね、縁というものは。

 

 彼の言葉を、改めて思い起こす。消えたと思っていたけれど、もしかするとまだ自分の中に残されているものがあるのだろうか。それすらも憶測の範疇でしかないのに、それがどのような意味をもつのかなどコタロウには想像がつかなかった。

 それより今は、現実の課題が目の前にある。

 

「あの……思ったんですけど、このまま徒歩でプリシャスたちに追いつくのは難しくないですか?」

「確かに、ワイズルーに時間とられちまったしな」

「とすると、何か移動手段が必要か……」

「ンなもんすぐに調達できたら苦労しねーわ。騎士竜でも使うか?」

「って言っても、この通路の大きさじゃ……」

 

 ティラミーゴたちが本来の大きさで通行できるほど、この地下通路は広くない。どうしたものかと皆で考え込んでいると──その時間自体無駄だとカツキが苛立っている──、不意にオチャコが「せや!」と手を叩いた。

 

「珍しくなんか思いついたンか丸顔?珍しく」

「珍しくは余計や!しかも二回も……まぁええけど、とにかく任せといて!」

 

 言うが早いか、オチャコが発動したのはムキムキソウル。この時点で嫌な予感を覚えた一同は、誰が言い出すでもなくさささっと距離をとった。

 そして、

 

「よ〜〜〜し……ど、りゃあぁぁぁぁぁっ!!」

 

 いきなり壁面に手をかけたかと思うと、筋力強化された細腕に力を込めはじめる。まさかと思いつつ、彼女のしようとしている行為が嫌でも想像できてしまう。

 しかしその瞬間は、それよりもずっと早く訪れた。

 

「あぁぁぁぁ────はいぃっ!!」

 

 あえて言うならそれは、破裂音のようなものだっただろうか。オチャコの背丈の数倍もありそうな巨大な巌の塊が、岩壁から引き剥がされたのだ。

 

「ふぃー……これ加工すれば、ええ感じのソリになるんちゃう?」

「………」

「?、みんな、どしたん?」

 

 完全に距離をとっている男どもを前に、紅一点は首を傾げるのだった。

 

 

 *

 

 

 

 ともあれ、オチャコが素手で切り出した岩を皆で削って形を整え、全員が乗れるそりが完成すた。引くのはもちろん、騎士竜たちの役目だ。

 

「頼むぜティラミーゴ、みんな!」

「任せるティラ!」

「ちっちゃくても、父ちゃんのパワーは百人力さ!」

 

 ミニ騎士竜たちが一斉に飛び跳ねる。戦闘時以外は亜空間にこもっているラプターズと水中でなければ身動きのとれないモサレックスが不参加なのは仕方がないとして、ピーたんもコタロウの懐からは出ようとしなかった。尤も駄々をこねていたところを彼に一喝され、渋々牽引役の文字通り一翼を担うことになったのだが。

 

「そもさん汝らに問う、心の準備は宜しいか!?」

「オーケー!」

「じゃあいくティラ〜!!」

 

 「用意ドン!」の勢いで、騎士竜たちが一斉に走り出す。身体は膝下くらいのサイズにまで縮小していても、チビガルーの言った通りその馬力は常人など一捻りできる程度にはある。そりはあっという間に加速していく。確かに歩くよりはずっと速いが、

 

「ぬうおぉぉぉぉ──ッ!?」

「み、みんな振り落とされないで……かっちゃあぁぁぁん!!」

「ひっつくなウゼェェ!!」

 

 顔の形が変わるほどの風圧を受けながら、少年たちは執念の追跡を再開するのだった。

 

 

──同じ頃、彼らが目指す彼方にいるドルイドンたちは揃って足を止めていた。

 

「………」

「フ……キミも感じたかい、サデン?」

「はっ」

 

 追跡者たちが距離を詰めつつある──ドルイドンゆえの鋭敏な感覚で、彼らはその事実を捉えた。同時に"第三の異形"が、鼻息荒く地団駄を踏む。

 

「プリシャス、様、ここは、ワタシが!」

「ふむ、そうだねぇ……──どう思う、サデン?」

 

 意見を求められたサデンは少し考えるそぶりを見せたものの、程なく確りとかぶりを振った。

 

「まだ時期尚早かと。奴らの手にマックスチェンジャーもリュウソウカリバーもある以上、せっかくのエラス様の恩情が無に帰す可能性もあります」

「なるほどね。ならサデン、キミに任せても良いかな?足止め程度で構わないよ」

「承知いたしました」

 

 恭しく一礼し、来た道を引き返していくサデン。その背中を見送りつつ、プリシャスは隣に立つ巨体を撫でた。鼻息荒く戦闘を望むかの存在は、その体内に濃密な憤懣のマグマを溜め込んでいるようだった。

 

「──なら、大事に育てなくちゃねえ」

 

 エラスの加護を得て、最強のチームが形成される。その揺るぎない頂点として、自分が君臨するのだ。己が理想はもう成就したも同然だと、プリシャスは確信を深めていた。

 

 

 

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