【完結】僕のリュウソウアドベンチャー   作:たあたん

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46.蠢く闇の中で 2/3

 

 騎士竜たちに引っ張ってもらい、快速で移動すること幾星霜。

 

「ハァ……ハァ……ちょっと、休憩ティラ……」

「これは、堪える……」

 

 ゼェゼェと荒い息を吐く騎士竜たち。当然、進軍はお休みである。

 

「随分進んでくれたもんなぁ……おつかれ、みんな」

「けっ、最後まで気張れや」

「いや流石に無茶だよかっちゃん……」

「最後っつっても、まだまだ先が見えねえからな」

 

 相当な長さの地下通路である。あの古城から、いったいどこまで続いているというのか。

 

「元々、いざというときの避難路だからね。……もしかすると、海を跨いでいてもおかしくない」

「!、海を跨いでとは……まさか」

 

 その可能性に思い至ったテンヤの言葉に、イズクが頷く。

 

「東方……きみたちの村の近くに、繋がってるかもしれない」

「!!」

 

 休憩がてら食事の準備を始めていたエイジロウとオチャコが、色をなして立ち上がる。もしもそれが事実ならば、村をもとに戻すという願いがいよいよ現実のものとなるのだ。

 

「座れや。可能性っつーだけだわ、方角もわかりゃしねえのに」

「そりゃそうかもしんねえけどよ……!やっと故郷を取り戻せんだぜ?」

「家族や友人、師匠たちに会えるんだ。逸らないわけがないだろう!」

「師匠……おまえたちのマスターか。俺も早く会ってみてぇな」

 

 逸るスリーナイツに同調しつつも、呑気極まりない発言をするショート。おかげで加熱しかかった場が一応は沈静化したのだが。

 

「……ま、どのみちあのクソどもにはとっとと追いつかなきゃなんねぇ。とっとと食って、とっとと出立すんぞ」

「だな!ほらティラミーゴ、俺のぶんも食っていいぜ!」

「遠慮なくもらうティラ!」

 

 先ほどの疲れはどこへやら、ばりばりむしゃむしゃと食糧を貪りはじめるティラミーゴ。彼ら騎士竜は本来食事を必要としないのだが、栄養分を得ることで体力を回復することができる。他の騎士竜たちにも、少しずつだがお裾分けすることになった。

 

「そういえば初めてかもしれないな、騎士竜たちほぼ全員も入れて皆で食事をするというのは」

「たひかに!」咀嚼に勤しみつつ、オチャコも同調する。「街じゃムリやし、外だと食べものに余裕ないことが多かったもんねぇ」

「確かにね。いざってときは助けてもらってるのに、全然労ってあげられなかったし……タイガランス、これ食べる?」

 

 呼びかけると、タイガランスは嬉しそうに引っ付いてくる。普段は落ち着いて控えめな彼だが、こういう可愛らしいところもあるのだ。カツキとふたりで旅をしていた頃は彼らと交流する余裕もあったのだが、同じリュウソウ族──ひとり人間もいる──の仲間が増えたし、戦いも激化した。構ってやる、などというと上から目線だが、淡白な付き合いになってしまっていたのは間違いない。

 

「戦いが終わりゃ、もっといろんなことができるよな。きっと」

「色々って、何ティラ?」

「そりゃもう……遊んだり、遊んだり、遊んだり!な?」

「遊びばっかやん……」

「遊びにいろいろ内包されてんの!」

「モサレックス……何して遊ぶ?」

「私は遊びなど……」

 

 わあわあ盛り上がる一同を尻目に、カツキはフンと鼻を鳴らしていた。戦いが終わったら──そんなの、今考えることではない。まだプリシャスもサデンも健在であるし、彼らを討滅したとて新たなドルイドンが現れない保証などどこにもない。6,500万年にわたり断続的に紡がれてきた戦いの歴史に、明らかな終焉など存在しえないのだ。

 ただひとつ、カツキには引っかかることがあった。マスターブラックが自分に剣を向け、去っていったあのとき。

 

──……を、守護(まも)らなければ。

 

「……ミルニードル。おまえの元相棒は、何を守るために俺に剣を向けた?」

「………」

 

 ミルニードルは沈黙したままだった。彼にしたって既に関係を一段落させた元相棒の心の動きなどはわからないのだろうし、もとよりドライな性格の者同士だ。マスターブラックとはビジネスライクな関係だったことは想像に難くない。

 

 ただ──それを知ることは、マスターブラックの真意を知る以上に重要な意味をもつのだ。彼が守ると宣言した"何か"、裏を返せばそれは、この戦いに本当の終着をもたらす鍵になるかもしれない。

 最後のひと口を貪り終えると、カツキは静かに立ち上がった。

 

「行くぞ」

「えっ?もうちょっと……」

「ミルニードルはもう大丈夫っつってる」

 

 「ほんとかよ」と言いたげな表情を浮かべる一同。とはいえあまりのんびりしていられないのも事実であって。ティラミーゴの「もういけるティラ!」のひと言が決め手となり、彼らは立ち上がった。

 しかしそこに、彼らの行手を阻む者が現れる。

 

「悪いが、この先へ進ませるわけにはいかん」

「!!」

 

 その声を聞くまで、誰も気配を察知することさえできなかった。

 

──皆の視線の先に立つ、一つ目の異形。その姿を目の当たりにしたエイジロウなどは、思わず息を呑んだ。

 そして唯一彼と直接相まみえたことのあるカツキは、

 

「……サデン……!」

「!、こいつが……」

 

 殺意のこもった視線を、サデンは堂々と受け止めた。そしてエイジロウ……否、リュウソウジャー全員の心の傷となっているかのドルイドンと同じ姿かたちで、冷徹な言葉を続ける。

 

「プリシャス様より貴様らの足止めを命ぜられた。全員まとめて、かかってくるがいい」

「ッ、なら今度は、秒殺してやる!!」

 

 マックスチェンジャーを握りしめ、エイジロウが声を張り上げる。かのドルイドンと同じ姿をした敵──完膚なきまでに討ち滅ぼすことが、この竜爪に宿る勇者の魂へのこれ以上ない供養になる。そう思ったのだ。

 しかし、

 

「こいつは俺が抑える」

「!」

「カツキ!?」

 

「てめェらは先に行け」と、カツキははっきりと仲間たちに命じた。──マスターブラックを知るというこのドルイドンには、聞きたいこともあったのだ。乱戦になっては、それも難しくなる。

 

「しかし、カツキくん……」

「代わりにリュウソウカリバーを借りる。そうすりゃなんとかなんだろ」

「それは……そうかもしれねえが」

「ッ、かっちゃん、僕「デク」──!」

 

 言いかけたところにあだ名を呼ばれて、イズクは肩を揺らした。今この瞬間まではすっかり忘れていたが、このシチュエーションはゾラとの決戦時──ガイソーグと対峙し、結果として仲たがいを起こすことになったときとよく似ているではないか。

 緊張するイズクだったが、カツキが発した続きの言葉はそれとは大きく異なるものだった。

 

「てめェも残れ。俺を援護しろ」

「!、かっちゃん……」

「はいかイエス!」

「はい!イエス!!」

「よろしい」

 

 ニィ、と不敵に笑うカツキ。その表情は幼少の彼と何も変わっていなくて、無邪気に彼を崇拝していた頃もあったのだとイズクに思い起こさせた。今では対等な仲間となったけれど、彼を尊ぶ気持ちも不変のものだ。

 ふたりが並ぶのを見て、仲間たちの気持ちも傾いた。

 

「──わかった。ここはおめェらに任せる!……で、いいよな?」

「やむをえん……。無茶はするんじゃないぞ、特にイズクくん!」

「へぁ、僕!?」

「どっちかっつーと、やっぱりな」

「まあ今日はカツキくんもイケイケドンドンやし……6:4くらいちゃう?」

 

 がっくりと肩を落とすイズクだったが、戦いは既に始まっている。彼らは揃ってサデンの面前に進み出た。

 

「いこう、かっちゃん!」

「は、……わぁってんよォ!!」

 

──ケ・ボーン!!

 

「「リュウソウチェンジ!!」」

『リュウ SO COOL!!』

 

 疾風の騎士、そして威風の騎士。彼らは図ったように、同時にサデンに斬りかかる。ドルイドン相手とはいえ、二対一。自分たちに意識を集中させ、文字通り活路を開くだけのポテンシャルはある。

 

「っし、今のうちに!──ティラミーゴ、みんな!!」

「ラジャー、ティラ!!」

 

 ティラミーゴたちは既に自分たちの身に縄を巻きつけ、準備を進めていた。五人が石板の上に乗ると同時に、それも完了する。

 

「しゅっぱーつ──」

「──しんこーう!!」

 

 ぐるりと岩壁に囲まれた洞窟内にびゅんと風が吹き、犬ぞりならぬ騎士竜ぞりは猛烈な勢いで発進した。激突する風の騎士たちと魔人を横目に、先へ先へと走り抜けていく。

 

「はっ、残念だったなァ一つ目その2!」

「……ふむ」

 

 ここでイズクは違和感を覚えた。リュウソウジャー一行の足止めを命じられてここまで戻ってきたのだろうサデン。にもかかわらず、彼はエイジロウたちに頓着する様子をまったく見せないのだ。

 

「──メラメラソウル!!」

 

 それに気づいているのか否か、カツキ──ブラックは先手必勝とばかりに強竜装を発動した。焔のエレメントを宿した橙の鎧を纏い、サデンに斬りかかっていく。彼の指示である援護を為すため、イズク──グリーンは雑念を振り払ってそれに続いた。

 

「強竜装か、その程度で私を抑えようとは舐められたものだ」

「ア゛ァ!!?」

「以前のように、リュウソウカリバーを召喚したらどうだ?私を本気で討つのであればな」

「は、てめェの魂胆はお見通しなんだよォ!!」

 

 以前のように巧言を用いてカツキの心をかき乱し、隙を突いてリュウソウカリバーを奪い取ろうというのだろう。

 ならばと、兜の下でカツキは笑みを深めた。相手の狙いを徹底的に叩き潰すため、こちらから先んじて踏み込んでやる。

 

「この前みてぇなんがお望みならよォ、好きなだけしゃべれや。俺に似てるっつー騎士サマのことよォ!」

「!、かっちゃん、それって……」

 

 訊くまでもなく、マスターブラックのことだとはイズクにもわかった。カツキは最低限しか話してくれなかったが、かの師匠のことをサデンが知っているようだったというのは聞いている。

 

「………」

「どうした?何黙ってんだァ?──ほんとはてめェ知ってんだろ、あの人がどこでどうなったか」

 

 以前はカツキの心を惑わすためにその去就を匂わせるようなことを言っていたというのに、あえてこちらからぶつけた途端沈黙してしまう。何か都合の悪いことでもあるのか。

 

「まァいい、てめェを叩きのめして全部吐かせたる!──デェク!!」

「……もうっ、あとでちゃんと話してもらうからね!」

 

 ハヤソウルを発動し、敵の背後に回り込む。案の定即応されてしまうが、それは予想の範疇だ。サデンの注意がこちらに向いた途端、ブラックが力いっぱい斬りかかるのだから。

 

「……ッ、」

 

 サデンが息を詰める。今のところ精巧な剣技のほかには特殊な力を使ってくることもない。これなら、と思うと同時に第二の違和感が襲ってくる。ウデンとほぼ同じ姿かたちをしているのであれば、彼のように体内に取り込んで技をコピーするような芸当もできるはずだ。あえて封印しているのか、それとも──

 

 明らかなのは、ただひとつ。

 その結論は、この剣戟の果てにしか出しえないということだ。

 

 

 *

 

 

 

 騎士竜たちはますます気合を入れて駆け抜けていた。一方のエイジロウたちもすっかり慣れたもので、風に身を任せ、この滑走を楽しんでいた。

 

「うおぉ、きんもちいいぜー!!」

「ハヤソウルを使っている気分になるな……!」

「え、こんな感じなん?ええなぁ……」

 

 呑気なスリーナイツ組の言動に、コタロウは密かにため息をついた。まあこういう性格のおかげで、客観的に見ればなかなか過酷な旅もおもしろいと思えるだけのものになったともいえる。むろん引き締め役の存在は貴重であったが。

 

「それより、さっきから気になってんだが」

「ん?」

「風、なんかぬるくなってきてねえか?」

 

 ショートの言葉に、一同はっとする。氷点下の世界をつくり出す北方の冷風が生ぬるい風に変わっているということは、地方を跨いでいる可能性があるということだ。それが西方の砂漠地帯という可能性もなくはないが、イズクが指摘したようにエイジロウたちの生まれ故郷近辺に繋がっていると考えるほうが自然だ。西とかの古城は海を隔ててかなり離れているが、東方の地とは峻険な山岳に陸路を閉ざされているというだけで直線距離としてはさほどのものでもないのだから。

 

 もうすぐだ。もうすぐ、故郷に戻れる。エイジロウたちスリーナイツの心臓は否が応でも高鳴った。

 しかし彼らが、ひときわ大きな広場のような場所に出た直後だった。無数の弾丸がシャワーのように襲いかかり、彼らをスリップさせたのは。

 

「うわあぁぁぁっ!!?」

「ティラ〜っ!?」

 

 放り出され、地面を転がる一同。いったい何が起きた?おそらく敵襲──プリシャス?そこまで考えが至るのに時間は要しなかった、けれど。

 

(この攻撃、プリシャスじゃねえ……!)

 

 一騎打ちまでしたことがあるからわかる。強烈無比なる遠隔攻撃は、プリシャスの戦闘スタイルとは大きく異なる。

 その推測は的中していたが、ひとつだけ誤った点があった。──攻撃主体はそうでなくとも、命じたのはプリシャスに相違ないということだ。

 

「よく追いついてきたねぇ、リュウソウジャー?」

「……!」

 

 薙刀を片手に、気だるげに表向きですらない歓迎の言葉を述べるプリシャス。そしてその隣には、エイジロウたちにとって見慣れない異形の姿があって。

 

「サデンはグリーンとブラックしか抑えられなかったのかな?残念だけどちょうどいいや、おかげで"彼"をキミたちに紹介できる」

 

 「ほら、挨拶しな」と促され、"彼"は前に進み出た。

 

「オレ、ガンジョージ!!プリシャス様の、ため、リュウソウジャー、倒す!!」

「──だってさ。ほら、遊ぼうよ。みんなでかかってきても構わないよ?」

 

 もとよりそのつもりだ。こいつらは決戦のステージに立ったワイズルーとは違う、騎士道にのっとる必要など微塵もないのだから。

 

「エイジロウくんとオチャコくんはあのガンジョージとやらを。ショートくんと俺でプリシャスを抑える……どうだ?」

「いいぜ、ノッた!」

「あの頑丈そうなん、ボッコボコにしたる!」

「油断するなよ、皆」

 

──リュウソウチェンジ!!

 

『ワッセイワッセイ!そう、そう、そう!』『ドンガラハッハ!ノッサモッサ!』

 

『ワッセイワッセイ!ソレソレソレソレ!!』『エッサホイサ!モッサッサッサ!!』

 

──リュウ SO COOL!!

 

『オォォォォォ!!マァァァァックス!!!』

『強・竜・装!!』

 

 竜装を遂げると同時に、それぞれの身体に最上の鎧が装着される。彼らの本気を見てとってなお、プリシャスとガンジョージは一歩も引く様子を見せない。

 

「楽しんでおいで、ガンジョージ」

「WRYYYYYYY!!!」

 

 この戦闘における裁量権を与えられたガンジョージが、獣じみた咆哮とともに襲いくる。四人一斉にかかりたいところだが先ほどのテンヤの指示もある、マックスリュウソウレッドとピンクとが迎撃にかかった。

 

「おめェの相手は、俺たちだっ!!」

「テンヤくんショートくん、どっちが先に倒すか競争だからね!」

 

 油断しているわけではない、そんな簡単な相手でないことはわかりきったこと──己を鼓舞するために、あえて発したのだ。

 それを悟って、「承知したッ!」とブルーも応じる。そしてそのままプリシャスへと向かっていった。

 

「──うぉらぁッ!!」

 

 龍爪と剣とを同時に振り下ろす。見るからに鈍重なガンジョージは閃光のようなその一撃をかわすことができない。しかしスピードを代償として、城塞のごとき防御力を生まれもっていることも確かだった。

 

「ヌゥン……!

「こいつッ、くそ硬ぇぜ……!」

「とにかく、叩いて叩いてブッ叩く!」

 

 ドッシンソウルで竜装している剛健の騎士。それなりに扱える魔法のレパートリーも増えてきた彼女だが、いざ戦闘となるととにかく殴りかかるほうが性に合っているようだ。実際これは効き目があったようで、「グウゥ」とうめきながらガンジョージは初めて後退した。いける、そう思って踏み込もうとすると、怒りにまかせた反撃が飛んでくるのだが。

 

 そうして死闘を繰り広げる騎士たちを、コタロウと騎士竜たちは後方から見守っていた。ミニマム化した今の状態であれ本来の姿であれ、ほぼ人間大のドルイドン相手ではスケールの差が生まれてしまう。いずれにせよよほど緊急でない限り援護には入りにくいのだ。

 

「がんばるティラ……!」

 

 それでも懸命に応援しているティラミーゴなどはいいとして、問題はピーたんだった。先ほどからコタロウの懐に潜り込み、ぶるぶると卵型の身体を震わせている。

 

「こ、怖いぃ……っ。プリシャスこわいぃぃ……!」

「……ピーたん、」

 

 確かにプリシャスのことが苦手とは言っていたが、ここまでとは。他のドルイドンの上を行く実力者ではあるが、それだけで騎士竜ともあろうものが怯むことはない。

 

「オレ、あいつに封印されたんだ……っ。散々痛めつけられて、抵抗できないようにされてぇ……!」

「!、……そう」

 

 想像もつかないが、そのときのことが深いトラウマになっているのだろうことは理解できる。母が死んだときのことを思い起こしたコタロウは、ぎゅっと彼を抱きしめた。

 

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