【完結】僕のリュウソウアドベンチャー   作:たあたん

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47.帰還 3/3

 

 ヤバソード──ガンジョージ・ツヴァイに続いてエラスが産み落とした、最強のドルイドン。その称号に違わず、与えられた階級(クラス)は"キング"。ただそれは、彼自身でさえ意識するところではない。

 

「リュウソウ族……!──滅ボス!!」

 

 彼の行動原理は、ただそれだけ。ガンジョージ・ツヴァイのように、プリシャスに忠誠を誓うといった知能もない。

 明らかに危険な雰囲気を醸し出すこのドルイドンの前に、キシリュウオーファイブナイツとキシリュウネプチューンコスモラプター、そしてヨクリュウオーが立ちふさがった。

 

「こいつはやばい……!さっさと倒すぞ、皆の衆!」

「わかってるティラ!」

「まずは我々がいく!」

 

 先陣を切ったのはネプチューンだった。クラヤミガンを連射しながら進撃し、肉薄したところでカガヤキソードを振るう。

 ヤバソードはといえば、右腕と完全に一体化した大刀でそれを受け止めた。聖なる光が火花とともに飛び散り、互いに一歩も引かない剣戟が繰り広げられる。

 

「ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛……!!」

「ッ、こいつは……!」

 

 ゼロ距離で改めて感じる、こいつは普通ではない。ガンジョージやガンジョージ・ツヴァイの時点でうっすらと漂っていた異様な気配……狂気が、ここに来てむせ返るほど濃厚で強烈になっている。油断すれば、こちらまでその向こう側に引きずり込まれてしまいそうだ。

 

「ウウウ……ッ、オ゛ォォォォ──ッ!!」

「──!?」

 

 唸り声をあげると同時に、ヤバソードの身体に宿った黒い波動が刀を通じて襲いかかってきた。キシリュウネプチューンコスモラプターの重量感ある機体でさえ、それによっていとも容易く弾き飛ばされてしまう。

 

「ショートっ!」

「ッ、大丈夫だ……!」

 

 まだ。ただ今のは、ヤバソードの力の一部でしかないことは明らかで。その全身全霊がどれほどの脅威になるかは、想像さえ及ばない。

 

「リュウソウ族……!滅ボス!!」

 

 ただそれだけを繰り返し叫びながら、ヤバソードが腰を落とす。来る、と構えたときにはもう、その姿が消え失せていた。

 

「何──ぐあっ!?」

 

 衝撃がくるまで、一秒となかった。ファイブナイツ、ネプチューンと大刀の一閃によりその身を大きく切り裂かれる。ヨクリュウオーのみ咄嗟に反応して空に上がろうとするが、ヤバソードはそこへまで追いかけてきた。

 

「うそ〜ん!?──うぎゃっ!」

 

 墜落。あまりといえばあまりに一瞬のことで、何が起きたかもわからない。ただ、ヤバソードの攻撃があったことだけは明らかだった。

 

「ピーたんっ!」

「ッ、なんてスピードだ……!これでは──」

 

 規格外の速さは無敵と同義である。こちらがどれほどの破壊力をもっていようと、堅牢な装甲を纏っていようと、一撃も掠りもしないのではいずれ敗北へと追い込まれるのだから。

 

「スピードにはスピードしかない……!みんな、僕とタイガランスに任せて!」

「デクくん!」

「っし、頼んだ!」

 

 ファイブナイツはティラミーゴを中心とした形態がデフォルトだが、言うに及ばず構成騎士竜の間で主体を変更することができる。頭部を形成するリュウソウルを入れ替えることで。

 

「──キシリュウオー、ファイブナイツグリーン!!」

 

 猛虎の魂を宿した竜騎士が顕現する。その形態は身のこなしもさることながら、それを成すための動体視力においても非常にすぐれている。紅い瞳が周囲一帯を見渡し、高速で動き回るヤバソードを捉えた。

 

「──いた……!いくぞ、タイガランス!」

 

 オォォ、と唸りをあげる虎型の騎士竜。果たして次の瞬間、ファイブナイツグリーンは地面を蹴って走り出す。目にも止まらぬ──ヤバソードと同等のスピードだ。

 

 木々を薙ぎ倒しながら、仮面の竜騎士と鎧武者とが鍔迫り合いを繰り広げる。どちらも一歩も引かない、しかしほんのわずかでも気を抜けばそれだけで趨勢が決まるような戦いだ。

 

「い、いけるのか?キシリュウオ〜……」

 

 ピーたん、もといヨクリュウオーが不安げな声を発する。ファイブナイツは強い。強いが、相手は狂気の塊のようなオーラを絶えず発し続けている。

 

「……大丈夫だ、あいつらなら」

 

 スピードがものを言う戦いになると、地上においてネプチューンは割って入れない。見守るしかないことに口惜しさを感じないといえば嘘になる。しかし長くともに戦い、培われてきた信頼は絶対のものだ。

 

「──あかん、埒が明かない……!」

 

 ピンクの言葉がすべてだった。戦況はまったく動かない。体力勝負も覚悟されたが、気短を起こしがちな面子はこちらにもいるのだ。

 

「だあぁめんどくせぇ!なんとかしろやクソデク!!」

「……おめェ、さっきイズクって呼んでなかった?」

 

 初めて聞くイズクに対しての明確な名前呼びということで、皆、これはと思ったのだが。

 

「知るか、聞き間違いだわ!!」

「……だ、そうです」

「あ、ははは……──エイジロウくん、聞いて!」

「え、俺!?」

 

 あれやこれやと作戦を説明される。いちかばちか──しかし、キシリュウオーでなければできない戦法。

 

「……わかった、やってやるぜ!」

「頼む!」

 

 やりとりがなされるや否や、ファイブナイツグリーンはわずかに動きを緩めた。よくよく凝視していなければ見過ごしてしまうような減速だが、ヤバソードには十分すぎた。

 

「オ゛ォォォォォォォォ!!!」

 

 雄叫びとともに、一気呵成に突撃してくる。互いの距離が縮まっていく。先ほどまでのようなスピード勝負なら、どちらに軍配が上がるかは火を見るより明らかだ。

 

「──死ネェェェェ!!!」

 

 いよいよ肉薄したヤバソードの、呪詛の声が響く。そのまま大刀が一閃すれば、キシリュウオーの身体は両断されてしまうかもしれない。そう思われた矢先だった。

 

「今だっ、エイジロウくん!!」

「おうよっ!!」

 

──ファイブナイツが、分離した。騎士竜たちが四方へ散らばり、素体のキシリュウオーのみがその場に残される。

 

「!!!!!」

 

 ヤバソードによる一閃は空を切った。合体解除したことで体格が小さくなったことがひとつ、軽やかな宙返りを披露したことがひとつ。

 キシリュウオーは空中を一回転しながら、ジョイントチェンジを果たした。胸部のティラミーゴヘッドが右腕に移る。そして着地と同時に、それを勢いよく突き出した。

 

「ティラ、ダイナバイトォッ!!」

 

 ティラミーゴヘッドが唸りをあげ、その重量感のままに強烈な打撃を放つ。果たしてそれは空振りによって態勢を崩していたヤバソードに直撃した。

 

「グアァッ!?」

 

 ヤバソードの身体が後方へ吹き飛ばされていく。しかしそれも一瞬のこと、彼は唸り声をあげながらも姿勢を整え、地に踏ん張った。

 

「ティラ……!」

「ッ、やっぱ、俺ら単体じゃ火力不足か……」

 

 主目的は敵にダメージを蓄積させ、動きを鈍らせること。スピードを殺せればあらゆる合体形態で対応できる──わかってはいるけれど、やはり口惜しい。

 とはいえそれは、いったん一線から引いたショートたち、そしてこの策のためにファイブナイツグリーンの活躍を断念することを厭わなかったイズクとタイガランス、彼らも同じことなのだ。皆が少しずつプライドを差し出すことで、最終的に騎士の使命を果たす。それがチームというものだ。

 

「ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛……!リュウソウ、族、死ネェェェェ!!!」

 

 ふたたびヤバソードが唸り、その場にとどまったまま無闇矢鱈に両刀を振り回す。それは単なる癇癪ではなく、空気がひと薙ぎされるたびに激しい剣波が襲いかかった。

 

「──うわあぁぁぁぁッ!!??」

 

 大量の火花が散り、悶えるナイトロボたち。やがてその姿は爆炎に呑み込まれ、跡形もなく消え失せてしまった。

 

「グッグッグッグッグ……!」

 

 勝利を確信し、独特の笑い声を発するヤバソード。しかしそれはつかの間の栄光にすぎなかった。

 炎の中から上空めがけ、ひときわ巨大な人型が飛び出したのだ。

 

「!?」

「キングキシリュウオー、見・参!!」

 

 陸海空の三大巨人がひとつになった、最大最強の竜騎士。そのうちの"空"の力で、彼らは天高く舞い上がったのだ。

 

「グオ゛ォォォォッッ!!!」

 

 猛り狂うヤバソードが、頭上めがけて剣波を乱射する。しかし空を舞うキングキシリュウオー相手に地上からの攻撃は無謀というほかなかった。彼ら(傍点)は雲間を縫って射程を逸らしながら、各頭部から発射する光線で反撃する。

 

「グウゥゥ……!」

 

 纏う甲冑のおかげか、ヤバソードは耐えている。しかしその憤懣が爆発すれば、どんなことが起きるか想像もつかない。

 

「ガチで決着、つけるティラ!」

「おう、ガチでな!」

 

 雲を突き抜け、キングキシリュウオーがふたたび地上に姿を現す。それと同時に、かの巨人はエネルギーの急速充填を開始した。

 そして、

 

「エネルギー充填完了!!」

「突撃!」

「──発射ァ!!」

 

──キシリュウオー、ビッグバンエボリューション!!

 

 放たれる最強の砲火。しかしヤバソードの側も、これまでで最大の一撃を放つ。

 ぶつかり合う閃光の束。それらは周囲にまで波及し、あらゆるものを粒子へと変えていく。

 

「ッ、まずいぞ……!これ以上やれば周囲の地形が──!」

「でも、手を緩めたら負ける……!」

「なる早で、勝つしかねえッ!!」

 

 しかしエネルギーは完全に拮抗している。ガンジョージを一撃で葬ったキングキシリュウオーでさえこれだ。ヤバソード自身の階級も"キング"──同等の力をもっていると言っても、過言ではない。

 

 しかし終焉のときは、唐突に訪れた。

 

「!?、ガ……ァ……」

「!」

 

 突如機能を停止したかのように、ヤバソードの両腕から力が抜ける。当然拮抗は破れ、ビッグバンエボリューションが迫るが……それが彼を呑み込むこともまた、なしえなかった。

 

 光が接触する直前、ヤバソードは忽然と姿を消してしまったのだ。

 

「やべっ……キングキシリュウオー、攻撃中止!!」

「もうやっておるわ!」

 

 慌ててエネルギーの放出を中断する。しかし既に照射してしまったぶんはどうにもならず、地上に巨大なクレーターが生み出されることとなった──

 

 

 *

 

 

 

 唸り声をあげながら、ヤバソードは陣営に帰還した。迎え入れるプリシャスと、ガンジョージ・ツヴァイ。

 

「おかえり、ヤバソード。あのキングキシリュウオーとかいう巨人、キミをもってしてもなかなかの難敵だったみたいだねぇ?」

「………」

 

 ヤバソードは答えない。業を煮やしたガンジョージ・ツヴァイが「プリシャス様がお話しになっているのだ、なんとか言え!」と迫るが、やはり反応はなかった。

 

「……プリシャス様、此奴は──」

「………」

 

 何か異様なものを感じた様子のガンジョージ・ツヴァイ。しかしプリシャスはそんなもの、気にも留めていなかった。ヤバソードにはものを考える知能はおろか、その基盤たる人格すらない。エラスが彼自身のためにそのように創ったのだとすれば、これほど都合の良いことはない。

 

(ボクのチームは最強だ。そして時が経てば経つほど、その力は増していく)

 

「最初から勝者は決まっているんだよ、リュウソウジャー……!」

 

 

 *

 

 

 

 煮えきらない結果で終わった戦闘の反動は一行、とりわけエイジロウにとっては苦いものとなった。

 

「昔あそんだ山が……」

 

 かつてエイジロウたちが遊び場、あるいは獲物の狩り場としていた山の一部が、草木ひとつ生えぬ荒野と化してしまった。敵の攻撃によるものだけではない、とりわけ決め手になったのはキングキシリュウオーの必殺技だ。

 

「ごめんティラァ……」

 

 ティラミーゴがしょんぼりと謝罪する。彼ほど明らかでないにしても、ピーたんはコタロウの懐で縮こまっているし、モサレックスなどはショートの服の裾から尻尾だけを出しているありさまだ。自然に対する親しみ方は彼らのほうがより強いだろうから、余計に罪の意識も大きいのだろう。ただシャインラプターの力で再生は可能なので、それをいつまでも引きずる必要はないのが救いか。

 シャインラプターが出動するのを見つつ、ショータがつぶやく。

 

「……しかし、まさか"光陰一体の騎士竜"まで仲間に加えているとはな。彼らにしてもそこのプテラードンにしても、我々先代の間ではほとんど伝説上の存在だったんだが」

「フン、あんたら世代とはできが違ぇんだよ」

「こらかっちゃん……!きみはすぐそうやって脊髄反射で──」

「そうだぞカツキくん!」テンヤも便乗する。「それにマスターブラックももちろんだが、我々のマスターをきみは知らないだろう!!」

 

「会ってから判断してくれ」──テンヤの言葉は当人が意図せずとも、いよいよ"そのとき"を迎える鏑矢となった。

 

「──来い、リュウソウカリバー」

 

 その手に聖剣を召喚し、エイジロウは前に進み出た。眼前には、村の跡地たる巨大な円形の断崖。

 ここまでの旅路を、ふと思い出す。

 

(失ったもの、守れなかったものはたくさんあった)

 

(それと同じくらい、得たものも)

 

──だけど、

 

「今度は……取り戻す番だ!!」

 

 叫ぶと同時に、エイジロウは大地に刃を突き立てた。

 聖剣から発せられるエネルギーが、地面に伝播していく。眩い光があふれ出る。やがてそれらは次元をも越え、秩序を再生させる──つまり、本来"そこにあるべきもの"を甦らせようとしている。

 

 やがて、具体的な姿かたちが現れる。最初は自然の草木から、次いで建造物が。

 

──そして、生きとし生ける人々。

 

「ッ、なんや……?」

「これは、まさか──」

 

「──マスター、みんなっ!!」

「!」

 

 懐かしくもそうでなくも感じられる濡れた声に、彼らは一斉に顔を上げた。

 

「エイ、ジロウ……」

「テンヤ……」

「オチャコ……」

「──ッ、」

 

 次の瞬間、スリーナイツは走り出していた。飛び込むは、それぞれのマスターの胸。

 

「おかあちゃんっ!!」

「兄さん……!にいさあん!」

 

「──タイシロウさん……!俺たち、やったよ……!!」

 

 師の分厚い胸に飛び込む。やはり成熟した、一人前の騎士の身体だ。しかし別れる前より体格差が縮まったようにも思えるのは気のせいだろうか。

 タイシロウもまた、それをより鮮明に感じている。硬い赤色の髪をくしゃくしゃと撫でながら、彼は弟子の遍歴を思った。

 

「おう、よぉ頑張ったな……!信じとったで、エイジロウ!」

 

 プリシャスの軍団、蠢動する"ドルイドンの女王"──明るい未来など到底見通せないほどに、問題は山積みだ。

 

 それでも今だけは、この曇りのない喜びに浸っていたかった。

 

 

 つづく

 

 

 





「ここに眠るすべての者たちに、とこしえの安寧がもたらされんことを……」
「攻め込むしか、ない」
「リュウソウジャーよ、万事、おまえたちに託す」

次回「進撃の黎明」

「あれが、エラス……!?」
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