【完結】僕のリュウソウアドベンチャー   作:たあたん

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色々揺れております
サブタイトルもぎりぎりで変更したりしている有様


48.進撃の黎明 2/3

 

 その風景を視認したとき、これは夢なのだとコタロウはすぐにわかった。

 火の手の上がる家々、逃げまどう人々。その中心に、紫苑の鎧を纏った狂戦士の姿があって。

 

(あれは、ガイソーグ……?)

 

 何か目的があって、人々を襲っているようには見えない。獣のような暴走は、鎧に滲み込んだ怨念に支配されてのものか。そこまで考えて、コタロウはもしかしてと思った。これはただの夢ではなく、過去の情景──リュウソウ族の村を壊滅へと追い込んだという、マスターグリーンの姿かたち。

 

「よせっ、やめんか!!」

 

 そう声をあげて飛び込んできたのは、白髪の特徴的な壮年の男だった。体格は随分と様変わりしてしまっているが、顔立ちやややしゃがれた特徴的な声ですぐにわかった。──あれは村の現長老、ソラヒコだ。

 

「戦いは終わった!ドルイドンどもは撤退したんだッ、ここにもうおまえの敵はいない!」

『──、────!!』

「──トシノリ!!」

 

 そのとき、ふいにガイソーグの動きが止まった。ガクガクと身体が震え、ソラヒコから後ずさるようにして離れていく。

 ややあって、ごとりと音をたてて兜が落ちた。

 

「あ……マスター、これは……」

「……ようやっと正気に戻ったか、トシノリ」

 

 トシノリと呼ばれた男は呆然と辺りを見回している。意識が鮮明になっていくにつれて、その瞳に宿るのは絶望だった。

 

「私は……なんということを……!」

 

 見るも無惨に焼け落ちんとしている故郷。むろんプリシャス率いる軍団の手による被害が大きいが、彼もまたそれに加担してしまったも同然だ。守るためにこの呪われた鎧を身に着けたというのに、自分も結局は破壊者となってしまった──

 

「大丈夫だ、無事だった連中はおまえが暴走する前に避難しとる。おまえがぶっ壊しちまったのは焼け残った建物だけだ」

「ッ、しかし……」

 

 トシノリにはわかっていた。ガイソーグの呪いは、これから先も自分を苛み続けるであろうことを。だから彼は星海の果てへ去り、孤独の中で命の燈火を絶やすほかなかったのだ。

 しかし──もし、その(ソウル)が燃え盛り続けているとするなら。

 

 突然、目の前の風景が閃光に覆われた。眩さに目を細めるコタロウ。果たしてその輝きを突破するようにして現れたのは、見たこともない竜装の鎧を纏った騎士だった。

 

『──の騎士、リュウソウ、………』

 

 

 そこで、目が覚めた。

 外から差し込む光と小鳥のさえずる声は、地平に朝が訪れたことを知らせている。やはりあれは、夢だったのだ。

 しかしあまりにも鮮明なそれはきっと、過去の追憶そのもので。問題は、なぜマスターグリーンとは縁もゆかりもないはずの自分がそれを追体験することになったかということだった。現在のリュウソウグリーンであるイズクならわかるが。

 

 そこまで考えて、家の中に自分ひとりしかいないことに気づいた。昨夜は皆で心ゆくまで語り明かしたあと、自宅に帰ったトモナリを除いた面々でそのまま雑魚寝をしたはずなのだが。

 

「……まさか、」

 

 眉を顰めながら、コタロウは起き上がった。

 

 

 *

 

 

 

 コタロウの"嫌な予感"は半分正解、半分外れというところだった。エイジロウたちは騎士団の本部に集い、今後のことを話し合っていたのだ。

 

「……おはようございます」

「お、起きたかコタロウ。悪ィな先に出ちまって」

「ほんとですよ……起こしてくれても良かったのに」

「起きねーのが悪ィんだわ、ねぼすけ」

「……カツキ、口汚さは直せと散々言いつけたはずだぞ」

「うっせぇ喋んな」

「……かっちゃん、許すんだか許さないんだかはっきりしよう?」

 

 バチバチと火花を散らす師弟の姿に失笑が漏れる。もっともソラヒコの露骨すぎる咳払いによって、弛緩した空気は強制的に引き締められたのだが。

 

「ハナシを続けるぞ。──ショータ、おまえさんの言う通りエラスとやらがこの下にいるっつーなら、ドルイドンの連中は間違いなくここを獲りに来るな」

「……ええ。しかし、プリシャスは攻略を焦りはしないでしょう。エラスによって地の底から新たなドルイドンが次々と生み出され、奴の軍門に加わるんですから」

「時を経れば経るほど、こちらが追い込まれる……か」

 

 数でこそ勝るリュウソウ族だが、ドルイドン、それもマスターたちでさえ遭遇したことのないような上級の連中を前にしては人数差などなんの意味もない。その数の差さえも埋められてしまえば、攻撃も防衛も到底不可能だ。

 

「攻め込むしか、ない」

「!」

 

 エイジロウがつぶやいた言葉に、皆が反応する。

 

「……と、思います」

「確かに、比較的奴らの戦力が小さいうちにケリをつけるには、それしかないが……」

「ただ、ヘタに戦力を分けるわけにはいかないよ。相手は最低でもドルイドン三体なんだ」

 

 以前よりは互角ないし有利に戦えるようになったとはいえ、プリシャスもガンジョージ・ツヴァイも強敵であることに変わりはない。そして、ヤバソード。

 

「……奴からは、他のドルイドン、それこそプリシャスとも違う危険な雰囲気を感じた。うまく説明はできねえが……」

「わかるそれ!なんかリュウソウ族滅ぼすしか言わんかったし……そういうマイナソーみたいやった」

 

 それに、たどたどしい知能のぶんのリソースをすべて振り向けたかのような戦闘能力。キングキシリュウオーで抑え込めはしたが、それでも気を抜けば危うかったと思う。

 

「サデンとして傍に仕えてみて感じたが、プリシャスは良く言えば忠誠心の厚い部下……端的に言ってしまえば自分の言いなりに動く駒を欲しがっている。自分の言うことさえ聞いていれば成功失敗には頓着しないが、少しでも意に背くようなことを言えば……」

「……確かに。サデンに化けた俺がちょっと口答えしただけで、マスターブラックの心臓をグシャッ!……だもんな」

「!、……あのときのあれはおまえか」

「あっ……」

 

 ショータに睨まれたエイジロウが冷や汗をかくひと幕もありつつ。

 

「要するにエラスは、プリシャスが望んだ通りのドルイドンを生み出してるっつーこったろ」

「……そうなる。そしてその傾向はより強まっていくだろう」

 

 リュウソウ族に対する憎悪のみで動く、殺戮マシーンのようなドルイドン。そんなものが大挙して村を襲ったらと思うと、背筋が凍る思いがする。

 

「──なら、話は決まりやな」

 

 そう声をあげたのは、マスターレッド──タイシロウだった。

 

「きみらは今すぐにでも奴らを倒しに向かうべきや。もちろん、全員でな」

「しかし、村の防備は……」

「それは心配せんでええよ」マスターピンクが追随する。「万が一向こうが戦力をけしかけてきたら、私らでなんとか時間を稼ぐ。もう、この前みたいな轍は踏まんよ」

「お母ちゃん……」

 

 マスターたちの決意は並々ならぬものがあった。一年前の悲劇を、絶対に繰り返してなるものか──そんな気概がうかがえる。

 

「ショータ、おまえも手伝ってくれるやろ?」

「……微力で良ければな」

「なに言ってる。数多いる先達を差し置いて騎士竜ミルニードルに選ばれたほどの手練じゃないか、きみは」

 

 当時封印から目覚めていた騎士竜はタイガランスとミルニードルしかいなくて、前者は既に相棒がいる状況。タイシロウもテンセイも当時密かにリュウソウブラックの座に憧れていたものだが、騎士としては半人前の自分たちが選ばれるはずもないというあきらめもあった。それが蓋を開けてみれば同年代のショータがミルニードルによって選ばれたというので、飛び上がらんばかりに驚いたものだ。もとより神童の誉れ高い少年だったとはいえ、他者と親しく交わるタイプではなかったし、嫉妬心めいたものがなかったかといえば嘘になる。いずれにせよ、過去の話ではあるが。

 

「決まりだな。──最重要目標はプリシャス、」

 

 その首を獲って彼の軍団を崩壊させ、エラスとの協力体制を断ち切る。そのうえで、エラスを倒す方策を考える──

 

「……今はとにかく時間がない。リュウソウジャーよ、万事、おまえたちに託す」

 

 長老の言葉により、少年たちの果たすべき任は定められた。

 

 

 *

 

 

 

「じゃあ行ってくる。万が一のことがあったら、すぐに安全なとこに隠れるんだぞ」

 

 エイジロウの言葉に、トモナリとコタロウは揃って小さく頷いた。いずれも躊躇めいた感情が覗くのは、それぞれの事情によるところがある。友を純粋に心配する気持ち、あるいは肩を並べてともに戦えないことに対する無力感か。

 

「ンな顔すんなって、ふたりとも。俺らはここまでどんな戦いも乗り切ってきたんだ。今さらあんなヤツらに負けたりしねえよ」

「……エイちゃん、」

「だから……俺らが帰ってきたとき、ちゃんと迎えてくれよ。もう、誰かが死ぬのは見たくねえんだ」

 

 両親もケントもタマキも、その魂はいつだって自分を見守ってくれている。そう信じてはいるけれど……やはり向かい合って言葉をかわして、その身体にふれられる喜びは代えがたいものだ。年老いて天寿をまっとうするまでは、彼らにはそうであってほしかった。

 

「……わかった。な、コタロウ?」

「僕だって一応はここまで皆さんについてきたんですから。自分の身の守り方くらいは心得てるつもりです。いつも通りさっさと終わらせて、帰ってきてください」

「けっ、ナマ言いやがって」

「ふふ、コタロウくんも大人になったよね」

 

 一年前、出逢ったのと同じ場所。であるからこそ、その成長もより強く実感できた。エイジロウは思わず、その頭をわしゃわしゃと撫でる。

 

「だーもうっ、やめろ!……早く行ったらどうなんですか!?」

「へへっ、悪ィ悪ィ。──じゃ、またな!」

 

 決戦に赴くとは思えない軽やかな辞とともに、エイジロウは……リュウソウジャー一行は、戦場に向かって出立していく。

 

「……やっぱりさ、オレも戦えたらって思うよな」

 

 彼らの背中が見えなくなったあと、トモナリがつぶやく。やはり、想いは一緒なのだ。親友を目の前で失ったのは、エイジロウだけではないのだから。

 それでも、

 

「今のみんななら、大丈夫です……きっと」

 

 だから自分たちは彼らを信じ、その帰る場所を守る。それだって大切な使命なのだと、一年をかけてコタロウは理解した。

 ただ、もしもそこに危機が迫ったときには──

 

 コタロウは無意識に、己の左手首を撫でていた。

 

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