【完結】僕のリュウソウアドベンチャー   作:たあたん

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48.進撃の黎明 3/3

 

 出立したリュウソウジャー一行が歩くこと四半刻、

 

「──ここだ」

 

 ショートの言葉とともに、足を止める。この峡谷に覆われた盆地に、プリシャスの軍団が根を張っている──

 

「よし……!皆、覚悟はいいな!?」

「もち!」

「そーいうてめェが震えてンぞ、クソメガネ」

「これは武者震いというやつだ!」

「どーだかな」

 

 鼻頭がくっつきそうなほどに睨みあう叡智と威風の両騎士を勇猛疾風の両騎士が分けていると、峡谷の間隙からふたつの怪躯が姿を現した。

 

「何をガタガタと騒いでいる、小僧ども……!」

「!!」

 

 ガンジョージ・ツヴァイ──そして、ヤバソード。供もつけず、たった二体で姿を現した。むろんそこに油断できる要素など微塵もないが。

 

「プリシャス様のもとへは行かせん……!──行くぞ、ヤバソード!」

「絶滅、サセル……!」

 

 彼らに敵とやりとりする性格的余裕などはない。容赦なく攻撃を仕掛け、彼らを木っ端微塵に吹き飛ばそうとする──

 

「そう来ると思ったぜ……!──みんなっ!!」

「わぁってらァ!!」

 

──リュウソウチェンジ!!

 

 『ケ・ボーン!!』の声が響くと同時に、彼らの姿は爆炎に呑み込まれる。ガンジョージ・ツヴァイはフンと鼻を鳴らすが、この程度でバラバラになるような者たちならここまで生き抜いてきてなどいない。

 

『──リュウ SO COOL!!』

『オォォォォ、マァァァァッックス!!!』

 

 劫火が収まると同時に、砂塵の中から飛び出す六人の騎士たち。黄金、黒、緑、桃、青──そして、赤。

 

「おらあぁぁぁぁッ!!」

 

 龍爪を、剣を振るい、ヒトならざる悪魔たちに斬りかかっていく。両刀使いのヤバソードはともかく、ガンジョージ・ツヴァイは砲撃に特化している。至近距離で腰を据えて戦うほうが良かろうという判断で、マックスリュウソウレッドとリュウソウピンクがあたっている。

 

「ぬうう、とことん目障りな奴らめ……!貴様らごときに、プリシャス様の覇道を阻むことなどできぬわ!!」

「その言葉……そっくりそのまま返してやるぜ!!」

「あんたたちに、私らの騎士道は邪魔させへん!!」

 

 一方で、危険なヤバソードには優先的に戦力が振り向けられていた。スピードに長けたブルーとグリーン、トリッキーな動作と空中戦を両立できるブラック──そして、リュウソウカリバーを振るうゴールド。

 

「リュウソウ族……絶滅シロォ!!」

「ビミョーにボキャ増やしてんじゃねーわ、このゾウリムシヤロォ!!」

 

──BOOOOOM!!

 

 攻撃による余波ではなく、爆破そのものがヤバソードに襲いかかる。その身が衝撃でずりずりと後退するが、たじろいだ様子もなくふたたび襲いかかってきた。

 

「くっ、痛みを感じていないのか……!?」

「……つーか、こいつのどこがゾウリムシなんだ?」

「同じことしか喋んねーからだわ!いちいち訊くなや!!」

「単細胞ってことね……はいはい」

 

 余分なやりとりはともかくとして、テンヤの言ったように痛みを感じない性質は厄介だった。もとより頑丈なドルイドンの肉体と相俟って、決定的な損傷を負うまでヤバソードは敵に向かい続けるのだ。

 

「滅ボス……!絶滅サセル……!!」

「ッ、………」

 

 やはり尋常でない、悍ましい敵だ。一刻も早く倒してしまいたいのはやまやまだが、いつまでもこの怪物の相手をしているわけにはいかない。最優先目標は、彼らを率いるプリシャスなのだから。

 

「プリシャスが姿を見せないのが気になる……。ここは一度、奴らの本陣に!」

「ならば一時的にでも動きを止める!──ヒエヒエソウル!!」

 

 凍てつく鎧がリュウソウブルーに装着される。それと同時にどこからともなく氷雪が吹きつけ、ヤバソードに襲いかかった。

 

「グォッ、ア゛ァァァ!!」

「今だ……!──アブソリュート、ディーノスラァァッシュ!!」

 

 悶え苦しむヤバソードめがけて、氷結の魂を纏った刃が一閃する。一瞬の硬直のあと、その身体がたちまち凍りついていく。

 

「むぅっ、やはり倒せないか……」

 

 同じドルイドン、それもプリシャスの配下であっても、やはりその根源からして異なる存在なのだ。

 

「でも、今がチャンスだ!急ごう!」

「──ヤバソードっ!おのれ……!」

 

 今度はガンジョージの砲撃が襲いかかる。熱と衝撃に身を硬くする四人だが、それ以上の攻撃が浴びせられることはなかった。

 

「あんたの相手は私らやろがいっ!」

「テンヤたちの邪魔はさせねえ!!」

「ぬぅ……!」

 

 ふたりがかりで抑え込まれ、ガンジョージ・ツヴァイは身動きがとれない。今のうちにと、四人は走り出す。

 

「ここは任せとけ、みんな!万が一ヤバソードが動き出しちまったら、俺がなんとかする!」

「すまない、頼む!」

 

──………、

 

 果たして無人の荒野を駆け抜けるようにして、彼らはプリシャス軍団の本陣へと駆け込んだ。ドルン兵を使って設営されたのだろう悪趣味な装飾がなされたそこには、何ものの姿もなかった。

 

「プリシャスが、いない……!?」

「ッ、やはりそういうことか……」

 

 三体もドルイドンがいるのだ。リュウソウジャーが攻めてくることを見越し、二体を囮として残し、残る一体で村を攻撃できるような態勢にしておく──プリシャスの考えそうなことだ。

 

「いねえことがわかりゃ十分だ、戻んぞ」

 

 ブラックの言葉で、彼らはすぐに踵を返した。四人だけであれこれ話をしていても、仕方がない。

 

「──エイジロウくん、オチャコさん!プリシャスがいない!!」

「えっ!?」

「マジかよ!?」

 

 ガンジョージ・ツヴァイを抑えるふたりの間に動揺が走る。そこを見逃さずツヴァイは至近距離からの砲撃を仕掛けてきた。咄嗟にピンクを庇ったマックスリュウソウレッドが、龍爪にカタソウルを装填する。結果、吹き飛ばされはしたが、肉体へのダメージは大きく低減された。

 

「ッ、……したら俺が戻る!みんな、ここは任せていいか!?」

「たりめーだゴミ!!」

「ゴミはダメ!」

「護衛のいないプリシャスを倒すチャンスだ、頑張れエイジロウ」

 

 そう──彼らはいくらでもピンチをチャンスへと変えてきた。今回だって、悲劇の再来などにはさせない。

 

「頼んだぜ……!──ハヤソウル!!」

 

 全速力をもって、疾風怒濤のごとく走り出す。当然ながら妨害しようとするガンジョージ・ツヴァイだが、

 

「おまえの相手は……僕たちだっ!!」

「!」

 

 グリーンがツヴァイに斬りかかり、その砲撃を阻む。

 

「デクくん……!」

「オチャコさん、一緒にやろう!」

「う、うん!」

「──イズク、これを使え!」

 

 ゴールドが投げたものを素早く受け取る。──それは、コスモソウルだった。

 

「ありがとう……!──コスモソウル!!」

 

 彼らがガンジョージ・ツヴァイに立ち向かう一方で、いよいよヤバソードの凍結は解けていた。奇声をあげながら、大刀をがむしゃらに振り回す。その余波さえ強烈で、三人がかりでは抑え込むのですら精一杯だ。

 

「リュウソウ族……!滅ボス、絶滅サセルッ、消ス──!!」

「うっせえクソカスっ、てめェが消えろやぁ!!」

 

 半ば痛罵合戦の様相も呈しつつ、剣戟はいつ終わるとも知れず続く──

 

 

 *

 

 

 

 その頃、手勢(ドルン兵たち)を率いたプリシャスは村の寸前にまで至っていた。

 

「……結界か。この前も今度も、とことん無駄なことをする連中だよ、まったく」

 

 ため息をつきつつ、プリシャスは目の前の何もない空間めがけて手を翳した。掌から放たれる波動が、魔力によって幾重にも張られた結界を一瞬にして崩壊させる。

 易々と村に侵入したプリシャスは、ドルン兵たちを一斉に散開させた。村を制圧するだけなら、自分ひとりでも十分。しかしかつてこの地に足を踏み入れたときには散々に喰らいつかれ、結局野望を果たせぬまま宇宙にまで退かざるをえなかった。

 

──その遺恨を晴らすには、皆殺しなどでは足りない。死すらも生ぬるいほどの苦痛と絶望を与えてやる。プリシャスはこのとき、自分でも制御できないほどの暗い情念に突き動かされていた。しかしそれを疑問に思うことすらないまま、歩を進めていく。

 

 一方、結界が破られた時点で村の人々は襲撃を感知していた。

 

「やっぱり来よったか……!──行くでぇ、お前ら!!」

 

 「おう!」と、レッドソルジャーズの団員たちが応える。既にあらかじめ予測したパターンを彼らに伝達し、指示としてある。もとよりホームグラウンドの防衛戦だから、あっと驚くような奇策があるわけではない。こういうときはとにかく戦うしかないのだ。だからマスター三人も後方にいるつもりはさらさらなかった。

 

「さあてテンセイはん、姐さん、オレらも行くとしよか!」

「そうだな、相手はあのマスターグリーンでさえ倒せなかったドルイドンだ」

「私らがやるしかなさそうやもんねぇ」

 

 それに……仮に自分たちが行かなくとも、必ずプリシャスと対峙するだろう男が今はここにいる。

 

 

「……やはり来たか。駒をこき使ってふんぞり返っているのが好きなおまえでも、その程度の矜持はあるらしいな」

 

 まさしく彼は今、プリシャスの行手に立ちはだかっていた。

 

「誰だい、キミは?」

「ふ、わからないか。つい昨日まで、おまえに心臓を握られていた者だ」

 

 それでプリシャスも合点が行った。サデンに化けていたリュウソウレッド、死んでいるはずの"サデン"の、心臓──

 

「なるほど、そういうことか。キミがサデンに化けていたとはね……ボクが宇宙に出ている間、領土拡大に励んでくれていたんじゃないのかい?」

「形だけはな。現実には街ひとつ、おまえのものにはなっていないだろう?」

 

 プリシャス家臣団のリーダー的存在として、人々への被害が最小限になるようショータは密かに侵略計画を綻ばせていた。後悔があるとすれば、ウデンをリュウソウジャー討伐に送り出してしまったことか。彼らならウデンも倒せると思っていたし、実際その通りだった。しかし教え子のひとりであったタマキを、戦死させてしまった。

 タマキの命。そしてドルイドンによって苦しめられた多くの人々の幸福。それらすべてに償いをするために、ショータは今この生命を懸ける覚悟だった。

 

 そのために──精一杯、虚勢を張るのだ。

 

「サデンに化けたときはいちかばちかと覚悟していたが、まさかこちらが殻を捨てるまで気づかれないとは思わなかったよ」

「………」

「仲間を信用していない割に、肝心なところを見ていない。自分ひとりが支配者であるような顔をして、その実他人に依存している。──矛盾の塊のようなやつだな、おまえは」

 

 それはサデンに化けてから今に至るまで、蓄積されたショータの飾ることのない本音だった。であるからこそ、敵対し続けてきたリュウソウジャーたちのそれ以上に重く深く突き刺さる。

 果たしてプリシャスは一瞬時が止まったかのように硬直した。

 そして、

 

「──ウ゛ア゛ァァァァァッッ!!!」

 

 獣のごとき雄叫びとともに、薙刀を振りかざして襲いかかってくる。ここまで怒りに我を忘れたプリシャスは初めて見ると思いながらも、ショータもすかさず剣を構えて応戦した。研ぎ澄まされた音が響き渡り、次いで衝撃がびりびりと腕から肩、頭へと昇ってくる。

 

「ッ!」

「黙って聞いてりゃ舐めくさりやがって……!おまえみたいなゴミクズが姑息な手を弄したところでっ、全部、ぜぇんぶムダなんだよ!!」

 

 いつになく激しい詰り。薙刀を振るう手にも余裕はなく、全力ゆえショータは防戦を強いられる。

 

「他の連中を信用しようがしまいが、最後は結局自分ひとりだ……!現におまえだってそうだろう、リュウソウ族っ!?」

「確かにな……っ。──だが!」

 

 ここで一瞬、ショータの力が上回った。すかさず全身全霊を込めてプリシャスを押し飛ばしつつ、自らも後退して態勢を立て直す。

 

「己の使命を果たすため、皆それぞれがあるべき場所で戦っている……!たとえこの場にいなくても、俺たちの(ソウル)はひとつだ!」

「〜〜ッ、そんな妄想、ボクが打ち砕いてあげるよォォっ!!」

 

 プリシャスがふたたび襲いくる。先ほどは押し返せたが、次はどうなるかわからない。それでも限界まで喰らいつかねばと、ショータはらしくもなく熱血に身を浸すことに決めた。

 

「ハアァァァァ──ッ!!」

「……ッ!」

 

 閃刃と閃刃とがぶつかり合う──と、思われた刹那。

 

「迸れ、水よ!!」

 

 にわかに響く凛とした女性の声。果たしてその直後、地面をかき分けるようにしながら膨大な水流が奔り、プリシャスに襲いかかった。

 

「何……っ!?」

「!」

 

 プリシャスはもとより、ショータにさえ予想外の援護攻撃。振り向いた彼が見たのは、陽炎の中、こちらに向かってくる三人の影だった。

 

「ナイスアシストやで、姐さん」

「うふふ、間に合って何よりやわ」

「ふたりとも、油断しないように。相手は我々が今まで遭遇したことのないクラスのドルイドンです」

 

 もっとも──彼らマスターでさえ遭遇したことのないような強敵と、弟子である少年たちは張り合い続けてきたわけだが。

 

「おまえたち……なぜここに」

「そら、本丸叩かんわけにはいかんやろ〜」

「みすみすきみを死なせるわけにもいかないしな」

 

 単に心配して、などという生ぬるい理由でないことはわかっている。リュウソウジャーの面々が出撃している今、ショータは貴重な戦力だ。それを独りでプリシャスと戦わせて、倒されることがあれば大いなる損失だ、と。そういう冷徹な計算もあって、揃って救援に来ている。

 そうであったとしても、彼らはここに来るべきではなかった。彼らの"マスター"という肩書きは自分のように形だけのものではなくて、騎士団を統括するという実効性を伴うものだからだ。

 

「大丈夫や」

 

 ショータの懸念を見透かしたかのように、タイシロウが告げる。

 

「団員たちはみな一人前の騎士や。この程度の戦い、自分たちの判断で戦える。エイジロウたちがそうしてきたようにな」

「いざというときには長老もおるしねぇ、うふふ」

 

「俺たちは何より、己の誓いに殉じて戦う。──もう、誰も死なせない」

「!、………」

 

 それがいかに困難なことか。彼らは当然わかっていて、悩みに悩み抜いた果てに答を出したのだ。

 ならばこの場で翻意させようなどというのは愚の骨頂、騎士の誓いはそれだけ固いものなのだから。

 

「なら……力を借りるぞ」

「よし来たっ!!」

 

 並び立つ四人の"マスター"。その勇姿を前に、プリシャスは己の奥底にある煮え滾る何かが抑えられなくなるのを感じていた。こんなことは今までなくて、冷静な自分が違和感を訴えかけている。しかしそんなものは、目の前のリュウソウ族たちに対する怨念によって容易く押し砕かれた。

 

「はは、はははは……っ!──ならお前ら全員、まとめて細切れにしてやるよ!誰が誰かもわからなくなるくらいにねぇ!!」

 

 マスターたちとプリシャス。ある意味では二百年前のリベンジともいえる戦いが、今始まろうとしていた。

 

 

 *

 

 

 

 一方、リュウソウジャー五人とガンジョージ・ツヴァイ、ヤバソードの攻防も一進一退を続けていた。

 

「うおぉぉぉぉぉッ!!」

「どりゃあぁぁぁぁぁッ!!」

 

 グリーンとピンクのコンビによる連携攻撃。スピードに勝る前者とパワーに勝る後者に翻弄され、ツヴァイは自身が得意とする距離をとれずにいる。

 

「ぬうぅぅ……!リュウソウジャーごときがプリシャス様一の部下である私をよくも……!」

「そんなこと、どうでもいいっ!!」

「これ以上、好き勝手させへん!!」

「ッ、こうなれば……!」

 

 ガンジョージ・ツヴァイは賭けに出た。距離を詰められたままであるにもかかわらずエネルギーを急速充填させたかと思うと、それを放出することなく爆発に至らしめたのだ。

 

「えっ!?」

「暴発……いや、まさか!」

 

 そのまさかであった。弾けた紅蓮がふたたび爆心地へと吸収されたかと思うと、たちまちガンジョージ・ツヴァイのシルエットが膨れ上がったのだ。

 

「WRYYYYYYYYY!!!」

「えぇっ、またこのパターン!?」

「パターンだけど……!やるしかない!──かっちゃん、みんな、ここはお願い!!」

「わーってんよォ!!」

 

 流石というべきか、幼なじみの威勢のいい声が返ってくる。彼ら三人はヤバソードをなんとか抑え込んでいるが、狂気の狂戦士を相手には手を焼いているようだ。自分たちふたり、そして騎士竜たちの力を借りてなんとかするしかない。

 

「ティラミーゴ、コスモラプター、お願いっ!」

「──エイジロウはいないケド、がんばるティラ〜!!」

 

 待ってましたとばかりに丘陵を飛び越えてくるティラミーゴ。後れてコスモラプターが空間を分けて姿を現す。グリーンがコスモソウルを天に投げると同時に、竜装合体。

 

「「キシリュウオー、コスモラプター!!」」

 

 場はいよいよ、混戦の様相を呈しつつあった。

 

 

 *

 

 

 

 司令塔たるプリシャスがマスター四人とぶつかり合っている間にも、村の各所で一進一退の攻防が繰り広げられていた。

 

「ノビソウル!」

「ハヤソウル!」

「ツヨソウルッ!!」

 

 リュウソウケンを振るう騎士たちの攻撃に、「ドル〜ッ!!」と悲鳴をあげながら打ち倒されていくドルン兵たち。一方の彼らも仲間の屍を躊躇なく踏み越え、村の最奥まで浸透せんと強力なる進撃を続けている。

 

「……むぅ」

 

 本陣で戦況を見つつ、ソラヒコは唸った。最前線に出ているマスターたちの代わりに全体の指揮をとっているわけだが、できることはそう多くない。

 

「──はっきり言って状況は厳しいよ、ソラヒコ」

「!、……チヨか」

 

 突然背後からかかった声にも、ソラヒコは驚くことなく応じた。かつて肩を並べて戦った先代のマスターピンク。彼女は魔法の力でもって負傷者の救護にあたってくれている。その言葉には相応の重みがあった。

 

「言っとくけど、あの魔法はもう使えないからね。下手にやれば、ここにいる全員まとめて村ごと消滅しちまう」

「……わーっとるわい」

 

 頼みはプリシャスに立ち向かうマスターたちと──リュウソウジャーたる少年たち。前者はともかく、若造も若造たる後者に望みをかけねばならない状況。忸怩たるものをソラヒコは感じたが、それはすぐに自嘲へと変わった。もとより村を異次元に飛ばすという判断をした時点で、まだ新米も新米だった彼らに一度すべてを託したのだ。結果エイジロウたちは期待に応え、海のリュウソウ族の王子までもを連れて帰ってきた。

 

(……未来は、明るいかもしれねえな)

 

 むろん、この場を乗り切れさえすればだが。

 

 

 *

 

 

 

 そして、集会所へと避難している村人たち。その中には当然、コタロウの姿もあって。

 

「………」

 

 じっと戦いの去就を想い続けているところ、不意に横から何かが差し出された。視線を上げると、トモナリのふっくらとした顔がそこにはあって。

 

「お腹すいてないか?クッキー持ってきたんだ、食べなよ」

「……じゃあ、いただきます」

 

 お言葉に甘えて、はむ、と齧りつく。ほんのり甘い味が口内に広がっていく。もとより甘いものは嫌いではない……というか好きなコタロウである。そんな場合でないことは重々承知しているが、やはり癒やされてしまう。そんな姿を見て、トモナリはニコニコ顔を綻ばせた。

 

「美味しい?」

「ええ、まぁ」

「良かった。……ふふ、」

「なんですか?」

「いや。コタロウ、やっぱり変わったなあって」

 

 前にトモナリがコタロウと顔を合わせたのはたったひと晩のことだ。だから知っていることなど限定的なのだが、それでも思うのだ。一年前のような刺々しさはなくて──エイジロウたちとの間に、深い信頼が生まれている。それだけ、旅の中で様々な経験を経てきたのだろう。……楽しいこと、嬉しいこと、乗り越えるべきことも。きっと、昨夜聞いただけでは収まらないほどに。

 

(……ちょっと、羨ましくなっちゃうな)

 

 ケントのことを想って──村に残る理由についてあのときそう言ったけれど、本当は足手まといになるのがこわかったのかもしれない。けれど自分より幼いコタロウは、リュウソウジャーの一員として立派に使命を果たしてきたのだ。自分も全力で喰らいつけば貢献できることがあったかもしれないなどと思ってしまうのは、傲慢に過ぎるだろうか。

 

「変わったのは、僕だけじゃないですよ」

「……そうかも」

「あと……そうそう、話をしてるんです。戦いが終わったら、みんなでまた旅をしようって。今度はトモナリさんも一緒に行ったらどうですか?」

「ん?」

 

 トモナリは首を傾げた。"一緒に行ったら"──コタロウは同行しないつもりなのか?

 思ったままそう訊くと、コタロウが「実は……」と切り出そうとした──刹那、

 

「!?、うぅ……っ」

 

 突如、襲いくる頭痛。トモナリの気遣う声が遠くに聞こえる。混沌のさなか──コタロウは、存在しない記憶を幻視した。

 

「──だめだ!!」

 

 コタロウは立ち上がった。困惑するトモナリをよそに、彼は避難している村人たちのほうを振り向いて叫んだ。

 

「みんな、ここから出るんだ!今すぐに!!」

「え、ちょ、なに言って──」

「早く!!」

 

 コタロウの鬼気迫る様子に感じ入るものがあったらしい。村人のうち数人が立ち上がる。あとは波を打ったように皆がそれに続いて、避難所を飛び出すことになった。

 

「はぁ、はぁ……」

「ふぅ……どうしたんだよ、コタロウ?」

「来るんだ、何かが……」

「何かって──」

 

 そのときだった。彼らを……否、村全体を激しい揺れが襲ったのは。

 

「なんだ……!?」

 

 長老たちも、

 

「うわっ、地震か!?」

「!、いや違う、これは……」

「………」

 

 プリシャスと戦うマスターたちも、皆。

 

 

 ただただ困惑する中で、"それ"はついに集会所を突き破る形で姿を現した。チェス盤のような幾何学模様の球体が、毒々しい血管のような茨に覆われたその姿。

 

「な、なんだよ……あれ……」

「………」

 

 コタロウにはその正体がわかった。何故か、というところに疑問を抱く余地すらなく、ただただ戦慄するほかなかったのだ。

 

「エラス……!」

 

 ドルイドンの女王が、ついに姿を現した。

 

 

 つづく

 

 





「わかりましたエラス様、ボクらの使命……!!」
「もう二度と、過去を繰り返したりはしない!」
「最後くらい、一緒に戦わせてください」

次回「宿命の子供達」

「この星を、創り直す」
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