仮面ライダーで言ったら五代雄介出演くらいの快挙です!
ドルイドンの女王──"エラス"が、ついにその姿を現した。
「あぁ、エラス様……!」
それを観測したプリシャスが、歓喜の声をあげる。彼の喜びはそのまま、対峙するマスターたちの焦燥と表裏一体だった。
「完全に復活してしまったか……!」
「ッ、あんなもんが、村の地下におったんかいな……!」
悍ましさに身を震わせるタイシロウだが、一方で言いしれぬ矛盾した感情が沸き上がることに戸惑いも覚えていた。──胸が詰まるような、不思議な感覚。その腕に抱かれたらどんなに心休まるだろうとさえ、思ってしまう。
しかしエラスは、その姿を明らかにするや否や間髪入れずに行動を開始した。
『──……、──………』
女性の声のような音が響いたかと思うと、その身体から伸びた触手が村じゅうに散らばっていく。そしてそれらは、死んだものも含めたすべてのドルン兵に突き刺さった。
「ドルゥッ!?……ドルゥゥゥゥゥ〜〜ッ!!」
何かを注ぎ込まれ、ドルン兵たちの様子が豹変する。雄叫びをあげたかと思うと突如として狂暴化し、周囲に対して無差別に攻撃を開始したのだ。
「な、なんだこいつら、突然!?」
「さっきまでより強く……ぐあああっ!?」
フォーメーションを整え、ようやく優位に立ちはじめていた騎士たちだったが、その変貌ぶりにたちまち押し切られていく。
さらに既に斬られたドルン兵の骸は空中に浮きあげられ、ひとつに集められて捏ね回されていく。
そして、
「──オ゛ォォォォォォッッ!!!」
完成したのはもとの面影など微塵もない、鎧を纏った竜のような大怪物だった。それは耳を劈くような唸り声を天空めがけて発すると、足元の家々を踏みつぶしながら進軍を開始した。
「あかん!あんなんに荒らされたら──」
タンクジョウ襲来時の二の舞い、いやもっと酷いことになる!焦るマスターたちの注意は一瞬、どうしても目の前にいる敵から逸れてしまう。
「みんな仲良くよそ見なんて、随分な余裕だねえ!!」
「──!」
四人の動きが鈍ったところに、プリシャスの魔の手が迫る。咄嗟に前に出たショータがそれを受け止めようとするが、力が入りきらず吹き飛ばされてしまった。
「ぐぅ……っ!」
「ショータっ!?」
「他人のこと気にしてる場合かなァ!?」
転進し、今度はこちらに襲いかかってくる。順々にとどめを刺していくような合理的な戦い方はせず、とにかく動ける敵を痛めつけていくことに喜びを覚えているようだった。それでもハヤソウルによる脚力強化をも上回るスピードである、これ以上の落ち度があれば容赦なく串刺しにされてしまう。
「ハハハハ──ッ!!」
高笑いとともに薙刀を振り上げるプリシャスだったが、その一撃は果たせずに終わった。真紅の鎧騎士が、龍爪でもって刃を受け止めたのだ。
「エイジロウ!?」
「リュウソウレッド……!貴様ァ!」
鍔迫り合いを繰り広げるは、村に帰り着いたマックスリュウソウレッド。彼もまたプリシャスの様子にただならぬものを感じたが、それ以上に探知したばかりのエラスの降臨が気がかりだった。
「エイジロウ、ここはええ!早よ行け!!」
「ッ、でも!」
「我々よりみんなが危ない、わかるだろう!?」
わかるけど、目の前のピンチを放って、という決断がすぐにはできないのがエイジロウという少年である。──しかしその迷いが喪失へと繋がることもまた、彼はもう知っている。
「……すぐ片付けて戻ってきますっ!!」
それまでは、どうか。願いとともにマックスリュウソウレッドはふたたび駆け出す。同じハヤソウルを使っていても、そのスピードはテンセイのそれよりずっと速い。些かコントロールは甘いようだが。
それがマックスリュウソウメイルの性能によるものだとしても、操っているのは間違いなく装着者の努力の賜物だ。
「ええ大人が負けてられへんっちゅーねん……!せやろ、ショータ!」
「ふ……そうだな」
既に歴戦の戦士となった彼らには、純粋な戦闘能力ではもはや及ばない──それは厳然たる事実だけれども、だからといって師匠の意地を見せないわけにはいかないのだ。
マックスリュウソウレッドが未だ村じゅうに蔓延る敵をかき分けながら進んでいる間にも、巨竜による蹂躙は続いていた。
「──そこまでだッ、バケモノ!!」
勇ましく叫んで駆けつけ……もとい飛来した、騎士竜プテラードン。彼はそのまま変形してヨクリュウオーへと姿を変える。そしてその進軍を止めるべく、勇敢にも躍りかかった。
「どりゃあぁぁぁっ!!」
「グオォォォォォッ!!」
ぶつかり合う竜人と邪竜──ひとまず、村人たちの面前の危機は停止した。脱した、とは到底言えない状況だが。
「た、助かった……」
「今のうちに避難しましょう、とりあえずあっちの山の中に──」
コタロウ以下村人たちがその場から退避しようとしたときだった。
「──ぐはぁっ!?」
うめき声とともに、周辺を警護していた騎士が倒れ込む。その背中を踏みつけるようにして、一体のドルン兵が現れたのだ。
「ドルゥ……」
「あ……っ」
エラスによって狂暴化しただけでなく、その力はさらに強化されている。非戦闘員がいくら集まったとて、この雑兵は揺るがぬ脅威でしかない。「ちくしょおっ!」とトモナリが石を投げつけるが、そんなものは軽く弾かれて終わった。
「──ドルウゥゥッ!!」
獲物に喰らいつかんとする肉食獣のように、ドルン兵が襲いかかってくる。最初の標的は歯向かってきたトモナリに定められたようだ。恐怖に引き攣る彼だったが、そこにコタロウが割り込んだ。
「コタロウっ!?」
「ッ、」
トモナリを守ることに、明確な理由を見出したわけではない。あとからなら幾らでも理屈をつけられるかもしれないけれども。
今はただひとつ。考える前に、身体が動いていた。
(……僕も結局、
ドルン兵の槍がスローモーションに見える。その背後にうっすらと浮かぶ、赤と金の鎧騎士の姿。彼は何かを叫んでいるが、あの距離では間に合わないだろう。せめて向こうで母に会えたらと願いつつ、コタロウは目を閉じた。
──キミは、こんなところで死んではいけない。
不意に、胸のうちからそんな声が響いた。
わずかばかり時を巻き戻そう。立ちはだかるドルン兵を一掃しつつ、マックスリュウソウレッドは村人たちを守るべく突き進んでいた。
「ッ、全然片付かねえ……!なんなんだこいつら……っ」
頭上では、ちょうどヨクリュウオーと大邪竜とが接触したところだった。どちらもが爪を振るい、一進一退の攻防を繰り返している。
しかし、前者が押し込まれる局面もあって。
「ぐあぁっ!」
「ピーたんっ!?」
思わず足を止めるレッド。しかしヨクリュウオーはうめきながらもその場に踏ん張った。
「バカヤロー、止まるな走れ!!」
「!」
「コタロウたちを守れよな絶対!」
そうだ、彼だって何よりコタロウを守りたいから戦っているのだ。その願いを果たせなければ、この場しのぎの救援などなんの意味もない。
ふたたび走り出すマックスリュウソウレッド。しかしコタロウ以下村人たちの姿を見つけたところで、ドルン兵の魔の手が既に手遅れなところまで迫っているのを目の当たりにするのだった。
「あっ……」
コタロウが、トモナリが、殺される。必死に走り、跳ぶが、この距離では間に合わないと頭の片隅にひそむ冷静な自分が告げてくる。そんな、馬鹿な。ここまで来て、ようやく終わりが見えてきて。
いまわの際のケントの姿がコタロウと重なった瞬間、エイジロウは絶叫していた──
──………。
信じられないことが、起こった。
「え……?」
「コタ、ロウ……?」
それは悲劇の再来ではなかった。しかしたとえばドルン兵の攻撃が間一髪成功しなかっただとか、そんな手放しに胸を撫でおろせるような状況では断じてない。
エイジロウもトモナリも、到底現実とは信じられないような、その光景──
「………」
「ド……ドルッ!?」
無論、この場で最も困惑に支配されていたのは攻撃者たるドルン兵だろう。押し込まんとした長槍が、不可視のエネルギーによって阻まれているのだから。
それを操っているのは、まぎれもなくコタロウ自身だった。──いや、
「……この子の生命は、私が守る」
コタロウの口から発せられた声は、明らかにコタロウのものではない、太い男のそれだった。
「この子だけではない。村も……──もう二度と、過去を繰り返したりはしない!」
顔を上げるコタロウ。──その双眸が、緑がかった空色の光を放っている。
コタロウの身体を借りた何者かはエネルギー波をそのままドルン兵を弾き飛ばすことに差し向けると、勢いよくその左手を掲げた。
「──騎士竜プテラードンよ。一度でいい、この少年のために大いなる力を!」
「エッ、何!?」
邪竜との戦闘に集中していたヨクリュウオーは、地上の状況をよく理解できていなかったらしい。混乱している間に、その身から何かを抜き取られてしまう。
「ウワアァッ、なんか出たァ──ッ!!?……あ、ちょっと待ってて」
「グオォ!」
ヨクリュウオーの体内から出でた光の塊はそのまま、コタロウの身体を包み込んだ。全身にあふれる力。それを感じながら、少年は……否、少年の身体を借りた何者かは静かに告げた。
「──リュウソウ、チェンジ」
「え……!?」
馬鹿な。まさか、そんなはずは。
光に包まれていくコタロウの姿を、エイジロウは信じられないものを見る目で見つめることしかできない。
──そして、光が収まった場に立っていたのは。
「空色の……」
「……リュウソウジャー?」
澄んだ青空のような美しい鎧。プテラードンを模したのだろう兜。それはまぎれもない、リュウソウメイルそのものだった。
「コタロウが、竜装した……?」
「………」
「──蒼穹の騎士、」
リュウソウ、スカイブルー。