【完結】僕のリュウソウアドベンチャー   作:たあたん

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50.新世界へ 2/3

 

 あまりにも長い一日は終わり、世界に夜の帳が下りた。

 

 人々を取り込んでひとまずは満足したのか、エラスは活動を停止している。その巨体ゆえ、取り逃がしたリュウソウ族の少年たちを探し回るつもりなど微塵もないのだろう。腹立たしいことだが、狭い洞穴に身を隠すエイジロウたちには僥倖であることもまた、事実だった。

 

「……ひとまず、状況を整理しよう」

 

 押し殺した声で告げるテンヤ。なんであれこのまま沈黙が続くよりはマシだったが。

 

「プリシャスを取り込んだことにより、エラスは己の姿かたちを変化させた。……いや、進化したというべきか」

「そして世界中の人々を眠らせ、ヤツ自身に取り込んでる……なんのために?」

「──"この星を創り直す、その礎となれ"、ヤツぁそう言っとった。おおかた俺らの生命エネルギーを吸収して、さらに進化するつもりなんだろ」

 

 事もなげに言うカツキ。──激情家の彼が、そうして努めて感情を抑え込もうとしている。それほどまでに自分たちは追い詰められているのだと、否が応でも自覚せざるをえない。

 

「──皆さん、」

「!」

 

 思わず身体が跳ねる。緊張ゆえの反射だったが、そこに立っていたのはコタロウ、そしてミニティラミーゴだった。

 

「エイジロウ、皆、大丈夫ティラ?」

「俺らはな……。そっちこそ大丈夫か?キングキシリュウオーでも、あんなにされちまうなんて……」

「大丈夫ティラ!モサレックスとプテラードンはだいぶやられてたけど、今シャインラプターが治してくれている!」

「そっか……」

「──ただ、いつまたエラスが動き出すかわかりません」コタロウが続ける。「早急に作戦を考えないと……簡単に言うようですけど」

「わーっとる。皆おんなじ気持ちだわ」

 

 カツキの言葉に頷きかけたエイジロウたちは……程なく、目を丸くして彼を見つめていた。すかさず意地悪げな紅い瞳に睨まれる羽目になったが。

 

「ンだコラ」

「い、いやぁ……やっぱおめェ、サイコーに漢らしいぜ!」

 

 そう言って半ば強引に肩を組む。「さわんなや!」とキレるのは案の定だったが、態度に反して抵抗はそこまで激しくない。出逢った頃はイズクを除いて誰も寄せつけようとしなかった彼も、今ではこういうことをされても嫌がらないくらい気を許してくれている。平時であれば、もっと喜びに浸っていられるのだが。

 

「チ゛ィッ!!」盛大に舌打ちしつつ、「……とにかく、まずデクと丸顔を引きずり出すのが最初だ」

「それはそうだな……。だが──」

 

 言いかけて、テンヤは口をつぐんだ。──エラスに取り込まれた者たちは、既に消滅している。そういう最悪の可能性を、どうしても考えてしまう。

 しかしオチャコとイズクがそこにいるなら、持ちこたえているに決まっているとも思う。根拠は、これまでの旅路だ。

 

「俺たち四人と、騎士竜たちで……か」

「──私もいるぞ!!」

「!?」

 

 急に壮年の男の大声がこれでもかと反響したものだから、皆驚きのあまり仰け反ってしまった。きょう一日で聞き慣れてしまった声ではあるのだが。

 

「わーたーしーがァ、来たァ!!」

「いきなり来んじゃねえ!!」

「ひっ、ゴメン!」

「いや素直……」

 

 声はごついが、姿はコタロウのままなのでどうしても違和感は拭えない。ただ時折空色に光る目が、彼が人智を越えた存在であることを証明していた。

 

「でもよマスターグリーン、大丈夫なんスか?言ってましたよね、リュウソウメイルつくるのに無理したとかなんとか」

 

 その言葉に、コタロウ……もといコタロウに取り憑いたトシノリの表情に翳が差した。

 

「大丈夫!……とは、言い切れないな。気を張っていないと、意識を表出させていられなくなってきている。コタロウくんが抵抗しているわけでもないのにな」

 

 トシノリは自嘲めいた笑みを浮かべた。このまま意識が保てなくなるということは、すなわち魂の死を意味する。先に死んでいった仲間たちと同じ場所へ行く──そう考えれば決して悪いことではない。ないのだけれど、今はまだ早い。かつてできなかったことを、やり遂げてからでなければ。

 

「エラスへの対抗策についてだが……率直に言おう、ある」

「!!」

 

 思いもよらぬ言葉に、少年たちは腰を浮かせた。単にキングキシリュウオーより強力というだけでなく、不死身の存在なのだ、エラスは。オチャコとイズク、それに捕囚となった人々を救出するという対処療法以上の展望は、未だ何もないところだった。

 

「いったい、どんな手ですか?」

「リュウソウカリバー、あれをまた使う」

「!、しかしあれは、もはやエラスを封印しておけなかったのでは……」

 

 自らを封じていたリュウソウカリバーのエネルギーを、エラスは吸収しつつあった。ふたたびそれで地の底へと押し込んだところで同じことではないのか。皆の疑問は当然だったし、"また"と形容している以上トシノリとてそれは織り込み済みだった。

 

「カリバー単体のエネルギーでは、エラスを永久に封じ込めはしなかったということだろう。しかし、そこに"守り手"が加われば……」

「……守り手?」

 

 トシノリが、己の──と言っても本来はコタロウのだが──胸に手を当てた。

 

「私自身の、(ソウル)さ」

「!!」

 

 言葉を失う一同を前に、トシノリは続ける。

 

「私の魂を宿らせたリュウソウカリバーを、エラスの心臓部に突き立てるんだ。そうすれば、ふたたびヤツを封印できる。……心配ない、必要なのは魂だけだから、コタロウくんは普通の少年に戻るだけだ」

「コタロウはそうかもしんねぇけど……!それじゃ、あんたが──」

「始祖の青年と同じように、私も新たな守り手となるだけだ。もとよりガイソーグの鎧に封じられ、その暴走にひと役買ってしまっていた……あの頃の無念に比べれば、誇らしいことですらある」

「………」

「それにもとより、私はまもなくこの世から消える身。天に昇って安穏としているよりは、永遠に騎士として戦い続けたい!それが私の、騎士道なんだ」

 

 騎士道──その言葉を持ち出されてしまえば、少年たちは何も言えない。彼の魂が何より彼自身の望んだ形で昇華される。自分たちだって、同じ立場ならそうするだろう。

 

「さて!そのためにまず、エラスを抑え込むための策を練らなければ、な」

 

 そうだ──エラスを封じるにしても、あの恐るべき力を削がねば肉薄することさえかなわない。勝利までは、幾重にも壁が立ちはだかっている──

 

 

「HAHAHAHA!お困りのようだ☆NA!」

「!?」

 

 トシノリのそれ以上にサプライズな美声が響く。かと思えば、「ドォーーーン!!」と叫びながらスライディングで飛び込んできた馬鹿者がひとり。

 

「てめぇ、ワイズルー……!」

「……何しに来た」

「エッ、ちょ、とてもとてもこわいお顔立ちがおそろいで……」

 

 地べたに這いつくばる形になってしまったことが災いし、ワイズルーは少年たちに取り囲まれたうえで冷たく見下される羽目になった。完全に自業自得だが。

 

「もう〜、私はもうキミたちと争う気はナッシング!ゼ〜ロ〜♪」

「だとしてもっ、ちったぁ反省しろ!」

「その通りだ!改心が事実なら剣を向けるつもりはないが、貴様は己の所業を悔いるべきだろう!!」

 

 言葉で叱ってくれるエイジロウとテンヤなどはまだ優しいほうである。冷たく睨めつけるショートと視線で射殺さんばかりのカツキを目の当たりにして、ワイズルーはそのことを学んだ。

 

「ム、Mmm……だからその一環として、キミたちの助太刀に来たのだ!」

「エラスに本気で叛逆するのか、おまえが?」

 

 ショートの不信感を滲ませた言葉に、ワイズルーは色めきだって「オフコース!!」と応じる。

 

「エラスの創り直したこの星に、エンターテインメントは存在しうるのか!?答はノーゥ!!」

 

 エラスの放った光からクレオンともども逃れたワイズルーは、眠らされた人々を強引にでも揺り起こそうと孤軍奮闘していた。途中でヤバソードに発見され、慌てて逃げ出す羽目になったが。

 

「夢は夜に見れば良い!もしくは自らの手で勝ち取るべし!!キミたちもそう思うだろう?」

「いや、まぁそうなんだけどよ……」

 

 至って正論だとは思うのだが、ワイズルーにのたまわれると釈然としない一同である。カツキなどは取り繕うこともなく「てめェが言うなや……!」とキレているし。

 しかし、それとはまた異なる反駁を口にする者がいた。

 

「……本当に、そう言い切れるか?」

「What?」

「ショート……?」

 

 気づけばショートは目を伏せていた。長い睫毛が焚き火に照らされ、より影を濃くしている。

 

「皆……眠らされているとき、どんな夢を見た?」

「……それは、」

 

 幸福な夢だった。濃淡はあれ、それは間違いない。死んだ人が生きていたり、望んだものが手に入っていたり……等々。

 

「だからなんだってンだよ」

「いや……」

 

 ショートはそれきり何も言わなかった。同じように夢を見ていた以上、彼の葛藤は察しがついた。それでも自分たちの双肩にこの星の明日が掛かっている以上、彼の心に寄り添っていることはできなかったのだ。

 

 

 *

 

 

 

 一方、エラスの中に取り込まれたオチャコとイズクは、体内をかき分けて探しに来たクレオンによって叩き起こされていた。

 

「おい起きろっての、ちんちくりんコンビ!!」

「だぁれがちんちくりんや!!……って、クレオン?」

「また眠らされてたのか、僕たち……」

 

 辺りを見渡す。そこは一面腐敗した肉塊のような柔らかい壁に覆われていて、時折ブニョブニョと蠢いている。

 

「き、気持ち悪い……。なんなんココ?」

「エラスの体内に決まってんだろ!?……ったくなんでオレまで……。しかも二度も起こさせやがってよー!」

「そういえば、どうしておまえまで?」

「どうしてって、お前ら見てなかったのかよ!?お仲間のリュウソウブラックが、オレを爆破でふっ飛ばしたんだ!……今までさんざん悪いことしたとは思ってっけど、こんな意趣返ししなくてもいいじゃんかよぉ」

 

 クレオンはクレオンなりに傷ついているようだった。今までの所業のことはあるにしても、しょげた彼の様子を哀れに思わないといえば嘘になる。しかしカツキの行為は、果たして意趣返しなどというものだったのか。

 

「待って。かっちゃんは確かにこう……ああいうやつだけど、戦場で溜飲を下げるためだけの行動はとらないはずだ」

「じゃあ、クレオンを巻き込んだのもワケがある……ってこと?」

「うん、あの場でそれを伝える余裕はなかっただろうから……。何かあるんだ、何か……」

 

 じっと考え込むイズク。オチャコも彼に倣って唇に指を当ててみるが、残念ながら思考力に関しては大きな差がある。脳内を巡るのは、有事のカツキが腹いせのためだけに行動をとるような少年ではないという事実くらい。

 

「うーん……そうなると、クレオンにしかできないことがあるってことだよね……」

「クレオンにしか……──!!」

 

「それだ!!」とイズクが大声をあげる。あまりにも唐突だったので、オチャコもクレオンも揃って跳び上がってしまった。マネすんな、とすかさず悪態をつく後者だったが。

 

「わかった、かっちゃんがクレオンに……いや、僕にやらせたかったことが」

「え、え、何?デクくんにって……どゆことなん?」

 

 クエスチョンマークを乱舞させているオチャコ。こればかりは彼女の頭脳の問題ではない。カツキは最後の最後になって、捉えようによっては極めて冷徹かつ恥知らずな作戦を自分に託した。これまでの自分たちの関係性を逆手にとった、ともいえるだろう。

 

(いちかばちか。万が一後処理が上手くいかなければ、僕は……)

 

 カツキの"作戦"は、少なくともイズクに苦痛を強いるものだ。苦肉の策、と形容した通りに。

 だが──ならばやらないという選択肢はありえない少年であることも、かの幼なじみは織り込み済みなのだ。

 

「クレオン、」

「なんじゃい」

「僕から、マイナソーを生み出してほしい」

 

 一瞬、時が止まった。イズクが何を言っているのか、ふたりとも理解できなかったのだ。

 そして思考が及んだ途端、オチャコは彼に詰め寄っていた。

 

「っ何言うとるん!!?そんなんダメに決まっとるやろ!!」

「でも、ほかに手はない!考えてる時間も!僕らはなんとしてでも、ここから脱出しなくちゃならないんだ!!」

「せやけど……!──それなら私が……!」

「きみにそんなことさせられるわけないだろう!?」

「ッ、」

 

 初めてイズクに怒鳴り返され、オチャコは言葉を詰まらせる。こんなに自分を想ってくれている女性相手に、という気持ちはあったが、今は危機の真っ只中だ。

 

「……かっちゃんは、僕に託してくれた。それはただ幼なじみだからってだけじゃなくて、合理的な意味も含まれてるはずなんだ」

「合理的な、って……?」

「僕は結構、彼に我慢させられてきたからね」

 

 自嘲めいた笑みを浮かべると、イズクはクレオンのもとに歩み寄った。

 

「さあクレオン、ひと思いにやってくれ」

「え、えぇ〜……」

「早く!時間が、ないんだ……!」

 

 エラスの体内にいるだけで、足元からエネルギーを吸い取られるようだ。そうして獲物の気力を削いで、眠りに陥れるのが目論みなのだろう。騎士ゆえの体力と精神力でふたりとも耐えているが、それとていつまでもつかはわからない。

 イズクの熱のこもった説得に圧されてか、「あーもうわかったよぉ!」とクレオンは声を張り上げた。

 

「どーなっても知らないからな!ホラ口あーんして!」

「や、やさしくしてね」

「どっちだよ!!」

 

 言われるがまま口を開けたイズクに、クレオンは己の指先を向け──

 

──体液が、垂らされた。

 

 

「うぅっ!?う、あぁぁぁぁぁ────ッ!!??」

 

 悶え苦しむイズクの身体から、エネルギーの塊があふれ出す。それがヒトガタを形作ってゆくのを目の当たりにして、オチャコとクレオンは揃って両手で口許を覆っていた。

 

「こ、これがデクくんの……」

「やべぇなコイツ……」

 

 カツキ(リュウソウブラック)、恐ろしい男。色々な意味で、ふたりはそう思うのだった。

 

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