夜明けと同時に、一行はふたたび戦場へと繰り出した。
「さあ行くぞ、皆!」
「仕切んなや、オッサン」
「オッサン呼ばわりはやめよう!」
「………」
エラスは未だ動きを見せていない。イズクたちも──
それでも戦うべきときなのだと決心した矢先、異変が起きた。静止していたエラスが突然苦しみだしたかと思うと、その身体から複数の影が飛び出してきたのだ。
「あれは……!」
「──デクっ、丸顔!!」
真っ先に駆け寄るカツキ。エイジロウたちも慌てて追随する。力なく落下したイズクの身体は、オチャコがクッションとなって守ったのだった。
「い、ったたぁ……」
「──デク、やったんか!?」
「いや私の扱い……」
頬を膨らませるオチャコだが、明らかにイズクのほうが満身創痍であるだけ仕方ないともいえる。彼はカツキに抱き上げられると、薄く目を開けて微笑んだ。
「か、っちゃん……。僕、やったよ……」
「……!」
カツキがその言葉に応えようと口を開きかけたところで、地揺れとともに"それ"が降臨した。
「………」
白い蓬髪と髭をたなびかせ、筋骨隆々の肉体を惜しげもなく晒すいかめしい巨人。瞳孔のない白眼は、鋭くエラスを睨みつけていた。
「あれが、イズクくんから生まれた……」
「ゼウスマイナソー……って、クレオンが」
ゼウス──雷神の名を冠したマイナソーは、その名に違わず頭上に雷雲を呼んだ。そこから降り注ぐ雷光を、掌のうちに一心に集め、
そして──エラスに向け、放った。
「──ッ!?」
多量かつ強力な電撃を一度に浴びせられ、エラスは苦悶のうめき声をあげる。キングキシリュウオーさえ一方的に蹂躙した、あのエラスが。
「あのマイナソー、すげぇ……」
「カツキ……おまえもう少し、イズクへの接し方を考えたほうがいいんじゃねえか」
「っせぇ!!……わーっとるわ」
自覚があるからこそこの作戦をとったのだ、カツキは唇を尖らせながらもわしゃわしゃとイズクの頭を撫でた。
一方で、強力無比なるゼウスマイナソーの快進撃は半ば不意打ちぎみの最初だけだった。
『邪魔を……するな!』
エラスの放った光が、ゼウスマイナソーを包み込む。苦悶の声すらあげる間もなく、彼は跡形もなく消滅してしまった──
「マイナソー、敗れたか……」
「でも作戦は上手くいった……!無事でよかったぜふたりとも!あと、クレオンも──」
ぱっと振り向いたエイジロウ。しかし、そこにクレオンの姿はなくて──
結論から言えば彼は、原野の隅にてワイズルーと抱き合って喜びを分かち合っていた。
「クレオン!」
「ワイズルーさま!」
「クレオォン!!」
「ワイズルーさまァァ!!」
……連中のことは、ひとまず放っておくとして。
「さあ、役者は揃った。皆、ここからは全力全開で立ち向かおう!」
「だァからてめェが仕切んな!!」
「だあぁもうやめてよかっちゃんっ!僕の先代相手に!」
「そういうとこだぜカツキ……」
「………」
ショートが一瞬目を伏せたことにこのときオチャコは気づいたが、それを気遣っている猶予はなく。
「「「「「「「リュウソウチェンジ!!」」」」」」」
『ケ・ボーン!!リュウ SO COOL!!』
竜装の鎧兜を纏い、七人の騎士が並び立つ。それと同時にエラスはふたたび動き出し、こちらへ向かってきた。
『……愚かな……』
その手に光が集められ、炎の塊となって撃ち放たれる。ひとつめは数秒、ふたつめは一秒弱、それ以降はコンマ数秒のスピードで。
懸命にそれらをかわしながら肉薄しようとするリュウソウジャーの面々だが、そのあまりにも激しい波状攻撃はリュウソウメイルをもってしても耐えきれるものではない。彼らの進軍の足は早々に止まり、翻弄されるばかりだ。
「くっ、これでは……!」
「クソが……っ!」
「ッ、俺が盾んなる!!──カタソウル!!」
カタソウルの鎧で竜装すると同時に、レッドは前面に出た。さっそく炎弾の直撃を受けるが、気合でかろうじて耐える。尤も肉体に伝わる熱は殺しきれないが。
「今の、うちに……っ。──ショートっ!!」
「……わかってる!」
リュウソウカリバーを構えるゴールド。作戦のカギとなるこの伝説の剣をいちばん使い慣れているのは、彼だ。そしてその刃には、"彼"の魂を宿さねばならなくて。
「………」
目配せすれば、蒼穹の騎士は躊躇うことなく頷いた。彼は己が犠牲になることを厭わない──騎士だから。
この場にいる誰が彼の立場であったとしても、同じことをするだろう。──だが魂だけの存在となった彼は、エラスに夢を見せられていない。少なくともそれはショートにとって、重要な事実だった。
『無駄だ……』
ふたたびエラスの声が響く。はっと意識を引き戻されたときにはもう、無数の触手が乱舞していて。
「ッ、う、ぐうぅぅ……!」
円陣を組み、リュウソウケンを振り回して必死に寄せつけまいとする。しかし斬りつけたとて単なるエネルギーの塊でしかないそれを断つことはできない。それに、この膨大な数。ひとり、またひとりと触手に捕われていくのは当然の帰結だった。
「く、そぉ……!」
オチャコとイズクが解放されたばかりだというのに、ふたたび呑み込まれてしまうのか。思わず唇を噛んだ直後、光の矢がエラスに浴びせかけられた。
『──ッ、』
「!、ワイズルー……」
ステッキを振るい、ワイズルーがエラスに攻撃を仕掛けている。助太刀する、という言葉は出任せではなかったようだ。
『反抗は、赦さない……!』
エラスの標的がワイズルーに向けられ、同時にリュウソウジャーの面々は振り落とされた。
「これはピンチ!クレオン、エスケープだっ」
「えぇっ、もうっスかぁ!?」
彼らはその逃げ足の速さで幾度となく生き延びてきた。エラスはそれを赦さんと迫るが、彼らも生来の能力と経験ゆえにとことんしぶといのだ。
いずれにせよ、エイジロウたちは解放された。しかし度重なるダメージでリュウソウメイルの損耗が激しかったためか、地面に叩きつけられた衝撃で竜装が解除されてしまう。肉体のほうだって、もう万全といえるような状態ではなかった。
「ッ、皆……大丈夫かい……?」
「ヨユー……だわ!」
「だけど、一方的に振り回された……」
炎のエネルギー弾に、光の触手。それぞれ本格的な殺傷攻撃でないにもかかわらず、自分たちは接敵することすらできなかった。
「あんなヤツ、どうやって抑えればええの……?」
「悔しいが、方法は思いつかない……っ」
ならば、やれることはひとつ。
「もう一回、突っ込む……!──いこうぜ、皆!!」
これが最後の戦いなのだ。たとえどんな困難が立ちはだかろうと、意気が衰えることはない。エイジロウが立ち上がり、トシノリが、仲間たちがそれに続いていく。
しかしその中にあって──ひとりだけ、その場に膝をついたままの者がいて。
「……本当に、それでいいのか……?」
「……ショート?」
俯いたまま、顔を上げようとしないショート。汗で濡れた前髪に押し被せられたオッドアイは、昏迷にゆれていた。
「これ以上戦って……皆の目を覚まさせたとしてっ!そこに彼らの、幸福はあるのか!?」
「ショートくん……!?」
「何ぬかしとんだ、てめェ……!」
凄むカツキは激情にまかせて彼の胸ぐらを掴む。それをキッと睨み返すと、ショートは想いを爆発させた。
「イズクもオチャコも帰ってきた!!夢の中は……家族が揃っていて、幸せだったんだ……!もし今、世界中の人々が同じように幸せな夢を見ているとしたらっ!!たった七人の俺たちに、それを邪魔する権利があるのか!?」
「……!」
オチャコは以前、ショートが口にしていた言葉を思い起こした。──自分の都合で他人の生き方を強制するなんてこと、あってはならない、と。
彼は己の地位と権威に、真摯に向かい合ってきた。王族として臣民を、リュウソウジャーとして世界中の人々を。皆が幸福で生きられる世界のために、戦い続けてきたのだ。でもそれは決して簡単なことではなくて、リュウソウ族の長寿をもってしても生きているうちにかなえられるかなどわからなくて──
『──私が見せているのは、失敗も絶望もない世界。それぞれが思い描く幸せを、夢の中で永遠に見続ける』
ふいに、エラスの声が響く。まるで脳内に直接語りかけているかのようだった。こちらに背を向けていようとも、彼女に死角などないのかもしれない。
「失敗も、絶望もない……」
思わず復唱するテンヤ。それを捉えたかのように、エラスは続ける。
『この星を守りたいのであれば、方法は一つ。リュウソウ族もドルイドンも人間も、幸せを感じながら眠り続けるべきなのだ』
「………」
皆、すぐには真っ向から否定できなかった。リュウソウ族もドルイドンも、人間も。それぞれが長い歴史の中で、争いを繰り返して。そのたびに涙が、不幸が生まれる。無数の失敗と絶望を礎に、歴史はつくられている。
「だけど……だとしても……!」
感情論でしかないことを自覚しつつ、それでも納得できないエイジロウが声を張り上げようとしたときだった。
「……それはおまえの都合やろ」
オチャコが立ち上がり──その場に、拳を叩きつけた。辺り一帯にヒビが広がり、皆、物理的な揺れに翻弄される。
「こっちには、こっちの都合ってもんがあるんやっ!!」
躊躇うことなく、オチャコは前に出た。足を止め、振り向いたエラスと対峙する。コタロウに憑いたトシノリを除けばいちばん小柄な彼女が、たったひとりで。
「おまえは幸せな夢見せてるつもりかもしれへんっ!でもな……いくら夢の中で美味しいもん食べたってっ、全然お腹いっぱいになれへんの!!」
幸せな夢──結局それは、どこまで行っても過去の記憶や願望の一端でしかない。そう、一端でしか。
「私はまだ食べたことない美味しいもんに出逢いたいし、食べるだけじゃなくて、いろんな人やものとこれからも出逢いたい!みんなと一緒に、新しいこともしたいんよ……!──それに……おまえが見せた夢に、私の仲間はいなかったっ!!」
「──!!」
皆、はっとする。夢の中で抱いた違和感やどこか空々しい思いはすべて、仲間たちがいなかったから。
「いっぱいつらいことも悲しいこともあったけど、みんながいたからここまで頑張ってこれた!私はこれからも、みんなと一緒に笑いあいたいよ……!」
「……オチャコさん、」
涙に濡れるオチャコに、イズクはそっと手巾を差し出した。そして「僕だってそうだよ」と首肯する。
「みんながいなかったら、僕はきっと騎士にも……リュウソウジャーにもなれなかった。それに──いくら夢の中で困っている人を救けたって、そんなものただの自己満足でしかない」
「は、てめェ夢でも人救けしとったンかよ」
幼なじみが鼻で笑うそぶりを見せるものだから、イズクは頬を膨らませた。
「そう言うかっちゃんはどうなのさ!?」
「俺?俺ぁ……マスターと戦りあっとった」
「……きみこそ平常運転じゃないかよ」
「悪ィかよ。結局、現実だろうが夢だろうがやることなんざ変わりゃしねえんだ」
「だったら俺ぁ、現実で歯ァ食いしばって生きていく。……失敗も絶望も、今の俺を創るすべてだ」
「……そうだな、その通りだ」テンヤも頷く。「ひとは誰しも失敗する。正しいことをしているつもりで、誰かを傷つけてしまうことだってあるかもしれない。だが……それに向き合わず逃げることが、いちばんの罪だ。俺は、そう思う」
「………」
トシノリはしみじみと、若者たちの言葉を聞いていた。そして瞼を閉じ──コタロウへと、主導権を返した。
「僕ね、夢ができたんです」
「!」
久方ぶりにコタロウの声を聞いたものだから、皆が驚いて振り向いた。視線を注がれ、思わず頭を掻く。
「皆さんとの旅を……いつか、本にしたいなって」
「そうなのか!?」
「いろいろ記録してくれてるとは思ってたけど……」
「いいじゃねぇか、コタロウ!おめェ字もきれいだし、良い文書くもんな!」
「ありがとうございます。でも……皆さんと出逢えなかったら、僕はこんなふうに前向きにはなれなかった」
きっと母を憎んだまま、その影を振り払うように生きて、何かが欠落した大人になってしまったのではないだろうか。母と同じ生き方をする少年たちに命を救われ、心を救われた。自分だけではない、行く先々で出逢った人たちが。その姿を見届けてきたのだという自負が、今はある。
「もしも現実に苦しんでいる人がいるなら、一緒になって悩んであげる、手を差し伸べて、励ましてあげる。──それが、騎士なんじゃないんですか」
「!、……あぁ。そうだ、そうだったな……」
思い出した。海の民も、陸で出逢った人々も皆、ままならない現実を抱えながらも懸命に生きていた。彼らが皆、幸せな夢に閉じこもっていたいと思っているだろうか。そんなことはないはずだ。
もしも夢のほうが良かったと思う人がいるなら……コタロウの言う通り、寄り添い、力になるのが騎士として、王族としてあるべき姿だ。
──ショートがふたたび立ち上がり、七人は並び立った。
『おまえたちは今、同じ過ちを繰り返そうとしている……』
エラスはもうワイズルーを追うことをやめたようだ。足元にいる豆粒のような少年たちこそ、真に排除すべき存在だと認識したのだろう。あのドルイドンをまた命拾いさせてしまったなと、内心の笑いを噛み殺しつつ。
「……違ぇ。俺たちが戦うのは、皆で紡ぎ合って繋いでいく未来を創るためだ」
もはや動揺など欠片も感じられない声で、ショートが言う。
そして、
「確かに俺たちは争い、この星を傷つけた。それは決して変えられない過去だ。でもな……俺たちはその歴史の上に立ち、これからも生きていく!平和な世界を……みんなが笑って暮らせる世界を、創るために!」
「それが、俺たちの騎士道だ!!──みんな、いくぜっ!!」
応、と答える声が響く。六人がリュウソウルを構え、「リュウソウチェンジ!!」と声を揃えた。
そして、コタロウも。
『……もう私は表に出るのは難しいようだ。サポートするから、まかせていいかい?』
「ええ……やってみせますよ」
『……ありがとう。──では、ケツの穴締めて叫べ!!』
「はい!──リュウソウ、チェンジ!!」
──ケ・ボーン!!
『ワッセイ!ワッセイ!そう!そう!そう!』『ドンガラハッハ!ノッサモッサ!』
『ワッセイ!ワッセイ!それそれそれそれ!!』『エッサホイサ!モッサッサッサ!!』
──リュウ SO COOL!!
七人の身体が、リュウソウメイルに包まれてゆく。赤、青、桃、緑、黒、黄金──そして空色。
陸のリュウソウ族と、海のリュウソウ族。そして竜装の加護を得た人間の少年が今、一切の垣根もなくともに立っている。
「勇猛の騎士ッ!!」
──リュウソウレッド。
「叡智の騎士!!」
──リュウソウブルー。
「剛健の騎士ッ!」
──リュウソウピンク。
「疾風の騎士!」
──リュウソウグリーン。
「威風の騎士……!」
──リュウソウブラック。
「栄光の騎士!」
──リュウソウゴールド。
「蒼穹の、騎士!」
──リュウソウスカイブルー。
『おとなしく眠ったまま、生命を全うすれば良いものを……。──消えろ、お前達は新しい世界に必要のない存在だ……!』
口上が遂げられるより早く、エラスは容赦なく動いた。エネルギーを掌に凝縮し、球状へと変えて解き放つ。それは人ひとりなどすっぽりと呑み込んでしまえるほど巨大なもので。
咄嗟に身構える騎士たちだったが、彼らが文字通り危険に身を晒す必要はなかった。
「ティラアァァァァ!!」
突如割り込んできた、幾つもの巨大なシルエット。リュウソウジャー七人よりさらに数の多い彼らはドォン、と砂塵を巻き上げつつ、その巨体でもってエラスの攻撃を跳ね返した。
「みんな、おまたせティラァ!!」
「ティラミーゴ!」
「トリケーン!」
「アンキローゼ!」
「タイガランス!」
「ミルニードル!」
「モサレックス!」
「ピーたん!」
「みんな……!」
「──以下略みたいな言い方すんじゃねぇよぉ!」
「そもさん汝に問う!坊主が屏風に上手に絵を……」
「それただの早口言葉じゃんかよ!」
「正解!!」
十大騎士竜の揃い踏み、これほど頼もしい光景はない。今ならどんな敵にだって勝てる──いや、勝ってみせる。
「エイジロウ!」
「おうよ!この戦いを……終わらせるっ!!」
言うが早いか、レッドはマックスチェンジャーを構えた。『マックス、ケ・ボーン!!』と陽気な声が響き、リュウソウメイルをさらに堅牢かつ優美なものへと進化させる。
ブルー、ピンク、グリーン、ブラック、ゴールドもそれに続いた。リュウソウケンにともに戦ってきた騎士竜たちのソウルを叩き込み、強竜装の鎧を纏う。
そして、最後に──
「──来い、リュウソウカリバー!!」
リュウソウスカイブルー、コタロウ。彼の手に飛来せし伝説の剣が、空色の鎧に星空のような外套を纏わせる。
皆が、己の扱える最上級の姿へと変わった。出し惜しみなどありえない、力も心も魂そのものも、すべてをこの傲慢なる地母に叩き込むのだ。
「正義に仕える、気高き魂!!」
「「「「「「「騎士竜戦隊、リュウソウジャー!!」」」」」」」
そしてふたたび、物語は終局へと動き出す。
つづく
「俺たちは、愚かだから学ぶんだ」
「みんなとなら乗り越えられる」
「僕は、明るい未来をみんなと見たい」
「こいつらがいる限り、俺ぁ絶ッ対折れねえ」
「俺たちが、新たな歴史を紡いでいく」
「繋ぐんだ。命を、笑顔を」
最終回「僕のリュウソウアドベンチャー」
「明日の冒険のページをめくるのは、君たちだ」
今日の敵<ヴィラン>
ゼウスマイナソー
分類/アンノウン
身長/53.8m
体重/829t
経験値/291
シークレット/リュウソウグリーン・イズクの身体から生み出されたマイナソー。雷雲を呼び、そこから電撃を吸収、濃縮して敵めがけて放つ。残念ながらエラス完全体には歯が立たなかったが、その破壊力は歴代マイナソー随一だぞ!
ひと言メモbyクレオン:リュウソウグリーン、いろいろ溜め込んでたんだな……。ウン、なんか気が合うかも……。