正真正銘、これが最後の戦いだ。
勝てば、もとの世界を取り戻せる。敗ければ星は創り直され、今ある生命はひとつ残らず滅び去るだろう。
賽は投げられた。たとえそれがどれほど苦しい道でも、勝利に向かって突き進む。少年たちは、自らの使命をそう定めたのだ。
「うぉおおおおおお──ッ!!」
雄叫びをあげるエイジロウ。彼とテンヤ、そしてオチャコの一体化したキシリュウオーパキガルーが今、エラスに肉薄したところだった。
「だりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃあ!!」
「愚か者めがぁあああああ!!」
飛び出したチビガルーがこれでもかと拳を叩きつけ、ディメボルケーノが火炎を吐きつける。特別な思慮などなにもない、シンプル極まりない攻撃。だが、それでいいのだ。エラスを相手に、小細工など無意味なのだから。
実際エラスは拳の乱舞を受けても動じる様子すらないが、意識は確実に引き付けることができている。
「注意は向けた……!──今だ!」
「わかった!」
頭上からヨクリュウオースリーナイツゲイルが迫る。己に武装するタイプの合体を、最終決戦だからと初めて受け入れたピーたんである。ナイトランスとナイトメイスを、脳天めがけて叩きつける──
『愚かな……』
しかしエラスは、身体から衝撃波を放つことでヨクリュウオーを弾き飛ばした。その姿勢制御が崩れたところに、エネルギー弾を叩き込もうとする。
「ッ、ショート!」
「ああ!させるかっ!」
それを阻んだのがキシリュウネプチューンコスモラプターだった。騎士竜シャドーラプターの力で放たれた暗黒物質弾は空間を歪め、小規模なブラックホールを発生させる。エラス自体を呑み込むほどの引力はないが、その攻撃を吸収するには十分だった。
「イズク、カツキ、コタロウ!もう一度だ!」
「うん!」
「最初に俺呼べやァ!!」
「ピーたん、頼む!」
ふたたび仕掛けるヨクリュウオー。風を読むことでそのスピードは先ほどより増している。今度こそ──!
「行けぇ──!!」
『おまえたちを生んだのは……私だ!』
──甘かった。
それを思い知らされたときにはもう、三大ナイトロボは紙のように吹き飛ばされていた。
「ぐ、うぅぅぅ……っ」
「な、にが……!?」
いったい、何が起きたのか。そんなことはもはやさしたる問題ではない。──問題は今の一撃で、すべての竜装合体が強制解除にまで追い込まれてしまったことだ。
「ッ、ティラミーゴ、みんな……生きてるか!?」
「ティ……ラァ!!」雄叫びをあげ、「まだまだ、やってやるティラ!!」
「我らも、決してあきらめはせんぞぉ!」
ティラミーゴもディメボルケーノも、他の騎士竜たちも。皆、ソウルの一片までもを燃やし尽くして立ち向かおうとしている。
「……ピーたん。あいつの動き、止める方法はないの?」
コタロウが訊く。ある意味作戦の要は自分なのだ。未だこの身体に宿った騎士・トシノリのソウル。それを左手に握り締めたリュウソウカリバーに乗せ、エラスに突き立てねばならない。
「な、ないことはないような……」
「ア゛ァ!?あんのかよ!!」カツキが割り込んで怒鳴る。
「うわ出たぁ!!」
「出たも何もずっと中にいたでしょ!何かあるなら教えて、もうそれに賭けるしかないんだ!」
「そもさん、汝に答えよう!」
そう言ってやはり割り込んできたのは、合体していなかったために比較的傷の浅いディメボルケーノだった。
「我らの動力を全解放して、エラスに向け放つ!」
「動力?」
「……オレら騎士竜は鋼鉄の身体に進化した恐竜だからナ。エネルギー源も普通のイキモノとは違うのは、もう知ってるだろう?」
供給され続けるエネルギーを一斉発射すれば、一時的にエラスを抑えつける程度のことは容易い。騎士竜たちはそう言うが、ここまで口にもしなかった以上、当然デメリットがないわけではない。
「それをやれば……ワガハイたちは暫く動けなくなるティラ」
「──そればかりか、リュウソウルへのエネルギー供給も途絶える」
つまり──竜装が、維持できなくなるということ。万が一上手くいかなければ、自分たちはリュウソウケンと一部のリュウソウルを駆使して戦うしかなくなるのだ。エラスを前にしては、事実上戦力を失うことと同義である。
だが──
「ッ、……やってくれるか、皆?」
「……エイジロウの頼みなら、もちろんティラ!」
それを効果的に成すには、十大騎士竜がエラスを完全に包囲するような布陣をとることが必要だ。しかし、構築するのを黙って見ているほどエラスも甘くはないだろう。
「っし……!なら、俺らで一斉攻撃を仕掛ける。ヤツが怯んだ隙に、実行に移すんだ」
「ラジャー、ティラ!」
コタロウを除く六人が、一斉に必殺の構えをとる。同時にエラスがふたたび動き出さんとするが、迅速な行動が幸いして先手をとった。
「「「「「──クインティプル、ディーノスラァァッシュ!!」」」」」
ブルー、ピンク、グリーン、ブラック、ゴールドが同時に剣戟を放つ。それがエラスに衝突し、小規模な爆発を起こした。
そこに、
「エバーラスティング、ディーノスラァァッシュ!!!」
マックスリュウソウレッドが、単独で肉薄する。粉塵を薙ぎ、露わになったエラスの身体めがけて爪と刃とを一閃した。
『────ッ、』
エラスが声にならないうめき声をあげる。びりびりと地が震えるようだ。しかし彼女が怯んでいる時間はそう長くないだろう。その隙に、騎士竜たちは傷ついた身体を押して移動を開始していた。隙間なく円陣を組み、エラスを完全に取り囲む。
「みんな……いくぞ!」
「応ッ!!」
ディメボルケーノを筆頭に、騎士竜たちが咆哮をあげて応える。そして彼らは、己の内にある全エネルギーを解き放った。
大輪の華のように広がるそれがエラスを包み、重力が何倍にも膨れ上がったようなプレッシャーを与える。まともな生物がこれを受けたら、ぺしゃんこに潰れてしまうだろう。
「騎士竜たちに、こんな力が……」
「──コタ、ロウ……!今だ!!」
「!」
プテラードンの声に、コタロウは我に返った。彼らの文字通り捨て身の戦法は、すべて自分に大役を果たさせるためにある。ぐずぐずしていられない。仮にエラスの動きを完全に封じることができたとしても、騎士竜たちのエネルギーが尽きるまでが勝負なのだから。
「……わかった!」
ふぅ、と深く息を吐き、コタロウ──蒼穹の騎士は、跳んだ。光の波を縫うように、外套を翻してエラスへと接近していく。
「トシノリさん……!」
『……ああ!──身体を貸してくれてありがとう、コタロウ少年』
そんな声が脳裏に響くと同時に、身体から何かが抜け出ていくのを感じる。あぁ、これで本当にお別れなのだ。彼の憑依を自覚してまだ丸一日も経っていないのだけれど、なんだか胸のうちにぽっかり穴が開いたような気持ちだ。半身と、別れ別れになるような。
その想いを堪えて、コタロウはリュウソウカリバーの柄にぐっと力を込めた。その刃に、トシノリの魂が宿っている。
「コタロウ!」
「コタロウくんっ!」
「いけぇっ、コタロウ!!」
皆の声援を背に──リュウソウスカイブルーはついに、刃が届く位置にまで接近した。
「はぁああああああ────ッ!!」
虹色に輝く刃を──その胸に、突き立てる。
『!!!!!』
エラスが初めて苦悶の声をあげる。じたばたと暴れ藻掻くが、騎士竜たちの放つエネルギーによってほとんど身動きがとれない。そうこうしている間に、リュウソウカリバーがエラスの肉体に封印を施していく。それが完遂されれば、エラスは完全に無力化される──
「よし……!」
「やった!!」
このままいけば──そう思った矢先、光の輪の一角がわずかに綻んだ。ここまでずっと主で戦い続けてきたティラミーゴが、崩れてしまったのだ。
さらに不運なことに、最初にそれに気づいたのはエラスだった。わずかに自由になった肉体から──膨大な熱波を噴出させた。
「────ッ!!?」
その半ば苦し紛れの一撃はコタロウを除くリュウソウジャーの面々、そして騎士竜たちをも弾き飛ばした。前者はまたしても竜装が解かれてしまう。短期間での激戦は、リュウソウメイルの耐久力を常時の半分以下にまで貶めていた。
「クソがっ……もうこれか……!」
「ッ、コタロウくんは──」
視線を上げた先──コタロウは未だ、エラスからゼロ距離の地点に踏みとどまっていた。しかし彼の纏う空色のリュウソウメイルもまた、濃厚なエネルギーを浴びて限界寸前だった。
最もエラスに近い指先から、少しずつ鎧が削り取られる。そうして露わになっていく、コタロウの身体。
トシノリが離れたそれはもう、正真正銘、ただの人間の子供でしかない。
「コタロウくん、そこから離れてっ!」
「コタロウもういい!これ以上はおまえが──」
オチャコとショートの呼びかけが遠く聞こえる。しかし、今さら退けるわけがない。今は……今だけはリュウソウジャーの一員として、使命を果たすと誓ったのだ。
しかし事態は、さらに危急へと陥りつつあって。
──ぱき、
「……!」
嫌な音だった。よもやと視線を向ければ、リュウソウカリバーに亀裂が走りはじめていて。
「そんな……!耐えろっ、耐えてくれ!!」
せっかくここまで膳立てされて──トシノリが、己の魂までもを賭けたというのに。
虹色の光が広がる。焦燥に駆られていたコタロウは、不意に地面が接近しつつあることに気がついた。
──エラスの身体が、萎縮しつつある。
(あと、少し……。もう少し……!)
吹き飛ばされそうになるコタロウの背中を、不意に温かなものが支えた。振り向くまでもなくわかる、それが何か。
「コタ、ロウ……!」
「ッ、皆さん……っ」
これなら、いける。そう思った矢先だった。
『調子に……乗るなぁっ!!』
もはや静謐の欠片もない声だった。しかしそれと同時に放たれた波動が、もはや限界をとうに越えていた、リュウソウカリバーを粉々に打ち砕いた。
「あぁ──っ」
嘆きに塗れた声とともに、七人はまるごと後方へと弾き飛ばされた。
「ッ、コタロウ、大丈夫か……?」
「え、ええ……僕は。でも──」
打ち砕かれたリュウソウカリバー。悶え苦しみながらも、そこに立ちはだかっている小さくなったエラス。
「あとちょっとやったのに……!」
「だがヤツも弱っている!ここは力押しで──」
リュウソウルを構えようとして──皆、愕然とした。
それぞれのパーソナルカラーに輝いていたはずのソウルがことごとく、鈍色に変わってしまっている。──リュウソウルにエネルギーを供給している騎士竜たちがまったく同じ状態に陥っている以上、それも当然のこと。
賭けは、失敗したのだ。
「……コタロウ、下がってろ」
「!」
エイジロウの避難指示に、コタロウは目を見開いた。竜装の力を失っても、彼らはあきらめてなどいないのだ。だからこそただの子供に戻ってしまった自分を、後方へ下げようとしている。
悔しいが、仕方ない。ふたたび、彼らの戦いを見届けるだけだ。
「……わかり、ました」
コタロウが頷いたときだった。エラスが、ぴくりと身じろぎを見せたのは。
「!、──コタロウ、危ねえっ!!」
「え──」
切迫した声に反応する間もなく、コタロウは突き飛ばされていた。
いったい何事が起こったのか。思考とともに視界が安定して──彼は、奈落の底に突き落とされるかのような錯覚を味わっていた。
エイジロウの身体を、光の触手が貫通していた。
「がっ……ごは……!」
わずかに開いたその口から、赤黒い粘体がこぼれ落ちる。
「エイジロウくんっ!!」
「エイジロウ!!?」
「いやあぁっ!」
仲間たちの悲鳴のような声が響き渡る中、呆けたような表情のエイジロウはそのまま触手に絡め取られ、エラスの体内へと取り込まれてしまった。
ごとりと、彼のリュウソウケンが地面に落ちる。
『リュウソウ族の、騎士の生命……。なかなかの栄養になったぞ……』
「………」
反応のない少年たちを前にして、エラスはさらに続ける。
『諦めろ。リュウソウ族も、ドルイドンも、人間も始末して全てを終わらせる。そしてまた、始めるのだ』
「………」
『喜ぶがいい。ここまで私を手間取らせたことを賞して、おまえたち皆、私の養分としてやろう。あの少年と、同じようにな……』
それが定まった運命なのだと言わんばかりに……否、エラスはそう確信していた。何度立ち上がろうが、そのたびに希望の芽を叩き潰す。そうしていずれは絶望に陥る運命なのだ。
しかし、
「……おまえ、なんにもわかってないよ」
突き放すようにそう言ったのは、小柄な体躯の"疾風の騎士"だった。
続けて"剛健の騎士"が、
「ホンマ……どうしようもないくらいわかってない……!」
「見てろや……エイジロウ」
「最後のひとりになっても、俺たちはあきらめない……!」
「──俺たちが、明日をつかむ!」
そのときだった。打ち捨てられたリュウソウカリバー……その残骸からエネルギーがあふれ出し、彼らのリュウソウルに宿ったのは。
「これは……!?」
「カリバーの力の残滓が、ソウルに宿ったのか……」
カリバーの……つまり、マスターグリーン・トシノリの魂が。きっと、最後の手助けをしてくれようとしている。──彼の遺志を、自分たちが継ぐ。
『そんな微弱な力で、いったい何ができる?』
少年たちは答えない。言葉で応じる必要性を、もはや誰ひとりとして認めてはいなかった。
彼らは剣をとり、ふたたび立ち上がる。
「……皆、リュウソウチェンジだ!」
そして、歩き出した。
「叡智の騎士……リュウソウブルー」
テンヤがリュウソウブルーに、
「剛健の騎士……リュウソウピンク」
オチャコがリュウソウピンクに、
「疾風の騎士……リュウソウグリーン」
イズクがリュウソウグリーンに、
「威風の騎士……リュウソウブラック」
カツキがリュウソウブラックに、
「栄光の騎士……リュウソウゴールド」
ショートが、リュウソウゴールドに。
「「「「「「正義に仕える──六本の剣!!」」」」」」
──騎士竜戦隊、リュウソウジャー。
中心に立つ叡智の騎士の隣──そこには、ひとりぶんの空白があった。たとえ姿はなくとも、ともに戦う
「俺たちの騎士道……見せてやる!!」
その口上とともに、一斉にエラスに躍りかかる。最後の戦い、その一挙一動を逃すまいと、見守るコタロウは手帳とペンを構えた。