「ティラアァァ〜!!完全復活、ティラ!」
「あそこまで魂振り絞ったのは久々だったぜ……」
騎士竜たちがエネルギーを取り戻し、リュウソウルの力も無事に戻った。時間にしておよそ半日のことだったが、まったくモノ言わぬ石像と化した姿からはまったく生気というものを感じられなかった。たとえもとに戻るとわかっていても、また逢えて良かったと実感する。
「良かったなぁ、エイジロウ。これぞまさしく大団円や!」
「ダイダン……エン?」
「めでたしめでたし、ってことよ。ふふ」
駆けつけたマスターたちも、その勝利を祝福してくれる。嬉しくて、誇らしくて。こんな気持ちになるのは、一生に一度でも構わないとさえ思う。
「それで……皆、これからどうするつもりだ?」
マスターブルーことテンセイの問いに、皆、顔を見合わせた。リュウソウ族の騎士として、ドルイドンからこの星を
ここにいる六人は、良くも悪くも組織の中に組み込まれたことがない。ならば、その経験を活かす道もある。
「俺たち、もう暫くこの面子で旅を続けようと思います」
「……ほう。何故だ?」
マスターブラックことショータが眼光鋭く尋ねてくる。ドルイドンと戦い、村を取り戻すという元々の目的は既に果たされた。ならばなんのための旅なのか。リュウソウケンをもつことを許された者たちには、これから先も責任がついて回る。
「この一年、我々は多くの人々と出逢い、交流をもちました。しかし先を急ぐ旅でしたから、未だそのさわりしか知らないのです。ええとつまり、であるからして……」
「もっといろんな人に会ってみたいし、深く関わってみたいし、美味しいものもいっぱい食べたい!……っちゅーことです!」
「最後のはてめェの願望だろーが丸顔」突っ込みつつ、「……マスター。俺らは、あんたたちとは違う道を往く。でもいつか必ず、あんたたちを超える騎士になる」
カツキが宣言する。淡々と、定まった事実を告げるように。かつてのようなぎらついた闘争心ももちろん失ってはいなくて、けれどもそれを表に出す必要を認めないくらいに彼は強くなったのだ。彼と永きをともにしてきたイズクも。
一抹の寂しさを抱えつつ、ショータは「そうか」と頷いた。
「なら、長老の仰っていた"あれ"を実行してもいいかもしれないな」
「……あれ?」
いったいなんのことだろう。一同が首を傾げていると、タイシロウが「うぉ、オホン!」とわざとらしく咳払いをする。
「ここで皆に、長老からのご下命を伝える!」
「へっ?」
「ご、ご下命?」
思いもよらぬ言葉に、一同顔を見合わせる。プテラードンなどは「ホントに下からだナ!」などとお気楽なことをのたまっていたが。
「キミらリュウソウジャー全員で、新しい騎士団を創設すること!団長はエイジロウ、キミが務めるんや」
「え、えぇ〜〜っ!!?」
皆の驚く声が重なる。
「わ、我々が騎士団を……!?」
「お、俺が団長……!?」
「ンでクソ髪が団長なんだよざけんな死ね!!」
「そういうとこだよかっちゃん……」
こめかみを押さえるイズク。放っておくと二体目のゼウスマイナソーが生まれそうである……エラスがいなくなった以上、自然発生はありえないというのは上述した通りだが。
「だまらっしゃい!決まったことや!!」
「グギギギギ……!」
「顔やべぇぞ。……でも、ちょうどよかった。もう少し地上の世界のことをじっくり学びたいと思ってたんだ」
「またみんなで旅できるんやね!やったー!!」
無邪気に喜ぶオチャコを尻目に、エイジロウはその責任の重さを噛み締めていた。激戦をくぐり抜けてきたとはいえ新米の身で、マスターが務まるだろうか。
「大丈夫や、エイジロウ」
タイシロウの大きな手が、肩に置かれる。
「キミは俺ら以上に貴重な経験を積んできたんや。その能力は十分に備わっとるはずや」
「それに、メンバーは今までと変わらないんだ。きみなりにしっかりと、皆をまとめていけばいい」
エイジロウなら、大丈夫。それはマスターたちの、そして長老の総意だった。あとはエイジロウと、仲間たちの決意次第。
ピースは、既に揃っていた。
「……わかりました。マスターの称号に恥じぬよう、俺、精一杯頑張ります!!」
仲間たち──グギギギと唸っていたカツキも渋々だが──に異論はなかった。ここにエイジロウを団長とする騎士団が正式に発足したのだった。
団名は──"騎士竜戦隊 リュウソウジャー"。
*
「──あの、皆さん。聞いてほしいことがあります」
コタロウの言葉に、村へと戻る最中の一行は揃って足を止めた。
「どしたよコタロウ、ンなあらたまって?」
「実は、僕……」一瞬の逡巡のあと、「親類の家に、戻ろうと思います」
「えぇっ!?」
「これまた急な……。本当にいいの、それで?」
イズクの問いに、コタロウは迷うことなく頷いた。伝えるには勇気が要ったが、自分の中では決まったことには変わりなかった。
「考えたんです。皆さんとの旅を文章に起こして、物語にするには、僕には足りないものがまだあるって。皆さんとの旅は楽しいし、学ぶこともたくさんあったけど……いつまでもそこに甘えていたら、前に進めないと思うんです」
旅の中で、自分は大人になったのだと思う。母の人生を受け入れられるようになっただけでなく、最後は自らも彼女の繋いだバトンをとった。……けれど同時に、自分の未熟さもたくさん思い知ることになった。
大人になったといっても、自分はまだ子供の範疇から抜け出せてはいない。……それでいいのだ、きっと。子供だからこそ、学べることもたくさんある。
「それが、おめェの騎士道なんだな」
「ふふ……そういうことです」
コタロウが頷くのを見て、エイジロウは小さく笑った。
「……わかった。じゃあ俺らの最初の任務は、コタロウを家まで送り届けること!……で、どうだ?」
「うむ、良いと思うぞ!」
「なんか、最初に戻ったみたいやけどね」
「フン。ドルイドンもマイナソーもいねえのに、クソ楽にも程があらぁ」
「わかんねえぞ。すげえ強ぇ山賊が出てくるかもしれねえ」
不謹慎だとは自覚しつつも、どこかわくわくした表情でショートが言う。──そう、世の中にはまだまだ知らないことがたくさんあるのだ。コタロウと同じ、自分たちも旅を続けながらそれを学んでいく。
「っし、じゃあ行こうぜみんな。俺たちの旅、にしゅ「ニ周目ティラ〜〜!!」ちょっ、ティラミーゴ!」
相棒に台詞の良いところをとられてしまった団長が悶えるのを見て、団員たちはひとしきり笑うのだった。
*
物事にははじまりがあって、終わりがある。この旅のはじまりはどこだったのだろうと、今さらながらにコタロウは考える。家出をして、偶然エイジロウたちと出逢ったこと?いや、もしかしたら母が逝ってしまったときがすべてのはじまりだったのかもしれない。独りで生きてゆこうと思ったから、かけがえのない仲間と出逢えた。なんとも皮肉な巡り合せだ。
でも、それでもいい。
「コタロウ〜〜!!お別れなんてイヤだあオレものこるぅううううう!!」
惜別のきわで、ここまで名残惜しんでくれる異形の友人もできたのだから。
「プテラードン、いい加減にするティラ!」
「やだやだやだぁ!!コタロウはオレの相棒なんだもん!オレの力で竜装したんだもん!!」
駄々をこねるピーたんを、ディメボルケーノが「愚か者めがぁあああ!!」と一喝する。
「別れが寂しいのは、貴様だけではないのだぞ……!」
ディメボルケーノ自身もその例に洩れはしない。火山の奥深くで永年燻っていた彼の心に最初に火をつけたのは、エイジロウとコタロウのふたりだった。彼もコタロウのことは憎からず思っていて、本当ならプテラードンではなく自分の力を得た騎士になってほしかったくらいだ。
「ピーたん、ディメボルケーノ、最後くらいケンカしないで」
「……ッ、」
「む……」
コタロウの落ち着いた言葉に、ふたりは気まずげに黙り込んだ。
「今生の別れってわけじゃないんだ。……そうだ、僕が大人になる頃にまた会いに来てよ。6,500万年生きてきたきみたちなら、20年や30年あっという間だろ?」
「正真正銘の大人になった僕を、見てほしい」──そう言われて、ピーたんは翼を広げてするりとコタロウの懐を抜け出した。あとは、少年たちの時間だ。
「エイジロウさん、テンヤさん、オチャコさん、イズクさん、カツキさん、ショートさん。皆さんにも本当に、色々とお世話になりました」
「ンな社交辞令みてェな言い方、してんじゃねーわ」毒づくカツキ。同時に、「……せいぜい、俺らが読む価値のあるもん書けや」
「カツキくん、まったくきみは最後まで……」
「楽しみにしてる、くらい言えねえのか。俺は言うぞ」
「ふふ……そう言ったつもりだよね、かっちゃん?」
イズクのフォローに、カツキは「っせぇ!!」とがなりたてた。しかしその頬はほんのり赤く染まっている。
赤、といえば。
「……コタロウ、」
「エイジロウさん……」
団長の称号を得ても一朝一夕には変わらぬエイジロウが、前に進み出てくる。その表情には珍しく、笑みは浮かんでいなくて。
「俺、さ……ここに着くまでずっと考えてたんだ。おめェを笑って送り出すための言葉。……でも、無理だった」
「応援してる」「頑張れ」「元気でな」──月並みな言葉なら、いくらだって浮かぶ。でも、そのすべてが本心とは離れたところにある。むろんこれからのコタロウの活躍と幸福を願ってやまないけれど、それ以上に。
「コタロウ……俺、できればおめェにも一緒に来てほしい。これからも、一緒に戦ってほしいって……」
「………」
仲間たちは彼を制止することも、同調することもせずに見守っている。──皆、気持ちは同じだ。そしてエイジロウが、幼い友人の決意を無碍にするような少年でないことを信じてもいた。
「……ありがとう、ございます。そう言ってもらえて、本当に嬉しいです」
頬をほんのり赤らめて、コタロウは小さく頭を下げた。その言葉に、もちろん嘘はない。けれど──その心に宿した決意は、既に固まっているのだ。
「でも、僕……」
「……わかってる。ごめんな、駄々こねちまって」
「いいんです。──エイジロウさん、」
「ん、」
歩み寄ってくるコタロウを、エイジロウはぎゅっと抱きしめた。自分より小さく頼りない身体。それでもこの一年で間違いなく大きく逞しくなった。そうしていつの間にか、背丈も追い抜かれてしまうのだろう。ヒトはリュウソウ族よりあっという間に成長し、老いてしまうのだから。
だからこれを最後の機会と思って、幼いコタロウをこの目に、身体に焼きつけておきたかった。ヒトにもリュウソウ族にも刹那でしかない、この抱擁の間に。
やがてコタロウから離れ、エイジロウは立ち上がった。その目尻に光るものを拭って、彼はようやく笑みを浮かべた。
「──またな、コタロウ!!」
「はい!いつか、また!」
名残を惜しみつつ、ひとり、またひとりと踵を返して去っていく。その背中をコタロウは、いつまでも見送っていた。
(こうして、僕の冒険にはピリオドが打たれた)
(けれど、彼らとの絆がとぎれたわけじゃない)
何年経っても、何十年経っても。大人になろうと老人になろうと……あるいは自分が人生を終えたとしても。この絆を子々孫々まで受け継ぎ、繋いでいく。そのために──僕は、この冒険を物語として残そうと決めた。
だからどうか、忘れないでほしい。
──明日の冒険のページをめくるのは、君たちだ。
締めくくりの一文を読み切ると、コタロウはぱたんと本を閉じた。その表紙には、"
分厚いそれを置くと同時に、部屋の扉が勢いよく開かれた。
「おとうさーん!」
「こら、テンコ!おとうさんのお部屋に入るときはコンコンしなきゃだめっていつもおかあさんに言われてるでしょ!」
飛び込んできたのは黒髪の幼い男の子に、それを咎めつつも同行する少女。「テンコ、ハナ」と、コタロウは子供たちの名を呼んだ。
ふと、姿見に映る自分の姿を見る。──当時の仲間たちの背丈は、とうに越してしまった。顔つきももう、完全に大人の、二児の父親のそれだ。当然だ、あの旅からもう二十年の月日が経ってしまった。今の自分を見て、彼らはコタロウだとわかってくれるだろうか。
「どうしたの、おとうさん?」
今となっては何よりも愛おしい我が子たちが、膝に縋りつくようにして見上げてくる。コタロウは笑みを浮かべ、ふたりの頭をくしゃくしゃと撫でた。
「なんでもないよ。今日は天気も良いし、モンちゃんを連れてお散歩にでも行こうか」
「わあい!!」
喜ぶ姉弟が勢い余って部屋を飛び出していこうとするものだから、コタロウは慌ててふたりを呼び止めた。
「こらこら。──おばあちゃんに挨拶は?」
「あっ、そうだった!」
「おばあちゃん、おはよう。いってきまーす!」
壁に掛けられた絵に、声をかける。それはハナとテンコにとって祖母にあたるナナと、幼いコタロウが寄り添う肖像画。ふたりとも温かく、優しい笑顔でそこに立っている。いつまでも、ずっと。
*
飼い犬のモンちゃんを連れて、街を歩く。作家であるコタロウは市井では既に知られた存在で、ファンだという人が話しかけてくることも珍しくはなくなった。今日は子供たちを連れているので、微笑ましい視線を投げかけられることが多い。
その子供の片割れはというと、
「ゆうもうのきし!りゅうそうれっど!!いくぜ、てぃらみ〜ご〜!!」
「わんわん!」
モンちゃんと一緒に走りながら、愛らしい名乗り口上をあげるテンコ。「ころばないでよー!」と自分に代わって注意するのは長女であるハナだ。すっかり姉らしくなってきたと、コタロウの妻も喜んでいたところだ。
(二十年、か)
あの旅から、それだけの歳月が経過している。リュウソウ族たる彼らにとっては少し大人びる、程度だろう。まだ、彼らはどこかを旅しているのだろうか。だとすれば、今ごろはどこに──
コタロウが、仲間たちの顔を思い浮かべようとしたときだった。
「うわあ──っ!!だ、だれかあ!」
「でかい怪物が、空に!!」
「──ッ!?」
子供たちがきょとんとする中、コタロウは表情を険しくしていた。怪物──よもや、マイナソー?さんざんその存在に直面してきたし、なんなら自分の身体から生み出してしまったこともあるのだ。
「テンコ、ハナ、逃げ──」
「逃げるぞ」と、ふたり──モンちゃんも──を促そうとした瞬間、彼らの頭上に巨大な影が差した。
「……!」
どくんと、心臓が跳ねる。かつてとは違う、ここに仲間たちはいないのだ。咄嗟に子供たちを抱きしめ庇いながら、コタロウは恐る恐る顔を上げる──
──そこに、いたのは。
「ああああ〜っ!!間違いない、コタロウだー!!」
「えっ……」
忘れようのない、水晶の肉体をもつ翼竜。──騎士竜プテラードン。またの名を、
「ピーたん……」
「え、ぴーたん!?」
騎士竜の名をすべて暗記しているテンコが敏く反応する。危機感が去ると同時に、過去の記憶が甦ってくる。二十年前、確か自分は──
「二十年ぶりだナ、コタロウ!約束通り、会いに来たゼ!」
「……そうか。そうだったね……」
胸が熱くなる。それにプテラードンが来たということは、きっと。
「──コタロウっ!!」
「!」
彼方から駆けてくる、仲間たち。自分ほどではないけれど彼らも成長し、少年から青年へと変わりつつある。
それでもその笑顔、発する声の温かさは、かつてと驚くほど変わっていなくて。
新たな冒険の予感を胸に抱えながら、コタロウは彼らのもとへと走り出すのだった。
僕のリュウソウアドベンチャー 完
今日の敵<ヴィラン>
プリシャス
分類/ドルイドン族ナイト級
身長/197cm
体重/296kg
経験値/710
シークレット/ドルイドンの中でも希少な上級の"ナイト"。少年のような言動ながら、狡猾な知性と強大な戦闘力を併せ持つ。特殊な符に心臓を封じることで他のドルイドンを従え、すべての頂点に君臨しようとしていたのだが……。
ひと言メモbyクレオン:リュウソウジャーと戦ってた頃はヤベー人だと思ってたケド、友だちになってみると案外まともでイイ人だったりして!ワイズルーさまにツッコミ入れてくれるし……。
クレオン
分類/スライム系エイリアン
身長/178cm
体重/267kg
経験値/900
シークレット/ゲル状の身体をもつ、"一応"ドルイドンの幹部。実態は死の商人であり、体液を注ぐことで生物非生物問わずマイナソーを生み出す能力を利用し、創っては売りさばいていたぞ!対リュウソウジャーにシフトしてからは災難も多かったが……。
ひと言メモbyクレオン:言わずと知れたボク!一年めっちゃ頑張ったよ、ハァハァ……。
エラス
分類/エラス
身長/201cm〜73.8m
体重/302kg〜1109.8t
経験値/999
シークレット/創世の女王エラスがプリシャスを吸収し、肉体を得た姿。人々を眠らせて幸せな夢を見せ、体内に吸収することでそのエネルギーを餌としようとしていた。キングキシリュウオーでさえ歯が立たぬほどの力をもち、この星を創り直そうとしたぞ!
ひと言メモbyクレオン:リュウソウ族とドルイドンがどっちもコイツから創られたってことはつまり……兄弟?なんか……面白っ!
(あとがき)
僕のリュウソウアドベンチャー、これにて完結です。ここまでお付き合いいただいた皆様、本当にありがとうございました。
流石に本来のヒロアカからぶっ飛びすぎたためかあまり伸びなかった本作ですが、その分自由度も高く書いてて非常に楽しかったです。本作の裏テーマである"コタロウ=志村弧太朗の自立と救済"も無事に成し遂げることができ感無量であります。
原作と異なり騎士竜たちも健在で(その代わりマスターグリーン=トシノリが犠牲になってしまいましたが)、エイジロウたちの楽しい旅はまだまだ続くでしょう。……もしかしたら未来からエイジロウの息子がやって来て、ネオドルイドンの襲来を告げるなんてこともあるかもしれませんが笑
ではまた、次回作でお会いしましょう。アデュー……は前作のネタだった。
ぷぅ。