【完結】僕のリュウソウアドベンチャー   作:たあたん

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でっくんはっぴーばーすで~(一日遅れ)


7.働け!スリーナイツ 1/3

 五人と五体の力を合わせ、エイジロウたちリュウソウジャーの面々はついにドルイドンの幹部・タンクジョウを討ち果たした。

 世界を救い、生まれ故郷を取り戻すための大きな一歩。エイジロウにとっては親友の仇討ちの成就でもある。その喜びは言葉では言い尽くせない。

 

 しかし彼らの旅は、未だ始まったばかり。そしてエイジロウたちリュウソウ族の村出身の三人には、小さな村社会で育ったがゆえの試練が待ち構えていたのである──

 

 

「あ、あ、あかーーーーーん!!!」

 

 少女の切実すぎる叫びが、夜の宿屋に響いた。

 

「うおっ、いきなりどうしたよオチャコ?」

「何があかんなんだ?」

 

 仲間ふたりの問いに、剛健の騎士の称号に不似合いなまろい頬をぷくっと膨らませるオチャコ。その手に握ったがま口を、彼女は床に向かって何度も振り下ろしてみせた。

 

「この通り、すっからかんです!」

「すっからかん?」

「見てわからんの、お金やお金!」

 

 そう言われても察しの悪い男ふたりは、顔を見合わせたあとようやく「ああ!」と声をあげた。

 

「そっか、ここ泊まるのって金かかってんだよな……」

「それにしても、二日ぶんの宿代で尽きてしまったのか?」

「当たり前やん!宝石代わりにプレゼントで貰ったやつ、持ち歩いとっただけなんやから」

 

 人口数百人のリュウソウ族の村では基本的に自給自足、役割分担による生活が行われていた。遠征に出る騎士たちによって貨幣が持ち込まれてはいたが、もっぱら子供たちや女性への贈り物として扱われ、本来の用途はほとんど知られてもいなかった。

 

「どうしよぉ〜……先行き不安や」

「別になんとかなるだろ?メシは最悪虫でも魚でも獲りゃいいし、宿なんかなくても」

「なるかぁ!!」

 

 紅一点の思わぬ大声に、少年たちがたじろいだときだった。

 

「るせーな、ナニ騒いでやがんだ」

「!」

 

 血潮色の瞳を眇めつつ、踏み込んできたのはカツキだった。その後ろから、遠慮がちにイズクも。

 

「どうかしたの?」

「うむ、実は……」

 

 かくかくしかじか、テンヤが事の経緯を伝える。

 

「なるほど……それはオチャコさんの言う通りだね」

「えっ、そうなのか!?」

「人里離れた場所ならエイジロウくんの言うことも間違いじゃないよ。でも、街や村に入った旅人はきちんと寝泊まりする拠点を確保すべきだし、食事もお金を出してするものだ……ゆうべみたいな祝いごとの席は別としてもね。それができない客人は嫌われるし、最悪曲者として牢屋につながれても文句は言えないんだよ」

 

 イズクの説明は人里を知らない三人に鋭く突き刺さった。決して責めるような口調でなく、純然たる説諭であるから、余計に。

 

「そういうモンか……。でも、どうすりゃ金って稼げるんだ?」

「大きい街なら、役場に行けば旅人向けに単発の仕事を紹介してくれるよ。酒場の用心棒とか、中には怪しい荷物を運んでくれなんてのもあるけど」

 

 幼なじみふたりがそろってなんともいえない表情を浮かべる。長い旅の中で色々とあったのだろうことは、想像に難くない。エイジロウたちだってたった数日の間に、これまでの価値観が激変するような思いを味わっているのだから。

 

「この村から東におおよそ三日行ったところに、カサギヤって街がある。この辺りなら一番賑わっているし、それなりに仕事もあるんじゃないかな」

「よ〜し!そうと決まれば、目指すはカサギヤの街やね!」

 

 意気込むオチャコであったが、

 

「ンなことよりこれ、どう落とし前つける気だ?」

「へ?」

 

 言うが早いか、カツキから投げ渡されたのは一枚の紙切れだった。そこには文字と数字の羅列が綴られている。それがなんであるか、悲しいかなエイジロウたちにはすぐ理解できないのだった。

 

「……何これ?」

「請求書、てめェらに使ってやった薬代の」

「な!?」

「え!?」

 

 イズクまで素っ頓狂な声を発している。相棒かつ薬の作り主である彼でさえ寝耳に水の行動らしい。

 

「金とんのかよ!?」

「たりめーだろ、こちとら慈善事業やってんじゃねえんだ」

「薬をつくったのはイズクくんだろう!?」

「そうだよかっちゃん!彼らからお金せびりとろうなんて、僕は──」

「黙れデク、てめェがつくろうが俺がつくろうが金勘定は俺がやるって決めたろうが。口出すなや、部屋戻って寝てろ」

 

 その決定がなされたのは単なるカツキの横暴とも言い切れない。実際イズクは困っている人には無償で手を貸してしまうことがあった。リュウソウジャー本来の使命に関することならやむをえないが、旅を続けるにあたっては収入源の確保も重要であって。

 結局、綺麗事では飯は食えないのだ。

 

「いいか、俺らとてめェらはチームでもなんでもねえ」

 

 噛んで含めるように言い放つカツキに、エイジロウたち三人は悄然とするほかない。

 ただ、かの少年の言葉には続きがあった。

 

「とはいえ、てめェらと徒党組んでドルイドン一匹始末したンも事実だ」

「……何が言いたい?」

「俺も鬼じゃねえ。びた一文まけちゃやんねぇが、猶予はしてやってもいいっつーことだ」

「………」

 

 「いや十分鬼だよ」とでも言いたげなじとりとした視線を向けるイズクだったが、それはひとまず置いておくとして。

 

「三日だ」

「み、三日!?」

「三日で仕事を見つけて、お金を稼げというのか!?」

「無茶言わんといてよ、カサギヤの街まで三日かかるんやろ!?」

 

 到着したその日のうちに仕事を見つけて、給金を貰うところまで成し遂げるのなんて無理に決まっている!ましてエイジロウたちは当然、イズクの言うような形で仕事を探したことなどないのだから。

 

「ンなこと知るか、ボケ」

 

 カツキはにべもなかった。

 

「期限は三日、七十二時間きっかり。耳揃えて払えや。つーわけで俺は寝る、おやすみ」

 

 もはや言葉もない一同を置いて、隣室に戻っていくカツキなのだった。

 それからややあって、イズクがすまなそうに口を開く。

 

「……ごめんね。もう少し、かっちゃんを説得してみるから──」

「……いや、いいよ。カツキの言うことにも一理ある」

「エイジロウくん!?」

 

 オチャコが愛らしいまんまるな目を見開いて威嚇してくる。彼女がシビアな金銭感覚をもっていることなど村を出るまでは知らなかったし、本人も自覚はなかっただろう。

 

「仲間だと認めてくれなくて良いっつったのは、俺だしさ。……それに、悔しいじゃねえか。あいつに言われっぱなしで、ンなこともできねーのかって嘲われるのは」

「エイジロウくん……」

 

「ごめん、ふたりとも。これは俺の勝手な理屈だ、納得できないなら俺ひとりでなんとかするよ」

「……何を言うんだ、エイジロウくん」

 

 押し殺した声でつぶやいたテンヤが、ずい、と迫ってくる。厚みのある体格、顔つきも意外に鋭いゆえに、そうすると凄まじい威圧感がある。村ではいたずらをした子供は下手な大人より、彼に見つかるのを恐れていたものだ。

 

「俺たち、仲間じゃないか。一蓮托生、きみひとりに苦労を背負わせるわけがないだろう!」

「!、テンヤ……」

「エイジロウくん……!」

「テンヤ!」

「エイジロウくん!!」

 

 がしっと抱き合うエイジロウとテンヤ。さして広くもない部屋で、平均より体格の良い男ふたりがとるべき行動ではない。

 

「なんやコレ……」

「すごい!これが男の友情か……!」

 

 何故か感動しているイズクを横目で見つつ、オチャコはため息をついた。優しく博識で、頼りになる少年なのだが、その琴線はよくわからない。相棒があまりに気難しい男なので、良くも悪くもストレートな関係性にそこはかとない憧れがあるのかもしれないが。

 

 

 *

 

 

 

 そして、翌日。

 

「じゃあ、僕らは先に行くけど……みんな、道中気をつけてね」

「おう。おめェらもな!」

 

 申し訳なさげに手を振るイズクを、数歩先を行くカツキが「くっちゃべってんじゃねえ」と怒鳴りつける。村にとどまって仕事探しをすることにしたエイジロウたちを置いて先にカサギヤの街へ向かうことにしたのも、元はと言えばカツキなのだ。既にドルイドンも倒したのに、こんな辺鄙な村に何日もいられるか……失礼極まりない物言いである。

 

 ともあれふたりを見送ったあと、エイジロウたちは早速行動に出た。まずは宿屋に戻り、

 

「お願いしますッ!なんか仕事手伝わせてください!!」

 

 がばりと頭を下げる三人を、老夫婦は困り顔で見下ろした。

 

「そう言われてもねえ……ウチはそうそうお客も来ないし、手は余ってるんだよ」

「そこをなんとか……!皿洗いでも、雑草取りでもなんでもいいんで!」

 

 なんでもいいと言われても、客がいない以上本当にないのである。宿屋だって村として旅人を迎えるためにないと困るから続けているだけで、老夫婦としては仕事とも思っていないのだ。

 

「そもそも大きい街と違って、みんな仕事は自分でするし、どうしても手が足りなきゃお互い様で手伝うのが普通なのよ。手伝ってもらって、お金を払う……とはならないんじゃないかしらねえ」

「な、なるほど……我々の村と同じなのですね、それは」

 

 リュウソウ族の村でもそうだった。小さな村は自給自足に物々交換、手が足りなければ共助が基本で、そこに貨幣は介在しないのだった。

 

 

「やっぱ無理あったかなぁ……オルデラン村(ここ)で仕事探すなんて」

 

 遊びまわる子供たちを眺めつつ、エイジロウはため息をこぼした。通りがかる村人たちにも訊いてみたが、皆そもそも仕事を手伝ってもらって代価を支払うという発想自体がないようだった。

 

「貨幣が流通しているのは大きい都市や、そうでなくとも人の出入りが多い人里に限られるようだな。外から来た商人と交易はしているようだから……売れるものがあれば良いんだが」

「売れるもの……あっ」

 

 オチャコが皆のリュウソウケンに一瞬視線をやるのを、テンヤは見逃さなかった。

 

「リュウソウケンは駄目だぞ!?」

「!、い、いやわかっとるけど……私らの持ち物ってそれくらいやなぁって」

「イズクの薬だったら売れたかも……ああでも本末転倒だよなぁ」

 

 そのイズクの薬代を支払うために、仕事を探しているのだから。

 

「──あの、」

「!」

 

 三人が顔を上げると、そこに立っていたのはコタロウ少年だった。

 

「コタロウ……身体、もう良いのか?」

 

 頷く。──マイナソーからエネルギーを吸われていたこともあり、快復するまではと宿で休ませてもらっていたのだ。それも老夫婦の好意である。代価を払うという発想がない代わりに、他人に好意をかけることを厭わない。ましてエイジロウたちは、村を守ってくれた"勇者さま"であるから。

 

「話は聞きました。──僕が立て替えましょうか?」

「えっ?コタロウくん、そんなにお金持っとるん!?」

「まあ……困らない程度には」

 

 エイジロウたちと違ってコタロウは旅に出るまでに準備に時間をかけられたし、居候していた親戚の家ではそれなりにお小遣いも貰っていた。英雄の子として良くしてもらっていたわけだが、それが許せなかったのは言うまでもない。

 その結果として、マイナソーを生み出してしまった。

 

「……皆さんには、迷惑、かけてしまいましたから」

「コタロウ……」

「借りはきちんと返したいんです。甘ったれの子供のままでは、いたくない」

 

 それはコタロウが新たに身に着けた矜持だった。勇者(ヒーロー)嫌いは変わらない。けれど夢の中で再会した母に、啖呵を切ってしまったのだ。自分はりっぱな大人になってみせる、だから死人は指をくわえて見ていろと。

 母に甘えたい子供は卒業して、前を見て歩いていかなければならないのだ。

 

「ありがとな、コタロウ。……でも、できれば借りを返すのはまたの機会にしてほしい」

「またの機会って……そんなの、もう来ないかもしれませんよ」

「それならそれで良いけどさ。カツキに認められるには、安易に誰かに頼るんじゃダメだと思うんだ。せっかくあいつが俺らにくれたチャンスなんだから」

 

 実際にカツキがどう捉えるかはわからない。仲間ともいえない同行者を巧く使ったことを評価する可能性だってあるのだけれど、それはエイジロウのやり方ではないのだ。馬鹿正直だとしてもきちんと自分たちで稼いで、一点の曇りもなくカツキに報酬を突きつけてやりたい。

 

「……俺、間違ってっかな?」

 

 自分では正しいと思っていても、仲間たちにとってそうとは限らない。

 

「いや、俺も同意見だ。状況は厳しいが、自分たちの力で頑張ろう!」

「ハァ、男の子やなぁ……。でもキライやないよ、そういうの!」

「へへ……」

 

 はにかむエイジロウ。と、そこに駆け寄ってくる人物がいた。

 

「おぉぉーい、皆さぁーん!」

「あ!あなたは、羊飼いの……」

 

 声をかけてくれたのは羊飼いの男性だった。村に来て早々、羊の乳をくれたり、宴会では羊の肉やチーズを提供もしてくれた。なんだかんだ、宿屋と並んで世話になっている人である。

 そして今回も、彼が助け舟を出してくれた。

 

「仕事を探してるって聞いてね。実はウチに羊毛を買いつけに来た商人が、カサギヤの街へ行くのに新しい用心棒を雇いたいそうなんだ」

「!、ホントっスか!?」

 

 仕事のついでに目的地へ行けるとは、一石二鳥ではないか。

 

「では、その商人の方と会わせていただけますでしょうか!」

「はいよ。ウチで待ってもらってるから、ついておいで」

 

 喜び勇み、彼についていくエイジロウたち。その無邪気な背中を見つつ、コタロウは静かに苦笑を浮かべた。目が覚めてから、彼らへの複雑な思いが幾分か和らいでいる。勇者であろうとリュウソウ族の騎士であろうと、彼らは人間で、世間知らずの少年なのだ。

 

 

 果たして雇い主となる男は、牧場と隣接した羊飼いの自宅にいた。商人というイメージとはかけ離れた、長身痩躯の知的な青年である。エイジロウたちより若干成熟しているか。年長年少とはいえないのがリュウソウ族のややこしいところであった。

 それよりも、彼は──

 

「ケイ、タ……?」

「!、……コタロウ?」

 

 コタロウと青年は、互いの顔を見て言葉を失っている。知り合いなのかとエイジロウが問うと、

 

「……従兄です」

「!」

 

 

──つまりはコタロウが預けられていた家の、ひとり息子なのだった。

 

 

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