【完結】僕のリュウソウアドベンチャー   作:たあたん

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1.竜装!スリーナイツ 2/3

 タンクジョウはドルイドン族の戦士のひとりである。

 いや、戦士という肩書は適当でないかもしれない。彼らドルイドンは皆、この世に生まれついたそのときから、戦い続けることを宿命付けられている。そして彼らにとっての戦いとはつまり、この星の侵略のことであって。

 

「リュウソウ族の小僧どもめ。まんまと炙り出されてくれたわ」

 

 目論みが成就したことを悟り、卑しく嗤う。と、背後からどろどろと澱みが流れるような音が聞こえはじめた。むろんタンクジョウは、その正体を知っている。

 

「待ちくたびれたぞ、クレオン」

「どーもサーセンしたっ!」

 

 軽薄な謝罪の言葉とともに、どろりとした液体が蠢きながら固形化していく。緑色の全身に毒々しい模様が浮かび、頭部は巨大なキノコの傘に覆われている。血管の色がそのまま浮き出たような赤い瞳は、つぶらでありながら陰湿な光を放っていて。

 

「リュウソウ族の村、見つかったんですかぁ?」

「ああ。頼んでおいたマイナソーは?」

「ウェヒヒ、バッチリですよ!」

「そうか。くくくく、ふははは……!」

「フハハハ!」

「おまえは笑うな」

「!?」

 

 

──ふたつの異形の背後。霧の中に、いっとう巨大な影が浮かび上がった……。

 

 

 *

 

 

 

 額に氷嚢を当てられた少年が、寝台に横たえられている。その頬は未だ赤いが、ここに運び込んできたときに比べれば顔色は明らかに良くなっている。

 

「どっと疲れが出たんだろうね」

 

 先代マスターピンクであるチヨの言葉に、エイジロウたちはほっと胸を撫でおろした。

 

「この子は何時間も、ドルイドンの連中から逃げ回っていたんだろうさ。一晩中気ィ張りっぱなしだったなら、助かった途端糸が切れちまうのも無理はないさね」

「ひと晩中……。ドルイドンはなぜ、そうまでしてこの子を?」

「治療ついでに身体を調べてみたけど、私らリュウソウ族とは違うふつうの人間。私に言えるのはそれくらいさね」

 

 「それより」と、加齢による瞼の弛みで細くなった目が鋭く光った。

 

「あんたたち、これから大目玉食らう覚悟はできてるんだろうね?」

「う……」

 

 揃って肩を落とす三人。半ば強引に人間を連れ込んでしまったばかりか、肝心の任務も果たせていない。神殿に供えるはずだった供物に至っては、戦闘のどさくさでエイジロウがどこかに放ってしまった。

 マスター三人はともかく、その上に立つ長老ソラヒコがなんと言うか。今でこそ彼は惚けた──耳が遠いふりをして都合の悪い話を聞き流すような──老人だが、若い頃はマスターのひとりとして勇名を馳せていた。その眼光鋭さは、今でも時折覗くことがある。

 

「勝負に勝って試合に負けたとは、まさにこのこと……!」

「ああー長老怖い!怖いよお!」

「………」

 

 悔しがるテンヤ、怯えるオチャコ。一方でエイジロウは、あどけない寝顔を見せる少年に意識を向けていた。──冷たく昏い、切れ長の瞳。それは疲労ではない、もっと根深くてどうしようもない感情からくるもののように、エイジロウには思われたのだった。

 

 

 *

 

 

 

「あいつら、大物になるかも知れへんなぁ」

 

 隣を歩くレッドソルジャーズ団長(マスター)ののんびりとした言葉に、ブルーパラディンズ団長は苦笑しつつも眉をひそめた。

 

「たしかに騎士の大義に沿った行動だが、結果だけ見ればお遣いに失敗したんだ。これでは次に与える任務を見繕わなければならない、きみはともかくウチとマスターピンクのところは」

 

 血縁というのは難儀なもので、実質の面では多くに役立っても形式の面で障害となることがある。幸いにしてテンヤもオチャコも真っ直ぐに育ったとはいえ。

 

「私は気にせんよ。オチャコは正しいことをしたんやもん、うふふふ」

 

 一方、マスターピンクはそういった問題を深刻には捉えていないようだ。オチャコの実母である彼女はマスターレッド(タイシロウ)マスターブルー(テンセイ)よりひと回り年上で、子育てとマスターとしての職務を両立してきた才女である。気楽に構えているのはその才能ゆえか、それとも母は強し、ということか。あるいはその両方かもしれないとテンセイは思った。

 

「俺らだって、その場に居合わせてりゃ同じことしとったやろ」

「転送魔法で近くの街に送るって手もあるけどねぇ」

「仮定の話にそないなチャチャ入れんといてーな、姐さん」

 

 今はもうない西方の集落出身のリュウソウ族を先祖にもつふたりの会話は、代々騎士を務め、マスターを何人も輩出した由緒正しい家柄のテンセイからすると珍奇極まりない。ただ不愉快であるかといえばそんなことはなく、軽妙な掛け合いは可笑しみすら覚えるから不思議だった。

 

「それに、いつまでも堅苦しいこと言ってられる状況でもないやろ?」

 

 漫才の流れで発せられたひと言が何を示唆しているか、瞬時に理解できないほどテンセイは昼行灯ではなかった。そもそもテンヤにドルイドンの侵食について語ったのは、他ならぬ彼自身なのだから。

 

「……そうだな。マスターピンク、仮に侵攻があったとして、結界はどれくらい保ちますか?」

「ドルン兵の群れやふつうのマイナソーなら大丈夫やけどねぇ。"でかぶつ"に来られたら、流石にひとたまりもないわ」

 

 迫りくる脅威から如何にして村を守るか。彼らが今長老のもとへ向かっているのは、つまりそういうことだった。間違っても、部下の"失態"について申し開きをするためではない。

 

 しかし、時の流れは彼らリュウソウ族にとってはあまりに速いものだった。

 

「ガアァ、ガアァッ!」

「!」

 

 濁った囀りとともに飛来した漆黒の翼が、それを告知した。

 

「あれは……姐さんのとこで飼っとる呪鴉(まじないがらす)やないか?」

「──まさか……!」

 

 ピンクソーサラーズの団長は、これまでとは一転険しい表情で頷いた。

 

「間に合わんかった……か」

 

 

 *

 

 

 

 そう──同じ頃まさしく、村に侵略の手が伸びようとしていた。

 

「グォオオオオ──ッ!!」

 

 巌のような身体に、鋭く尖った角と牙。濁った目から理性は伺えず、もはや目の前のものを破壊することしか頭にないことは明らかで。

 彼──あるいは彼女かもしれないが──は主の命令のままに、一見すると何もない空間へ突撃を仕掛ける。と、ある地点に達した途端に激しく景色がゆがむ。リュウソウ族の魔導士たちによって張られた結界が、侵入者を寄せつけまいと抵抗しているのだ。

 並みのモンスターによる試みなら、結界は難攻不落の障害となりえただろう。しかしこのドラゴンに似た怪物は、人間が豆粒にしか見えないほどに巨大だった。その見上げんばかりの巨躯は、強引に結界を押しやっていく。

 

「ヘッヘッヘ……やっべ、ゴホンゴホン!……このクレオン様ヒゾウのドラゴンマイナソーにかかりゃ、そんな結界屁みたいなモンなんだよ!ざまぁー!」

 

 その光景を見守りながら、嗤うクレオン。そうしている間にも、"マイナソー"と呼ばれたドラゴンはがむしゃらに突進を仕掛けている。

 そうしてついに、結界にヒビが入り──

 

──砕け散った。

 

「イェーイ!タンクジョウさま見てるゥ?やりましたよー!!」

 

 はしゃぐ主を尻目に、ドラゴンマイナソーはいよいよ村の領内に足を踏み入れた。

 

 

 *

 

 

 

 村内は恐慌状態となっていた。

 何せ村に攻撃を受けるなど、少なくとも現在の住民たちが生まれてからはなかったことなのだ。取るものも取らず出動した騎士団の面々が村民を後方へと避難させていく。

 

 その中にあって、三人の新米騎士は前線へ向かって走っていた。とはいえ、それは彼らの統一方針ではなく。

 

「待つんだエイジロウくん!」先を行く仲間を制止するテンヤ。「俺たちはまだなんの命令も受けていない!状況もわからないのに、迂闊に動くべきではないだろう!?」

「ッ、わかってる!!……でも!」

 

 「おぉい!!」と呼び声が響いたのは、エイジロウが反駁しようとしたときだった。

 

「お前らぁ!」

「!、マスター……」

 

 駆け寄ってきたのは他でもない、三騎士団の団長たちだった。一様に険しい表情を浮かべているさまは、エイジロウたちも初めて見るもので。ただ今が緊急時であることを、改めて突きつけられた。

 

「何をしているんだ、お前たち!」

「他のみんなと一緒に避難にあたりなさい!」

「ッ、でも……でも、ドルイドンに村の場所がバレたのは俺らのせいなんだろ!?だったら責任とって戦わねえと──」

 

 最後まで言い切らないうちに、エイジロウの頬をタイシロウの大きな手が掴んでいた。

 

「んぶ!?」

「アホなこと言うてこの子は!責任なんて百年早いで!」

「そうねぇ。巡り合わせでそうなっちゃっただけで、もうぼちぼち隠しきれなくなってたんよ」

 

 そもそもエイジロウたちが村の外に出たのは、ドルイドンが既に間近に迫っていたから。放っておいても早晩村は見つかっていたし、責任と言うならその対処を考えるべき自分たちにある。マスターたちの意志は一致していた。

 

「そういうことだ。だから──」

 

 この先は任せて退けと、テンセイが言おうとしたときだった。

 無数の足音とともに、峡谷の境から大軍が押し寄せたのは。

 

「ドルン兵……!?」

「ッ、もうここまで!」

 

 その数の多さは、裏で糸を引く幹部級の本気を彼らに思い知らせた。とはいえ、ドルン兵だけでは束になろうが結界は破れまい。

 と──不意にエイジロウが、誰より早くリュウソウケンを抜いた。

 

「エイジロウくん!?」

「すんません、マスター。確かに責任なんて、俺ら新米には大それた言葉かもしれねえ。──でも騎士になった以上、この村を守る使命はある!」

「──!」

 

 それは決然とした言葉だった。エイジロウはただ、罪悪感から戦場に立とうしているわけではない。この手で守りたいモノがあるから、彼は剣をとるのだ。

 

「だからマスターレッド、俺も一緒に戦わせてくれ!」

「……そうか、そやった。キミはそういう子やったな……」

 

 ほんの一瞬瞑目したタイシロウは、次の瞬間、不敵な笑みを浮かべていた。

 

「一緒に漢ンなるか、エイジロウ!」

「!、──ウスっ!!」

「おい、マスターレッド……」

 

 テンセイが慌てて窘めようとするが、似た者同士の師弟はこうなると止まらない。それに、こうしている間にもドルン兵の群れは目前まで迫っている。

 

「テンヤ、おまえはどうする?」

「オチャコ、あなたが決めなさい」

 

 規則だとか命令ではなく、自分の意志で。──そうであるならば、彼らの答もまた決まっていた。

 

「俺も……兄さんと一緒に戦いたい!」

「私も!最ッ高の騎士に、なるんだから!」

「ふ、そうか──」

 

 

「──なら、行くぞっ!!」

「「「おうッ!!」

 

 

 若き騎士たちの血が今、燃え滾る。

 

 

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