【完結】僕のリュウソウアドベンチャー   作:たあたん

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7.働け!スリーナイツ 2/3

 

 クレオンは鬱蒼とした森の中を歩いていた。護衛のドルン兵を率いる姿は一軍の将のようだが、俯き加減の顔ととぼとぼとした足取りに威厳はまったくない。奇妙な形をした木々が湿った大地から生え、陽光を覆い隠している状況もそれに拍車をかけているのかもしれない。

 

「ハアァ……おいたわしや、タンクジョウさま……」

 

 タンクジョウの敗死を目の当たりにし、クレオンは気落ちしていた。横暴なところもあったが生真面目な性格で、クレオンの立場を理解してくれるタンクジョウはそれなりに有益なパートナーであった。一応商人であるからには損得勘定ももちろんあるが、商売相手は結局ドルイドンしか居ないのだからその中でどう動くかは個人的感情も大きい。

 それでも現実にパートナーが死んだからには、後釜を探すしかない。当たりをつけた彼は、得意の液状化を駆使して地下を渡り、南の大地にやって来ていた。やり手の、かつ身軽に動いてくれるドルイドンが、この地にはいるのだ。

 

「え〜っと、確かこのあたりに……あっ」

 

 かのドルイドンの拠点が見えてきた。暗い森の中に立つ、おどろおどろしい外観の館……なのだが、当のドルイドンの趣味か、その上から妙にパーティチックな装飾がふんだんになされている。まったくミスマッチなのだが、そういうことを気にする男ではないのだ。クレオンは少し不安になった。

 ともあれ今さら退くわけにもいかないので、玄関扉を無遠慮に叩く。

 

「毎度ありがとうゴザイマ〜ス、クレオンで〜す。ワイズルーさま、いますかぁ〜?」

 

 ごんごん。返事はない。出かけているのだろうか?約束をしているわけではないので無理もないが、クレオンはじれったい思いに駆られた。

 試しに扉を押してみるとあっさり開いたので、中に足を踏み入れてみる。

 

「ワイズルーさま、いないんですかぁ〜?」

 

 そのときだった。ゴゴゴゴと唸るような音とともに、地面が揺れたのは。

 

「え、地震?」

 

 と、思いきや。暗がりの中に迫ってくるものがある。よくよく目を凝らしてみればそれは、クレオンの倍ほどの直径がある巨大な鉄球だった。

 

「ぎゃああああああああ!!!」

 

 クレオンは恐慌状態に陥った。

 

 

 *

 

 

 

「元気そうだね、コタロウ。まさかこんな片田舎で会うとは思わなかった」

 

 従兄のケイタ青年の言葉に、コタロウは神妙な表情で頷く。それ以外にはからからと荷車の車輪の廻る音が響くばかりで、エイジロウたちにも口を挟む余地はなかった。

 

 オルデラン村を発った彼らは、一路カサギヤの街へ向かっていた。なだらかな丘陵に青々とした草原が広がっていて、彼方には小さな森が幾つも続いている。それらを越えてようやく、目的地に到着となる。

 

「家出したって聞いたときは驚いた。……まあ、気持ちはわかるけどね」

「………」

「でも、父さんたちの気持ちもわかってやってくれ。現実から目を逸らしたいんだ、あの人たちも」

 

 ドルイドンは日に日に勢力圏を広げている。それすなわち人間の敗北が続いているということだ。そんな中で、果敢にドルイドンに立ち向かっていた自慢の妹の死。それを名誉の戦死と結論付け、忘れ形見の息子を引き取って大事に大事に育てなければと思うのは、大人の論理として間違ったものではない。

 

「あ、あの」ようやくエイジロウが声をあげる。「ケイタ……さんは、コタロウと一緒に住んでたんスか?」

「ええ。と言っても一年の三分の二はこうして行商に出ているので、一緒にいた時間はそう多くはないんですけどね」

 

 こともなげに言うケイタ青年。遠征に出る騎士たちの他に外との交流はなかったリュウソウ族の村だが、人間の集落はどんなに辺鄙であろうとそうではない。商人がやって来て遠方の品を売ったり、彼のように特産品を仕入れたりもする。ただ街道を行き来するのは様々な危険が付き物なので、こうして護衛が必要なのだ。

 

「皆さんとコタロウは、どこで出会われたんですか?」

「実は数日前、我々の村近くでドルイドンの兵士に襲われているところを見つけまして。ドルイドンを倒して、保護させていただいたのです」

「そうでしたか……ありがとうございます、本当に」

 

 わざわざ荷車を引く足を止め、頭を下げる。エイジロウたちは慌てた。

 

「か、顔上げてください!俺ら、当然のことしたまでっスから!」

「私たち、騎士なので!」

 

 えへんと胸を張るオチャコだったが、ケイタは怪訝な表情を浮かべた。

 

「騎士?勇者じゃなくてですか?」

「あ、え、えーと……似たようなもんです!」

「そうですか……。──コタロウ、」

「!」

 

 再び声をかけられて、コタロウがごくりと喉を鳴らした。ケイタは昔から穏やかで優しい兄貴分だが、コタロウと同じくらい頭が良くて、他人を容赦なく見透かすところがある。嫌いではないが、苦手に思うこともあった。

 

「今からでも遅くない。うちに戻ったほうが良いよ」

「!」

「ここまで旅をしてきたなら、もう十分わかったはずだ。この世界は、子供が独りで生きていくには厳しすぎる」

 

 それは──残念だが、エイジロウたちも同意するところである。誰にも依らないなら、己の身を守るだけの力が必要になる。剣の腕を磨くなり、魔法を学ぶなり──

 落ち着いた環境で生活していれば、コタロウもそういう機会に恵まれただろう。彼はまだ子供で、あてどない旅の身では生きることさえ危ういのだ。

 

「おまえは頭が良いし身体も丈夫だから、望めばなんでも習得できる。どういう生き方をするか選ぶのは、それからでも遅くないだろう」

「……僕は、」

 

 俯くコタロウは、明確な答を発さない。──迷って、いる。

 堪らず口を出そうとしたエイジロウとオチャコだったが、声になるより前にテンヤに止められた。これはコタロウ自身の問題であり、もっと広げても彼の血族──つまりケイタ青年に関わることである。数日同行しているだけのエイジロウたちは明らかに、部外者でしかないのだった。

 

 そのときだった。妙な気配がちり、と肌を灼いたかと思えば、下卑た風貌の男たちが行く手に立ちはだかったのは。

 

「おい、その荷と有り金全部よこしな」

「……こいつらは?」

「野盗です」

 

 慌てるでもなく、ケイタが答える。街道付近にはこういう連中がたむろしているもので、商人にとっては今さら驚くようなことでもない。エイジロウたちには新鮮だったが。

 

「では、下がっていてください!我々が追い払いますので!」

「っし、腕が鳴るぜ!」

 

 こういうときのための護衛である。エイジロウとテンヤはリュウソウケンを抜いて前線に出たが、オチャコはケイタたちのすぐ脇にとどまった。臆したわけではない。

 

「相手人間やし、久々に魔法使ったる!」

 

 忘れられがちだが一応彼女、魔導士である。リュウソウジャーとして戦うときは必死なので剣を振るうばかりになってしまうが、邪魔者を追い払う程度の戦いなら彼女の生兵法ならぬ生魔法も十分役に立つ。というより、こういうときにでも使わないと腕がさらに鈍ってしまうのだ。

 

「かかってこい、野盗ども!!」

「ガキどもが舐めやがって!やっちまえー!」

 

 

──ガキと思って舐めているのは、野盗たちのほうであることは言うまでもない。

 

「がぁ!」

「ぐぎゃ!?」

「ごはぁ!!」

 

 精巧なリュウソウケンの前に野盗たちの粗悪な武器は一瞬にして叩き折られ、怯んだところに柄を突き入れられる。胴体を強かに打たれ、一応は屈強の部類に入る男たちは容易く昏倒した。

 

「へへっ、リュウソウルを使うまでもねえぜ!」

「油断は禁物だぞ、エイジロウくん!」叱りつつ、「オチャコくん、きみの魔法でとどめを!」

「オーケー!はぁあああああああ──!!」

 

 「どりゃあああああ!」と力まかせな声で叫んだ次の瞬間、不定形の球体がエイジロウたちの頭上に現れた。半透明なそれは、中にたっぷりと流水を内包していて──

 

「……ヤな予感」

 

 エイジロウのつぶやきが次の瞬間、的中した。

 

 球体が弾け、中身が一挙に解放される。それらは奔流となって、地上にいた者たちに襲いかかった。

 

「うわぁあああああ──」

 

 悲鳴をあげ、流されていく野盗の群れ。やがて彼らの姿が見えなくなったあと……その場に残されたのは、ずぶ濡れになったエイジロウとテンヤだった。

 

「……おい、オチャコ……」

「え、えへへへ……ちょっと加減間違っちゃったかも」

「かもではない!鎧の中までびしょ濡れじゃないか!!」

 

 水も滴る良い男、と言えば聞こえは良いが。

 

「……もう陽も暮れますし、今日はこの辺りで野営にしましょうか?」

 

 苦笑するケイタの提案に、三人はなんともいえない表情で頷くのだった。

 

 

 *

 

 

 

 ばらばらに行動していても、過ごす時は同じである。

 宵闇の中、ぱちぱちと爆ぜる焚き火が辺りをほのかに照らす。そこに獲ってきた魚を浸しながら、イズクは声をあげた。

 

「ねえ、かっちゃん」

「………」

「かっちゃんてば!」

 

 しつこく呼びかけると、ごろりと横になっていたカツキがようやく気怠げに身を起こした。

 

「チッ……ンだよ」

「どうするのさ、エイジロウくんたちのこと」

「どうするって、何が」

「彼らがきっちりお金用意してきたら。そのままハイさようならってわけにはいかないだろ」

「けっ、知るかよ。あいつらがナニ考えてようが、俺らは関わんねえし関わらせるつもりもねえ」

「でも僕らふたりだけじゃ、ドルイドンは倒せなかったじゃないか」

「ッ!」

 

 カツキはその表情に憤懣を滲ませたが、反論はしなかった。五十年、旅をしてきて、彼らはマイナソー退治という対処療法しかとれなかったのだ。尤も旅を始めた当初は今ほど世界も荒れておらず、都市に潜り込んではのんびりと勉強したり仕事をしたりもしていた。カツキとは幾度となく喧嘩もしたが、それも含めて穏やかで楽しい日々だったとイズクは回想する。

 

「かっちゃん。彼らは同じリュウソウ族で、騎士竜に選ばれた騎士たちなんだ。信じても、良いんじゃないかな?」

「………」

 

 カツキの顔から感情が抜け落ちた。眦を吊り上げていないと、彼の顔立ちは本当に整っていて美しいとイズクは思う。何より意思の強さを体現したかのような緋色の瞳には、怒りの中に静かな憂いが浮かんでいて、目が離せない。

 そしてその唇から発せられた言葉は、

 

「ひとは、裏切るモンだ」

「え……?」

「裏切られるなら、信じない。──自分が、強くなるしかねえんだよ」

 

 言い捨てると、カツキは再びごろりと横たわった。そのままこちらに背を向けてしまう。こういうとき──イズクは、何も声をかけられない。

 

「……かっちゃん、」

 

 だったら僕は、どうなるの?──いつか訊かなければと思いつつも、その先にある答がこわかった。

 

 

 *

 

 

 

 コタロウもまた、悩んでいた。

 座り込む彼の目の前には、東の大地を潤す長大な流れのごく一部。自分が生み出したマイナソーが、これを毒で侵していたかもしれない。その事実を思うと、手が震える。

 

「コタロウ?」

「!」

 

 隣に座ったのは、エイジロウだった。

 

「どうしたよ、黄昏れて。眠くなっちまったか?」

「ッ、子供扱いして……──いや……」

「?」

 

 実際、自分は子供でしかない。知識はあっても、自分の身も自分で守れないのだから。

 

「……皆さんの助けがなかったら、僕はきっと、自分ごと大勢の人たちを死なせていた」

「だから……ケイタさんの言う通りにしようと思ってるのか?」

「今の僕は……他人に迷惑をかけるだけですから」

「そう、思うか?」

「だって──」

 

「俺は助かったけどな。コタロウが色々教えてくれて」

「!」

 

 思わぬ言葉に顔を上げる。果たしてエイジロウの表情は、夜の帳の中にあって判然としない。ただその声色は、亡母のように優しかった。

 

「ほら!俺ら、外の世界のことはほとんど知らねえしさ」

「……緑と黒の人たちがいるでしょう」

「いやあいつらは……ずっと一緒にいるわけじゃねえし……今もだけど。それに、リュウソウ族じゃねえヤツの意見をいつでもどこでも聞ける!これって、俺らにしてみりゃスゲーことなんだぜ」

 

 目を輝かせて、エイジロウは言う。この男はなんだって、こうも子供っぽさを隠さないのだろうとコタロウは思った。リュウソウ族という長命種族に共通した性質なのかもしれないが、大人ぶったところがない彼にはいつも絆されそうになってしまう。

 

「ま、決めるのはおめェだ。でも……もし帰らねえなら、これからも一緒に旅してえな」

「エイジロウ……さん」

 

 にかりと笑うと、エイジロウは立ち上がった。そして野営場に戻るべく歩き出す。結局、すぐに立ち止まったが。

 

「戻ろうぜ、コタロウ。メシの時間だ!」

「……そうですね。お腹、すきました」

「へへっ、だよな!」

 

 いや──きっともう、手遅れなのだ。彼らと出逢い、母に自ら別れを告げてしまった時点で。

 

 

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