【完結】僕のリュウソウアドベンチャー   作:たあたん

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現行作品に影響を受けやすい性質につき、今年の作者はゼンカイ脳になりつつあります


8.フルスロットル・スモウキング 1/3

 

 草木も眠る深夜。街の片隅に、くぐもった悲鳴が響いていた。

 

「う、うわぁあああああ………」

 

 小柄な影がどさりと地面に倒れ込み、ぴくりとも動かなくなる。その唇から漏れ出す言葉を聞いて、クレオンが「うげぇ」と蛙の潰れたような声を発した。

 

「こいつ、やべぇ……。変態っすよ、ワイズルーさま」

「ハハハハハ!愚民どもよ、イッツ・ショ──ータァイム!!」

「……聞いてねえなこの人」

 

 まあ、喜んでいるようだし良いか。生み落とされたマイナソーを目の前にして、クレオンはため息をついた。

 

 

 *

 

 

 

 カサギヤの街は大陸東部の草原地帯では最大の都市である。南海への玄関口であるコランの港街のすぐ北方に位置するために、多種多様な人々が行きかい小国並みともいわれる隆盛を実現している。

 

 そのメインストリートにて、エイジロウたちはなかなか前に進めずにいた。目に映るものすべてに、心を奪われてしまっていたのだ。

 

「すげえ……」

 

 思わず感嘆の声が漏れる。

 

「僕らの村やオルデラン村とも、比べ物にならない人の多さだ」

 

 同じく平常心でないためか、一人称が素に戻ってしまっているテンヤ。と、「どいたどいた!」と背後から金切り声が響く。慌てて隅に避けると、浅黒い肌の女性が荷車を引いて駆け抜けていくところだった。

 

「ケイタさんのような商人も、そこかしこにいるようだな……」

「おう……」

「……お上り丸出しですよ、皆さん」コタロウが呆れたような声を出す。「目的地を決めないで歩いていたら、あっという間に日が暮れてしまう」

「目的地、っつってもなぁ……」

 

 心細げな声を発するエイジロウ。とりあえずイズクとカツキを追ってこの街を訪れてみたわけだが、いざ街に着いたら何をすればいいのか、皆目見当がつかないのだ。それでひとまずはイズクたちを探してみようと思ったのだが、

 

「この中から、探せってのかぁ……」

 

 メインストリートには露店が立ち並び、人々があふれんばかりとなっている。朝早くにさっさと宿を出ていってしまったイズクやカツキの姿など当然、影も形も見当たりはしない。

 

「!、そうだ、こういうときは!」

 

 何かを閃いた様子のエイジロウは、唐突にリュウソウケンを鞘から抜こうとする。コタロウが慌ててそれを押しとどめた。

 

「うおっ、何すんだよ!?」

「それはこっちのセリフだ!何いきなり抜剣しようとしてるんですか!?」

「そりゃ、ソウルを使おうと思って……」

 

 ミエソウルかキケソウルを使えば、イズクたちの気配を感知することもできると思ったのだが。

 

「こんな人だかりの中で剣を抜いたら、大騒ぎになるに決まってるでしょう!……少しは考えてください」

「そ、そうか。悪ィ……」

「ふむ……では地道に探すほかないか。──そういえば、オチャコくんは?」

「あっ」

 

 いつの間にか、隣から消えている!慌てて周囲に目をやった三人は程なく、彼女の姿を発見した。

 

「う〜ん、おいひぃ!」

 

 出店で早速食べ物を購入し、がっつり咀嚼していたのだった。

 

 

「……さて、腹ごしらえも済んだところで今後のことだが」

 

 結局自分たちも旨そうなものに──実際旨かった──ありついてから、真面目な声でテンヤが言った。皆、自ずと背筋が伸びる。

 

「ひとまず、役場に向かってみないか?」

「役場?」

 

 首を傾げるエイジロウに対し、

 

「大きな街の役場なら旅人向けの仕事も紹介してもらえると、イズクくんが言っていただろう。俺たち……その、また金欠ではないか?」

「……ぶっちゃけ」

 

 いちおう金庫番であるオチャコがため息をつく。ケイタからの報酬は相場からみて破格といえるものだったが、その大部分はカツキの手に渡ってしまった。今の彼らの懐には、宿代三日ぶんほどしか残っていない。食事代や諸々を引けばさらに減ってしまう。

 

「ともかく金欠を解消しないことには、旅を続けることもままならない。ここは労働に勤しみ、懐を整えよう!……どうだ?」

「……だな!ケイタさんも言ってたもんな、働くことは生きることだって。な、コタロウ?」

「まぁ、あいつはちょっと変わってるんであれですけど……。でも、役場に行くのは賛成です。あそこは情報も集まりますから。もしかするとイズクさんとカツキさんも、そこにいるかもしれない」

「じゃ、決まりやね!」

 

 かくして役場へ向かうことにした四人。──しかしまあ、繰り返すようだが街並みというのは百五十年以上も田舎にこもっていた少年たちにはカルチャーショックを与えるものである。立ち並ぶ様々な店、市井の人々の一挙一動に目を奪われ、その足は牛歩の如き進みしか見せない。

 

「み、見ろよコレ……!(つるぎ)だ!」

 

 宝飾店の店頭に飾られた剣型の飾り紐に心を奪われるエイジロウ。そのすぐ傍では、テンヤが武具屋の鎧を品定めしていて。

 

「「ほ、欲しい……!」」

「ダメに決まっとるやろ!!」

 

 ぴしゃり。当然である。

 

「……だから、お上りさん丸出し」

 

 この調子では本当に丸一日無駄になるかもしれない──コタロウが切実にそう思ったときだった。

 

「イヤァアアアアア!!」

 

 女性の悲鳴が、往来の彼方から響く。聞き間違いなどではない、行きかう人々もみな立ち止まり、何事かと視線を向けているのだから。

 

「ッ!」

 

 そうなれば、何をおいても駆け出すのが騎士たちである。たとえ悲鳴の原因がなんであれ、人々を守ることが彼らの身に刻まれた使命なのだから。

 

 

 しかしその場へ駆けつけたエイジロウたちの前に広がっていたのは、ある意味目に毒すぎる光景だった。

 

「う、うぅ……」

「いやあぁ……っ」

「ッッッッッ!!?」

 

 蹲り、すすり泣く女性たち。皆──何も、身につけていなかった。

 

「な、な、な、なな、何が……!」

 

 男性陣は揃って顔を真っ赤にしている。もとより性欲の薄いエイジロウとテンヤだが、流石にこのシチュエーションに何も感じないわけではない。そういう意味では、オチャコも。

 

「見るな!」

「アッハイ」

「い、いったいなぜこんなことに……!?」

 

 決まっている。こんな異常事態を引き起こしうるのは、彼らリュウソウジャーの宿敵しかいないのだから。

 

「ダツィ〜!!」

「!」

 

 路地裏からおもむろに姿を現したのは、お世辞にも引き締まっているとはいえない裸体を晒しておきながら、頭に王冠を被った中年男だった。いや、その皮膚は大理石のような灰色をしており、目は隅々まで真っ赤に染まっている。明らかに常人ではない。

 

「ッ、まさかこいつ、マイナソー……!?」

「ダツイィ……!ダツイ〜!」

「間違いないよ、なんか同じ言葉連呼しとるし!」

 

 それに、マイナソーには様々な分類階級があることは騎士になるにあたって学んでいる。その中には人間に酷似したタイプもあって。

 ならば、尻込みなどしていられない。

 

「「「リュウソウチェンジ!!」」」

『リュウSO COOL!!』

 

 鎧を纏うと同時にリュウソウケンを抜き、斬りかかる。対する王冠裸男マイナソー?はベルトのホルダーからサーベルを抜いて迎え撃つ。裸のくせに帯剣はしているのかよ、と内心思ったが、口には出さない。

 

「うぉらぁッ!」

 

 代わりに飛び出したのは威勢の良い吶喊の声だった。先陣を切ったエイジロウ──リュウソウレッドの刃は、サーベルに受け止められてしまう。しかし彼がそうして鍔迫り合いを演じている間に、左右から仲間たちが襲いかかった。

 

「はぁっ!」

「どりゃあ!」

「!!」

 

 慌てて飛び退くマイナソー。ブルーとピンクがすかさず追撃する。何も身につけていないだけあってか、敵はなかなかすばしこい。

 

「その程度のスピードで……!──ハヤソウル!!」

『ハヤソウル!ビューーーン!!』

 

 右腕に鎧が重ねられると同時に、ブルーは走り出していた。残像を残して一瞬、その姿が消える。

 

「ふっ、──はあっ!」

 

 そして一気に近づき、一閃。マイナソーの剣を弾き飛ばし、さらに胴体を袈裟懸けに斬り裂くことに成功した。

 

「グワアァッ!?」

 

 くぐもった悲鳴とともに、地面を転がるマイナソー。流石に怪物なだけあってそれなりに頑丈ではあるようだが、戦闘能力はさほど高くはない。このまま、一気に!

 

「だ……ダツイィ!!」

 

 雄叫びをあげたマイナソーの王冠から、前触れもなく光の束が放出される。それはリュウソウピンクただひとりを狙っていて──

 

「──オチャコ、危ねえっ!」

 

 いち早く動いたのは、次なる攻撃に移ろうとしていたレッドだった。呼びかけただけでは間に合わないと、咄嗟に間に割り込むことでピンクを庇う。

 結果として、彼は光線を浴びた。

 

「ぐぁああああッ!!?」

「エイジロウくん!?」

 

 悲鳴をあげるエイジロウだったが、程なくあれ?と思った。光線を浴びた衝撃はあったものの、熱や苦痛の類いはまったく襲ってこないのだ。

 もしや、リュウソウメイルを穿くには及ばない程度の攻撃だったのか?そんな楽観的なことまで考えてしまうのだが、次の瞬間、()()は起こった。

 

 エイジロウの意志とは無関係に竜装が解ける。そして何事かと身構える暇もなく、ばさあ、と音をたてて布が飛んでいった。

 

「え、」

「なっ」

「あっ」

 

 それはどう見ても、エイジロウが身につけていた衣服だった。仲間たちは彼方へ消えていくしれからゆっくりと視線を下げていく。果たしてそこには、小麦色に日焼けしたエイジロウの生の肢体が丸見えになっていて──当然、大事なところも。

 

「う、」

 

 

「うぉあぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

 少年の、色っぽくもなんともない絶叫が響いた。

 

 

「ギャハハハハ!!リュウソウレッドのヤツ、見事に引っかかってやんの!ダッセ、マジダッセ!!」

 

 あたふたする仇敵を眼下に、クレオンは哄笑していた。タンクジョウを殺した憎らしいガキどものひとり、それが今仲間たちの前で、文字通りの醜態を晒して顔を真っ赤にしている。これほど胸がすく光景も今の彼にはなかった。

 

「──どうっすかワイズルーさま、ネイキッドキングマイナソーの仕事ぶりは!」

 

 そして彼は独りではなかった。その背後には、青白いを通り越して真っ青な顔をした異形の男の姿があったのだ。タンクジョウとは対照的なひょろい身体をマントで包み、ステッキで申し訳程度に武装している。

 

「う〜ん、最高オブ最高!……まであと一歩、だな!」

「あと一歩っすか……じゃあもっと暴れさせちゃいましょう!」

 

 とにかく"面白いモノ"を追い求めるのがワイズルーという男である。人々の服を剥いで恥辱を与えるという、他のドルイドンにとっては失敗作としかいえないようなマイナソーも、彼にかかれば愉快なショーの道具として成り立ってしまう。そのような相手を前に、良くも悪くもまっすぐなリュウソウジャーは盛大に振り回されてくれることだろう。

 

 

 実際に今も、エイジロウは敵の面前にもかかわらず真っ赤になってしゃがみこんでいるのだから。

 

「〜〜ッ!」

「え、エイジロウくん大丈夫か!?何か隠すものは……」

「葉っぱなら落ちてますけど……」枯れ葉を手に答えるコタロウ。

「駄目だそれでは足りない!!」

 

 やってしまった、とテンヤは内心後悔していた。エイジロウではなく、自分が、である。文字通り身ぐるみ剥がされた人々、ダツイ、ダツイ……つまり"脱衣"と鳴き続けているマイナソー。少し考えれば、敵の能力で強制的に服を剥ぎ取られるのだと警戒できたのに。

 

「ッ、とにかくっ、タネがわかったんだからちゃっちゃと倒す!!」

 

 リュウソウケンを突きつけようとするピンクだが、マイナソーの様子がおかしいことに気がついた。自分でエイジロウを丸裸にしておきながら、明らかに狼狽している様子なのだ。

 

「だ、ダツイ……ダツイィィィ!!?」

 

 そして──逃げ出した。

 

「あっ、逃げた!?」

「ッ、待て!!」

 

 オチャコはともかく、ハヤソウルで走力の増している自分なら!あきらめず喰らいつこうとするテンヤだったが次の瞬間、マイナソーから再び脱衣光線が放たれた。

 

「ッ!」

 

 構わず突っ込んでいけば捕らえきれたかもしれないが、テンヤは反射的に飛びのいてしまった。結果、マイナソーは路地裏へ消えてしまう。我に返って再び追うが、その姿はもう忽然とかき消えていて。

 

「ッ、逃げられてしまった……!」

 

 悔しがりながら振り向くと、膝を抱えて蹲るエイジロウに竜装を解いたオチャコがローブを被せてやっているところだった。

 

「もうおムコにいけねえ……」

「だ、大丈夫。どこに出しても恥ずかしくない身体しとるよ!」

 

 実に気の抜けた会話だが、異性もいる中でいきなり全裸にされたのだ、エイジロウや他の女性たちの精神的ショックは大きいだろう。──自分も同じ目に遭うことを想像したら、一瞬足が竦んでしまった。その結果として、マイナソーを取り逃がしたのだ。

 

「僕は、なんて薄情者なんだ……!」

 

 テンヤは拳を握りしめた。

 

 

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