【完結】僕のリュウソウアドベンチャー   作:たあたん

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9.ガンバレふんばれ領主さま 2/3

「さぁてと……作戦開始だッ、パイドパイパーマイナソー!!」

「……オイデ……」

 

 夜陰に乗じて街に侵入したクレオンとマイナソーは、いよいよ動き出そうとしていた。かの魔物がもつ巨大な角笛が、街中に音色を響き渡らせる──

 

 それを聴いた人々のほとんどは、怪訝な表情を浮かべて音の出処を探すばかりだった。どこか不思議なしらべではあるが、心を動かされるには至らない。──そう、ほとんどは。

 

 宿に帰り着こうとしていたエイジロウたちもまた、その音を耳にしていた。

 

「なんだ、この音……?笛?」

「こんな時間にか?はた迷惑な!」

 

 「子供たちは既に寝ている時間なのに!」と憤るテンヤ。寝ている、と決めつけるにはいま少し早い時間帯なのだが、テンヤの基準に合わせればそうなるのだった。

 

 コタロウが不意に宿とは異なる方向へ歩き出したのは、そのときだった。

 

「コタロウ?どうし──」

 

 コタロウの顔を見て、エイジロウはぎょっとした。暗がりに浮かぶ彼の目つきは、尋常ではなかった。茫洋として、目線が宙をさまよっている。

 

「コタロウ!?」

 

 そしてコタロウは、猛烈な勢いで走り出した。そのスピードときたら一瞬呆けてしまうほどだったが、慌てて追いかける。

 

「待てよっ、どうしたんだコタロウ!?」

 

 返事はないし、立ち止まるそぶりも見せない。何事かと思っていたら、先々に同じようにいずこかを目指す子供たちの姿があった。

 

「!、もしかしたら、この笛の音が関係してるのかも!!」

「じゃあ、まさかまた……!」

 

 いや、マイナソーと決まったわけではない。しかし子供たちがおそらく一種の催眠状態になって、どこかへ誘い出されているのだ。

 

「ッ、にしても速くねえか……!?」

 

 五人は騎士として鍛錬を積んでいるから、当然脚力だって人並み以上にある。にもかかわらず、コタロウや他の子供たちに追いつくどころか距離が開いていく一方で。こんなこと、やはり普通ではありえない。

 そうこうしているうちに、子供たちが曲がり角に消えていった。

 

「テンヤくん、そこの角に入ったらハヤソウルを使うんだ!」

「うむ!」

 

 流石にハヤソウルを使えば追いつける。その扱いに習熟したイズクとテンヤで彼らを追い越し、先回りする──そういう作戦だったわけだが。

 

「!、いない……!?」

 

 角を曲がった先の街路に、子供たちの姿はなかった。──忽然と、消えてしまったのだ。

 

「みんな、どこ行ってもうたん……?」

「………」

 

 妙に張り詰めた空気、そして視線を感じるのは神経が尖っているせいか。彼らはいったん足を止め、周囲を窺いながら慎重に歩を進めていく。

 

 

 そのときだった。再び、あの角笛の音が聴こえてきたのは。

 

「!、またこの音……」

「今度は近いぞ!」

 

 音の出処を見つけなければ!──その意識が強まったうえに、周囲に張り巡らされた緊迫した空気に対する注意は散漫になっていく。無理からぬことだが、それゆえに彼らには命取りとなった。

 建物はじめ諸々の陰から、無数の石が投擲されたのだ。

 

「ッ!?」

 

 咄嗟にかわし、間に合わないものはリュウソウケンで叩き落とす。それでも幾つかは彼らの身体を掠めた。エイジロウに至っては額に一撃を受け、痛みに表情を歪める。

 

「エイジロウくん、大丈夫!?」

「ッ、かすり傷だ!」

 

 それより、何者からの攻撃なのか。顔を上げたエイジロウは、ぎょっとした。

 隠れていた子供たちが、四方八方から姿を現す。十、二十──いやもっと。五人は彼らによって、あっという間に包囲されてしまった。

 

「この子たち、なんで……!?」

「ッ、おい、コタロウ!!」

 

 その中に混ざったコタロウに呼びかけるが、反応はない。目も濁っていて、操られているのは明白だった。

 

「クソがっ、出てこいやカス!!」

 

 焦れたカツキが叫ぶと同時に笛の音が止み、入れ替わりに少年めいた声の高笑いが響いた。

 

「ハーッハッハッハッハ!!出てこいと言われて出てこないと見せかけて出てくるのが真のアマノジャク!!」

「ッ、クレオン……!やっぱりてめェか!」

 

 クレオン、そして隣に立つ角笛を持った男。夜の闇の中、しかも昼間のマイナソーと違って衣服を身につけているために判別しづらいが、双眸が赤く光っている。こいつもマイナソーだろうと五人は即座に結論づけた。

 幸いというべきか、クレオンがはっきりさせてくれたが。

 

「このパイドパイパーマイナソーが角笛を吹けば、ガキどもみぃんなたちまち虜になっちまうんだZE!あんなことやそんなことも思いのままなんだZE!!」

「オイデ……!」

 

 歌うように言い放つクレオンに対し、マイナソーが合いの手を──自身にそんな意識はないだろうが──入れる。ならば、角笛を壊せば!

 

「ッ、この状況でどうやって……」

 

 彼らは操られた子供たちに取り囲まれている。この壁を突破できなければ、マイナソーに近づくこともできない。

 

「さぁ良い子の諸君!リュウソウジャーを……やっちまいな!」

 

 クレオンの号令と同時に、再び角笛を吹くパイドパイパーマイナソー。すると子供たちの目にかっと敵意が宿り、一斉に襲いかかってきた。

 

「くっ……やめろみんな!!」

「やめろっつってやめンなら世話ねえわ、クソが!!」

 

 そんなことわかってはいるが、怪我をさせるわけにはいかない。迂闊に手が出せず、防戦を強いられるエイジロウたち。カツキなどは急所に手刀を叩き込んで気絶させようと試みているようだったが、相手を傷つけずにそれを為すには動きを読み切っていなければならない。

 彼らの動きは五人と同等、いやそれ以上に俊敏で、とても捉えきれそうになかった。

 

「どうなってるん、普通の子供がこんな強いなんて……!」

「多分、マイナソーの力で身体のリミッターが外れてるんだ……!でも、こんな動きを続けていたら──」

 

 子供たちが、壊れてしまう!

 

「ッ、こうなったら、これで!!」

 

 咄嗟にリュウソウルを手に取り、リュウソウケンに装填する──強化系のソウルは自ら仕掛けなければ効果が発揮されないので、子供たちを傷つけることもない。打開策になるか無意味に終わるか、ふたつにひとつ。

 

「頼む!!」

 

 鍔が閉じられ、

 

『──クサソウル!モワッモワ!!』

 

 刹那、エイジロウのリュウソウケンを中心に、薄茶色をしたガスが広がった。

 

「これは──ッ!?」

「く、」

「く──」

 

「──臭っせぇぇぇぇぇ!!?」

 

 クサソウル──文字通り、放屁を何十倍にも濃縮したような強烈な臭気ガスを放つリュウソウルであった。

 それはリュウソウ族五人の心身に甚大なダメージを与えたが、操られた子供たちにおいても同じだった。皆、白目を剥いてばたばたと昏倒していく。

 

「ある意味殴るよりあかんやん、これ……」

「エイジロウくんっ、きみはよりによってなんてソウルを使ったんだ!?」

「わ、忘れてたんだよこんなソウルあるって!」

 

 ともあれ、壁は崩せた──子供たちの体調は気がかりだが──。

 

「チッ……いくぞデク!!」

「!、う、うん!」

 

 早くも自らを立ち直らせた幼なじみふたりが、同時に動いた。

 

「死ィねぇぇッ!!」

 

 カツキがマイナソーに、イズクがクレオンに斬りかかる。彼らの人間離れした身のこなしに、状況の変転についていけない彼らは呆けている。

 

 鋒が、いよいよその喉元に届く──その瞬間、

 

 横から割り込んだ棒状のオブジェクトが、ふたりの刃を弾き返した。

 

「ッ!?」

 

 反射的に後退するふたり。その判断は正しかった。得体の知れない旅人姿の男が、クレオンとマイナソーを庇うように立ちふさがったのだから。

 

「ンだ、てめェは!?」

「……私か?ふふっ、私はな──」

 

 含み笑いを洩らしつつ、男はばさあと外套を脱ぎ捨てた。

 そうして露になった()()姿()は、明らかに人間のそれではなかったのだ。

 

「最高オブ最高のエンターティナー、ドルイドン・クラスビショップのワイズルー!」

「よっ、ワイズルーさま!!」

 

 傍らのクレオンから惜しみのない拍手を送られ、青白い仮面の怪人──ワイズルーは堂々と胸を張ってみせた。

 

「ワイズルー……!?」

「南方で猛威を振るっていたドルイドン……!どうしてここに!?」

 

 イズクとカツキは、旅の道中相まみえることはなくともその名を知っていた。

 土地を侵略して我がものとすることを好むドルイドンの中で、最低限の拠点のほかには領土欲をもたない変わり者。しかしその代わり、神出鬼没に人里に現れては"ショー"と称してマイナソーの特殊能力を用い、人々を大いに苦しめているのだと。拠点のある南方の湿地帯ではワイズルーの悪名が轟いていたのだ。

 

 その"悪夢のエンターティナー"が、海を渡ってこの場に現れている。

 

「ごきげんようリュウソウジャー。喜びたまえ、キミたちは栄えある我がステージのアクター&アクトレスに選ばれた。これからともに最高オブ最高のショーを演じようじゃないか!」

「ッ、ざけんなクソが!!」

「おおぅいきなり暴言とは!矯正しがいがありそうだ!」

 

 ぐるると唸りつつ、カツキが冷や汗を流すのをエイジロウたちは見逃さなかった。彼らにしても、飄々とした態度とは裏腹の強烈な威圧感をワイズルーから感じていた。おそらくはタンクジョウのそれを、遥かに上回っている──

 

「それではパイドパイパーマイナソーくん、今一度奏でてやりたまえ!」

「オイ、デ……!」

 

 ワイズルーに守られながら、マイナソーは再び堂々と角笛を吹きはじめた。奇妙な音色が響き渡ると同時に、悶絶していた子供たちが何事もなかったかのように起き上がりはじめる。──前方のドルイドン、後方の操られた子供たち。

 

 この状況でマイナソーを倒す策を、リュウソウジャーは持ち合わせていなかった。

 

「ッ、ミストソウル!!」

「!?」

 

 咄嗟にイズクがリュウソウルを装填する。仲間たちさえも予想しなかった瞬時の行動と同時に、

 

『ミストソウル!うるおう〜!』

 

 彼らの周囲を、濃霧が包み込んだ。

 

「イズクくん!?これは一体──」

「いったん退くんだ!ビショップクラスのドルイドン相手に、無策で挑むのは危険すぎる……!」

「び、びしょっぷ?」

「でも、コタロウたちが……っ、くそっ!!」

 

 コタロウを、子供たちを今ここで救えない──その現実を誰より正確に把握し、それゆえ口惜しく思っているのはイズクなのだ。彼の判断を、尊重しないわけにはいかなかった。何よりあのカツキですら、羅刹のような表情を浮かべながらも後退を始めている。

 

 

 結局濃霧が晴れたとき、五人の姿はそこになかった。

 

「あっ、あいつら逃げやがった!!」

「フハハハ、好都合!」

「好都合なんスか!?」

 

 驚くクレオンに対し、不必要にぐっと顔を近づけるワイズルー。この男から強烈な圧を感じるのは、何も敵ばかりではないのだ。

 

「ち、近いっス、近い……」

「早速セカンドステージの用意だ。私の描いた筋書きの上で、斃れるまで踊ってもらおう。イッツ・ジ・エンド、リュウソウジャーーーーー!!ふはははははは!!」

「フハハハハ!!……あっ」

「?、どうしたクレオン?ともに、盛大に!笑おうじゃないか!」

「いいんスか、笑っても……!?」

「オフコォォス!」

 

 このドルイドン(ひと)、ひょっとしてタンクジョウより良いパートナーかもしれない!喜びとともに、クレオンは彼とともに盛大に笑った。

 

 そうして天を仰いでいる間に、子供の数がひとり増えていることには気がつかなかった。

 

 

 *

 

 

 

 それからおよそ半刻後。

 

「なんで俺ら、街の人に追われてんだぁ!!?」

 

 深夜にもかかわらず街を徘徊していた人々が、エイジロウたち五人の姿を見るなり襲いかかってきたのだ。

 

「まさか、この人たちも操られて……!?」

「しかしマイナソーの笛の音は聞こえなかったぞ!?」

 

 それに、マイナソーがあの場で操っていたのは子供だけだった。自分たちも笛の音を聴いたが、なんともなかったのだ。人間とリュウソウ族の違いという可能性もないではないが。

 

「逃げるな、おとなしく捕まれぇぇ!!」

「あんたたちを捕まえないと、子供たちが!!」

「!?」

 

 なんだって!?一瞬足を止めかけるエイジロウたちだったが、

 

「訊くな走れ!!」カツキが怒鳴る。

「ッ、でもよ……!」

「捕まっちまったらどうにもならんだろうが!!」

 

 むろん、今の言葉を黙殺するわけではない。彼らは操られている子供たちの親で、子供を人質にとられている状況なのだ。

 

 

──そう、ワイズルーは先ほど、子供を探し回っている人々の前に現れてこう言ったのだ。

 

「子供を返してほしかったら、リュウソウジャーを捕まえてきまショータァイム!!」

 

 剣で武装した少年たち五人組。それだけでも限定される。まして、この深夜に緊迫した様子で駆けずり回っているとなれば。

 

「ならば、一刻も早くマイナソーを倒さなければ……!」

「でも傍にワイズルーもいるし、そもそもまだ街中にいるかもわからんやん!」

 

 それに子供たちを取り戻さない限り、五人は街の人々に追い回され続ける羽目になる。捕まれば奴らのもとへ行けるのでは、という考えも一瞬脳裏をよぎったが、その場で殺されないという保証もなかった。

 

「ちくしょうっ、どうすりゃいいんだよ……!どうすりゃ……!」

 

 そのとき、正面からも追っ手が現れた。前後を挟まれれば、あとは左右しかない。彼らは咄嗟に右へ曲がったのだが、

 

「しまった……!」

 

 そこには、分厚い煉瓦の壁が広がっていて。──五人は、袋小路に追い込まれてしまった。

 

「……ッ、」

 

 いよいよ、逃げられない。おとなしく捕まるか説得を試みるか抵抗するか、どれも困難な選択だった。まさか、四つ目があるとは思いもよらない。

 

「皆さま、そのまま突っ込んできてください」

「!?」

 

 突然、前方の()()()から声が響く。予想外すぎる事態に、エイジロウとテンヤなどは盛大に目を剥いた。

 一方で、

 

「!、かっちゃん、この壁もしかして……」

「……おー」

 

 彼らには思い当たるところがあるらしい。──いずれにせよ、追っ手はもうすぐそこまで迫っている。ここはいちか、ばちか。

 

「行くぞてめェら!」

「お、おう!」

 

 カツキの声に背中を押される形で、一行は全速力で壁めがけて突進した。衝撃と痛みが──ない。

 

「うぉッ!?」

 

 つんのめったエイジロウは、そのまま盛大に転けてしまった。煉瓦の床が、彼を全力で受け止めてくれる。

 

「何やっとんだ、クソ髪」

「い、痛ててて……だってよお」

「それより、ここは一体……」

 

 そこは外観よろしく煉瓦でできた部屋だった。室内に調度という調度はなく、扉のない穴は地下へと階段が続いている。

 その暗がりの中から、"彼"は姿を現した。

 

「ご無事で何よりです、皆さん」

「!、あんたは……男爵の」

 

 ミネタ男爵に仕える老執事──シエン。数時間前の自分たち──主にカツキによるものだが──の不行状のために、助かったのだという確信をもてないリュウソウジャーだった。

 

 

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