ミノル・バロン=ミネタは、生まれながらにしてこのカサギヤ一帯の領主であった。逆に言えば、それしかなかった。
物心ついた頃から、欲しいものはなんでも与えられる。しかし街に、そこに生きる民のために働きたいという想いだけは、決して叶えられることがない。本来は皇都で役職をもつ下級貴族は、税収だけもらっておとなしくふんぞり返っているのが役目なのだ。
成長するにつれ己の置かれた立場を思い知ったミノルは、いつしかそんな夢ともいえないささやかな情熱を封印することにした。生まれつき小柄な体躯を誤魔化すように尊大な態度を振りまきながら、夜な夜な溜め込んだ鬱屈を解放する日々。
けれどその欲望をドルイドンに利用され、その侵略を食い止めた旅の勇者を口止めも兼ねて招き寄せたら、容赦のない言葉の刃が飛んできて。──ミノルの心の蓋は、その瞬間に壊れてしまった。
(もういい。どうせオイラは、領主失格だ)
(何もしない領主なんか、街に必要ないんだ)
(だから、)
(だから、オイラは──)
*
夜の街道を馬車が走り抜ける。
「オレたちの子供がドルイドンに拐われたってのに、領主サマはきょうも呑気に夜遊びかよ……!」
「このクソ葡萄っ、いい加減にしろ!!」
「あんたなんかいらないのよ!!」
罵声を口々に浴びせる。それにとどまらず、石を投げつける者も中にはいた。領主に対する攻撃は有形無形にかかわらず重罪とされているのだが、カツキの言った通り実効性は皆無に等しい。そんなものは抑止にならぬほど彼らの怒りは凄まじかったのだ。
しかし彼らの想像に反して、馬車の中に領主の姿はなかった。
「クソ葡萄て……おめェと気が合いそうなヤツがいるぜ、カツキ」
「ア゛ァ!?一緒にすんなや、クソ髪」
「いやまっっっっったく一緒やん……」
「皆、静粛に!状況をわきまえたまえ!!」
ある意味いちばん静かでないテンヤの大声に皆が押し黙ったところで、イズクが老執事に話しかけた。
「あんな魔法も使えるなんて、さすが貴族に仕える執事さんですね。でも、どうして隠れ家なんて?」
「有事の際の備えです」
なんでもないことのように答えるシエン。その有事というのがドルイドンの襲撃を指しているのか、それとも別の何かなのか、この状況ではわからない。
「しかし、なぜ我々を助けてくださったのですか?貴方の主に無体を働いたというのに……そこの彼が」
「……チッ」
舌打ちするカツキだったが、まごうことなき事実であるという自覚はあった。
「皆さんは、ドルイドンの使役するあの怪物を退治する専門家だと仰せでした。事実ならば、その力をお借りすべきでしょうから……ミノル様のためにも」
「は、利用価値はまだあるっつーわけか。で、そのミノル様は今どこで何してんだよ?」
また夜遊びでもしているのか、それなら街の人々に石を投げられても仕方がない──嘲笑混じりに訊くカツキだが、シエンの答は予想だにしないものだった。
「ミノル様は……主はおそらく、ドルイドンのもとに潜入しています」
「は?」
「え……」
一瞬、言葉の意味が理解できなかった。領主が自ら?何故?
「……ミノル様は生まれたときから、あの館に押し込められるようにして育ちました。既に皇都はなく、残ったものは名目上の領主の権利だけ。もとよりあの御方は、求めることは許されても求められることは許されない立場なのです」
そんな立場、エイジロウたちは想像したこともなかった。村では人々がそれぞれの生業に励むことで、共同体の生活というものを成り立たせていた。中には怠ける者もいないではなかったが、それは自らの意志による行動だ。
やはり、エイジロウの所感は的中していたのだ。ミノルは好きで、領主の椅子にふんぞり返っているわけではなかった。
だって彼は──
「勇者に……」
「ええ。しかし当然、そんな夢が認められるはずもありません。──それでも誰かに求められたかったミノル様は、成長されてからは女性との交遊に走るようになりました。もとより当主の最大の務めは子孫を残すことですから、それだけは目こぼししてきたのです」
「な、なんか生々しい……」
「こら!……しかしそれがどうして、御当人がドルイドンのもとに潜入など?」
「皆様にお会いしたからです」
シエンの答は端的だった。
「元々、皆様をお迎えしたのは……──ミノル様から怪物が生まれたことについて皆様に口外しないでいただくためというのもありましたが、何よりあの御方にとって良い刺激になればと思ったのです」
情熱をかけられるものを──女体以外に──もてなくなってしまったミノルだが、実際に戦っている者たちとの出逢いが彼を心を奮わせてくれる、シエンはそう思ったのだ。それは間違いではなかった、けれど。
「貴方の叱咤激励は、予想以上に主の心に刺さったようです」
「……激励したつもりはねえ」
ただ問題は、ミノルの行動が蛮勇に終わるだろうということだった。それに、万が一命を奪われたら。
「……あの人なりに、街を守ろうと頑張ってんだ。みすみす、死なせるわけにはいかねえ」
好悪など関係なく、すべての人々を守ることがリュウソウジャーの使命であるとエイジロウたちは信じている。しかしそれでも、己の信念をもって戦う人間は好きだし、絶対に死なせたくないとも思うのだ。
「それで、男爵……いや、ドルイドンの奴らの行き先はわかるんですか?」
「はい。当家で飼育している
「おおぅ、呪鴉まで……」
羨望の眼差しを向けるオチャコ。呪鴉を飼いならせるのは魔導士の中でも一流に属する者だけだ。本職ではない目の前の執事にそれだけの実力があるというのは、なんとも末恐ろしいものを感じるのだった。
*
子供たちを率いて街を出たワイズルーらは、市外の山腹にある巨大な洞穴に潜り込み、陣を敷いていた。
「でもワイズルーさま、わざわざこんな飾りつけする必要あるんすかぁ?」
暗い洞穴を彩るきらびやかな装飾を前に、当然の疑問を呈するクレオン。わざわざドルン兵に手持ちの装飾品の数々を持ち込ませ、飾りつけまでやらせている。ここを前線基地にして最終的にカサギヤの街を攻略するつもりならともかく、彼は一陣の嵐を残したいだけなのだから。
「ンンンンン〜……」
「?」
「……オフコォォス!!」
「!?」
考え込んだかと思うと、いきなり顔を近づけてきて大声で叫ばれた。アメーバ型の心臓が体内で跳ね回るのをクレオンは自覚した。
「ココは
「な、なるほど……」
表向き頷きつつ、クレオンは思った。こういう有り体に言って面倒くさいところは、タンクジョウにはなかった。どちらがより良いパートナーかは、もう暫く検討の余地があるかもしれない──
「……オイデ……」
一方、静寂を保つパイドパイパーマイナソーは操った子供たちを率いるようにして立ち尽くしていた。とある西方の伝説を背負って生まれた彼は、子供たちを拐かし、意のままに操ることを至上の喜びとする。彼の宿主となった人間も、俗に"人拐い"と呼ばれる罪人だった。
そんな彼らだが、子供たちの中に自発的についてきた者がいるだなどとは思いもよらなかった。
「………」
"彼"は人形のように佇む子供たちの間をすり抜け、少しずつマイナソーに近づいていく。傍らではワイズルーとクレオンが騒いでいるから、足音も響かない。そうしていよいよ、その背中が目前にまで迫り──
「!!」
ようやく気配に気づいたマイナソーが振り向いたけれど、それこそが彼の狙いだった。
「おりゃあッ!」
「オイデッ!?」
顔面に向かって石を投げつけ、怯んだ隙に角笛を強奪する。それは彼の体躯よりも大きな代物だったが、手放すことなくしっかりと抱え込んだ。
「も、らった、ぜ……!」
よろけそうになりながらも、ニヤリと笑って走り出す。──パイドパイパーマイナソーが悲鳴のような声をあげたことで、その主たちもようやく異変に気づいた。
「ワイズルーさま、ガキが笛盗んで逃げていきます!」
「見ればわかる!しかしナレーションは演劇に必要不可欠!」
「そうっすね!それはともかく……逃がすな、追えぇー!!」
ドルン兵たちがあとを追っていく。マイナソーも子供たちに指示を出そうとして……角笛を奪われたことを思い出した。一度操った子供たちは"あること"をしない限り催眠状態のままだが、笛の音色をインプットしてやらねば新たに行動を起こさせることはできないのだ。
(やった……!オイラ、やったぜ……!)
怪物退治など夢のまた夢だけれど、子供たちを操る角笛を奪うことはできた。自分も、街の守るために為すことができるのだ。
巨大な角笛を引きずる身体は重いが、ミノルの心は軽かった。あるいは、生涯でいちばん。天にも昇る気持ちとは、こういうことを言うのだろうか──
「本当に天に昇らせてあげまショータァイム!!」
「!?」
元々小さな身体に巨大なオブジェクトを抱きかかえては、まともに走れるはずがない。洞穴を出たところで、ミノルはワイズルー以下魔物たちに取り囲まれた。
「さあ坊や、どうして紛れ込んだか知らないが笛を返しナサ〜イ」
「ッ、ヤなこった!だいたいオイラは坊やじゃねえ、女体とエロが大好きな立派な大人だ!!」
「何威張ってんだバァカ!!ってかその背丈でオトナって……」
この魔物たちが信じるか否かは、この際どうでもいい。ミノルの命は風前の灯、助かるすべがあるとすれば、角笛を返して許しを乞うことだけ。当然、そんな気はさらさらない──
「──おやぁ?脚が震えているぞぉ坊や?」
「ッ、」
そんなはずがなかった。ミノルは箱入り息子ゆえ荒事に慣れていないばかりか、人並み以上に臆病なのだ。自らを害そうとしている魔物に囲まれ、怯えないはずがなかった。
それでも退けないほどに、彼は変わりたかったのだ。何もできない自分から、何かを成しえる自分に。その想いが今この瞬間、命への執着さえも上回っている。
「オイデェ……!」
「わかったわかったパイドパイパーマイナソー。──ワイズルーさま、コイツ笛返す気ないみたいだし、やっちゃいましょう!」
「ウ〜〜ン、美しくないが………是非もナシ!!」
剣を構え、徐々に包囲網を狭めていくドルン兵。そのうちひとつでも振り下ろされれば、ミノルの小さな身体は容易く両断されるだろう。
「ッ、うぅ……!」
笛を抱え込むようにして、ミノルはぎゅっと目を瞑った。こぼれた涙が頬を流れる。
(ごめんなさい、ご先祖さま……父上、母上……!)
唯一与えられた責務、ミネタ男爵家の血脈を保つことさえ果たせずに彼らのもとへ逝く。しかし恐怖と絶望の中で、それを後悔できない自分がいるのも確かだった。
「では坊や、イッツジエンドゥ!!」
ワイズルーの宣言により、いよいよその瞬間が現実のもとなる──と、思われたそのとき。
馬の嘶きが、響き渡った。
「ドル……?──ド、ドルゥゥッ!!?」
猛烈な速度で迫ってきた巨大なオブジェクトにより、ドルン兵の一角が撥ね飛ばされる。
そうして包囲を崩したのは、二頭立ての豪奢な馬車だった。それはミノルの目前にまでやってきて、停まった。
「な、なんだ?」
「あらきれいな馬車」
一瞬の静寂のあと、開かれた扉から次々と飛び出してくる武装した少年たち。その姿を、ミノルはしっかりと記憶していた。
「あ!お、お前ら……」
「──ミノル様!」
さらに、自分が生まれる前から家に仕えていた老執事も。
「ご無事で何よりです、ミノル様」
「シエン……どうして?」
夜の街に繰り出すときと同じように、こっそり屋敷を出てきたというのに。
「ミノル様のことで、私の知らないことなどありません。貴方様が毎夜どのような女性とお楽しみかも含め、余すことなく確認しております」
「ひぇっ……」
青ざめるミノル。シエンは何も言わないから、せいぜい街で遊んでいることくらいしか知らないと思っていたのだ。
ふたりの様子を見て、エイジロウたちは思わず苦笑した。一見物静かな老紳士なのだが、シエンの秘めたる愛は実に重い。ミネタ家に対しても、ミノル個人に対しても。道中の馬車の中、それを延々と聞かされたのだから堪ったものではない。カツキなどは突っ込むこともできず、露骨に辟易した表情を浮かべていた。
「そ、そうだ。この笛……!」
「!、その笛、マイナソーの……──よぉし!」
差し出された角笛にリュウソウケンを叩きつけ──破壊する。
「オイデェ!?」
「ああぁっ、笛が!?せっかくそこの洞穴に捕まえておいた子供たちが──」
「そこの洞窟にいるんだな!?──ハヤソウル!!」
すかさずハヤソウルを発動させたテンヤが、凄まじい速度で洞穴の中へ飛び込んでいく。そうして程なく、解放された子供たちが彼とともに出てきた。
「ではコタロウくん、みんなを頼む!」
「了解です。──みんな、こっちだ」
安全な場所まで避難していく子供たち。その前に立ちふさがるリュウソウジャー。もはや彼らに対する楔は、なくなってしまった。
「しまったぁ、ついうっかり!」
「バカなんスか、ワイズルーさま!?」
「オイデェ!?」
魔物たちが滑稽なやりとりを繰り広げる一方で、
「あんがとなミノルさま、あんたのおかげでみんなを助けられたぜ!」
「!、え……」
"ありがとう""自分のおかげで"──生まれてこのかた、一度も他人に言われたことのなかったその言葉。ミノルははじめて、己の想いが成就したのだと思い知った。
「う、う゛ぅ、オイラ……オイラぁ……!」
「チッ……泣くなや、ウゼェ」
「かっちゃん……っ」
咎めようとするイズクだったが、カツキの言葉には続きがあった。
「……まぁ、あんたの心意気だけは買ってやる」
「!」
らしからぬか細い声でつぶやかれた言葉。それが彼なりの精一杯の、そして最大限の賛辞であることは、幼なじみ以外の面々にもわかった。
「ったくおめェは……そこは素直に褒めてやろうぜ」
「でも意外とええトコあるんやね、カツキくん」
「ア゛ァ!?仲間ヅラして勝手なこと言ってんじゃねえぞ、クソども!」
「かっちゃん……威圧するならあっち」
イズクのもっともな指摘に、舌打ちしつつもカツキの鋭い視線が別の箇所に向けられる。
「あ、やっとこっち見た」
「チェッ、やっちまえお前ら!」
「オイデ……!」
「ドルゥゥ!」
大量の魔物たちと、五人の少年少女。いっそ絶望的ですらある構図。しかし既に、ミノルはわかっていた。
勝利は既に、彼らの手にあるのだと。
「やれるもんならやってみやがれ!──いくぜ!!」
「「「「「リュウソウチェンジ!!」」」」」
『ケ・ボーン!!』
『ワッセイワッセイ!そう!そう!そう!ワッセイワッセイ!ソレソレソレソレ!!』
『リュウ SO COOL!!』──踊り狂っていた小さな騎士たちが、色鮮やかな竜装の鎧へと変わる。
そうして少年たちは、魔を屠る竜装の騎士となるのだ。
「──勇猛の騎士、リュウソウレッド!!」
「叡智の騎士ッ、リュウソウブルー!!」
「剛健の騎士、リュウソウピンク!」
「疾風の騎士!リュウソウグリーン!!」
「威風の騎士……!リュウソウブラァック!!」
──正義に仕える五本の剣。彼らの名は、
「「「「「騎士竜戦隊、リュウソウジャー!!!」」」」」
「俺たちの騎士道、見せてやるッ!」
戦闘開始の狼煙。しかしその役割は自分のものとばかりに、ワイズルーもまた声を張り上げた。
「ンンンンン〜……──開演ッ!!」
いよいよ、ドルン兵の群れが襲いかかってくる。気圧されることなく、リュウソウジャーもまた走り出した。
「おらぁああああッ」
剣と槍のぶつかり合い。後者は盾まで装備している。しかしそれゆえに動きが鈍い。頑丈だが柔らかい、古今東西の戦士たちが垂涎するような鎧を纏った少年たちは素早く懐に潜り込み、リュウソウケンを一閃する。
さらに、
「ツヨソウル!!」
『ツヨソウル!オラオラー!!』
リュウソウルの力を借り、さらなる竜装を遂げる。奮い立つ剣は、いよいよドルン兵を盾ごと両断した。
そして、仲間たちも。
「ハヤソウルッ!!」
「カルソウル!」
「ムキムキソウル!!」
「カタソウル……!」
一斉に鎧を纏い、それぞれの能力をもって、ときに連携しながらドルン兵を駆逐していく。
「す、げぇ……」
彼らの背中を遠くで見守りながら、ミノルは感嘆の声を洩らしていた。彼らは普通の
「ミノル様も、なれますよ。街を守る勇者にならば」
「!、シエン……」
シエンの言葉には、比喩では片付けえない響きがあった。
「うぉおおおおおッ!!」
「オ、オイデ……!」
ドルン兵をあらかた片付けたところで、リュウソウジャーはいよいよパイドパイパーマイナソーへの攻撃に取りかかった。動きの鈍らない彼らに対し、角笛を失った彼には身を守るものが何ひとつとしてない。身体ひとつで懸命に応戦しているが、どちらに趨勢が傾いているかは一目瞭然だった。
「素手で騎士に勝てると思ってンのかよ、カスがぁ!!」
珍しくカタソウルで竜装したブラックが、その拳をあえて避けずに受け止める。身体が硬質化しているために、ダメージを受けたのはマイナソーのほうだった。「グアァ!?」と悲鳴をあげ、何歩も後退する。
「よし……!一気に決着をつけよう、みんなの力を合わせるんだ!」
「おうよ!なら、これだ!」
あえて竜装を解き、代わって構えたのはブレスから排出されたカラードリュウソウル。それらをリュウソウケンに装填し、
『レッド!』
『ブルー!』
『ピンク!』
『グリーン!』
「………」
「……かっちゃん」
「チッ……わーっとるわ」
『ブラック!』
『それ!それ!それ!それ!──その調子ィ!!』
竜装に使われるのと同等のエネルギーが、リュウソウケンの鋒へと充満していく。
そして、
「「「「「クインティプル、ディーノスラァァッシュ!!!」」」」」
息を合わせた五人が、息もつかせぬ斬撃を次々と繰り出していく。1、2、3、4、5──
「オ、イデェェェ……!?」
五つめの斬撃を胸に受けた瞬間、耐えきれなくなったマイナソーはついに爆散した。紅蓮の炎がその身を焦がし、残滓すらもこの世界に遺さない。
完全なる、リュウソウジャーの勝利だ。
「マイナソーは倒した、次はおめェらの番だ。ワイズルー、クレオン!!」
「うげぇっ……ど、どうしますワイズルーさま!?」
「ンンンンン……」
問われたワイズルーの答は、
「ヤぁダ!」
「は!?」
「え!?」
「ア゛ァ!?」
「真打ち登場はここぞのときと相場が決まっているのだよ。私と踊りたければそれにふさわしい実力を身につけることだ。そうしたら最高の舞台を用意してあげよう。──クレオン、帰りまショータァイム!」
「う、うっす!覚えてろよ、リュウソウジャー!!」
そうしてワイズルーがマントを翻すと、二体は姿を消した。追いかけようとする間もない、一瞬の出来事だった。
「あいつら……言いたい放題言って逃げやがった」
「……今は、仕方ないよ。子供たちを全員無事で助けられた、僕らの勝ちだ。ね、かっちゃん?」
「……次は殺す」
カツキはあの巫山戯たドルイドンのことが殊更嫌いなようだと、イズクは悟った。彼は根が真面目で、敵に対しても彼なりに真摯に接している。にもかかわらずさんざん虚仮にされ、いたく立腹なのだ。
それはそれとして──此度の勝利は、自分たちの力だけで勝ち得たものではなかった。
*
救出された子供たちが、待ち受ける家族のもとへ駆け寄っていく。
カサギヤの街に戻ったエイジロウたちは、その光景を前にほっと胸を撫でおろした。親子の抱擁というのは、いつなんどき見ても心が温かくなる。
「勇者さま方、ほんとうにありがとうございました」
彼らが口々に感謝の意を表す。それを素直に受け取りつつも、カツキが言った。
「礼なら、あの人にも言ってやれや」
「……あの人?」
疑問を抱く一同の前に出てきたのは他でもない、ミノルだ。より訝しげな表情を浮かべる市民に対しては、エイジロウが説明した。
「ミノル……領主さまが、怪物から笛を奪ってくれたんス。おかげで子供たちを救け出せて、俺らは心置きなく戦えたんス」
「……本当なのですか、領主さま?」
頷きつつ──ミノルは、しっかりと領民たちを見つめた。幼児のような小さな体躯、しかしその眼力は、今となっては誰より強い。
「……みんな、今まですまなかった」
その声は、静かな夜の街にはっきりと響いた。
「オイラ、今までみんなに甘えてた。どうせオイラには何も求められてないからって、あきらめて、あぐらをかいてたんだ。……でもこれからは違う。オイラ、街のために精一杯がんばるから。困ってる人の力になれるような領主になってみせるから……だからオイラを、――見ていてほしい」
皆にとって、本当にふさわしい領主になれるか、どうか。
──対する人々の反応は、皆の想像にまかせる。ただひとつ言うならミノルは、カツキが判断したほどには忌み嫌われているわけではなかった。憎めないが女遊びばかりしていて頼りない、困った領主さまだというのが大勢の評価だ。しかし今回、彼はその小さな身体で街の子供たちを救ってみせた。ならば人々の見る目は、見る目は──
「勇者のお嬢さん、せっかくのご縁ですしオイラと今夜ひと晩鍛錬に励んでみませんか?今夜のオイラはひと皮剥けてますよ、いろんな意味で」
……オチャコに対してこんな誘いをかけてしまうあたり、残念ながら困った領主さまではあるようだった。
その後ミノルはシエンの指導のもと正しく鍛錬に励み、見違えるようにりっぱな領主となったのだが……その性癖だけは、生涯変わらなかったと言われている。
つづく
「行けぇ、無敵のマイナソー!!」
「俺の命なんてどうなったっていいんだ」
「キミが死んだら、その子が悲しむ!」
次回「猿(ましら)の門」
「その澄ました顔、泣きっ面に変えてやる!」
今日の敵‹ヴィラン›
パイドパイパーマイナソー
分類/メルヘン属パイドパイパー
身長/195cm
体重/95kg
経験値/130
シークレット/「ハーメルンの笛吹き男」の伝承を受け継いだマイナソー。その笛の音は子供のみを催眠状態にし、思うままに操ることができる。笛を破壊しない限り、子供たちをもとに戻すことはできないのだ!
ひと言メモbyクレオン:裸ビームの次は児童誘拐って……変態ばっかだなこの街!あ、ハーメルンさんにはいつもお世話になってまっす!