【完結】僕のリュウソウアドベンチャー   作:たあたん

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クウガでもルパパトでもできなかったA組コンプ、今作では出来るだろうか…


10.猿の門 1/3

 

 カサギヤの街を訪れてはや一週間。

 エイジロウたち一行は、各々紹介された仕事に励んでいた。

 

「おーい赤毛、次はこれ運んでくれ!」

「うぃーす!」

 

 指定された荷物を肩に担ぎ、建設現場を駆けずり回るエイジロウ。こうした肉体労働は体力を使うが鍛錬にもなるし、彼自身の気質と相性も良い。何より頑張ったぶんだけ報酬もたんまり貰えるのだ。

 

「ふぃ〜……」

 

 陽光のもと、溢れ出す汗を拭うために立ち止まる。気づけばもう何時間も休みなく働いているから、それくらいは許されるはずだ。

 数秒で再び動き出そうとしたとき、エイジロウより体格の良い大工に声をかけられた。

 

「兄ちゃん頑張ってんな、水分はしっかりとれよ」

「うす、あざす!」

「へへ……でもあっちの嬢ちゃんにはかなわねえみてぇだな」

「へ?」

 

 嬢ちゃん……といえば、この現場にはひとりしかいない。

 

「ほ、本当に大丈夫か嬢ちゃん?そんなまとめて……」

「全然ですよ〜」

 

 屈強でめったなことでは動じる様子もない大工たちがはらはらした表情で見守る中、オチャコはひとつひとつが幼子ほどの重さもある土嚢をひょいひょいと担ぎ上げた。そのままなんでもないかのように歩いていく。

 

「うおぉ……やっぱスゲーな、オチャコ」

 

 エイジロウは素直に感動した。村いちばんと言われた怪力は、旅に出ても健在なようだ。そしてそんな余裕もないからか、苦手意識も消えている。

 

「っし。漢として、俺も負けてらんねえぜ!」

 

 奮起したエイジロウは、オチャコに負けじと荷物を担ぎに行った。もっとも彼女の半分以下の量がせいぜいなのだが、それは仕方のないことだった。

 

 

 *

 

 

 

 そんなこんなで、あっという間に夕方である。無事仕事を終え、棟梁から日当の銅貨を貰ったときにはエイジロウはもう疲労困憊だった。

 

「ふぃー、もうくたくただぜ……。宿帰ったら身体洗って、がっつり寝てぇ」

「寝る前にごはん食べないと、明日もたんよ!」

「それもそっか。……ってかまだまだ余裕だな、オチャコ」

 

 鍛え方は同じ……むしろ性差があるぶん、自分のほうがハードなはずなのだが。

 

「スゲーなぁ、おめェは。魔法も使えて、ガッツもパワーもあって。俺も見習わなきゃな!」

「もう、そんな……褒めてもなんも出んよ!」

「うごっ!?」

 

 オチャコの()()肘打ちが脇腹に直撃し、エイジロウは悶絶した。

 

「ああっ、ご、ごめん!うっかり……」

「お、おめェなぁ……褒めてるそばから……」

 

 少年としてはかなり鍛え上げられた部類のエイジロウだからこの程度で済むが、これがたとえばコタロウだったら笑い事では済まないだろう。オチャコは反省した。

 

「……俺ちょっと休んでくから、先戻ってて」

「は、はーい……」

 

 

(そういえばこの街に来て一週間かぁ……あっという間だなあ)

 

 現状、自分たちの旅にはあてがない。目的地である"はじまりの神殿"はどこにあるか手がかりもないし、世界に巣食うドルイドンやマイナソーはそこら中にいる。現状、まずは自分たちを狙ってくるワイズルーやクレオンをどうにかするしかないのだが、後者はともかく前者が問題だった。

 

──数日前に遡る。

 

「イズクくん、きみもあのワイズルーというドルイドンも、ビショップのクラス云々と言っていたが……どういうことなんだ?」

 

 その問いに、離れて壁に凭れていたカツキが「ハァ!?」と声をあげた。

 

「てめェら、ドルイドンに階層があることも知らねえンかよ。村でナニ教わってきたんだ」

「う……ま、マイナソーのことはひと通り学んできたが、ドルイドンについては謎が多く……」

 

 そのあたりは遠征という形で決まった場所を行き来する騎士団が持ってくる情報より、五十年以上世界各地を旅してきたイズクとカツキのほうが詳しいのも当然だろう。ドルイドンは神出鬼没、それも非常に強力ゆえ竜装の力なしではマスターたちでさえ厳しい戦いを強いられたのだ。

 

「かっちゃんが今言った通り、ドルイドンには階層があるんだ。──まずいちばん下がポーン、クレオンがよく率いているドルン兵がこれにあたる」

 

 ドルン兵といえば、ドルドルと鳴き声しか発さないしさほど強力ともいえない。それでもドルイドンに分類される存在ではあるのだ。

 

「それで、その上がルーク。ここからが一般的にドルイドンとして知られている魔人たちだ。僕らの調べた限りだと、この前倒したタンクジョウはこの階級みたいだ」

「えっ……あいつ、下から二番目なん?」

 

 村を封印に追い込み、五人とキシリュウオーファイブナイツの力でようやく打ち倒した相手。それが、下層のドルイドン?エイジロウたち三人は呆気にとられ、次いで背筋に冷たいものが走るのを感じた。

 

「……じゃあ、ワイズルーはそれより上なんだな?」

「うん。ビショップはルークのひとつ上……僕らが知ってる中では最上位のドルイドンだ。あいつ、飄々としてるけど……タンクジョウより強大な力をもっているのは、間違いないと思う」

「………」

 

 沈黙が、場を支配する。それを打ち破ったのは、やはりと言うべきかこの少年だった。

 

「怖気づいたんか?」

 

 そのひと言に、場の空気が緊張したものとなる。

 

「それならそれで、これ以上連中の目に留まらねえようにこそこそ動きゃいい。マイナソー狩りなら俺らふたりで事足りる」

「……それは、ドルイドンそのものは野放しにするということか?」

 

 五人でようやく下位の者を倒したのだ、ふたりで倒せるわけがない。そういう言い方はカツキの逆鱗に触れることになると、流石にエイジロウたちも学習しているが。

 

「封印されとる騎士竜を見つけ出して、一緒に戦わせる」

「そんなことが可能なのか?」

「てめェらにできて、俺らにできねーことはねえ」

「………」

 

 しかし彼らも五十年、成果を挙げられていないのだ。村の神殿のようにそうとわかっていなければ、その発見は途方もないことなのではないか。はじまりの神殿もまた、同じ。

 

「……俺は、戦う」

 

 その言葉は自然に、エイジロウの口を突いて出た。

 

「世界を、みんなを守るために俺たちは騎士になったんだ。ドルイドンに苦しめられてる人たちを見捨てるなんてこと、できるわけがない」

「……そうだ」テンヤも首肯する。「兄さんに誓ったんだ。騎士の使命を果たすと。それは俺自身への誓いでもある」

 

 最初から、彼らの答は決まっていた。ドルイドンと戦い、奴らの脅威から人々を守る。その果てにしか、自分たちの故郷を取り戻す道はないのだ。

 

 五人のリュウソウ族、そしてひとりの人間の少年による旅はこれからも続く。望むと望まざると、既に定まった運命だった。

 

 

(頑張らなきゃ。私の力で、どこまでやれるかわかんないけど……)

 

 オチャコもまた、決意を新たにする。とはいえ己の力にまだ自負というか、自信と呼べるほどのものがあるわけではない。エイジロウとテンヤという、異なるベクトルである種のカリスマ性をもつふたりにここまでついて来たというだけ──少なくとも自分ではそう思っている。早く一人前になって、母のような騎士にならなくては。そのためには魔法ももっと使えるようになって──

 

 

 あれこれ考え込んでいたオチャコは、下卑た目つきの男たちが後をついてくることに気づけなかった。

 

「よう、オネーチャン!」

「!」

 

 そうやって絡まれたときにはもう、彼女は前後を取り囲まれていた。

 

「オネーチャン、かわいいね。どこ行くの?」

「……宿に帰るだけですけど」

「おっ!じゃあさじゃあさ、オレらとお酒でも飲みいかない?」

「料理もおいしくて安いよ!」

「つーかメシ奢るよぉ!」

 

 こういう類いの男どもに遭遇するのは百五十年余年生きてきて初めてのことだったが、知識としてはあった。ナンパ。十中八九が女の子に対して不埒な欲望を抱き、甘言を弄して連れ去ろうとするろくでもない行為だ。

 

 仲間が待っているのでとすげなく断るオチャコだが、男たちはしつこくつきまとってくる。肩でも掴まれたら投げ飛ばしてやろうと思うくらいには業腹なオチャコだったが、次の瞬間、意外なところから意外な助け舟が出された。

 

「おい、お前ら」

「!」

 

 振り向くと、そこに立っていたのは軽装の少年だった。背丈はそれほど高くなく、塩顔というのだろうか、顔立ちはかなり淡白だ。そんな地味な容姿の中で目をひくのは、尻の付け根から生えた長大な尻尾だった。

 

(尻尾?なんで?)

 

 装備品……にしては質感が生々しい。救けてくれたという感謝より、疑念が勝るのも無理からぬことだった。

 しかし彼は、"それ以外"の容貌にたがわず純朴な正義感の持ち主で。

 

「やめろよ。嫌がってるだろう、その娘」

「あぁ!?なんだァ尻尾野郎、おまえに関係ねーだろぉ!」

 

 一方で、ナンパ師どもは同性に対してどこまでも血の気が多かった。がなりたてながら、このほうが話も早いとばかりに殴りかかる。

 

──オチャコは見抜いていた。現れた少年が、衣服の下にみっちり鍛えられた体躯をもっていることを。

 

「!?、痛ででででででッ!!」

 

 悲鳴めいた声をあげたのは、殴りかかった男だった。二の腕を掴まれ、捻りあげられている。少年はさほど力を込めているふうでなく、最小限の労力で相手の動きを封じているのだ。

 

「てめえ何しやがる!」

 

 仲間の男が背後から襲いかかるが、これも少年の想定の範疇だった。片手で男その1の腕を固めたまま、もう一方の掌を開いたまま男その2の鳩尾に叩き込む。

 

「うごっ……」

 

 声にならない声とともに、男はふらふらと後退し、そのまま蹲った。

 

「大丈夫?」

「う、うん。ありがと──」

 

 そのときだった。蹲っていた男が道に落ちていた何かの破片のようなものを拾って、立ち上がったのは。

 

「このヤロォォッ!!」

「!」

 

 少年が振り向いたときには、男は眼前にまで迫っていて──

 

「──ッ、」

 

 それを見たオチャコが、間に割って入った。破片を持った男の手首を掴むと、もう一方を脇のあたりに添え──

 

──力いっぱい、投げ飛ばした。

 

「ぐはぁ……っ」

 

 ため息のようなうめき声のあと、男は薄目を開けながら脱力した。失神してしまったのだろう。

 

「ふぃ〜……」

 

 手をぱんぱんとはたきながら、もうひとりを見やるオチャコ。別に睨んだつもりはなかったのだが、彼はかわいそうなくらい怯えて逃げ去っていったのだった。

 

「……きみ、強いな」

 

 感心した様子でつぶやく少年。我に返ったオチャコは慌てて取り繕おうとするのだが、もう後の祭りと言うほかなかった。エイジロウたちにならともかく、見も知らぬ同年代──厳密には違うが──の少年に対してはか弱さもアピールしたい年頃である。

 

「い、いやそのえっとぉ、たまたまというか、火事場のなんとやらというか……」

「恥ずかしがることないよ、すごいじゃないか」

「あ、ありがとう……」

 

 そんなふうに真正面から褒めてもらったことはあまりないので、オチャコは頬を赤らめた。いや仲間たちだって彼女のパワーを頼りにしているのだが、それ以上にその拳骨が飛んでくるのを恐れてもいるのだ。

 

「この辺はごろつきもいるから、気をつけて。じゃあ」

「!、あ、待って」

 

 立ち去ろうとする少年を、咄嗟に呼び止める。

 

「私、オチャコ!──あなたは?」

「……マシラオ。一応、格闘家をやってる」

「格闘家?」

 

 耳慣れぬ職業に、オチャコが首を傾げたときだった。

 

「──ウオオオオオッ!!」

 

 にわかに雄叫びが響いたかと思うと、ふたりの眼前に金色の影が着地する。それは全身に黄金の毛を逆立てた、猿に似た怪物だった。

 

「な……マイナソー!?──下がってて!」

「………」

 

 格闘家──つまり戦うことを生業にしている少年。先ほどの身のこなしを見ても実力はあるだろうが、それでもマイナソーが相手となれば守るべき対象だ。

 そういう気持ちで前面に飛び出したオチャコは、マシラオ少年が怪物に驚きもせずにいることに気がつかなかった。

 

「リュウソウチェンジ!」

『ケ・ボーン!──リュウ SO COOL!!』

 

 賑々しい音声とともに、リュウソウメイルが一挙にオチャコの身体を包み込む。

 

「はぁああああ──!」

「!、きみは……」

 

 こちらには少年も驚いたようだったが、既にオチャコ──リュウソウピンクの意識にはない。リュウソウケンを抜き、まっすぐに斬りかかる──

 

「……!?」

 

 彼女は、唖然とした。剣をかわされた。それも寸前の寸前まで、敵は回避行動をとろうとはしていなかったというのに。

 

「ッ、この!」

 

 見た目はお世辞にも頑丈とはいえないようなマイナソー、一撃当てれば──そんな思いのもとがむしゃらに剣を振るうが、当たらない。ごくわずかな身じろぎひとつで、マイナソーは彼女の斬撃を避け続けている。

 

(うそ……なんで!?)

 

 からくりはわからない。ただ、敵がひと筋縄でいかないことはわかる。すかさず飛び退いたピンクは、リュウソウルを使って再挑戦することにした。

 

「ツヨソウルっ!」

 

 身体機能全体を強化する、リュウソウジャー全員が所持しているリュウソウル。それを鍔に装填し、

 

『リュウ!ソウ!そう!そう!──この感「タオォスッ!!」──!?』

 

 竜装の直前、猿人マイナソーが跳躍とともに襲いかかってきた。いちばん無防備な状態を、狙い打ちにされたのだ。

 

「う゛あぁっ!?」

 

 がら空きの胴体に拳を叩き込まれ、悲鳴とともにピンクは後方へ弾き飛ばされた。そのまま壁に叩きつけられ、ずるずるとへたり込む。

 

「……タオス、」

「う、うう……っ」

 

 拳の衝撃は、リュウソウメイルがほとんど吸収してくれるはずだ。にもかかわらず動けない、立ち上がれない。──マイナソーの一撃は、人体の急所を正確に捉えていたのだ。

 タオス──"倒す"とつぶやきつつ、やおら迫りくるマイナソー。動けない状態でもう一撃浴びれば、竜装解除では済まない。やられる──!

 

「やめろ!」

 

 そう叫んで割って入ったのは他でもない、マシラオ少年だった。

 

「ぁ……っ、だめ、逃げて……!」

 

 いくら鍛えていたとしても、あんな一撃、生身で受けたらひと溜まりもない──!

 

 しかしマイナソーの行動は、彼女の想像に反していた。

 

「ッ!、………」

 

 マシラオの姿を目の当たりにした途端、露骨に躊躇した様子を見せたのだ。そのまま拳を下ろしてしまう。

 

(どうして?)──オチャコが疑問を抱くのも無理からぬことだった。マイナソーが人間に従う、あるいは手心を加えるなんて聞いたことがない。

 そのときだった。マシラオが苦しそうに胸を押さえたかと思うと、その身体から緑色をしたエネルギー体のようなものがマイナソーへ吸収されていったのだ。

 

(まさか、この人……!?)

「……いくぞ、怪物」

「タオス……!」

 

 マシラオは怪物を連れ、いずこかへ去っていく。なんで、どうして。疑問だらけの中で「待って」と声を張り上げるが、彼らの耳には届かない。

 ようやく身体が動くようになったときには、少年と怪物の姿は夏の幻のように消え去っていた。

 

 

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