【完結】僕のリュウソウアドベンチャー   作:たあたん

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11.そもさん、汝に問う 2/3

 

「おぉぉーい、ディメボルケーノ〜!!」

 

 大声で名を呼べば、程なくやまびことして返ってくる。こんな生命を燃やし尽くしてしまいそうな火山の真っ只中でもそこは変わらないのかと、いっそテンヤは感心すらしていた。

 

「ディメボルケーノー!!」オチャコも追随しつつ、「はぁ……あかんわ。ミエソウルとかキケソウル使っても見つかんないなんて、どこに隠れたんやろ?」

「この"賢者の釜"のことは、彼がいちばんよく知っているからな。巧く隠れたんだろうとしか、言いようがないが……」

 

──ディメボルケーノを取り逃がした彼らは、三手に分かれてその追跡を開始した。相手が謎かけに拘る理由はわからないが、それでも共闘をあきらめるわけにはいかない。上述したように、彼らは対ドルイドンにおいて貴重な戦力となるのだから。

 

「……あのクソ騎士竜、ぜってー思い知らせてやる」

 

 それでもなおこんなことを言っている、カツキという少年もいるのだが。

 

「駄目だよかっちゃん……エイジロウくんも言ってたじゃないか、全面戦争になりかねないって。タイガランスたちまで敵に回ったらどうするのさ」

「そんときゃ全員まとめてぶちのめす」

「……それができれば苦労してないと思うけどなあ」

 

 思わず毒づくイズク。と、先を歩く幼なじみは転がる小石を踏みつけるように足を止めた。

 

「てめェ……最近生意気になったな、クソデク」

「え……いや、今に始まったことじゃないだろ……」

「悪化してンだよ、クソが」

 

 舌打ちして、カツキは再び歩き出した……早足で。

 

「ちょっ、待ってよかっちゃん!……もう、」

 

 ため息をつきつつ、追うイズク。──変わったのは、お互い様だろうと彼は思った。

 エイジロウたちのことを、カツキは仲間として認めない、信用などしないという。しかしそれでも、これまでの五十年には考えられないくらいエイジロウたちを懐の中に入れているようにみえるのだ。"正義に仕える五本の剣"──そんなフレーズを、当然のように受け入れるくらいには。

 

 カツキは幼い頃、快活な少年だった。才能の豊かさゆえ傲岸不遜なところはあったけれど、惹かれて寄ってくる子供を鷹揚に迎え子分にするくらいには。それがいつからか……彼のマスター、つまりマスターブラックが行方をくらましてからというもの、人が変わったように他者を寄せつけない疑り深いところを見せるようになった。

 何がきっかけでそうなったのか、カツキはとうとう五十年もの間語ってくれなかった。そのために彼の変化は、それが喜ばしい方向であっても置いていかれたような気持ちになってしまうのだ。

 

 そんな自分に、ほんのわずかな自己嫌悪を覚えるイズクだった。

 

 

 *

 

 

 

 残るエイジロウとコタロウ少年は、手をつないで霧の中を進んでいた。

 

「あの、手……」

「あぁ……はぐれたら怖ぇしさ、このまま行こうぜ」

 

 エイジロウの言い分はわかる、わかるのだが。

 多感な時期に他の子供よりひと足早く突入しているコタロウとしては、この状況は非常にこそばゆい。まして幼少の頃に母を喪い、生きていた頃にしても家を空けられることが多かったのだ。どうすれば良いか、よくわからない気持ちになるのである。

 

 ただエイジロウという少年は、意識してか天然なのかわからないが、自分のような年少者に「子供扱いされている」と思わせないことには天賦の才能があるようだった。今も"はぐれたら怖い"と、自分の感情ゆえの行動だと答えている。そのおかげでコタロウも、無理やり振りほどくまでする気にはならなかった。そのほうが子供っぽいから、というのもある。

 

「あの騎士竜、ずいぶん気性が荒いですね」

 

 気紛れというわけでもないが、そうコタロウはつぶやいた。自分は直接見ていないが、ティラミーゴたちは復活当初からエイジロウたちに協力してくれたし、村の子供たちにもフレンドリーだったという。タイガランスとミルニードルはイズクたちとあえて一定の距離を保っているようだが、それでも彼らとの協働という意味においては徹底しているようだった。

 その中でディメボルケーノだけは、仲間であるはずのリュウソウ族に対しても攻撃を仕掛けたのだ。その理由が"謎かけに答えられなかったから"では、気性が荒いとしか形容のしようがなかった。

 

「そう、かなあ」

 

 しかしエイジロウは、別の所感をもっているようだった。

 

「あいつ……まあ気ィ荒いのはその通りかもしんねーけどさ、ある意味公平にモノを見ようとしてるんじゃねーのかな」

「どういう意味ですか?」

「俺らにもワイズルーたちにも、同じように謎かけをして、答えられなかったら同じように攻撃したろ?それって、見た目や種族だけで敵味方を分けてないってことだと思わねえか?」

「!、………」

 

 考えすぎ、と切り捨てるのは簡単だった。しかしこの自分の十数倍も生きている少年は自分よりよほど純粋な感性をもっていて、それゆえ他人の心というものを深く思いやることができてしまう。自分もその、おそらく優しさと呼べるものに絡め取られて、気がつけば一緒に旅をしている。

 

「……もしそうなら、彼はきっとエイジロウさんを好きになってくれますよ」

「えっ、そ、そうか?……へへっ、なんか照れちまうな」

「まぁ、僕は別に好きでも嫌いでもないですけど」

「うぇっ!?」

 

 照れ隠しの言葉にショックを受けるエイジロウ。笑いを噛み殺していたコタロウの足下が……刹那、崩れた。

 

「ッ!?」

 

 宙に投げ出される身体。手をつないでいたエイジロウは咄嗟にそれを引き上げようとするが、崩れかかった足場では踏ん張ることができない。その場にうつ伏せになることで、かろうじて手を放さずにいるだけだった。

 

「ッ、コタロウ……!」

「〜〜ッ、熱い……!」

 

 腕一本で墜落せずにいる不安定さより、はるか足下から感じる熱への恐怖が勝った。霧のために見えていないが、そこにはマグマの滞留が広がっている。落ちれば骨も残らない。

 

「大丈夫……!今、引き上げてやるから!」

 

 言葉とは裏腹に、亀裂がどんどん広がっていることが肌身に染みてわかる。このままではどうなるか、聡明なコタロウでなくとも火を見るより明らかだった。

 

「放せ……っ、あんたまで墜ちる……!」

「ッ、ぐ……!」

「エイジロウさんっ!!」

 

 逆の立場ならエイジロウは、無理に振り払ってでも相手を救おうとしただろう。しかし言うまでもなく年長で、鍛えた身体をもっているエイジロウ相手では自分の力などひよこほどにもならない。

 しかしエイジロウが力を入れれば入れるほど、足場のヒビは広がっていき──

 

「──ッ、」

 

 エイジロウもついに、宙へと投げ出された。

 

(ッ、やべェ……でも、どうする……!?)

 

 このまま手を放して、リュウソウルを使う──自分は助かるかもしれないが、先に墜ちているコタロウは助からない。

 両方助かる選択肢があるなら即座にそれを選びとっていたけれど、その性格ゆえにエイジロウの判断は遅れた。そうして気づけば、底の見えぬマグマの海が目前に迫っている。

 

「ち、くしょおぉぉぉ……ッ!」

 

 こんなところで、何も成し遂げられないまま死ぬのか!後悔と絶望に叫ばずをえなかったエイジロウは刹那、熱せられオレンジに光る巌の塊を見た。

 マグマから飛び出してきたそれは、よくよく見れば特徴的な棘や牙をもっていて。──あぁ、そうだ。これは巌ではなく。

 

 その正体に気づいたところで、ふたりの視界は暗闇に染まった。

 

 

 *

 

 

 

 そもさん、汝に問う。

 その言葉をもう、幾人に投げかけただろう。次こそは、次こそはと思いながら、望む答えを返してくれた者は数えるほどしかいない。そうして答えられなかった者ほど決まってこう言うのだ。ヤツは意地悪く、凶暴な騎士竜だと。

 

 そんなことが積み重なって、彼は焦熱のマグマの中に封じられた。まあ、そんなことはいい。

 

 彼──ディメボルケーノが望む答えは、たったひとつだ。

 

 

 *

 

 

 

「……ロウさん、エイジロウさん!」

「ッ、ん……」

 

 絶えず名を呼ばれ、エイジロウの意識は急速に覚醒へと引っ張られた。

 

「……コタ、ロウ……」

「……はぁ」

 

 安堵のため息をつくコタロウの姿が、視界に入る。俺は……と考え込んだところで、記憶が濁流のように押し寄せてきた。

 

「!、俺ら、マグマの中に呑み込まれ……いやでも、あのとき──」

「──俺が救けた」

「!!」

 

 いかめしい第三者の声が響く。ぎょっと顔を上げたエイジロウが見たのは、オレンジ色に輝く、巨躯の騎士竜だった。

 

「ディメ、ボルケーノ……!」

 

 あのときマグマの中から飛び出してきたのは、ディメボルケーノだったのだ。灼熱の力を宿した彼は、マグマの焦熱の中でも活動できる。そこにとどまられては、ミエソウルなどを使っても易々とは見つからないわけだった。

 

「ふん、あんなところで死にかけるとは情けないヤツだ」

「う゛〜、そう言われると返す言葉がねえぜ……。でもありがとな、救けてくれて!」

 

 一点の曇りもない笑みを浮かべて礼を述べると、ディメボルケーノは一瞬息を詰めたようだった。コタロウがそれに目ざとく気づけたのは、エイジロウに対して抱いた感情がおそらく自分と同種のものだとわかったためで。

 

「──騎士竜ディメボルケーノ、あなたはどうして謎かけなんてするんです?」

 

 すっぱりと切り込むコタロウ。共感ゆえに、彼は今少し大胆になっていた。実際ディメボルケーノの目つきが鋭くなっても、怯えは湧いてこない。

 

「そんなことを訊いて、なんとする?」

「どうもしません、知りたいだけです。ダメですか?」

 

 ひとりと一体が睨みあう。そんな、永遠とも思える緊迫した時間が過ぎたあと、不意にディメボルケーノの纏う雰囲気が柔らかくなった。

 

「小僧、俺を恐れていないな!そんなヤツはリュウソウ族にいなかった!」

「僕は人間です」

「人間!人間か、そうか。ふははは!」ひとしきり笑ったあと、「そっちの赤髪小僧、おまえも人間か?」

「いや、俺はリュウソウ族だぜ!」

 

 コタロウに負けてはいられないと、心なしか胸を張って答えるエイジロウ。すると、

 

「そもさん、汝に問う!」

「うおっ!?……よ、よ〜し来いッ!」

 

「俺はなぜ謎かけ勝負を挑むと思う!?」

 

 謎かけですらなかった。コタロウを気に入りはしても、素直に答えるつもりはないということか。

 

「………」

 

 案の定、エイジロウは回答に迷っているようだった。もとよりその答はディメボルケーノの中にしかない。正解を導き出すことなど、困難に決まっているのだ。

 

(……エイジロウさん)

 

 しかしコタロウは、エイジロウなら大丈夫だと信じていた。根拠ならある。彼は自分のようなひねくれ者ですら、懐に入れてしまった。

 そして、

 

「──相手と、仲良くなりてェから!!」

「!」

「………」

 

 エイジロウらしい答だった。それを一点の曇りもない笑顔で言ってのける。このうえない彼らしさだけれど、対するディメボルケーノの沈黙から感情は伺えない。

 

「……不正解だ」

「ッ、………」

 

 駄目だったか。エイジロウの笑顔が萎み、しょげたものとなる。

 

「そっか……はぁ」

「何故、そう思った?」

「……そうだと良いなって、思ったんだ。おめェはきっと、良いヤツだから」

「良いヤツ?この俺が?」

「だっておめェ、俺らのこと救けてくれたろ」

「……それに、ドルイドンだろうとリュウソウ族だろうと公平に扱ってる。──でしょ?」

 

 コタロウも追随する。無論これは先のエイジロウの受け売りだが、だからこそ彼の所感を余すことなくディメボルケーノに伝えたかった。

 

「そうだ!だから絶対、おめェは良いヤツだ!」

 

 断言。彼もまた、めったなことでは他人をこうだとは決めつけない。それをしているのは、よほどの確信があるから。

 ディメボルケーノはその翠眼を眇めて、じっとエイジロウを見下ろしていた。「この愚か者がぁああああ!!」──そう怒鳴られて炎を浴びせられる覚悟はできている。それでも逃げるつもりはない、とも(流石に炎自体は避けるが)。

 しかしかの騎士竜の反応は、エイジロウの覚悟をある意味超えたものだった。

 

「……は、ははは。フハハハハハハ!!」

「!?」

 

 山じゅうに響きわたるのではないかと思うほどの激しい高笑いが、耳を劈く。聴覚に攻撃を受けるとは思っていなかったエイジロウである。慌てて耳元を押さえるが、既に手遅れ、頭がきんきんと痛んだ。

 

「──みな、俺の姿かたちを恐れ本質を見失う。そうしておまえたちリュウソウ族は、俺をこの焦熱の中に封じた」

「……ッ、」

 

 所在なさげな表情を浮かべるエイジロウを見て、ディメボルケーノはまた笑った。

 

「案ずるな、恨んでいるわけではない。ただ数千万年もの時の中で、おまえたちとドルイドン、双方がどれほど変わったのかを知りたかった。だから試したのだ」

「そう……だったのか」

 

 やはりディメボルケーノは、ただ理不尽で荒々しいだけの騎士竜ではなかった。他者を精一杯理解しようと、人語を話し、問いを投げかける。そういう、不器用な男なのだ。

 

「正解を導き出すことがすべてではない。おまえは俺を恐れず、感じたままを素直に答えた。──それで良い」

「!」

「おまえは、愚か者ではない……ということだ」

 

 その言葉は、ディメボルケーノがエイジロウを認めたことに他ならなかった。思わずエイジロウは彼に歩み寄り、その身にふれる。オレンジ色のつるりとした皮膚は、見た目どおり火傷しそうなほどに熱かった。

 

「なぁ、ディメボルケーノ。俺と……たちと──」

 

 願ってやまないその言葉を、エイジロウが発しようとしたときだった。

 

 

「シャアァァァァッ!!」

「!?」

 

 突如マグマから飛び出してきた怪物が、背後からディメボルケーノに襲いかかった。

 

「ぐううッ!」

「ディメボルケーノっ!?」

 

 皮膚を切り裂かれ、ディメボルケーノがうめく。彼は咄嗟に振り向き、すかさず火炎を吐きつけた。

 しかし、

 

「シャアァッ!」

「!?」

 

 炎をものともせず突き進む、暗褐色の皮膚の怪物。そのもうひと太刀が喉元に浴びせられる……というところで、エイジロウが飛び出した。

 

「ッ、カタソウル!!」

『ガッチーン!!』

 

 己の身体を硬化させ、爪を受け止める。それでも灼熱がエイジロウの顔を歪ませた。ディメボルケーノにも劣らぬ凄まじい体温だった。

 

「エイジロウ、大丈夫か!?」

「大したことねえ……!でも、こいつ!」

 

「──うわぁあっ!?」

「!?」

 

 今度はなんだ!?振り返った彼らは……自らの血の気が引く音を、聞いたように思った。

 

「ハロー、リュウソウジャー?」

「挨拶なんてすることないっスよ、ワイズルーさまぁ!」

 

 ワイズルー、それにクレオン。怪物──マイナソーにまぎれて忍び寄っていた彼らは、コタロウを手中に収めていた。

 

「コタロウ……!」

「グォオオオオッ!!」

 

 エイジロウに負けじと敵を威嚇するディメボルケーノを、ワイズルーはせせら笑った。

 

「おぉ、コワイコワイ。だが貴様の炎は、この山のマグマから生まれたサラマンダーマイナソーには効かないのでショータァイム!」

「オレのエキスはマイナソーの自然発生を促進することもできるんだ!どうだすげぇだろー!?」

「ッ!」

 

 新たな事実それ以上に、コタロウを人質にとられている今の状況が恨めしい。リュウソウケンを構えながらも、迂闊に手が出せないのだ。

 

「エイジロウさんっ、僕のことはいいから──!」

「シャラップ!」

「ぅぐっ!?」

 

 ワイズルーの拳が鳩尾にめり込み、コタロウはぐったりと脱力した。

 

「コタロウっ!!──てめぇらぁ!!」

 

 怒りを露にするエイジロウだったが、その激情はこの場に限ればなんの意味ももたない。ワイズルーとクレオン、そしてサラマンダーマイナソーはコタロウともども忽然と姿を消してしまった。「この坊やを救けたくば、灼熱の頂に来たまえ」と言い残して──

 

「グ、ウゥゥゥ……ッ!」

 

 口惜しげに唸るディメボルケーノ。頼みの火炎が通用せず、結果として何もできなかったのだ。

 対するエイジロウは、

 

「……ディメボルケーノ、」

「!」

 

 ひどく静かな声だった。仲間を、友を敵に拐われたのだという動揺は感じられない。

 いや……そうではないのだ。表に出たものがすべてではないと、ディメボルケーノはよく知っている。

 

「一緒に、戦ってくれ……!」

 

 その燃えたぎるような瞳。ならばディメボルケーノの答も、決まっていた。

 

 

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