草原の片隅に、少年たちの威勢良い声が響いていた。
「うおぉぉぉぉッ!!」
分厚い鎧を纏って突撃する眼鏡の少年を、緑髪の小柄な少年が迎え撃つ。──テンヤと、イズク。こうみえて齢150を超えた、リュウソウ族の騎士たちである。
「はあッ!!」
いつでもどこでも発音のはっきりした声をあげつつ、斬りかかるテンヤ。それを同じリュウソウケンで受け止めるそぶりを見せつつ、イズクは素早く背後に引いた。
「ムッ、逃げるのか!?」
「きみは僕よりずっと体格が良いからね。まともに受け止めたら、パワーじゃ競り負ける」
だから攻撃は、全力では受け止めない。巧く受け流し、素早く次のチャンスにつなげるのだ。
「こんなふうに、ねっ!」
力いっぱい地面を蹴り、再び一気呵成、距離を詰める。目にも止まらぬ速さに、テンヤは思わず目を回しそうになる。
「ッ、流石は、疾風の騎士……!」
一方──威風の騎士はというと。
「おらァ、どしたァ!?」
──BOOOOM!!!
「うおぉっ!?」
「ひいい!?」
刃が一閃するたびに起きる爆発。隠しようもなくビビり倒す少年少女を、彼はサディスティックな表情で追い詰めていた。
「逃げてんじゃねーーーよ、クソ髪丸顔ォ!!」
「ッ、そこまで言われて!」踏みとどまり、「立ち向かわなきゃ、漢じゃねえ!!」
「カタソウル!」──リュウソウケンにソウルを装填し、鍔を噛み合わせることによって発動させる。
刹那、エイジロウの露出した部位の皮膚が巌のように硬質化する。そこにカツキの刃が容赦なく振り下ろされ、
──BOOOOM!!!
再び起きる、ひときわ大きな爆発。しかし爆風の中から覗くエイジロウは、尖った歯を剥き出しにして笑っていた。
「それじゃ、俺を吹っ飛ばすなんてできねえぜ……!?」
「……上等ォ!!」
カツキもまた、凄絶な笑みを浮かべる。男同士、半ば意地の張り合いともいえる戦い。
「……私、置いてけぼりやん」
チーム紅一点ながら、剛健の騎士などというメンバー一ごつい称号を与えられた少女は、その戦いの一部始終を呆然と見つめているのだった。
──戦いを見守っている者は、他にもいた。
「ティラァ……」
エイジロウの相棒である騎士竜、ティラミーゴ。そしてテンヤの相棒トリケーンと、オチャコの相棒アンキローゼ。身体の大きさゆえ一行と常に寄り添っていることはなかなかできない彼らだが、戦闘時以外でも時折こうして様子を見守っているのだ。
幾千万年の眠りから覚めて、彼らは初めて相まみえたリュウソウ族の少年たちだ。そして良くも悪くも"騎士竜"でしかない自分たちに、名まで付けてくれた。リュウソウ族と騎士竜はあくまで同盟関係であって、対ドルイドンのためにリュウソウジャーとしての力を与えているのだが、それでも信頼や親愛というものは厳然として存在するのだ。
(エ、イジロウ)
上手く発音こそできないが、記憶に刻んだ相棒の名を心中で呼ぶ。きっとトリケーンとアンキローゼも、同じようにしていることだろう。腕を磨くために日々努力する相棒の姿は頼もしいし、美しい。
しかし、気がかりなこともある。
「次はこいつでいくぜ!」
そう言ってエイジロウが取り出したのは、メラメラソウルだった。
「!?、ティラ……!」
駄目だ、それは。
慌てて駆け出そうとするティラミーゴだったが、その頭越しにエイジロウの前に飛び出す者があった。
「この、愚か者めがぁぁ!!!」
「!?」
突然目の前に現れたオレンジ色の巨体に、エイジロウ……否、その場にいたリュウソウジャー全員がぎょっとして動きを止めた。
「でぃ、ディメボルケーノ!?いきなりなんだよ……?」
「なんだよではない!生身でメラメラソウルを使おうだなどと!」
「??」
首を傾げるエイジロウに対し、猛りながらもディメボルケーノは滔々と説明してくれた。曰く、"強竜装"用のリュウソウルは強力なだけに負担が大きく、リュウソウメイルを媒介にしなければ暴走したうえ、肉体を傷つけるおそれがあるのだと。
「──わかったか、この愚か者がぁ!!」
もう一発、容赦のない罵倒。エイジロウは思わず首をすくめて「スンマセン!」と謝罪したが、程なくその童顔に笑みを貼りつけてみせた。
「でもあんがとなぁ、ディメボルケーノ。心配してくれて!」
「ムッ……」
愚か者とまで罵った相手に素直に感謝を伝えるエイジロウは、あまりに人間……もといリュウソウ族ができすぎている。ディメボルケーノは赤面したが、もとより赤に近い色合いの肌なので幸いに気取られることはなかった。
「……ティラ……」
いつの間にかディメボルケーノを中心として、少年少女たちの輪が出来上がっている。ただでさえ巨体が岩場の大部分を占拠しているのだ、自分たちまでが入っていったらエイジロウたちが窒息してしまう。
ティラミーゴと仲間の騎士竜たちは結局、相棒に顔を見せることないままその場をあとにした。エイジロウたちが彼らに気づくことは、ついぞなかった。
*
"賢者の釜"で騎士竜ディメボルケーノを仲間に加えたリュウソウジャー一行は、次の目的地を南にあるコランの港町と定めていた。そこから出る定航船に乗って、南の大地へ行く──この東方の大地に"始まりの神殿"の痕跡がない以上、新天地を目指すのは必定だった。
「南の大地かぁ……どんなとこなんだろうな」
夕餉の干し肉を齧りながら、思いを寄せるようにつぶやくエイジロウ。彼にとってリュウソウ族の村から一歩でも離れたすべての場所は、等しく新天地である。とりわけ海峡を隔てた南方となれば。
「そうだな。俺が兄さんたちから聞いた限りでは、昼夜問わず温暖で見たことのないような木々がたくさん生えた森がそこかしこにあるそうだぞ!」
「へ〜、なんか珍しい木の実がとれそう!」
色気より食い気のオチャコが目を輝かせて言う。狩猟や採集、多少の農耕で生活してきた彼女らにしてみれば、木の実も貴重な食糧なのだ。
「コタロウくんは何か知らんの?南の大地のコト」
140歳以上も若い(?)ながら、旅については先達になるコタロウに訊く。本を片手にやはり干し肉を齧りながら、彼は困り顔を浮かべた。
「と言っても、僕も自分で行ったわけでは……ああでも、小さい頃母と一緒に海沿いの街に旅行したことがあった気がします。海がきれいでした」
「食べ物は!?」
「……そこまで覚えてないですよ」
まだまだ子供のコタロウが言う"小さい頃"なのだから、まだ言葉をやっと話せるかどうか、という年齢のときの話なのだ。
「じゃあデクくんカツキくん!ふたりなら知っとるんちゃう!?」
オチャコのたまごのような目が、ぎゅんと彼方を向く。いや実質的には十数メートルなのだが、そこには心理的障壁が存在していた。
自分たちと同じく火を焚き、やはり同じように食事をしているイズクとカツキ。前者はこちらに気づくと笑顔で手を振ってくるのだが、後者は中指を立てて絶対に近寄るなと無言で主張してくる。
「……あかんわ、近づけん」
「まったく……彼はいつまで俺たちと距離をおくつもりなんだ。しかもそれにイズクくんを巻き込むとは!」
イズクとは馬が合うらしいテンヤである。どうせなら道中色々と話をしたいし、経験豊富な彼に叡智の騎士として教えを乞いたいこともたくさんあるというのに、カツキが殊更距離をとりたがるせいでコミュニケーションがとれないのだ。
「建前はともかく、実際我々は五人で戦っているんだ。ひと纏まりになって、フォーメーションを組むなり作戦を考えるになり、すべきことはたくさんあるはずなんだ!そうは思わないか!?」
「まぁ、そりゃそうなんだけど……な」
テンヤの気持ちは、長い付き合いなだけあってよくわかる。エイジロウとて彼らともっと親しくなって、くだらない話をして笑い合ったり、切磋琢磨をしたいのだ。
しかしカツキには何か事情があって、イズク以外の他者を警戒しているようにエイジロウは感じていた。それでも、ともに戦う同志としての関係が少しずつ構築されていることも。
「……みんながみんな、すぐに上手くいくわけじゃねえさ。あいつとはもう少し時間が必要なんだ、きっと」
「カツキくん、意地っ張りやもんねぇ」
「そうそう、そういうこと!」
橙の炎に照らされて、快活に笑うエイジロウ。
──そんな彼をやはり遠くから見つめる、ティラミーゴの姿。
「ティラ……」
やはり自分の相棒は麗しく、愛らしい。ティラミーゴはそんなことを思っていた。自分たちより圧倒的にちいさな身体で、全身全霊、情熱をかけて生きているリュウソウ族。種族の違いはあっても、彼ともっと親しくしたい。エイジロウたちがイズクとカツキに対して向けているのと、まったく同じ感情がそこにはあった。
しかしそれと同じように、ティラミーゴたち騎士竜と彼らにも絶対的な障壁があった。無論カツキのように、拒絶されているわけではない。
「ティラ──!」
そのとき、炎色の騎士竜が巨体を揺らしてエイジロウたちに迫るのが見えた。
「そもさん、汝らに問う!」
「お、おう……いきなりだな、ディメボルケーノ」
「肉と魚、どちらが好きだ!?」
謎かけもとい単なる質問に、一同が揃って破顔する。
「俺は肉!でも魚も食うぜ!」
「俺は……どちらかといえば、魚だな」
「お肉!」
「……まぁ、魚のほうが」
「よし!ならば明日は魚を獲ってやろう!」
「おっ、良かったなコタロウ!おめェディメボルケーノに愛されてるぜ!」
「あ、あい……?」
その言葉が適切かはともかく、ディメボルケーノはとりわけエイジロウとコタロウに心を預けている。それは遠くから見ていてもよくわかることだった。
「へへっ。おめェはほんと頼りになるなぁ、ディメボルケーノ!」
「!!」
エイジロウのそのひと言は、ティラミーゴの心の柔らかいところを抉った。それが黒い感情に育つまで、時間はかからなかった。
*
一方その頃、である。
「ああおいたわしや、ワイズルーさま……」
ぽくぽく、ちんと木でできた小楽器を棒で叩きながら、クレオンはぐすぐすと鼻──それらしいパーツは見当たらないのだが──を啜っている。その眼前には、祭壇に祀られたワイズルーの遺影。無論この世界に写真はないので、肖像画である。誰が描いたかを追及してはいけない。
「まさかタンクジョウさまに続いて、この人まで……し、死んでしまうなんてぇ」
「──まだ生きてまっす!」
「!」
棺桶を突き破り、ワイズルーが起き上がる。一瞬びくっと肩を揺らしたクレオンだったが、すぐに深々とため息をついた。
「……この寸劇にいったいなんの意味があるんスか、ワイズルーさま?」
「ナンセンス、芝居に意味を求めてはいけないのだよクレオンくん……グハッ!!」
前触れもなく吐血したワイズルーは、そのまま棺桶の中に倒れ込んだ。
「ちょっ……やっぱりこうなる!!」
「ハハ、ハ……ハ。弱っているのは事実……すまないが私は暫く休む……降板は、しないけど……」
そんなことをつぶやいたきり、静かになる。一瞬本当に死んだのかと思ったが、どうやら眠ってしまっただけのようだ。
──リュウソウレッドとの一騎打ちに敗れ、マグマの中に墜落したワイズルーはそれでも生きていて、どうにか自力で這い上がってきた。無論まったくの無事ではなく、身体がところどころ黒く焼け爛れたようになっているが。人間なら骨も残っていなかっただろう。
そんな状況からの生還なので、彼は弱っていた。暫くはエンターティナーとしての活動も休止となれば、クレオンとしては次のビジネスパートナーを捜すしかない。
「……とりあえず、ヤツらの動き見て考えるかぁ」
憎きリュウソウジャー。その進路によっては、侵略の食指を伸ばしているドルイドンを当てることができる。──実際、彼らが向かう南海でも、ワイズルーにも負けぬ邪悪が牙を研ぎ続けていた。