【完結】僕のリュウソウアドベンチャー   作:たあたん

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12.アジれティラミーゴ!? 2/3

 

 翌日。コランの港町に向けて南下を続けていたリュウソウジャー一行だが、途中、イズクとカツキの意向で南東の最端にあるダイノ古代遺跡群に立ち寄ることとなったのだった。

 

「古代遺跡ってことは……ひょっとして、そこにも騎士竜が!?」

 

 目を輝かせて質すエイジロウだったが、対するカツキの答はにべもないものだった。

 

「ンなホイホイ見つかんなら五十年も苦労してねえわ、アホ」

「アホ……!」

「まったくきみという男は本当に……ハァ、ならばどんな目的があるというんだ?」

 

 もはやいちいち突っかかるのも疲れたらしいテンヤが訊く。と、やはりきちんと答えてくれるのはもう一方の片割れのほうで。

 

「リュウソウルの素材集めと、マイナソー退治だよ」

「!、リュウソウルとマイナソー……ちょ、ちょっと整理させてくれないか」

 

 直接は繋がらないふたつの目的である、テンヤが混乱するのも無理はなかった。

 

「まず……そこはリュウソウルの素材がとれるのか?」

「うん。どうも前の戦いの頃に騎士竜たちの住処があったらしくて、その身体の一部が化石になって残ってるんだ」

「化石ってことは……元の騎士竜たちはもう死んじまったのか?」

 

 その問いに、イズクはほんの少し寂しげな表情を浮かべて頷いた。鋼鉄の肉体をもつ騎士竜たちだが、生き物であることに変わりはなく、寿命も当然ある。あるいは、ドルイドンとの激しい争いの中で戦死したものも。

 

「元々みんなが持っているリュウソウルも、そのほとんどが化石、つまり騎士竜の遺体の一部から造られたものなんだ……って、これは知ってるよね」

「うむ、それは習っているぞ!」

「威張んな。……あそこにはまだ見つかってねえ騎士竜の化石がある」

 

 つまり、新たな種類のリュウソウルを手に入れられるかもしれないということ。

 

「それはわかったけど……マイナソー退治ってのは?」

「──ダイノ古代遺跡群には、たくさんの腕を持つ巨大化したマイナソーがいるんだ。それもおそらく、既に完全体の」

「!!」

 

 完全体──つまり、宿主を憑り殺して独立したかもしれないマイナソー。

 無論、自然発生したということも考えられる。しかしそうでない可能性にまず思い至って、エイジロウたちは戦慄すると同時に拳を握りしめた。

 

「あのマイナソー、すごく強かった。僕らとタイガランス、ミルニードルだけじゃ……とても倒せないようなヤツなんだ」

 

 表向き冷静にそう言うイズクもまた、その表情を険しくしていた。隣のカツキが眉間に皺を寄せているのはいつものことだが。

 

「でも今は違う、──きみたちがいる」

 

 キシリュウオー"ファイブナイツ"を構成する五大騎士竜に、ディメボルケーノ。その戦力をもって、彼らは既に二体のドルイドンを倒したのだ──うち一体は生存しているが──。

 今なら、勝てる。イズクはそう確信していた。

 

「よ〜しっ、そう言われると俄然やる気が湧いてきたぜっ!!」

「うむ!俺たち五人……いや全員、力を合わせて頑張ろう!」

「……別にいいですよ、頭数に入れてもらわなくても」

「なに言うとんの、コタロウくんだって立派な私らの仲間なんやから!」

 

 実際、頭脳労働では少なくともエイジロウとオチャコの先を行っているのだ、コタロウは。

 

「それに騎士竜のみんなもいる。──しまっていこう!」

「「「おー!!」」」

「……おー」

「……けっ」

 

 カツキだけは相変わらずの反応だったが、この場にいる面々の心はひとまずは一致した。

 

 ……そう、この場にいる面々だけは。

 

 

──それからおよそ、一刻後。

 

「うわぁああああああ──ッ!!?」

 

 

 リュウソウジャーは、大ピンチを迎えていた。

 

「グオォアァァァッッッッ!!!」

 

 複腕と言うのだろうか、ひとつの肩口から幾つも枝分かれした逞しい腕を振り上げ、暴れまわる巨人。──ヘカトンケイルマイナソーという大仰な名前もあるのだが、エイジロウたちは当然それを知らない。

 いずれにせよその暴力の嵐を前に、彼ら竜装の騎士たちは防戦どころかほとんど逃げまどうばかりに等しい状況に陥っていた。なぜか。

 

「なんで……!なんで来てくれねえんだ、ティラミーゴっ!?」

 

 そう──ティラミーゴ、ついでにトリケーンとアンキローゼが戦場に現れないのだ。いつもなら相棒であるエイジロウたちが呼べば、数十秒と経たずに駆けつけてくれるというのに。

 

「ッ、やっぱりタイガランスたちだけじゃ……!」

 

 今はリュウソウジャーが五人いて、さらにディメボルケーノも加わっている──とはいえ、やはり巨大な敵に対する要はキシリュウオーだ。ファイブナイツ、あるいはそれに匹敵するだけの力がなければ、この敵に勝つことはできない。

 

「来ねえなら知恵絞って戦るしかねえんだよ!──ブットバソウル!!」

 

 ブットバソウルを剣に装填し、鎧を纏うと同時に跳躍するカツキ──リュウソウブラック。ミルニードルの唯一滑らかな部分のある頭に乗り上げると、彼は突撃を命じた。

 

「彼は何をする気なんだ……!?」

「わかんねえけどッ、俺もいくぜ!──メラメラソウル!!」

 

 燃えさかる炎のリュウソウルを剣に装填し、

 

『強!』

 

 一回、

 

『リュウ!』

 

 二回、

 

『ソウ!』

 

 三回、

 

『そう!』

 

 四回。

 

『──この感じィ!!』

 

 リュウソウレッドの身体が、炎を纏う。──文字通りめらめらと燃える、メラメラソウルの顕現した鎧。生きた騎士竜のそれは、通常のものより遥かに強大なパワーを発揮するのだ。

 

「ディメボルケーノ、あいつらみたいに俺も乗せてくれ!」

「生意気を言う!」

 

 表向きそう腐しつつ、ディメボルケーノは願いを聞いてくれた。その頭頂に飛び乗り、ミルニードルに乗ったブラックに並ぶ。

 

「ンだてめェ、マネしてんじゃねえ!!」

「言ってる場合かよ!おめェと俺、炎の力を合わせるんだ!」

「……チィっ!」

 

 戦いで足を引っ張り合うのは御免と、そう言ったのは他ならぬカツキ自身である。自らの言葉を違えるわけにはいかなかった。

 

 そうしてヘカトンケイルマイナソーの複腕による攻撃を掻い潜り、距離を詰めるふたりと二体。一定の箇所にまで達した瞬間、彼らはリュウソウケンを振り上げた。

 

「ボルカニック──」

「ダイナマイトォ──」

 

「「──ディーノ、スラァァッシュ!!!」

 

 噴火と、爆破。よく似たふたつの炎の力が同時に振るわれ、マイナソーが劫火の中に呑み込まれる。

 

「っしゃあ!」

 

 上手くいった!スケールの差ゆえ倒すまでは難しくとも、ダメージは確実に与えられたはずだ。

 エイジロウの分析は、普通ならなんら間違いのないものだ。メラメラソウルもブットバソウルも、火のエレメントを宿しているだけあって破壊力なら他の追随を許さない。並みのマイナソーなら、たとえ巨大化まで及んでいてもなお十分な威力となったことだろう。

 

 しかし相手はそもそも、並みのマイナソーなどではなかったのだ。

 

「グガアァァァッ!!!」

「!?」

 

 炎を掻い潜るようにして、ヘカトンケイルマイナソーが姿を現す。傷ひとつない巨躯から繰り出される拳は、その風圧だけで二体の騎士竜を吹き飛ばした。

 

「うわぁあああっ!!?」

「ッ、クソが!」

 

 レッドがそのまま地面に叩きつけられる一方で、ブラックはブットバソウルによる爆破機能をうまく使って着地してみせた。実戦経験の差が明らかに出たが、それで勝利につながるわけではない。

 

「ぬううっ……なんたる不覚!」

 

 そして、ディメボルケーノはじめ騎士竜たちも消耗している。──このまま戦い続けたところで、勝利は見えない。

 

「……潮時だ。いったん退いて、態勢を立て直そう」

「ッ、それしかないか……!」

 

 しかし、マイナソーは侵入者を許さないとばかりに迫ってくる。そこですかさずディメボルケーノが火炎を吐き出した。火柱によって、一時的に空間が寸断される。

 その間隙を突いて、彼らは撤退を果たしたのだった。

 

 

 *

 

 

 

「さて……撤退できたは良いものの、」

「何も良かねえわ」

 

 問題は何も解決していない。というかここから直視することになるのである。あてにしていたティラミーゴたちが、ついぞ戦場に現れなかったという事実。

 

「!、もしや、何かあったのでは……ドルイドンの罠にかかったとか、」

「でもこの一帯にはもう、ドルイドンはいないんちゃう?ワイズルーは倒したし……ああ、クレオンがいたっけ」

 

 今思い出したように、オチャコ。クレオンも厄介な敵には変わりないのだが、彼はマイナソーを誕生させ他のドルイドンを動かすことが主であり、自力で何かをすることはあまりない。ゆえにそういう評価になるのだった。

 

「ッ、どうしちまったんだよ……ティラミーゴ、みんな……!」

 

 エイジロウがくしゃりと顔を歪めたときだった。傍らの森が、がさりと動いたのは。

 

「!、ティラミ……」

 

 この気配は間違いない!一転表情を輝かせ、振り向くエイジロウ。テンヤとオチャコもまた同様だった。

 果たしてその感知はまったく正しかった。そこには確かに、彼らの相棒たる三体の騎士竜の姿があった。

 しかし、

 

「……おめェらそれ、何やってんだ?」

 

 彼らが固まるのも無理はなかった。

 

 そこにいた騎士竜たちは皆、一様に鉢巻やたすきを掛け、背中から看板を生やしていたのだ。

 

「ティラァ、ティラアァ!!」

「な、なんなん……?」

「何か書いてあるが……読めん!」

 

 それでもかなり熱のこもった書きぶりであることは伝わってくる。一同が困惑のままに首を傾げていると、

 

「あれ……多分、古代文字だ」

 

 イズクのつぶやきに、皆の視線が集中する。

 

「古代文字……ってことは、昔のリュウソウ族が使っていたものですか?」

「うん。だから、騎士竜たちが覚えていてもおかしくない……よね?」

「ンで俺に訊く。つーかとっとと解読しろや、クソナード」

「人にものを頼む態度かそれが!?」

 

 テンヤがしっかり聞き咎めるが、当のイズクはもう慣れたものである。大きいにも程がある瞳を凝らし──そうしているとカツキにも負けず人相が悪くなるから不思議である──、書かれている文字を読み取りはじめた。

 

「……ス、ト、けっ、こ、う、ちゅう」

「すと?」

「おまえ、たちは……われわれ、の、きもちを、わかって、いない」

「すととは?」

「……正しくはストライキと言って、賃金で雇われた労働者が、雇った側への不満を表すために仕事を放棄する行為ですよ」

「おぉ流石コタロウくん、デクくんテンヤくんに負けず劣らず物知りや!」

「問題はそこじゃねえだろ」

 

 「ナニ考えてんだ」とカツキ。騎士竜が労働争議にかまけてマイナソーとの戦いを放棄するなど、前代未聞である。

 

「ティラアァァァァ!!!」

「わ、わかったから落ち着けって!……いやわかってねえけど!」

「いったい何が不満だというんだ、トリケーン!?」

「言いたいことあるならちゃんと言うてよ、アンキローゼ!」

「──!!」

 

 もののたとえで放ったひと言は、人語を話すことのできないティラミーゴたちに深々と突き刺さった。脳裏に浮かぶのは、エイジロウたちと楽しそうに(?)おしゃべりをするディメボルケーノの姿。

 

「ティイィラァァァァ!!!」

 

 結果──彼らは、激怒した。

 

 

 *

 

 

 

「………」

 

 再び、旅中の夜である。前日と異なるのは、焚き火に照らされた辺り一帯が重苦しい沈黙に陥っていることか。

 

「……余計、怒らせちまった、な」

「……うむ」

「や、やっぱり私のせい!?……だよね」

 

 「おめェだけのせいじゃねえよ」と、力なく微笑むエイジロウ。決定的な言葉を発したのはオチャコかもしれないが、皆、冷静な言動ができていなかったのだ。

 

「ティラミーゴたちは、喋れないことを気にしている……ということでしょうか」

 

 推測を口にしつつ、コタロウはちらりと傍らを見遣った。そこには焚き火の橙に照らされて、じっと佇むディメボルケーノの姿があって。

 

「もしやヤツら、俺の存在を疎んでいるのか?」

「ッ、そんなこと!」

 

 そんなことはない──そう言い切れるだけの交流が、今まであっただろうか。村を出て以降、彼らとは戦いの中でのつながりしかない。──現代に甦った直後、村の子供たちと楽しそうに遊んでいたティラミーゴの姿が思い起こされる。

 

「……もしかして、あいつら──」

 

 そのとき、傍らの茂みががさりと動いた。

 

「ティラミーゴ!?」

 

 反射的に立ち上がりかけたエイジロウだったが、そこから姿を現したのはイズクとカツキだった。

 

「!、イズクくん……カツキくん」

「……どうやった?アンキローゼたち……」

 

 ふたりは相棒の騎士竜たちとともに、三匹の説得に赴いてくれていたのだ。尤も彼らも騎士竜と会話ができるわけではないので、実質的には相棒の付き添いなのだが。

 

「……正直、かなり意地になってるみたいだ。タイガランスが粘ってくれてるけど──」

「けっ」

 

 ちなみにミルニードルのほうは、そもそもやる気がなかったのか早々に役割を放棄している。基本的に戦いにしかその姿を見せないので知られることもなかったが、彼は相棒以上に辛辣なところがあるのだった。

 

「てめェら、」

 

 そのカツキが、彼にしては静かな声をあげた。

 

「連中とそこにいる火山野郎、どちらか選べっつわれたらどうする?」

「!、そんな話になっているのか!?」

「なるかも知んねぇな」

 

 皮肉めいた物言い。しかしそれは現実の可能性として、少年たちの心に刺さった。実際、ティラミーゴたちの怒りと不満はそれほどまでに根が深いのだ。

 

「そんなの……選べるわけねえよ。どっちも大切な仲間で、相棒だ」

「甘ぇなクソ髪。選ばなきゃなんねえときっつーのは、必ずあンだよ」

 

「──それでも、」

 

 声をあげたのは、イズクだった。

 

「どちらにも手を伸ばすことを、あきらめちゃいけないときだってある。──大丈夫、ティラミーゴたちは必ずわかってくれるよ」

「……イズク、──そうだよな」

 

 そして──今度こそエイジロウは、堂々たる様で立ち上がってみせた。

 

「タイガランスだけに任せておくわけにはいかねえ。俺、自分でティラミーゴと話すよ」

「うむ……!俺も、俺を選んでくれたトリケーンをこのまま放ってはおけない!」

「やったろ、──説得や!!」

 

 そう──彼らは、こういう少年たちだ。普通の人間の倍近くも既に生きていながら、恐れというものを知らない。物事を深く考えない代わりに、どんなときでも相手でも、その心のままに突っ込んでゆける。

 愚かだと嘲うのは簡単だ。しかし何かと理屈をつけて、結局一歩も踏み出さないより余程マシなのではないか。

 

(そのおかげで、僕は今、こうして生きている)

 

「イズク、ティラミーゴたちのところに案内してくれ」

「わかっ──」

 

 イズクが頷きかけたときだった。突如として地面が、轟音とともに揺れたのは。

 

「ッ、なんだ!?」

「地震……か?」

「違ぇ!この揺れ方は……」

 

 地下からくるものではない。地上から、踏み鳴らしたような──

 

 

「──ウォオオオオオッ!!!」

 

 

 森を薙ぎ倒すようにして、複腕の巨人が姿を現した。

 

 

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