リュウソウ族の守護神、騎士竜を甦らせたエイジロウたち。騎士竜に選ばれた彼らは、リュウソウジャーと呼ばれる伝説の騎士の力を手に、村を襲った邪竜を打ち破ったのだった──
──だった、けれど。
「そもそも、
率直にすぎるエイジロウの問いは、まさにその守護神たるものを背にしては不躾に過ぎるものだった。案の定、隣のテンヤが顔を顰めている。
ただ、当の騎士竜たちは極めて鷹揚なものだった。中心たる赤い騎士竜などは、「ティラ〜♪」と上機嫌な声を発しながら村の子供たちの遊具になっているありさまだった。
ゴホンと咳払いをしつつ、長老が口を開く。
「ひと言で言えば、進化した恐竜だな」
「進化、ですか?」
「6500万年前、我らリュウソウ族の祖先とドルイドンが相争っとったのは知っとるだろう。奴らの強大なパワーに対抗するためには、我らだけでは力不足だった。そこで恐竜たちの力を、借り受けることにした」
リュウソウ族と恐竜の連合軍はドルイドン相手に勝利を続けたが、そんな折なんの前触れもない巨大隕石の襲来によりこの星は氷河期を迎えた。ドルイドンの生き残りたちはあっさり星を捨てて宇宙へ逃げ、戦いは終わった。しかし激変する環境に耐えられず、恐竜たちもあえなく絶滅した……と、されている。
「実際にゃ、一部が生き残っとったんだ。そいつらは環境に対応すべく進化し、どんな荒れ果てた世界でも生き抜けるだけの強靭な肉体を手に入れた」
「それが……騎士竜?」
「そういうことだ。尤も我らの先祖は、こいつらを封印しちまったんだがな……」
「何故、そんなことを……?」
「わからん。てっきりそのでけぇ力を恐れて無理やり祀り上げたんだと思ってたが……」
ティラノサウルスに似た赤の騎士竜は、凶暴そうな容姿に似合わず子供たちと楽しげに戯れていて。無理に封印されたのだとしたら、リュウソウ族に恨みをもっていてもおかしくないだろう。
彼らはいったい何を思い、6500万年の眠りに甘んじたのだろう。翠に輝く瞳を、エイジロウはじっと見つめていた。──そして、
「……ティラミーゴ」
「ん?」
「え?」
「ああ……こいつの名前。ずーっと西の国の言葉で、友だちのこと"アミーゴ"って言うだろ?こいつの姿見てたら、思い出したんだ。──どうだ?」
赤の騎士竜はエイジロウをじっと見下ろしたあと、「ティラ〜!」と嬉しそうに鳴いた。
「っし、決まりだな!」
「名前、名前かぁ……考えとらんかった」
「エイジロウくんは案外センスがあるのだな!残念ながら俺にはないから……兄さんに相談してみようか……」
騎士竜の名付けというささやかな課題に悩む新米かつ伝説の騎士たち。微笑ましい光景には違いないのだが。
「後にせい。これから忙しくなるぞ」
「?」
結界は壊れ、村は今無防備な状態にある。ドルイドンがあきらめて回れ右してくれるとは、とても思えないのだった。
*
その危惧は的中していた。
侵略者たるドルイドン・タンクジョウは、予想だにしない敗北に怒りを露にしていたのだ。
「おのれリュウソウ族め、まさか騎士竜を甦らせ、マイナソーを倒すとは……!──クレオン!」
「なんすか、タンクジョウさまぁ?」
そろばん片手に帳簿を付けているクレオンの姿は、流石にマイナソーの"製造"から販売までを一手に担う商人なだけのことはあった。ただそんな態度までも、今はタンクジョウの心を逆撫でする。
「金勘定なんぞ後にしろ!」
「なぬ!?なんぞとはなんぞ!!」
「カネは商人の命なんだぞ!」と怒鳴り返すクレオンであったが、
「相場の倍払ってやる……。あの村を攻略できるマイナソーを連れてこいっ、今すぐにだ!!」
「倍!?」
その言葉に、クレオンは思わずそろばんを放り出して立ち上がった。次の瞬間には慌ててそれを拾い上げたのだが。
「すぐ見繕ってきやす、毎度ありっ!」
意気揚々とシャウトしたと思えば、ビシャリと肉体を液状化させ大地の隙間に消えるクレオン。タンクジョウはとうに彼を見てはいない。
「待っていろ、リュウソウ族……!」
憎悪に滾る瞳は、眼下の村を睨みすえていた──
*
エイジロウたちの叙任から二度目の夜を迎えた村では、昨夜以上に慌ただしい時が過ぎていた。騎士たちが村中を慌ただしく駆けずり回り、一般の村民たちは固く戸締まりをして家にこもっている。傍から見ても、非常時であることが明らかな状況。
その中にあって、三人のマスターは今後の対応を協議していた。
「マスターピンク、結界の状況は?」
「皆で張り直している最中よ。でも元の通りにするには、最低でも三日はかかる」
「……その気があるなら、それまでに攻めてくるやろな」
タイシロウの言葉は、苦しいが真実に他ならなかった。結界がだめなら、他の防備に頼らざるをえない。
「村の境界は、復活した騎士竜たちが守ってくれている。それが救いか」
「そやな。ま、エイジロウたちもリュウソウジャーになったしなぁ」
「あいつらがなぁ」と感慨深げな表情を浮かべるタイシロウである。もはや伝説でしかなかった鮮やかなる鎧騎士たちの姿を目の当たりにしたとき、その心は少年のように躍った。無論、マスターとして露骨にはしなかったが。
「でも……どうしてあの子たちだったんやろねぇ」
不服ではない、純然たる疑問だった。今はエイジロウたちの手首にある"リュウソウブレス"──祭壇から引き抜けたのが自分たちマスターでなく新米の彼らであったというのはつまり、そういうことだ。
「こればっかりは騎士竜に聞いてみないとなぁ。っつっても彼ら、喋られへんのやけど」
「いずれにせよ、継承はなされたんだ。今しばらくは、見守るしかないさ」
「……なんかニヨニヨしとらん、テンセイはん?」
「し、してないぞ」
否定しつつ、頬が弛んでいるのを誤魔化しきれていない。この男が親馬鹿ならぬ兄馬鹿であることは公然の秘密である。非の打ちどころのない立派な騎士であるのに、数少ない非までが微笑ましいものとは。なんというか、あざといのではないかとタイシロウは密かに思うのだった。
*
一方のエイジロウたちは、何かできることはないかと村中を歩き回っていた。とはいえ初任務を終えた──失敗したが──ばかりの新米騎士たちに割り当てがあるはずもなく、先輩たちにはむしろリュウソウジャーになったのだからいざというときのために休んでおけと仰せつかる始末。
とはいえ三人とも興奮さめやらぬ中、おとなしく帰宅などできようもない。ましてうち二名は、家族に騎士団長がいるので。
というわけで彼らが訪れたのは、昼間にも足を運んだ医療所だった。先の戦いでは騎士の中に少なからず負傷者が出ており、今ごろは彼らの看病のためにとりわけ慌ただしい時間が過ぎているはずだった。
「あれ、おめェ──」
早々に首を傾げたエイジロウに対し、桶を抱えた少年はもとより鋭い目を眇めて応えた。お世辞にも好意的でないことは、よほど鈍い人間でなければ明らかで。
エイジロウが鼻白んでいると、彼の背後から同じくらいの背丈の老婆がひょこりと顔を出した。
「村がこんな状況で行き場もないだろうからね、仕事を手伝わせてるんだよ」
「!、チヨばあ「あ?」……チヨさん」
普段は温和な彼女も、婆さん呼ばわりには敏感なのだった。その辺りの機微はまだよくわからない若者たちである。
閑話休題。
「でも、その子だって体調崩してるのに──」
「──僕ならもう大丈夫です」
オチャコの気遣いを遮るように言い放ったのは、他でもないかの少年だった。その瞳は冷たく、エイジロウたちを見ているようで見ていない。もとより怜悧な顔立ちであるから、それが余計に強調される。
「きみ、その態度はないだろう。彼女はきみを心配してだな……」
「それが余計なお世話だと言ってるんです」
「な!?」
流石に看過できなかったのだろうテンヤが咎めようとするのも、少年はまったく動揺することなく切り捨てる。村にこういう子供はいないものだから、彼らには太刀打ちできようもなかった。そもそも元マスターピンクの老婦人にしてみれば、どちらも子供であるのだけれど。
「はぁ、あんたたちがいても仕事の邪魔になるだけさね。おとなしく帰りな」
「ッ、しかし──」
意地になったテンヤが食い下がろうとしたときだった。きゅるるるる、という、殺伐とした現場に似合わぬ気の抜けた音が響いたのは。
「え」
「……!」
呆気にとられたような表情を浮かべていた少年が、みるみる顔を赤くしていく。そうして腹を押さえるのを目の当たりにして、エイジロウたちはその意味に気づいた。
「もしかして、何も食わせてないんスか?」
「あぁ……それどころじゃなかったからねぇ」
「気が回らなくてごめんよ」と殊勝に謝るチヨに対し、少年は「べっ別に大丈夫です」とぶんぶんかぶりを振っている。確かに、怪我人を抱えた医療所の状況では子供ひとりの空腹を慮ってなどいられなかろう。
ならばとエイジロウは、少年にひょこりと歩み寄った。
「じゃあ、ウチでメシ食おうぜ!」
「は?……あなたの家で?」
「おう!」
人好きする笑みを浮かべるエイジロウに対し、もう一度お腹を鳴らした少年の中では強烈な葛藤がせめぎ合っているようだった。口がへの字にひん曲がり、目玉をぎょろりと見開いたとんでもない表情を浮かべている。元が端正な顔立ちだけに、余計にとんでもない形相に成り下がっているのだった。
「お……オコトワリ、シマス」
「!?、おまっ……どんだけ意地っ張りだよ!」
「勇者様の施しなんかいりません!」
これにはエイジロウもカッとなった。そういうとき、彼は相手を突き放すよりむしろ強引に懐に入ってしまうタイプである。今回も例外ではなく。
「勇者様じゃねえ、騎士だ!」
言うが早いか、ひょいと少年を担ぎ上げてしまう。その身体は見かけの体躯に比して軽くて、暫く何も体内に入れていないのではないかと伺わせるものだった。
「な、ちょっ……降ろせよ!」
「いいから、行くぞっ!」
「降ろせったらぁ!」
足掻く少年の抗議を完全に無視し、「じゃあな!」と去っていくエイジロウなのであった。
「おやすみー!……やるなぁエイジロウくん」
「うむ!彼ならあの子と打ち解けられるかもしれないな!」
呑気なやりとりをかわすふたりだが、背後からじとりとした視線を感じて振り返る。そう、ここはある意味戦場の真っ只中だった。
「ここは井戸端じゃないよ」
「……はい」
彼らもまた、程なく帰宅の途につくことになったのだった。
*
「く、来るな……来るなあっ」
深夜の街道にて、旅人は恐怖を露に後ずさっていた。彼の目の前には、キノコの意匠を纏った異形の怪人が迫っていて。
「だいじょーぶダイジョウブ!ちょーっと苦いだけで終わるからさ〜」
「ヒッ!」
「あぁもうっ、おとなしくしとけよ急いでんだから!──おいお前らぁ!」
パチンと指を鳴らす怪人。と、どこからともなく現れたドルン兵たちが旅人の両腕を押さえ拘束する。さらには強引に口を開かされ、
「はぁい、ごっくんして〜」
「んぐぅ!?」
怪人の指から垂らされた粘性の液体が、口腔を伝って喉に落ちていく。途端、彼は焼けつくような熱とともに身体から何かが抜け出ていくような錯覚を味わった。
──否、それは錯覚などではなかった。
「レディースエーンジェントルメ〜ン!──マイナソーのぉ、誕・生!でっす!!」
旅人の血肉を分けるようにして、新たな怪物が誕生する。しかし彼はもう、その悍ましい姿に怯えることも悲鳴をあげることもない。力なく座り込んだその姿は、まるで糸の切れた人形のようだった。
「ミィ、ロォ……!」
「えっ、何ナニ?ふんふん……なるほどぉ、こりゃタンクジョウ様に褒められてしまうなァ!」
無邪気に、それでいて酷薄に嘲笑う怪人──クレオン。彼は何をしたのか、その真の目的はいったいなんなのか。
ただひとつ言えるのは、エイジロウたちの村に再び危機が迫っているということだ。