「キイィッ、ィキイィィ!!」
甲高い鳴き声とともに、海水を
「ぐうぅぅ……っ、──うわぁああああっ!?」
懸命に耐えようとする兵士たちだが、それは虚しい努力と言わざるをえなかった。あまりに激しい水流により、彼らは程なく彼方まで吹き飛ばされてしまうのだった。
そうして空いた敵陣の穴に、ドルン兵たちが浸透していく。残る兵士たちが立ち向かうが、数も質も劣っているようでは勝ち目がない。
「だ、駄目だ……!このままでは!」
「ッ、あきらめるな!もうすぐショート殿下が来てくださる!」
王国の民が後ろにいるのだ、彼らは文字通り背水の陣の最中にいた。そのためにひとり、またひとりと傷つき、倒れていく──
「キィ……」
魚人──ウォーター・リーパーマイナソーが唸る。再び水流が兵士たちを襲うかと思われたそのとき、射撃音とともに黄金の塊がその身を貫いた。
「ィキィィィッ!?」
マイナソーの身に電撃が奔り、岸壁に叩きつけられる。──彼ばかりでなく、ドルン兵たちにも黄金の塊……つまり砲弾は容赦なく襲いかかったのだ。
「待たせたな、皆」
「!、あぁ……」
「殿下……!」
「殿下!!」
揺れる滑らかな紅白の髪は、国民にとって希望の象徴だった。彼は王子という貴き身分でありながら、この国において誰よりも大きな力をもつ存在。
「下がってろ。──陸の、おまえたちもな」
「!」
あとを追ってきたエイジロウたちに対しても、抜け目なくそう言い放つ。いずれにせよ、彼らは今丸腰だった。
「我に力を──"モサレックス"」
黄金と紺碧に彩られた銃身が、鋭い光を放つ。そしてもう一方の手に握られたのは、
「リュウソウル……!?──まさか、」
「………」
「リュウソウ、チェンジ」
『ケ・ボーン!!』
『ドンガラハッハ!ノッサモッサ!エッサホイサ!モッサッサッサ!』
黄金のリュウソウルを装填すると同時に流れ出す、エイジロウたちのそれとは似て非なる音楽。しかし現れた騎士たちがショートの周囲で踊り狂っているところは、まったく同じだ。
そして、
『リュウ SO COOL!!』
騎士たちがその姿を変えて無数の欠片となり、ショートの全身を覆い尽くしていく。──銃と同じ、黄金に青が刻まれた鎧。
「
「──リュウソウジャー……?」
その名も、
「……黄昏の騎士、リュウソウゴールド」
「ドルゥゥッ!!」
姿を現した金色のリュウソウジャーに、ドルン兵たちは集団で囲むようにして襲いかかった。相手はひとり、数で圧倒できると思考したのだろう。
言うまでもなくそれは、甘い考えと言わざるをえなかった。
金色の騎士──ゴールドはその場から動かず、ただ銃を標的に向けたのだ。
「モサチェンジャー、
引鉄を引くと同時に銃口から複数の弾丸が放たれ、稲妻とともにドルン兵を貫いていく。そう──複数だ。それがほぼ同時に放たれているのだ。
「あ、あの武器……なんなんだ?」
世にある武器が剣だけでないことはエイジロウたちも知っているが、それでもあのようなモノは見たことがなかった。
「おい、武器オタク」
「いや武器オタクではないから……」否定しつつ、「あれはここ最近普及しはじめた、銃って武器だ。弓矢より威力があって、扱いやすいのが特徴的だけど……」
銃は銃でも、ゴールドのそれ──"モサチェンジャー"は、小型の弾丸を複数の砲口から連続発射することが可能なガトリングタイプの砲だ。この世界においては未だ、唯一無二の存在だった。
「あれはリュウソウケンと同じ……騎士竜の力が宿った武器なんだ」
そこにリュウソウチェンジャーと同じ竜装機能も備わっている。一同の目は、ゴールドに釘付けになりつつあった。
「モサブレードッ!」
そして幸運にも銃撃を掻い潜ってきたドルン兵に対し、ゴールドは剣に持ち替えて応戦した。剣といっても、リュウソウケンのように刀身のすらりと伸びた長剣ではない。どちらかというとダガーに近い形状だが、その刃は騎士竜の牙を模したかのようにギザギザと尖っている。そのことによって、決して劣らぬ切れ味をもつことができていた。
「ふっ」
刃が一閃し、槍もろともドルン兵を一刀両断にする。そして振り向きざま、横薙ぎにもう一体。
「ドルッ!」
「!」
そのまま三体目……とは、残念ながらいかなかった。ドルン兵の構えた盾に、刃が弾かれてしまったからだ。
その隙を突かんとばかりに繰り出された槍をひらりとかわしつつ、ゴールドは柄と一体化したレバーに手をかけた。
途端、刃が音をたてて震え出す。なおも盾を構えて防御姿勢をとる敵めがけ、大きく一歩を踏み込んだ。
そして、
「ドルゥア゛ァッ!!?」
盾ごと、斬り捨てた。
「うおぉっ、すげぇ……!」
「なるほど、あのレバーを引くことによって刃を高速振動させ、あの突起をズガガガガッと擦りつけることによって切れ味を高めているのか……!」
子供のように目を輝かせるエイジロウと、刃に負けじと独り捲したてるイズク。カツキはその両方の頭を殴った。
「……こんなもんか?しっかりしろよ、ドルイドン」
「ど、ドルゥゥゥッ!!」
冷たい挑発にいきり立った残存のドルン兵たちは、圧倒されていることも忘れて一斉に襲いかかった。それこそが、敵の狙いであるとも気づかずに。
「──ビリビリソウル」
ゴールドが取り出したのは、黄金というよりむしろ鮮やかな黄色に彩られたリュウソウル。それをゴールドリュウソウルと入れ替えて装填し、
『ザッバァァァン!!』
驚くほど大きな声に、エイジロウは一瞬ぎょっとした。
『ドンガラ!ノッサ!エッサ!モッサ!』
「………」
『めっさ!』
一回、
『ノッサ!』
二回、
『モッサ!』
三回、
『ヨッシャ!!』
四回。
『この、感じィ!!』
ハンドグリップを往復させる動作を繰り返し──締めに、トリガーを引く!
『強・竜・装!!』
リュウソウメイルの表面に稲妻が奔り、そのエネルギーが分子に、さらには微粒子状に顕現して寄り集まっていく。
そうして一瞬で創り上げられたのは、色鮮やかな黄金の鎧。"強竜装"──メラメラソウルのそれと同じように、胴体から両二の腕までを守っている。
「喰らえ……!」
雷光を纏った弾丸を、幾つも解き放つ。通常の弾より遥かに威力の向上したそれは、盾もろともドルン兵を粉砕してみせた。
そうして一片の手傷すら負うことなく、黄昏の騎士は敵兵の殲滅に成功した。
残るは、大将のみ。
「どうした?かかってこいよ」
「ィキィィィッ!!」
唸るウォーター・リーパーマイナソー。そのヒレを激しくばたつかせることで、彼は強烈な水の奔流を生み出すことができる。
「ッ、」
海のリュウソウ族ゆえ、彼が受ける水の抵抗は常人より圧倒的に少ない。にもかかわらずその身体は後方へ押しやられていく。このままでは、兵士たち同様吹き飛ばされる──!
「……少しはやるな。だが──そこまでだ」
そう、押されるゴールドは屈み込むような姿勢をとると、モサブレードを地面に突き刺したのだ。地盤に入り込んだ刃が、抵抗に対する抵抗の役割を果たした。
そうして後退速度が鈍ったところで、彼は銃口をマイナソーへ向けた。──再び、
「ギアァァッ!?」
水は電気をよく通す。稲妻が全身に奔り、ウォーター・リーパーマイナソーは激痛と痺れに悶えた。
「ギィ、イィィィ……ッ!」
「ハナシにならねえな」
こんな怪物ごときに、これ以上海は荒らさせない!
「──モサブレイカー!」
モサチェンジャーにブレードを合体させることで完成する必殺銃、モサブレイカー。ブレードのエネルギーを融通することによって、その火力はさらに強化されている。そしてこれこそが、リュウソウゴールドの切り札でもあった。
「おまえを──撃ち抜く」
「キイィ……アァァァッ!!」
憤怒と焦燥にまみれた叫び声をあげ、ウォーター・リーパーマイナソーはこれまでにないほどの激しい水流波を放った。並みの人間が巻き込まれれば、吹き飛ばされるどころか全身をずたずたに砕かれてしまうであろうほどの勢いだ。
「………」
しかし、ゴールドはまったく動じない。その場に立ち尽くしたまま、静かに、モサブレイカーの銃口を向けた。
そして、
「──ファイナル、サンダーショット!!」
雷を纏った一撃を……放った。
水流はその勢いに圧され、激しい渦を起こして反転する。巨大な電光の塊となったそれは、マイナソーへと襲いかかり──
「!?、ギィアァァァァァ──ッ!!?」
呑み込んだ。
その破壊力を前に、常人より遥かに頑丈なはずのマイナソーの肉体すらも容易く削り取られていく。耐えるかどうかという次元ですらない。黄昏の騎士の銃口に捉えられた時点で、彼の運命は決していたのだ。
海底に、紅蓮が爆ぜる。炎に灼かれ、ウォーター・リーパーマイナソーは跡形もなく消滅したのだった。
「俺との出会いを、後悔しろ」
言葉とは裏腹の、まるで悼むような声だった。
「す、げぇ……」
「マイナソーを、あんな簡単に……」
それも、たったひとりで。
エイジロウたちがそれ以上の言葉もないまま立ち尽くしていると、臣下の兵士たちが彼に駆け寄っていった。
「殿下!……ありがとうございました……!」
「礼はいい。それより、早急に被害をまとめろ。報告はいつも通り姉上へ。俺はモサレックスのところへ行く」
「承知致しました!」
慌ただしく動き出す兵士たち。邪魔になるわけにもいかないので、エイジロウたちは隅へ移動するほかなかった。
「みんな、慣れとるね……」
オチャコの言葉は抽象的だが、皆の所感を表すものでもあった。リュウソウ村では襲撃のあと、あちらもこちらも天地がひっくり返ったような騒ぎになっていた。
それがここでは、ショート殿下の性格もあるのだろうが、皆が事後処理までもを見据えて動いているように見える。──そう、慣れているのだ。
それはこの海を支配しようと目論むドルイドン──ガチレウスと"戦争している"のだという彼の言葉によって、既に裏付けられた現実であった。
*
そして海の王国、ひいては周辺の港町に住む人々までもを苦しめている悪魔は──自らは鉄壁の移動要塞の中で、のうのうと顎髭を摩っていた。
「ふん……まだ抵抗するか、海底の豚ども」
つぶやくと同時にすかさず振り向き、短剣ほどの長さと鋭さをもつ鉤爪を振りかざす。ヒエッと甲高い声をあげ、それは
「誰がここに入って良いと言った?」
「い、いや〜スミマセン……」
どろりと広がった粘性の液体が、再び形を取り戻していく。成人女性ほどの背丈になったところで、ようやく彼──クレオンは本来の姿を見せた。
「ご無沙汰してまっす、ガチレウスさま!」
「貴様が売りつけたマイナソーは役立たずだ」
覚悟していたことだが、それでもクレオンは一瞬何を言われたかわからなかった。突然の来客に対して挨拶どころか、「なんの用だ」ですらなくこれである。
「ことごとくあの豚どもの王子にやられている。もっとマシなのが寄越せんのか」
「い、いやぁ……ウワサには聞いてましたけど強いみたいっすねぇ。海のリュウソウジャー!」
そう、敵が厄介なのであって、マイナソーが弱いわけでは決してない。だいたい、それぞれのマイナソーの特性を活かした運用もろくにせず、ただ漫然とぶつけているこの男が悪いのだ!
脳内で唾を吐きかけるクレオンだったが、表面上は必死になってこのドルイドン──ガチレウスの機嫌をとった。
「そんなやる気元気いわきに満ち溢れたガチレウスさまに、お願いしたいことがありましてこのクレオン、罷り越しましたでありますっ!」
「さっさと言え」
(だからそこは"お願いとはなんだ"とかさあ〜っ)
無駄なやりとりを嫌うゆえに端折りすぎなのだが、今はこの男の流儀に従うほかないのだ。
「陸のリュウソウジャーを討伐してほしいのでありますっ!」
「陸のリュウソウジャー?──もしや、あのときの……」
ガチレウスが思い起こすのは、たった数時間前の出来事。手勢のマイナソーに通りがかりの船を襲わせた──それ自体は有り体に言って彼のルーティーンのようなものだったが、船が転覆したあと現れた、巨大な赤い獣のことは気にかかっていた。
(あれは……騎士竜か)
「奴らは、騎士竜モサレックスによってかの国に連れていかれたようだ」
「えっ?ってことは今、リュウソウジャーが六人になっちゃってるってことっすか!?」
五人でも鬱陶しい連中だった。そこへ来て、ビショップクラスのドルイドンであるワイズルーが暫く活動できなくなるほどの手傷を負わされたのだ。
これは、ルーククラスのガチレウスには荷が重いかもしれない──そんな思考を読んだのか否か、彼はいきなりクレオンの顔面を掴んできた。
「ウグッ!?ふぁ、ふぁひを……」
「使えるマイナソーを生み出せ、クレオンよ」
「奴らは、俺が絶滅させる……!」
ガチレウスの野望に燃える瞳が、妖しく光った──
つづく
「海のリュウソウ族は、滅亡の危機に瀕しているのです」
「俺は、あの男を赦さない」
次回「沈む王国」
「みんなに笑顔でいてほしい。――そのために、戦ってるつもりです」
今日の敵‹ヴィラン›
ウォーター・リーパーマイナソー
分類/アクアン属ウォーター・リーパー
身長/168cm
体重/95kg
経験値/397
シークレット/水妖"ウォーター・リーパー"の伝説を象ったマイナソー。ヒレを振動させることによって放つ水流波は、クジラですら吹き飛ばしてしまうぞ!
溺死した人間の怨念がクレオンの体液で具現化した怪物であり、「ィキィィィ!」という甲高い鳴き声は「息(ができない)!」ともがき苦しむ声……かもしれない。
ひと言メモbyクレオン:確かにガチレウスに売ったマイナソーなんだけど……なんか当時のこと思い出そうとすると頭が……なんか、思い出さないほうがいい気が……。